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アジア太平洋研究科

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Academic year: 2021

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アジア太平洋研究科 博士学位論文要旨

PSI 参加をめぐる日本の対応

―領域外における「軍事力」使用に至る政策過程―

学籍番号 4011S306-4 津山 謙

E.

主指導教員 篠原 初枝

Keyword : PSI, 安全保障政策, 政策過程, 事例研究・実証研究, 法解釈, 「武力の行使」と「武器の使用」

本論文は日本のPSI(Proliferation Security Initiative:拡散に対す る安全保障構想)参加についての実証研究である。また、未だ研究蓄 積の少ない冷戦後の外交・安全保障分野における政策過程についての 事例研究のひとつである。

同盟でもなく、条約でもなく、国際機構でもなく、「行動」である とされる PSIは、極めてユニークな拡散阻止レジームである。PSI は「法執行の取組」とされているが、日本において PSI活動を行う 主体のひとつは自衛隊である。自衛隊のPSI活動は日本の領域外に 及ぶ。その活動は、日本防衛のみに限定された自衛行動ではなく、ま た、非軍事分野に限定された従来型の国際貢献活動でもない。PSI は冷戦後の安全保障政策の系譜において、任務の質という点でも、地 理的領域という観点からも、従来とは異なる自衛隊任務として付加さ れたものであるが、その事実はあまり知られていない。

本論文は日本がPSIへの参加を決定し、その形成及び発展にコア・

メンバーとして尽くした過程、とりわけ、自衛隊の「軍事力(防衛力)」

をPSI活動に投入するに至った経緯を、情報公開請求によって各省 庁から開示された一次史料(資料)のアーカイバル・リサーチを中心 に再構成することを目的とする。また、法的観点からの整理によって 得られた解釈軸を導入し、PSIが冷戦後における日本の外交・安全保 障政策の系譜にどう位置づけられ得るのかを分析する。そして、それ らをふまえ、PSIと同時期に生起した伝統的安全保障(軍事)分野に おける「多国間安全保障協力」という新しい政策的現象について考察 することも、あわせて目的としている。

第1章では安全保障政策を考察するにあたっての「解釈軸」の提示 を行う。主に国会等で表明された政府解釈を軸にして、日本における 安全保障に関する政策群を、その法的基盤にある「武力の行使」と「武 器の使用」という2つの要素から整理し直すことで、それらが「同盟 深化アプローチ」と「国際貢献アプローチ」の2つの政策的系譜に截 然と区分けされ得ることを示す。

第2章はPSI参加の「決定過程」を扱う。2003年5月31日、米 国ブッシュ大統領がクラコフにおいてPSI構想を発表したのとほぼ 同時に、日本はPSIへの参加を表明した。国会承認・批准、閣議決 定などの手続きを経ず、外務省を含む全省庁もほとんど関与せずにな されたこの参加決定は、日米同盟の深化を重視した小泉首相(当時)

の「官邸外交」あるいは「首脳外交」によるものであった。しかし、

PSIはどんな性格の取組か、PSIにおいて日本が何をできるのか、法 的問題の整理を含む検討は全て参加表明の後になさることとなった。

第3章は、PSIの第1回総会にあたるスペイン会合(2003年6月)

を舞台に、多国間交渉を通じた PSIの「形成過程」を分析する。公 海上における旗国の同意のない臨検など「武力の行使」を可能にすべ く国際海洋法秩序の変更を模索する「意欲的」な米国に対し、日本代 表団はPSI活動を既存の法体系の「法執行」にとどめるよう、他の 参加国を巻き込んだ多数派工作を仕掛けた。それは「外務省優位」に よって主導された政策形成過程であった。

第4章は「法執行の取組」としてのPSIが成立し、そこに自衛隊 の「軍事力(防衛力)」が使用されることになった「発展過程」を検 証する。スペイン会合では排除された防衛庁・自衛隊は、第2回総会 にあたるブリスベン会合(2003年7月)とその前後の専門家作業部 会において多国間でのPSI合同阻止訓練の構想が浮上したことで、

政策過程に参画することとなった。そして、他国軍との「軍・軍関係」

の深化を通じて、官邸・外務省の意に反する形でPSI合同阻止訓練 への参加を成し遂げ、PSIにその「軍事力(防衛力)」を使用するこ とに成功する。この過程においては、政治家及び背広組(内局官僚等)

の意向に背いて制服組が自己の意志を通す、シビリアン・コントロー ルの「逆転型現象」が部分的に発生した可能性も指摘されよう。一方、

第3回総会にあたるパリ会合(2003年9月)では、外務省は他の「抑 制的」な参加国とともにSIP(Statement of Interdiction Principle:

行動阻止宣言)の採択において米国が目指した「武力の行使」を拡大 させる国際海洋法秩序の変更を阻止することに成功し、PSIを「国際 貢献アプローチ」に連なる政策類型にとどめた。

第5章ではPSIが日本にもたらしたものについて考察する。「法執 行の取組」とはいえ、自衛隊はPSIにおいて、米国を含む他国軍と の多国間枠組を通じて警戒監視活動による情報交換を行うことで、日 常的に拡散懸念事態の発生防止にあたっている。PSIは自衛隊が軍事 オペレーションを含む多国間訓練(演習)を行った初めての事例であ る。また、実際のPSI拡散阻止活動にあたっては、「武力の行使」が 行われる可能性も否定し切れていない。PSIはいわば、多国間枠組で の「同盟深化アプローチ」に接続もしくは転換する可能性が否定し切 れないなかで、領域外において自衛隊の「軍事力(防衛力)が使用さ れた最初の政策事例と言ってよい。これによって、日米同盟と国連協 力という冷戦後の安全保障政策の 2つの主要な政策目的を引き継ぎ ながら、位相の異なる政策的系譜が出現し得る可能性を示すと考察す ることも可能であろう。

冷戦後の日本には、自衛隊の「軍事力(防衛力)」の使用範囲及び 領域の一貫した拡大という政策的潮流がある。この潮流を正確かつ実 証的に理解するとともに、そのなかで2000年代に生起した多国間安 全保障協力という新しい現象を捉えるにあたって、本論文が提示する PSI参加という政策事例及びそこから導かれる考察は有益な材料を 提供するのではないか。

[主要参考文献]

Emma Belcher, 2010, “The Proliferation Security Initiative:

Lessons for Using Nonbinding Agreement” Council on Foreign Relation Press.

Mark R. Shuluman, 2008, “The Proliferation Security Initiative and the Evolution of the Law on the Use of Force,” Houston Journal of International Law, Vol.28.

青木節子、2008年、「核不拡散の新しいイニシアティブ-PSIと安保 理1540の挑戦-」、浅田正彦、戸崎洋史編『核軍縮不拡散の法 と政治』、信山社。

坂元茂樹、2004年、「大量破壊兵器の拡散防止構想と日本」、『国際協 力の時代の国際法』、関西大学法学研究所叢書第30冊。

庄司貴由、2015年、『自衛隊海外派遣と日本外交』、日本経済評論社。

柴田晃芳、2011年、『冷戦後日本の安全保障政策 日米同盟深化の起 源』、北海道大学出版会。

武蔵勝宏、2009年、『冷戦後日本のシビリアン・コントロールの研究』、 成文堂。

信田智人、2006年、冷戦後の日本外交―安全保障政策の国内政治過 程、ミネルヴァ書房。

村瀬信也、2007年、『自衛権の現代的展開』、東信堂。

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