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心のゆとり感尺度の作成の試み

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

心のゆとり感尺度の作成の試み

富田, 真弓

九州大学大学院人間環境学府

https://doi.org/10.15017/15730

出版情報:九州大学心理学研究. 9, pp.223-233, 2008-03-31. 九州大学大学院人間環境学研究院 バージョン:

権利関係:

(2)

心のゆとり感尺度の作成の試み

富田 真弓1)九州大学大学院人間環境学府

Ap a麓e卿樋・make tbe s。ale t・measure 凾浮煤E㎡・f mind

Mayumi Tomita(Graduate school o.プ加卿朗一environment stutdies, K)栩3加university)

  The Japanese word  yutori  (ease, peace of mind), is used everyday life and psychotherapy. This word is an important concept on understanding states of mind on psychotherapy. The purpose of this paper is to construet of the feeling of  凾浮狽盾窒堰@of mincl  scale to understand  凾浮狽盾窒堰@of rnind  people feel subjectively. As the result,

this scale was made of 3 factors, and the feeling of  yutori of mind  could be described both positively a・nd negatively. The results of this study suggested a viewpoint thar what  yutori of mind  is reduced are ・externa1 factor and internal factor su¢h as personality traits and the way of emotional experience.

KeywQrds:  凾浮狽盾窒堰@of mind , scale, subjective feeling

問題と目的 はじめに

  ゆとり という言葉は,日常生活の中でよく使われ る。「あの人はゆとりがない」,「もう少し心のゆとりが 欲しい」など,人の状態をさす言葉として,あるいは

「ゆとりある暮らし」,「経済的なゆとり」など,豊かさ をさす言葉としても用いられる。心理臨床や精神科領域 でも,  ゆとり について「臨床実践は,こころのゆと

りを回復させることをもくろんでいるといってもよいか もしれない(藤山,2006)」,「心の病気になる人は,み んな ゆとり をなくしている(土居,1983)」など,

ゆとりのなさや心にゆとりがあることの意味について精 神的健康との関連で述べられている。この.ように,日常 語として用いられる ゆとり という言葉は,心理臨床 の場面で心の状態を示す言葉として有用な概念であり,

その意味は経験的に理解されている一方面, ゆとり とは何かと問われると答え.るのは難iしい。

 広辞苑(第5版)によれば, ゆとり とは「余裕が あること,窮屈でないこと」である。また, ゆとり の語源は「 ゆるみとり 物事の間にくつろぎを置く,

隙間を置くというところからきた言葉」(大言海)とさ れ, ゆとり という言葉そのものは,何かで一杯になっ ている窮屈な状態ではなく,そこに空間や隙間,くつろ

ぎがある状態をさす。

1){研究をふまえた研究の一部を日本青年心理学会第11回大会 において発表した。座長の河野荘子先生に心よりお礼申し上げ ます。また,本研究に快く協力してくださった学生の皆様に深 謝します。最後に,本論文の校閲をいただきました福留留美准 教授,高橋靖恵准教授にお礼申.し上げます。

 一方,日常生活では, ゆとり という言葉が,単独 で用いられることはほとんどない。具体的に述べられて いるにしろ,そうでないにしろ,生活や経済,教育,衣 服,人の心など,特定の対象とともに,一定の文脈で用 いられる。その文脈に伴って,窮屈な状態,そこにある 空間や隙間の意味が異なり, ゆとり の持つ意味合い も異なってくる。このように,日常語として用いられる とき, ゆとり という言葉は,多義的で曖昧である。

 日常臨床語辞典の中で,北山(2006)は日常語の多義 性や曖昧さについて指摘し,臨床における日常語の治療 的価値として,「様々な意味に即して分解しやすい心の 在り方を,それを統合する言葉を介して結びつける可能 性がある」としている。日常語として使われる ゆとり

について理解していくことは,より体験に近いところで 心のあり方を理解する手がかりとなると考えられ,日常 語を使って行なわれる心理臨床実践に有用であると思わ れる。そこで,本論では,心について日常語で語られる

ゆとり を測定する尺度の作成することを試み,心の ゆと.りという日常語で,語られる心の状態についての理 解の手がかりを得ることを目的とする。

心のあり方について語られる 心のゆとり

 心のあり方について語られる場合のゆとり, 心のゆ とり とはどのよう.な状態を指しているのだろうか。言 葉の意味から,心のゆとりについて考えると,心が窮屈 でなく,そこに空間がある状態となる。それでは,心が 窮屈になるとはどういうことであり,心を窮屈にするも

のとは何か,また心に空間があることとはどのようなこ となのであろうか。

 山田(1989)は,ゆとりについて,失敗したり,困難

(3)

224 九州大学心理学研究第9巻2008 やピンチに遭遇したり,いやなことにぶつかってもそれ

を処理する能力があればゆとりがあるとして,葛藤処理 能力の視点から述べている。河合(1974)は,カウンセ リングを訪れるクライエントは,ほとんどの場合に焦り を感じており,そこには視野の狭さや未来に対する不要 な不安などがあると述べている。逆に,ゆとりがある状 態について,藤山(2006)は,主観的に体験するこころ のなかの何らかのスペースについての感覚,リラックス の感覚である種の自由の感覚自分自身の思考や感覚や 感情を存分に生み出している感覚を挙げている。

 富田・高橋く2005)は,現代青年が捉えている 心の ゆとり について把握することを目的とし,大学生を対 象に自由記述による調査を試みている。その結果,  心 のゆとり についてく切迫感がない状態〉,〈充実感〉

などの「心の状態」と,〈他人に配慮できる〉といった 結果としての「行動」のカテゴリーを見出し,さらに

「心の状態」についてはく切迫感がない状態〉,<焦燥 感がない状態〉などネガティブな感情が低減した状態と して消極的に捉えられたものと,〈充実感〉,〈安心感

〉などポジティブな感情を想起して積極的に捉えられた ものを見出した。前者は心にゆとりがない状態から想起 され,後者は心のゆとりがある状態から想起されたと考 えられ,この両者の違いは 心のゆとり の捉え方の質 的な差異を反映していると指摘している。

 これらを踏まえると,心を窮屈にするものとして,不 安や焦りなどの感情の存在が考えられ,ゆとりがない状 態とは,不安や焦燥感を処理できずに圧倒され,視野が 狭くなっている状態であると考えられる。一方,心に空 間があることは,心が充分に機能しており,充実感や安 心感があり,他者へ配慮するなど周囲に目を向ける視野 の広さがある状態であり,ただの空聞,スペースがある だけではなく,自由の感覚があり,心が動き出すエネル ギーがある状態であると考えられる。

 それでは,この ゆとり ということについて,心理 学の領域ではどのような研究がなされてきたのであろう

か。

心理学での ゆとり の測定

 これまで,心理学の分野では, ゆとり ということ について,直接扱った実証的な研究はほとんど見られな かった。心理学は一味性を排除しようとする自然科学の 一つであり,曖昧さや多義性を持つ日常語の ゆとり を科学概念として扱うことは困難である為と考えられる。

その中で,近年,ゆとりそのものを扱った研究など,ゆ とりをとらえ,測定しようとする試みがなされ始めてい

る。

 古川・山下・八木(1993)は,社会人を対象に,8因 子からなるゆとり感尺度を作成し,ゆとり感の構造につ

いて検討した結果,「富裕性」,「時間自由性」,「環境快 適性」,「有能性」といった物理的社会的必要条件が,精 神的ゆとりの中核を成す「満足安定性」を支えており,

このコントロール可能性を伴う「満足安定性」が,心的 な「ゆとり」の発露・精神の自由闊達を表す「自由奔放 性」,生活のあらゆる面で楽しみを見出そうとする「遊 楽性」を呼び覚まし,向上心などを含む「挑戦性」を生 み出すと述べている。

 古川らの研究では,生活全般で感じられるゆとりにつ いて,心の状態としてのゆとりを核とし,心の状態と関 連する物理社会的条件についても幅広 く検討することに よって,実証的にゆとりが豊かな意味を内包している概 念であること,主観的に感じられるゆとり感が時間的な ゆとりや経済的な豊かさと必ずしも一致したものではな いことを示しており,これは大変意義深いと思われる。

 北爪・菅野(2006)は,比較的時間に余裕があるとさ れる大学生を対象に,精神的健康をとらえる尺度として,

大学生版ゆとり尺度を作成している。この尺度は,「精 神的安定感」,「目標志向性」,「エネルギーの充実感」,

「対人的余裕」,「時間的余裕」,「経済的余裕」の6因子 から成り,精神的不安定さのない状態である「精神的安 定感」がゆとりの中核にあることが示されている。古川

らの尺度の下位スケールの項目内容と比較すると,因子 名は異なるが,類似した項目があり,安定感がその核と なる点は一致している。一方で,古川らの尺度と異なる のは,古川らの「環境快適性」に当たる項目がなく,新

しく周囲との関係性からゆとり感を捉えた「対人的余裕」

という因子抽出された点である。この結果は,古川らの 尺度が社会人を対象として作成されたため,職場や住宅 環境などが現実生活の中で重視されたのに対し,北爪・

菅野は周闘との対人関係の中で自分の在り方を探る青年 期にあたる大学生を対象としたという対象の違いが反映 されていると考えられる。他者との関係性の中に生きる 人の心のゆとりについて考える上で,また対人関係にお ける問題を抱えているクライエントと関わる臨床におけ る心のゆとりを捉える上でも,この視点は有用であると 思われる。

 一一方で、佐川(2005)は,心理的ゆとりを「何らかの ライフイベントにぶつかっても,困難な状況にいる自分 を一歩引いてみることでそれに巻き込まれることなく対 処できる」こととして捉え,感情や体験との距離という 側面から心理的ゆとりを捉えようと試みている6そこで,

心理的ゆとり度を「日常生活の中で,①どれだけ自己を 客観損することができるか,②主体的・能動的に体験と の距離を調節することができるか,③ 主体感覚 すな わち,体験の主体として感覚を持って体験と関わること ができるか」という視点から,竹内(2002)の同一化・

対象化尺度の その場で感じていることから離れて,客

(4)

観的に距離をとることもできる といった項目からなる

「主体的かかわり」の9項目によって測定している。佐 川の尺度では,ゆとりがある時の心の状態そのものでは なく,その時の心の機能の仕方という点から捉えている と考えられる。

 このように,ゆとりの測定が試みられてきており,こ れらの研究で得られてきている知見は ゆとり を捉え ていく上で,重要なものであると思われる。一方,古川 らの研究では,ゆとり感を生み出すその人の持つ要素に ついて検討されており,北爪らの研究では 悩み事や困っ たことがある といった状況から, いつも向上しよう と心がけている といったその人の特性まで含めて捉え ており,また佐川は心の機能の仕方といった別の視点か ら捉えている。このように,異なった視点からとらえる ことで,より心のゆとりを重層的に捉え,理解すること が可能になった反面,いまだに一貫した尺度が得られて いないともいえる。また,これまでの尺度はその人の持 つ要素や状況,特性を含み,幅広く捉えている。しかし ながら,心のゆとりといってもいつも持っているわけで はなく,誰しも失ったり回復したりを繰り返している面 もあると考えられる。

 そこで,本研究では,このような揺れ動きの中で主観 的に感じられる心のゆとりに着目し,不安や焦燥感を処 理できずに圧倒され,視野が狭くなっている心のゆとり のない状態と,心が充分に機能しており,周囲に目を向 けられる心のゆとりがある状態の両側面から,心のゆと り感を把握し検討する。その際,物理的社会的条件によ りも,心のゆとりの核とされる古川らの「満足安定性」

や北爪らの「精=神的安定感」にあたる部分に着目して,

尺度の作成を試みることとする。

方  法 調査対象及び調査時期

 国立大学の男子学生181名,女子学生209名の計390名

(平均年齢20.2±1.3歳),公立高校の1〜2年生男子生徒 139名,女子生徒156名の計295名で,総計685名を対象と

し,2002年11月上旬から中旬にかけて調査を行なった。

調査内容

 古川・山下・八木(1993)のゆとり感尺度,予備調査 による「心のゆとりとは何ですか」,「心のゆとりがある と感じるのはどんな時ですか」という自由記述結果(富 田・高橋,2005)をもとに作成した心のゆとり感につい ての仮質問項目37項目について,「全くそう感じない」

を1,「いつもそう感じている」を6とする6件法で回 答を求めた。また,質問紙の妥当性を検討するために,

「心のゆとりを必要とするときはどのようなときですか」

という自由記述を同時に行なった。

実施手続き

 大学生については,調査者が講義時間の一・部を用いて 集団で実施した。高校生については,高等学校教諭に調 査用紙の説明及び配布を依頼し,集団で実施してもらっ

た。

分析方法

 心のゆとり感尺度の項目については,回答者のうち,

欠損値があるものを除外し,大学生347名(男性157名,

女性190名),高校生238名(男性1!1名,女性127名)の 計585名を分析対象者とした。次に,心のゆとり感に関 する項目について調査対象者全体の回答をデータ行列と して,逆転項目を逆転させてから因子分析した。共通性 を反復測定し,重み付けのない最小二乗法による初期解 を求めた。固有値の推移から,因子数6から順次因子数 を減らして直接オブリミン解を求めた。因子の解釈から,

3因子解を最適解として採用した。また,各因子及び尺 度全体のCronbachのα係数を算出した。心のゆとり感 尺度作成後,尺度の合計得点を心のゆとり感得点として 算出し,大学生と高校生の学校段階×性別の2要因の分 散分析を行なった。自由記述については,心のゆとり感 尺度得点を算出し,平均値と標準偏差を基準として,M

±1SDをそれぞれ「心のゆとり感H群」,「心のゆとり 感L群」として抽出した。次.に,自由記述内容を,臨 床心理学を専攻する筆者を除く大学院生3名で,KJ怯

を参考にカテゴリー分けを行った。

結果と考察

1)心のゆとり感質問紙の因子構造及び信頼性

 心のゆ.とり感に関する37項目について因子分析を行なっ た。固有値が1.0以上であった因子数6から順次因子数 を減らし,直接オブリミン解を求めた。3つの観点(固 有値の推移,解釈可能性,因子負荷量.40以上)から因 子数の決定や項目の選択を行った結果,3因子解を最適 解とした。このときの寄与率は43.72%であった。なお,

今回, 心が落ち着いている という項目については,

3因子いずれにおいても.40以上の負荷量は認められな かったが,いずれの因子にも弱い関連がみられたこと,

この項目を除外することで信頼性が下がることから,心 のゆとり感尺度全体としては,この項目を採用すること にした。この点については,後で考察する。

 因子分析の結果,得られた因子パタL一一ンをTable 1,

2に示す。因子分析で抽出された各因子は,以下のよう に解釈された。

 第1因子は, 充実感を感じる , 生きがいがあると

(5)

226 九州大学心理学研究 第9巻 2008

      Table 1

心のゆとり感尺度因子負荷量(重み付けのない最小二乗法,直接オブリミン解) 〉

項目 Fl F2 F3 h2

第1因子「心の充足・開放性」α=9,23  20.充実感を感じる

 21.毎日が楽しいと感じる  22.生きがいがあると感じる

 19,自分の生活に満足していると感じる  26.自分はのびのびと生きていると感じる  13.自分の好きなことができていると感じる  34、心身ともに満たされている感じがする  12.前向きにものごとを考えられていると感じる  14.自分の気持ちを素直に受け入れていると感じる  11.心から笑えると感じる

 27.こころと身体が一体となって動いていると感じる  25.感情を素直に表現していると感じる

 37.安心感があると感じる

 3.周りにあるものを見て楽しめていると感じる  23.感謝したくなることがあると感じる  16,人と笑顔で接していると感じる  17.心が落ち着.いていると感じる

83910188650663918316198388875473 使丁忍3ゴ善緬酒あ占ββ5β44

.118

一ユ27

一.176

一.158

一 .121

.112

.128

ユ52

,21/9

08390868861489662075442051202487 66555455444343工2

.373 ,198 .231 ,422

第2因子「切迫・疲労感のなさ」α =8.77  5.焦りを感じる(*)

 4.不安を感じる(*)

 35.おしつぶされそうな感じがする(*)

 7.時間を追われていると感じる(*)

 32,きつい,つかれたと感じるく*)

 29.息苦しい感じがする(*)

 6.いらいらしていると感じる(*)

 18.なんだかつらいと感じる(*)

 28.いろいろなことが気になってしょうがないと感じる(*)

 33.ちょっとしたことを不満に感じる(*)

 36.何もかもわずらわしいと感じる(*)

 3L 無理していない感じがする

一.177 一.167  .142

.170

7−00盈UOO

11

.7

.680

.673

.663

.655

.637

.622

.618

.563

.535

.512

.439

一.109 一.141

一ユ03

.120

884710134516 7426782.76981 444334442233

第3因子「対他的ゆとり」 α・=8.05

 9,他人のことも思いやれる余裕があると感じる

 8.自分のことだけでなく人のことも考えられると感じる  2.他人に寛容になれると感じる

 15、自分のことで精一杯だと感じる(*)

 24.柔軟な考えや姿勢を持っていると感じる  10.気持ちの余裕があると感じる

 .122 一.229  ,355  .259

一,190

.424

.260

.858

.801

517

.432

.420

.418

.710

.576

.341

.358

.401

,557

a)(*)は逆転項目を示す。

(6)

Table 2 因子間相関

F2 F3

194 FF

.539 00つ0

4だ0

4つσ

感じる , 毎日が楽しいと感じる , 自分の生活に満足 している.と感じる といった,充足感に関する項目,

心から笑えると感じる , 感情を素直に表現している と感じる , 周りにあるものを見て楽しめていると感じ る といった,外から刺激を取り入れて,感情が動いて いる状態を示す項目からなっていた。これらは,心が充

分に機能している状態であると考えられる。西川

(2000)は,人のパーソナリティについて,Rogersの十 分に機能する人間にみられる特徴として経験への開放性

という概念から,「紋切り型の認知活動から解放され柔 軟性を維持している」パーソナリティ特性をパーソナリ ティの「開放性」として述べている。そこで,充足し,

外に対して開かれているという意味合いで,「心の充足・

開放性」因子と命名した。

 第2因子は,ほぼ逆転項目からなり, 焦り.を感じる , おしつぶされそうな感じがする , 時間に追われてい る など,切迫感に関する項目, きつい・つかれたと 感じる , 不安を感じる など,不安感や疲労感に関す る項目からなっていた。そのため,この因子を「切迫・

疲労感のなさ」因子と命名した。

 第3因子は, 他人のことも思いやれる余裕があると 感じる , 自分のことだけでなく人のことも考えられる

と感じる , 柔軟な考えや姿勢を持っていると感じる などの項目からなり,第1因子と第2因子が心の状態と

して,自分自身に関する対自的なものであるに対し,周 囲に対する配慮などについてのもの,周囲にも合わせう る柔軟さに関するものであることから,「対他的ゆとり」

と命名した。これは,北爪らの「対人的余裕」と類似し た因子であると考えられる。

 信頼性を検:討するために,Cronbachのα係数を算出 したところ,尺度全体ではα=.933,下位尺度のα係数 はそれぞれ,第1因子では,α=.923,第2因子ではα ==

.877,第3因子ではα =.805であり,高い値が得られた。

また,尺度の合計得点を算出し,上位下位各25%を抽出 し,G−P分析を行ったところ,全ての項目において,1

%水準で有意差が得られた。このことから,内的整合性 が確認され,信頼性を持つと考えられる。

 北爪・菅野(2006).は, 自分には遊び心がある , 自分から人と話をしょうとする といった「エネルギー

の充実感」因子を抽出し,「精神的な余裕があることと,

普段の生活で必須のこと以外につぎ込む心のエネルギー があることは,非常に似通った概念であるととらえがち であるが,心のゆとりを構成する異なる要素である」と 指摘している。本研究では,第1因子について,安定感

といった静的なものと,満足感や充実感といった動的な ものとを区別することは出来なかった。しかし,第2因 子で抽出された「切迫・疲労感のなさ」が北爪らの述べ

る「精神的な余裕があること」として考えると,第1因 子で抽出された「心の充足・開放性」と「普般の生活以 外につぎ込む心のエネルギーがあること」は,ほぼ類似 であるとも考えられる。北爪・菅野の指摘は,切迫感が 感じられるような心のゆとりのなさがなくなれば,即,

充実感が得られるわけではなく,心が落ち着いている状 態があり,さらに充.実感を感じるような心のゆとりが感 じられる状態があると捉え直すことができるのではない か。それは,心が窮屈でないことと,余りがあることが 必ずしも同義ではないことからも理解できる。これらを 踏まえ,心のゆとりという言葉を通して心の状態を理解 するときには,窮屈で心にゆとりがない状態と,心が落 ち着いている状態,生活の中で充実感や楽しみを感じる 状態を区別して,段階的に理解することが必要であると 考えられる。

 今回, 心が落ち着いている という項目については,

いずれの因子にも弱い関連がみられており,心が落ち着 いていることは,心のゆとり感の重要な核となる部分で あると考えられる。しかし,本尺度では基礎項目に心の 落ち着きに関する項目が少なかったことから1つの因子 のまとまりとして抽出されなかったことが考えられる。

楽しいなどの感覚は自覚できるが,心が落ち着いている 状態は自覚されにくく,心の落ち着きば失ったときに初 めて自覚されると言われており,自由記述をもとに作成 された本尺度にお.いて,自覚されにくい心が落ち着いて いる状態を十分に拾うことができなかったことが考えら れる。この点については,今後,項目を付加するなどし て検討することが必要であると思われる。

2)現代青年の心のゆとり感についての検討  (1)心のゆとり感尺度の項目についての検討

 現代青年の心のゆとり感を把握するため,.各項目の平 均値と標準偏差を算出した結果を,Table 3に示す。た だし,逆転項目については,意味合いについて理解しや すいように,逆転前の平均値を示した。Table 3の項目 の平均点をみると,4(たまにそう感じる)以上の11項 目のうち,6項目は 感謝したくなることがある , 周 りにあるものを楽しめていると感じる , 心から笑えて いると感じる , 人と笑顔で接していると感じる など のポジティブな感情を感じていることに関する項目であ

(7)

228 九州大学心理学研究 第9巻 2008

り,これらの項目は健康な青年像を感じさせる。一方で,

残りの5項目は逆転項目であり, 時間を追われている と感じる きつい,疲れたと感じる 焦りを感じる 不安を感じる などネガティブな感情を感じているも のであり,不安や焦りのある状態であると推測される。

このことから,青年の特徴として 感謝したくなる な どのポジティブな感情を感じている一方で, 時間に追

われる などの焦りや不安などの切迫感,疲労感も同時 に感じているということが考えられる。

 また,中でも特に, 時間に追われている という項 目は平均値が4.43であり,本研究の対象となった青年の 多くが, 時間に追われている と感じていた。本研究 の対象者となった高校生は,進学校であるために大学受 験を念頭に置いたカリキュラムの中にいることから/、

     Table 3

心のゆとり感尺度記述統計量a)

項目

M SD

ワ自 り0 

ユー  

り4

a乳aaL6.54&aL3a&3︐6︐2.&翫4q9ε乳94τLα乳a4a5 6乙111りQ

2

212 211233123323

感謝したくなることがあると感じる 時間に追われていると感じる(*)

きつい,つかれたと感じる(*〉

周りにあるものを見て楽しめていると感じる 心から笑えると感じる

入と笑顔で接していると感じる

焦りを感じる(*)

不安を感じる(*)

いろいろなことが気になってしょうがないと感じる㈹

他人に寛容になれると感じる 毎日が楽しいと感じる

自分の好きなことができていると感じる 前向きにものごとを考えられていると感じる なんだかつらいと感じる(*)

ちょっとしたことを不満に感じる(*)

いらいらしていると感じる(*)

生きがいがあると感じる

自分のことだけでなく人のことも考えられると感じる 感情を素直に表現していると感じる

自分の気持ちを素直に受け入れていると感じる 充実感を感じる

他人のことも思いやれる余裕があると感じる 自分はのびのびと生きていると感じる 心が落ち着いていると感じる

自分の生活に満足していると感じる 柔軟な考えや姿勢を持っていると感じる 安心感があると感じる

無理していない感じがする 気持ちの余裕があると感じる

こころと身体が一体となって動いていると感じる 何もかもわずらわしいと感じる(*)

心身ともに満たされている感じがする 息苦しい感じがする(*)

おしつぶされそうな感じがする(*)

4329806944163831998810990446364614 姐興嘱粥娼媚姐G狙如如舗認認認認卸卸卸卸卸舗舗舗舗舗麗躍詔認銘詔組 9216254198142550004511474845680140 LQ オUω招UUUUα9鷲建駕UUUBωEU辺m⁝招⑳建m⁝⑳E爲UBUEB

a)(*)は逆転項目,ただし値は逆転前の値を示す。

(8)

「時間に追われている」と感じやすいというのは納得で きる。一方,時間の融通が比較的利きやすく,自由な時 間を持っているとされている大学生でも 時間に追われ ている と感じていた。これは,本研究の対象者が国立 大学の学生であるという特性の影響も考えられ,他大学 や短大や専門学校生など置かれた状況によって異なるこ とも予測されるために,今後,学校による比較が必要で あるだろう。しかしながら,現代は「時間に追われてい る」,「忙しい」と感じやすい時代ともいえる。生和・内 田(1991)によれば,このように「時間に追い立てられ ている」と感じるのは,「体験する時聞と客観的な時間 経過との間に大きな違いが生じている点に原因がある」

と述べており,「現代社会のように,時間内に処理しな ければならない情報量が増大してくると,たえず時間に 追われているという実感のみが支配的になる」ことから,

「現代社会は時間に追われているという感覚が支配的に なりやすい」と述べている。今日,ゆとり感について着 目することは,時代性を反映しているともいえ,本研究 の現代的意義があると思われる。近年,スローフードや スローライフやロハスという言葉やライフスタイルが流 行しており,スローライフやロハスの考え方の中には,

自分の感覚を大事にするという要素がある。「時間に追 われる」というのは,受け身の表現であり,自らが動く というよりも動かされているという感覚を伴う。このこ とから,時間に追われやすい現代において,自分の感覚

・や主体性というものが見直されてきているのではないだ ろうか。上田(ユ980)は,「主体性がなくてはゆとりは 生じない」と述べており,佐川(2005)がゆとり度を

「主体的かかわり」として測定したところがらも,時間 に追われるのではなく,そこに主体性を持って,情報の 取捨選択,生き方の取捨選択をしていくことがゆとりを 持つ上でも必要であり,今日の時代においても,その主 体性のあり方が問われているのではないだろうか。

 (2)心のゆとり感の学校段階差・性差の検討

 次に,心のゆとり感尺度の合計得点を心のゆとり感尺

度得点として算出し,下位尺度についても得点を合計し,

項目数で割った下位尺度得点を算出し,高校生と大学生 の学校段階×性別の2要因の分散分析を行った。その結 果を次の頁の.Table 4に示す。交互作用については,心 のゆとり感尺度得点,下位尺度得点のいずれにおいても 見られなかった。

 学校段階による主効果は,心のゆとり感尺度得点に見 られ,大学生の方が高校生よりも有意に高かった

(F(1,581)=8.09,p<.01)。下位尺度では,「心の充足t 開放性」は有意差が見られず(F(1,581)=3,10,n、s.),

「切迫・疲労感のなさ」と「対他的ゆとり」については,

大学生の方が高校生よりも有意に高かった(「切迫・疲 労感のなさ」F(1,581)=7.81,p〈.01,1「対他的ゆとり」

F(1,581) = 10.15, p〈 .Ol).

 性別による主効果は,心のゆとり感尺度得点全体では,

有意差は見られなかった(F(1,581)=O、166,n.s.)。下位 尺度では,「心の充足・開放性」については,女性の方 が男性よりも有意に高く (F(1,581)=5,02,p<.05),

「切迫・疲労感のなさ」については,男性の方が女性よ りも有意に高かった(F(1,581)=3.88,p<.05)。「対他 的ゆとり」については,有意差は見られなかった(,F

(1,581)=1.52,n,s.)o

 今回の分析対象となった大学生と高校生では,高校生 よりも大学生の方が心のゆとりを感じていた。下位尺度 についてみると,「切迫・疲労感」は高校生が大学生よ りも感じていたが,一方「心の充足・開放性」は大学生 と高校生の間に有意差が見られなかったことから,高校 生は大学生と比較して時間的に自由がないこと,本研究 の対象となった高校生が受験を念頭においたカリキュラ ムの中におかれていることから切迫感を感じやすいと考 えられる。一方で,高校生は忙しい中でも生活の中で楽 しみも見出していることが考えられる。また,大学生の 方が高校生よりも「対他的ゆとり」を感じていたことに ついては,「対他的ゆとり」が「切迫・疲労感のなさ」

因子と相関が低く,状況因よりも学校段階や成長過程が

       Tab亘e 4

学校X性別の心のゆとり感尺度得点および下位尺度得点s)

     大学生

男性(N=157>女性(N=190)

 M SD M SD

     高校生

男性(N=111)女性(N=127)

 M SD M SD

主効果 学校段階差   性差 心のゆとり感尺度得点

「心の充足・開放性」

「切迫・疲労感のなさ」

「対他的ゆとり」

12339 24.11 117.37 20.05 3.81 O.85 4.01 O.78 3.34 O.86 3.07 ・O.65 3.72 O.79 3.45 O.72

123.07 3.74 3.13 3.57

21.8 0.74 0.79 0.69

118.56 20.93 3.85 O.82 3.03 O.72 3.45 O.72

大〉高**

      男〈女*

大〉高** 男〉女*

大〉高**

a) *.p〈.os **p〈,Ol

(9)

230 九州大学心理学研究 第9巻 2008 影響している可能性も考えられる。高校生から大学生に

なるにつれて,自己が安定してくるのに伴い,他者との 関わりや周囲との関わりが柔軟になったり,スムーズに やれる部分も出てきているのではないだろうか。

 次に性差について述べる。心のゆとり感全体では,性 差が見られず,先行研究の結果と一致していた。下位尺 度についてみると,女性が男性よりも心のゆとり感に関 わるポジティブな感情もネガティブな感情も感じやすい ことが考えられる。一方,「対他的ゆとり」は性差が見 れなかったことから,ネガティブな感情を感じるか,ポ ジティブな感情を感じるかのいずれかの側面からではな く,両方の感情の体験の仕方が心のゆとり感と関連して いる可能性が考えられ,両面から捉える意義があるよう に思われる。ある面では切迫感があって心にゆとりがな くても,別の面ではポジティブな感情を感じていれば,

心が窮屈でゆとりがない状態ばかりではなく,心のゆと り感を回復している状態もあると考えられ,周囲に目を 向けることができ,他者に配慮するような対他的ゆとり

を感じていると考えられる。このため,ポジティブ感情 とネガティブ感情の双方を感じていても,対他的ゆとり を感じることはありえるために,感情体験には性差が見 られたが,対他的ゆとりには性差が見られなかったので はないか。

 以上のことから,男女での感情の感じ方に違いが見ら れる一方で,心のゆとり感そのものには性差がないこと,

切迫・疲労感には状況,対他的ゆとりに.は発達的な影響 がそれぞれ関連している可能性が示唆された。これらに ついては,特性や状況因も踏まえて,今後検討していく

ことが必要である。

3)「心のゆとり.を必要とするとき」の自由記述につい   ての検討

 「心のゆとりを必要とするとき」について,KJ法を参 考にカテゴリー分けを行なった結果,14のカテゴリーに 分類された。各カテゴリーに分類された記述例をTable

5に示す。

 各カテゴリーの記述は,場面や状況に関するもの,感 情に関するもの,行動や心の状態に関するものに大きく 分けられ,さらに状況や場面は,〈忙しいとき〉〈イベ

ント前〉といった現在から未来に関する,主に外から課 題や締め切りなどによってもたらされるものと,<落ち 込んだとき〉,〈出来事〉など過去に生じたことによっ て,内的に不安や混乱を生じるものに分けられると思わ れる。〈エネルギーが低下したとき〉については,〈忙

しさ〉やく落ち込み〉といった両者の結果として生じる 可能性も考えられる。

 この各カテゴリーと心のゆとり感尺度の項目を比較す ると,以下の8カテゴリーが一致していた(Table 2,

Table 6)。「心の充足・開放性」因子とく感情がうまく 機能しないとき〉,「切迫・疲労感のなさ」因子とく忙 しいとき〉,〈焦燥感があるとき〉,<エネルギーが低 下しているとき〉,〈落ち込んでいるとき〉,〈周囲が 気になるとき〉,「対他的ゆとり」因子とく他者に配慮 ができないとき〉であった。一方,一致しなかったカテ

ゴリーは,〈悩みや考え事があるとき〉,〈出来事があっ たとき〉,〈うまくいかないとき〉,〈イベント前〉で

      Table 5

「心のゆとりが必要なとき」の各カテゴリーの記述内容

カテゴリー 記述例

〈忙しいとき〉

〈焦燥感があるとき〉

〈エネルギーが低下しているとき〉

〈他者配慮ができないとき〉

〈出来事があったとき〉

〈うまくいかないとき〉

〈イベント前〉

〈落ち込んでいるとき〉

〈感情がうまく機能しないとき〉

〈悩み・考え事があるとき〉

〈周囲が気になるとき〉

〈いつも〉

〈ない〉

〈その他〉

時間に追われているとき,やらなければならないことがあるとき 気持ちがあせっているとき,イライラしているとき

疲れがたまっているとき,集中できないとき,記憶力が低下しているとき 人.に気をつかったり優しくできないとき,人にきついことを言ってしまったとき 振られたとき,誰かに一方的に責められたとき

自分ではどうにもできないとき,行き詰まったとき テスト前,試合前

落ち込んだり考えすぎたとき,落ち込んでいるときなど,精神的にダメージを受けたとき 突然,意味もなく泣き出したとき,人の話を聞いても心から笑えなかったとき 悩みがあるとき,考え事をしているとき

周りの目が気になるとき,うらやましく思うとき 常に,いつも

必要ない,ない

学校にいるとき,家にいるとき,5教科がある日など

(10)

      Table 6

心のゆとり感肌群による「心のゆとりが必要なとき」の分類

カテゴリs一一一・

轟 圃%

L群(Nニ84)    合計

記述数   %  記述数   % 忙しいとき

焦燥感があるとき

エネルギーが低下しているとき 他者に配慮できないとき 出来事があったとき

うまくいかないとき イベント前

落ち込んでいるとき

感情がうまく機能しないとき 悩み・考え事があるとき 周囲が気になるとき いつも

ない その他 無回答

731944632212445

90ユー       

194099374424911553144732212476 ﹄陸−⊥11      

1⊥

83274422332311護 り々21       

9自

343388446646208374844223323154 りσ9θ1      

2

563688855535559

ハ◎009自¶⊥       り0

279688800080014913944433313315

り0ワ臼−       り4

あった。これらのカテゴリーは,場面や状況についての 記述であり,主観的なゆとり感に着目した作成された本 尺度は心の状態に関する項目が多いため,一致しなかっ たと考えられる。また,「心の充足・開放性」因子と一 致する項目が少なかったのは,本研究の自由記述の刺激 語が心のゆとりのない場面を想起させるものであった点 が挙げられる。これらのことから,今回の研究の結果か らは,妥当性は部分的には支持されたものの,今後,他 の既存の尺度との関連や類似の概念との間の弁別的な妥 当性等についても検討して行くことが必要であると思わ

れる。

 次に,心のゆとり感の高い群と低い群との差異につい て検討するために,心のゆとり感H群,心のゆとり感L 群の全回答数における該当数の割合(%)を算出した結 果をTable 6に示す。各カテゴリーについては,群間に 統計的な差は認められず,〈焦燥感があるとき〉につい てのみ有意傾向が見られた(X2 =325, p<.10)。心の ゆとり感L群は焦りや苛立ちなど主観的体験により心 のゆとりを必要としゃすいと考えられる。統計的な差は 見られなかったが,心のゆとり感H群は〈忙しいと き〉,〈イベント前〉といった客観的状況の記述がL 群よりも比較的多かったことから,心のゆとり感がある

ものは,物理的状況や外的状況により心のゆとりを必要 としゃすい可能性が考えられる。

 また,各カテゴリーについて差が見られなかった点に ついては,心のゆとりをどのようなときに必要とするか

だけでなく,心のゆとりのなさを感じたときの対処,回 復の仕方について考慮する必要があったことが考えられ

る。この点を踏まえて,各カテゴリーについて,考察を 加える。

 〈焦燥感〉はく忙しいとき〉に付随して感じられやす かった。岩野(1974)は,「あせり」について見通しと の関連で,「見通しを正しく立て,行動できるかどうか が焦りを感じるか否かに影響してくる。正確な状況判断 から,きちっと立てた見通しはゆとりをもたらしてくれ る」と述べており,見通しを失うと 心のゆとり を失 いやすいといえる。また,「やらなければならないこと が多いとき」といった物理的な忙しさだけでなく,「課 題に追われているとき」,「時間に追われているとき」な

どといった主観的な感覚として記述されていた。これら は,本人の主体性やペースが失われている時に感じられ る感覚といえる。古川ら(1993)が,ゆとり感の中核と なる「満足安定性」について,「コントロール可能性を 伴う『満足安定性』」と述べていたように,コントロー ル可能性や主体性が失われると,心のゆとり感は失われ る。そのため,このような主に外や周囲との関係でもた らされる状況において,心のゆとり感を持つためには,

主体性やコントロール可能であるという感覚が重要にな ると思われる。また,主体的な体験として語られている ことから,時間や課題に追われているという感覚が,課 題や締め切り前といった物理的条件による部分が大きい のか,それとも日頃から感じられやすいという主体の在

(11)

232 九州大学心理学研究 第9巻 2008

り方による部分が大きいのかといった,パーソナリティ 特性との関連も推測される。

 〈落ち込んでいるとき〉,〈悩みや考え事があると き〉は,頭の中や心を占有する考えや感情がある状態と 考えられる。忙しさが外からもたらされる部分が大きい のに対し,自分の内的感情や思考からもたらされている と思われる。これについては,感情への対処の仕方,体 験の仕方も大きく関わっていると推測される。このこと から,感情との関わり方についても検討することが必要 であろう。

 〈エネルギーが低下しているとき〉に関して記述した ものも,全体の1割強みられた。焦りや切迫感といっ.た 感情面だけではなく,心身の疲れもまた心のゆとり感と 関連している。忙しさや落ち込みからエネルギーが低下 することも考えられる一方で,心のゆとりというと感情 面や心の状態に目が向きがちであるが,そもそも心身相 関といわれているように,体の疲れからもゆとりが失わ れることも考えられる。そのため,時にはゆづくり休養 することも,心のゆとりの回復にとって必要であるだろ

う。

 〈他者に配慮できないとき〉やく感情がうまく機能し ないとき〉,〈周囲が気になるとき〉は,感情が溢れて

くるなど気分が不安定であったり,感情が動きにくくなっ ている場面であり,他者に配慮できずに八つ当たりして しまうなど行動として現れる。また,周囲のことを過度 に意識して,自分の感覚や安心感を抱けずに,自分のペー

スを失っている状況であるとも考えられる。藤原

(1974)は,「ゆとり」ある人間の側面の一つとして,自 己を客観視することを挙げている。自己を客観干するこ とで,目標の設定をし直したり,自分の状態を振り返り,

今は何が必要かを考えることができる。そのため,自分 にゆとりがないと気づくことは,ゆとり回復の一歩とも いえるのではないだろうか。一方で,中井(1976)は,

病者の焦慮と余裕の角逐として「ゆとりが生まれたらす ぐ使いたくなる」と述べ,「『あせりを自覚するほどのゆ とり』が生まれてから,ゆとりを手許においておける程 のゆとり」に至るまでの道程はいかに長いことか」と述 べている。このようなゆとりを失ってから回復する過程

についても今後検討していくことが必要であろう。

総合考察と今後の展望

 本研究では,心のゆとりがない状態とある状態の両側 面に着目して,主観的に感じられる心のゆとり感を測定 する尺度の作成することを試み,「心の充足・開放性」,

「切迫・疲労感のなさ」,「対他的ゆとり」の3因子が抽 出された。「切迫・疲労感のなさ」として,逆転項目か らなる因子のまとまりが得られたことで,心のゆとりが

ない状態とある状態は表裏一体ではなく,この両側面か ら捉えることの有用性が示されたといえよう。また,

「対他的ゆとり」として,周囲との関係性からも心のゆ とりをとらえることができる。さらに,本研究において 作成された尺度は,主観的感じられる心のゆとりについ て捉えているため,この尺度を用いることによって,心 の状態を振り返ることもできると思われる。本研究の対 象者においても,「自分の状態を振り返ることができて

よかった」などの感想もみられ,今置かれている自分の 状態を自他共に把握する際にも利用できると思われる。

 自由記述においては,心のゆとりを失わせるものとし て,主に外側からもたらされるものと内的にもたらされ るものの存在が示唆された。また心のゆとりを持つ上で,

主体性や見通しの在り方,感情対処の在り方が関連する 可能性が示唆され,今後の研究に重要な示唆を得ること ができ,この関連について検討していくことは,心のゆ とりという日常語を通して,心の状態を把握すると共に,

臨床的援助の手がかりともなりうると思われる。

 しかしながら,本尺度にはいくつかの課題が残されて いる。まず,心のゆとりの核の部分となる「気持ちが落 ち着いていると感じる」という項目が,いずれの因子に も該当せず,核となる部分を把握できなかった点があげ られ,今後類似の項目を付加して検討していくことが必 要であろう。次に,信頼性は得られたものの,妥当性は 十分に検討されていない。今後,既存のゆとりに関する 尺度や,精神的健康を測定する尺度との関連を検討し,

本尺度の基準関連妥当性および弁別的妥当性について明 らかにしていくことが必要である。

 また自由記述の結果から,心のゆとり感とパーソナリ ティ特性や感情対処の仕方,心のゆとり感を失った時の 回復の仕方との関連も推察された。今後.心の状態とし てだけでなく,感情対処の仕方,パーソナリティ特性と いった 心のゆとり と関連する要因や, 心のゆとり を回復する過程についても検討することが必要であると 思われる。

引用文献

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藤原喜悦 (ユ974).「ゆとり」ある人間 その性格の心   理学的考察 児童心理,28,65−70.

古川秀矢・山下京・八木隆一郎 (1993),ゆとりの構造    社会心理学研究,9,171−180.

岩野宣哉 (1974).「あせり」の研究 児童心理,28,

  141−147.

(12)

河合隼雄 (1974).カウンセリングにおける「ゆとり」

  カウンセラーの「ゆとり」とクライエントの「ゆと   り」児童心理,28,135−140.

北山修(監修)(2006).日常語臨床語辞典 誠信書房 北爪直美・管野純 (2006).大学生版ゆとり管尺度の作   成及び信頼性・妥当性の検討,6,79−88。

西川隆蔵 (2000).開放性・閉鎖性 青年心理学辞典   久世敏雄・斎藤耕三(監修)福村出版 Pp.178.

佐川由紀 (2005>.プライベート空間の確保と心理的ゆ   とり 学習院人文科学論文集,X IV,229−248.

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  −255.

山田和夫 (1989).ゆとりと心の病い 森亘(著者代表)

   東京大学公開講座ゆとり 東京大学出版会

  Pp59−85.

参照

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