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上級日本語学習者のシャドーイング練習時の内省分析

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上級日本語学習者のシャドーイング練習時の内省分析

-日本語運用能力の伸長度に基づく比較-

古本 裕美 キーワード:シャドーイング,内省,テキストマイニング

1. 問題と目的

聞こえてくる音声を,ほぼ同時に,もしくはできるだけ遅れずにそのまま 口頭再生するシャドーイング(shadowing)は,目標言語でのリスニング能力 の伸長,発音矯正,音読速度の向上,口頭運用能力の養成などを目的に,現 在,多くの外国語教育の現場で採用されている(郭, 2014; 松見・Methapisit, 2011; 望月, 2010; 迫田・松見, 2004; 迫田・Fellner, 2011; 高橋・松崎, 2007; , 2009)。とりわけ,2000 年以降は,認知的な言語処理の側面から,シャドー イングの外国語習得への効果を検討する研究が多く行われてきた。それに対 し,シャドーイングを行うことによって,学習者自身の学習意欲や自己効力 観,学習方略などにどのような影響を与えるかといった,情意的側面につい て検討した研究は少ないといえる。

情意的側面を扱った先行研究には,シャドーイング練習を行った日本語学 習者に対する質問紙調査のデータを量的に分析したものと,シャドーイング 練習実施後に記録された日誌,感想文,インタビュー調査の内容を質的に分 析したものとがあり,それらの手法を通してシャドーイング遂行時に困難を 感じる言語材料の特徴や,シャドーイング練習を肯定的,または否定的に評 価する学習者の特徴を探索している(韓, 2014; , 2010a; 2010b; 唐澤, 2010;

木村, 2014; 高橋・福田・岩下・迫田, 2010)。

筆者も,授業にシャドーイングを導入する場合,教員として学習者の内省 を把握したうえで,学習支援につなげるという目的と,学習者自身に自分の 状態をモニタリングさせ,学習の方法や心理的な状態を調整させるという目 的で,授業期間中,学習者自身に内省を記録させている。ただ,そのような,

(2)

客観的にクラス全体の傾向を把握することは難しく,それらのデータを要約 する場合にも,分析者の恣意的・主観的な解釈が入り込んでしまうという危 険性がある(越中・高田・木下・安藤・高橋・田幡・岡・石澤, 2015)。そこ で,本研究では,質的なテキストデータを量的に分析する「テキストマイニ ング(1)」の手法を用い,日本語学習者が,シャドーイングの練習自体や自分 の状態に対しどのように感じているか,そして,どのようにシャドーイング 練習を行っているかについて明らかにすることとする。

また,約3か月間のシャドーイング練習期間中に,筑波日本語テスト集の

SPOT903回受験させることにより,得点の伸長度が大きい学習者と小さ

い学習者とでは,シャドーイングに対する気持ちや個人練習の方法に違いが あるかという点についても検討する。先行研究には,日本語能力が高い学習 者と低い学習者の間で,シャドーイングの効果を比較したもの(迫田・古本・

橋本・大西・坂田・松見, 2007)はあるが,実際に,シャドーイング練習を通 して日本語の運用能力が伸長した学習者とそうではない学習者の練習中の情 意面を比較した研究は,管見の限り見当たらないからである。

以上をまとめると,本研究の目的は次の2点となる。1点目は,シャドー イング練習を行った日本語学習者が,シャドーイングや自分の状態について どのように感じ,練習を行っているかについて明らかにすることである。2 点目は,その場合に,日本語運用能力の伸長度が大きかった学習者と小さか った学習者との間に,何らかの相違があるか否かについて明らかにすること である。これら2点について,シャドーイング練習期間中に得られた内省(自 由記述データ)を,テキストマイニングという手法を用いて分析し,考察を 行う。

2. 方法

2-1 調査対象者

対象者は,長崎大学国際教育リエゾン機構の2015年度前期「上級Ⅱ総合C」

という科目を履修した日本語学習者16名であった。彼らの日本語能力は,上 級レベル相当であった。そして,本科目を履修中, SPOT 90をオンラインで 3回受験するよう指示された。16名のSPOT90の平均得点を表1に示す。

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1 調査対象者のSPOT90の平均得点

測定月

(期間)

20154 (4/74/13)

20156 (6/26/8)

20157 (7/217/27) 平均値

SD

74.56 (5.03)

78.06 (4.04)

80.68 (4.56) 受験したSPOT90の満点は90

2-2 シャドーイングの実施内容と手順

日本語科目「上級Ⅱ総合C」は,90分の授業が週に2回,合わせて30

15週間)行われるものであった。そのうち,週に1回,授業始めの10分 から30分程度をシャドーイングの練習やテストに充てた。本授業の90分間 の構成を表2に,また,授業内に実施されるシャドーイング練習の手順を表 3に,それぞれ示す。

2 シャドーイング練習を行う日の授業の構成

1 シャドーイングの練習またはテスト 1030分間 2 トピック別の日本語レッスン 50分間 3 シャドーイング教材の作成(最初の9週のみ) 20分間

3 授業内でのシャドーイング練習の実施手順

1週目 1. リスニング 2. ディクテーション 3. 意味の確認 4. リピーティング

20分間

テスト日の3週間前 及び2週間前

1. リスニング 2. 意味の確認

3. パラレル・リーディング 4. コンテンツ・シャドーイング

10分間

テスト日の1週間前 1. 学習者同士でシャドーイングをチェックしあう 2. 全体でプロソディ・シャドーイング

15分間

テスト日 授業担当者の前で個別にシャドーイングを行い,

チェックとフィードバックを受ける

30分間

(4)

その科目の受講生は,毎日5分から10分程度,教室外でもシャドーイング 練習するよう指示されていた。それに加えて,図1の「練習の記録」と書か れた用紙が一人一人に配布され,練習した時間を毎日書き込むことと,シャ ドーイング練習をして感じたことや気づいたこと,すなわち内省を週末に書 き込むことが,それぞれ指示された。その内省記録用紙は,毎週,授業時に 回収され,授業担当者(筆者)がコメントを書いたうえで,学習者に返却さ れた。

1 シャドーイングの練習時間と内省を記入させる用紙(一部)

シャドーイングの練習期間を表4に示す。24週間ごとに,練習した教材 のテストが行われ,正確性,流暢性,発音の3つの観点で,毎回成績がつけ られた。なお,本科目の成績評価には,シャドーイングの練習とその成果が 35%含まれていた。具体的な評価対象は,図1に示した用紙への記述内容(計 14件分)と,シャドーイングテストでのパフォーマンス(計5回分)であっ た。

4 シャドーイングの練習期間

教材No. 1 2 3 4 5

練習開始日 47 421 519 69 630 テスト日 421 519 69 630 721 練習期間 2週間 4週間 3週間 3週間 3週間

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2-3 シャドーイング材料

5に,使用したシャドーイング教材の一覧を示す。教材の音声の長さの 平均は,2.18分(SD=.34)であった。No.1からNo.3は,「上級Ⅱ総合C」の 授業で扱ったトピックに相当するものを市販教材の中から選定し,使用した。

1回目のシャドーイング練習に使用したNo.1のみ,2種類の速度を準備し,

受講生には,自分のレベルに合わせて速度を選択するよう指示した。No.4No.5は,本科目を受講している日本語学習者が作成した教材であり,そこか ら自由に1つずつ選び,練習させた。なお,彼らは,授業の一環として,約 9週間を使い,34名のグループで日本語のシャドーイング教材を作成する よう指示されていた。その際,表6のように,彼らが作成した教材を使用す る目的と使用者が提示されていた。

5 使用したシャドーイング材料

教材 No.

発話

スタイル 教材 トピック 拍数 速度(2)

1 対話 『上級へのとびら』 4課「相談する」

会話文1と会話文2

599 239.60 285.24 2 独話 『シャドーイング日本語

を話そう・中~上級編』

Unit 8, Section 7

「結婚式 新郎のスピーチ」

706 306.96

3 対話 『シャドーイング日本語 を話そう・中~上級編』

Unit8, Section 5

「就職面接」

876 365.00

4 & 5 対話 受講生作成 「複雑な恋愛関係」 652 254.03

対話 受講生作成 「日本の選挙」 516 273.98 対話 受講生作成 「長崎の観光地」 890 370.83 対話 受講生作成 「恋人同士のけんか」 619 299.52 対話 受講生作成 「お好み焼きの作り方:長崎方言編」 504 336.00

6 No.4No.5の教材作成基準

使用目的 リスニングとスピーキングの力を伸ばすため 想定される教材使用者 (1) 「上級Ⅱ総合C」を履修しているクラスメイト

(2) 上級レベルの日本語学習者 (3) 長崎大学へ留学しに来た日本語学習者

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2-3 分析方法

16名の調査対象者が記録した内省のうち,毎週末に自由記述された部分を 分析対象とした。具体的には,図1の「感想・気づいたこと」の欄に記述さ れた内容である。平均記述件数は12.81SD=2.01)で,一番多い者で14件,

一番少ない者で6件の記述があった。記述時の言語は指定されなかったが,

すべてが日本語で書かれていた。

自由記述の内容分析には,テキストマイニング用ソフトウェア「KH Coder

Ver. 2.00c」を用いた。「KH Coder」は,語の選択にあたり恣意的となり得る

手作業を廃し,多変量解析によってデータ全体を要約・提示することと,コ ーディング規則を公開するという手順を踏むこととによって,操作化におけ る自由と,分析における客観性の両方を可能にできるフリーソフトウェアで ある(越中ほか, 2015; 樋口, 2014)。

3. 結果と考察

3-1 調査対象者全体に見られる内省の特徴

まず,調査対象者16名から得られた計205件,計626文の内省を対象に,

学習者の内省にどのような言葉が多く出現していたかについて分析を行った。

上位22位までの計27単語と,その出現回数を表7に示す。

シャドーイング練習に特徴的な「難しい」,「速い」,「スピード」という語 が,どのような文脈の中で使用されているか調べたところ,スピードが速い もの,方言が入っているもの,1つの発話が長いもの,新しいシャドーイン グ材料を練習し始めてすぐの頃を難しいと感じていることがわかった。また,

一文の発話速度だけでなく,ポーズがないものについても速いと感じていた り,授業担当者が市販教材から採用したものよりも,受講生が作成した教材 で,友人や知人といった,一般的な日本語母語話者に読み上げてもらったも のの方が,発話速度が速いと感じていたりすることがわかった。

(7)

7 16名分の内省における頻出語

順位

出現

回数 順位

出現

回数 順位

出現 回数

1 練習 75 11 自分 19 21 12

2 思う 72 12 言葉 18 21 分かる 12

3 シャドーイング 69 13 頑張る 17 22 最初 11

4 難しい 58 13 内容 17 22 少し 11

5 速い 36 13 話す 17 22 多い 11

6 聞く 35 16 16 22 部分 11

7 スピード 29 16 長い 16 22 11

8 会話 21 18 テスト 14

9 グループ 20 18 発音 14 分析に使用された総抽出語数 2,528

10 今週 19 20 簡単 13 分析に使用された異なり語数 607

3-2 日本語運用能力の伸長度による比較

日本語運用能力の伸長度の大小によって,シャドーイングに対する意識や,

自分の現在の状態に対する意識,学習方略等に違いがあるかを分析するため に,まず,4月と7月に測定したSPOT90の得点をもとに,910点上昇して いた4名を変化量大群,1~2点上昇していた3名を変化量小群とし,比較検 討することにした(図2および図3参照)。

2 変化量大群のSPOT90の得点の変化

(8)

3 変化量小群のSPOT90の得点の変化

変化量大群は,内省として書かれた自由記述データの計53件(計107文)

を分析対象にした。KH Coderを使用して単純集計を行ったところ,分析対象 になる総抽出語数は657語,分析対象になる総異なり語数248語であった。

一方,変化量小群の内省は計31件(計63文)であり,分析対象になる総抽 出語数は368語,総異なり語数は184語であった。

まず,それぞれの群に特徴的にあらわれる言葉を調べるために,KH Coder の関連語検索の機能を使用した。その結果を表8に示す。

8 各群を特徴づける語

変化量大群 変化量小群

難しい .293 思う .268

練習 .233 テスト .226

シャドーイング .228 緊張 .161

速い .214 忘れる .156

聞く .204 発音 .152

今週 .185 会話 .147

部分 .132 グループ .139

言葉 .130 言う .129

多い .113 スピード .128

長い .107 勉強 .125

数値は,Jaccardの類似性測度

(9)

4 変化量大群の内省の共起ネットワーク

(10)

さらに,KH Coderの共起ネットワークの機能を用い,各群に特徴的な語の ネットワークを視覚的に探索することを試みた。両群とも,集計単位は段落,

表出する語の数は上位45語,描画数は60に設定した。また,比較的強く結 びついている部分を検出するために,「サブグラフ検出・媒介」を選択した。

その結果を,図4と図5にそれぞれ示す。出現数の多い語ほど,大きい円と 大きいフォントサイズで表されている。また,共起関係が強いもの同士ほど,

太い実線で結ばれている。

4の中央下部に,「難しい」という語が大きな円で示されている。変化量 大群が,どのような文脈で「難しい」という語を使用しているかについて検 索したところ(表9参照),3-1で述べたのと同様に,彼らも,一文が長い部 分のシャドーイングが難しいと感じており,さらに未知語や難易度が高い単 語が含まれている場合や,文末やスクリプトの後半部分を再生する場合につ いても言及していることがわかった。

9 変化量大群が「難しい」という語を使った箇所

学習者A ・スピーチは会話文より難しい

No.1No.2のシャドーイングより今回の方が難しいと思う。特に女が話すスピードが速 いので,時にはついていけない。

・長崎弁は大変難しい。

学習者B ・文章は会話より難しい。

・いくら練習しても,長い文はやっぱり難しい。

・ディクテーションすると,難しい言葉が印象に残るので,シャドーイングしやすい。

学習者C ・意外と,聞いてすぐ話すのが難しい。そして,話す時,どのタイミングまで聞いて話せ ば良いのかが,ちょっと難しい

・話の速さ,敬語などが難しい

・後ろに行けば行くほど,ついていくのが難しい。

・後半の部分になると,ついていくのが難しい。

・やはり,一文が長く,ポーズ無しでは速いため,難しい 学習者D ・最初は長い文だと思ったので,なんとなく難しいと思った。

・今週のシャドーイングは,一番難しいと思う。スピードが速いし,分からない言葉も前 と比べて一番多いと思う。

Aグループのシャドーイングは,Bグループのシャドーイングより難しい感じがする。

話すスピードがちょっと速くて,追いつけない。

(11)

10 変化量大群が「聞く」という語を使った箇所

学習者A 聞きながらすぐに声に出せるが,促音とポーズを正しくするのは大変。そして,聞きな がら声を出すと,自分のアクセントをチェックするのが難しい。

(助詞の)「が・を・も」を聞く時,よく間違った。

学習者B ・今週から自分の声を録音してみました。最初はアクセントのチェックのためでしたが,

自分の声を聞いたら,シャドーイングをしているときに気付いていない助詞の間違いを 発見しました。

学習者C ・意外と,聞いてすぐ話すのが難しい。そして,話す時,どのタイミングまで聞いて話せ ば良いのかが,ちょっと難しい。

1週間の間,風邪のせいで声を出せず,聞くだけにしたせいか,練習がまた原点に戻った 気がする。

聞くうちに気付いたのは,「もう」という部分が,1つの文章に多くあったことだ。日本 語は意味が少しずつ違ったりするから,同じ言葉を繰り返すと,妙に合わない気がした。

4の右中央部に,「聞く」という語が大きな円で示されている。それが使 われている文脈を調べたところ,表10に示したように,単に「聞き取れない」

ことを記述しているだけでなく,聞くときに注意していることや,再生でき るようにするために何度も聞いていること,聞いて話すタイミングが難しい ということについても言及していることがわかった。

また,図4の右下部には,「気づく」,「録音」,「効果」,「内容」という単語 が同じグループで現れており,彼らには,「自分のシャドーイング音声を録音 することで,どの程度うまくできているかを確かめる」という行為,「スクリ プトを覚えてそれを産出するのでは,シャドーイングの効果はない」という 認識,「ディクテーションをし,それを何度も読んだ後シャドーイングするな ら効果的だが,音声を聞いて即時反応するのは(難しく),訓練しても上手に はできないのではないか」という疑問があることがわかった。

一方,変化量小群については,図5の右部に「テスト」,「緊張」という単 語が見られるのが特徴的である。特に,学習者Eと学習者Fは,シャドーイ ングのテストがやって来ることに対し緊張や心配をしていることや,シャド ーイングのテストを受けた時に緊張した(する)ことを頻繁に記述している。

変化量大群と比較すると,彼らは,外発的動機によって,シャドーイング練 習に取り組んでいる可能性がある。

(12)

興味深い。学習者Eと学習者Fの記述には,「ゴールデンウィークだったか らやる気がなかった。そのせいで内容を忘れた」,「最近さぼった。でも大丈 夫」,「またこの用紙を提出するのを忘れた」という記述が見られる。先述し た,彼らのテスト不安と合わせて考察すると,この2名は,自分の学習状態 についてモニタリングした後のコントロールがうまくできず,シャドーイン グ練習する時間の計画や管理がうまくできていなかった可能性がある。

変化量小群の学習者Gの内省には,学習者EFのようなテスト不安を感 じさせる表現は見つからなかった。ただし,各教材のどのような点が難しい かという記述はあったものの,それに対しどのように取り組めば,できるよ うになるかについての記述は,「集中する」と「気をつける」という浅いレベ ルのものしか見当たらなかった。このように,学習方略についての記述が豊 富ではないという点は,学習者E及びFにも共通するものである。よって,

日本語運用能力の伸長度が小さい学習者の場合,そのシャドーイング教材が 難しい,またはやり遂げられそうにないと判断した後の対処法を豊富に持ち 備えていないことが考えられる。

自ら主体的に学習に取り組むためには,自らの学習の状態を調整できるス キルが必要となってくるが,そのような学習は,「自己調整学習(self-regulated

learning)」と呼ばれる。瀬尾(2014)は,学習者が自己調整学習のサイクル

を進行させていくためには,主として,「メタ認知」,「学習方略」,「動機づけ」

3つが必要であると述べている。

本研究における3か月間のシャドーイング練習を通して,日本語運用能力 がより大きく伸びた学習者4名は,特に,「メタ認知」における「メタ認知的 モニタリング」及び「メタ認知的コントロール」,そして,「学習方略」にお ける「メタ認知的方略」及び「リソース活用方略」の点で,伸長度が小さか った3名よりも積極的に関与し,シャドーイング練習を行っていたと考えら れる(表11参照)。

まず,伸長度大群は小群よりも,シャドーイング遂行時に困難を感じる原 因について,より深く認知している。そして,自分の状態に対する評価も,

より厳しいものである。困難を感じた場合には,シャドーイング練習のやり 方を修正し,シャドーイングを一旦やめて何度も音声を聞いたり,自分の声 を録音して聞いたりすることにより,自らの状態を詳細に分析している。そ れによって,単純にコンテンツ・シャドーイングやプロソディ・シャドーイ

(13)

ングを繰り返すだけでは得られない気づきがあった。

一方,伸長度小群の内省にはそのような傾向は見られず,難しい場合は,

より集中する,気をつける,がんばることによって,シャドーイングのテス トで良い成績をおさめようとしていることがわかる。これは,植阪(2014) が述べる「非認知主義的学習観」に分類されるであろう。そのような学習観 をもつ学習者には,どうしてシャドーイング練習をしなければならないのか,

シャドーイングをするとどのような良いことがあるのかについて,うまく伝 わっていない可能性があるため,もう一度,伝える必要があっただろう。

また,伸長度大群と比較し,伸長度小群の自己評価は甘い。一般的に,シ ャドーイングは,認知的負荷が高い外国語学習法であるため,「再生できなか った」,「ついていけなかった」,「聞き取れなかった」というレベルより深い メタ認知的モニタリングを行うことが難しい可能性がある。その場合,授業 でのシャドーイング練習という特性を活かし,他の学習者と一緒にシャドー イングし,チェックし合ったり,教員が関与したりすることによって,モニ タリングの正確性を高めることができるだろう。

「学習方略」については,上述したように,伸長度大群は,積極的にメタ 認知的方略を使用している。そして,自らシャドーイングした音声を録音し,

その遂行度を確認するという,外部資源を利用する方略も持ち備えている。

調査対象者の中には,友人の日本人に自分がシャドーイングするのを聞いて もらい,自分では気づけない発声や発音の間違いを指摘してもらっている者 もおり,他者(外部)の援助を利用して練習を進めることも,シャドーイン グにおける自己調整学習には有効な方法の一つであろう。

11 学習方略の分類(瀬尾, 2014)

認知的方略 メタ認知的方略 リソース活用方略

リハーサル 精緻化 体制化 学習課題に応じた方略

理解モニタリング 自己評価 目標設定 プランニング

教訓帰納 自己説明

注意集中方略 努力管理方略 情動・動機づけ調整

学習環境の構成 他者への援助要請

外部情報の収集

(14)

4. 結論

本研究の目的は,テキストマイニングを用いて,シャドーイング練習を行 った日本語学習者の内省を分析することにより,シャドーイングに対する意 識や練習方法について明らかにすることと,それには,日本語運用能力の伸 長度によって違いが見られるかを明らかにすることの2点であった。

本研究で対象にした上級レベル相当の日本語学習者については,全体的に シャドーイング音声の速度が速いものを難しいと感じる傾向があるが,それ は特に,新しい教材を練習し始めた直後により強く感じるものであり,1 つ の発話が長く,ポーズが短いものに苦手意識をもつことが明らかになった。

また,日本語運用能力の伸長度の大小によって,シャドーイングに対する意 識や練習方法が異なることもわかった。具体的には,3か月間のシャドーイ ング練習を通して運用能力がより伸びた学習者の場合,自己調整的に学習を 進めていた。そのような学習者は,シャドーイング練習時におけるメタ認知 のレベルが深く,かつ具体的であり,運用能力の伸長が小さい学習者に比べ,

いろいろな学習方略を用いて,より計画的に練習を行うことができるといえ るであろう。

授業という形態でシャドーイングを実施することの利点は,この自己調整 的にシャドーイング練習に取組むスキルを養成できることや,他者から学ぶ 学習環境を提供できる点にある。学習者の日本語学習やシャドーイングに対 する動機づけに配慮しながら,彼らの仲間(クラスメイト)がうまくシャド ーイングができない時にどうしているかについての情報を共有し,自分のや り方と比較させる時間を設けることで,自己調整学習に必要なメタ認知能力 の育成や,様々な学習方略の習得に貢献できると考える。

謝辞

(1) 本研究の実施においては,筑波大学留学生センターが開発した TTBJ

SPOT90)を使用しました。TTBJの詳細は「http://ttbj.jp/」をご参照くだ さい。

(2) 本研究はJSPS科研費15K02643の助成を受けたものです。

(1) 「テキストマイニング」は,計量テキスト分析とも呼ばれ,計量的分析

(15)

手法を用いてテキスト型データを整理または分析し,内容分析(content analysis)を行う方法である(樋口, 2014)。

(2) シャドーイング音声の速度は,1分間に発話された拍数,MPM (Mora Per Minute) で示した。

引用文献

(1) 越中康治・高田淑子・木下英俊・安藤明伸・高橋 潔・田幡憲一・岡 正 明・石澤公明(2015)「テキストマイニングによる授業評価アンケートの 分析-共起ネットワークによる自由記述の可視化の試み-」『宮城教育大 学情報処理センター研究紀要』22, 67-74.

(2) 韓 暁(2014)「ビリーフの観点から見るシャドーイング訓練における日 本語学習者の情意面の変容-中級学習者を対象とした縦断的調査に基づ いて-」『広島大学大学院教育学研究科紀要 第二部(文化教育開発関連 領域)』63, 235-242.

(3) 樋口耕一(2014)『社会調査のための計量テキスト分析-内容分析の継承 と発展を目指して-』ナカニシヤ出版

(4) 郭 昱新(2014)「中国語を母語とする日本語学習者の日本語文プロソデ ィ・シャドーイングが特殊音素の産出改善に及ぼす効果-音韻的短期容量 とシャドーイング試行数の観点から-」『広島大学大学院教育学研究科紀 要 第二部(文化教育開発関連領域)』63, 225-233.

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シャドーイングに対するプラス意識とマイナス意識を持つ学習者の比較」

『第二言語としての日本語習得研究』13, 39-56.

(7) 唐澤麻里(2010)「シャドーイングが日本語学習者にもたらす影響-短期 練習による発音面および学習者意識の観点から-」『お茶の水女子大学人 文科学研究』6, 209-220.

(8) 木村亮子(2014)「シャドーイング練習導入期における学習者の意識の変 容-大学生・大学院生を対象とした6週間の縦断的調査から-」『アカデ

(16)

(9) 松見法男・Methapisit, T.2011)「シャドーイング練習が日本語学習者の文 章口頭再生に及ぼす影響-音読時間と発音の正確性を指標として-」『日 本教育心理学会第53回総会発表論文集』245.

(10) 望月 肇(2010)「日本の学校英語教育におけるシャドーイング実践研

究」『第二言語としての日本語習得研究』13, 71-94.

(11) 岡まゆみ・筒井通雄・近藤純子・江森祥子・花井善朗・石川 智(2009

『コンテンツとマルチメディアで学ぶ日本語 上級へのとびら』くろし お出版

(12) 斎藤仁志・深澤道子・酒井理恵子・中村雅子・吉本惠子(2010)『シャ

ドーイング日本語を話そう・中~上級編』くろしお出版

(13) 迫田久美子・松見法男(2004)「日本語指導におけるシャドーイングの

基礎的研究-『わかる』から『できる』への教室活動の試み」『2004 年 度日本語教育学会秋季大会予稿集』223-224.

(14) 迫田久美子・古本裕美・橋本優香・大西貴世子・坂田光美・松見法男(2007

「日本語指導におけるシャドーイングの有効性-学習者のレベルの違い に基づいて-」『日本教育心理学会第49回総会発表論文集』477.

(15) 迫田久美子・Fellner 宮良真理子(2011)「シャドーイングによってどの

音声的特徴が習得しやすく,どの音声的特徴が習得しにくいのか」『日本 教育心理学会第53回総会発表論文集』248.

(16) 瀬尾美紀子(2014)「学習の自己調整」市川伸一(編著)『学力と学習支

援の心理学』第4, 放送大学教育振興会, pp. 47-64.

(17) 高橋恵利子・松崎 寛(2007)「プロソディシャドーイングが日本語学

習者の発音に与える影響」『広島大学日本語教育研究』17, 73-80.

(18) 高橋恵利子・福田規子・岩下真澄・迫田久美子(2010)「上級レベル学

習者に対するシャドーイングの研究-学習者の気づきと教師の支援-」

『広島大学大学院教育学研究科紀要 第二部(文化教育開発関連領域)』 59, 299-308.

(19) 植阪友理(2014)「個別学習相談による診断と支援」市川伸一(編著)『学

力と学習支援の心理学』第5, 放送大学教育振興会, pp.65-80.

(20) 趙 菁(2009)「シャドーイング法の初級中国語教育への応用-教室に

おけるシャドーイングの実践を中心に-」『外国語教育フォーラム』3, 35-48.

(17)

(国際教育リエゾン機構准教授)

表 1  調査対象者のSPOT90 の平均得点 測定月 (期間) 2015 年 4 月 (4/7 ~ 4/13)  2015 年 6 月(6/2~6/8)  2015 年 7 月(7/21~ 7/27)  平均値 ( SD ) 74.56    (5.03)  78.06  (4.04)  80.68  (4.56)  受験した SPOT90 の満点は 90 点 2-2  シャドーイングの実施内容と手順 日本語科目「上級Ⅱ総合C」は, 90 分の授業が週に 2 回,合わせて 30 回 ( 15 週間)行われ
表 7  16 名分の内省における頻出語  順位 語 出現回数     順位 語 出現回数     順位 語 出現回数 1  練習 75    11  自分 19    21  声 12  2  思う 72    12  言葉 18    21  分かる 12  3  シャドーイング 69    13  頑張る 17    22  最初 11  4  難しい 58    13  内容 17    22  少し 11  5  速い 36    13  話す 17    22  多い 11  6  聞く 35
図 3  変化量小群の SPOT90 の得点の変化  変化量大群は,内省として書かれた自由記述データの計 53 件(計 107 文) を分析対象にした。 KH Coder を使用して単純集計を行ったところ,分析対象 になる総抽出語数は 657 語,分析対象になる総異なり語数 248 語であった。 一方,変化量小群の内省は計 31 件(計 63 文)であり,分析対象になる総抽 出語数は 368 語,総異なり語数は 184 語であった。 まず,それぞれの群に特徴的にあらわれる言葉を調べるために, KH Code
図 4  変化量大群の内省の共起ネットワーク

参照

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