特 集 褥瘡に対するチームアプローチ
褥瘡発生予防ケア
昭和大学病院褥瘡ケアセンター
浅田 恵子
は じ め に
褥瘡発生の予防はリスクアセスメントによって導 き出された患者個々が持つ要因に対して必要なケア を立案し,実施することが重要となる.これによっ て,褥瘡予防だけでなく,褥瘡を保有している患者 にとっては褥瘡悪化の予防・治癒環境を整える治療 の一貫として重要である.ここでは,褥瘡予防の為 の基本的なケアについて述べる.
基本的な褥瘡予防対策 1.皮膚の観察
褥瘡発生の好発部位である骨突出部の皮膚観察が 褥瘡発生予防・早期発見において重要である.皮膚 が乾燥・湿潤(浸軟)している場合は皮膚組織の耐 久性が低下し,脆弱な状態である.また,瘢痕は真 皮における皮膚付属器の皮脂腺や毛囊などが欠如し ているため,健常皮膚に比べ脆弱であり,再度損傷 を受けると難治性となる.そして,色素沈着・色素 脱出は慢性的に皮膚にダメージを与えた結果であ り,表皮は脆弱であることが多い.
これらのような脆弱な皮膚の状態である場合に は,褥瘡発生のリスクが高くなるため,特に注意し て観察する必要がある.
2.体圧分散ケア(除圧,減圧)
一般的に 70 〜 100 mmHg の圧力が 2 時間以上加 わると,圧迫部位に虚血性変化が起こるといわれて いる.骨突出部位にこのような圧迫が加わることが 褥瘡発生の一番の原因となる.その為,圧迫の除 去・圧の分散が,褥瘡発生予防ケアとして最も重要 である.
1)臥床時の体圧分散ケア (1)体位変換
同一部位に対する長時間の圧迫を避けるために,
原則として最低 2 時間ごとに体位変換を行う.ただ し,骨突出が重度の場合はより頻回に行うことが必 要になる場合もある.また,病状などの理由から体 位変換が困難な場合には骨突出部位のプッシュアッ プを行う.これにより,短時間であるが虚血状態を 解除することができる.
(2)骨突出部位(褥瘡部)の圧迫を避けるポジ ショニング
①仰臥位時のポジショニング(写真 1)
褥瘡発生好発部位となる骨突出部位への圧迫をさ ける体位を保持することが重要である.クッション の使用は,身体と身体の隙間,身体とベッドとの隙 間ができないように挿入する.その為には,使用箇 所に応じた適切な大きさのものを使用することが必 要である.
②側臥位のポジショニング(写真 2)
側臥位時の基本は 30 度といわれている.これに よって体圧を殿筋で支え,体圧を分散する.ただ し,殿部の骨突出の状況は個々に異なるため,該当 しない例もある.その為,患者の状況に合わせて,
骨突出部位が圧迫されていないポジショニングであ るかを確認する必要がある.
③踵部のポジショニング
踵部は面積が小さいために受ける圧力は高い.ま た循環障害の影響を受けやすく,虚血を引き起こし やすい.下腿全面にポジショニングクッションを使 用し,踵がベッドにつかないように挙上する.
④頭側拳上(ベッドギャッジアップ)時のポジ ショニング
上半身の体重が殿部に圧迫として加わりやすい.
特に骨突出部位である尾骨部に褥瘡発生リスクが高 くなる.その為,出来るだけ尾骨部に圧迫が加わら
ないように角度は 30 度以内とすることが理想であ る.ただし,患者の安楽の為に,角度を高くする場 合には,1 回の時間を短時間とし,長時間の圧迫を さけることが必要である.
2)座位時の体圧分散ケア
長時間の座位姿勢によって殿部での体重保持によ り坐骨部や尾骨部に褥瘡が発生しやすい.その為,1 回の座位時間は原則として 1 時間以内とすることが 望ましい.その間も除圧目的として 15 分から 30 分
毎に上半身を持ち上げるプッシュアップを行う.ま た,姿勢が崩れることで,皮膚のずれを生じるため,
ポジショニングクッションを使用した姿勢の保持に 努める.痩せている患者の場合には,大腿部の筋肉 よりも坐骨や尾骨が突出することがあるため大腿部 にタオルを入れるだけでも体圧分散効果がある.
3)体圧分散用具の使用
体圧分散ケアの補助用具として,臥床時には体圧 分散マットレス,座位時には体圧分散クッションを
写真 1 仰臥位時のポジショニング例
①体幹 ②下肢 写真協力:株式会社ケープ
写真 2 側臥位時のポジショニング例 写真協力:株式会社ケープ
使用する.この場合,患者の状態にあわせた適切な 体圧分散寝具を使用することが重要となる.当院で は,各部署で特徴・状況に応じた製品を所有し活用 している.
(1)体圧分散マットレスの主な種類(表 1,写真 3)
主に骨突出部位に対する受圧の持続時間を短くす る機能を持つエアーマットレス,身体とマットレス との接触面積を広くして骨突出部位の圧を減少させ るウレタンフォームマットレスを使用している.
(2)体圧分散マットレスの選択
体圧分散マットレス選択のアルゴリズムを活用す る.ただし,エアーマットレスの場合,患者自身で の寝返りがしにくくなることや座位時の体位保持が 不安定となることがある.また,エアーの移動によ りマットレスの揺れを不快と感じる場合もある.そ の為,患者の日常生活自立度や寝心地を考慮して使
用する.
(3)円座の使用は禁忌
骨突出部に対しての使用は禁忌である.仰臥位時 は仙骨部や踵部,座位時は殿部に円座を使用しよう とする例がある.しかし,円座は接触部位の皮膚が 引っ張られ,圧迫により骨突出部位の虚血を起こす ため,原則として使用は避けるようにする.
3.皮膚の摩擦,ずれ防止ケア 1)ずれ防止
皮膚と軟部組織の間でのずれが外的要因となり皮 膚組織の結合の低下や血流障害を起こし,組織耐久 性に影響する.
(1)体位変換は,身体全体を引きずらないように 複数のスタッフで体位変換を行うことが理想であ る.しかし,一人で行う場合には,背部・殿部・下 肢に分けて行う.また,移動や体位変換時の活用を
表 1 当院で使用している主な体圧分散用具
機能 製品名(販売元)
体圧分散マットレス エアー ビッグセル EXⓇ((株)ケープ)
アドバンⓇ ((株)モルテン)
ネクサスⓇ ((株)ケープ)
トライセルⓇ ((株)ケープ)
エアー+ウレタン フォーム
アキュマックスⓇ (パラマウント(株))
ウレタンフォーム マキシフロートⓇ (パラマウント(株))
ブルームⓇ ((株)ケープ)
N ケアマットレスⓇ ((株)ケープ)
体圧分散クッション ウレタンフォーム リフレアⓇ (アルケア(株))
べスポジェルクッションⓇ ((株)ケープ)
写真協力:株式会社ケープ写真 3
エアーマットレス ウレタンフォームマットレス
目的とした体幹へのタオル使用は,常時挿入してお くことで皺ができやすく圧迫の原因となるほか,体 温を上昇させ,体幹皮膚を湿潤させる要因となるた め,避けることが望ましい.
(2)骨突出部のマッサージは,皮膚への摩擦刺 激・ずれを与えるため禁忌である.
(3)ベッドギャッジアップ時は,上半身の重さが 殿部に集中するため,足側から頭側の順に拳上す る.角度は 30 度以下が望ましいが,食事などで 30 度以上のベッドギャッジアップを行う場合には,可 能な限り短時間にとどめる.特に,経管栄養実施時 は,長時間にならないように注意する.また,ポジ ショニングクッションを使用し,ずれの発生しにく い姿勢を保持することが重要である.
また,ベッドギャッジアップ後には必ず背抜き
(ずれの解除:図 1)を行う.
2)局所(皮膚)の摩擦防止
骨突出部の皮膚に膜を作ることで,直接的な皮膚 への摩擦刺激を最小限にする.被膜の方法は多くあ るが,当院では主に以下の方法を活用している.
(1)ポリウレタンフィルム材の貼用 (2)油性軟膏の塗布
(3)皮膚保護オイルなどの皮膚保護材の塗布 3.関節拘縮の予防
拘縮は,皮膚や筋肉など関節周囲の軟部組織の収 縮によって関節が他動的にも自動的にも可動域制限 を起こす状態で,その部位の骨突出が高度となる.
また,拘縮により皮膚が引き伸ばされ薄くなること から,褥瘡発生リスクが高まる.屈曲位型拘縮があ る寝たきり高齢者で,胸椎部の生理的後彎が増強し た円背の状態にある場合は,通常の褥瘡好発部位で なくても関節拘縮がある部位はその人にとっての褥
瘡好発部位となるため,患者の状況に合わせたケア が必要である.
1)褥瘡好発部位の具体例 (1)膝,肘,下腿部,脊椎など
(2)前腕部と上腕部,後上腕部と前胸部の密着部 (3)指間など
2)対策
(1)細かいビーズで作られた小枕を多数使用し身 体の接触面を増やすことで体圧の分散を図る.
(2)膝関節,股関節,肩関節,肘関節,指関節に クッションを挿入する.
4.スキンケア
皮膚がなんらかの異常をきたすと,角層のバリア 機能の低下により,外的刺激の保護作用が低下する ことで皮膚は脆弱化する.これによって,圧迫・摩 擦・ずれなどの刺激が加わると褥瘡発生リスクが高 くなる.その為,皮膚を正常な状態に維持すること は,褥瘡発生予防ケアとして重要である.
1)皮膚への刺激を抑えた基本的な皮膚の洗浄 (1)弱酸性の石鹸や洗浄剤を使用する.これは,
皮膚と同じ弱酸性により,皮膚への刺激が抑えられ るためである.
(2)石鹸や洗浄剤をよく泡立てて,やわらかい素 材のタオルや手指などで洗浄する.石鹸の泡に含ま れる界面活性剤が汚れを落とす.泡によって汚れは 落とすことができるため,摩擦を抑えることができ る.また,目の粗いタオルなどの使用は摩擦が多く 加わるため避ける(写真 4).
(3)多量の微温湯によって,汚れと石鹸や洗浄剤 をよく洗い流す.汚れや石鹸・洗浄剤の成分が残っ ていると皮膚トラブルの要因となるため,よく洗い 流すことが大切である.
2)皮膚の乾燥予防 (1)保湿剤の使用
(2)入浴時の湯の温度は 40℃まで(保湿入浴剤 の使用)とする.特に糖尿病を持つ患者は末梢神経 障害を持つことがあるため,熱い湯には注意が必要 である.
3)室内温度:24℃
±
2℃・湿度:60 〜 65%に調整 4)排泄物による皮膚の汚染・湿潤・浸軟予防 排泄物が皮膚に付着することで,皮膚への刺激と なる.排泄物が水様であれば,皮膚が湿潤・浸軟す るリスクが高い.これに加え,排泄物内の細菌に図 1 背抜き(ずれの解除)
よって感染を起こすこともある.特に,水様便の付 着は皮膚への刺激が強いため,容易にスキントラブ ルを起こしやすい.その為,皮膚を保護し,直接的 な排泄物の付着を防ぐ必要がある.
(1)ポリウレタンフィルム材の貼用
(2)油性軟膏類(白色ワセリンなど)の塗布 (3)皮膚被膜剤(写真 5),皮膚保護材の塗布 (4)失禁対策
便失禁の場合は,専用の肛門用パウチなどの使用 や,強度の下痢が続く場合には「便失禁管理システ ムフレキシシールⓇ」の使用を検討することもある.
尿失禁の場合,多くの場合は尿とりパッドを使用 する.この尿とりパッドの当て方にも注意する必要 がある.できるだけ,褥瘡の好発部位となりやすい 仙骨部を含む殿部の尿付着を予防するために,男性 の場合は陰茎に巻きつける.女性の場合は,仙骨 部・尾骨部にかからないように当てるなどの工夫に 努める.
失禁状態にある場合,局所ケアの対策だけでな く,失禁の原因や要因,コントロール可能であるか 否かなどのアセスメントを行い,失禁自体への対策 も同時に行うことが必要である.
5.栄養管理
定期的な栄養状態の評価,栄養状態の維持・改善 に取り組むことは,褥瘡の治療だけでなく褥瘡発生
予防の過程においても重要である.現在,NST 活 動が活発となり,褥瘡ケアチームだけでなく NST との連携によって今まで以上に栄養管理が強化され るようになっている.なお,栄養管理についての詳 細は,別項を参照していただきたい.
お わ り に
一般的な基本的な褥瘡予防ケアに準じた当院での 主なケアを述べた.しかし,はじめに述べたよう に,患者個々にリスク要因や程度など異なり,これ 以外のケアが必要となることやこれらの対策が患者 に苦痛を与える場合もある.その為,患者にとって の優先順位を考慮し,個々にあった褥瘡予防ケアを 検討・実施することが必要である.
文 献
1) 宮地良樹,溝上祐子編.褥瘡治療・ケアトータ ルガイド.東京: 照林社; 2009.
2) 宮地良樹編.褥瘡の予防・治療ガイドライン.
東京: 照林社; 1998.
3) 大浦武彦.わかりやすい褥瘡予防・治療ガイ ド:褥瘡になりやすい人,なりにくい人.東京:
照林社; 2001.
写真 4 皮膚の洗浄
写真 5 皮膚被膜剤 リモイスコートⓇ (アルケア(株))