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過去にまつわる感情に及ぼす比喩機能とPersonality特性との関連 [ PDF

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Academic year: 2021

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(1)過去にまつわる感情に及ぼす比喩機能と Personality 特性との関連 キーワード:比喩機能,Personality 特性,過去にまつわる悲しい感情 人間共生システム専攻 鎌田 智史 Ⅰ.問題と目的. ようになり、以前よりも感情を落ち着いてみることができる. 私達は常日頃から感情を感じている。感情は主観的な体験. ようになる働き。 「遊戯性」 :話がリズミカルになったり、話. であり、その経験をまとまりのあるものとして自分の中にお. がおもしろくなったりするなど遊びと関係がある働き。 「明. さめることや、文字通りの言葉づかいだけでは伝えることが. 示性」:感情が具体的になり、感情を確認する働きであり、. 難しい場合がある。その結果、感情をうまく抱えることがで. 感情と向き合う機能。 「伝達性」 :感情を十分に表現でき、適. きず、経験が整理できないこともある。. 切に表現できる働きであり、他者との関係で重要な役割を果. 心理学の記憶研究からは、過去の経験は現在の自分によっ. たす機能。 「イメージ性」 :イメージが浮かびやすくなる働き. て 再 構 成さ れ る可 能 性 が あ る と述 べ ら れ て い る(遠. であり、自分の感情をイメージ化によって扱いやすくなるこ. 藤,1999;高橋,2000;佐藤,1998)。やまだ(2000)もまた、. と。. 「過去」は固定されたものではなく「現在」のなかにあり、. こうした比喩機能によって過去の悲しみの経験の伝え方. 経験は記憶され、回想されることによって新たな経験を生き. に違いが出ることが考えられる。そこで、本研究では、過去. られると述べている。 以上のように、 過去の経験や感情を「現. にまつわる悲しい感情を比喩で表現することについて、こう. 在」において改めて扱うことの重要性が示唆されるのである。 した比喩機能の観点から検討する。 吉田(2000)は、こうした記憶の性質の中に、比喩(メタ. ここで比喩はあくまで主体が使う道具であり、主体のあり. ファー)と同様の、時を越える共感や共鳴現象の存在を見出. 方によって使い方やその働きは異なることも推測される。実. しており、比喩と記憶の関係が示唆されている。つまり「現. 際聴講生論文(鎌田,2004)では、比喩機能の働き方に個人. 在」と「過去」は、各々に対して影響を与えている。そして. 差が表れることが示唆されており、比喩機能が強く働く人と. この関係は、比喩の「喩えるもの」と「喩えられるもの」の. 弱く働く人がいることが確認されている。ここには比喩機能. 間の相互作用と類似しているため、過去の経験を比喩で表現. を働かせる個人の側の要因も関わっていることが考えられ. することで、変化が生じることが推測される。. る。. 本研究では、抱えることや、整理することが難しい感情、. これに関して、比喩は遊びと非常に似通った性質、たとえ. したがって現在における捉え直しの必要な感情の 1 つとし. ば、非日常性、虚構性、自由性、面白さ、意外性、緊張感な. て悲しみに焦点をあてる。Snyder (1994)は悲しみについて、. どをもつとされる(平賀,1982) 。比喩と遊びの類似性は他の. 多くの場合、意味を見出すことによって、喪失に対処する時. 研究でも指摘されるものであり、個人の側の遊べるか遊べな. に希望や能動性を感じると述べている。悲しみに言葉や意味. いかという要因が、比喩機能の働き方に関与している可能性. を与えることが、悲しみを抱える一つの方法と言えるだろう。 があると思われる。そこで Personality 特性の中でも〈遊戯 こうした言葉や意味の与え方の一つに比喩*が位置づけられ. 性〉が比喩機能に影響されるものとして注目されるものであ. るのである。. る。またその他の Personality 特性と比喩機能の関係を見る. ところで、比喩には比喩機能がある。比喩機能とは、文字. ことにする。. 通りのことを比喩で表現することによって、個人の中になん. 以上のことを踏まえ、本研究では、過去にまつわる悲しい. らかの変化を生じさせる比喩の働きであると定義されるが. 感情の変化と比喩機能、比喩を使用する主体の Personality. (鎌田,2004) 、その分類については、これまでにもいくつか. 特性と比喩機能がどのように関連しているかを、検討するこ. の考察がされている(渡辺,1992;田邊,2002;田畑,1986) 。聴. とを目的とする。その際に、比喩機能の理解を深めることは、. 講生論文(鎌田,2003)では、これらの考察から比喩機能を. 過去を現在において取り扱う際の効果的で、繊細な介入法を. 測定する尺度を作成し、次のような 5 つの機能を見出した。. 探るのに有益な示唆が得られるものと期待される。. 「間接性」 :少し離れたところから感情を見ることができる *. 本研究の比喩 (Barker,P.,1985) ①複雑な状況を、包括的に扱うことを目的に作られた本格的な物語 ②特定の限定された目標を達成することを狙いとする逸話や短い物語③特 定の事項を説明したり、 強調したりするためのアナロジー、 シミリー (直喩) 、 短いメタファーとしての言葉④関係性のメタファー. 1.

(2) 場で実施、または後日回収する方法で質問紙調査を実施し. 分析 1 分析. P 特性. 2-3. 比 喩 機能. 分析 2-1. た。. 感情. Ⅲ.結果. の 分析 1 比喩機能の分類. 変化. 35 項目からなる比喩機能尺度に、因子分析(最尤法、エ. 分析. カマックス回転)を行い、絶対値.35 以上の因子負荷量を持. 2-2. ち、単純構造を示す項目対を基準に選定を行った。結果、5. Figure 1 本研究の分析の流れ. 因子 31 項目を得た。回転後の各項目の因子負荷量と、α係. Ⅱ.方法. 数を Table 1 に示す。. 調査対象:大学生、大学院生 424 名。欠損値のみられた 34 名を除いた男女計 390 名(男性 242 名、女性 148. Table 1 比喩機能の 因子分析(最尤法 ・エカマックス回転後 )の負 荷 量(N=389) 項目内容 F1 F2 F3 F4. 名. F1 「 伝達性」 ( α=.86). M=19.71 SD=2.40)のデータを分析に使用し. 自分の 気持ちを 適切に表現できた. た。. 自分の 気持ちを 十分に表 現してくれたと思った その表 現のほうが伝えやすいと感じた. 質問紙:①感情の強さ:大学生が想起しやすい過. 言いたいことが 強調できた. 去の悲しい体験を、筆者を含む大学院生 3 名で検. イメージとして 伝えやすいと思っ た. 討し、4 場面を設定。それに加え、 「その他」とし. 間接性」 (α= .83 ) F 2  「. 自分の 気持ちに ピッタリ の言葉が 見つかったと思っ た. 自分の 気持ちを 簡潔に表 現してくれたと思った. て対象者がより想起しやすい状況があれば記述し てもらう項目を設けた。5 つの選択肢から、対象 者が経験した類似状況を選択してもらい、十分に 想起してもらった。その後、悲しい感情の強さを 「1.全く悲しくない」から、 「8.非常に悲しい」ま での 8 件法。②比喩で記述:状況全体、もしくは 「とても悲しくなりました」の部分を比喩で記述. 以前と 比べて、その 状況を受 け入れることができたと思った 少し離 れたところからその状 況をみることができた その状 況について以 前より落 ち着いてみることができるようになった 自分のことを客観的にみることができた その状 況についての見かたが 変わった その状 況の今まで気 づかなかった部分 がみえてきた その状 況を頭の 隅に置いておくことができるようになった. ない場合はいずれかの例を選択してもらった。③. 話が広 がると思った 伝えられることが増 えたと思 った 風情がでたと感じた リズミカルになったと思った 新しい 考えが思 い浮かんだ F4 「 解放性」 ( a = .78) 連想がふくらんだ なんだかすっきりした. 比喩機能:鎌田(2003)による比喩機能尺度を一. その状 況が自分 にとってなじみやすくなった. 部修正し、35 項目の比喩機能尺度を作成した。 「1.. 状況が イメージ でき、想像がふくらんだ F5 「明示性」 ( a =.75). あてはまらない」から、 「5.あてはまる」までの 5 件法。(以下比喩機能を「」で囲む。)④5 因子性 格検査短縮版(FFPQ-50):本研究では、藤島・山. h. .71 .66 .54 .53 .51 .50 .42. .08 .12 .01 .21 .08 .03 .06. .19 .17 .15 .26 .20 .24 .10. .19 .32 .40 .17 .21 .19 .09. .20 .22 .31 .15 .29 .30 .35. .62 .63 .56 .44 .44 .44 .32. .11 .07 - .03 .20 - .02 .01 .24. .71 .69 .65 .61 .47 .44 .41. .03 .04 .06 .01 .20 .32 .11. .12 .11 .18 .11 .29 .19 .31. .06 .13 .16 .18 .20 .38 .20. .53 .52 .48 .46 .39 .48 .38. .15 .15 .24 .27 .12 .38 - .07. - .02 .05 .20 .02 .09 .07 .36. .63 .52 .50 .46 .45 .45 .41. .15 .34 .33 .22 .17 .27 .31. - .03 .08 .25 .03 .05 .14 .06. .45 .41 .52 .33 .25 .44 .41. .15 .17 .20 .28. .11 .31 .18 .31. .29 .17 .29 .24. .70 .55 .53 .41. .09 .01 .14 .22. .62 .46 .46 .45. .12 .38 .04 .37 .35 .12 3.24 10.47. .13 .05 .30 .12 .13 .29 3.08 9.95. - .15 .19 - .09 .23 .09 .31 2.61 8.42. .13 - .05 .24 .17 .07 - .01 2.54 8.21. .62 .45 .52 .45 .52 .42 .48 .46 .47 .37 .39 .34 2.49 13.97 8.03 45.07. F3 「 遊戯性」 (a= .79) 話をおもしろくできると思っ た. うまい 表現ができたなと自分 で感心し た. してもらった。比喩の例を 2 例提示し、思いつか. 2. F5. 悲しい 感情を再認識 した その悲 しい感情 の度合い を感覚として 伝えることができた 状況を 自分の中 で確認することができた その表 現が自分の気 持ちをより捉えることができると思った 悲しいという感 情が具体的になった あいまいな状況 が明 確になった. 二乗和 寄与率. 田・辻(2005)に作成された FFPQ 短縮版(FFPQ-50) を使用した。FFPQ は、 〈情動性(ストレスや脅威. 比喩機能: 「伝達性」感情を適切に表現でき、伝えやすくす. へのネガティブな情動の高低) 〉 、 〈外向性(対人関係の消極. る働き。 「間接性」離れたところから状況を見えるようにす. 性―積極性) 〉 、 〈統制性(あるがままの自然性か意思的統制. る働き。 「遊戯性」状況をおもしろくできたりするような遊. か) 〉 、 〈愛着性(他者との関係についての自主独立的か親和. びの働き。 「解放性」緊張の緩和が生じ、以前の状態から比. 的か)〉、〈遊戯性(堅実な現実的か柔軟な遊びか)〉の 5 つ. 較的自由にする働き。 「明示性」感情の再認識や感情を具体. の特性から構成されている。本研究で用いるのは、 〈遊戯性〉. 的に捉える働き。. が含まれているからである。50 項目からなり、 「1.全くちが う」から、 「5.全くそうだ」までの 5 件法。(以下〈〉で囲. 分析 2 Personality 特性と比喩機能と悲しい感情の関連. む)⑤比喩使用後の感情の強さ:比喩の記述後に、悲しい. 2-1 比喩機能と悲しい感情の関連. 感情の強さを①と同様の 8 件法で尋ね、更に感情の変化の. 悲しい感情の変化を目的変数とし、比喩機能 5 因子のそ. 程度を、「1.弱くなった」から、「5.強くなった」までの 5. れぞれの得点の平均値を説明変数とした強制投入法による. 件法。⑥その他の変化:「ある」か「ない」の 2 択。 「ある」. 重回帰分析を行った(Table 2)。その結果、悲しい感情の. を選択した人に、自由記述を求めた。. 変化は、「明示性」と「伝達性」に対してβが正に、「間接. 調査時期:2005 年 11 月∼12 月に、授業中に配布し、その. 性」に対して負に有意な値を示した。. 2.

(3) Table 2 悲しい感情の変化を目的変数、比喩機能を説明変 数とする重回帰分析( 標準偏回帰係数) (N=388) 悲しい感情の変化 「 伝達性」 .162 ** 「 間接性」 - .136 ** 「 遊戯性」 .084 ns 「 解放性」 - .014 ns 「 明示性」 .222 ** 2 .114 ** 説明率(R ) (** p<.01 * p<.05 †p<.10). Table 4 〈外 向 性〉の高 群・低群 と「伝 達 性」の平 均 値(標準偏差 ) と分散分析結果 N Low群 N High群 F値 P 3.01 「 伝達性」 200 < 180 3.20 4.69 * (0.89) (0.84) (* * p<.01 * p<.05 †p<.10). Table 5 〈統 制 性〉の高 群・低群 と「明 示 性」の平 均 値(標準偏差 ) と分散分析結果 N Low群 N High群 F値 P 3.28 「 明示性」 192 < 188 3.45 6.29 * (0.78) (0.76) (* * p<.01 * p<.05 †p<.10). 2-2 Personality 特性と悲しい感情の変化の関連 悲しい感情の変化を目的変数とし、FFPQ5 因子を説明変数 とした強制投入法による重回帰分析を行った。その結果、. Ⅳ.考察. すべての Personality 特性に対する有意なβは示されなか. 分析 2 より、Personality 特性と比喩機能に関連があり、. った。. 比喩機能と感情の変化に関連がみられた。Personality 特性 と感情の変化の関連は小さいことが確認できた。以下にそ. 2-3 Personality 特性と比喩機能との関連. れぞれの関係をより詳細に考察した。. まず Personality 特性の〈遊戯性〉の高低によって、比 Personality 特性 → 比喩機能 → 感情の変化. 喩機能に違いが見られるかを検討した。 〈遊戯性〉の平均値 で高群・低群に分けた。各群の人数および比喩機能の平均 値は Table 3 に示した。. Personality 特性と比喩機能の関係. 〈遊戯性〉を独立変数、5 つの比喩機能を従属変数とする 1. 分析 2-3 より、 〈遊戯性〉の高群は低群に比べて、すべて. 要因分散分析を行った(Table 3 ) 。 〈遊戯性〉高群は、低群. の比喩機能 がより 高く働いていることが示された。辻. よりも「遊戯性」、「解放性」、「伝達性」が有意に高かった. (1998)によれば、 〈遊戯性〉の高い人は、「非日常的経験. (F(1,377)=7.35,p<.01、F(1,378)=5.86,p<.05、F(1,378)=. を楽しむことのできる『遊び心』 」があり、同時に、現実世. 5.21,p<.05)。また〈遊戯性〉高群は、低群よりも「間接性」 、. 界と非日常世界を自由に行き来できる柔軟性を併せ持つ人. 「 明示性 」が高いという 有 意 傾 向が示 された. であるとされている。思考の柔軟性、好奇心、空想的とい. (F(1,378)=3.52,p<.10、F(1,378)=2.89,p<.10) 。. った創造的な認知活動に関わる性格である人のほうが、そ うでない人に比べて、自分の気持ちを適切に表現できたり、. Table 3 〈遊戯性〉の高群・低群と比喩機能の平均 値(標準偏差)と分散分析結果 N Low群 N High群 F値 P 3.00 3.20 「伝達性」 190 < 190 5.21 * (0.92) (0.81) 2.89 3.05 「間接性」 190 < 190 3.52 † (0.83) (0.82) 2.42 2.65 「遊戯性」 189 < 190 7.35 * * (0.77) (0.82) 2.58 2.81 「解放性」 190 < 190 5.86 * (0.85) (0.96) 3.31 3.45 「明示性」 190 < 190 2.89 † (0.81) (0.76) (* * p<.01 * p<.05 †p<.10). 連想がふくらみ、話が広がるようである。少し離れたとこ ろから状況をみることができたり、感情を再認識できたり する傾向も確認できた。 〈情動性〉、〈外向性〉、〈統制性〉、〈愛着性〉のうち、比 喩機能との関連が確認されたのは、 〈外向性〉における「伝 達性」と、 〈統制性〉における「明示性」であった。 つまり、外向的な人、刺激を求め活動的である人の方が、 比喩を使うことで、自分の気持ちを適切に表現できたと思 う傾向があることが確認できた。またはっきりした目的意 識を持ち、その目的を目指して事物を意識的・合理的に統 制し、むだなく計画的・効率的に生きようとする傾向が高 い人は、比喩の使用によって、感情を再認識するようであ る。それ以外の Personality 特性には、比喩機能の働きと. 他の Personality 特性について同様の検討を行ったとこ. の関連があまりないようである。. ろ(Table 4、Table 5) 、〈外向性〉における「伝達性」に. 比喩と遊びが関係あることが先行研究で述べられていた. 有意差が見られ(F(1,378)=4.69,p<.05) 、 〈統制性〉におけ. が、本研究でも、比喩を使用する人の遊戯的な特性の強い. る「明示性」に有意差がみられた(F(1,378)=6.29,p<.05)。. 人が、その機能がより強く働くことが確認された。. 3.

(4) Personality 特性と感情の変化の関係. 認されなかった。その結果、比喩機能は全ての Personality. 分析 2-2 より、Personality 特性と過去にまつわる悲しい. 特性から影響を受けるものではなく、比喩使用者の〈遊戯性〉. 感情の変化には関係が見られなかった。これらの間には別. が、比喩機能の働きに対して重要な影響を及ぼすことが示唆. の要因の存在が推測されるが、その1つに比喩機能が考え. された。 これは、 遊べる人と、遊べない人との間に見られる、. られる。これは、比喩を使用した人だけを見ても感情の変. 比喩機能の働きの違いである。遊べる人は、より自由に比喩. 化は分からない。その変化を推測するために、比喩機能の. を能動的に使用し、比喩機能がより働く可能性が示された。. 働きを考慮に入れることの必要性が示唆された。. また、比喩機能の働きによって、過去にまつわる悲しい感 情の変化には強まったり、弱まったりする差異があることが. 比喩機能と過去にまつわる感情の変化の関係. 見られた。しかし、比喩機能の影響は大きいとはいえず、回. 分析 2-1 より、「伝達性」と「明示性」の働きで悲しい感. 答の中に、 「色々な感情がごちゃごちゃまぜだったが整理さ. 情がやや強まり、 「間接性」の働きで感情がやや弱まるとい. れた。」と述べられており、強弱のみでは説明できない変化. う傾向が見られた。したがって本研究の結果は、過去にま. が確認できた。例えば、悲しみ自体は全体的には弱まってい. つわる悲しい感情に対して比喩を使用することで、自分の. るが、部分的には強まっているなど、強さの意味付けが変わ. 気持ちを適切に表現できることや、悲しい感情を再認識す. った場合がうかがえる。今後は、比喩機能により影響を与え. ることで強まる傾向がある。また比喩の使用で、少し離れ. る他の要因について検討すること、強弱以外の変化の測定な. たところからその状況をみることができるようになり、悲. ど、課題が残った。. しい感情が弱まる傾向があることを表している。. 最後に、本研究の限界と今後の課題を述べておく。一般的. しかし、回帰分析の結果、説明率が低いことから、過去. に非臨床群は、遊ぶことも可能であり、比喩を使用すること. にまつわる悲しい感情に及ぼす比喩機能の影響は比較的少. が可能であると考えられる。しかし、臨床におけるクライエ. ないことが確認され、比喩機能のみが感情の変化に著しく. ントは、遊べない、つまり〈遊戯性〉が低いことが多い。今. 影響を及ぼしているとはいえない。このことから、感情の. 後の研究では、臨床群を対象にし、 〈遊戯性〉並びに、比喩. 変化と関係している他の要因も推測される。本研究では、. 機能の働きを検討することは有効ではないだろうか。. 過去を想起し、その過去の経験をもとに比喩を作る作業を. また吉良(2002)は、強い情緒を感じている時には、われ. 行なうことで、想起する時点では起こらなかった変化を本. われはその情緒のまっただ中にあり、それを客体として対象. 人が意識しているかを尋ねた。その結果、390 人中、107 人. 化して眺めることは難しいと述べているように、比喩にでき. が「ある」と答えている。その変化を言語化できた人もい. ない感情の存在も忘れてはならないだろう。. れば、 「比喩の使用によってどのように変化したかを自分. 以上比喩について、様々な観点から考察してきた。しか. の中で区別することが難しかった」と、その変化をうま. しこれらは一般的な見解である。今後は事例研究として、. く言語化できない人も確認された。つまり意識でうまく. 対人関係の場面で表現される比喩や、やり取りの中で生じ. 処理できないが、実際の変化は必ずしも言語化されたもの. る比喩の展開を考察することも必要だろう。. だけでは説明できないだろう。 これは意識されたことのみが結果となる質問紙調査の限. Ⅵ.主要引用文献. 界を示している。感情の強弱という変化以外の側面につい. Barker, P. 1985 Using Metaphors in Psychotherapy. New. て調べる必要がある。また、あくまで今回述べる感情の「変. York : Brunner/Mazel. (バーカー. 化」は一時的なものであり、少し弱くなったり、強くなっ. 川. たり、すぐに元に戻ったりしているかもしれない。また強. 剛出版). くなったから悪い、弱くなったから良いというものではな. P. 堀 恵・石. 元(訳) 1996 精神療法におけるメタファ− 金. 藤島寛・山田尚子・辻平次郎 2005 5 因子性格検査短縮版. い。そして、変化を対象者がどれほど捉えているか、過去. ( FFPQ-50 ) の 作 成. の悲しみを抱えることが、本人にとってどのように意味づ. (2),231-241. けられているかということも重要な視点だろう。. やまだようこ. パーソナリティ研 究. 13. 2000 人生を物語ることの意味 人生を物. 語るー生成のライフストーリー ミネルヴァ書房 Ⅴ.まとめと今後の課題. 吉田裕午. 本研究から、5 つの Personality 特性の中でも、主に〈遊. 2000 記憶という織り込み 広島文教女子大学. 紀要 35,103-112. 戯性〉が、比喩機能全般に影響を与えることが確認されたが、 他の Personality 特性と比喩機能の間には、あまり関連が確. 4.

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参照

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