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林 佑樹

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(1)

腹部大動脈瘤モデルマウスを用いた 高血糖の大動脈瘤進展機序への関与の検討

日本大学大学院医学研究科博士課程 外科系循環器外科学専攻

林 佑樹

修了年 2020 年

指導教員 田中 正史

(2)

腹部大動脈瘤モデルマウスを用いた 高血糖の大動脈瘤進展機序への関与の検討

日本大学大学院医学研究科博士課程 外科系循環器外科学専攻

林 佑樹

修了年 2020 年

指導教員 田中 正史

(3)

目次

略語・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 ア) 概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3 イ)緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 Ⅰ.腹部大動脈瘤 (Abdominal Aortic Aneurysm :AAA)・・・・・・・・・・ 7 Ⅱ. AAA の疫学 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

Ⅲ. AAA の病理組織像・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

Ⅳ.AAA のリスクファクター・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9

Ⅴ.AAA の診断・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

Ⅵ.AAA 患者の予後・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

Ⅶ.AAA の治療戦略・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12

Ⅷ.腹部大動脈瘤と糖尿病・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

Ⅸ.目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15

ウ)対象と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

Ⅰ.動物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

Ⅱ.Apo E

-/-

の繁殖・飼育・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 16

Ⅲ.血圧測定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16

Ⅳ.ApoE

-/-

マウスを使用した腹部大動脈瘤モデルマウスの作成・・・・・・17

Ⅴ.大動脈瘤検体摘出・採血・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

(4)

Ⅵ.染色・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

Ⅶ.病理学的比較検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18

Ⅷ.統計処理・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 エ)結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

Ⅰ. 体重・絶食後12時間血糖値・総コレステロール値・低比重リポ蛋白コレ ステロール値・収縮期血圧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21

Ⅱ.瘤径拡大率・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22

Ⅲ.病理学的検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

オ)考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

カ)まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26

謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

図表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28

引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38

研究業績目録・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43

(5)

1

略語

AAA (Abdominal Aortic Aneurysm) ・・・腹部大動脈瘤

ACE (Angiotensin-converting-enzym) ・・・アンジオテンシン変換酵素 Adv (adventitia) ・・・血管外膜

alb (Alcian Blue) ・・・アルシアンブルー

Ang (Angiotensin) ・・・アンジオテンシンⅡ ApoE (Apolipoprotein E) ・・・アポリポプロテインE CT (Computed Tomography) ・・・ コンピュータ断層撮影

EVAR (Endovascular Aortic Repair ) ・・・ステントグラフト内挿術 EVG (Elastica van Gieson) ・・・エラスチカワンギーソン

H-E (Hematoxylin-Eosin) ・・・ヘマトキシリンエオジン HG (Hyperglycemia) ・・・高血糖

LDL-C (low density lipoprotein cholesterol)・・・低比重リポ蛋白コレステロール Med (media) ・・・血管中膜

MMP (Matrix metalloproteinase) ・・・マトリックスメタロプロテアーゼ MRI (Magnetic resonance imaging) ・・・核磁気共鳴画像法

PAI-1 (plasminogen activator inhibitor-1) ・・・プラスミノゲン活性化因子阻害 因子-1

PECAM-1 (platelet endothelial cell adhesion molucule-1) ・・・血小板内皮細胞接 着分子-1

R-SMC (rhomboid-shape smooth muscle cell) ・・・菱形平滑筋細胞

(6)

2

S100A4 (S 100 family of calcium-binding protein A4) ・・・カルシウム結合型 S100ファミリー蛋白A4

SMC (smooth muscle cell) ・・・平滑筋細胞

SMMHC (smooth muscle myosin heavy chain) ・・・平滑筋ミオシン重鎖 S-SMC (spindle-shape smooth muscle cell) ・・・紡錘型平滑筋細胞 TC (total cholesterol )・・・総コレステロール

tPA (tissue plasminogen activator) ・・・組織プラスミノゲン活性化因子

uPA (urokinase plasminogen activator) ・・・ウロキナーゼプラスミノゲン活性 化因子

α-SMA (α - smooth muscle actin) ・・・α平滑筋アクチン

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3

ア)概要

【背景】

腹部大動脈瘤 (Abdominal Aortic Aneurysm: AAA) は腹部大動脈の径が正常大動脈 径の1.5倍になったものと定義されている 1。初期には臨床症状がないものがほとん どであり、偶発的に施行されたコンピュータ断層撮影 (Computed Tomography: CT) で 発見されることが多い2。経過とともに徐々に瘤径が拡大していき破裂に至ることが あり、瘤径の拡大に伴い破裂率は増加していく。破裂に至るまで何ら臨床症状が出 現しない症例も多く、破裂により発症した場合は緊急手術が必要となるが、緊急手 術が施行されたとしても生存率は低い3。そのため、早期に発見しえた場合は定期的 な瘤径の観察が必要で、予定手術による治療が生命予後に重要な因子となる。

AAA は心血管疾患の一つとして挙げられる。心血管疾患のリスクファクターとし ては糖尿病・動脈硬化・高血圧・脂質異常症・喫煙・高齢・男性などが挙げられる

4, 5。 しかし、近年の研究で高血糖は大動脈瘤の進行を抑制するという逆説的な現象 が報告されている5, 6 。動物モデルにおいても高血糖は AAA の瘤径拡大の進行を制 限するともいわれているが、詳細なメカニズムは明らかではない6

AAA の病態形成機序の一つとして、粥状動脈硬化による血管壁構造への変化が考 えられている。病理学的には、血管壁への脂質の沈着やリンパ球・マクロファージ などの炎症細胞浸潤が認められ、それらの炎症細胞から放出される、細胞間質のプ ロテアーゼの一種である Matrix metalloproteinase (MMP) -2MMP-9によって中膜・

外膜の弾性線維や膠原線維を破壊する。その結果、中膜弾性線維の構造の破壊、平 滑筋細胞 (smooth muscle cell: SMC) の脱落による中膜の菲薄化やムコ多糖類の沈着、

外膜の血管新生が特徴的である 7。しかし一方で、粥状動脈硬化も目立たない AAA 症例も認められること、強い粥状動脈硬化を伴うものの拡張病変に至らない症例も 多く認められることから、これらの動脈硬化性変化は瘤形成に伴った血行力学的変 化などによる、二次的な修復がある可能性も言われている。

(8)

4

【目的】

本研究ではオス 4週齢のApolipoprotein E遺伝子欠損マウス(ApoE -/- マウス) を使 用し、食餌による生理的条件下で高血糖を呈するマウスを用いてアンジオテンシン

(Angiotensin: Ang) 持続投与による腹部大動脈瘤モデルマウスを作成し、より

実臨床に近い高血糖マウスにおけるAAAの瘤径拡大の病理学的変化を比較検討する。

【方法】

兵庫医科大学より譲渡されたApoE -/- マウスの凍結胚を融解・蘇生し、実験にはオ スのみを使用した。4週齢のオスのApoE-/- マウスを通常餌 (Control) (MF 飼育用, オ リ エ ン タ ル 酵 母 株 式 会 社) n=12、 高 血 糖 誘 発 特 別 餌 (Hyperglycemia: HG)

(HFD-60 60kcal, 1%脂肪含有・オリエンタル酵母株式会社) n=122群に分別する。

24 週齢まで各飼料にて飼育した後に、Ang (1000 ng/kg/min) を充填した持続浸透 圧ポンプ (Alzet ® osmotic pumps, DURECT Corporation) を背部の皮下に植え込み、4 週間後に開腹し腹部大動脈瘤の存在の確認、大動脈瘤径の計測、採血を行い、心臓 から総腸骨動脈までを採材し、両群 6 匹ずつを 10%中性緩衝ホルマリン固定し病理 切片を作成し各染色を施行した。

結果解析は各検体において瘤壁は著明な径の拡大と血管壁の破壊により定量計測 が困難であったため、AAAに隣接する血管壁を光学顕微鏡 (BX-51, OLYMPUS) を用 い、100倍で検鏡し、撮影カメラ (DXC-H10 , SONY) 、撮影ソフトウエア (OLYMPUS

cellSencs Standard, OLYMPUS) を用いてデジタル画像として病理組織像を撮影し解

析に使用した。Elastica van Gieson (EVG) 染色は中膜弾性線維の変性の程度を比較す るため、各検体の中膜から 100 μm2の正方形領域を無作為に 5 ヶ所切り取り、EVG 陽性部位を1 pixel1曲線として編集し、フラクタル解析を用いて比較した。中膜 変性に伴った、酸性ムコ多糖類の沈着の程度を定量化する目的でアルシアンブルー (Alcian blue: alb) 染色を、血管中膜のSMC蛋白を定量化する目的で α-SMA (α-smooth

muscle actin) の免疫組織化学を、中膜SMCの分化の程度を検討するため、S100A4 (S

(9)

5

100 family of calcium-binding protein A4), SMMHC (smooth muscle myosin heavy chain) の免疫組織化学を、血管新生内皮マーカーを定量化する目的でCD31 免疫組織化学を 染色し、染色陽性面積を画像編集・解析ソフトウエア Image J 1.50 I 8,9を使用し各染

色に対しControl群とHG群間で比較検討を行った。統計学的処理は IBM SPSS 21.0

Statistics baseを使用しt 検定を行った。p <0.05を有意水準とし、定量結果はmean ± SD で表した。

【結果】

Control 群に比べて HG 群は 24 週齢時の体重が有意に増加し (Controlvs. HG: 27.3 ± 2.3g vs. 35.7 ± 7.0g, p <0.05) 24週齢時の12時間絶食後血糖値が有意に高 かった (Controlvs. HG: 58.8 ± 4.9 mg/dL vs. 144.5 ± 33.2 mg/dL , p <0.05)。また、

総コレステロール (total cholesterol: TC) 、低比重リポ蛋白コレステロール (low density lipoprotein cholesterol: LDL -C) の値は両者ともに有意差を認めなかった (TC Controlvs. TC HG: 774.5 ± 338.8 mg/dL vs. 650 ± 226.3 mg/dL , p =0.56)(LDL-C Controlvs. LDL-C HG: 109.0 ± 41.4 mg/dL vs. 111.7 ± 32.2 mg/dL , p =0.92) HG群に比べControl群は瘤径拡大率 (瘤最大短径×100 /正常径) が有意に高値であっ た (Controlvs. HG: 304.3 ± 103.4% vs. 185.3 ± 80.6%, p <0.05)

病理学的には EVG染色において、HG 群がControl群と比較し有意に100μm2内の EVG染色陽性面積のフラクタル次元が高値であった (Controlvs. HG: 1.0530 ± 0.0324 vs. 1.0770 ± 0.0303, p <0.05) alb染色では Control群がHG群より有意に血管 中膜面積 (media area: Med) あたりの alb 染色陽性面積 (alb ×100 /Med) が高値であ った (Controlvs. HG: 31.7 ± 6.9% vs. 22.3 ± 7.6%, p <0.05)。免疫組織化学におい て HG 群が有意に血管中膜内での平滑筋マーカーであるα-SMA 陽性面積×100 /Med が高値であり (Controlvs. HG: 39.4 ± 6.5% vs. 49.3 ± 7.6%, p <0.05)、中膜内の

α-SMA陽性 SMCにおける SMC 脱分化マーカーであるS100A4陽性面積の占める割

(S100A4 × 100 /α-SMA) が高値を呈した (Controlvs. HG: 9.84 ± 6.22% vs. 23.5

(10)

6

± 9.79%, p <0.05)。 中膜内のα-SMA陽性面積に対する、SMC高分化マーカーである smooth muscle myosin heavy chain (SMMHC) の陽性面積の占める割合 (SMMHC × 100/ α-SMA) は両群間で有意差はなかった (Controlvs. HG: 61.3 ± 5.0% vs. 55.7

± 18.7%, p = 0.502)が、S100A4SMMHCの比 (S100A4 × 100 /SMMHC) HG群で 有意に高値であった (Controlvs. HG: 14.5 ± 11.4% vs. 41.4 ± 5.1%, p <0.05)。血管 新生内皮マーカーであるCD31では外膜面積 (adventitia area: Adv) あたりの CD31陽 性面積 (CD31 × 100 /Adv) Control群はHG群より有意に高値であった (Controlvs. HG: 5.06 ± 2.46% vs. 2.29 ± 1.38%, p <0.05 )

【結論】

4 週齢の ApoE-/-マウスを Control 群と HG 群に分別し 24 週齢まで飼育した後に AngⅡ持続浸透圧ポンプを植え込み28週齢まで飼育した結果、高血糖状態である HG

群はControl群と比較して腹部大動脈瘤拡大が抑制された。病理学的検討からは、HG

群は中膜内の弾性線維の整合性が保たれており、中膜内の酸性ムコ多糖沈着が少な かった。更にHG群では中膜 SMCは脱分化型の形質を呈し、外膜の新生血管増生は 抑制されていた。

より生理的条件下で高血糖を呈した本研究のモデルマウスでも高血糖は動脈瘤拡 大に抑制的に作用することが明らかになった。心血管疾患リスク、動脈硬化のリス クとなる糖尿病が、心血管疾患である AAA の瘤径拡大を抑制することは逆説的で あるが、粥状動脈硬化の進展とは異なったメカニズムにより大動脈が瘤化すると考 えられた。今後の更なる研究による AAA の病態解明によって、AAA に対する手術 以外の治療の選択肢の可能性を見出すことができると期待する。

(11)

7

イ)緒言

.腹部大動脈瘤 (Abdominal Aortic Aneurysm: AAA)

大動脈は心臓から全身に血液を循環させる上で主要な動脈であり、上行・弓部・

下行・腹部と連続している。その大動脈壁の菲薄化を伴い、大動脈径が正常の1.5倍 になると大動脈瘤として定義される1,10。腹部大動脈は横隔膜から総腸骨動脈分岐部 までの範囲の大動脈を指し、その範囲での瘤を腹部大動脈瘤 (AAA) と呼ぶ。疾患背 景としては喫煙・高血圧・脂質異常症などが挙げられ、高齢男性に多いと言われて

いる1,4,5。大部分の症例が無症状であり、胸部大動脈瘤のように胸部X線単純撮影で

は発見されないため、偶発的に施行した CT で発見されることが多い 2,10。瘤径の拡 大に伴い破裂のリスクが上昇し、破裂に至ると致死率が高いが 4,11、瘤径拡大のメカ ニズムは明らかになっていない点が多い。治療としては開腹による人工血管置換術 または経カテーテルによるステントグラフト内挿術 (Endovascular Aortic Repair:

EVAR) が行われる。近年は患者の高齢化に伴い耐術能の低下やカテーテルデバイス

の進歩により、EVARの件数が増加している10,11が、一方で術後のエンドリークなど により再手術が必要な症例も存在する。

.AAAの疫学

AAA は高齢男性に多いとされており、65 歳以上の男性で8%が罹患しているとさ れており、女性と比較すると罹患率は4倍高い4。破裂する可能性は瘤径の拡大に伴 い増加する傾向があり、55mm未満で 1%未満、55mm - 70mmで約15%70mm以上 で約30%とも言われている12。瘤径の拡大率は瘤径30 - 39mm の場合年間2mm, 40 - 49mmの場合年間3.4mm, 50 - 59mmの場合年間 6.4mmと瘤径の拡大に伴い拡大率も 増加していく傾向にある13

無症状のため破裂するまで発見されない例が多く、初期症状として 突然の腹痛、

(12)

8

血圧低下、失神などがあった際にはすでに破裂を引き起こしている可能性が高く早 期治療が必須となる。破裂した際の死亡率は85 - 90%であり、緊急手術が施行された としても生存率は50 - 70%と言われている3 ,14

また、全世界での AAA による死亡者数は年間15000 人以上であり、死因の 10 位 以内に位置づけられる致死的疾患であることがわかる15 65 - 80歳の男性にスクリ ーニングをすると4 - 8%AAAに罹患していたとの報告もある 5。 近年、健康診断 や人間ドックなどのスクリーニング検査の普及などにより未破裂の大動脈瘤が偶発 的に見つかることが多く、手術により良好な長期予後が得られている。

.AAAの病理組織像

AAA における病理組織学的としてはリンパ球・マクロファージを主体とした炎 症 細 胞 浸 潤 が 中 膜 か ら 外 膜 に か け て 見 ら れ 、 そ れ ら が 産 生 す る Matrix metalloproteinase (MMP) -2 MMP-9などの分解酵素によって血管壁の弾性を保つ エラスチンやコラーゲンが分解される。更に中膜内の SMC が菲薄化し、新生血管 増生を伴う 7,16

MMP-2, 9 を 活 性 化 す る 因 子 と し て Plasmin, Plasmin を 活 性 化 す る tissue plasminogen activator (tPA), urokinase plasminogen activator (uPA) が存在し、tPAuPAを阻害するplasminogen activator inhibitor-1 (PAI-1) などが確認されている4

AAA の瘤壁には粥状動脈硬化性の変化が認められることが多い。内膜から一部 で中膜に及ぶ粥腫を認め、中膜の弾性線維の破壊、SMC の脱落による中膜の萎縮 を弾性線維染色の EVG 染色、酸性ムコ多糖類の沈着を alb 染色で観察することが できる 17。しかし、時として粥状硬化性変化の目立たないAAA 症例が認められる ことや、高度の粥状動脈硬化が認められているにもかかわらず、瘤形成を認めない 症例が多く存在している。AAA の発症や進展に粥状動脈硬化が重要な役割を果た

(13)

9

しているかどうかは議論の余地を残している。瘤径拡大により、血流の淀みにより 壁在血栓が堆積していくこともあり、特徴的な層状構造を認めることもある17

.AAAのリスクファクター 1.性別

男性の AAA罹患率は女性よりも有意に高く、AAA 患者の約80%が男性である。

しかし破裂の頻度は女性の方が男性よりも約 3 倍高い 18とされており、女性は瘤 径が小さくても早期に手術を必要とする場合がある。

2.年齢

高齢になるにつれて、AAA の罹患率は上昇する傾向がある。ある報告ではAAA 患者を年齢別に見てみると60歳未満で6.5 %, 60 - 64歳で13 %, 65 - 69歳で20, 70 - 74歳で23 %, 75 - 79歳で22 %, 80 - 84 歳で14 %と明らかに高齢者の罹患率が高 いことを示している 5

3.喫煙

喫煙は AAA の最も強いリスクファクターと言われている。AAAを有する患者

80%に喫煙歴が有り、過去の喫煙よりも現在の喫煙の方が影響を受けやすい。

また、1日あたりの喫煙量が多いほど罹患率は増加し、禁煙をした期間が長いほど 罹患率は減少すると報告されている5,18

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10

4.高血圧

高血圧は動脈硬化を助長し、大血管への持続的な圧ストレスを与える。AAA 患 者の80 %が高血圧の既往があり、20 %の患者が内服加療で高血圧コントロールを 受けていた 5。 積極的な内服加療が必要で、AAA を有する高血圧患者に対しては 通常の高血圧のコントロールよりも収縮期血圧を 120 mmHg 以下に厳密にコント ロールする必要がある。内服としては ACE阻害薬・Caブロッカー・βブロッカー が選択される。

5 家族歴

家族歴もリスク因子となる。罹患率も然ることながら、AAA の家族歴ある患者 は破裂の危険が増加すると述べている報告もあり、早期の治療介入をする必要性 を検討しなければならない19

.AAAの診断

非破裂性大動脈瘤はほとんどが無症状である。検診での腹部診察や偶発的に施行 したCTにて指摘されることが多い。また、健康診断での低侵襲な腹部エコーにより 診断されることも増えている。非破裂のAAAを診断した場合、経過とともに瘤径拡 大が明らかになっているため定期的な瘤径のフォローが必要となる。有症状で発見 される場合は切迫破裂もしくは破裂をきたしている場合がほとんどであり、治療に 着手する上でもCTでの診断が最も有用となる10

1.コンピュータ断層画像 (Computed Tomography: CT )

AAAの診断には必須の検査である。単純CTにおいても AAAの描出は明らかで

あり、診断は容易である。さらに詳しい評価が必要な場合、ヨード造影剤を使用 する造影CTを施行することが望まれる。近年のCT機器の発達によりMultidetector

(15)

11

- row CTを撮影すれば、3D画像構築やmaximum intensity projection 画像を作成す ることができる。AAA の瘤径や上腸間膜動脈・腎動脈・下腸間膜動脈との位置関 係、腸骨動脈の径、壁在血栓や動脈の石灰化など様々な情報が得られ、手術術式 選択においても有用である。血管内治療である EVAR が普及した現在ではより詳 細なCT画像で得られる情報が重要である。腎機能障害のある患者には造影剤腎症 等のリスクがあるため不向きであることが難点である。

2. 核磁気共鳴画像法 (Magnetic resonance imaging: MRI)

腎機能障害・アレルギーなどでヨード造影剤使用が困難な症例に対して有用な 検査であり、放射線被曝がない。しかし、CTと比較すると体動などによるアーチ ファクトの影響が強く、詳細な血管の描写には不適当な一面があるため、積極的 には用いられない。

3. 腹部超音波検査

健康診断の腹部超音波検査でAAA が診断されることも多くなっている。超音波 は非侵襲的で検査が簡便であるためスクリーニングには適している。近年の医療 機器の発達により、鮮明なAAAの描出が可能となり、ドプラー法を用いた EVAR 術後のエンドリークの描出なども可能である。瘤径の計測やリアルタイムの血流 評価には優れているが、2次元的な描出となってしまう。また、肥満体型や腸管ガ スなどの患者条件やエコー実施者の技術によって描出不良となることもあり、こ のような場合は、AAA の全体的な形態的な評価は難しいこともある。

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12

.AAA 患者の予後

AAA 患者の予後は非破裂性か破裂性かにより大きく異なる。非破裂性 AAA の場 合、待機的手術での手術死亡率は約1 - 5%と良好であり、日本においては約0.5%と も言われている10。手術の方法としては開腹による人工血管置換術、血管内治療であ るEVAR の二種類が選択されるが、両者ともに良好な生命予後が得られている。

一方、破裂性 AAAの場合は極端に死亡率が高くなる。病院に搬送された患者でも 破裂性AAAの死亡率は約40 - 70%であり、病院に搬送されなかった患者も含めると 約90%の死亡率になる3,13。術前のショック状態により循環不全による多臓器不全や 腸管虚血を合併する例が多く、術後に致命的な影響を及ぼすことも死亡率が高い原 因として挙げられる20。また、AAA術後の5年生存率は約70%10年生存率は40%

と低値である21。これはAAA患者の背景として、喫煙による慢性閉塞性肺疾患や心 血管疾患、脳血管疾患、癌などの合併が多いことに起因している22。手術技術が向上 しているにもかかわらず、致死率が高く術前の患者状態により予後が大きく変化す る疾患である。

.AAAの治療戦略

AAA の治療方針を決定する際には瘤径は大きな指標になる。瘤径の拡大に伴い破 裂のリスクが上昇していくためである。最大直径40 mm未満のAAA は破裂のリスク は低く、定期的な画像による瘤径の観察が必要となる。また、粥状動脈硬化の危険 因子である高血圧や脂質異常症、高尿酸血症、喫煙などを有している場合が多く、

それらに対する積極的な治療介入も必要である。血圧に関しては収縮期血圧 120 mmHg以下で内服コントロール (Angiotensin - converting - enzyme: ACE阻害剤、Ca ブ ロッカー、β ブロッカー) し、内服での脂質異常症 (スタチン製剤) 、高尿酸血症へ の治療や禁煙などの包括的な治療が主となる。

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13

ある研究において最大直径 55mm以下のAAA の治療適応を検討したところ、早期 手術群と経過観察群間で遠隔生存率には差がなかったが、女性の方が男性より破裂 率が高かった 22。そのため、現在は男性 55mm、女性 50mm が手術適応とされてい る。また、これらの瘤径拡大に至らない経過観察群の 60%以上が瘤径の拡大をきた し、手術の方針となっている。よって、全身麻酔での手術のリスクが少なく長期予 後の望める患者は、50mm以下での手術も検討に値するだろう。さらにAAAの形状 によっても破裂率は変わる。嚢状瘤の方が紡錘状瘤よりも破裂しやすいと言われて いるため 22、 瘤径によらず手術適応となることがある。瘤径拡大速度も破裂のリス クを上昇させるため、急速拡大を伴うものも早期の手術を考慮する。

手術の方法としては開腹人工血管置換術と EVAR があり、患者の状態によって選 択していく必要があるが、現在 EVAR の急速な普及により長期の予後の検討がなさ れている。

1.開腹人工血管置換術

現在、専門の施設における開腹による待機手術での開腹人工血管置換術の成績は 良好であり、手術死亡率は1 - 5%程度である23。またEVARと比較すると術後のエ ンドリークによる瘤径の再拡大はないため術後のフォローアップの面では優れて おり、直視下でAAA にアプローチすることができるため術後の不安は少ない。し かし、AAA の患者背景からもわかるように大動脈には粥状動脈硬化性病変が認め られることが多く、虚血性心疾患や腎機能障害などの合併が多く、高齢の患者が多 くを占める。患者の全身状態を考慮し、耐術能に問題が生じる場合は低侵襲である EVARを選択することも必要である。

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14

2.ステントグラフト内挿術 (Endovascular Aortic Repair: EVAR)

EVAR1991 年にParodi らが発表して以来、急激に治療技術の進歩がなされて

きた24。日本では 2007 年から EVAR 導入が開始となり急速に普及している。多く の臨床研究により、現在では複数のデバイスが開発されている25。長期成績におい ては 術後最大8年間でのフォローアップの結果報告によるとEVAR 626例、開 腹人工血管置換術群626例で全死因死亡4 年目以降のAAA関連死には両群で有意 差を認めなかったが、大動脈壁とステントグラフトとの間に血液の流入が起こるエ ンドリークやステントグラフト破損などのグラフト関連合併症やre-intervention EVAR群において有意に高いという結果となった 25

開腹手術に比べてEVARは手術時間が短く、創部も小さいため患者への侵襲が低 い。心臓合併症や高齢、開腹手術の既往、高度肥満などの患者に適しており、開腹 手術と比較して手術死亡は低いと報告されている 19。しかし、AAA 中枢の腎動脈 との距離や腸骨動脈の径など、解剖学的条件を満たす必要がある。術後の注意点と してはエンドリークの問題が生じる可能性があるため、定期的な画像フォローによ る瘤径拡大の有無を観察する必要があり、開腹手術よりグラフト関連合併症に注意 する必要がある。

破裂性大動脈瘤に対しては開腹手術が推奨されているが、ステントグラフトの デバイスの進歩もあり、解剖学的に可能であれば EVAR も考慮すべきである。特 に破裂においても血行動態が安定している場合はよい適応である 26

.腹部大動脈瘤と糖尿病

糖尿病は動脈硬化を主体とする心血管疾患、脳血管疾患、末梢血管疾患の主要な リスクファクターとして理解されている。しかし、近年の研究ではAAAに対し瘤径 の拡大を抑制する傾向があると数多く報告されている4,27,28AAAに罹患している糖

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15

尿病患者の 49 の研究のメタ解析をした報告では、糖尿病と AAA の有病率、瘤径拡 大率の間に逆相関があることを示した 28。動脈硬化を引き起こす糖尿病が AAA を 抑制するという逆説的な結果が報告されている一方で、メカニズムは明らかになっ ていない点が多い。

病理学的見解からは、高血糖状態により MMP-2, MMP-9など蛋白質分解酵素が減 少し、エラスチンなどの細胞外器質の増加に伴い、瘤化を抑制すると考えられてい る 4AAA モデルマウスによる研究では高血糖群の AAA マウスの方が対照群の AAA マウスより大動脈瘤径拡大率が小さく、動脈壁の血管新生やマクロファージ浸 潤が少なく、エラスチンの増加量が多かったと述べている6

.目的

AAA は瘤径の拡大に伴い破裂率が増加していく疾患であり、破裂した際の予後は 著しく不良である。現在、AAAに対しては手術加療が主な治療方法となっているが、

手術適応以前のAAAに対しては禁煙や高血圧の是正などの二次的な治療と定期的な 瘤径のフォローアップのみに留まっている。AAA の瘤径拡大を内科的治療の介入で 抑制することが可能となれば、飛躍的に死亡率低下を期待できる。他研究において も高血糖状態のAAA モデルマウス用いた比較検討が行われているが、ストレプトゾ トシンを腹腔内投与する高血糖モデルを用いており 6,29、糖尿病の臨床像とは大きく 異なっている。本研究は、普通餌で作成した Control 群の ApoE-/- マウスと高血糖誘 発特別餌で作成したHG群のApoE-/- マウスを4週齢から24週齢まで比較的長期間飼 育し、その後 AngⅡ持続投与によるAAAモデルを作成することにより、高血糖状態 での瘤径変化、それに伴う病理学的変化に対する影響を検討し、AAA の病態や進展 メカニズムを解明することを目的とした。

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16

ウ)対象と方法

.動物

兵庫医科大学より譲渡された ApoE -/- の凍結胚を融解・蘇生し繁殖した 4週齢オスの みを使用した。ApoE-/- マウスは脂質代謝制御に関わるapolipoproteinの内の1つである ApoEが欠損していることにより脂質の代謝異常が傷害され、粥状動脈硬化がより進 行するマウスとして理解されている30。動物実験は日本大学医学部動物実験委員会に 従い、日本大学動物 実験委員会の承認 を得て実施した (承 認番号: AP17M039-1,

AP17M040-1, AP17M041-2 ) 。遺伝子組換実験は日本大学遺伝子組換え実験安全委員

会の承認を得て実施した (遺伝子組換え実験整理番号: 20178-1)

.Apo E-/-の繁殖・飼育

オスの Apo E-/- マウスを使用し4週齢から Control (MF 飼育用, オリエンタル 酵母株式会社)HG (HFD-60 60kcal, 1%脂肪含有・オリエンタル酵母株式会社) (1) に分別し、24週齢で飼育した。飼育室の環境は両者ともに同条件とした。24週齢 まで飼育した後に体重と血圧測定をした後に大動脈モデルマウスを 作成した。

HFD-60は一般的に肥満モデルとして利用されている飼料であるが、マウスに投与す

ることにより、普通食と比較して高血糖になることが確認されている。今回は高血 糖モデルとしてこの餌を使用した。

.血圧測定

AngⅡ持続浸透圧ポンプ植え込み 0 (day0) 1 (day1) 3 (day3) 7(day7) 14 (day14) 21 (day21) 28 (day28) に血圧を測定した。KN-214-2 ラット・マウス用 非観血自動血圧計 (株式会社夏目製作所) を使用し、各マウスに つき3回測定し、収縮期血圧・平均血圧の平均値を使用した。

(21)

17

.Apo E -/- マウスを使用した腹部大動脈瘤モデルの作成

本研究ではApo E-/- マウスにAngⅡを持続投与する方法を用いた31。マウスによる 腹部大動脈瘤モデルは、LDL receptor欠損マウスを使用するものや、開腹し直接大動 脈に塩化カルシウムを塗布する方法やエラスターゼを投与する方法などがあるが、

今回はより一般的で血圧を上昇することにより AAA を発症する Apo E-/- マウスへ AngⅡを投与する方法を選択した31

Ⅱで飼育した Control (n=12)HG (n=12) のマウス 24 週齢にイソフルラン

(3%air) を吸入させ腹臥位に固定した。AngⅡを生理食塩水に希釈し 1000 ng/kg/min

で持続的投与できるよう調整し持続浸透圧ポンプ (Alzet ® osmotic pumps, DURECT

Corporation) に充填した。マウスの背部を剃毛しアルコールで消毒した後に眼科用剪

刀で約 1cm の横切開を置いた。切開部から曲モスキート鉗子を挿入して尾側方向に 表皮と皮下組織の間にポケットを作成し持続浸透圧ポンプを植え込んだ。創部をク リップで閉創しイソフルラン吸入を終了し覚醒させた AngⅡは 4 週間の持続投与と し、その間はそれぞれ普通餌と高血糖誘発特別餌を継続した。

.大動脈瘤検体摘出・採血

AngⅡを 4週間持続投与後、Control (n=12)HG (n=12) のマウスを 12 時間 絶食とし、イソフルラン (3%air) 吸入下に深麻酔とし仰臥位に固定した。腹部から 胸部にかけて眼科用剪刀で縦切開の皮膚切開をおき開腹した。後腹膜にアプローチ し後腹膜を切開し腹部大動脈を周囲の組織と剥離していった。中枢は心臓、遠位は 総腸骨動脈分岐部まで鈍的に剥離した。腹部大動脈腎動脈分岐部中枢側にできた AAA の最大直径と瘤より遠位の正常径をノギスで測定した。心拍動下に23G針を横 隔膜から心臓に向かって穿刺し採血した。採血終了し次第、心臓から総腸骨動脈分 岐以降までの大動脈を摘出した。摘出した検体の各 6 検体を 10%中性緩衝ホルマリ

(22)

18

ンにて灌流固定を行った。

.染色

Ⅴにて固定した各 6 検体をパラフィンで固定し4μm の厚さに薄切し、心臓の大動 脈弁輪レベル、胸部大動脈レベル、AAA レベル、AAAより末梢の正常径部分のレベ ルのスライスをプレパラートに固定し各種の染色を行った。

染色はヘマトキシリン・エオジン (Hematoxylin-Eosin: H-E) 染色、EVG 染色、alb (pH=2.5) 染色を施行した。免疫組織化学は α-smooth muscle actin (α-SMA) 染色 (rabbit polyclonal anti-α smooth muscle actin antibody (abcam, Cambridgem UK; dilution 1:500) ), S 100 family of calcium-binding protein A4 (S100A4) (rabbit polyclonal anti-S100A4 antibody (Agilent technologies, Calfornia, USA; dilution 1:4000) ), smooth muscle myosin heavy chain (SMMHC) (rabbit polyclonal anti-smooth muscle myosin IgG antibody (Alfa Aesar, Lancashire, UK; dilution 1:100)), CD31 (rabbit polyclonal anti-CD31 antibody (abcam, Cambridge, England; dilution 1:50) ) にて免疫組織化学を施行した。い ずれの染色にも CCI バッファー pH 9 (Roche Diagnostics, Basel, Switzerland) を用い て抗原の賦活化を行い自動免疫染色装置 (XT system discovery, Roche Diagnostics, Basel, Switzerland) を用いて染色を行った。

.病理学的比較検討

各検体において瘤壁は著明な径の拡大と血管壁の破壊により定量計測が困難であ ったため、AAAに隣接する血管壁を光学顕微鏡 (BX-51, OLYMPUS) を用い、100 倍 で検鏡し、撮影カメラ (DXC-H10, SONY) と撮影ソフトウエア (OLYMPUS cellSencs

Standard, OLYMPUS) を用いてデジタル画像として解析に使用した。

(23)

19

1.EVG染色による弾性線維の変性の程度の比較検討

Control 群・HG 群にて EVG 染色された中膜弾性線維の変性の程度の比較検討

を行った。各検体の中膜を無作為にOLYMPUS cellSencs Standardで保存した病理 組織像を画像編集・解析ソフトウエア (Image J 1.50 I 8) を使用し100μm2 5ヶ 所切り取った (2 (b) ) Image Jは画像解析・処理に優れたソフトウエアであ り、病理組織学的な画像処理には広く応用されており、血管における病理におい ても使用されている 9。切り取った正方形内に存在する EVG 染色陽性の弾性線 維を Image Jを用いて1本の1 pixelの曲線に変換し (2 (c), (d) ) 、曲線のフラ クタル解析をImage Jを用いて行い、中膜弾性線維の変性程度の比較を行った。

フラクタル解析とは形の複雑さをフラクタル次元によって定量化することがで きる解析方法である32。複雑な形の図形ほど高いフラクタル次元となる (2 (e),

(f)) 。フラクタル解析は一般的には腫瘍病理における、腫瘍の良性・悪性の判定

などに応用されている33。今回は中膜弾性線維の変性の程度を定量化するために フラクタル解析を使用した。正常血管では中膜弾性線維はコイル状に屈曲してい るのに対し、大動脈瘤壁ではこれらの屈曲が消失し、伸展が目立つようになる。

本研究では中膜弾性線維の変性の程度が保たれていることをフラクタル次元が 高値として扱うこととした。

2.アルシアンブルー染色による比較検討

中膜変性に伴った、酸性ムコ多糖類の沈着の程度を定量化する目的でアルシア ンブルー染色を行った。本研究では OLYMPUS cellSencs Standard で撮影した病 理組織像を Image J を使用し両群の各検体の AAA に隣接する大動脈における alb陽性面積 / 中膜 (alb×100 / Med) の面積の比率を算出し比較した。

3. α-SMA 免疫組織化学による比較検討

α-SMAは血管 SMC の細胞骨格蛋白で異なる表現型の SMC においても広く

(24)

20

分布することが知られている。 本研究では OLYMPUS cellSencs Standard で撮影 した病理組織像を Image J を使用し両群の各検体の AAA に隣接するレベルの 大動脈中膜における α-SMA 陽性面積の割合 (α-SMA×100 / Med) の面積比率を 算出し比較した。

4. S100A4免疫組織化学による比較検討

中膜 SMC の脱分化の程度を検討するため、脱分化 SMC マーカーである S

100A4の免疫組織化学を行った34OLYMPUS cellSencs Standardで撮影した病理

組織像を Image J を使用し両群の各検体の AAA に隣接するレベルの動脈中膜

における S100A4陽性面積 / α-SMA の面積 (S100A4×100 / α-SMA) の比を算出 し比較した。

5.SMMHC免疫組織化学による比較検討

高分化な SMCの分布を検討するため、高分化 SMC マーカーであるSMMHC の免疫組織化学を行った35 OLYMPUS cellSencs Standard で撮影した病理組織

像を Image J を使用し両群の各検体の AAA に隣接するレベルの動脈中膜にお

けるSMMHC陽性面積 / α-SMAの面積 (SMMHC ×100 / α-SMA) の比 を算出し 比較した。

6.CD31染色による比較検討

AAA において、血管障害を推定するため外膜における血管新生の程度を血管 内皮細胞マーカーである CD31 免疫組織化学にて検討した 36。本研究では OLYMPUS cellSencs Standard で撮影した病理組織像を Image J を使用し両群の

各検体の AAA に隣接するレベルの動脈外膜における CD31陽性面積 / 外膜面

(CD31×100 / Adv) の比を算出し比較した。

(25)

21

.統計処理

統計学的処理は IBM SPSS 21.0 Statistics base を用いてt 検定を行った。p 0.05 を有意水準とした。定量結果は mean ± SD で表した。

エ)結果

.体重・12時間絶食後血糖値・総コレステロール値・低比重リポ蛋白コレステロー ル値・収縮期血圧

Control群に比べて HG群は24週齢時の体重が有意に増加し (Controlvs. HG: 27.3 ± 2.3g vs. 35.7±7.0g , p <0.05, 3 (a) ) 24週齢時の絶食後12時間血糖値が有意 に高かった (Controlvs. HG: 58.8 ± 4.9 mg/dL vs. 144.5 ± 33.2 mg/dL , p <0.05, 3 (b) )。 また、総コレステロール値 (total cholesterol: TC)、低比重リポ蛋白コレステロ ール (low density lipoprotein cholesterol: LDL -C) の値は両者ともに有意差を認めなか った (TC Controlvs. TC HG: 774.5 ± 338.8 mg/dL vs. 650 ± 226.3 mg/dL , p = 0.56, 3(c) )(LDL-C Controlvs. LDL-C HG: 109.0 ± 41.4 mg/dL vs. 111.7 ± 32.2 mg/dL , p =0.92, 3(d)) 。両者ともに AngⅡ植え込み後に有意に血圧上昇を認め (day0 Controlvs. day1 Control: 99.0 ± 7.5 mmHg vs .120.4 ± 20.5 mmHg, p <0.05, day0 HGvs. day1 HG: 97.6 ± 9.5 mmHg vs. 127.7 ± 22.3 mmHg, p <0.05, 4 (a) )AngⅡ投 与後の収縮期血圧は両者間では有意差はなかった (day1 Controlvs. HG: 120.4 ± 20.5 mmHg vs. 127.7 ± 22.4 mmHg, p = 0.36, day3 Controlvs. HG: 134.9 ± 18.0mmHg vs. 128.8 ± 18.7 mmHg, p = 0.35, day7 Controlvs. HG: 145.7 ± 19.3 mmHg vs 135.5 ± 15.2 mmHg, p = 0.13, day14 Controlvs. HG: 137.4 ± 21.5 mmHg vs 138.0 ± 25.8 mmHg, p = 0.95, day21 Controlvs. HG: 136.9 ± 29.5 mmHg vs 144.4 ± 25.3 mmHg, p = 0.50, day28 Controlvs. HG: 144.7 ± 20.6 mmHg vs 148.4 ± 28.1 mmHg, p = 0.22, 4 (b) )

(26)

22

.瘤径拡大率

Control 群、HG 群ともにいずれにおいても正常大動脈径と比較して 1.5 倍以上の

瘤径の拡大を呈しており、大動脈瘤の形成を認めた。しかし、HG 群に比べ Control 群は瘤径拡大率 (瘤最大短径×100 / 正常径) が高値であり、Control 群で瘤径の進展 が認められた (Controlvs. HG: 304.3 ± 103.4% vs. 185.3 ± 80.6%, p <0.05, 5 (b) )

.病理学的検討

病理学的には EVG 染色において、HG 群が Control 群と比較し有意に 100μm2EVG染色部位のフラクタル次元が高値であった (Controlvs. HG: 1.0530 ± 0.0324 vs. 1.0770 ± 0.0303, p <0.05, 6 ) 。アルシアンブルー染色では Control 群が HG群 より有意に血管中膜面積 (Med) あたりのアルシアンブルー陽性域 (alb×100/ Med) が多かった (Controlvs. HG: 31.7 ± 6.9% vs. 22.3 ± 7.6%, p <0.05, 7) 免疫染 色において Control 群が有意に血管中膜面積中の平滑筋マーカーである α-SMA 陽性 面積 (α-SMA×100 / Med) の低下を認め (Controlvs. HG: 39.4 ± 6.5% vs. 49.3 ± 7.6%, p 0.05, 8 (g) )、中膜内の α-SMA陽性 SMC における脱分化マーカーで ある S100A4陽性面積 (S100A4×100 / α-SMA) が高値であった (Controlvs. HG: 9.84 ± 6.22% vs. 23.5 ± 9.79%, p <0.05, 8(h) )。中膜内の α-SMA中の平滑筋高分化 マーカーである SMMHC 陽性面積 (SMMHC×100/ α-SMA)は両群間で有意差はなか った (Controlvs. HG: 61.3 ± 5.0% vs. 55.7 ± 18.7%, p <0.05 ) が、S100A4 SMMHC の比 (S100A4×100/ SMMHC) HG群で有意に高値であった(Controlvs.

HG: 14.5 ± 11.4% vs. 41.4 ± 5.1%, p <0.05, 8 (J) )。 血管新生内皮マーカーである CD31染色では外膜中の CD31陽性面積 (CD31×100 / Med) Control群は HG群よ り有意に高値であった (Controlvs. HG: 5.06 ± 2.46 % vs. 2.29 ± 1.38 %, p <0.05, 9 (c) )

(27)

23

オ)考察

本研究では 4週齢の ApoE-/- マウスに20週間、普通餌・高血糖誘発特別餌を与え、

より臨床像に近い状態で高血糖を惹起した。これらの高血糖マウスにマウス AAAモ デルとして確立されている AngⅡの4週間持続投与によるAAAモデルマウスを作成

した。24週齢では Control群と比較して、HG群で有意に空腹時血糖が上昇した。持

続浸透圧ポンプによる AngⅡ持続投与の影響としては、血圧変動は両群間で有意差 を認めなかった。また、脂質代謝に関しても、両群間で高値は示したものの有意差 は認めなかった。28 週齢に達した際の AAA の直径は両群ともに正常動脈径 1.5 倍 以上の拡大を認められたものの、Control 群が HG 群に比べて有意に拡大傾向を示し た。マウスを使用したAAAの病態に対する先行研究では、10週齢前後の若年マウス を使用しており、高血糖モデルもストレプトゾトシンを腹腔内投与し、血糖値が

300mg / dLと著明な高血糖を呈するものが散見される6 ,29。膵臓β細胞を破壊する作

用のあるストレプトゾトシンを投与することによる糖尿病モデルマウスでは、イン スリン分泌の低下により非生理的な高血糖状態が主体であり生理的とは言い難い。

本研究では糖尿病誘発遺伝子欠損マウスの使用や薬物投与などは行わず、飼料の摂 取のみで高血糖状態を作り出すことによる高血糖モデルを使用した。他研究ではこ のようなモデルは使用されていないが、糖尿病患者においても血糖値> 300mg/dL を 保っている状態は稀であり、生理的状態に近い本研究のモデルはより生理的で実臨 床に近いモデルであると考えられる。また、特殊飼料により高血糖を促した AngⅡ持 続投与による ApoE -/-マウスでAAA の瘤径拡大抑制効果が有意に認められたことは 興味深い。

病理組織学的な検討により、餌による高血糖状態が大動脈中膜の変性や外膜の炎 症に影響を及ぼしている可能性が示唆された。AAA の病態には血管内皮細胞を介し た fibrinolytic pathway 2 の関与が考えられており、u-PA37 PAI-1などの活性変化が 報告されている29, 37。高血糖が fibrinolytic pathway のいずれかに影響を与え、血管中

(28)

24

膜の分解酵素であるMMP-2, 9の作用を抑制することも他研究で報告されている29, 37。 本研究ではMMP-2, 9 に対するアプローチはできておらず、今後の課題として挙げら れる。

HG 群は EVG染色、alb 染色、α-SMA 免疫組織化学の検討で有意に中膜の弾性線

維の構造が保たれ、酸性ムコ多糖の沈着が少なく、SMCの密度が高かった。一方で、

HG群では大動脈の中膜に脱分化した SMCが多く認められた。現在、多様な形質を 有する表現型の異なる SMC が存在すると知られている。紡錘型 SMC (spindle-shape

smooth muscle cell :S-SMC) は正常中膜に多く存在し、比較的分化は高く収縮力や血

管構造の保持を寄与する特徴を持つのに対し、菱型 SMC (rhomboid-shape smooth

muscle cell :R-SMC) は脱分化しており、遊走能や細胞増殖能が高い38。また、血管傷

害や動脈硬化によって S-SMC R-SMC に形質転換することもわかっている。

R-SMC は特異的に発現しているマーカー分子として同定された S100A4 は脱分化

平滑筋細胞のマーカーとして有用である 39。 今回の結果は、HG 群は脱分化 SMC マーカーである S100A4の発現が Control群と比較して増加していた。このことは糖 尿病による動脈硬化の進展作用に矛盾がない結果となった。

以上の病理組織学的結果から、糖尿病や耐糖能異常は高脂血症や高血圧を合併し た場合、弾性線維の変性や酸性ムコ多糖類の沈着といった、中膜の変性に対して保 護的に働いている可能性が示唆された。これらの結果は、臨床的に糖尿病患者にお いて、AAA の発生頻度が低く、また瘤形成を認めても進行する症例が少ないという 事実と合致する。今後、更に本モデル動物を用いて、AAA の進展機序を明らかにす る必要がある。今回の検討では6ヶ月間の特別飼料投与の後、AngⅡを4週間投与す るという時間制限もあり、これ以上の生化学的検討に必要なモデル動物の作成がで きなかった。HG群において AAA 形成や進展に重要な役割を果たしている MMP の 活性低下や炎症性サイトカインの抑制が予想される。更に、HG群では中膜における、

α-SMA 陽性面積の占める割合が高く、血糖値が SMC のアポトーシスなどに影響を

(29)

25

与えている可能性もある。 SMC の増殖能やアポトーシスの検討により中膜の変性 に対する高血糖の作用機序について検討したい。血管外膜ではCD31陽性面積が HG

群ではControl群と比較して少なかった。AAAにおける新生血管増生はCD31陽性の

リンパ球の浸潤を伴ったものであり、瘤径の拡大に伴う変化として考えられている。

瘤径拡大率が有意に低かったHG群においてCD31陽性面積が少ない結果は妥当と考 えられる。大動脈瘤はリスクファクターによる血管への炎症性サイトカインや tPA, uPA産生によるfibrinolytic pathwayを介したMMP産生などにより、血管中膜が破綻 し血管径が拡大するが、高血糖はそのいずれかに作用することで瘤化を抑制してい ると考えられる(10)。本研究の限界としては、マウスでの糖尿病の定義は確立され ておらず40、今回は高血糖を 12時間絶食後空腹時血糖で定義したが、ヒトにおいて の高血糖・耐糖能異常・糖尿病とは異なる可能性が高いため、必ずしも本結果がヒ トに合致するとは限らない。また、本研究の結果からすると AAA 患者においては、

高血糖状態を許容してもよいとの結論になりかねないが、そこは議論の余地がある。

高血糖による何らかの血管平滑筋への作用が存在し、AAA 瘤径拡大を制限している ことは推測できるが、それ以外の影響を鑑みると、暗に高血糖を許容することはで きない。

AAA は、ほとんどが無症状で年齢とともに瘤径が拡大し、破裂すると致死率の高 い疾患である。現時点では根治治療としては手術加療のみである。瘤形成や瘤拡大 のメカニズムは明らかになっていないが、糖尿病や耐糖能異常との関連性はとても 興味深い。心血管疾患リスク、動脈硬化のリスクとなる糖尿病が、心血管疾患であ る腹部大動脈瘤に逆説的に働くことが示されているが、おそらく動脈硬化とは異な った機序が大動脈を瘤化させる要因となるのでないか。糖尿病や耐糖能異常の AAA の病態への関与の更なる検討により、今後のAAA の新たな治療法の開発が期待され る。

(30)

26

カ)まとめ

本研究では高血糖を呈する24週齢の ApoE-/- マウスに対し AngⅡ持続投与を行い AAAモデルマウスを作成し、高血糖状態の AAA の形態学的・病理学的変化に対す る影響を検討した。HG群では AAA瘤径拡大が抑制され、病理組織学的には中膜弾 性線維の保持と変性の抑制、脱分化した平滑筋細胞の増加、外膜における新生血管 増生の抑制が明らかとなった。今後の更なる AAA と糖尿病や耐糖能異常との相互 関係を探ることで、致死的疾患である AAA への新たな治療への開発につながる可 能性がある。

(31)

27

【謝辞】

本研究の機会を与えて下さり終始親身なご指導、ご鞭撻を賜りました日本大学医学 部外科学系心臓血管外科学分野主任教授 田中正史博士に謹んで感謝の意を表しま す。実験施行、本研究に関し終始親身なご指導、ご鞭撻を賜りました日本大学医学 部病態病理学系人体病理学分野主任教授 羽尾裕之博士に心から感謝を申し上げま す。データ解析等に親身なご指導をいただきました日本大学松戸歯学部病理学講座 末光正昌博士に心から感謝申し上げます。実験施行、病理標本作成等に親身にご助 力くださいました 日本大学医学部医学部病態病理学系人体病理学分野 山田 清香 専修研究員に心から感謝申し上げます。

最後に本研究のために命を失った多くのマウスたちに追悼の意を捧げます。

(32)

28

【図表】

1

1

Control 群 (MF 飼育用, オリエンタル酵母株式会社 )と Hyperglycemia: HG 群 (HFD-60 60kcal, 1%脂肪含有・オリエンタル酵母株式会社) の成分比較表

総カロリー、粗脂肪が HFD60 には多く含まれている

(33)

29

2

2

(a): 血管中膜EVG染色

(b): (a)から無作為にEVG染色した血管中膜を100μm四方で無作為に切り取る(赤い正方形の枠内)

(c): 切り取った四方からEVG陽性成分のみを抽出

(d)(e): 抽出した陽性成分のうち曲線 ( (c)の黄色・赤色楕円) 1pixelの曲線に編集しフラクタル 解析を行った。形が複雑なほどフラクタル次元は高値を示す

(34)

30

3

3

両群間の体重、12時間絶食後血糖、TC値、LDL-C値

Control群に比べHG群が有意に24週齢時の体重が増加した *p<0.05 (a)

Control群に比べHG群が有意に24週齢時の12時間絶食後血糖値が高かった ** p<0.05 (b) TC値、LDL-C値は両群間で有意差はなかった。(c)(d)

(35)

31

4

4

day0: AngⅡ浸透圧ポンプ植え込み日, dayX:

植え込み後 X 日

両群ともに

AngⅡ植え込み後の血圧は1

日目で有意に上昇した *p<0.05, ** p<0.05 (a)

AngⅡ浸透圧ポンプ植え込み後の収縮期血圧は両群間に有意差はなかった(b)

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