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論文の内容の要旨
氏名:古 宅 眞由美
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:PRG フィラー含有コーティング材塗布が象牙質脱灰抑制に及ぼす影響 -OCT および超音波透過法による検討-
Minimal Intervention という治療概念の普及に伴って,齲蝕予防においては口腔内環境を改善する ことの重要性が認識されてきた。これは,実質欠損を形成する以前の段階で齲蝕リスクを低減化させ るとともに,再石灰化療法を行うことによって齲蝕の進行を抑制するという考え方である。根面齲蝕 の予防にも,フッ化物の応用が期待されているものの,その臨床応用法あるいは脱灰抑制効果につい ては不明な点が多い。
最近,脱灰を抑制し石灰化を積極的に促進させることで歯質を強化するというコーティング材が市 販された。このコーティング材は,Surface pre-reacted glass-ionomer(S-PRG)フィラーを含有し ており,歯面に塗布して薄膜を形成することによって歯質の石灰化を誘導するイオンを安定して供給 するとされている。そこで著者は,S-PRG フィラー含有コーティング材が象牙質の脱灰抑制および石 灰化に及ぼす影響について,歯質内部の微細な状態変化を非破壊的に把握可能な光干渉断層画像法
(Optical Coherence Tomography , 以後,OCT)を用いて経時的に観察するとともに,信号強度分布 から最大ピーク強度値および 1/e2幅を求めることによって検討した。さらに,超音波透過法を用いて,
脱灰と石灰化の動的平衡の推移を測定することで考察資料とした。
測定には,ウシ象牙質を 4×4×1 mm のブロック体に調整し,耐水性 SiC ペーパー#2,000 まで研磨 したものを用いた。コーティング材としては,S-PRG フィラーを含有する PRG バリアコート(松風)
を用いた。
試片の保管条件としては,コーティング材未塗布で実験期間中 37℃人工唾液に浸漬した試片をコン トロール群,コーティング材未塗布で実験期間中 1 日 2 回,0.1 M 乳酸緩衝液(pH 4.75)に 10 分間 浸漬した後,37℃人工唾液に保管した試片を非コート群とした。コーティング材を塗布し,これを非 コート群と同じ保管条件にした試片をコート群とした。OCT および超音波伝播時間の測定時期として は,溶液浸漬前,浸漬から 7,14,21 および 28 日後とした。
OCT による測定には,Super Luminescent Diode を光源とする Time-Domain 型 OCT 装置(モリタ東 京製作所)を用いた。また,A-scan mode の信号強度分布を解析することで最大ピーク強度値を検出 し,その座標を割り出した。次いで,この座標を中心として 86.5%の信号強度が含まれる範囲を算出 し,その波形幅である 1/e2幅を求めた。超音波測定には,パルサーレシーバー(Model 5900PR,パナ メトリクス),縦波用トランスデューサー(V112,パナメトリクス)およびオシロスコープ(Wave Runner LT584,レクロイ)から構成されるシステムを用いた。また,一定期間の浸漬を終えた各試片は,三次 元レーザ走査顕微鏡(以後,LSM)を用いて表面性状の観察を行った。各グループ内において得られた 最大ピーク強度値,1/e2幅および縦波音速の経時的変化については,分散分析を行うとともに Dunnet test によって,各グループ間での最大ピーク強度値,1/e2幅および縦波音速の比較は,重複測定分散 分析を行うとともに Tukey-Kramer post-hoc test によって有意水準 5%の条件で統計学的検定を行っ た。
OCT 観察の結果から,コントロール群の OCT 像においては,実験期間を通じてシグナルの変化はほ とんど認められず,信号強度分布グラフおよび 1/e2幅ともに変化はなかった。また,非コート群にお いてもコントロール群と同様,最大ピーク強度値および 1/e2幅に変化は認められなかった。浸漬前の コート群における OCT 像では,実験開始前では象牙質表層に緑~黄色を示すシグナルが観察されたの に対し,実験開始 28 日後では局在的に表層のシグナル輝度の低下が認められるとともに,幅が広くな った。また,最大ピーク強度値は 28 日後で約 20 dB 低下し,1/e2幅は 28 日後で 40 µm 増加した。こ
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れは,コーティング材の被覆によって象牙質表面における脱灰が抑制され,象牙質表面での照射光線 の散乱が少なくなるとともに,試片内部への光線透過性が増大したことを示すものである。
縦波音速については,非コート群では実験期間の経過に伴って音速は低下し,実験開始前と比較し て 21 日以降で有意に低下した。一方,コントロール群およびコート群では,実験期間の経過に伴って 音速の変化は認められず,14,21 および 28 日後の音速は,非コート群と比較して有意に高い値を示 した。これは,PRG フィラー表面に形成されたグラスアイオノマー層から徐放された SiO32-をはじめと する各種イオンが,石灰化促進作用を示したことによって音速に変化が生じた可能性を示すものと考 えられた。
象牙質試片における LSM 像は,コート群では象牙細管の封鎖が観察され,非コート群と比較して平 坦な表面性状が観察された。このように,象牙質表面の LSM 像からも,コート群においてその脱灰抑 制効果が示された。
以上のように,本実験の結果から S-PRG フィラー含有コーティング材は,象牙質表面を被覆するこ とで,象牙質の脱灰抑制効果を有することから,非侵襲的な根面齲蝕の予防に応用可能であることが 示唆された。