奈良教育大学学術リポジトリNEAR
児童用領域別効力感尺度作成の試み
著者 桜井 茂男, 桜井 登世子
雑誌名 奈良教育大学教育研究所紀要
巻 27
ページ 131‑138
発行年 1991‑03‑01
その他のタイトル A study of developing a new domain specific efficacy scale for children.
URL http://hdl.handle.net/10105/6764
児童用領域別効力感尺度作成の試み*
桜 井 茂 男"・桜 井 登世子…
(心理学教室) (桜井人間科学研究所)
要旨:小学5、 6年生196名を対象に、新しい「児童用領域別効力感尺度(Do‑
main Specific Efficacy Scale for Children)」の作成を試みた。本尺度には、
Harter (1982)に基づいて、 (1)学業達成、 (2)友人関係、 (3)運動、 (4)自己、の 下位尺度を設定した。各下位尺度は半分の逆転項目を含み8項目で構成された。
分析の結果、いずれの下位尺度も内的一貫性が高く(アルファ係数は.76から .84)、しかも抑うつ傾向および絶望感との相関は予測どおり有意な負の相関を 示した(順に、 r‑‑.38から‑.46、 ‑.49から‑.61)c 今後は、さらに厳密な 妥当性の検討を行い、実用に供したい。
キーワード:効力感、領域特殊性、抑うつ傾向、絶望感、小学生
Bandura (1977)が自己効力感(self‑efficacy) 単に、効力感ともいう‑に関する理論 を提唱して以来、多くの研究により、その精微化と拡張が行われ、現在かなり活発な研究領域と
なっている。効力感とは、ある課題を自分の力で効果的に処理できるという信念であり、 White (1959)が提唱したコンピテンス(competence:有能さ)感という概念とよくにている。ただ、
効力感は、 (1)それぞれの課題状況に特異な信念であり、 (2)その源を単なる動因とはとらえず、 (3) 認知的側面を重視する、などの点でコンピテンス感とは異なるという。しかし、現在のコンピテ ンスに関する研究(Connell, in press ; Harter, 1978 ;桜井・高野、 1985)を概観すると、この 指摘は必ずしも妥当とはいえないように思える。
Banduraは、期待(expectancy)を2つに分けて考えている(図1参照)。ひとっは結果期待 であり、もうひとつは効力感の基礎となる効力期待である。結果期待とは、ある課題を遂行する ことによって、このような結果が得られるであろうという期得である。一方、効力期待とは、あ る課題がこの位はできるであろうという期待である。したがって、効力胡待(効力感)とは、平 たくいえば、ある課題遂行に対する「自信」と表現できよう。そして、結果期待を考慮して効力 期待を定義するならば、自分が意図する結果を生じさせるために必要な行動を、うまくできるか
どうかという自信となる。
Banduraは、臨床心理学の立場から、効力期待が、結果期待や過去経験よりも行動変容にとっ て重要な要因であることを主張する。たとえば、こう行動すればよい結果が得られる(結果期待)
A study of developing a new domain specific efficacy scale for children.
** Shigeo Sakurai (Department of Psychology, Nara University of Education, Nara)
… Toyoko Sakurai (Sakurai Institute of Human Sciences, Mino, Osaka)
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図1効力期待と結果期待の相違(Bandura, 1977)
とわかっていても、あるいは過去に同じような行動によってよい結果を得た(過去経験)ことが あったとしても、現在こう行動することが自分に可能であるという自信(効力期待)がなければ、
当の行動は達成されないのである。
ところで、 Banduraは、効力感をある課題に特異な信念としているが、その一般化も暗示し た。この点を強調したShererら(1982)は、一般化された(generalized)効力感という概念を 導入し、大学生を対象にこの測定を試み、一応の成果をあげている。彼らによれば、成功・失敗 の過去経験は、特定の課題状況に限られない、すなわち、ある程度どの課題にも共通の効力感を 形成するとい、う。
桜井(1987b)は、 Shererらの尺度を参考にして児童用の一般化された効力感(これからは、
単に効力感と呼ぶ)測定尺度を作成し、信頼性と妥当性を確認した後、これと学習行動の結果で ある学業成績との関係を検討した。その結果、効力感尺度の得点が高いほど学業成績も良いこと が明らかにされた。また、この結果は知能の影響を敢り除いても同じであり、このことから、た とえ知能を高めることが困難であっても、効力感を高めることによって学業成績がかなり良くな ることが示唆された。
Shererら(1982)や桜井(1987b)の研究では一般化された効力感を扱っているが、多少一般 化されたというか領域特殊的な効力感も存在するのではなかろうか。コンピテンスに関する研究 では、 Harterらがこのような考え方を実証している。また、効力感を高めようとする時、どの ような領域(たとえば、学業達成領域か、運動領域か、友人関係領域か)の効力感が低いのかを 査定するにも、訓練の結果を確かめるにも、領域特殊的な効力感の測定は有用である。そこで、
本研究では、 Harter (1982)を参考にして、学業達成領域、友人関係領域、運動領域、そして より一般的な自己領域からなる領域特殊的な効力感尺度を児童を対象に作成し、信頼性と妥当 性を検討することが目的である。妥当性の検討は、抑うつ(depression)傾向ならびに絶望感
(hopelessness)との負の関係で検討する。
方 法
被調査者 都内の公立G小学校の5年生3クラス91名(男子52名、女子39名)と6年生3ク ラス105名(男子48名、女子57名)の合計196名(男子100名、女子96名)であった。
質問紙の構成(1)領域別効力感尺度Harter (1982)に基づき、 4つの下位尺度を構成した。
それらは、 (a)学業達成、 (b)友人関係、 (C)運動、 (d)自己、である。最初の3つでは限られた領域の 効力感を測定し、最後の「自己」では自己に統合されたやや高次の効力感、すなわち、文字どお りの「自己効力感」を測定している。最後の自己の領域が、 Shererら(1982)が指摘した一般 化された自己効力感にほぼ対応する。各下位尺度は8項目で構成されたが、その内4項目は逆転 項目であった。したがって、尺度全体では32項目(逆転項目16項目)が用意された(付録参照)0 各下位尺度の項目内容と項目NO (あとの数字が逆転項目のNOを示す、項目NOは付録のそれ
と対応する)は以下のとおりであった。
(a)学業達成:教科(1、25)、授業(5、 13)、成績(9、21)、テスト(17、 29)
(b)友人関係:友達作り(22、 10)、転校時の友達作り(26、 2)、嫌いな人と仲良しになる (14、 18)、好かれる(6、 30)
(C)運動:不得意(15、 23)、能力(27、 7)、体育の成績(12、 ll)、練習(19、 31) (d)自己:人生(32、 8)、幸福(16、 20)、未来(12、24)、生活(28、 4)
いずれの項目も「はい」 「どちらかといえばはい」 「どちらかといえばいいえ」 「いいえ」の4 件法で自己評定するようになっており、効力感の高い反応から、 4、 3、 2、 1点と得点化され
た。したがって、各下位尺度の取り得る得点範囲は、 8点から32点である。
(2)抑うつ傾向尺度 Kovacs (1983)のこども用抑うつ測定目録(Children's Depression Inventory : CDI)の日本語版(桜井、 1987a)が用いられた。 Kovacsの原尺度は、 Beck,Ward.
Mendelson, Mock. & Erbaugh (1961)の成人用抑うつ測定目録(Beck Depression Inventory : BDI)を参考に作成された尺度で、欧米ではこども用として頻繁に用いられている。 27項目の質 問で構成されており、 2週間前から現在にいたるまでの披調査者の抑うつ状態を自己報告させる ようになっている。各項目には、抑うつ傾向の高い反応から2、 1、 0点と得点が付与される。
尺度の可能な得点範問は、 0点から54点である。高得点はど抑うつ傾向が高いことを示す。桜井 (1987a)による日本語版も信頼性と妥当性が確かめられている。
(3)絶望感尺度 Kazdin, French, Unis, Esveldt‑Dawsan, & Sherick (1983)の日本語版(桜 井、 1989)が用いられた。日本語版の信頼性と妥当性は確かめられている。絶望感とは「自分の 将来に対する悲観的な認知あるいは否定的な期待」であり、いわゆる抑うつの核になるものと考 えられている。 17項目からできており、原尺度は「はい」 「いいえ」の2段階評定であったが、
健常児には反応しづらいとの反省から、 「はい」 「どちらかといえばはい」 「どちらかといえばい いえ」 「いいえ」の4段階評定とした。各項目には、絶望感の高い反応から4、 3、 2、 1点と 得点が付与された。尺度の可能な得点範囲は、 17点から68点である。
手続き 上記質問紙が、各クラスごとに集団実施された。
結果と考察
効力感尺度についてまず分析した。下位尺度ごとに項目一全体相関係数を求めたところ、表1
に示されているように、各下位尺度とも.50以上あり、 0.1%水準で有意であった。また、アルファ
係数(表1参照)も最小が.76、最大が.84で十分な内的一貫性(信頼性)が認められた。各下位
尺度の平均と標準偏差が表1に示されているが、得点分布は高得点側に傾いている。すなわち、
本研究における子供達は、かなり高い効力感をいずれの領域においてももっているといえよう。
4つの下位尺度の平均をくらべると、友人関係の効力感がやや低いようである。
下位尺度間相関が表2に示されている。相関係数の範囲は、.48から.65であり、 4つの効力感 は強く結び付いているといえよう。各下位尺度について、学年(5、 6年) ×性(男子、女子) の分散分析を行ったところ、友人関係の効力感にのみ有意な学年の主効果が認められ(F ( 1 , 192) ‑10.28, p‑COl)、 5年生(M‑26.56)の方が6年生(M‑24.57)よりも高かった。
つぎに、抑うつ傾向および絶望感との関係で妥当性の検討を行った。ちなみに、抑うつ傾向の 平均は12.22 (標準偏差は6.65)で、絶望感の平均は34.74 (標準偏差は7.29)であり、アルファ 係数は順に、.83、.78で高い内的一貫性(信頼性)が再度確認された。表2には効力感の各下位 尺度と抑うつ傾向ならびに絶望感との相関係数が示されている。抑うつ傾向との相関は‑.38か
表1効力感下位尺度の平均、 SD、項目一全体相関係数とアルファ係数
下位尺度 〟 Sか 項目一全体相関 α係数
、学業達成 28. 35 3. 80
友人関係 25. 50 4. 1
運 動 28.04 4.42
日 己 27.98 4.41
.57 ㌧71 .80
.54‑ ‑68 .76
.58‑ ‑77 .84
.58‑ .77 .84
表2 下位尺度間相関係数と抑うつ並びに絶望感との相関係数
効力感下位尺度 ④ ㊥ ④ 抑うつ 絶望感
① 学 業 達 成 .52 .64 .65 ‑ .43*** ‑ ‑54
㊥ 友 人 関 係 .48 .61 ‑ .46 .49
㊥ 運 動 .56 ‑ .38 ‑ .42
④ 自 己 ‑ .46 ‑ .61
***P<0.001
表3 抑うつおよび絶望感の上・下位群においた効力感得点の比較
抑 う つ 絶 望 感
効力感下位尺度
上位群(45名)下位群(43名) t (df) 上位群(38名)下位群(39名) t (d/) 学 業 達 成 26.76 30.37
(4.45) (2.73)
友 人 関 係 23.38 28.28
(5.24) (3.62)
運 動 25.89 29. 72
(5.65) (3.42)
己 25. 89 30.30
(5.64) (2.24)
***
4.62 (73.49)
‑.mm. : 5.13(78.47)
:IS:
3.87(72.92)
* * *
4.86(58.08)
25. 18 30. 18 (4.56) (2.50)
21. 42 27.92 (4.30) (4.13)
24. 42 30. 05 (5.49) (2.88)
23. 37 30. 64 (5.28) (1.93)
***
5.94(57.13)
* *串
6.76(75)
:H:
5.62(55.67)
** *
7.99 (46.46)
P<0.001
注) ・抑うつ上位群・下位群は抑うつ得点がそれぞれ、 17点以上、 6点以下である。
絶望感上位群・下位群は、絶望感得点がそれぞれ、 41点以上、 28点以下である。
・ dfが整数値でないものは、ウエルケの方法により検定したO
・ ( )内はSDを示す。
ら‑.46、絶望感のそれらは‑.42から‑.54で、いずれも0.1%水準で有意であった。また、表3 には、抑うつ傾向と絶望感それぞれで上位群と下位群を設定し、効力感の各下位尺度得点を比較 した結果が示されている。相関分析と同じように、すべてに有意な差が認められた。したがって、
本研究に基づく限り、新効力感尺度の妥当性は確認されたといえる0
今後の課題としては、学業達成の効力感が実際に学業成績を予測できるか、友人関係の効力感 が教室での社会的地位を予測できるか、運動の効力感が体育の成績を予測できるか、自己効力感 が自尊感情や達成動機づけを予測できるか、などの予測的妥当性の検討を試みて行きたい。さら
に、親子関係や教師との関係を調べることによって、効力感の形成に及ぼす要因を検討して行き aw
引 用 文 献
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White, R. W. 1959 Motivation reconsidered : The concept of compentence. Psychological Review, 66, 297‑333.
付録 児童用領域別効力感尺度
小(中)学校 年 組 番 男・女 氏名 実施年月日 年 月 日( )
つぎの質問に答えてください。この調査は、学校の成績などとは関係ありませんから、正直に 答えてください。質問は、全部で32問あります。あてはまる数字を、 ○でかこんでください。
い どえ どえ は tsrawa HEl
い らは らい
かい かい と とえ
(例)理科が好きです。
ふとくい
1.不得意な教科でも、できるようになりたいと思い、がんばれば、
とくい
得意になれると恩う。
㊤炭したら、どんなに筋しても、ともだちはなかなかできな いと思う。
5IUI!ヨ 叩
3.がんばれば、体育の成績は良くなると思う。
の楽しい生活は、と悪うに努力しても、でき烹いと思う0 5.その気になれば、授業の内容はたいてい理解できると思う。
す
6.好きな子にきらわれても、その子のためにつくせば、きっと好 きになってくれると恩う。
の烹票気になって練習しても、クラスのともだちと同じようには、
運動できないと思う。
のいくら興法も、自分の箪んでいるX茎はあゆめないと思う0 9.がんばって勉強すれば、成績はよくなると思う。
㊥その気になっても、̲ともだちを作ることはむずかしいと思う。
㊤体育の成績は、どんなにがんば‑てみても、良くならないと思
う。
'jwhk
12.がんばれば、明るい未来がひらけると思う。
◎その気になっても、学校の勉強は、なかなかわかるようになら ないと思う。
14.その子のことを思い、努力すれば、きらいなともぎちとも仲よ くなれると思う。
15.不得意な運動でも、うまくなりたいと思い、努力すれば、得意 になれると思う。
げんざいふこう しJ=うらいこうふく
16.現在不幸でも、その気になってがんばれば、将来幸福な生活 ができると思う。
17.努力すれば、テストで良い点をとれると思う。
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㊥どんなにがんばってみても、きらいな友だちとは柘よくなれな いと思う。
19.練習すれば、いままでできなかった運動もできるようになると 恩う。
㊥現在不幸なら古壷、どんなにがんばっても、不幸は議くと思う。
㊥学校の成績は、いくら努力しても、良くならないと思う。
22.その気になれば友だちの一人や二人はすぐできると思う。
⑲どんなに努力しても、端点な遠義は、得意にはなれないと思
う。
⑳どんなにがんばってみても、自分には萌るい未来はないと思う。
⑮どんなに勉強しても、不得意な教科は、得意にはなれないと思
う。
26.転校しても、ともだちを作ろうとがんばればすぐに友だちがで きると患う。
'ssaww.
27.その気になって練習すれば、ほとんどの友だちができる運動は、
自分にもできると思う。
28.楽しい生活をもとめて努力すれば、きっとそうなると思う。
⑳どんなにがんば‑てみても、テストでは悪い点しかとれないと
[:m
⑳どんなに好きな子がいても、その子が自分をきらいなら、自分 を好きにさせることはできないと思う。
㊨いくら練習したって、いままでできなかった運動ができるよう にはならないと思う。
ていど ねが
32.努力すれば、ある程度、自分の願っている人生があゆめると思
う。い
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終わったら、すべての質問に○がついているかどうか、確かめてください。
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