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フランス・旧植民地出身移民女性の抵抗と言語

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(1)

フランス・旧植民地出身移民女性の抵抗と言語

――〈 声 〉 を取 り戻 すための演 劇 制 作 ――

Résistance des actrices de l’immigration postcoloniale et langues :

Création d’une pièce de théâtre pour retrouver les voix étouffées

東 京 外 国 語 大 学

Tokyo University of Foreign Studies

田 邊 佳 美

TANABE Yoshimi

ふらんぼー(Flambeau) vol.47 2021, p.103-121.

原 稿 受 理 2021-12-19 ; 最 終 版 2022-1-27

抄 録

本 稿 は、現 代 のフランスで階 級 的 ・ 人 種 的 ・ ジェンダー的 に抑 圧 ・ 客 体 化 され、沈 黙 を強 いられた旧 植 民 地 出 身 移 民 ( やその子 孫 ) の女 性 たちの文 化 ・ 芸 術 実 践 を通 した抵 抗 に着 目 する。とりわけ、パ リ郊 外 で移 民 ・ 庶 民 階 層 の集 住 する地 区 に拠 点 をおく女 性 グループが制 作 した演 劇 作 品 とその制 作 過 程 についての分 析 から、客 体 化 により奪 われた〈 声 〉 ――言 語 とそれに連 なる文 化 や記 憶 ――を 取 り戻 す様 相 やその戦 略 を明 らかにする。

Résumé

Cet article porte sur la résistance, par l’expression culturelle et artistique, de femmes (déscendantes) de l’immigration postcoloniale, vivant en France contemporaine et réduites au silence par la matrice d’oppressions. A partir d’une analyse du processus de création d’une pièce de théâtre dans un espace collectif féminin en banlieue parisienne, il met en lumière les modalités d’actions et tactiques visant à retrouver les « voix » étouffées, et ainsi à se réapproprier langues, cultures et mémoires.

キ ー ワ ー ド ( 旧 植 民 地 移 民 、 反 差 別 、 言 語 実 践 )

© ふらんぼー Flambeau 47 (2021) pp.103–121.

183-8534 東 京 都 府 中 市 朝 日 町 3-11-1 東 京 外 国 語 大 学 フランス語 研 究 室 183-8534 French Section, Tokyo University of Foreign Studies, 3-11-1 Asahi- cho Fuchu City, Tokyo

本 稿 の 著 作 権 は 著 者 が 保 持 し、 クリエ イティ ブ・ コ モ ン ズ表 示 4.0 国 際 ラ イセン ス (CC-BY)下 に提 供 します。

https://creativecommons.org/ licenses/by/4.0/deed.ja

(2)

1.

問 題 関 心 ーー奪 われた〈 声 〉 を取 り戻 す

フランスは戦 後 の高 度 成 長 期 に( 旧 ) 植 民 地 から多 くの移 民 を受 け入 れた1

1970

年 代 の石 油 危 機 で新 規 移 民 の受 け入 れ停 止 を決 定 するが、このことはむしろ、すでに労 働 者 としてフランスに滞 在 していた移 民 が家 族 を呼 び寄 せ定 住 することを促 した。この時 、国 や自 治 体 の政 策 が交 錯 するなかで、多 くの移 民 が郊 外 や都 市 中 心 部 でも低 所 得 者 が集 まる地 区 の団 地 へ入 居 し、

1980

年 代 には、非 白 人 で庶 民 階 層 に属 する移 民 やその家 族 が集 住 する現 在 の大 衆 地 区 (

quartiers populaires

2の原 型 が都 市 周 辺 部 に生 まれる( 森

2015

) 。これら移 民 やその子 孫 は、脱 産 業 化 による社 会 の構 造 変 化 や、排 他 的 な教 育 ・ 社 会 制 度 のなかで、「 社 会 のあらゆる側 面 における人 種 差 別 、裕 福 な都 市 部 との教 育 格 差 、切 り詰 められる社 会 保 障 」 (

Collectif 2013: 200

) など様 々な問 題 に直 面 していく。

政 治 家 やメディア、そして研 究 者 は、こうした「 移 民 (

immigrés

) 」 、「 移 民 出 自 の若 者

jeunes issus de l’immigration

) 」 、さらに近 年 では「 移 民 女 性 (

femmes immigrées

) / ス カ ー フ 女 性 (

femmes voilées

) 」 を 集 団 とし て問 題 化 し 、 「 非 行 (

délinquence

) 」 や 「 治 安

sécurité

) 」 、 「 統 合 (

intégration

) 」 の 問 題 と し て 「 語 り の 対 象 / 客 体 (

objets-parlés

) 」

Bouamama 2013: 17

) にしてきた。他 方 で、当 事 者 の移 民 やその子 孫 たちは、日 常 的 な 経 験 の中 で自 らの置 かれた状 況 を分 析 し社 会 に訴 えようと試 みるも、絡 み合 う権 力 構 造 の もとで周 縁 化 され3、その声 を奪 われてきた4

Boubeker 2003: 24

) 。強 固 な客 体 化 ・ 周 縁 化 の構 造 のなかにあって、旧 植 民 地 出 身 移 民 ( の子 孫 ) は、これまでも様 々な集 合 行 為 や日 常 的 抵 抗 を通 して、奪 われた〈 声 〉 を取 り戻 すこと、すなわち他 者 に代 弁 されることも命 令 さ れることもなく自 らの視 点 と言 葉 で発 言 することを試 みてきた。

本 稿 は、こうした旧 植 民 地 出 身 移 民 とその子 孫 による集 合 行 為 や抵 抗 に関 して、人 種 ・ 階 級 関 係 と連 動 するジェンダー関 係 の抑 圧 にも直 面 する旧 植 民 地 出 身 移 民 の女 性 たちに着 目 する。旧 植 民 地 出 身 移 民 の女 性 、そしてその子 孫 にあたるマイノリティ女 性 た ちは、男 性 の支 配 下 に置 かれた「 弱 い者 、従 順 な被 害 者 、学 歴 がなく、社 会 の周 縁 に生 き る 者 」 (

Collectif 2013: 200

) と い う 本 質 化 さ れ た 他 者 性 の イ メ ー ジ を 押 し 付 け ら れ

Guénif-Souilamas 2000

) 、自 らや社 会 について語 る可 能 性 から一 層 疎 外 されてきた。フ ェミニズムとも連 関 する「 女 性 」 としての社 会 経 験 に根 ざした抵 抗 は、とりわけ人 種 とジェン ダーという支 配 関 係 の交 差 性 のもとで、ポストコロニアルなフランス社 会 を生 きるマイノリティ

1 フランスは 19 世 紀 以 来 、産 業 革 命 で不 足 する労 働 力 を補 うため多 くの移 民 を欧 州 諸 国 から受 け入 れてきた。戦 後 の移 民 は、当 時 まだ植 民 地 だったアルジェリアを筆 頭 に、非 西 洋 諸 国 からの非 白 人 移 民 の受 け入 れという点 において歴 史 的 な転 換 を意 味 した。

2 大 衆 地 区 (quartiers populaires) は、庶 民 階 級 ないし労 働 者 階 級 (classe populaire) のなかでも、も っとも質 素 な暮 らしぶりをする人 々で構 成 されているという点 で社 会 的 に均 質 な社 会 空 間 を成 す( 村 2019) 。大 衆 地 区 に暮 らす人 々が、愛 着 やアイデンティティの拠 り所 などの意 味 を populaires とい う言 葉 に込 め使 う場 合 もある一 方 で、 メディアや政 治 家 が「 郊 外 (banlieues) 」 という言 葉 の否 定 的 な イメージを払 拭 する婉 曲 表 現 として用 いる場 合 もある。

3 階 級 、言 語 、国 籍 、人 種 、都 市 中 心 部 と郊 外 という地 理 的 関 係 性 など。

4 Boubeker2003) はune voix étouffée という表 現 を使 っており、これは「 ( 発 そうとしても発 せないよう に) 押 しつぶされた声 」 を意 味 するが、この表 現 のなかには言 語 ・ 文 化 ・ 記 憶 の剥 奪 も含 まれていると いう観 点 から、「 奪 われた声 」 と意 訳 した。

の女 性 たちに困 難 な対 応 を迫 る5。特 に問 題 となるのは、移 民 女 性 ・ マイノリティ女 性 が家 父 長 制 やセクシズムについて発 言 することや「 フェミニスト」 として活 動 することが、彼 女 たち の父 や兄 弟 である移 民 男 性 ・ マイノリティ男 性 の他 者 化 を促 進 し、彼 らに対 する「 道 徳 的 レイシズム(

racisme vertueux

6」 (

Guénif-Souilamas & Macé 2004: 97

) に根 拠 を与 えてし まうことだ。逆 に、スカーフをかぶる女 性 ・ 少 女 や「 伝 統 的 」 衣 装 を着 る女 性 は、移 民 男 性 ・ マイノリティ男 性 とその「 後 進 的 」 な文 化 ・ 社 会 の被 害 者 ・ 共 犯 者 として本 質 化 され、フラン ス社 会 に「 統 合 」 していないと非 難 される(

Guénif-Souilamas 2000

) 。こうした制 約 ・ 条 件 の もとで〈 声 〉 を取 り戻 す営 みは、どのような可 能 性 / 不 可 能 性 を提 起 するのだろうか。

本 稿 では、パリ郊 外 の大 衆 地 区 で活 動 する女 性 グループでの調 査 をもとに、旧 植 民 地 出 身 移 民 ( の子 孫 ) の女 性 たちによる集 合 的 な文 化 ・ 芸 術 実 践 を考 察 する。より具 体 的 には、

2009

年 から

2013

年 にかけて女 性 グループが制 作 した演 劇 作 品 に着 目 し、作 品 の 意 義 と政 治 性 、制 作 主 体 を成 した組 織 やその集 合 行 為 の特 性 、制 作 プロセスと作 品 それ 自 体 における言 語 実 践 を分 析 することで、女 性 たちが言 語 や文 化 の主 体 としての意 識 を 取 り 戻 し 、 社 会 に 語 り か け る 〈 声 〉 を 獲 得 す る た め の 具 体 的 な 場 と 戦 術 (

De Certeau 1980=2021

) を明 らかにする。

2.

奪 われた〈 声 〉 の重 層 性 ・ 複 数 性 ――独 立 性 の問 題

他 者 に代 弁 されることも命 令 されることもなく自 らの視 点 と言 葉 で発 言 することは、フラ ンスの旧 植 民 地 出 身 移 民 とその子 孫 の集 合 行 為 における、一 貫 した争 点 として指 摘 され ている(

Hajjat 2015

) 。

1960-70

年 代 の移 民 労 働 者 たち、

1980-90

年 代 の旧 植 民 地 出 身 移 民 の新 たな「 世 代7」 の運 動 家 たち、

1990-2000

年 代 のイスラーム教 徒 、黒 人 、サン・ パピ エ、マイノリティ女 性 の運 動 家 、

2010

年 代 のイスラーム・ フェミニストやアフロフェミニストまで

8、旧 植 民 地 出 身 移 民 とその子 孫 が組 織 した各 時 代 の主 要 な社 会 運 動 や日 常 的 な抵 抗 において、組 織 化 ・ 集 合 行 為 ・ 発 言 に関 して独 立 性 を確 保 し、他 者 ( とりわけマジョリティ)

と対 等 な立 場 を確 立 すること、すなわち「 政 治 的 独 立 性 (

autonomie politique

) 」 の獲 得 は 重 要 な争 点 であり続 けてきた(

ibid.

) 。

すでに、

1960-80

年 代 の移 民 労 働 者 たちは、既 存 の労 働 組 合 との回 路 を構 築 し労

5 「 スカーフ」 については1980年 代 後 半 に社 会 問 題 化 したが、人 種 ・ ジェンダーの交 錯 した抑 圧 構 造 は、移 民 女 性 ・ マイノリティ女 性 にとって新 しいものではなかった。1980 年 前 後 にリヨンで活 動 した旧 植 民 地 出 身 移 民 の子 孫 である女 性 たちの団 体 、Zaâma d’Banlieue に関 する研 究 において、移 民 とその 子 孫 が人 種 関 係 において共 通 して経 験 する抑 圧 と、女 性 たちがジェンダー関 係 のなかで経 験 する抑 圧 の 間 で 、二 つの 争 点 を どのよ うに 接 合 する か とい う困 難 を克 服 しよ うと する 様 相 が 報 告 され ている

Nasri 2011, 2018) 。

6 特 定 の人 種 / 民 族 集 団 の家 父 長 制 やセクシズムを糾 弾 するという手 法 において道 徳 的 な鎧 をまと ったレイシズム。特 定 の人 種 ・ 民 族 集 団 の文 化 が本 質 的 に家 父 長 的 でセクシストであると想 定 する一 方 で、自 文 化 がそれと比 較 して先 進 的 であると位 置 付 け、マイノリティを劣 等 化 する特 徴 をもつ。

7 ここでの「 世 代 」 は、フランスで生 まれた移 民 の子 供 世 代 というだけではなく、社 会 化 の過 程 で原 点 と なる社 会 的 経 験 を共 有 する個 人 の総 体 としての世 代 も意 味 する。

8 アフロフェミニストについては Larcher2017) と Mwasi2018) 、イスラーム・ フェミニストについては Ali2012) 、両 者 に共 通 する論 点 については拙 稿 ( 田 邊 2016) を参 照 のこと。

(3)

1.

問 題 関 心 ーー奪 われた〈 声 〉 を取 り戻 す

フランスは戦 後 の高 度 成 長 期 に( 旧 ) 植 民 地 から多 くの移 民 を受 け入 れた1

1970

年 代 の石 油 危 機 で新 規 移 民 の受 け入 れ停 止 を決 定 するが、このことはむしろ、すでに労 働 者 としてフランスに滞 在 していた移 民 が家 族 を呼 び寄 せ定 住 することを促 した。この時 、国 や自 治 体 の政 策 が交 錯 するなかで、多 くの移 民 が郊 外 や都 市 中 心 部 でも低 所 得 者 が集 まる地 区 の団 地 へ入 居 し、

1980

年 代 には、非 白 人 で庶 民 階 層 に属 する移 民 やその家 族 が集 住 する現 在 の大 衆 地 区 (

quartiers populaires

2の原 型 が都 市 周 辺 部 に生 まれる( 森

2015

) 。これら移 民 やその子 孫 は、脱 産 業 化 による社 会 の構 造 変 化 や、排 他 的 な教 育 ・ 社 会 制 度 のなかで、「 社 会 のあらゆる側 面 における人 種 差 別 、裕 福 な都 市 部 との教 育 格 差 、切 り詰 められる社 会 保 障 」 (

Collectif 2013: 200

) など様 々な問 題 に直 面 していく。

政 治 家 やメディア、そして研 究 者 は、こうした「 移 民 (

immigrés

) 」 、「 移 民 出 自 の若 者

jeunes issus de l’immigration

) 」 、さらに近 年 では「 移 民 女 性 (

femmes immigrées

) / ス カ ー フ 女 性 (

femmes voilées

) 」 を 集 団 とし て問 題 化 し 、 「 非 行 (

délinquence

) 」 や 「 治 安

sécurité

) 」 、 「 統 合 (

intégration

) 」 の 問 題 と し て 「 語 り の 対 象 / 客 体 (

objets-parlés

) 」

Bouamama 2013: 17

) にしてきた。他 方 で、当 事 者 の移 民 やその子 孫 たちは、日 常 的 な 経 験 の中 で自 らの置 かれた状 況 を分 析 し社 会 に訴 えようと試 みるも、絡 み合 う権 力 構 造 の もとで周 縁 化 され3、その声 を奪 われてきた4

Boubeker 2003: 24

) 。強 固 な客 体 化 ・ 周 縁 化 の構 造 のなかにあって、旧 植 民 地 出 身 移 民 ( の子 孫 ) は、これまでも様 々な集 合 行 為 や日 常 的 抵 抗 を通 して、奪 われた〈 声 〉 を取 り戻 すこと、すなわち他 者 に代 弁 されることも命 令 さ れることもなく自 らの視 点 と言 葉 で発 言 することを試 みてきた。

本 稿 は、こうした旧 植 民 地 出 身 移 民 とその子 孫 による集 合 行 為 や抵 抗 に関 して、人 種 ・ 階 級 関 係 と連 動 するジェンダー関 係 の抑 圧 にも直 面 する旧 植 民 地 出 身 移 民 の女 性 たちに着 目 する。旧 植 民 地 出 身 移 民 の女 性 、そしてその子 孫 にあたるマイノリティ女 性 た ちは、男 性 の支 配 下 に置 かれた「 弱 い者 、従 順 な被 害 者 、学 歴 がなく、社 会 の周 縁 に生 き る 者 」 (

Collectif 2013: 200

) と い う 本 質 化 さ れ た 他 者 性 の イ メ ー ジ を 押 し 付 け ら れ

Guénif-Souilamas 2000

) 、自 らや社 会 について語 る可 能 性 から一 層 疎 外 されてきた。フ ェミニズムとも連 関 する「 女 性 」 としての社 会 経 験 に根 ざした抵 抗 は、とりわけ人 種 とジェン ダーという支 配 関 係 の交 差 性 のもとで、ポストコロニアルなフランス社 会 を生 きるマイノリティ

1 フランスは 19 世 紀 以 来 、産 業 革 命 で不 足 する労 働 力 を補 うため多 くの移 民 を欧 州 諸 国 から受 け入 れてきた。戦 後 の移 民 は、当 時 まだ植 民 地 だったアルジェリアを筆 頭 に、非 西 洋 諸 国 からの非 白 人 移 民 の受 け入 れという点 において歴 史 的 な転 換 を意 味 した。

2 大 衆 地 区 (quartiers populaires) は、庶 民 階 級 ないし労 働 者 階 級 (classe populaire) のなかでも、も っとも質 素 な暮 らしぶりをする人 々で構 成 されているという点 で社 会 的 に均 質 な社 会 空 間 を成 す( 村 2019) 。大 衆 地 区 に暮 らす人 々が、愛 着 やアイデンティティの拠 り所 などの意 味 を populaires とい う言 葉 に込 め使 う場 合 もある一 方 で、 メディアや政 治 家 が「 郊 外 (banlieues) 」 という言 葉 の否 定 的 な イメージを払 拭 する婉 曲 表 現 として用 いる場 合 もある。

3 階 級 、言 語 、国 籍 、人 種 、都 市 中 心 部 と郊 外 という地 理 的 関 係 性 など。

4 Boubeker2003) はune voix étouffée という表 現 を使 っており、これは「 ( 発 そうとしても発 せないよう に) 押 しつぶされた声 」 を意 味 するが、この表 現 のなかには言 語 ・ 文 化 ・ 記 憶 の剥 奪 も含 まれていると いう観 点 から、「 奪 われた声 」 と意 訳 した。

の女 性 たちに困 難 な対 応 を迫 る5。特 に問 題 となるのは、移 民 女 性 ・ マイノリティ女 性 が家 父 長 制 やセクシズムについて発 言 することや「 フェミニスト」 として活 動 することが、彼 女 たち の父 や兄 弟 である移 民 男 性 ・ マイノリティ男 性 の他 者 化 を促 進 し、彼 らに対 する「 道 徳 的 レイシズム(

racisme vertueux

6」 (

Guénif-Souilamas & Macé 2004: 97

) に根 拠 を与 えてし まうことだ。逆 に、スカーフをかぶる女 性 ・ 少 女 や「 伝 統 的 」 衣 装 を着 る女 性 は、移 民 男 性 ・ マイノリティ男 性 とその「 後 進 的 」 な文 化 ・ 社 会 の被 害 者 ・ 共 犯 者 として本 質 化 され、フラン ス社 会 に「 統 合 」 していないと非 難 される(

Guénif-Souilamas 2000

) 。こうした制 約 ・ 条 件 の もとで〈 声 〉 を取 り戻 す営 みは、どのような可 能 性 / 不 可 能 性 を提 起 するのだろうか。

本 稿 では、パリ郊 外 の大 衆 地 区 で活 動 する女 性 グループでの調 査 をもとに、旧 植 民 地 出 身 移 民 ( の子 孫 ) の女 性 たちによる集 合 的 な文 化 ・ 芸 術 実 践 を考 察 する。より具 体 的 には、

2009

年 から

2013

年 にかけて女 性 グループが制 作 した演 劇 作 品 に着 目 し、作 品 の 意 義 と政 治 性 、制 作 主 体 を成 した組 織 やその集 合 行 為 の特 性 、制 作 プロセスと作 品 それ 自 体 における言 語 実 践 を分 析 することで、女 性 たちが言 語 や文 化 の主 体 としての意 識 を 取 り 戻 し 、 社 会 に 語 り か け る 〈 声 〉 を 獲 得 す る た め の 具 体 的 な 場 と 戦 術 (

De Certeau 1980=2021

) を明 らかにする。

2.

奪 われた〈 声 〉 の重 層 性 ・ 複 数 性 ――独 立 性 の問 題

他 者 に代 弁 されることも命 令 されることもなく自 らの視 点 と言 葉 で発 言 することは、フラ ンスの旧 植 民 地 出 身 移 民 とその子 孫 の集 合 行 為 における、一 貫 した争 点 として指 摘 され ている(

Hajjat 2015

) 。

1960-70

年 代 の移 民 労 働 者 たち、

1980-90

年 代 の旧 植 民 地 出 身 移 民 の新 たな「 世 代7」 の運 動 家 たち、

1990-2000

年 代 のイスラーム教 徒 、黒 人 、サン・ パピ エ、マイノリティ女 性 の運 動 家 、

2010

年 代 のイスラーム・ フェミニストやアフロフェミニストまで

8、旧 植 民 地 出 身 移 民 とその子 孫 が組 織 した各 時 代 の主 要 な社 会 運 動 や日 常 的 な抵 抗 において、組 織 化 ・ 集 合 行 為 ・ 発 言 に関 して独 立 性 を確 保 し、他 者 ( とりわけマジョリティ)

と対 等 な立 場 を確 立 すること、すなわち「 政 治 的 独 立 性 (

autonomie politique

) 」 の獲 得 は 重 要 な争 点 であり続 けてきた(

ibid.

) 。

すでに、

1960-80

年 代 の移 民 労 働 者 たちは、既 存 の労 働 組 合 との回 路 を構 築 し労

5 「 スカーフ」 については1980年 代 後 半 に社 会 問 題 化 したが、人 種 ・ ジェンダーの交 錯 した抑 圧 構 造 は、移 民 女 性 ・ マイノリティ女 性 にとって新 しいものではなかった。1980 年 前 後 にリヨンで活 動 した旧 植 民 地 出 身 移 民 の子 孫 である女 性 たちの団 体 、Zaâma d’Banlieue に関 する研 究 において、移 民 とその 子 孫 が人 種 関 係 において共 通 して経 験 する抑 圧 と、女 性 たちがジェンダー関 係 のなかで経 験 する抑 圧 の 間 で 、二 つの 争 点 を どのよ うに 接 合 する か とい う困 難 を克 服 しよ うと する 様 相 が 報 告 され ている

Nasri 2011, 2018) 。

6 特 定 の人 種 / 民 族 集 団 の家 父 長 制 やセクシズムを糾 弾 するという手 法 において道 徳 的 な鎧 をまと ったレイシズム。特 定 の人 種 ・ 民 族 集 団 の文 化 が本 質 的 に家 父 長 的 でセクシストであると想 定 する一 方 で、自 文 化 がそれと比 較 して先 進 的 であると位 置 付 け、マイノリティを劣 等 化 する特 徴 をもつ。

7 ここでの「 世 代 」 は、フランスで生 まれた移 民 の子 供 世 代 というだけではなく、社 会 化 の過 程 で原 点 と なる社 会 的 経 験 を共 有 する個 人 の総 体 としての世 代 も意 味 する。

8 アフロフェミニストについては Larcher2017) と Mwasi2018) 、イスラーム・ フェミニストについては Ali2012) 、両 者 に共 通 する論 点 については拙 稿 ( 田 邊 2016) を参 照 のこと。

(4)

働 運 動 のなかに場 を獲 得 しながらも、場 合 によっては独 立 した組 織 を形 成 し、フランス人 労 働 者 と同 等 の待 遇 や人 種 差 別 的 処 遇 の撤 廃 などを要 求 した( 伊 藤

1988, Hajjat 2015

) 。

1980

年 代 に端 を発 する新 たな「 世 代 」 を中 心 とした運 動 、とりわけ

1983

年 の「 平 等 と反 レ イシズムの行 進 (

Marche pour l’égalité et contre le racisme

) 」 は、かつてないメディアや政 治 家 の注 目 を集 め、最 終 局 面 では

10

万 人 を動 員 する出 来 事 へと発 展 した。しかし、警 察 による逸 脱 した取 り締 まりや人 種 主 義 殺 人 の告 発 という当 初 の動 機 にも関 わらず、行 進 と いうアクションの障 壁 の低 さや運 動 のメッセージ・ 視 点 の発 信 における曖 昧 さや柔 軟 性 の ために(

Hadj Belgacem & Nasri 2018

) 、当 初 の動 機 を満 たすための政 治 的 独 立 性 は獲 得 されなかった。参 加 者 自 身 が「 挫 折 した運 動 (

mouvement avorté

) 」 (

Bouamama 1994

) とも評 したこの運 動 は、結 果 的 に平 和 的 で非 暴 力 的 なアラブ人 の若 者 、「 ブール(

Beur

9」 に よ る 運 動 と し て 神 話 化 さ れ 、 そ の 政 治 的 な 動 機 は 忘 れ 去 ら れ た (

Hadj Belgacem &

Nasri 2018

10

1983

年 の行 進 に端 を発 したその後 の運 動 も、制 度 化 された非 当 事 者 中 心 の団 体 に よる反 レイシズム運 動 の支 配 、「 当 事 者 」 自 体 の多 様 性 と分 化 、運 動 の公 的 支 援 への依 存 などの背 景 から次 第 に弱 体 化 したが(

Hajjat 2015

) 、この運 動 が一 部 の世 代 ・ 集 団 に

「 経 験 の共 同 体 」 の効 果 を持 ち、政 治 意 識 を芽 生 えさせたという点 で、「 原 点 となる運 動

mouvement fondateur

) 」 (

Hadj Belgacem & Nasri 2018: 30

) であったこともまた指 摘 され ている。運 動 の展 開 や帰 結 を含 むプロセスそれ自 体 が、その後 の運 動 に影 響 を与 えたと いう点 で、この運 動 は転 換 点 となったと言 える(

Tanabe 2018

) 。活 動 を続 けた「 行 進 世 代 」 の運 動 家 たち、そして差 別 経 験 において他 の世 代 と「 経 験 の共 同 体 」 を構 成 する

2000

年 代 ・

2010

年 代 以 降 の若 い世 代 の運 動 家 たちは、組 織 化 ・ 集 合 行 為 ・ 発 言 における「 当 事 者 (

concerné

) 」 性 を追 求 するやり方 で(

Tanabe 2016

) 、より明 示 的 に政 治 的 独 立 性 を希 求 していることが明 らかになっている。それを象 徴 する具 体 的 な戦 略 の一 つが、「 当 事 者 の みの組 織 形 態 (

la non-mixité organisationnelle

) 」 による集 会 の開 催 や団 体 のメンバー構 成 である(

Larcher 2017: 103

) 。共 有 された抑 圧 経 験 について共 通 の声 を抽 出 するために、

一 時 的 に公 共 空 間 の外 に撤 退 することを意 味 するこの実 践 は、フランスのフェミニズム運 動 ですでに不 可 欠 な道 具 として採 用 されてきたが(

ibid.

) 、

2010

年 代 を通 して反 人 種 主 義 の文 脈 における戦 略 として急 速 に台 頭 した(

Tanabe 2016

11

当 事 者 のみで抑 圧 経 験 を共 有 するという戦 略 は、他 者 やマジョリティに支 配 されずに 組 織 ・ 集 合 行 為 ・ 発 言 の独 立 性 を確 保 する有 効 な手 段 となり得 る12。他 方 で、この戦 略 は、

9 「 アラブ人 (Arabe) 」 の逆 さ言 葉 。

10 運 動 主 体 を特 定 文 化 や特 定 世 代 と結 びつける解 釈 は、行 進 参 加 者 の多 様 性 を覆 い隠 し、その政 治 性 を覆 い隠 す効 果 を持 った。実 際 には、移 民 経 験 、世 代 、人 種 / エスニシティ・ ジェンダー・ 階 級 において多 様 な層 が参 加 していた(Hadj Belgacem & Nasri 2018) 。

11 例 えば「 アラブ人 女 性 のみの対 話 集 会 」 、「 黒 人 フェミニストのアソシエーション」 、「 クイアなアジア 人 のコレクティフ」 など。他 方 で、共 和 主 義 ・ 普 遍 主 義 のフランスにおいては、このマイノリティによる実 践 が社 会 的 に許 容 されない傾 向 が強 い。2015 年 以 降 、「 当 事 者 のみ」 を掲 げた多 くの集 会 や運 動 が、

メディアや政 治 家 による直 接 的 な非 難 や検 閲 、極 右 団 体 による攻 撃 の対 象 となってきた。

12 非 当 事 者 からの資 源 や資 本 の提 供 を妨 げたり、「 マジョリティの排 除 」 という側 面 についての反 動 的 な非 難 を引 き起 こすという点 で、独 立 性 の確 保 を逆 に毀 損 する恐 れもある。

独 立 性 のもう一 つの側 面 、すなわち「 精 神 的 独 立 性 (

autonomie mentale

) 」 (

Hajjat 2015

) を想 起 させる。精 神 的 独 立 性 とは、他 者 ( とりわけマジョリティ) から押 し付 けられた支 配 的 な 視 点 を 拒 絶 し 、 自 己 と 社 会 に つ い ての 新 た な 解 釈 枠 組 み を 確 立 す る こ とを 意 味 す る

ibid.

) 。精 神 的 独 立 性 に関 して最 も問 題 となるのは、差 別 的 ・ 抑 圧 的 な視 点 の内 面 化 と、

それに伴 う自 らの( 継 承 する) 文 化 ・ 記 憶 ・ 言 語 の否 定 である。自 らの文 化 ・ 言 語 の否 定 や それに起 因 する疎 外 は、

F.

ファノン(

1952

) が植 民 地 における原 住 民 = 黒 人 の「 劣 等 コン プレックス」 の問 題 として論 じて久 しいが(

Fanon 1952: 8

) 、ポストコロニアルなフランスを舞 台 に同 じ問 題 が提 起 されている。フランス社 会 から社 会 問 題 化 され、「 統 合 」 という命 題 を 突 きつけられた旧 植 民 地 出 身 移 民 やその子 孫 は、自 らがきちんと「 統 合 」 され、国 民 国 家 フランスにおける正 当 な存 在 であることを証 明 するために、自 分 自 身 の( 継 承 する) 文 化 ・ 記 憶 ・ 言 語 を否 定 しがちだとされる(

Guénif-Souilamas 2000: 333

) 。かれらは、「 統 合 」 命 令 への一 つの反 応 として「 自 己 へのレイシズム(

racisme contre soi

) 」 (

Guénif-Souilamas 2000 : 330

) や「 自 己 に対 する憎 悪 と類 似 する者 への憎 悪 (

haine de soi – haine des autres semblabes

13」 (

Hajjat 2004: 84-85

) を募 らせる。

自 分 自 身 や同 胞 への「 内 面 化 されたレイシズム」 (

Kendi 2019

2021: 228

) から脱 し、

独 自 の 言 葉 / 言 語 / 思 考 で 「 独 立 し た 自 己 定 義 (

independent self-definition

) 」 (

Hill Collins 2000: 107

) を行 う重 要 性 もすでに指 摘 されてきたが、その難 しさも同 時 に広 く提 起 されてきた。「 主 人 の道 具 で、主 人 の家 を解 体 することは、絶 対 にできない(

The master’s tools will never dismantle master’s house

) 」 で

A.

ロード(

Lorde 1984

) が示 したように、マ イノリティを劣 等 化 する支 配 的 な思 考 や行 為 の形 態 に留 まっていては、その劣 等 化 の支 配 からもまた抜 け出 すことができない。脱 出 の方 法 について、ロードはこう述 べている――

「 革 命 的 な変 化 を起 こすために、本 当 に焦 点 を当 てなければならないのは、わたしたちが 逃 れたいと求 める抑 圧 的 な状 況 ではなく、わたしたちの内 側 に深 く植 え付 けられた抑 圧 者 の部 分14」 (

Lorde 1984: 123

) 。支 配 から脱 出 し精 神 的 独 立 性 を獲 得 するためには、まず は自 己 の身 体 や精 神 に内 面 化 された思 考 様 式 を掘 り起 こし、その上 で新 たな思 考 と行 為 の形 態 を創 造 する必 要 がある。

より現 実 的 には、政 治 的 独 立 性 と精 神 的 独 立 性 は単 純 に区 別 することはできず、両 者 は相 互 に連 関 して一 つの独 立 性 の問 題 を成 している(

Hajjat 2015

) 。〈 声 〉 を取 り戻 すた めの抵 抗 は、それ自 体 において政 治 的 ・ 精 神 的 独 立 性 の両 方 を獲 得 する試 みであると定 義 できる。それでは、本 稿 で着 目 する現 代 フランスの旧 植 民 地 出 身 移 民 女 性 やその子 孫 であるマイノリティ女 性 たちは、様 々な制 約 と条 件 のもとで、どのようにして政 治 的 ・ 精 神 的 独 立 性 を獲 得 し、〈 声 〉 を取 り戻 すのだろうか。その抵 抗 の場 では、どのような道 具 や戦 術 が必 要 となるのだろうか。そしてとりわけ、自 らの( 継 承 する) 文 化 ・ 記 憶 ・ 言 語 を否 定 し劣 等 化 する支 配 的 な解 釈 枠 組 みから脱 する契 機 はどこにあり、新 たな思 考 と行 為 の様 式 は どのようにして創 造 されうるのだろうか。

3.

研 究 方 法 ――大 衆 地 区 の女 性 グループによる文 化 ・ 芸 術 実 践 への着 目

13 「 類 似 するもの」 とは家 族 や( 社 会 的 に同 じ人 種 ・ エスニシティに属 するとみなされる) 同 胞 をさす。

14 該 当 部 分 の訳 は虎 岩 (2016: 142) に依 拠 している。

(5)

働 運 動 のなかに場 を獲 得 しながらも、場 合 によっては独 立 した組 織 を形 成 し、フランス人 労 働 者 と同 等 の待 遇 や人 種 差 別 的 処 遇 の撤 廃 などを要 求 した( 伊 藤

1988, Hajjat 2015

) 。

1980

年 代 に端 を発 する新 たな「 世 代 」 を中 心 とした運 動 、とりわけ

1983

年 の「 平 等 と反 レ イシズムの行 進 (

Marche pour l’égalité et contre le racisme

) 」 は、かつてないメディアや政 治 家 の注 目 を集 め、最 終 局 面 では

10

万 人 を動 員 する出 来 事 へと発 展 した。しかし、警 察 による逸 脱 した取 り締 まりや人 種 主 義 殺 人 の告 発 という当 初 の動 機 にも関 わらず、行 進 と いうアクションの障 壁 の低 さや運 動 のメッセージ・ 視 点 の発 信 における曖 昧 さや柔 軟 性 の ために(

Hadj Belgacem & Nasri 2018

) 、当 初 の動 機 を満 たすための政 治 的 独 立 性 は獲 得 されなかった。参 加 者 自 身 が「 挫 折 した運 動 (

mouvement avorté

) 」 (

Bouamama 1994

) とも評 したこの運 動 は、結 果 的 に平 和 的 で非 暴 力 的 なアラブ人 の若 者 、「 ブール(

Beur

9」 に よ る 運 動 と し て 神 話 化 さ れ 、 そ の 政 治 的 な 動 機 は 忘 れ 去 ら れ た (

Hadj Belgacem &

Nasri 2018

10

1983

年 の行 進 に端 を発 したその後 の運 動 も、制 度 化 された非 当 事 者 中 心 の団 体 に よる反 レイシズム運 動 の支 配 、「 当 事 者 」 自 体 の多 様 性 と分 化 、運 動 の公 的 支 援 への依 存 などの背 景 から次 第 に弱 体 化 したが(

Hajjat 2015

) 、この運 動 が一 部 の世 代 ・ 集 団 に

「 経 験 の共 同 体 」 の効 果 を持 ち、政 治 意 識 を芽 生 えさせたという点 で、「 原 点 となる運 動

mouvement fondateur

) 」 (

Hadj Belgacem & Nasri 2018: 30

) であったこともまた指 摘 され ている。運 動 の展 開 や帰 結 を含 むプロセスそれ自 体 が、その後 の運 動 に影 響 を与 えたと いう点 で、この運 動 は転 換 点 となったと言 える(

Tanabe 2018

) 。活 動 を続 けた「 行 進 世 代 」 の運 動 家 たち、そして差 別 経 験 において他 の世 代 と「 経 験 の共 同 体 」 を構 成 する

2000

年 代 ・

2010

年 代 以 降 の若 い世 代 の運 動 家 たちは、組 織 化 ・ 集 合 行 為 ・ 発 言 における「 当 事 者 (

concerné

) 」 性 を追 求 するやり方 で(

Tanabe 2016

) 、より明 示 的 に政 治 的 独 立 性 を希 求 していることが明 らかになっている。それを象 徴 する具 体 的 な戦 略 の一 つが、「 当 事 者 の みの組 織 形 態 (

la non-mixité organisationnelle

) 」 による集 会 の開 催 や団 体 のメンバー構 成 である(

Larcher 2017: 103

) 。共 有 された抑 圧 経 験 について共 通 の声 を抽 出 するために、

一 時 的 に公 共 空 間 の外 に撤 退 することを意 味 するこの実 践 は、フランスのフェミニズム運 動 ですでに不 可 欠 な道 具 として採 用 されてきたが(

ibid.

) 、

2010

年 代 を通 して反 人 種 主 義 の文 脈 における戦 略 として急 速 に台 頭 した(

Tanabe 2016

11

当 事 者 のみで抑 圧 経 験 を共 有 するという戦 略 は、他 者 やマジョリティに支 配 されずに 組 織 ・ 集 合 行 為 ・ 発 言 の独 立 性 を確 保 する有 効 な手 段 となり得 る12。他 方 で、この戦 略 は、

9 「 アラブ人 (Arabe) 」 の逆 さ言 葉 。

10 運 動 主 体 を特 定 文 化 や特 定 世 代 と結 びつける解 釈 は、行 進 参 加 者 の多 様 性 を覆 い隠 し、その政 治 性 を覆 い隠 す効 果 を持 った。実 際 には、移 民 経 験 、世 代 、人 種 / エスニシティ・ ジェンダー・ 階 級 において多 様 な層 が参 加 していた(Hadj Belgacem & Nasri 2018) 。

11 例 えば「 アラブ人 女 性 のみの対 話 集 会 」 、「 黒 人 フェミニストのアソシエーション」 、「 クイアなアジア 人 のコレクティフ」 など。他 方 で、共 和 主 義 ・ 普 遍 主 義 のフランスにおいては、このマイノリティによる実 践 が社 会 的 に許 容 されない傾 向 が強 い。2015 年 以 降 、「 当 事 者 のみ」 を掲 げた多 くの集 会 や運 動 が、

メディアや政 治 家 による直 接 的 な非 難 や検 閲 、極 右 団 体 による攻 撃 の対 象 となってきた。

12 非 当 事 者 からの資 源 や資 本 の提 供 を妨 げたり、「 マジョリティの排 除 」 という側 面 についての反 動 的 な非 難 を引 き起 こすという点 で、独 立 性 の確 保 を逆 に毀 損 する恐 れもある。

独 立 性 のもう一 つの側 面 、すなわち「 精 神 的 独 立 性 (

autonomie mentale

) 」 (

Hajjat 2015

) を想 起 させる。精 神 的 独 立 性 とは、他 者 ( とりわけマジョリティ) から押 し付 けられた支 配 的 な 視 点 を 拒 絶 し 、 自 己 と 社 会 に つ い ての 新 た な 解 釈 枠 組 み を 確 立 す る こ とを 意 味 す る

ibid.

) 。精 神 的 独 立 性 に関 して最 も問 題 となるのは、差 別 的 ・ 抑 圧 的 な視 点 の内 面 化 と、

それに伴 う自 らの( 継 承 する) 文 化 ・ 記 憶 ・ 言 語 の否 定 である。自 らの文 化 ・ 言 語 の否 定 や それに起 因 する疎 外 は、

F.

ファノン(

1952

) が植 民 地 における原 住 民 = 黒 人 の「 劣 等 コン プレックス」 の問 題 として論 じて久 しいが(

Fanon 1952: 8

) 、ポストコロニアルなフランスを舞 台 に同 じ問 題 が提 起 されている。フランス社 会 から社 会 問 題 化 され、「 統 合 」 という命 題 を 突 きつけられた旧 植 民 地 出 身 移 民 やその子 孫 は、自 らがきちんと「 統 合 」 され、国 民 国 家 フランスにおける正 当 な存 在 であることを証 明 するために、自 分 自 身 の( 継 承 する) 文 化 ・ 記 憶 ・ 言 語 を否 定 しがちだとされる(

Guénif-Souilamas 2000: 333

) 。かれらは、「 統 合 」 命 令 への一 つの反 応 として「 自 己 へのレイシズム(

racisme contre soi

) 」 (

Guénif-Souilamas 2000 : 330

) や「 自 己 に対 する憎 悪 と類 似 する者 への憎 悪 (

haine de soi – haine des autres semblabes

13」 (

Hajjat 2004: 84-85

) を募 らせる。

自 分 自 身 や同 胞 への「 内 面 化 されたレイシズム」 (

Kendi 2019

2021: 228

) から脱 し、

独 自 の 言 葉 / 言 語 / 思 考 で 「 独 立 し た 自 己 定 義 (

independent self-definition

) 」 (

Hill Collins 2000: 107

) を行 う重 要 性 もすでに指 摘 されてきたが、その難 しさも同 時 に広 く提 起 されてきた。「 主 人 の道 具 で、主 人 の家 を解 体 することは、絶 対 にできない(

The master’s tools will never dismantle master’s house

) 」 で

A.

ロード(

Lorde 1984

) が示 したように、マ イノリティを劣 等 化 する支 配 的 な思 考 や行 為 の形 態 に留 まっていては、その劣 等 化 の支 配 からもまた抜 け出 すことができない。脱 出 の方 法 について、ロードはこう述 べている――

「 革 命 的 な変 化 を起 こすために、本 当 に焦 点 を当 てなければならないのは、わたしたちが 逃 れたいと求 める抑 圧 的 な状 況 ではなく、わたしたちの内 側 に深 く植 え付 けられた抑 圧 者 の部 分14」 (

Lorde 1984: 123

) 。支 配 から脱 出 し精 神 的 独 立 性 を獲 得 するためには、まず は自 己 の身 体 や精 神 に内 面 化 された思 考 様 式 を掘 り起 こし、その上 で新 たな思 考 と行 為 の形 態 を創 造 する必 要 がある。

より現 実 的 には、政 治 的 独 立 性 と精 神 的 独 立 性 は単 純 に区 別 することはできず、両 者 は相 互 に連 関 して一 つの独 立 性 の問 題 を成 している(

Hajjat 2015

) 。〈 声 〉 を取 り戻 すた めの抵 抗 は、それ自 体 において政 治 的 ・ 精 神 的 独 立 性 の両 方 を獲 得 する試 みであると定 義 できる。それでは、本 稿 で着 目 する現 代 フランスの旧 植 民 地 出 身 移 民 女 性 やその子 孫 であるマイノリティ女 性 たちは、様 々な制 約 と条 件 のもとで、どのようにして政 治 的 ・ 精 神 的 独 立 性 を獲 得 し、〈 声 〉 を取 り戻 すのだろうか。その抵 抗 の場 では、どのような道 具 や戦 術 が必 要 となるのだろうか。そしてとりわけ、自 らの( 継 承 する) 文 化 ・ 記 憶 ・ 言 語 を否 定 し劣 等 化 する支 配 的 な解 釈 枠 組 みから脱 する契 機 はどこにあり、新 たな思 考 と行 為 の様 式 は どのようにして創 造 されうるのだろうか。

3.

研 究 方 法 ――大 衆 地 区 の女 性 グループによる文 化 ・ 芸 術 実 践 への着 目

13 「 類 似 するもの」 とは家 族 や( 社 会 的 に同 じ人 種 ・ エスニシティに属 するとみなされる) 同 胞 をさす。

14 該 当 部 分 の訳 は虎 岩 (2016: 142) に依 拠 している。

(6)

上 記 の 問 い に 答 え る た め 、 本 稿 で は 、 パ リ 郊 外 ・ 北 東 部 の ブ ラ ン = メ ニ ル (

Blanc- Mesnil

15市 内 のなかでも、とりわけ庶 民 階 級 (

classe populaire

) が多 く居 住 するティヨル

Tilleuls

) 地 区 で、

2002

年 前 後 から活 動 する女 性 グループを対 象 に行 った調 査 の結 果 を 用 いる。ブラン= メニル市 はパリ市 内 から鉄 道 で

30

分 ほどの距 離 に南 北 に広 がるセーヌ

=

サン

=

ドゥニ(

Seine-Saint-Denis

) 県 内 の自 治 体 である。市 内 の外 国 人 人 口 、貧 困 率 、失 業 率 は国 平 均 より高 い。ティヨル地 区 は、最 寄 駅 からさらにバスで

15

分 ( もしくは徒 歩 で

35

分 ) ほどの距 離 の、ブラン= メニル市 北 部 に位 置 する。市 内 は高 層 ・ 低 層 団 地 が立 ち並 ぶ 大 衆 地 区 と、一 軒 家 が立 ち並 ぶ( 下 位 ) 中 産 階 級 の地 区 に分 かれ、ティヨル地 区 は前 者 にあたる。近 年 は老 朽 化 した団 地 を取 り壊 しての再 開 発 が計 画 され、郊 外 にまで浸 透 する 都 市 部 ジェントリフィケーションの最 先 端 にある。ティヨル地 区 の中 心 部 に位 置 し、四 方 を 団 地 に囲 まれた商 店 街 は

1990

年 代 までに近 隣 に進 出 した大 規 模 スーパーの影 響 で次 第 に衰 退 し、現 在 では、唯 一 小 さな食 料 品 店 ・ 肉 屋 ・ パン屋 ・ 薬 局 ・ ピザ屋 が残 るのみとな った。半 分 以 上 の店 はシャッターが下 りた状 態 で、学 校 離 れし失 業 中 の若 者 が入 り浸 る16

2005

年 の全 国 的 な「 暴 動 (

émeutes

17」 では、この商 店 街 を含 めティヨル地 区 内 の複 数 箇 所 が放 火 された(

Hadj Belgacem 2015

) 。

調 査 対 象 とした女 性 グループは、同 商 店 街 と隣 接 する社 会 センターで

2002

年 から 開 かれた料 理 教 室 を起 点 に結 成 された。それ以 降 、様 々なプロジェクトの立 ち上 げを契 機 にメンバーが加 わるなか、自 治 体 レベルでの政 権 交 代 を契 機 に徐 々に活 動 休 止 に追 い込 まれる

2016

年 まで18、常 に

10

30

名 ほどのメンバーが集 ってきた。国 籍 と人 種 ・ エスニシ ティの側 面 から見 た場 合 、メンバーの半 数 はアルジェリア・ カビル地 方 出 身 女 性 やその子

15 社 会 調 査 においては、調 査 地 や調 査 協 力 者 を匿 名 化 することがその倫 理 規 範 とされてきた。しか し本 稿 では、地 名 をそのままに用 いた。また、本 人 が同 意 / 希 望 した場 合 には姓 を除 いた本 名 を記 し ている。研 究 者 である私 が、調 査 協 力 者 の居 住 地 や氏 名 を本 人 の意 思 に関 わらず匿 名 化 することは、

彼 ら/ 彼 女 らをその言 葉 や解 釈 の主 体 としてではなく、客 体 としてしまう暴 力 的 な行 為 になりかねない。

そして何 より、調 査 対 象 者 たち自 身 が、自 分 たちの土 地 や言 葉 に所 有 権 をもつ主 体 として参 照 される ことを望 むことから、こうした選 択 に至 った。他 方 で、すでにグループから退 いたメンバーや、病 気 や高 齢 化 により、直 接 話 をすることが不 可 能 となったメンバーについては、確 認 がとれないことから匿 名 化 することとした。匿 名 化 による当 事 者 の語 りの簒 奪 の問 題 については、石 原 (2013) も参 照 した。

16 1999 年 の国 勢 調 査 からは、ブラン=メニル市 における若 年 層 (15-24歳 ) の失 業 率 が 27.6% にも達 していることが示 されている(Hadj Belgacem 2015: 192) 。ティヨル地 区 に限 った若 年 層 の失 業 率 統 計 は手 元 にないが、低 所 得 者 が居 住 する団 地 の割 合 からさらに高 いと思 われる。

17 2005 11 月 末 から12月 初 めにかけて、ブラン=メニル市 と隣 接 する自 治 体 、オルネー=スー=ボワ 市 内 で 2 人 の少 年 が警 察 の職 務 質 問 を逃 れようと変 電 所 に紛 れ込 み感 電 死 した事 件 をきっかけに、

フランス全 土 の大 衆 地 区 で車 や施 設 が燃 やされた。メディアや社 会 科 学 において支 配 的 なのは「 暴 動 」 という用 語 だが、運 動 家 や研 究 者 の間 には、警 察 による郊 外 の若 者 の殺 傷 事 件 をきっかけに発 生 する「 暴 動 」 のサイクルに、レイシズムへの怒 りなどの政 治 的 メッセージの含 意 を読 み取 り「 暴 動 」 より も「 反 乱 (révoltes) 」 を使 う立 場 も存 在 する。

18 ブラン= メニル市 は、労 働 者 階 級 が歴 史 的 に居 住 してきたパリ郊 外 のセーヌ=サン=ドゥニ(Seine- Saint-Denis) 県 の多 くの自 治 体 と並 び、1935年 から約 80年 にわたり共 産 党 政 権 の自 治 体 だったが、

2014 年 の地 方 選 挙 で右 派 自 治 体 へと転 換 した。新 市 長 となった Thierry Meignen は共 産 党 政 権 の 遺 産 を除 去 することに熱 心 で、前 市 長 の支 援 を受 けてきた女 性 グループはその標 的 の一 つとして、活 動 の場 ・ 資 金 ・ 人 的 資 本 をことごとく奪 われた(Tanabe 2019) 。

孫 が占 め、その他 のマグレブ地 方 出 身 者 、セネガル出 身 者 、トルコ出 身 者 、そしてポルト ガルを含 む欧 州 出 身 の白 人 が複 数 名 含 まれる。世 代 という観 点 から見 れば、

2

つの異 なる 集 団 を見 出 すことができ、それらは地 理 的 ・ 階 級 的 な特 徴 とも呼 応 している。料 理 教 室 に 集 うなかでグループを構 成 する核 となった

60

代 〜

70

代 の女 性 たちは、専 業 主 婦 として子 どもの教 育 を通 してそれ以 前 にローカルなネットワークを形 成 していた。

40

50

代 の女 性 たちは、その多 くが社 会 運 動 の経 験 と職 業 ( 地 域 のソーシャル・ ワーカー、写 真 家 、ジャー ナリスト、劇 作 家 、社 会 学 者 ) を持 つかたわらで、次 第 にグループに参 加 するようになった。

前 者 の世 代 においては、ティヨル地 区 に住 む者 が多 いが、後 者 の世 代 にはブラン= メニル 市 外 ( 特 にパリ市 内 ) からの参 加 者 が半 数 ほど含 まれる。また、前 者 の女 性 たちが就 学 歴 がない/ 短 い者 が多 いのに対 して、後 者 の女 性 たちは最 低 でも中 学 卒 業 資 格 を持 ち就 業 経 験 があることから、階 級 的 に上 位 に位 置 する。

このように民 族 ( 人 種 ) ・ 階 級 ・ 世 代 ・ 就 学 歴 ・ 職 歴 における多 様 性 を抱 えながら、女 性 グループは、

2002

年 から

2016

年 までの間 にほぼ途 切 れることなく多 様 な文 化 ・ 芸 術 的 なプロジェクトを創 り上 げ、発 信 してきた。筆 者 は、主 に

2012

10

月 から

2016

6

月 に か け て 女 性 グ ル ー プ へ の 参 与 観 察 ・ 資 料 収 集 ・ イ ン フ ォ ー マ ル な イ ン タ ヴ ュ ー を 行 い 、

2014

6

月 から

2019

4

月 にかけてフォーマルなインタヴューを行 った19。調 査 開 始 か らフォーマルなインタヴューに到 るまでに

1

年 半 以 上 を要 したことは、女 性 グループにおけ る「 言 葉 (

paroles

) 」 の政 治 性 と、政 治 的 独 立 性 の希 求 を映 し出 していた20。女 性 たちが集 合 的 に活 動 するきっかけは、上 述 のように、ティヨル地 区 の社 会 センターで提 供 された料 理 教 室 だった。しかし実 際 のところ、彼 女 たちは、料 理 をするためというよりも、他 の女 性 た ちと会 話 し、「 言 葉 を発 する/ 発 言 する(

prendre la parole

) 」 ために来 ていた。その帰 結 と して、彼 女 たちの活 動 は料 理 教 室 にとどまらず、レシピ集 の制 作 (

2002

年 ) 、集 まって会 話 をするための「 お茶 会 (

salon de thé

) 」 (

2002

年 〜) 、作 家 を招 いて一 緒 に詩 作 をする企 画

2003

年 ) 、プロの写 真 家 とともに創 る写 真 展 の企 画 (

2003

年 、

2004

年 ) 、新 聞 への公 開 書 簡 (

2006

年 ) 、ローカル新 聞 の発 行 (

2006-2011

年 ) 、そして複 数 の演 劇 作 品 の制 作 ・ 出 演 (

2008

年 、

2013

年 、

2018

年 〜) へと広 がっていった。これらの文 化 ・ 芸 術 的 プロジェ クトで扱 われる主 題 は極 めて幅 広 く、大 衆 地 区 における貧 困 、教 育 ・ 雇 用 ・ 住 居 における 差 別 、家 父 長 制 、レイシズム、警 察 による暴 力 、民 主 主 義 、移 民 政 策 や移 民 史 など多 岐 にわたる。

本 稿 では、これらのプロジェクトの中 から、女 性 グループがプロの脚 本 家 兼 演 出 家 、 社 会 学 者 、ジャーナリスト、ソーシャル・ ワーカーらと共 同 で、

2009

年 から

2013

年 にかけて 制 作 ・ 演 出 ・ 出 演 した演 劇 作 品 、『 そして、我 々はフランスのズボンを履 いた・ ・ ・ 』 を主 な分 析 対 象 とする。この作 品 は、アルジェリア・ カビル地 方 出 身 で自 らもフランスに移 住 した社

19 資 料 収 集 については 2019年 まで継 続 的 に行 った。また、2016年 以 降 は機 会 が減 ったとはいえ、

参 与 観 察 も断 続 的 に継 続 した。

20 筆 者 は、女 性 グループの潜 在 的 な参 加 者 ないし協 力 者 とみなされながらも、彼 女 たちの「 言 葉 」 に アクセスできないでいた。というのも、インタヴューの申 し込 みは、絶 え間 なくはぐらかされ、延 期 され、土 壇 場 の「 問 題 」 によって阻 まれたからだ。この困 難 な調 査 経 験 自 体 が重 要 なデータになると判 明 したの は、調 査 を始 めてだいぶ時 間 がたってからだった。

(7)

上 記 の 問 い に 答 え る た め 、 本 稿 で は 、 パ リ 郊 外 ・ 北 東 部 の ブ ラ ン = メ ニ ル (

Blanc- Mesnil

15市 内 のなかでも、とりわけ庶 民 階 級 (

classe populaire

) が多 く居 住 するティヨル

Tilleuls

) 地 区 で、

2002

年 前 後 から活 動 する女 性 グループを対 象 に行 った調 査 の結 果 を 用 いる。ブラン= メニル市 はパリ市 内 から鉄 道 で

30

分 ほどの距 離 に南 北 に広 がるセーヌ

=

サン

=

ドゥニ(

Seine-Saint-Denis

) 県 内 の自 治 体 である。市 内 の外 国 人 人 口 、貧 困 率 、失 業 率 は国 平 均 より高 い。ティヨル地 区 は、最 寄 駅 からさらにバスで

15

分 ( もしくは徒 歩 で

35

分 ) ほどの距 離 の、ブラン= メニル市 北 部 に位 置 する。市 内 は高 層 ・ 低 層 団 地 が立 ち並 ぶ 大 衆 地 区 と、一 軒 家 が立 ち並 ぶ( 下 位 ) 中 産 階 級 の地 区 に分 かれ、ティヨル地 区 は前 者 にあたる。近 年 は老 朽 化 した団 地 を取 り壊 しての再 開 発 が計 画 され、郊 外 にまで浸 透 する 都 市 部 ジェントリフィケーションの最 先 端 にある。ティヨル地 区 の中 心 部 に位 置 し、四 方 を 団 地 に囲 まれた商 店 街 は

1990

年 代 までに近 隣 に進 出 した大 規 模 スーパーの影 響 で次 第 に衰 退 し、現 在 では、唯 一 小 さな食 料 品 店 ・ 肉 屋 ・ パン屋 ・ 薬 局 ・ ピザ屋 が残 るのみとな った。半 分 以 上 の店 はシャッターが下 りた状 態 で、学 校 離 れし失 業 中 の若 者 が入 り浸 る16

2005

年 の全 国 的 な「 暴 動 (

émeutes

17」 では、この商 店 街 を含 めティヨル地 区 内 の複 数 箇 所 が放 火 された(

Hadj Belgacem 2015

) 。

調 査 対 象 とした女 性 グループは、同 商 店 街 と隣 接 する社 会 センターで

2002

年 から 開 かれた料 理 教 室 を起 点 に結 成 された。それ以 降 、様 々なプロジェクトの立 ち上 げを契 機 にメンバーが加 わるなか、自 治 体 レベルでの政 権 交 代 を契 機 に徐 々に活 動 休 止 に追 い込 まれる

2016

年 まで18、常 に

10

30

名 ほどのメンバーが集 ってきた。国 籍 と人 種 ・ エスニシ ティの側 面 から見 た場 合 、メンバーの半 数 はアルジェリア・ カビル地 方 出 身 女 性 やその子

15 社 会 調 査 においては、調 査 地 や調 査 協 力 者 を匿 名 化 することがその倫 理 規 範 とされてきた。しか し本 稿 では、地 名 をそのままに用 いた。また、本 人 が同 意 / 希 望 した場 合 には姓 を除 いた本 名 を記 し ている。研 究 者 である私 が、調 査 協 力 者 の居 住 地 や氏 名 を本 人 の意 思 に関 わらず匿 名 化 することは、

彼 ら/ 彼 女 らをその言 葉 や解 釈 の主 体 としてではなく、客 体 としてしまう暴 力 的 な行 為 になりかねない。

そして何 より、調 査 対 象 者 たち自 身 が、自 分 たちの土 地 や言 葉 に所 有 権 をもつ主 体 として参 照 される ことを望 むことから、こうした選 択 に至 った。他 方 で、すでにグループから退 いたメンバーや、病 気 や高 齢 化 により、直 接 話 をすることが不 可 能 となったメンバーについては、確 認 がとれないことから匿 名 化 することとした。匿 名 化 による当 事 者 の語 りの簒 奪 の問 題 については、石 原 (2013) も参 照 した。

16 1999 年 の国 勢 調 査 からは、ブラン=メニル市 における若 年 層 (15-24歳 ) の失 業 率 が 27.6% にも達 していることが示 されている(Hadj Belgacem 2015: 192) 。ティヨル地 区 に限 った若 年 層 の失 業 率 統 計 は手 元 にないが、低 所 得 者 が居 住 する団 地 の割 合 からさらに高 いと思 われる。

17 2005 11 月 末 から12月 初 めにかけて、ブラン=メニル市 と隣 接 する自 治 体 、オルネー=スー=ボワ 市 内 で 2 人 の少 年 が警 察 の職 務 質 問 を逃 れようと変 電 所 に紛 れ込 み感 電 死 した事 件 をきっかけに、

フランス全 土 の大 衆 地 区 で車 や施 設 が燃 やされた。メディアや社 会 科 学 において支 配 的 なのは「 暴 動 」 という用 語 だが、運 動 家 や研 究 者 の間 には、警 察 による郊 外 の若 者 の殺 傷 事 件 をきっかけに発 生 する「 暴 動 」 のサイクルに、レイシズムへの怒 りなどの政 治 的 メッセージの含 意 を読 み取 り「 暴 動 」 より も「 反 乱 (révoltes) 」 を使 う立 場 も存 在 する。

18 ブラン= メニル市 は、労 働 者 階 級 が歴 史 的 に居 住 してきたパリ郊 外 のセーヌ=サン=ドゥニ(Seine- Saint-Denis) 県 の多 くの自 治 体 と並 び、1935年 から約 80年 にわたり共 産 党 政 権 の自 治 体 だったが、

2014 年 の地 方 選 挙 で右 派 自 治 体 へと転 換 した。新 市 長 となった Thierry Meignen は共 産 党 政 権 の 遺 産 を除 去 することに熱 心 で、前 市 長 の支 援 を受 けてきた女 性 グループはその標 的 の一 つとして、活 動 の場 ・ 資 金 ・ 人 的 資 本 をことごとく奪 われた(Tanabe 2019) 。

孫 が占 め、その他 のマグレブ地 方 出 身 者 、セネガル出 身 者 、トルコ出 身 者 、そしてポルト ガルを含 む欧 州 出 身 の白 人 が複 数 名 含 まれる。世 代 という観 点 から見 れば、

2

つの異 なる 集 団 を見 出 すことができ、それらは地 理 的 ・ 階 級 的 な特 徴 とも呼 応 している。料 理 教 室 に 集 うなかでグループを構 成 する核 となった

60

代 〜

70

代 の女 性 たちは、専 業 主 婦 として子 どもの教 育 を通 してそれ以 前 にローカルなネットワークを形 成 していた。

40

50

代 の女 性 たちは、その多 くが社 会 運 動 の経 験 と職 業 ( 地 域 のソーシャル・ ワーカー、写 真 家 、ジャー ナリスト、劇 作 家 、社 会 学 者 ) を持 つかたわらで、次 第 にグループに参 加 するようになった。

前 者 の世 代 においては、ティヨル地 区 に住 む者 が多 いが、後 者 の世 代 にはブラン= メニル 市 外 ( 特 にパリ市 内 ) からの参 加 者 が半 数 ほど含 まれる。また、前 者 の女 性 たちが就 学 歴 がない/ 短 い者 が多 いのに対 して、後 者 の女 性 たちは最 低 でも中 学 卒 業 資 格 を持 ち就 業 経 験 があることから、階 級 的 に上 位 に位 置 する。

このように民 族 ( 人 種 ) ・ 階 級 ・ 世 代 ・ 就 学 歴 ・ 職 歴 における多 様 性 を抱 えながら、女 性 グループは、

2002

年 から

2016

年 までの間 にほぼ途 切 れることなく多 様 な文 化 ・ 芸 術 的 なプロジェクトを創 り上 げ、発 信 してきた。筆 者 は、主 に

2012

10

月 から

2016

6

月 に か け て 女 性 グ ル ー プ へ の 参 与 観 察 ・ 資 料 収 集 ・ イ ン フ ォ ー マ ル な イ ン タ ヴ ュ ー を 行 い 、

2014

6

月 から

2019

4

月 にかけてフォーマルなインタヴューを行 った19。調 査 開 始 か らフォーマルなインタヴューに到 るまでに

1

年 半 以 上 を要 したことは、女 性 グループにおけ る「 言 葉 (

paroles

) 」 の政 治 性 と、政 治 的 独 立 性 の希 求 を映 し出 していた20。女 性 たちが集 合 的 に活 動 するきっかけは、上 述 のように、ティヨル地 区 の社 会 センターで提 供 された料 理 教 室 だった。しかし実 際 のところ、彼 女 たちは、料 理 をするためというよりも、他 の女 性 た ちと会 話 し、「 言 葉 を発 する/ 発 言 する(

prendre la parole

) 」 ために来 ていた。その帰 結 と して、彼 女 たちの活 動 は料 理 教 室 にとどまらず、レシピ集 の制 作 (

2002

年 ) 、集 まって会 話 をするための「 お茶 会 (

salon de thé

) 」 (

2002

年 〜) 、作 家 を招 いて一 緒 に詩 作 をする企 画

2003

年 ) 、プロの写 真 家 とともに創 る写 真 展 の企 画 (

2003

年 、

2004

年 ) 、新 聞 への公 開 書 簡 (

2006

年 ) 、ローカル新 聞 の発 行 (

2006-2011

年 ) 、そして複 数 の演 劇 作 品 の制 作 ・ 出 演 (

2008

年 、

2013

年 、

2018

年 〜) へと広 がっていった。これらの文 化 ・ 芸 術 的 プロジェ クトで扱 われる主 題 は極 めて幅 広 く、大 衆 地 区 における貧 困 、教 育 ・ 雇 用 ・ 住 居 における 差 別 、家 父 長 制 、レイシズム、警 察 による暴 力 、民 主 主 義 、移 民 政 策 や移 民 史 など多 岐 にわたる。

本 稿 では、これらのプロジェクトの中 から、女 性 グループがプロの脚 本 家 兼 演 出 家 、 社 会 学 者 、ジャーナリスト、ソーシャル・ ワーカーらと共 同 で、

2009

年 から

2013

年 にかけて 制 作 ・ 演 出 ・ 出 演 した演 劇 作 品 、『 そして、我 々はフランスのズボンを履 いた・ ・ ・ 』 を主 な分 析 対 象 とする。この作 品 は、アルジェリア・ カビル地 方 出 身 で自 らもフランスに移 住 した社

19 資 料 収 集 については 2019年 まで継 続 的 に行 った。また、2016年 以 降 は機 会 が減 ったとはいえ、

参 与 観 察 も断 続 的 に継 続 した。

20 筆 者 は、女 性 グループの潜 在 的 な参 加 者 ないし協 力 者 とみなされながらも、彼 女 たちの「 言 葉 」 に アクセスできないでいた。というのも、インタヴューの申 し込 みは、絶 え間 なくはぐらかされ、延 期 され、土 壇 場 の「 問 題 」 によって阻 まれたからだ。この困 難 な調 査 経 験 自 体 が重 要 なデータになると判 明 したの は、調 査 を始 めてだいぶ時 間 がたってからだった。

参照

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