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水災害リスク認知に関する研究

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水災害リスク認知に関する研究

著者 坪井 塑太郎

出版者 法政大学地理学会

雑誌名 法政地理

巻 51

ページ 71‑80

発行年 2019‑03‑20

URL http://doi.org/10.15002/00021670

(2)

J. Geogr. Soc. Hosei Univ.

51, 71-80 (2019. 3)

Ⅰ.はじめに

 わが国の都市の多くは,河川河口部の低平な沖 積層上に立地し,人口や資産の多くが集積してい る.同地においては,都市化の過程で過剰な地下 水揚水等による地盤沈下に起因し,広範囲で海抜 下の地域が形成されるなど洪水災害に対する脆弱 性が指摘されている.洪水対策に対するわが国の 取り組みの転換点となったのは,2000 年に発生 した東海豪雨災害がその代表的なものであり,翌 2001 年の水防法改正を契機に洪水ハザードマッ プの作成が全国的に進められた・2016 年 3 月末 時点では,浸水想定区域に含まれる 1,311 の自治 体のうち,97.9%にあたる 1,284 の自治体におい て 既 に 作 成 と 公 開 が 行 わ れ て い る( 内 閣 府,

2016).しかし,近年の地球規模での温暖化に伴 う洪水リスクの上昇を背景として,2010 年に中 央防災会議から「大規模水害対策に関する専門調 査会報告・首都圏水没被害軽減のためにとる べき対策とは」(中央防災会議・大規模水害 対策に関する専門調査会,2010)が公表されて以 降,自治体においては,被害想定の見直しや,タ イムラインを導入した災害対策の見直しなどがす すめられている.

 ところで,河川に隣接した地域においては,旧 来その多くが地形と利水の利便性を背景に水田と しての土地利用が行われてきた.しかし,都市化 過程で農地転用等により宅地化が進む中で,急激 なスプロールにより狭隘な道路の中に街区が形成

されたことにより,現在もその形態が残存するな ど,地震災害に対して脆弱な地域も見られる.

 河川近傍における災害と社会に係る根幹的な既 往研究の系譜では,天災の克服を基調にしながら も人災の要因を検討した研究(小出ほか,1954)

を契機に,災害を通して見た地域開発の課題(菊 地,1960),被害者の社会階層性(石井,1958),

地域の脆弱性克服のためのリスク把握や具体的対 策手法(井関,1974)に関する研究へと発展・展 開している.

 わが国はその地勢上,毎年,台風や前線の通過 地にあたるため,雨水に起因するリスク管理は重 要な課題として位置づけられ,都市水文学におけ る確率降雨モデルや雨水流出解析等に関する研究

(長尾,1975;端野,1986)のほか,施設整備に よる浸水リスク低減効果に関する研究(服部,

1967;宮村,1980)や,災害時の情報に関する研 究(東京大学社会情報研究所,2013)がみられる.

近年では,特に洪水ハザードマップ整備の推進に 応じて,住民の認知や避難行動などに与える影響 を検証した研究(片田ほか,2004;山田ほか,

2008)などが数多く蓄積されてきている.これら の研究では貴重な知見・示唆が提示されている が,近年の災害においては地震災害直後に豪雨に 見舞われる事例が発生するなど,「複合災害」視 点での検討も重要な課題となってきている.地震 災害と洪水災害では,発災までの情報量や予測可 能性,突発性,被災地域の限定性等においてリス ク意識・避難行動等が異なることが想定される が,前掲の中央防災会議・大規模水害対策に関す

第 1 回例会・基調講演

荒川下流域における居住者の地震・洪水災害 リスク認知に関する研究

坪井塑太郎

(3)

る専門調査会の報告書の中では,従来,都市にお ける大規模地震・火災対策のひとつとして位置付 けられてきた「広域避難」を,大規模水害発災時 の対応にも援用し,その取るべき対策指針を示し たものとなっているなど,災害の特性の違いを考 慮しながらも両者を一体的に把握・対応していく ことが求められてきているといえる.そこで,本 研究では,東京東部の沖積低地に位置する荒川下 流域の沿岸居住者を対象として,同地域における 地域構造を考慮しながら,「地震災害」と「洪水 災害」の双方からリスク認知の特性を把握し,避 難対応行動(予見)とその課題を明らかにするこ とを目的とする.

 なお本稿は,2018 年度法政大学地理学会の第 1 回例会シンポジウム:共通テーマ「東京の水環境 の現状と課題」において発表を行った内容をまと めたものである.

Ⅱ.調査地域概要と研究方法

 東京東部を流下する荒川は,1910 年(明治 43 年)の関東大水害を契機に洪水対策としての放水 路計画が策定され,1930 年の竣工後,80 年以上 を経たわが国でも有数の規模を持つ人工河川(放 水路)である.同放水路の完成後においては,堤 防決壊による洪水被害は発生していないものの,

1947 年(昭和 22 年)のカスリン台風では,埼玉 県熊谷市久下地先における荒川中流域の破堤によ り,洪水流が最下流部の江戸川区,江東区にまで 達し,物的・人的に甚大な被害を及ぼした歴史を 持つ.

 本調査は,近年においても荒川の洪水災害発生 時に広域な浸水被害が想定される下流域の 2 市 8 区(全 10 自治体)(第 1 図)を対象として実施し た.分析の際に用いる「右岸」「左岸」については,

荒川左岸自治体(5 市区)=江戸川区・葛飾区・

足立区・川口市・戸田市および荒川右岸自治体

(5 区)=板橋区・北区・荒川区・墨田区・江東 区とし,地震災害における地域危険度構造の分析 に際しては,町丁目までを視野に入れ検討する.

 当該地域は,広く海抜下の地域(ゼロメートル

戸田市

川口市

足立区

葛飾区

江戸川区 板橋区

北区

荒川区 墨田区

江東区

0 3km

左岸 右岸

0 5km

綾瀬川

隅田川

新中川

江戸川 荒川

0 5km

(m) 15 10 5 3 1 0 -1

第 1 図 研究対象地域

第 2 図 河川網図 第 3 図 標高地形図 地帯)を含み,古くからの洪水災害の常襲地域と しても知られるが,1930 年の荒川放水路完成以 後においては,一応の治水成果が得られている.

しかしながら,近年の都市型集中豪雨頻度の増大 や温暖化による海面上昇が懸念される中,洪水災 害を念頭に置いたリスクマネジメントは喫緊の課 題である.

 本調査地域は,低平・軟弱な沖積低地上に位置 し,荒川をはじめ多数の中小河川が流下している

(第 2 図).また,江戸川区,江東区の一部では広 く海抜ゼロメートル地帯が形成されており(第 3 図),洪水災害の発災時には,長期間の湛水が懸 念されるなど,水害の危険性の高い地域ともなっ

(4)

東京の水辺環境と水害

ている.調査にあたっては,地震災害・洪水災害 双方に対する「リスク認知」「危険度評価」「発災・

避難行動」「地域力評価」「避難情報認知」に関す る質問項目(第 1 表)で構成する質問紙調査票を 用いて,無作為抽出法による留置郵送回収法によ り 実 施 し, 総 計 697 部 の 回 答 を 得 た( 回 収 率 23.2%).

 調査票質問文と尺度の設定に当たっては,主観 的な評価意識を取得する観点から,「そう思わな い」から「そう思う」までを,「ふつう・どちら ともいえない」を中間点とする 5 段階尺度を採用 し,リスク認知の項目では質問文「(地震・水害)

は恐ろしいと思う」(恐怖感)・「(地震・水害)は 身近な問題だと思う」(身近さ)に対して,それ ぞれ回答を得た.

 調査の概要および回答者の基本属性を第 2 表に

示す.また,本調査では,河川からの距離による リスク認知の特性を検討する観点から,荒川の左 右岸別,堤防からの距離別(1 km 毎)に 5 区分 を設置し,各距離帯において 60 部ずつ(1 自治 体あたり 300 部)の調査票配布を行った.第 3 表 に,自治体・距離帯別の回答者数を示す.

 本研究対象地域の地域構造を人口変動からみる と,2000 年から 2010 年にかけて全体で 8.9%の 増加率がみられ,このうち,最も高い増加率を示 したのは江東区の 22.3%であり,次いで墨田区の 14.3%であった(第 4 表).これを年代別の増減 率 で み る と,30~40 歳 代 に お い て 江 東 区

(47.2%),墨田区(32.5%)と高い増加率を示し ている.江戸川区と江東区の 5 歳区分の年齢別人 口変化をみると,江戸川区の場合は,各コーホー トが 10 年後においてほぼ同様の人口構成形状で 移行するのに対し,江東区では,30~40 歳代に 人口のピークがみられたほか,「0~4 歳」「5 歳~

地震災害 リスク認知

倒壊/火災危険意識 避難/逃遅危険意識 発災可能性意識

浸水到達予測時間 避難開始予定時間

ハザードマップ認知 避難勧告認知 避難情報認知

日常的近隣交流評価 災害時近隣協力評価 危険度評価

発災・避難行動 地域力評価

※ 水害対策要望

恐怖感×身近さ 恐怖感×身近さ 洪水災害

発災可能性意識

配布数 3000部

回収数 697

回収率 23.2%

項目 人数 割合

男性 363 54.8%

女性 300 45.2%

無回答 34

20代以下 44 6.4%

3097 14.1%

40代 103 14.9%

50代 129 18.7%

60163 23.7%

70代以上 153 22.2%

無回答 8

5年未満 85 12.7%

510年未満 70 10.5%

10~20年未満 72 10.8%

20年以上 442 66.1%

無回答 28

性別

年齢 概要

無作為抽出法 留置郵送回収 1自治体×300

居住歴

第 1 表 調査票設問項目

第 2 表 調査概要と回答者基本属性

1 2 3 4 5 江戸川区 18 8 9 22 3 60

葛飾区 12 16 4 10 9 51 足立区 4 9 15 20 6 54 川口市 27 6 9 4 17 63 戸田市 19 17 18 16 13 83 江東区 6 14 11 9 26 66 墨田区 20 15 16 12 16 79 荒川区 21 13 15 16 15 80 北区 28 27 9 15 21 100 板橋区 14 11 15 12 4 56

無回答 5

総計

荒川堤防からの距離 自治体

第 3 表 左右岸・自治体・距離帯別の回答者数

3040歳代

2000 2010 増減率 増減率

江戸川区 619,121 672,607 8.6% 21.1%

葛飾区 421,496 442,511 5.0% 13.7%

足立区 616,064 679,811 10.3% 23.4%

川口市 459,806 499,336 8.6% 19.7%

戸田市 107,964 121,886 12.9% 19.4%

江東区 376,784 460,810 22.3% 47.2%

墨田区 215,865 246,637 14.3% 32.5%

荒川区 180,441 199,875 10.8% 26.7%

北区 326,671 331,366 1.4% 14.7%

板橋区 512,459 523,948 2.2% 12.7%

全体 3,836,671 4,178,787 8.9% 22.3%

左岸

右岸

総人口

第 4 表 自治体別人口と増減率

(5)

9 歳」のコーホートがそれぞれ増加している(第 4 図).また,第 5 図に示す町丁目別での人口増 減数をみると,人口が大きく増加した江東区では 湾岸地域における大型集合住宅の供給を背景とし ており,「若年夫婦とその子供」によるファミリー 層の「都心回帰」が人口増加の要因となっている ことが特徴となっている.

Ⅲ.地域危険度の変化と地震災害   リスク認知

 本章では,研究対象地域における地震災害に関 する地域危険度と居住者のリスク認知に関する検

討を行う.

 地域危険度は東京都震災予防条例に基づき 5 年 毎に,震災対策事業の優先度や地震災害に対する 住民への啓蒙,防災まちづくりのための指標を目 的として 1975 年より実施され,2013 年調査(第 7 回)の最新統計では,「建物倒壊危険度」「火災 危険度」およびこれら各々の危険度の和からなる

「総合危険度」の 3 指標により町丁目単位で 5 段 階(1:低危険度 ~5:高危険度)の危険度評価 が行われ公開されている(東京都都市整備局,

2013).また,同調査からは従来までの指標に加 え,災害時の避難や消火・救援活動のしやすさ

(困難さ)を加味するため「災害時活動困難度」(災 害時の活動を支える道路等の基盤状況を評価する 指標)を考慮した危険度の測定と公表が行われて いる.

 第 6 図に 2013 年調査(第 7 回)の総合危険度 を示す.地域危険度評価は,東京都のみを対象と した公開データであるため,本研究対象地域のう ち,埼玉県川口市と戸田市は Missing Value(欠 損値,以下同じ)として表示している.

 総合危険度は,概ねその範囲は環状 7 号線より 内側に存在しながらも荒川の左右岸沿川に沿っ 第 4 図 5 歳区分年齢別人口変化(2000~2010 年)

第 5 図 町丁目別人口増減数(2000~2010 年) 第 6 図 総合危険度(第 7 回)2013 年調査

0 20000 40000 60000 80000

0-4 5-9 10-14歳 15-19歳 20-24歳 25-29 30-34 35-39歳 40-44歳 45-49 50-54 55-59歳 60-64歳 65-69 70-74 75歳-

江戸川区

2000年 2010年

0 20000 40000 60000 80000

0-4 5-9 10-14歳 15-19歳 20-24歳 25-29 30-34歳 35-39歳 40-44歳 45-49 50-54 55-59歳 60-64歳 65-69 70-74 75歳-

江東区

2000年 2010年

0 5km

人口増減数(2000-2010)

10,000(人) 5,000 1,500 増加 減少

0 5km

総合危険度(第7回)

1 2 3 4 5 missing value

(6)

東京の水辺環境と水害

て,広い範囲で高い危険度が分布していることが 特徴となっている.

 地域危険度評価は,特定の地震を想定した被害 予測ではなくその地域が持っている危険性,脆弱 性を「相対的」に評価したものである.そのため,

当該地区(町丁目)において,経年的に危険度評 価に変化がない場合においても,他地域の危険度 評価が減少・低減することで相対的に危険度評価 が上昇するため,厳密には時系列での比較は適切 を欠く.しかし,本研究では地域の危険度構造を 踏まえた居住者の地震災害全般に関する認知や対 応を検討する観点から,「域内の変化の動向」を 示すことに重点を置き,その動向が相対変化量で ある点に留意し解釈を行った.

 第 7 図に第 5 回調査(2003 年)から第 7 回調 査(2013 年)までの 10 年間における評価値の変 化を,第 5 回を起点とした増減量で示す.プラス 表示は,相対危険度が増加し,マイナス表示は相 対危険度が減少していることを示す.

 荒川に隣接する地域では依然として高危険度な がらも土地区画整理事業等を契機に安全化が進ん でいる反面,右岸の北区,板橋区の一部では,相 対的に悪化している地域もあり,土地・建物の更

新が進んでいないことがその要因として考えられ る.第 8 図と第 9 図にそれぞれ「火災危険度の相 対変化」と「建物倒壊危険度の相対評価」を示す.

前者においては総合危険度と同様,北区,板橋区 において相対危険度の上昇が見られたが,後者で

第 7 図 総合危険度の相対変化(2003~2013 年)

0 5km

総合危険度変化(5回/7回)

+3 +2 +1 0 -1 -2 -3 missing value

第 8 図 火災危険度の相対変化(2003~2013 年)

第 9 図 建物倒壊危険度の相対変化(2003~2013 年)

0 5km

火災危険度変化(5回/7回)

+3 +2 +1 0 -1 -2 -3 missing value

0 5km

建物倒壊危険度変化(5回/7回)

+2 +1 0 -1 -2 missing value

(7)

は荒川および江戸川に隣接する地域において相対 危険度の減少が見られることが特徴となっている.

 本研究では,地震災害リスク認知について居住 者の主観的評価において「危険だと思う」(-2 点)

から「安全だと思う」(+2 点)を,0 点を中心点 とする片側 2 尺度の全 5 段階評価により取得を 行った.設問項目は「地震倒壊危険」,「火災延焼 危険」,「地震避難危険」および「地震逃遅危険」

について,それぞれ自治体別に平均値を集計し,

結果を第 10 図(左岸),第 11 図(右岸)に示す.

葛飾区,荒川区,江東区において,「地震倒壊危 険」「火災延焼危険」ともマイナス評価(危険評価)

の絶対値が 1 を超え,高い地震災害リスク認知が あることが示された.本調査は調査票配布地点の 設計上,第 7 図~第 9 図に示す相対変化の地域全 体の特徴と必ずしも一致するものではないが,全 体として左岸より右岸地域のほうが高いリスク認 知傾向がみられることが特徴となっている.

Ⅳ.洪水災害リスク認知

1.水害による浸水被害経験

 本調査の回答者中,床上・床下浸水を合わせた

浸水被害経験の割合は,全体で 24.3%であった.

地域別では,江東区において 47.6%と最も多く,

次いで葛飾区(34.0%),川口市(30.2%)であっ た(第 12 図:p 値(有意確率)が 0.05 未満を統 計的に有意とみなす.以下同じ).また,居住歴 別では,「20 年以上」における被災割合は浸水被 害経験者全体の 81.4%を占めているが,「5 年未 満」「5~10 年未満」の合算値において,10.9%を 占めている(第 5 表).近年においても発生して いる本地域の被害は,低平な地形的要因に加え,

局所集中的な豪雨(ゲリラ豪雨)等による内水氾 濫がその要因となっているものと推察される.

第 12 図 地域別浸水被害経験(p < 0.05)

第 13 図 距離帯別の洪水災害発災想定(p < 0.05)

第 5 表 居住歴・年齢別浸水被害経験 第 10 図 左岸地域における地震災害リスク認知

第 11 図 右岸地域における地震災害リスク認知

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

戸田市 川口市 足立区 葛飾区 江戸川区

地震倒壊危険 火災延焼危険 地震避難危険 地震逃遅危険

-2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 1 1.5 2

板橋区 北区 荒川区 墨田区 江東区

地震倒壊危険 火災延焼危険 地震避難危険 地震逃遅危険

0% 20% 40% 60% 80% 100%

江戸川区(58名)

葛飾区(50名)

足立区(52名)

川口市(63名)

戸田市(81名)

江東区(63名)

墨田区(77名)

荒川区(74名)

北区(93名)

板橋区(54名)

床下浸水経験あり 床上浸水経験あり 直接被災なし

10.7%

28.4%

20.5%

20.2%

22.3%

18.2%

23.9%

23.2%

25.8%

30.6%

23.3%

19.4%

20.5%

20.2%

22.3%

22.0%

16.4%

23.2%

23.4%

15.7%

25.8%

11.9%

12.5%

10.5%

9.1%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

1㎞(159名)

2㎞(134名)

3㎞(112名)

4㎞(124名)

5㎞(121名)

そう思わない あまり思わない 普通 ややそう思う そう思う

501人 75.7%

全体 割合 (床下浸水) (床上浸水) 全体 割合 5年未満 5 (3.2%) 5 0 78(16.0%)

5-10年未満 12 (7.7%) 10 2 56(11.5%)

10-20年未満 12 (7.7%) 10 2 58(11.9%)

20年以上 127 (81.4%) 69 58 296(60.6%)

未回答 5 13

13-19歳 0 (0.0%) 0 0 16(3.1%)

20-29歳 2 (1.3%) 1 1 26(5.1%)

30-39歳 9 (5.6%) 8 1 84(16.8%)

40-49歳 16 (9.9%) 11 5 85(17.0%)

50-59歳 34 (21.1%) 23 11 93(18.6%)

60-69歳 44 (27.3%) 27 17 113(22.6%)

70-79歳 47 (29.2%) 24 23 78(15.6%)

80歳以上 9 (5.6%) 3 6 6(1.2%)

居住暦

年齢 項目

161人 24.3%

(8)

東京の水辺環境と水害

2.地域・距離帯別の発災想定

 第 13 図は,「荒川による洪水災害の被害を受け やすい地域であると思うか否か」に関する主観的 な発災想定を「そう思わない(低想定)」から「そ う思う(高想定)」までを,距離帯別に全回答者 の傾向を 5 段階で示したものである.本図より,

河川から近距離に居住する回答者の方が高い発災 想定を持つ傾向が示された。

 第 14 図は,荒川堤防からの地域別・距離帯別 に発災想定に対する「ややそう思う」「そう思う」

を合算した「高発災想定者」の割合を示したもの である.本調査における距離帯別の回答者数のば らつきは無視し得ないが,統計学的検定における 有意性を確認したうえで,分析結果の解釈を行っ た.本図より,河川近傍における高発災想定の存 在が認められ,荒川からの距離が遠くになるにし たがってリスク認知が低下する距離減衰の影響が み ら れ た. し か し, 荒 川 左 岸 地 域 の「4 km」

「5 km」の距離帯において,高い発災想定がみら れたのは,千葉県との境界に位置する江戸川によ る発災が想定されたものと考えられる.このほ か,左岸地域全体では,「ややそう思う」「そう思 う」の合計が 41.6%であったのに対し,右岸地域 全体は 29.1%であり,左岸のほうが高い発災想定 が見られた.これは,右岸の調査地域に含まれる 北区および板橋区の回答者の一部が崖線上に居住 していることがその要因として考えられる.この ように,居住者自身がもつ発災の想定は,地理感

覚にあたる地形認知等が起因して発現した可能性 が考えられる.

3.地域・年代別の発災想定

 リスク認知は,不確実な事象に対する主観的確 率や損失の大きさの推定,不安や恐怖,楽観,便 益,受け入れ可能性(受容)などの統合された認 識指標であり,災害に対する居住者のリスク認知 構造の把握は,社会的対応方策を検討する観点に おいて重要な意味を持つ.一般にリスクは「災害 の発生確率」と「損害規模」の積によって表され るが,本研究では,リスクに対する主観的評価で あるリスク認知について,発生確率を「発生の身 近さ」,損害規模を「恐怖感」として,普通評価 を中間点とする 5 段階尺度法(-2 点~+2 点)

による計測を行った.本来,河川の決壊箇所等に よりリスクが異なることが想定されるが,本研究 では,荒川下流域のどの地点においても決壊の危 険を有するという前提に立ち,調査票には同内容 の説明を付したうえで,決壊箇所の特定を行わず に質問文の設計を行った.分析に当たっては,リ スク認知要因として想定される浸水被害経験と年 齢との関係において有意性の認められた年齢別に おける地域との位相を示す(第 15 図).本図より,

年齢別では,年齢層が上がるほどリスク認知が高

第 14 図 地域別・距離帯別の高発災想定者割合(p < 0.05) 第 15 図 地域別・年齢別リスク認知の空間布置

68.8%

37.5%

25.0%

22.2%

33.3%

72.7%

43.8%

25.0%

80.0%

55.6%

33.3%

33.3%

20.0%

21.1%

33.3%

29.2%

33.3%

44.4%

50.0%

25.0%

52.6%

40.0%

70.6%

57.1%

25.0%

0.0% 50.0% 100.0%

1km2km 3km4km 5km1km 2km3km 4km5km 1km2km 3km4km 5km1km 2km3km 4km5km 1km2km 3km4km 5km

戸川区葛飾区足立区川口市田市

33.3%

69.2%

36.4%

22.2%

31.8%

47.4%

6.7% 35.7%

45.5%

26.7%

61.1%

30.8%

46.7%

42.9%

7.1% 40.7%

0.0%3.7%

21.4%

15.0%

28.6%

18.2%

16.7%

0.0%0.0%

0.0% 50.0% 100.0%

1km2km 3km4km 5km1km 2km3km 4km5km 1km2km 3km4km 5km1km 2km3km 4km5km 1km2km 3km4km 5km

江東区墨田区川区北区板橋区

川口市 戸田市

板橋区

北区 江東区

荒川区

墨田区 足立区

葛飾区

江戸川区

20代以下 30代

40

50 60 70代以上

0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6

0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2

発災

恐怖感

(9)

まる特性が見られ,地域別では,左岸地域の川口 市,葛飾区において特に高いリスク認知が見られ た一方,右岸地域の荒川区,北区などにおいては 地形的要因から,やや低い傾向が見られた.

4.居住者の避難行動意思と課題

 荒川下流域における破堤による浸水時間の想定 は,決壊場所のシナリオ設定によっても異なるも のの,最下流までは短時間で浸水域が拡大し,被 災想定域全体で 100 万人を超える被害人口が想定 されている.第 6 表に,発災後の主観的浸水到達 予測時間と避難開始予定時間の関係を示す.本表 より 30 分以内の避難開始者の割合は 59.3%であ り,31~60 分以内の避難開始者の割合と合わせ,

全体では 82.6%が避難を開始する意思が表明され た.本調査回答者全体のハザードマップと避難勧 告等の情報認知割合はそれぞれ 68.5%,68.1%と 高く,一定の理解が得られているものと考えられ るが,併せて,取得した水害対策に対する自治体 への要望のうち最も多かったものは「避難場所と 方法」(回答者全体の 71.9%が選択)であった(第 16 図).これは,流域の居住者にとって,水害リ スク認知は高いものの,具体的な避難場所が必ず

しも想定(イメージ)できていないことがその要 因として考えられる.

 本研究で対象とした荒川下流域では,地形的要 因から,大規模な水害が発生した際には短時間で の浸水や,長期間にわたる湛水が発生することが 懸念される.しかし,地震災害等における近隣公 園への避難とは異なり,高台や中高層階の建物へ の「垂直避難」が必要とされる洪水災害に対して は,現状,必ずしもその「避難先」が明示されて いないことが課題として挙げられる.

 既に多くの自治体では,隣接自治体との防災協 定の締結等により広域避難に関する取り組みが行 われてきている.荒川左岸の最下流域に位置する 東京都江戸川区では,東部に隣接する千葉県市川 市への江戸川渡河による避難ルートが検討されて いるほか,近年では,津波避難ビルに着想を得て,

区内の RC 造の中高層の集合住宅や民間ビルなど を一時的な「退避施設」として自治体が指定し,

ハザードマップに掲載する等の取り組みも進めら れている.しかし長距離の避難経路や浸水による 災害弱者の行動制約などについては,依然,大き な課題となっている.

 近年の災害に対する取組みでは,居住者間によ る「共助」がその重要な要素となっている.そこ で,本研究では,地域における日常交流度と災害 時の近隣協力度の関係に着目し,質問文ではそれ ぞれの「度合」を「ふつう・どちらでもない(0 点)」を中間点とする「低い (-2 点)」から「高 い(+2 点)までの両側 5 尺度において評価を取 得した.第 17 図に主観的評価の位相を示す.

 両指標とも高い得点を示した「葛飾区」「板橋 区」「江戸川区」においては,2000 年から 2010 年までの期間における人口増減率がそれぞれ,

5.0%,2.2%,8.6%であるのに対し,低い得点の 自治体における人口増加率は「足立区」(10.3%),

「戸田市」(12.9%)「荒川区」(10.8%)といずれ も 10%を超える人口増加率を示した(第 4 表).

このことから,近年の新旧住民の混住地域を有す る地域においては,日常交流度と災害時近隣協力 度とも低くなる傾向となったことが考えられる.

しかし,日常からの近隣交流の向上により,非常 第 16 図 水害対策に関する要望(複数回答)

第 6 表 浸水到達時間と発災後避難開始時間

30分以内 31~60分 61~120分121~180分181~300分 全体

143 74 23 27 20 287

29.5% 15.3% 4.8% 5.6% 4.1% 59.3%

16 50 20 15 12 113

3.3% 10.3% 4.1% 3.1% 2.5% 23.3%

4 2 13 10 9 38

0.8% 0.4% 2.7% 2.1% 1.9% 7.9%

1 2 5 10 8 26

0.2% 0.4% 1.0% 2.1% 1.7% 5.4%

3 1 0 0 16 20

0.6% 0.2% 0.0% 0.0% 3.3% 4.1%

167 129 61 62 65 484

34.5% 26.7% 12.6% 12.8% 13.4% 100.0%

全体

浸水到達予測時間(主観評価)

30分以内 31~60分 61~120分 121~180分 181300

82

284 300 180

253

501 132

0 100 200 300 400 500 600

水害発生の仕組み 居住地域の浸水深 個人の防御方法 ハザードマップ 避難勧告等の基準 避難場所と方法 過去の被害状況

(10)

東京の水辺環境と水害

時(発災時)における「共助」の力が向上するこ とが期待されており,広域避難を含む地域防災力 向上のためには,防災まちづくりのための社会的 しくみを構築していくことも課題として挙げられ る.

Ⅴ.結論と課題

 本研究では,荒川下流域における「地震災害」

と「洪水災害」の双方から,居住者の災害リスク 認知の特性と避難行動意思およびその課題の検討 を行った.

 本地域における地震災害に対する地域危険度の 動向は,建物倒壊危険度,火災危険度とも近年に かけて相対危険度の減少が進んでいるが,荒川右 岸地域に位置する北区,板橋区の一部地域におい て,依然として高い危険度地域が残存している傾 向が見られた.これに対する,居住者のリスク認 知の特徴は,客観指標としての総合危険度との関 連は見られず,一様に高い認知がみられた.この 要因は,地震災害のリスク認知においては,洪水 災害と異なり発災までの情報量の違いや,被災範 囲等の違いに起因するものと考えられる.

 一方,水害発災想定においては,地形や堤防か らの距離に起因するリスク認知に差異がみられた

ほか,年齢が上がるほどその上昇がみられたこと が特徴として挙げられる.しかし,ハザードマッ プ等の認知や避難情報等に関する認知割合は高 く,発災後の早期の避難意思が確認されたもの の,具体的な避難場所や方法に関する点について は,居住者自身がもつ不安要素となっていること が課題として挙げられた.また,本地域において は,近年,湾岸地域を中心に人口が増加しており,

新旧住民の混住化が進む中における「共助」の課 題も示された.地震災害と洪水災害は,その特性 上,対応策は異なるが,地勢上,その双方ともに 対し恒常的な危険性を有した地域での居住に対し ては,今後は,災害によるリスクを受容しながら 対応行動につなげるための具体的な方策に関する 検討を行っていくことが課題である.

謝 辞

 本稿の骨子は,2018 年度法政大学地理学会の 第 1 回例会シンポジウム:共通テーマ「東京の水 環境の現状と課題」(2018 年 6 月 30 日)におい て発表を行った.現地調査にあたっては,沿岸自 治体および国土交通省荒川下流河川事務所,特定 非営利活動法人あらかわ学会よりご指導をいただ いたほか,居住者の皆様には快くアンケート調査 の回答への協力をいただきました.記して厚く御 礼を申し上げます.

参考文献

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天災か人災か.東洋経済新報社.

中央防災会議・大規模水害対策に関する専門調査会 2010.

大規模水害対策に関する専門調査会報告・首都圏水 没被害軽減のためにとるべき対策とは. 川口市 戸田市

板橋区

北区

江東区 荒川区 墨田区

足立区

葛飾区

江戸川区

-0.4 -0.2 0 0.2 0.4 0.6

-0.6 -0.4 -0.2 0

(低)

日常近隣交流

(高)

(低)

災害近隣協力

(高)

第 17 図 地域別日常近隣交流度と災害時近隣協力度

(11)

東京大学社会情報研究所 2003.2000 年東海豪雨災害に おける災害情報の伝達と住民の対応.東京大学社会 情報研究所調査研究紀要 19.

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参照

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