秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
第22号
2000年多文化 コミュニケー シ ョン能力測定尺度作成の試み
†宮本 律子 事 秋 田大学教育文化学部
松 岡 洋子 日 秋 田大学教育文化学部非常勤講師
1998
年
12月,秋 田大学,新潟大学,信州大学,福井大学 の 日本事情 関連授業 の一環 と し て合宿研修 を実施 し,参加学生 に対 して ア ンケー ト調査 を行 った,この調査 を整理, 分 析 した結果
,「 合宿 で学 んだ こと」 につ いての 自由記述 を中心 に異文化 コ ミュニ ケ ー シ ョン 能 力 の要素 に関 して多 くの記述 が あ る ことがわか った.本研究 で は, この分析結果 か ら得
られ た項 目を異文化 コ ミュニケー シ ョン能力 の構成要素 に関す る先行研究 と対照 させ, ホ ス ト文化 で あ る日本 にお け る日本語 を主 と した異文化 コ ミュニケー シ ョン場面 に見 られ る 特徴 を 「 留学生
」「日本人学生」双方 の視点 か ら分析 した.更 に, そ こか ら兄 いだ され た 項 目を教育効果検討 のための尺度 と して試作 した ものを
1999年度 の同様 の合宿 にお いて試 用 した.
キー ワー ド :異文化 コ ミュニケー シ ョン能力,多文化 コ ミュニケー シ ョン,留学生 と日本 人学生,教育効果尺度
1
. 研 究の 目的
複数大学合同多文化合宿 に参加 した学生のア ンケー ト調査 に基 づ き, 多文化 コ ミュニケー シ ョン教育 の 効果 を検討 す るための尺度作成 を試 み る.
2.
研究 の背景
2‑1
.異文化 コ ミュニケ ー シ ョン科 目の創設 宮本
(1995)で は,留学生 と日本人学生 の交流実 態 を調 べた結果,双方 とも交流 の必要性 を感 じて い るに もかかわ らず, その欲求 が満 た されて いない こ とが明 らか にな った.この よ うな状況 の背景 を留 学 生 の側 か ら見 ると,従来 の 日本 語 教 育 が文 法 能 力 , 談話能力,社会言語能力, ス トラテ ジー能力 とい っ た言語能力習得中心 に行われ,効果的な コ ミュニケー シ ョンを行 な うための能力 や スキルの養成 とい う点
2000
年
1月
21日受理
TScalestomeasuremultトCulturalcommunlCa‑
tioncompetence
*RltSukoM IYAMO
T
O,FacultyofEducatlOnand HumanStudies,AkltaUniverslty,Aklta**YokoM ATSUOKA,FacultyofEducatlOnand HumanStudies,AkltaUnlVerSlty,Akita
において不十分 で あ った こ とが考 え られ る.また, 日本人学生 において も,異文化 的背景 を持 った学生 との コ ミュニケー シ ョンに必要 な ノウ‑ ウを ほとん ど持 ってお らず, それを獲得 す る場 もなか った .そ こで,留学生 と日本人学生 との異文化 コ ミュニケー シ ョン活動 の促進 を 目的 と した授業 が,様 々な大学 で実践 され始 めて い る.本学 にお け る日本事 情 の実 践 もそ の一 つ で あ る ( 宮 本 ・松 岡
1999).しか し, そ こで はい くつかの問題 が浮 か び上 が って きた.
( 1 ) 多文化状況 にお ける コ ミュニケ ー シ ョン教育 の 方法論が確立 されて いな い
従来,異文化 コ ミュニケー シ ョン ・トレーニ ン
グといえば, これか ら留学 した り,海外 に行 って
仕事 に従事 した りす る人 たちのための事前訓練 で
あ った り, また,留学生 や研修生 を対象 に, ホス
ト文化 にで きるだ け早 く順応す るための同化教育
的 な もので あ った り した.す なわ ち, そ こで訓 練
を受 ける者 は 「日本人 だ け」 あ るいは 「 留学生 だ
け」 とい うモ ノカルチ ュラルな状況 にあ った .敬
授者 もしくは トレーナー は,対象者 が これか ら遭
遇す るであろう文化摩擦やコミュニケーションギャッ
プについて,知識 を注入 し,対処法 を訓練すれば よか った.このような異文化 コ ミュニケーション ・
トレーニ ングの方法論 は,平和部隊を創設 したア メ リカを中心 にある程度 まで確立 されて きた. し か し,本学での実践 のよ うに, コ ミュニケー シ ョ ン能力の訓練 もしくは養成 の対象者 がマルチカル チュラル ( 多文化的) な状況 にあ って は, どのよ うな項 目を どのよ うな形で訓練す るのか とい う方 法論 が未確立 である.ここ数年 の間 に各大 学 で行 なわれて きた異文化 コ ミュニケ ー シ ョン授業 は, 単 に交流す ることだ けを実践 してきた ものが多 く, 方法論 と して は先 の アメ リカ式 をなぞ って いるも のが少 な くない.今 まで, 日本 の大学 にお け る多 文化状況での コ ミュニケー シ ョン教育 の内容 と方 法論 は議論 されて こなか った.
( 2) 授業効果 の検証法が ない
多文化状況 における コ ミュニケーシ ョン教育 の 効果 を測 る尺度 がない.教 師側か らの評価 と学生 側か らの評価 を どのよ うに行 な うかを確定す る必 要性があ る.
2‑2.異文化 コミュニケー シ ョン教育 と多文 化 コ ミュニケー シ ョン教育
ここで,本研究 における 「 異文化 コ ミュニケーショ ン」 と 「 多文化 コ ミュニケーシ ョン」 の定義 を明 ら かに してお く.倉地
(1992)は 「 異文化 コ ミュニケー シ ョンとは,文化 の壁 を越 え,人間同士 の理解 に向 か う相互 作 用
(interaction)の プ ロセ スで あ る」
と述べている1 ) .石井 ら
(1997)は 「文化 的背 景 を 異 にす る人 たちが, メ ッセー ジの授受 によ り,相互 に影響 し合 う過程であ る」 と定義 づ け
,「異文化 コ ミュニケー シ ョンは異 な る文化背景 の人 たちによる コ ミュニケーシ ョン活動 であるために」同文化 の者 同士 によるコ ミェニケー シ ョンに比べ 「 特別 な注意
と努力を要す る」 と述 べている2 ) .
本研 究 で は, 異 文化 コ ミュニケ ー シ ョ ンと は,
「 文化的背景 を異 にす る人 たちが, メ ッセ ー ジの授 受 によ り行 な う相互作用 のプロセ スであ る」 と定義 す る.そ して, この コ ミュニケー シ ョン活動 上起 こ る相互作用 が同文化間の場合 とは異 な るために必要 な 「 注意」 と 「 努力」 を具体的な行動 に反映 させ る ための知識,情動,行動 な どは習得可能であるとい う前提で, そのよ うな項 目を養成す ることを異文化 コ ミュニケー シ ョン ・トレー ニ ング と呼 ぶ.更 に, 先 の研究 の背景で も述 べ たよ うに,対象者 の文化背
1 0 0
景が一様でない多文化状況の中で必要な異文化 コ ミュ ニケーシ ョン能力 を多文化 コ ミュニケー シ ョン能力 と呼 び, そのよ うな能力 を訓練 した り,獲得 した り す る場 を 「 多文化 クラス」 とい う用語 を もって言及 す る.また, ここで行 なわれ る教育 を,従来 の モ ノ カルチュラル的な異文化 コ ミュニケーション ・トレー ニ ングと区別す るために,多文化 コ ミュニケーシ ョ ン教育 と呼ぶ ことにす る.
3.
課題
以上 の ことを踏 まえ,次 の
2点 を確認 したい.
( 1 ) 留学生, 日本人学生双方 の変化がなければ円滑 な多文化 コ ミュニケー シ ョンは成立 しない
文化的 ・言語 的 ホス トであ る日本人 と,同ゲス トである留学生 とで は以下 のよ うに コ ミュニケー シ ョン活動 にお ける立場 が異 な ることが考 え られ る.
① 日本人学生
・母語 による活動 であ る.
・留学生 との異文化 コ ミュニケー シ ョン能力が 求 め られ る.
②留学生
・外国語 としての 日本語運用力が必要 である.
・文化的ゲス トであ るため,異文化適応 を求 め られ る.
しか し,上記 に見 たよ うに,異文化間の コ ミュニ ケー シ ョンとは,文化的背景 を異 にす る人 た ちが, メ ッセー ジの授受 によ り行 な う相互行為 のプロセス であ るのだか ら, 日本 の大学 における多文化 コ ミュ ニケーシ ョンとい うコ ンテクス トにおいて は,留学 生 のみに適応学習 を課す, あ るいは逆 に日本人学生 のみを対象 に して 「 留学生 との接 し方」 とい った一 方 向的 トレーニ ングをす るので は意味がない.留 学 坐, 日本人学生双方 の変化 がなければ 「 真 の人間同 士 の理解 に向 う相互理解」 ( 倉地) とはな らな いの であ る.
(2)
多文化 コ ミュニケーシ ョン教育 の方法確立 の手 がか りが必要 である
そ こで,本研究 の課題 は 「日本 の大学 における 留学生, 日本人学生 に必要 な多文化 コ ミュニケー シ ョン能力 を探 る」 とい うことにな る.すなわち, 多文化 コ ミュニケーシ ョン能力 の内容検討である.
円滑 な多文化 コ ミュニケー シ ョンのためにはどの よ うな能力が必要 なのか, どのよ うな項 目を取 り
秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
上 げれ ば, 効 果 的 な多文 化 コ ミュニ ケ ー シ ョン能 力養 成 が行 なえ るか を探 る とい うこ とで あ る.
4
. 研 究 方 法
1998
年1
2月 , 秋 田大 学 , 新 潟 大 学 , 信 州 大 学 , 宿 井 大 学 の 日本 事 情 関 連 授 業 の一 環 と して合 宿 研 修 を 実施 し3 ) , 参 加 学 生 に対 して ア ンケ ー ト調 査 を 行 っ た.合宿 後 の 自由記 述 に よ る学 生 の反 応 を次 の 方 法 で整理 ・分 析 した.
a
先 行 研 究 との対 照
b KJ
法 に よ る分 頬
5.
結 果
5‑1.
多文 化 コ ミ ュニケ ー シ ョン能 力項 目 の 抽 出 と分類
異 文 化 コ ミュニ ケ ー シ ョ ン能 力 構 成 要 素 につ いて
の研 究 は ア メ リカを 中心 に多 くな され て い るが, 日 本 で もい くつ か の研 究 が見 られ る
.ガ ウ ラ ン ら
(1996)は
Kim (1991) な ど を参 考 に して 「動 機 ・ 態 度
」「知 識
」「技 能 」 の
3項 目 を提 示 し, 異 文 化 コ ミュニ ケ ー シ ョン能 力 の測 定 尺 度 化 を試 み て い る.石 井 ら
(1997)は 「態 度 ( 認 知 ・情
鰭)」 と
,「行 動
」「 技 能
」「性 格 」 とい う
4項 目を あ げて い る.山岸 ら
(1992)は 「カルチ ュラル ・ア ウェ ア ネ ス
」「自己調 整 能 力
」「状 況 調 整 能 力」 の
3項 目 と これ ら全 て に関係 す る 「感 受 性 」 を異 文 化 環 境 で の成 功 要 因 と して あ げ
,「異 文 化 対 処 能 力 」 測 定 を 試 み て い る
4)( 資料 1参 照 ).これ らの項 目 は個 々 に は重 な る と ころが多 いが, 分 頬 の視 点 が異 な って い る.石 井 らの 「態 度 」 に分 類 され た要 素 は山 岸 らの
「カ ル チ ュ ラル ・ア ウ ェア ネ ス」 に異 文 化 に対 す る 知 識 面 を付 加 させ た もの
,「行 動 」 は 「自 己調 整 能
資料 1 先行研究による異文化 コミュニケー ション能力要素の分類 ( 宮本 ・松岡による作成)
デニス
.S.ガウラン,西田司編
(1996)石井敏他編
(1997)「 異文化コミユニ 山岸みどり他
(1992)「 『 異文化
『 文化 とコミュニケーション
』pp.162‑179ケ‑シヨンハンドブック
」pp一17‑21間能力』測定の試み」
⊆否定的な結果を考えることからくる不安
弓 態度 情緒 ①感情移入 カル ① 自文化 (自己)‑の理
動機 態度 知識
l
技能相手の行動を予測できないことか らく
る不確実感 ②非 自民族中心的態度
チユラ解
③非偏見的態度 ノ アウェ アネス ②非 自民族中心主義 レ ③外国文化への興味 自己の集団の基準で もつて相手を判断
する自民族中心的傾向
認知
①個人的文化的アイデ ンティ ティ保持②個の多様性を知 る
③ 自他文化及 び他者を客観的 相手 の帰属集団に関す る予断 ( 偏見)
文化背景 の異なる相手‑の接近 と回避
の傾向 的な期待をす る⑤専門的な知 に査定す る④肯定的かつ現実 自己 ①寛容性 i 新 しいことや異質なことを積極的に取
1り入れる傾向 ( 不確実性志向) 識を持つ 調整 ②柔軟性 ③ オープンネス
・異なる集E Eに関す る知識 行動 ①対人関係樹立②相互作用 ③尊敬表示④判断留保 .描写 能力
しいカテゴ リーの ー造, しい 青 調整 能力 状況 ① コ ミュニケーション
・の受容,複数の考え方の容認 (マイ ン 的表現( 卦利他的行動⑥ 自発性
技能 ①仕事遂行②言語 .非言語操 情報が不足 してtる状況におLての対
E処 ( 優味 さに対す る許容) 作③機略縦横 ④知的能力
相手の体験 を解釈す る時相手の行動基
準を用 いる ( 感情移入) 上記
3つの要因すべてに関わる項
性格 その 他 ①忍耐②寛容③開放性④粘 り 強 さ⑤率直 さ⑥ 自律性⑦沈着 L相手の行動 に適応,順応 させ る ( 行動
の適応) ①高 い動機 ( など 診異文化への知的好奇心 など 目として 「 感受性」
相手 の行動予測 と説明
力」 と 「状 況 調 整 能 力」 の一 部 ( 対 人 関係 マ ネ ー ジ メ ン ト)
,「技 能 」 は 「状 況 調 整 能 力 」 と, それ ぞ れ 同類 の もの と捉 え られ る.ガ ウ ラ ン らの分 類 は他 の
2つ と比 較 して視 点 が や や異 な るが, 要 素 と して は 類 似 して い る.
本 研 究 で は異 文 化 コ ミュニ ケ ー シ ョン要 素 につ い て の先 行 研 究 を参 考 に ア ンケ ー ト結 果 か ら多 文 化 コ
ミュニ ケ ‑ シ ョン能 力 につ いて の記 述 を取 り出 して ま とめ た.更 に, これ らを
KJ法 に よ り 「行 動
」「技 能
」「認 知
」「情 動 」 に
4分 類 した . ( 資料
2参 照 ).
「行 動 」 は, 多文 化 状 況 にお け る 自 己 の コ ミュ ニ ケ ー シ ョン行 動 を調 節 す る能 力 で, ア ンケ ー ト記 述 に は 「意 欲 を持 つ
」「自分 か ら (コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンの) 機 会 を作 る
」「積 極 的 に行 動 す る」 な ど の よ 資料
2学生が記述 した異文化 コミュニケーシ ョン能力に関する項 目
属性 記 述 分類
‖ じっくり話す
A日 じっくり聞 く
A日 意欲を持つ
A‖ 気軽 に話 しかける
A日 共通点を兄いだす
lA日 考えを出す
A日 自己開示す る
A日 自分か ら機会を作 る
A日 自分か ら話を始 める
A日 自分の意見を表現す る
A= 真剣 に取 り組む
A= 積極的に行動す る
A日 相手 に関心を持つ
A∩ 相手を理解 しようとす る
A= 他人の意見を聞 く
A日 同 じ意志を もつ
A日 文化差を埋 める
A日留 多様 な人 と話す
A日 アイコンタクト.ジェスチャーで意思伝達する
B日 うなず く
B日 経験 を活かす
B日 笑顔で声 をかける
B日 相手の言語能力 に留意す る
B日 聞 き返 して確認す る
B日 話題をどんどん展開す る
B日留 自分の意見を明確 に伝達す る
B日留 語学力をつける
B留 言葉を通 じさせ る
B管 言葉の意味を明確 にす る
B留 多様 な表現方法を使 う
B留 日本語で コ ミュニケーションす る
B留 日本語で表現す る
B留 日本語の知識を もつ
B留 日本語を聞いて理解す る
B日 マイノ リティの心細 さを理解す る
C日 共通性を認識す る
C日 個人差ではない文化差 もあると認識す る
C日 国内にも文化差があることを理解す る
C日 自己理解す る
C= 自分の意見を明確 にもつ
C日 人間の多様性を理解す る
C102
属性 記 述 分類
日 相手の声 ( 本音 .意見)を聞 く
C日 相手文化 について知 る
C日 多様な価値観を認識す る
C日 多様な考えを認める
C日 過去を知 る
C= 各文化を一般化することは難しいと認識する
C日留 】個々に文化があることを認識す る
C日留 国の差 より個人差が大 きい
C= 自国 .他国の状況を知 る
C日留 相手文化 を理解す る
C日留 文化とは個々の価値観,認識の違いだと知る
C日留 違いを認識す る
C日額 違 いを知 り,認 め合 う
C/A日 ふれあいの暖かさを知 る
D= 思 いや る
D日 相手の立場 にたって考える
D日 ∃壁を取 り払 う
D= 勇気を もつ
D日 友情を感 じる
D日 理解 しあ う気持 ちを持つ
■D‖ や る気を持つ
D日留 共感す る
D日留 心 を開 く
D= 仲良 くなろうとす る気持 ちを持つ
D日留 偏見をな くす
D留 信頼す る
D= ユーモアを持つ
D‖ 自信を持つ
D日 】不安を取 り除 く
D日 雰囲気をやわ らか くす る
D<記号 ・略語>
A
‑行動
B‑技能
C‑認知
D‑情緒
日‑日本人学生 留 ‑留学生
<整理 ・分析 したア ンケー トの質問>
1.この合宿 は,普段の授業 と比べて どうで したか.自由 に書 いて下 さい.
2.
この合宿では何を学 びま したか.
3
,この合宿 に関す る感想を自由に書いて下 さい.何で も いいです.
秋 田大学教育文化学部教育実践研究紀要
は行動 を具現化 させ るためのス トラテジーで,記述 には 「 聞 き返 して確認す る
」「話題 を どん どん展 開 す る」 な どの言語 ス トラテ ジーに関す る もの と,
「うなず く
」「アイコンタク ト, ジェスチ ャーで意志 伝達す る」 とい った非言語 ス トラテジーについての 要素が 日本人学生 か ら多 く出 された.「認知」 は, 白文化 相手文化 文化の多様性に関する知識能九 いわば 「 頑」の部分で, 自文化 と相手文化 との違 い と同時 に共通点 を認識す る重要性 についての記述が 目立 った.また,相手の習慣, 状況 につ いて理解 す ること,多様 な価値観を認めること, 自己理解す る ことについての記述 も見 られ る.「情緒」 は認知 に 対 して 「 J L、 」の部分で, コ ミュニケーシ ョンの際の 心的態度である.ア ンケー トには思 いや り,共感 な ど相手 に対す る心情,不安除去, 自己開示 など自身 のコ ミュニケーシ ョン参加 に対す る心情面 の言及が あった.また,留学生か らは
「(相手 を)信頼 す る」
という反応が目立 った.
5‑2.
先行研究 との対照
アンケー ト結果か ら抽出された 「 行動」と 「 技能」
の各要素 は,先述 した石井 らの示す 「 行動
」「 技能」
とそれぞれ重 なる部分が多 い.同 じく 「 認知」 は認 知的 「 態度」
,「 情緒」 は情緒的 「 態度」 と共通す る ものが多 く, この意味で合宿参加者 の反応か ら抽 出 された項 目は石井 らの考 え方 を支持 す る もので あ る.
異文化 コ ミュニケーシ ョン能力 は, 山岸
(1997) が述べているように,異質 な ものへの共感,多元的 な視点,他者 の立場 に立 った思考力,批判的思考力 などが含 まれ るが, それ らが 「 教育実践で育成 され るか どうかについて, まだ十分な確証が得 られてい ない
」5)
.しか し, これ らの先行研究であげ られて い る項 目が合宿 ア ンケー トの記述か ら抽出された要素 と重なることか ら,多文化 コ ミュニケーション能力 について参加者 に意識化 させ る体験学習の場 として 合宿の教育的効果が期待で きる.ただ し, その検証 法 は確立 されてお らず,なん らかの検証法が必要 と
なる.
5‑3.
留学生 と日本人学生の反応差
「 行動」面 で は, 日本人学生 の記述 が大部分 で, 留学生か らは 「 多様な人 と話 をす る」 とい う記述が 見 られただけであ った.「 技能」 で は, 日本人学生 が非言語 ス トラテジーについて多 くの記述 している
が多か った.ゲス ト言語 によるコ ミュニケー シ ョン において言語能力 は重要 な能力であると再認識 され たためであろう.「 認知」 で は, 日本人学生 か ら相 手文化 についての知識の必要性 に関す る記述が出さ れている.日本人学生 は普段留学生を含む異文化 の 人たちとの接触機会が少ないため,今回の合宿 のよ うに密度 の高い異文化接触場面では体験か らの気づ きが大 きか った ことがわか る.一方,留学生 は 日本 人の中に多様性 を発見 し,個人差を認識す ることの 重要性 に気づいたようである.「情緒」 で は, 留学 生 に 「 信頼す る」 と述べているものが多 く, 日本人 に対 して信頼感を持つような関係が構築 され, その 重要 さを認識 した ものと考え られ る.これに対 して 日本人学生 は,勇気,思 いや り,ユーモア, 自信 な ど留学生の態度か ら学んだ ことについて記述 した も のが多 い.
このように,文化的 ・言語的ゲス トである留学生 と同ホス トである日本人学生 とは記述 に差がある.
6.
尺度の試作,試用
以上を踏 まえて,多文化合宿 の効果を検証す るた めの尺度の作成を試みた.本尺度 は, ア ンケー トか ら抽 出 した異文化 コ ミュニケーシ ョン能力の代表的 な項 目か ら構成 されている ( 資料
3参照).
1999
年1 1 月 に前年度 と同様 の合宿を実施 した
6)際, 上記試作版尺度を使用 して,合宿前 の異文化 コ ミュ
ニケーション能力 に対す る自覚 (どの ぐらい大切だ と思 うか) と,合宿時の異文化 コ ミュニケーション 能力使用 に対す る自己評価 (どの ぐらい重視 したか) を比較 した.
全体的な傾向 として,若干なが ら 「 共通点を見出 す」 ( 行動)
,「 身振 り,表情
」「 言語能力」 ( 技能),
「 相手を信頼す る
」「 共感」 ( 情緒) , お よび 「興 味」
は合宿前 に比べ,合宿後 の調査では数値が上が って い る.一方
,「人 の話 を聞 く
」「相手 を尊 敬 す る」
「 積極的に行動す る」 ( 以上
,「 行動」
),「 偏見をな く す」 ( 「 認知
」)の
4項 目は合宿直前 に 「大切 だ」 と 判断 されているにもかかわ らず,合宿直後 には 「あ まり重視 しなか った」 とい う反応がやや増えている.
しか し,数値 としては調査の前後 の差 はほとん ど見 られず,統計的な検討 も行なわなか った.項 目の分 類間の差違 も全体 としてはほとん ど見 られなかった.
ただ し,個 々のデータを詳細 に見 ると個人差があり,
資料
3尺 度 試 作 版
<質問> 合宿前 :どのぐらい大切だと患いますか.
合宿後 :どのぐらい重視 しましたか.
1 2 3 4 5 6 7
a
人の話を聞 く b 相手を尊敬する
C
共通点を発見する
d
自分の意見を言 う
【e
積極的に参加する
【if 身振 り,表情
【g 言語能力
】 ih 相手を理解する
ij 自分を理解する
≡k 違いを認める 1 自分を開 く
m 相手を信頼する ⊆
n
自信をもつ
o
共感 ど i
p
興味 】
q 不安をなくす
S
リーダーシップ
t 我慢強さ
〜u
寛容さ 】
Ⅴ
客観的に判断する
1
‑ぜんぜん重視 しない
2‑ほとんど重視 しない
4‑どちらともいえない
5‑やや重視する
7‑とても重視する
合宿前 後 で反応 が大 き く変 わ って い る参加者 も存在 す る.
7
. 考察 ・ま とめ
多文化 コ ミュニケー シ ョン能力 はさまざまな教育 活動 を通 じて養成 で きるとい う前提 で, 多文化合宿 を行 って い るが, そ こには次 の よ うな不 明確 な点 が あ る.
① 多文化 コ ミュニケー シ ョン能力 の構成要素
② 多文化 コ ミュニケー シ ョン能 力養成 の方法論
③ 活動 の評価方法
④ 自文化 圏で必要 とされ る能力 と, ゲ ス ト文化 圏 にお いて必要 とされ る能力 の差違
104
3
‑あまり重視 しない
6‑かなり重視する
本稿 で は,合宿参加者 に対 す るア ンケー トの 自由 記述 か ら多文化 コ ミュニケー シ ョン能 力 に関す る項 目を抽 出 し,合宿活動 か ら参加者 自身 が認識 す る要 素 が どの よ うな ものか を確認 した.抽 出 され た要 素 は 「行動
」「 技能
」「 認知
」「 情緒 」 の
4つ に分 類 さ れた.これ に基 づ き,合宿活動 の評価 を 目的 と して 評価尺度 を試作 した.
合宿評価 は次 の よ うな 目的で行 われ る.
( 1) 教 師 によ る活動評価
・合宿 でなにが どのように行われ,多文化 コ ミュ ニケーション能力獲得 にどのような効果があっ たかを確認 す ることで,合宿活動 の方法論確 立 の資料 を得 る
秋 田大学教育文化学郡教育実践研究紀要
な う
( 2) 参加者 の自己評価
・参加者が合宿活動 でなにを したか,網羅的 に 振 り返 り, 自己の変化 を認識す る
・参加者 の能力 について意識化 し, 自分 に必要 な能力 を把握す る
今回 は,尺度 を試作 したが,項 目の妥 当性,設問 の方法 な どの検討 は今後 の課題 とな った.検 討方 法 として,先行研究, および自由記述 デー タか ら抽 出 された多文化 コ ミュニケーシ ョン能力 の要素 の重要 度 に関す るア ンケー トを再度行 い,統計的分析 によ り妥 当性 を確認す ることが可能である.また, 合 宿 効果 の検討 につ いて は, 合宿参 加者 と一 般 の学生 ( 合宿 に参加 しない学生) との比較 検討 が まず必 要 である.次 に,合宿前後 の変化 を どのよ うな設 問 に よって明 らか にす るか, い くつかの方法 を試 みて比 較検討す るべ きであろ う.
付 記
なお,本 論 文 は, 平成
9年 度文 部省科 学 研究 費 ( 基盤研究
C「 多文化 クラスの大学 間 お よ び地 域相 互交流 プロジェク トの実施 と評価 に関す る研究」課 題番号
09680297)を受 けて実施 した研究成果 の一部 であ り,香港理工大学 における第
4回国 際 日本語 教 育 ・日本研究 シンポジウム
(1999年 1 1月2
0日) にお ける口頭発表原稿 に加筆修正 を ほどこした ものであ る.共 同研究者 として脇 田里 子 ( 福井 大学 ), 小 山 宣子 ( 弘前大学),徳井厚子 ( 信州大学) ,土屋千尋 ( 愛知県立大学),宇佐美洋 ( 国立 国語研 究所 ), 足 立祐子 ( 新潟大学),押谷祐子 ( 元新 潟大学 ) 各氏 の協力を得 た.
注
1)倉地暁美
(1992),p.1 2)石井他編
(1997),p.73)
この詳細 につ いて は,宮本 ・松岡
(1999)を参 照.
4)
山岸 み ど り他
(1992):「 異文化間能力」測定 の 試み,渡辺文夫編 『 現代 のエスプ リ
299』p.201‑214
5)
山岸 み どり
(1997):異文化 間 リテ ラシー と異 文化間能 九 『 異文化間教育
11』,p.506) 1999
年
11月12日
〜14日に,福島県磐梯国立青年
大学 は秋 田大学,福井大学 .参加者総数 は学 生
50名,教員
8名 .内容 は前年度 とほぼ同 じで, 異文 化 コユニケ‑ シ ョン トレーニ ング, および共 同作 業 を行 った.
<参考文献>
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106
Summary
lnthisstudy,weattempttodevelopscalesto measurestudents'multiculturalcompetence,in ordertodevelopeffectivecross‑culturaltrainlng programslnthecontextofJapaneseuniversity edllCation.ItlSbasedonananalysュsOfaques‑ tionnaireglVentOStudentsparticlpatlnglnan inter‑universitycommunicationworkshopwhich washeldinDecember,1998
Keywords:Inter‑culturalcommunicationcompe‑ tence,MultlCulturalcommunication
,
Forelgn Studentsand Japanesestu‑dents,EffectiveeducatlOnalscales (ReceivedJanuary21,2000)