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解離性体験とフラッシュバルブイベントの記憶の関 連

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解離性体験とフラッシュバルブイベントの記憶の関

著者 越智 啓太

雑誌名 東京家政大学附属臨床相談センター紀要

巻 2

ページ 15‑22

発行年 2002

出版者 東京家政大学附属臨床相談センター

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00010012/

(2)

解離性体験とフラッシュバルブイベントの記憶の関連

越智 啓太

The Relation between dissociative experience and flashbulb memory

Keita OCHI

要旨

 本研究では、解離性体験尺度(DES:Dissociative Experiences Scale)とフラッシュバルブメモリーの関係にっ いて、大阪の池田小学校における児童殺傷事件を題材に検討した。この事件の記憶はフラッシュバルブメモリーを 形成していた。しかし、解離性体験尺度のスコアは、事件のフラッシュバルブメモリーの記憶の量、鮮明さ、およ び、事件自体にっいての知識の量、リハーサルの程度のいずれの情報とも、ほとんど相関を持っていなかった。こ れは、解離性体験尺度で測定される解離傾向の個人差は、フラッシュバルブメモリー現象と独立なものである可能 性を示唆していると思われる。

キーワード フラッシュバルブメモリー,トラウマ記憶,DES,符号化

1.問題

 心的外傷を引き起こすような状況に遭遇した場 合、その体験の記憶が想起できない「心的外傷性 健忘」が生じることがあることが多くの臨床例で 報告されている(Scheflin&Brown,1996)。こ のような健忘がいかなるメカニズムで生じている のかにっいては、現在のところ明確になっていな い(Putnam,1997)。そこで、本研究では、外傷 性体験の健忘の個人差を手がかりにして、この問 題にっいてアプローチする試みについて報告した

い。

 ところで、外傷性体験の健忘の個人差と密接に 関係していると思われる現象として解離性体験

(dissociative experience)がある。これは、思考 や感情、経験が意識や記憶に統合されないため、

一時的あるいは持続的に人格の統合性が失われる 状態をさす。より具体的には、自分のいまの状態 と過去の状態についてが、非連続的であるような

心理教育学科 犯罪心理研究室

感じである。解離性体験は、健常者が体験するよ うな日常的で病理的でない程度から多重人格のよ うな病理的な状態まで存在する。この状態の個人 差を測定する尺度としては、解離性体験尺度

(Dissociative Experiences Scale)がある。これ は、Putnamの指導のもとでBernsteinによって 開発された尺度であり(Bernstein&Putnam,

1986)、「自分の体が自分のものではないように感 じられる、あるいは自分に属したものではないよ うに感じられる、というようなことがある人がい ます。あなたにはこのようなことがどのくらいあ りますか」、「自分がある場所にいるのに、そこに どのようにしてたどり着いたかわかならい、とい うようなことがある人がいます。あなたにはこの ようなことがどれくらいありますか」といった項 目について、自分がどの程度体験したことがある のかを0から100%といった数字が書かれた直線 上にチェックするものである。本邦でも、田辺肇・

小川俊樹(1992)、岡野憲一郎(1995)、梅末正裕

(2001)等が翻訳版を作成している。

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越智 啓太

 解離性体験は、外傷体験が意識内に侵入しそう になった場合、それを抑制(抑圧)することや意 識から分離することによって生じると考えられて いる。それゆえ、解離性体験傾向と、外傷性体験 の健忘には密接な関係があると思われる。実際に、

このような関係については、虐待の被害者や多重 人格の患者を対象とした研究で確かめられている。

しかしながら、これらの研究の多くは、すでに外 傷性健忘をしめしている患者にっいて、DESの スコァが高いということを示した研究であり

(van der Kolk, Dreyfuss et al.,1994等)、そ

の逆にDESのスコアが高い被験者が、外傷性健 忘を示すかを検討したものではない。そこで、本 研究では、この方向、つまり、DESのスコアに よって外傷性健忘が予測できるのかを検討するこ とを第1の目的としてみたい。

 また、外傷性体験の想起不全といった場合、も う一っ考えておかなければならないのは、この想 起不全が、記憶のどのようなフェイズで作り出さ れているのかという問題である。認知心理学的な 観点から見ると、次の3つのモデルが考えられ

る。

①この現象はもっぱら、符号化過程に影響し、外 傷的な事象をできるだけ符号化しないような方向 で現象を観察することによって生じる。このメカ ニズムで想起不全が生じているとすれば、外傷体 験をのちに想起させることはできない事になる。

②この現象はもっぱら、検索過程に影響し、一度 符号化された事象が想起されそうになるとその想 起を妨害するようなメカニズム(たとえば、抑圧)

が発動するために検索できなくなる。このメカニ ズムで想起不全が生じているとすれば、のちに何 らかの形で外傷体験の想起ができる可能性がある。

③この現象はもっぱら、保持過程に影響し、一・度 符号化された事象のうち、自己にネガティブな影

響を与える可能性のあるような情報が選択的に忘 却されてしまい、その結果、検索ができなくなる。

このメカニズムで想起不全が生じているとすれば、

忘却ののちに外傷体験を想起することは不可能に

なる。

 つまり、外傷体験の想起不全の個人差があると いった場合、それが符号化過程に起因している可 能性と、保持、検索過程に起因している可能性が あるわけである。

 本研究の第2の目的は、この点を明らかにす ることである。もし、①の仮説が正しいのだとす れば、外傷性健忘を示す被験者は、ほかの被験者 に比べて外傷性体験にっいて、はじめから(体験 直後から)報告することが少ないと思われる。こ れに対して、②、③の仮説が正しいのであれば、

はじめはほかの被験者と同様に外傷性体験を報告 するものの、一定の遅延時間には、ほかの被験者 よりも報告数が少なくなると思われる。(厳密に は、直後条件でも本実験の場合には事件発生から すでに3日たってしまっているので、はじめの報 告の時点ですでに検索や保持の効果が混入してい ると思われる。しかし、本研究はパイロット研究 であるため、この部分についての厳密さは若干犠 牲になっている。)

 さて、外傷体験の健忘を研究する場合、実際の 外傷体験を観察し、被験者の記憶の程度と各尺度 の得点、そして、被験者がそれを符号化しないの か、それとも検索しないのか、を調べればよい。

しかしながら、現実には外傷体験は個人ごとに異 なりさまざまな文脈で発生するものであるし、倫 理的な観点からもこのような体験を研究に用いる ことはできない。そこで、考えられるひとっの方 法は、国民レベルで非常にショックな出来事が生 起したときにその出来事を自分が聞いた瞬間の記 憶について調べるという方法である。この手法は、

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Brown&Kulik(1977)がケネディ大統領の暗殺 事件を素材として研究を行なったのが最初である。

彼らはこのようなショッキングな出来事に遭遇し た場合、その事件の事を知った瞬間にっいて、詳 細な出来事に至るまで鮮明に長期間保持されてい るといった現象が生じることを示し、これをフラ ッシュバルブメモリーと名付けた。この現象が興 味深いのは、その事件自身の記憶でなく、その事 件を知った瞬間という私的な出来事が保持されて いるという点である。その後、Pillemer(1984)が レーガン大統領の暗殺事件で、Neisser&Harsh

(1992)、Terr et aL(1996)がスペースシャトルコ ロンビアの爆発事故で、Conway, Anderson,

Larsen, Donnelly, McDaniel, McClelland,

Rawles,&Logie(1994)がサッチャー首相の突 然の解任で同様の研究を行っている。

 ところで、2001年6月8日午前10時15分頃 に大阪の池田小学校で刃物を持った男が学校に突 入し小学校1、2年生8名を殺害し、教師を含む 15名に重軽傷を負わせるという事件が発生し(被 害者は合計23名)、多くの人に非常に大きなショ ックをもたらした。この事件は個人の外傷的な事 件に比べれば、衝撃の度合いから見れば少ないか

もしれないが、それなりに大きな衝撃を人々に与 えたフラッシュバルブイベントであったと思われ る。本研究では、この事件を題材に用いて人々の フラッシュバルブメモリーの符号化、検索の個人 差と解離性体験尺度の成績の関係にっいて検討し ていってみたいと思う。

2.方法

被験者:女子大学生124名を被験者として実験を 行った。そのうち、DESの測定、フラッシュバ ルブメモリーの第1回調査、第2回調査のすべて の調査に参加し、解答漏れなどがない69人のデ

一タを分析に使用した。

実験日時:解離性体験尺度については、2001年5 月に実施した。この時点では、池田小学校の事件 はまだ発生していない。フラッシュバルブメモリ ーについての第1回目の質問紙は、2001年6月 11日に実施した。これは事件発生後、3日後であ る。第2回目の質問紙は、2001年10月1日に実 施した。これは、事件発生後、約4ヶ月後である。

材料:解離性体験尺度と池田小学校の事件につい てのフラッシュバルブメモリーに関する質問紙を 用いた。

解離性体験尺度(DES》:

 解離性体験尺度の特性にっいては、先に述べた 通りである。翻訳には様々なものがあるが、本実 験では、岡野憲一郎(1995)が翻訳したものを使 用した。尺度は28問の質問にっき、自分がその ような体験をした頻度を0%〜100%で判断させ るものである。この方法には数直線上の該当する 位置をチェックさせる方法もあるが、本研究では、

0から100まで10%単位で記された数字の該当す るものを○で囲ませる方法をとった。

フラッシュバルブメモリーについての質問紙:

 フラッシュバルブメモリーについての先行研究 では、事件を知った瞬間にっいて自由記述で、記 載するのが標準的な手続きである。しかし、本研 究では、採点とスコアリングを客観的に行うため、

自由記述でなく、設問にっいて解答させる形式で 実験を行った。池田小学校の事件についてのフラ ッシュバルブメモリーについては、「この事件を はじめに聞いたのは誰からでしたか?」などの 10種類の設問を使用した。また、フラッシュバ ルブメモリーの研究の問題点としては、しばしば、

比較対照となる事象のデータが存在しないという ことが指摘される。そこで本研究では、比較対照 刺激として、池田小学校の事件の当日の出来事の

(5)

越智 啓太

中で、情動喚起性が少ないと思われる事象、具体 的にはその日に最初にあった人物にっいての記憶 にっいての13問の設問を用いることにした。こ れらの質問に加えて、第1回目の調査時には、こ の事件を知った瞬間の衝撃の度合い等に関する評 定尺度や事件の内容についての知識的な側面につ いての質問(被害者は何人いたか、など)を、第 2回の調査時には、それに加えて事件発生から当 日までにその事件にっいてどの程度リハーサルを 行ったかや、その事件について話題にしたかにっ

いての自己評定を行わせた。

手続き:実験は3回に分けて集団テストとして行 われた。何れのテストも質問紙を配布し、各自の ペースで解答させた。DESは、ほかの3種類の 心理尺度(本研究の分析対象ではない)と同時に 行われ、所要時間は約10分であった。第2,3回 のフラッシュバルブメモリーの質問紙の所要時間 はそれぞれ約10分であった。いずれの調査も大 学2年生を主に対象とした心理学実験実習の授業 の中で行われた。

3.結果

池田小学校の事件はフラッシュバルブメモリーを 形成したか

 まず、池田小学校事件の記憶がフラッシュバル ブメモリーの特徴を示すかにっいて検討してみる。

 ある記憶がFBMであるかどうかについての基 準は、先行諸研究によって異なっているが、基本 的には、6種類のカノニカルカテゴリー(場所、

進行中の活動、情報提供者、自分の感情、他人の 感情、余波)と呼ばれる項目の忘却がほとんど見 られない事を基準にするケースが多い(Brown

&Kulik,1977)。本研究の結果では、事件にっ いて10問の質問を行っているが、これはこのカ ノニカルカテゴリーにほぼ対応する質問であった。

そこで、これらの質問について見てみると、

Fig.1で示されるように直後テストで平均97%の 項目に対して回答がなされ、4ヶ月後でも平均89

%の項目に反応がなされた。したがって、長期間 経過後でもカノニカルカテゴリーの多くが報告さ れるといった意味で、フラッシュバルブメモリー の特性を示しているといってよいであろう。

 ただし、本研究は、先行諸研究と異なり、自由 再生でなく、プローブ型の再生手続きをとってい たため、これらの研究と単純な比較は出来ない。

そこで、統制条件である「金曜日に最初に会った 人物」との比較でこの点を調べてみることにした。

統制条件この記憶については、13問のカノニカ ルカテゴリーに類した質問を行ったところ、

濤゜ 6

趨α4

 直後      4ヶ月後

FIG.1 FBM質問紙に対する回答率

Fig.1に示すとおり、直後テストで平均83%の項 目に反応がなされたが、4ヶ月後では回答率は61

%しか反応がなされなかった。これは、池田小学 校の事件についての質問では、カノニカルカテゴ リー質問で忘却があまり生じていないのに、統制 条件ではこれが生じていることを示している。こ れも、池田小学校の事件のフラッシュバルブメモ

リー性を示す証拠のひとつであるといえる。

 第3に、第1回目の質問紙と第2回目の質問紙

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で、回答が合致している割合(第1回目の回答と 第2回目の回答が同じである度数を質問数で割っ たもの、したがって記憶の忘却と変容双方をあわ せた指標となる)について算出してみると池田小 学校の記憶で0.57、最初に会った人の記憶で 0.37であり、大きく異なり、前者の記憶に比べ て後者の記憶が変容あるいは忘却されている率が 大きいことが示された。

 これらの3つの観点からの検討により、池田小 学校の事件の記憶は、①長期間の遅延のあとでも、

カノニカルカテゴリーにっいて報告される、②時 間経過に伴って回答数が減少しない、③時間経過 に伴って記憶が忘却、あるいは変形しにくい、と いう特性をもっていることになり、これを、フラ ッシュバルブメモリーであると考えても良いと思

われる。

解離性体験尺度の成績とフラッシュバルブメモリ ーの関連

 次に、解離性体験尺度の成績と、フラッシュバ ルブメモリーに関連する諸測度についてのピアソ ンの相関係数を算出してみた。この結果を

Table.1に示す。この結果から示されるように、

解離性体験尺度の成績は、フラッシュバルブメモ リーの符号化過程に関連する諸項目(1回目の回 答数、1回目の知識)と相関を持たなかったほか、

保持検索過程に関連する諸項目(2回目の回答数、

2回目の回答数一1回目の回答数、2回目の1回 目の解答の食い違い、知識の忘却度)、そして、1 回目、2回目それぞれのタイミングで測定した諸 尺度(事件へのショック、鮮明さの自己評定等)

とも関連をもっていなかった。

Table.1解離体験尺度と各評定値の相関 解離体験尺度 1回目のFBM回答数 0.0130

2回目のFBM回答数 0.1488

1回目の知識正答数 一〇.0106 2回目の知識正答数 0.0125 1,2回目のFBM解答の合致度 0.0832

知識の忘却度 0.0125

1回目事件の驚き評定値 一〇.0271 1回目事件のショック評定値 0.0833

1回目事件の鮮明さ評定値 一〇.2000

1回目記憶自己評定 一〇.1441 2回目事件の驚き評定値 0.0941

2回目事件のショック評定値 0.1758

2回目事件の鮮明さ評定値 一〇.0233 2回目記憶自己評定 α0747 2回目まで想起した頻度 一〇.1544 2回目まで話題にした頻度 一〇.1453 4.考察

解離性体験尺度とフラッシュバルブメモリーの関 連について

 本実験の主要な目的は、解離性尺度が心的外傷 性健忘とどのように相関しているのかをフラッシ ュバルブメモリー現象を媒介として示すことであ

った。

 まず第1の目的は、解離性体験尺度のスコアに よって心的外傷性健忘の程度が予測できるかを確 認することであった。ところが、本研究では、解 離性体験尺度は、フラッシュバルブメモリーの諸 測度とほとんど相関がないことが示され、この仮 説を検証することはできなかった。

 また、第2の目的は、心的外傷性健忘が、符号 化時に生じるのか、それとも保持一検索時に生じ

るのかを調べようとしたものであった。これは、

第1回目と第2回目の質問紙におけるフラッシュ バルブメモリー質問についての回答数に注目し、

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越智 啓太

これを分析することによって判断できる。分析の 結果、大多数の被験者が、第1回目の質問のほと んどに回答し(範囲は8〜10問、平均9.73問)、

この時点で顕著に再生数が少ない被験者はいなか った。っまり、符号化の抑制を示した被験者は存 在しなかった。これに対して、第1回目の質問紙 で高い回答数の被験者でも、第2回目の質問紙で は低い得点しか取れないケースは存在した(範囲 は、3〜10問、平均8.37問)。このようなパタ ンは、符号化仮説よりも、保持一検索仮説を支持 するものである。ちなみに、第1回目と第2回目 の回答数の相関係数はr=−0.085で、第1回目の 質問紙の回答数と、第2回目の質問紙の回答数に 相関はなく、前者から後者は予測できなかった。

 しかし、解離性体験尺度は、フラッシュバルブ メモリー諸測度と全く関係していなかったので、

今回の実験で得られたようなデータが、実際の心 的外傷性健忘でも同様にあてはまるかは、明確で はない。とくに、フラッシュバルブメモリー測度 の(1回目の回答数一2回目の回答数)、つまり、

保持期間における忘却数は、解離性体験尺度の値 と有意な相関を示さなかった(r−0.13)事から考 えると、解離性体験尺度の示す現象とフラッシュ バルブメモリー現象は、そもそも違う現象である と考えることが出来るかも知れない。また、今回 の実験データも、外傷性健忘のパタンを反映して いるというよりは、単なる忘却の個人差を反映し ているとも考えられる。そのため、この問題に関 しては、今後さらに検証していく必要性があるだ

ろう。

なぜこのような結果が得られたのか

 今回の実験の最大のネックとなったのは、解離 性体験尺度が、フラッシュバルブメモリー関係の 測度と関連を全く持たなかったという点である。

予想に反してこれらの間に相関関係が見られなか ったのはなぜであろうか。

 その原因はいくっか考えられる。第1は、外傷 性健忘を示している被験者はDESの成績が高い

ということは予測できるが、DESのスコアの局 さから、外傷性健忘を予測することは出来ないと いうことである。これは、解離性体験尺度のスコ アが高いことが、その後の外傷体験の記憶過程に 影響を与えない、ということである。

 第2は、池田小学校の事件は形式的にはフラッ シュバルブメモリーの基準を満たしていたが、そ の強度がそれほど強くなく、解離性体験尺度が主 に対象にしてきたような外傷体験には及ばなかっ たというものである。

 フラッシュバルブメモリーは、ケネディ大統領 の暗殺事件やスペースシャトルチャレンジャーの 事故といったアメリカの国家的な事件を題材とし て、提案されたものであるが、このようなパブリ

ックな事件についての衝撃は個人や家族の生命に 直接関わるような事件に比べれば、インパクトや 情動喚起という点では、弱いのは明らかである。

そのため、これらの記憶が解離などの自己を防衛 するためのメカニズムを十分引き起こすものでは なかったというのである。

 また、実はこの実験の保持期間中には、この事 件以上にショッキングな事件がいくっか発生した ことも結果に影響している可能性がある。たとえ ば、新宿歌舞伎町での雑居ビル火災で44名が死 亡(9月1日)やアメリカでの同時多発テロ事件

(9月11日)などである。フラッシュバルブメモ リーのオリジナルな考え(Brown&Kulik,1977)

によるならば、このような事件が起きることは最 初のフラッシュバルブメモリーの内容にほとんど 干渉効果を生じさせないことが予想されるが、フ ラッシュバルブメモリーが、通常の記憶メカニズ

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ムで生じているのだとすれば(Neisser&Harsh,

1992)、後続して発生したこのような事件は、池 田小学校の事件の記憶に大きく干渉した可能性が あることになる。

 第3の原因として考えられるのは、強度の問題 ではなく、そもそも、フラッシュバルブメモリー という現象が解離性体験尺度がいままで測定して きたような外傷体験とは質的に異なっているとい う可能性である。

 もし、第1の仮説のように、本実験で明確な結 果が生じなかったのを、衝撃の強度にっいての量 的な問題であるとすると、すべての測度について 全く相関が無かったということにっいては説明し にくい。そうだとすると、むしろ低いながらも一 貫した方向の相関が存在しているのと考えられる であろう。本実験の結果では、解離性体験尺度と フラッシュバルブメモリーの諸測度との相関は全 くといって良いほど見られなかった。これはむし ろ、フラッシュバルブメモリーと解離性体験は独 立なものであることを示唆しているといえるので はないか。たとえば、フラッシュバルブ記憶を含 めた情動下での記憶では、通常の記憶過程で処理 が行われ、本研究の結果も通常の記憶過程の範囲 内で生じたものであるが、外傷性健忘をもたらす ような強度の強い個人的で外傷的な出来事にっい ては、そこで初めて特殊な処理メカニズムが発動 すると行った考えである。そして、解離性体験尺 度が測定しているのは、このような特殊メカニズ

ムについての個人差であると考えるのである。

 従来、外傷性健忘を引き起こすような体験の記 憶と通常の情動下の記憶が質の異なるものである ということにっいては、それを実証するような具 体的なデータはほとんど示されてこなかった。臨 床的には妥当性の確認されている尺度である DESが、フラッシュバルブメモリー現象を全く

予想できないという今回の研究の結果は、この質 の違いを実証するデータの一っとなる可能性を持 っているといえるであろう。

要約

 本研究では、解離性体験尺度とフラッシュバル ブメモリーの関係について、大阪の池田小学校に おける児童殺傷事件を題材に検討した。この事件 の記憶はフラッシュバルブメモリーを形成してい たが、解離性体験尺度のスコアは、事件直後のフ ラッシュバルブメモリー、事件4ヶ月後のフラッ シュバルブメモリー、および、事件自体について の知識の量、これらの記憶の鮮明さやリハーサル の程度のいずれの情報とも、ほとんど相関を持っ ていなかった。これは、解離性体験尺度で測定さ れる解離傾向の個人差は、フラッシュバルブメモ リー現象と独立なものである可能性を示唆してい ると思われる。

         文 献

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   Journαl of Clinical PSychology,155,517−522.

Abstract

 The present study, focuses on the murder and injury of children at the Ikeda Elementary School in Osaka, and examined the relationship between the Dissociative Experiences Scale

(DES)and the flashbulb memory. It was found that the memory of the Ikeda stabbing incident had constituted flashbulb memories, but the scores of DES showed almost no correla−

tion with the amount of flashbulb memory, the vividness of flashbulb memory, the amount of knowledge about the incident, or the amount of rehearsals. The results suggest the possibility that individual differences in dissociative tendency measured by DES are independent of the flashbulb memory phenomenon.

Key words:dissociation, flashbulb memory, traumatic memory,

       DES(Dissociative Experiences Scale), encording

参照

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