組織におけるTransactive Memory Systemの有用性に関する研究 [ PDF
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(2) 研究Ⅰ 目的 組織における TMS の形成促進要因の検討 企業に勤める人々の多くは,スピード化する時代の流れの もとで,時間的な制約を感じながら業務をこなしているケー スが大半である。 本研究では,この「時間的な制約によって生じる切迫感」 を「タイムプレッシャー」と定義し,TMS との関連性につ いて議論する。タイムプレッシャーは,客観的な時間の締め 切りの強度を指す場合と,期限の設定によって生じる主観 的な側面があると考えられるが, 「プレッシャー」という点 を考慮すると,時間的な制約からもたらされる感覚と位置 づけられる(Hendy, Liao, & Milgram, 1997)。 従来の研究では,タイムプレッシャーは,焦りや不安感 などのネガティブな感情状態をもたらし,ヒューリスティ ックスな意思決定,ヒューマンエラーなどをもたらすもの として,取り上げられてきた。これらの研究で注目されて いるプレッシャーは,過度のプレッシャー,あるいは,急 性のタイムプレッシャーであることが特徴である。 その一方で,適度なプレッシャーは,動機付けを高め, パフォーマンスの促進につながることも示唆されている。 Baer & Oldham(2006)は,企業を対象とした質問紙調査を 実施し,タイムプレッシャーと従業員の創造的な活動との 間に逆 U 字関係の相関があることを報告している。 Transactive Memory に関してWegner(1991)が行った単語の 記憶課題を用いた実験は,制限時間内にどれだけ効果的な パフォーマンスが発揮されるかについて検討するものであ った。この点を鑑みると,TMS は認知的な負荷に対して適 応するための機能的なメカニズムであると解釈できる。 以上の点から,タイムプレッシャーの認知は,TMS の形成 の程度に正の影響を及ぼすと推測される。 他者の専門性を理解し,信頼し,相互に調整を行うとい う TMS の要素を考慮すると,組織における職務葛藤との関 連性についても検討する必要があると考えられる。 近年では,TMS と職務葛藤との関係性についての研究も 行われるようになってきており,Rau(2005)は,トップマネ ジメントチームのパフォーマンスを検証する中で,関係葛 藤と TMS とのネガティブな関連性を指摘している。 このことから,対人関係に関するもつれは,TMS に負の 影響をもたらすと推測される。また,職務に関する課題葛 藤に関しては,問題に対して建設的な取り組みを行う事で, TMS の形成にポジティブな影響をもたらすと推測される。 Baer et al.(2006)の研究から,タイムプレッシャーと創 造的な活動との関係性は,経験の開放性(Openness to. experience)によって調整されることも示唆されている。ここ での開放性は,個人特性として測定がなされているが,本 研究では組織学習という枠組みを用いることから,組織レ ベルでの経験の開放という点で検討を行う。 組織における経験の開放は,職場における話し合いと捉 えることができるだろう。予備調査における行動観察を通 して,企業は,何か問題が生じたとき,あるいは日常的に, 打ち合わせや反省会を行っていることが明らかとなった。 打ち合わせや反省会を通して行われる相互の意見交換によ って,その都度情報を更新し,目標や行動を修正している と考えられる。 TMS は,役割分化,信頼感,相互調整という 3 側面によ って構成され,成員間の相互作用によって形成されると考 えるならば(e.g. Lewis, 2003; Lewis,et al. 2005),このような職 務に関する普段のコミュニケーション(職務協議)が,情報の 蓄積,共有,ひいては,TMS の形成につながるものと推測 される。 そのため,職場内での話し合いは,TMS の形成の程度に 正の影響を及ぼすと予想される。 方法 調査対象者: 調査対象となった企業は,マスコミ 32 名(女性 8 名,男性 23 名,不明 1 名,平均年齢 34.97 歳,SD=7.99),造船 16 名(女 性 0 名,男性 16 名,平均年齢 37.25 歳,SD=13.70),小売 8 名(女性 0 名,男性 8 名,平均年齢 43.86 歳,SD=9.87),製 錬 8 名(女性 3 名,男性 5 名,平均年齢 45.71 歳,SD=11.34), 食品46 名(女性22 名, 男性24 名, 平均年齢38.05 歳, SD=9.81) の 5 つの企業であった。 調査実施時期:2010 年 12 月中旬から下旬であった。 測定項目:(1)タイムプレッシャー認知(TP 認知):予備調査の 結果をもとに,「仕事をする上で,時間的な制約を感じるこ とがある」などの 4 項目を独自に作成し,「まったくない[1] ~非常によくある[7]」の 7 件法で回答を求めた(α=.85)。 (2)職務葛藤:Jehn(1995)を参考に「あなたの職場では,職務遂 行に関する意見の不一致はどれ位ありますか」 , 「あなたの 職場では,メンバー間のいさかいはどれ位ありますか」な ど 8 項目を作成し,「まったくない[1]~よくある[5]」の 5 件 法で回答を求めた。因子分析の結果,因子間で高い相関 (r=.91, p<.001)が認められたため,1 因子とした(α=.87)。 (3)チームの話し合い(職務協議):Tjosvold et al.(2003)を参考 に「私達は,目的を達成できるよう,異なった方法につい て話し合う」 , 「私達は,お互いに効果的に働けているかど うか,いつも議論する」など 10 項目を作成し,「全くあては まらない[1]~よくあてはまる[5]」の 5 件法で回答を求めた (α=.91)。.
(3) (4)TMS:Lewis(2003)を参考に, 「私は,メンバーの中で誰が. そこで,研究Ⅱでは,TMS の形成の程度と組織のパフォ. どの領域の専門知識を持っているか分かっている」(TMS 専. ーマンスとの関連性について検証する。特に,TMS の形成. 門分化), 「私は、業務に関する他のメンバーの知識を信頼で. 促進要因と TMS の 3 側面(専門分化,信頼感,相互調整)が,. きる」(TMS 信頼感), 「私達のチームは、上手く調整しなが. 成員のパフォーマンス認知にどのような影響過程がみられ. ら一緒に職務に当たっている」(TMS 相互調整)などの 15 項. るかを検討することを目的とする。. 目を作成し,「全くあてはまらない[1]~よくあてはまる[5]」. 2. 組織における TMS の時系列比較. の 5 件法で回答を求めた(TMS 全体の信頼性係数は α=.78)。. 組織は,時間の経過と共に発展することもあれば,衰退. 結果と考察. する事もある。その要因を明らかにすることが,研究の社. TMS の形成の程度を予測する仮説モデルを検討する目的で. 会的意義を高め,組織や産業の発展に寄与するものと考え. 共分散構造分析を行った。その結果,図 1.のモデルが得ら. られる。TMS と時間経過との関連性については,一般的に,. れた。適合度も十分な値が示された(χ2(5)=3.383. 時間の経過と共に TMS が自然発生的に生成されるものと. ,p=.641,. 捉えられているが(Wegner, Erber,& Raymond,1991), 「時. GFI=.989, AGFI=.952, RMSEA=.000)。 **. .25. TP認知. TMS 専門. .23**. ***. .33. 職務協議 職務. e. 葛藤. 2004)。 そこで,本研究では,組織における TMS の形成. .15. ***. .35. 間」を考慮に入れた研究は,ごくわずかしかない(e.g., Lewis,. e. TMS 信頼. .31*** .65** *. -.24***. TMS 調整. e. 促進要因の影響力について,同一企業を対象に縦断的な調. -.01. .35* **. e. 図 1 TP 認知,職務葛藤と職務協議が TMS に及ぼす影響 タイムプレッシャーの認知は,メンバーの専門性に対する. 査を行い,変化の程度を明らかにする。 方法 調査対象者: 研究Ⅰに引き続き協力を得られた 2 社(マスコミ,食品) を調査対象とした。一般企業に勤務する 185 名から回答が 得られ,項目に欠損のない 160 名(女性 60 名,男性 99 名,不明 1 名)を分析対象とした。調査対象者の平均年齢は,41.26 歳. 認識(役割分化認識)および,メンバーに対する信頼感に直接. (SD=11.53:Range=20 歳-63 歳),平均勤続年数は 13.93 年. 影響を与えていた。同時に,タイムプレッシャーの認知は,職. (SD=9.72:Range=0.30 年-43.30 年)であった。. 場における話し合い(職務協議)を介して,TMS における信頼. 調査実施時期:2011 年 7 月上旬から中旬であった。. 感や相互調整を予測することが示唆された。. 測定項目:(1)タイムプレッシャー認知(TP 認知),(2)職務葛. また,職務葛藤は TMS の相互調整との間で負の影響がみ. 藤, (3)チームの話し合い(職務協議),(4)TMS の測定に関して. られた。本調査における「職務葛藤」は,課題葛藤と関係葛. は,研究Ⅰと同様の質問項目を用いた。加えて,予備調査. 藤の弁別が難しく,もめ事やいざこざとしてのネガティブ. をもとに独自に作成したチームのパフォーマンスに関する. な側面が強く表れたものと考えられる。これらの結果から,. 7 項目について尋ねた。. タイムプレッシャーの認知は,職務協議および TMS の形成. (5)チームのパフォーマンス: 「私達の部署は,仕事の処理速. の程度に影響力を持つことが示された。. 度が速いと思う」など 2 項目(生産性認知:α=.80), 「私達. 研究Ⅱ 目的 1. TMS が組織のパフォーマンスに及ぼす影響の検討 研究Ⅱでは,TMS の形成の程度が成員のパフォーマンス に及ぼす影響を検討する。 これまでの先行研究によって,TMS は,パフォーマンス の向上と関連性がみられることが指摘されている (Liang,Moreland,& Argote,1995)。TMS 研究の当初は,TMS と記憶成績との関連性を示したものであったが (Wegner,1987),役割分担が共有され,相互に信頼し,調整 しあうことによって,組織におけるパフォーマンスも促進 されると予想される。. の部署は,チーム内での連携が良くとれていると思う」 , 「私 達の部署は,仕事上のミスが少ないと思う」など 5 項目(ア ウトカム認知:α=.85)について, 「全くあてはまらない[1] ~よくあてはまる[5]」の 5 件法で回答を求めた。 結果と考察 TMS が組織のパフォーマンスに及ぼす影響の検討 研究Ⅰの結果を踏まえた上で,タイムプレッシャー認 知,職務葛藤,職務協議の各変数が,TMS の形成の程度, 生産性,アウトカムに対して,どのような関係性がみられ るかを明らかにする目的で,これまでの仮説をもとに共分 散構造分析を行った。適合度指標および修正指標をもとに, モデルの修正を繰り返し,最終的に,図 2 のモデルを採用 した。ここでは,誤差の表示は省略する。.
(4) R2 =.13. .16*. TP 認知. .31***. .17* .07. .20*. .17*. 専門 TMS. .07. 職務協議. .37***. 職務. -.18**. 葛藤. -.27***. 生産性. 2. 後の 2011 年 7 月時点では,タイムプレッシャー認知から職. R =.39. 調整,信頼への影響力も減少することが明らかとなった。. アウトカム さらに,7 月時点では,タイムプレッシャー認知から TMS. の信頼に対する直接の影響力がやや高まることも示され,. .46***. TMS. いう,一連の関係性が認められた。その一方で,約 7 ヶ月 務協議への有意な影響が認められず,職務協議から TMS の. -.23** .30***. 信頼. -.15*. R2 =.11. .24***. R2 =.05. R2 =.01. .04. 協議への影響,職務協議から TMS の各変数に対する影響と. TMS. タイムプレッシャー認知からダイレクトにTMSへつながる. 2. 調整 R =.20. 注 1) *** p <.001, ** p <.01, * p <.05. 関係性が示唆された。. 注 2) χ2(8)=11.27 ,p=.19, GFI=.99, AGFI=.92, RMSEA=.05. 総合考察. 図 2 TP 認知,職務葛藤,職務協議が. 研究Ⅰでは,①タイムプレッシャー認知,職務協議が. TMS および結果変数に及ぼす影響. TMS の形成の程度に正の影響を及ぼすこと,②職務葛藤は. 組織における TMS の時系列比較. TMS に負の影響を及ぼすことが明らかとなった。研究Ⅱで. TMS の形成の程度に関する,タイムプレッシャー認知と. は,①専門分化および相互調整が,成員のパフォーマンス. 職務協議の影響力の強さが,測定時点によって変化するか. 認知に正の影響を持つことが明らかとなり,②研究Ⅰおよ. 否かを検証する目的で,2 時点での多母集団同時分析を行っ. び研究Ⅱの時系列比較の結果から,TMS に対する職務協議. た。第 1 研究,第 2 研究共に協力を得られた 2 社のデータ. の効果は 7 ヶ月経過した時点では,減少する傾向にある事. を抽出して分析を行った。. が示された。. その結果,図 3 および図 4 のモデルが得られ,適合度も. 特に,タイムプレッシャー認知から職務協議の影響力が. 十分な値が示された。なお,図 3 は,研究 1(2010 年 12 月時. 減少した点に関しては次のような解釈が考えられる。研究. 点)のデータを分析した結果であり,図 4 は,研究 2(2011 年. Ⅰの時点では,タイムプレッシャーを感じる中であっても,. 2. R =.16. 7 月時点)のデータを用いた結果である。. TMS 専門. R2 =.44. R2 =.14 ***. .37. TP 認知. .66. 職務協議. 連携をとる状況がうかがえる。一方,7ヶ月経過した研究 Ⅱの時点では,TMS の形成水準が高まったことにより,コ. .20†. .27*. 職務完遂が求められるために成員間で話し合い,効果的な. ***. TMS 調整. ストを要する話し合いを媒介せずに,お互いの専門性を認 識し,信頼し,相互に調整することが可能になったと推測 される。. .38***. .09 注 1) *** p <.001,. **. R2 =.18. p <.01, * p <.05. 注 2) χ2(2)=.77 ,p=.68, GFI=.99, AGFI=.98, RMSEA=.00. TMS 信頼. 図 3 TP 認知と職務協議が TMS に及ぼす影響 TMS 専門 .17* .08. TP 認知. .31. R2 =.01. 職務協議 .17*. 注 1) *** p <.001,. **. p <.01, * p <.05,. †. 合いを通して TMS の形成が促進されることが,一連の研究 結果から推察される。本研究の結果は,コミュニケーショ ンを通して,成員間の役割が明確化し,特に,相互調整行. R2 =.13. (2010 年 12 月時点). 仮説で示した通り,組織においては,職務に関する話し. 動を促進する(Hollingshead, 1998)という知見を支持する結 果と言えるだろう。 主要引用文献. ***. R2 =.13 .36***. TMS 調整. 注 2) χ2(2)=.77 ,p=.68, GFI=.99, AGFI=.98, RMSEA=.00. In S. T. Fiske., D. T. Gilbert., & G. Lindzey (Eds.), Handbook of Social Psychology (5th ed.), Vol.2.,1208-1251, John Wiley &. .07. p <.10. Hackman, J. R., Katz,N. (2010). Group Behavior and Performance.. 2. R =.03. TMS 信頼. 図 4 TP 認知と職務協議が TMS に及ぼす影響 (2011 年 7 月時点) 多母集団同時分析の結果から,タイムプレッシャー認知,. Sons. Hollingshead, A.B. (1998). Communication, Learning, and Retrieval in Transactive Memory Systems. Journal of Experimental Social Psychology, 34 (5), 423-442. Wegner, D.M. (1986). Transactive memory: A contemporary. および,職務協議が TMS の各変数に与える影響力は,時点. analysis of the group mind. In B. Mullen & G. R. Goethals. 間で違いがみられる事が明らかとなった。. (Eds.), Theories of group behavior: 185–208. New York:. 2010 年 12 月時点では,タイムプレッシャー認知から職務. Springer-Verlag..
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