現代青年の‘心のゆとり’と精神的健康との関連性−心のゆとりの回復という視点から− [ PDF
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(2) 研究Ⅰ 心のゆとり感尺度の再構成. 揺しやすいと感じる」など刺激を受けやすいときに心の. 目的. ゆとりが失われており、時間自由性といった自由な時間. 富田・高橋(2005)の先行研究を踏まえ、新たに項目. だけでなく、自分自身のことについて考えたり、好きな. を付加し、心のゆとり感尺度の再構成を試みることで、. ことができ、充足感を感じているとき、心が落ち着いて. 心のゆとり感について複数の因子を抽出しより詳細にと. いるときに心のゆとりが感じられていることが推察され. らえ、また精神的健康との関連について実証的に検討す. た。以上のことより、本研究で再構成した心のゆとり感. ることを目的とする。. 尺度は、心のゆとり感についてより詳細にとらえること. 方法. ができたといえよう。. 対象:大学生、看護専門学校生、歯科大学生、大学院 生、短期大学生 455 名(男性 189 名、女性 266 名) 。平 均年齢 20.51 歳、SD=2.39、Range=18-29 であった。 調査内容:富田・高橋(2003)の心のゆとり感尺度 36 項目に、今回新たに 34 項目を付加し作成した全 70 項目を暫定項目とし、 「心にゆとりがあると感じる」とい う項目を加え、心のゆとり感に関する 71 項目(6 件法). 2)心のゆとり感と GHQ との関連性 GHQ 尺度について、Likert 法により得点および下位 尺度得点を算出し、心のゆとり感尺度との相関係数を算 出した結果を、Table 3 に示す。 Table 3 GHQ と心のゆとり感尺度の得点との相関 (N=409) ** p <.001 GHQ. 一般的 希死念慮 身体的症状 睡眠障害 社会的活動障害 疾患傾向 うつ傾向. 心のゆとり感 -.617** -.517**. -.317**. -.352**. -.570**. -.510**. と精神的健康に関する尺度として、疾病傾向を把握する. それによると、 「一般的な疾患傾向」 、 「社会的活動の. ために作成された精神保健調査票日本版 GHQ(30 項目. 障害」 、 「希死念慮・うつ傾向」との間に強い負の相関が. 版 )( 中 川 ・ 大 坊 ,1985 )、 適 応 力 の 一 つ と し て の. 見られた。これは心のゆとり感を感じている場合には健. Ego-Regiliency の測定には中尾・加藤(2005)の CAQ. 康状態も良好であると感じており、 「活動的な生活を送. 版 ER 尺度(7 件法)を用いた。. る」ことができ、 「いつもよりすべてがうまくいっている. 結果と考察. ことが」たびたびあり、社会的に適応していると考えら. 1)心のゆとり感尺度の因子分析. れる。また心のゆとり感を感じていないということは、. 因子分析を行った結果、7因子解(51 項目)が適当と判. 切迫感を感じたり、疲労感を感じて心が落ち着かない状. 断した。 各因子の負荷量の高い 3 項目を Table 1 に示す。. 態であり、一方で充足感は感じられていないと考えられ. Table 1 心のゆとり感尺度因子分析( 重みなし最小二乗法、promax 回転) ( 累積説明率は 57.43%). る。そのような場合には、生きる意味などは見いだしに. 項目 第1因子「時間自由性」!=.889 自由になる時間を持っていると感じる 考えごとをする時間を持っていると感じる ぼーっとできる時間を持っていると感じる 第2因子「切迫・疲労感」!=.901 何かをしなければならないという焦りを感じる(*) 焦りを感じる(*) なんだかつらいと感じる(*) 第3因子「充足感」!=.900 充実感を感じる 毎日が楽しいと感じる 自分の生活に満足していると感じる 第4因子「配慮・柔軟性」!=.870 他人のことも思いやれる余裕があると感じる 他人のため、心遣いする余裕があると感じる 自分のことだけでなく人のことも考えられると感じる 第5因子「易刺激性」!=.811 気持ちが動揺しやすいと感じる(*) ささいなことが気になると感じる(*) ちょっとしたことで混乱してしまうと感じる(*) 第6因子「落ち着き」!=.919 ゆったりとした気分であると感じる のんびりとした気分であると感じる 心が落ち着いていると感じる 第7因子「苛立ちやすさ」!=.800 ちょっとしたことで腹を立てていると感じる(*) 理由もなくいらいらする(*) いらいらしていると感じる(*). F1 F2 F3 F4 F5 F6 F7 h2 .840 .773 .718. .689 .454 .513 .824 .769 .741. .533 .607 .721 .931 .834 .753. .700 .702 .599 .856 .819 .814. .802 .690 .647 .759 .731 .544. .654 .505 .479 .895 .751 .631. .639 .763 .616 .712 .599 .698 .606 .673 .644. から、心のゆとり感を持っている人ほど、疾病傾向は低 いと考えられる。 3)心のゆとり感と Ego-resiliency との関連性 ER 尺度の各項目平均値を尺度得点、また ER 尺度の 下位尺度である「私は基本的に不安に強い」などの項目 からなる「対自的 ER」と「私は人から自分に対する好 意や受容を引き出すことができる」といった項目からな る「対他的 ER」の尺度得点を算出し、心のゆとり感尺 度とその下位尺度得点との相関係数を算出した(Table 4)。 Table 4 心のゆとり感 下位尺度. Table 2 心のゆとり感尺度得点 切迫 疲労感. くく、気分は落ち込みやすいと考えられる。以上のこと. ゆとり感. 時間 自由性. 充足感. 配慮 柔軟性. 易刺激性. 落ち着き. 苛立ち やすさ. M. 179.9. 3.79. 3.07. 3.71. 3.88. 3.05. 3.59. 3.63. SD. 35.63. 0.93. 0.98. 0.93. 0.8. 0.91. 0.96. 0.94. 尺度全体ではα=.960 と十分な信頼性が得られた。ま た 「心にゆとりがあると感じる」 という項目との間には、. r =.781 で正の相関が得られ、妥当性が確認された。 切迫感や疲労感を感じていたり、苛立ちやすさや「動. 心のゆとり感尺度と ER 尺度の相関. 時間自由性 切迫・疲労感 充足感 配慮・柔軟性 易刺激性 落ち着き 苛立ちやすさ. Total ER .644** .339** .467** .567** .605** .534** .420** .527**. 対自的 ER .597** .237** .597** .439** .331** .660** .352** .601**. (N=412) 対他的 ER .406** .301** .108* .456** .641** .149** .307** .203 **. その結果、心のゆとり感尺度と「対自的 ER」 、 「対他 的 ER」との間にともに正の相関が確認された。 「対自的 ER」とネガティブな感情に関するものとの相関が高くな.
(3) っていたことから、いらだちや切迫感、疲労感といった ネガティブな感情に圧倒されていないものほど内的適応 力を持っていると考えられる。また、 「対他的 ER」と「配 慮・柔軟性」との相関が高くなっていたことから、心の. Table 4 心のゆとりの回復過程 群 L. M. ゆとり感を持っており他者や周囲に目を向けているもの. D 対人場面→状態 対人行動→状態. ほど、他者とうまく関わる外的適応力を持っていると考. 思考→状態. えられる。このことから、心のゆとり感は状況に左右さ. E. れるが、同じ状況にある中でも、その状況の中で自我を 柔軟に調整する力を持つ人は心のゆとり感が高くなると 考えられる。 以上のことから、心のゆとり感を感じているものほど 疾病傾向が低く、社会的な適応や内的に適応能力を持っ ており、精神的に健康であると考えられる。 研究Ⅱ 心のゆとりの回復過程 −面接法による検討− 目的 青年が心のゆとりを失っているときに、どのように回 復していくのかについて着目し探索的に検討する。 方法 対象:大学生・看護専門学校生 12 名(男性 6 名,女性 6 名) 、平均年齢 20.33、標準偏差は 1.43 であった。 面接調査の内容:心のゆとりを失う場面とその時の心 の状態、またそこからどのように回復していったのかを 先述した 3 段階に焦点を当て尋ねた。 本論では、心のゆとりの回復過程として、①心のゆと りがないと気づいたきっかけ、②そのときにどのように 対処したのかの2点について考察する。 分析方法:心のゆとり感得点の平均値と標準偏差を基 準とし、M+1/2SD より高得点を H 群(5 名) 、 M−1/2SD より低得点を L 群(2 名)、その間を M 群(5 名)とした。 結果と考察 1)全体の特徴 (1)心のゆとりの回復過程の検討 ①心のゆとりを失っていることに気がついたきっかけ カテゴリー化しまとめた結果を Table 4 に示す。ほと んどが複数のきっかけを挙げ、状況によって気づき方は 異なっていた。大きな特徴として、対人場面での行動に よる気づきが見られた。D、F、I は「人にひどいことを 言ってしまって気づく」など無意識の行動をきっかけに 気付いており、ゆとりを失っているときには自分の気持 ちや行動をふだんのようにコントロールすることができ ておらず、それが目に見える形で表現されることによっ て自分の状態と自分との距離ができ、気づいていると考 えられる。 「相手の言葉が受け入れられない」(F)、 「他者 と比較して」 (J)など、自分の内的作業の中で、行動の. 気づいたきっかけ A 思考→状態 対人行動→状態 B 回顧→行動 C 対人行動→状態 行動状態→状態. H. 対処 なし なし なし 気晴らし 思考抑制 サポート. 「気晴らし」. 気晴らし. 「寝る」などの休息→身体の回復. その他. 「落ち込み」による ゆとりのなさへの「気づき」. 思考抑制 気晴らし 状態 気晴らし 気晴らし F 思考→状態 対人場面→状態 サポート 対人行動→状態 解決行動 計画 サポート G 対人行動→状態 身体の状態→状態 計画 再解釈 気晴らし なし I 行動状態→状態 身体の状態→状態 気晴らし サポート 計画 J 対人行動→状態 他者との比較→状態 気晴らし 他者からの指摘→状態 考え込み 気晴らし K 思考→状態 行動状態→状態 再解釈 状態・その時 解決行動 気晴らし N 成績・身体不調→状態 気晴らし O 他者からの指摘→状態 思考抑制 気晴らし 再解釈 回顧→状態 計画 思考→状態. 回復のきっかけ 問題の「解決」 問題の「解決」 「時間」. 「気分転換」 「寝る」→「ちょっとだけ気力がわいてくる」 「周囲の声かけ」or「考え方の切り替え」 (再解釈・計画). 「時間」or「話を聞いてもらって」 「テストが終わって」 「友達に会って...自分なりの結論」 (ソーシャルサポート) 「課題が終わって」+問題の「解消」 「意識転換」(再解釈) 「疲れが終わった瞬間...テストなどが終わ って」 「親同士のゆとり」→「自分のゆとり」 「気持ちの切り替え」 「気持ちの切り替え」. 前段階で気がつくものもいた。青年にとって、対人場面 は他者とともにいることで自分の行動に目が向きやすい ことが考えられる。また、 「マイナス思考になって」 (K) や「いろいろ考え始めると」 (A)のように<思考>の中 でふと気づきが得られることが挙げられていた。藤山 (2000a)はゆとりがないときは、一方向しかみること ができないことを指摘し、 「こころのなかに別の視点が供 給されることで、広がりができる」と述べている。この ことから、考えている対象についてのみ思考が向き、マ イナスな方向という一方向でしか考えられないときには 心のゆとりがない状態であるといえる。その一方で、考 えている自分に客観的にふと目が向くことで、そこに広 がりができ、ゆとりが生み出され、気づきが得られてい ると考えられる。いずれも共通しているのが、心のゆと りのなさへの気づきが意識的に目を向けようとしてもた らされるものではなく、自然ともたらされ、そこに心の ゆとりが生まれていると考えられる。 ②心のゆとりを回復しようと対処する段階 気づいた後の対処について Table 4 を群別にみると心 のゆとり感の得点が高くなるにつれて、<気晴らし>や <思考抑制>などの情動焦点型の対処と同時に<ソーシ ャルサポート>を求めたり、<計画>や<再解釈>など の認知的方略を用いていることがわかる。認知的な対処 とは、ものごとを一つの角度からだけでなく、見方を換 えて複数の視点から多面的にみることであり、そのため.
(4) には心のゆとりが必要である。H 群では心のゆとりがな いと気がついた時点で、ものごとを多面的にみる心のゆ. まとめと今後の展望 本研究では、「周囲のことに目を向けられる状態」と. とりが回復されていると考えられる。一方、M 群では、. いう視点を入れ、心のゆとりを幅広くとらえ、心のゆと. <気晴らし>や<思考抑制>など情動焦点型の対処が行. り感尺度の再構成した。その結果、 「切迫・疲労感」 、 「苛. われている。<気晴らし>をすることによって、問題か. 立ちやすさ」 、 「易刺激性」と「充足感」 、 「落ち着き」と. ら注意をそらし、距離をとることで心が落ち着き、問題. いったポジティブ感情とネガティブな感情の双方を含み、. に対処する「準備状態」としての心のゆとりを作ってい. 「時間自由性」や「配慮・柔軟性」といった行動状態も. ると考えられる。また、M 群では、H 群よりも<ソーシ. 含んだ多様な状態として心のゆとり感をとらえられた。. ャルサポート>を求める傾向にあり、H 群では<再解釈. この心のゆとり感は、心の複雑な様相をとらえる上で有. >や<計画>などを用いて自分で解決する傾向にあった. 効であると思われる。 一方で、 面接調査でも語られたが、. 大桐(1999)が「自然治癒力から考えると、身体の訴. 心のゆとりを失っている状態として「切迫・疲労感」と. えに応じることは、その時の状態に最も適切な対処法と. ともに「苛立ちやすさ」を感じる段階もあるが、より心. なりうる」と述べているように、無理をしすぎずに自分. のゆとりを失っているときには苛立ちなどは感じずに. の状態に即して、心のゆとりがないと気がつく状態で生. 「つらい」 、 「悲しい」という気持ちでいっぱいになり「切. み出された心のゆとりを増大させていくことが必要であ. 迫感・疲労感」を強く感じることもあると思われる。ま. ると考えられる。. た、心のゆとりを感じる場合も心が「落ち着き」ゆとり. 2)事例. を感じている段階や、より心のゆとりがあり「充足感」. 心のゆとり感の各群によって、ゆとりがないと気がつ. を感じて能動性、主体性を発揮している段階もあるだろ. くことで生まれる心のゆとりの意味が異なっていると考. う。このように、本研究では心のゆとり感を尺度でとら. えられる。L 群の A の事例では、気がついた時点で生ま. えた際にその得点を合計して検討してきたが、今後は各. れた心のゆとりが、自分のネガティブな面に目を向ける. 因子の構造や関連についても検討していくことが必要で. ことにつながり、そのことによってまたすぐにゆとりが. あると考える。. 失われている。このことから、気づいた時点で生まれた. また、心のゆとりを失って、それに気がつき回復する. 心のゆとりが、本来の心のゆとりの回復に直接的には繋. 過程について検討することで、心のゆとり感の高い人と. がっていないと考えられる。そのため、心のゆとりを失. 低い人では、気がついた時点で心のゆとりが回復してい. う原因となった問題の解決方法が浮かぶなど、実際に問. る程度やその時に生まれた心のゆとりの活かし方が異な. 題が解決していく中で心のゆとりが回復されていると考. ることが見出された。しかしながら、本研究では対象が. えられる。次の M 群の E の事例では、気がついた時点. 少ないため、より人数を増やし実証的に検証することが. で生まれている心のゆとりは、気持ちの落ち着きを持つ. 必要であろう。また、本研究では心のゆとり感尺度得点. ための対処へとつながっている。そして、その対処によ. の低いもの(研究Ⅰ対象者の下位の 16.3%にあたる M−. ってさらに心のゆとりを生み出していると考えられる。. 1SD の以下のもの)は含まれていなかった。そのため、. この対処と心のゆとりの回復を繰り返しながら、段階を. 本研究では心のゆとりをもともと持っており、それを回. 経て少しずつ心のゆとりを生み出し、本来の心のゆとり. 復していくという視点で検討してきたが、心のゆとり感. を回復していると考えられる。そして、H 群の K の事例. がより低い群や臨床群については、心のゆとり感を持っ. では、気がついた時点で認知的な対処をしていることか. ていることを前提にできるかについて、今後検討する必. ら、ゆとりがないことに気づいた時点で他の群よりも心. 要があると思われる。また、心理臨床場面で心のゆとり. のゆとりが回復していると考えられる。また実際に対処. のなさへの気づきをうながしたり、自発的に生まれた心. をすることで本来の心のゆとりを取り戻していると考え. のゆとりを活かすようにうながす援助が考えられる。こ. られる。このように、心のゆとり感が高い方が、気づい. の点についても今後検討していきたい。. た後よりスムーズに心のゆとりを回復していると考えら. 主要引用文献 藤山直樹 2000a NHK文化セミナー 人間を探る 心のゆ とりを考える 上 日本放送出版協会. 中井久夫 1976 分裂病者における「焦慮」と「余裕」 精神 神経学雑誌,78,58-65. 富田真弓・高橋靖恵 2003 青年期の心のゆとりに関する研究 −自己調整との関連− 日本青年心理学会第 11 回大会発表 論文集 Pp.52−53.. れる。 以上のことから、心のゆとり感の違いは、気がついた 時点で心のゆとりが回復している程度やそのゆとりをど のように活かしていくのかといった違いであると考えら れる。.
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