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上級学習者の英語聞き取り能力

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Academic year: 2021

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上級学習者の英語聞き取り能力

著者 乾 隆

journal or

publication title

英語英文学研究

volume 9

page range 55‑61

year 2003‑09

出版者 東京家政大学文学部英語英文学科

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009646/

(2)

上級学習者の英語聞き取り能力

乾 隆

0.はじめに

 Sumiyoshi(2003)は日本人の大学生の英語聴解能力を研究し、通常の学 習者が持つ聴解上の困難点にっいて分析している。本稿では、実証研究によ りSumiyoshiの被験者である中級程度の聴解力の特徴と、より上級の英語学 習者の聴解力の特徴を比較することにより、英語聴解力発達の過程を探り、

聴解力向上のための方略やその指導法の基礎となる考察をするものである。

 Sumiyoshi(2003)では日本人の中級の英語学習者である英文科の大学生 及び大学院生の聴解上の困難点や特徴をおよそ次の項目にまとめている。

 1)連接・縮約などによる音変化による困難点  2) 困難語には偏りがある。

   間違いの頻度の高い上位10語で間違いの総数の約30%を占める。

  上位10位の困難語はすべて機能語である。

 3)困難語と音変化

   困難語は前後の語と連結縮約などにより音変化を起こし、単独で取り   出して聞き取りの練習をしても効果はない。

 4)歯間摩擦音の困難点    ①有声と無声の区別

   ②唇歯摩擦音〔f〕と取り違える

   ③有声歯間摩擦音を破裂音の〔b〕〔d〕と聞き違える  5)閉鎖音の困難点

   ①有声音、無声音の区別

(3)

 ②閉鎖音の連続のために脱落する〔t〕

 ③弾き音化された〔t〕

6)dark〔1〕の困難点

7)名詞の複数形の接尾辞sの困難点

1.実証研究

 本実証研究の上級英語学習者の被験者として、誠におこがましいが筆者自 身を選んだ。筆者は英語を専攻し、大学生の時、一年間米国留学に留学し、

20年以上英語教師をしている。職業上ネイティブスピーカと英語で会話をす ることもある。まだまだ英語能力は未熟であると日々痛切に自覚し漸塊に耐 えないが、上記の学習背景は客観的に見て一般の人よりは恵まれていると思 われるので、上級学習者の範疇に入れることをお許しをいただきたい。

 実証研究は比較のためSumiyoshi(2003)を踏襲した。実験材料には自然 な口語英語の会話でストーリーが展開する、アメリカのテレビドラマの Beverly HillsのCD−ROM版を使って被験者の聴解力を調べた。

 具体的には、このドラマそのままのCD−ROMの台詞を聞き取って被験者 がtranscribeするのであるが、何度繰り返して聞いても良いことにした。

transcribeする際に音声を聞いても該当する語がわからない所は発音記号や、

カタカナを用いて転記して良いことにした。transcribeが終了すると台詞の 文字を見て、間違ったところを赤で修正しながら、その原因を分析し、類似 の範疇に分類していった。

2.上級英語学習者の聴解の特徴

 はじめはSumiyoshiと同じように、音素毎とか、音変化の種類毎に間違 いを分類しようとしたが、それは無意味であることがわかった。というのは 本研究の被験者の間違いとSumiyoshiの被験者の間違いには、その原因と 様態にかなりの違いがあることに気が付いたからである。

 聴解上の間違いで最も頻度の高い原因は、類推による間違いであった。こ

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れが間違いの原因の約25%にものぼった。これに次いで文頭での間違いが約 22%で特徴的であった。他に固有名詞、間投詞に関する間違いも比較的多く 見られた。

3.類推による誤り

 類推による聴解所の誤りは大きく二種類にわけられる。文法上の類推と文 脈上の類推である。

 文法上の類推は例えば次のようなものである。(下線部が誤答箇所、その 下の星印が誤答)

(1)Guy promissed me he d have it fixed by Christmas.

      ・瀧

(2) I think螺close.

      *we get

(3)You know honey, I think we better be heading back.

       *we had better

(4)1轄・alL

   *get a

(5)He is a producer director friend of my mother.

       *director, a friend

 (1)ではhe d−he hadと解釈し、次は過去分詞が来るべきと考えhadを入 れたようである。(3)はwe had betterが文法的に正用法なのでそれに引っ 張られた類推である。(5)は同格構文ととらえて後半をafriend of mineと

したのである。

 これらの誤りの特徴は、意味上違和感がなければ自分の知っている文法知 識に合わせて聞き取りをしようとする傾向を示している。

 他方、文脈的類推とは、意味的類推と言ってもよいが、前後関係の意味に

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合うように発話を聞き取ろうとする傾向である。母国語話者もそうであるが、

およそ人間は自分の持っているスキーマを活性化させて発話を聞くと言われ ている。したがって多少文法的な過ちや、発音の不明瞭さがあっても、自分 の持っている知識でそこを補いながら聞いているのである。それ故に母国語 話者ですら、たまにとんでもない勘違いや聞き違いをすることがある。その 原因はこの類推の失敗によるものである。本研究では次のような文脈上の類 推の過ちが見られた。

(6)Oh what, this place isn,t good enough for you.

  *Awater space is

(7)Come on. It s not like I m married to the girl

       *Sounds like a marriage to that

(8)No luck?

  *So what?

(9)And we stayed in this old castle.

     *we ve seen the

(10)Hey, look who I found.

     *100k,1ike them

 前後の台詞を提示してないが、以上の例では、曲がりなりにも文脈上通じ てしまう聴解結果である。(8)は全然違う文になっているが、それでも文脈 上整合性を持った解釈である。こうして考えてみると、今まで自分では、う まく会話が成立したっもりでも、このような文脈上の類推によりたまたま成 功していただけで、おそらく多くの解釈ミスがあったのかもしれない。この 結果を見ると英語を話す人間として汗顔の至りである。

4.文頭の聴き取りは間違えやすい

英語は新情報が文末に来る傾向が強い。また文頭は代名詞や間投詞で始ま

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ることが多く会話ではぞんざいな発音になり、,ほとんど聞こえないこともあ る。次の例は文頭が脱落して聞こえたり、別の表現に聞き間違えた例である。

(直線の下線部は脱落して聞こえた)

(11)工並such a big loser.

(12)△.n,.,d this is鱗}way of sweetening the deal.

        *a

(13) wwL  k  for you・

  *Look

(14)Oh, yeah. It really was.

(15)It is time for us.

  一

  *His

 文頭が間違え易い理由は上記の他に、日本人学習者は文頭からどの語もはっ きり読む傾向があること。また文頭に多い代名詞は通常弱く読まれるが、こ れも日本人は弱形を用いることなく比較的強く読むという、日頃の学習習慣 が聞き取りにも反映し、自分が普段読んでいるような強さや音調でないと聞

き取りが難しくなるのではなかろうか。

5.固有名詞、間投詞の間違い

 日本語に比べて英会話ではたえず聞き手の名前を言及する、また人名や地 名は日本人には不慣れな物が多く、聞き取り上難しいことがよくある。固有 名詞が聞き取れないことにより、隣接する語も間違えることがある。下の

(16)がその一例である。

 また間投詞は、その性格上くずれた発音になりやすいので、これも聞き取 り上難しいことがある。間投詞そのものの意味は大きくないが他の語と取り 違えたときに誤解が生じるので、やはりおろそかにはできない。次の(16)〜

(19)は間投詞を他の語と間違えた例である。

(7)

(16)Brenda, its Kelly.

  *Fredic

(17)WWHoora for Hollywood.

  *Arope

(18)麟is exp・n・i・・.

  *Any life

(19)Oh!

  wr

  *OK!

6.その他の特徴とまとめ

 以上が本研究で見られた上級者と中級者の聞き取り上の大きな違いである。

中級者ももちろん誤った類推をすることがあるし、文頭での間違い、固有名 詞や間投詞の聞き違いをするが、これらは他の間違いの中に埋没して、その 割合は上級者の場合のようには高くない。

 上級者は、中級者レベルで見られた、音素レベルの間違いは低い、また連 接や縮約などの音変化にもある程度は順応できている。同様に、Iam going to, want to, sh6uld haveなどよく使われるフレーズもほとんど間 違えない。これらは連語としてひとかたまりの音連続として身にっいている から間違えないのである。

 そして中級者と上級者の聞き取りの方略上最大の違いは、類推力の活用の 差である。本研究では上級者に類推上の間違いが多く見られたが、これはそ れだけ高い頻度で類推力を活用している証拠である。

 類推は文法と文脈の両面からなされているようであるが、とくに状況や前 後の発話から聞き手はたえず次の発話内容を予測しながら聞いているように 思われる。日本人が聴き取りに必要な類推力を高めるには、文法力を高める ことと、聞く訓練のみならず読書により語彙を増やし、多くの表現に習熟し、

英語を通して多くの知識を身にっけておくことであろう。

(8)

       参考文献

竹林滋(1996),『英語音声学』研究社.

竹林滋,斉藤弘子(1998),『英語音声学入門』大修館書店.

Blakemore,Diane(1992), Understαnding Utterαnces, Blackwell    Publishers Ltd.

Bradford, Barbara(1988), Jntonαtion in Context, Cambridge    University Press.

Brown, Gillian(1993), Listening to Sρoleen English. Longman.

Cruttenden, Alan.(2001),αm80π冶Pronunciαtion( f English, Arnold.

Ladefoged, Peter(1993), A Course In Phonetics, Harcourt Brace    Jovanovich College Publishers.

Surniyoshi, Maki(2003), A Phonetic Anαlysis(〜f Americαn  Colloquiαl

   English. A Thesis Presented to the Graduate School of Tokyo    KaSei UniverSity.

Roach, Peter(2000), English Phonetics and Phonology. Cambridge    University Press.

参照

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