八王子市における暮らしの安全とサポートネットワーク
─2013 年「暮らしの安全と安心に関する市民意識調査」報告─
内 藤 準*
1 はじめに
近年,貧困,孤立,失業,健康,格差といった「暮らしの安全と安心」にか かわる問題が大きくクローズアップされている.それらの問題に対する適切な 施策や,市民自身による適切な備えのあり方を明らかにするための学術的な調 査研究が必要とされている.もちろん以前から,こうした暮らしの安全に関す る諸問題は,社会の核家族化や少子高齢化の進展といったテーマのなかで,つ ねに問題視されてきたものである.だが 1990 年代以降進められた「自己責任」
を重視する雇用や福祉の制度変更,非正規雇用の増加などにより,今日では若 年者の貧困や孤立も深刻な問題とされるようになってきている.さらに阪神淡 路大震災,新潟県中越地震,中越沖地震,そして東日本大震災などを経て,大 規模災害による生活困窮のリスクも以前より顕在化するようになった.
こうした背景のもと,筆者は 2013 年に八王子市において「暮らしの安全と安 心に関する市民意識調査」(以下「暮らしの安全調査」と呼ぶ)を実施した.
本稿はその調査データについて,集計結果の一部を報告するものである.この 調査は,上述したさまざまな暮らしの安全に関して,市民の暮らしの状況や考 え方,政治に対する期待や不安などを把握することを目的としておこなわれた.
調査によって得られたデータの分析を通じて,人びとの生活状況(社会経済的 地位や社会活動への参加など),サポートとなる知人ネットワークの有無や性 質,暮らしの安全が脅かされる事態に対する不安,政治の役割に関する意見な
* NAITO, Jun 首都大学東京 人文科学研究科社会学教室 助教 [email protected]
どが,どのような関係にあるかを明らかにする.そのことによって,人びとの 日常生活上のリスクを明らかにするとともに,市民が安心して暮らすうえでの 問題点と,政治・行政に対して求められる課題を析出することが目標となる.
第 2 節では,暮らしの安全調査に関する基本的な情報を示す.第 3 節では,
主要な調査項目について説明する.第 4 節では,性別,年齢,収入等の基本属 性について回収されたデータの分布を検討する.第 5 節と第 6 節では,主要調 査項目のうち「暮らしの安全と安心」に関して本調査で最も重要な,人びとの
「不安」と「知人からの援助の有無(サポートネットワーク)」について基本 的な分析結果を示す.第 7 節では,本稿の知見をまとめ,今後の分析課題を述 べる.
2 調査設計と回収状況
「暮らしの安全と安心に関する市民意識調査」(調査代表者:内藤準)は,
八王子市民を対象としておこなった無作為抽出標本調査である.調査は裏表紙 を含めて全 16 ページの調査票による郵送法でおこなわれた.調査の設計と回収 に関する概要は以下の通りである.
①調査対象者(母集団):2012 年 12 月改訂の選挙人名簿に記載された八王子 市在住,25 歳から 69 歳の男女有権者全体(328644 名).
②標本抽出法:選挙人名簿による系統抽出.スタート番号は 83 ある投票区ごと にコンピュータを用いて無作為に発生させた.抽出は 2013 年 2 月 13 日から 20 日までの平日 6 日間に,八王子市役所内の選挙管理委員会事務局において,
閲覧用電子端末からの転記によっておこなった.
③計画標本サイズ:3000 名
④調査方法:自記式調査票の郵送配布,郵送回収.ただし,当初の発送はメー ル便によっておこなった.そのうち不達分(90 件)に関しては日本郵便であ らためて依頼状を発送し,そのうち宛先に届いた 66 件について日本郵便で調 査票を再発送した
1).回収はすべて,無記名の返送用封筒(料金受取人払い)
によっておこなった
2).対象者全員にあてた礼状兼督促状を,調査期間半ば
どが,どのような関係にあるかを明らかにする.そのことによって,人びとの 日常生活上のリスクを明らかにするとともに,市民が安心して暮らすうえでの 問題点と,政治・行政に対して求められる課題を析出することが目標となる.
第 2 節では,暮らしの安全調査に関する基本的な情報を示す.第 3 節では,
主要な調査項目について説明する.第 4 節では,性別,年齢,収入等の基本属 性について回収されたデータの分布を検討する.第 5 節と第 6 節では,主要調 査項目のうち「暮らしの安全と安心」に関して本調査で最も重要な,人びとの
「不安」と「知人からの援助の有無(サポートネットワーク)」について基本 的な分析結果を示す.第 7 節では,本稿の知見をまとめ,今後の分析課題を述 べる.
2 調査設計と回収状況
「暮らしの安全と安心に関する市民意識調査」(調査代表者:内藤準)は,
八王子市民を対象としておこなった無作為抽出標本調査である.調査は裏表紙 を含めて全 16 ページの調査票による郵送法でおこなわれた.調査の設計と回収 に関する概要は以下の通りである.
①調査対象者(母集団):2012 年 12 月改訂の選挙人名簿に記載された八王子 市在住,25 歳から 69 歳の男女有権者全体(328644 名).
②標本抽出法:選挙人名簿による系統抽出.スタート番号は 83 ある投票区ごと にコンピュータを用いて無作為に発生させた.抽出は 2013 年 2 月 13 日から 20 日までの平日 6 日間に,八王子市役所内の選挙管理委員会事務局において,
閲覧用電子端末からの転記によっておこなった.
③計画標本サイズ:3000 名
④調査方法:自記式調査票の郵送配布,郵送回収.ただし,当初の発送はメー ル便によっておこなった.そのうち不達分(90 件)に関しては日本郵便であ らためて依頼状を発送し,そのうち宛先に届いた 66 件について日本郵便で調 査票を再発送した
1).回収はすべて,無記名の返送用封筒(料金受取人払い)
によっておこなった
2).対象者全員にあてた礼状兼督促状を,調査期間半ば
に 1 回送付した.
⑤実施時期:2013 年 3 月 14 日から 4 月 15 日(再発送 66 件は,5 月 7 日から 5 月 27 日)
⑥回収標本サイズ:回収原票のうち無効票を除いた有効回収標本のサイズは,
1163(回収率 38.8%)であった.
⑦主要調査項目
・暮らしの安全(災害,病気やケガ,孤立,失業,貧困)に関する不安の有無
・暮らしの安全に関して頼りになる知人ネットワーク(職場,近隣,親族等)
の有無
・社会活動への参加状況,居住年数,出身地
・自分の生活に関する意識(主観的自由,階層帰属意識,生活満足度,将来の 生活水準予測等)
・社会に関する意識(暮らしの安全に関する責任帰属,一般的公平感,一般的 信頼,特定的信頼,制度信頼,他人との協力傾向,利他性等)
・政治に関する意識(暮らしの安全に関する政府の責任,政府への信頼,支持 政党等)
・社会経済的地位(性別,年齢,職業,学歴,本人収入,世帯収入,同居家族,
配偶者の有無,配偶者の社会経済的地位,両親学歴,主観的健康等)
なお本調査は,予算の制約から,複数年度にまたがる 3 月~4 月という時期 に実査をおこなわざるを得なかった.この時期は多くの人にとって住居や職場 の移動の時期と重なるため,回収率のことを考えれば必ずしも望ましい時期で あったとはいえない.また,やはり予算の制約により,十分な協力謝礼を用意 する事も難しかった.回収率 38.8 パーセントという数字は,もとより郵送調査 として低い数字ではなく(例えば,盛山 2004;森岡編 2007:72),こうした 難しい事情を考慮すればひとまず満足できる回収率だと考えてよいだろう.お 忙しいなか時間を割いて調査にご協力くださった八王子市民のみなさまには,
この場を借りて,あらためて心から御礼を申し上げたい.
3 主要調査項目の説明
暮らしの安全調査は,A.災害,B.病気やケガ,C.社会的孤立,D.失業,E.経 済的貧困,という 5 つの生活上の困難に関して,人びとがおかれた状況の基礎 的データを収集し,分析することを目的としている.そうした生活上の困難に ついて,さまざまな社会経済的地位や保有する資源との関連,さまざまな信念 や態度との関連を明らかにする.そのことにより,どのような人がとくに困難 に晒されやすいのか,どのような人びとがそうした困難への備えを有し,他者 からのサポートを得やすいのかを明らかにすることが狙いである.
以下では,主要調査項目についての説明をおこなう.本稿の分析で用いられ ていない項目については,引き続き分析作業を進め,随時研究成果として公表 することになっている.
3.1 暮らしの安全・安心とネットワークに関する項目
上記 5 つの生活上の困難については,それらの困難に対して抱いている不安,
それらの困難の責任に関する意見(自己責任といえるか否か),支援に関する 政策的態度(政策的な支援が必要か否か)について回答を得た.
さらに,それらの困難に見舞われたときに,援助をしてくれると期待できる 知人の有無(サポート源となるネットワークの有無)について質問をおこなっ た.ネットワークについては,2 つの形式の質問項目を設定した.一つは,A.
災害時の避難場所の提供,B.病気やケガのときの家事や介助,C.重要事に関す る相談,D.求職時の仕事紹介,E.経済的な援助,のそれぞれについて,頼りに できる知り合いがいるか否かを尋ねるものである.(a)仕事上の知り合い,(b)近 所・団体・サークル等の知り合い,(c)学校時代の知り合い,(d)その他の友人・
知人・恋人,(e)別居の親族,(f)同居の親族のそれぞれについて,上記の援助に
ついて頼りにできる知り合いの有無を尋ねた
3).一人の知人が(a)から(f)の複数
のカテゴリーに該当するときは,そのうち主な一つについてだけカウントする
よう求めた.これにより,上記の A から E について,調査対象者が有するサポ
ートの出所の数(サポートのチャンネル数)を知ることができる
4).
もう一つは,ネームジェネレータ形式の質問である.これは上記の E.経済的
3 主要調査項目の説明
暮らしの安全調査は,A.災害,B.病気やケガ,C.社会的孤立,D.失業,E.経 済的貧困,という 5 つの生活上の困難に関して,人びとがおかれた状況の基礎 的データを収集し,分析することを目的としている.そうした生活上の困難に ついて,さまざまな社会経済的地位や保有する資源との関連,さまざまな信念 や態度との関連を明らかにする.そのことにより,どのような人がとくに困難 に晒されやすいのか,どのような人びとがそうした困難への備えを有し,他者 からのサポートを得やすいのかを明らかにすることが狙いである.
以下では,主要調査項目についての説明をおこなう.本稿の分析で用いられ ていない項目については,引き続き分析作業を進め,随時研究成果として公表 することになっている.
3.1 暮らしの安全・安心とネットワークに関する項目
上記 5 つの生活上の困難については,それらの困難に対して抱いている不安,
それらの困難の責任に関する意見(自己責任といえるか否か),支援に関する 政策的態度(政策的な支援が必要か否か)について回答を得た.
さらに,それらの困難に見舞われたときに,援助をしてくれると期待できる 知人の有無(サポート源となるネットワークの有無)について質問をおこなっ た.ネットワークについては,2 つの形式の質問項目を設定した.一つは,A.
災害時の避難場所の提供,B.病気やケガのときの家事や介助,C.重要事に関す る相談,D.求職時の仕事紹介,E.経済的な援助,のそれぞれについて,頼りに できる知り合いがいるか否かを尋ねるものである.(a)仕事上の知り合い,(b)近 所・団体・サークル等の知り合い,(c)学校時代の知り合い,(d)その他の友人・
知人・恋人,(e)別居の親族,(f)同居の親族のそれぞれについて,上記の援助に ついて頼りにできる知り合いの有無を尋ねた
3).一人の知人が(a)から(f)の複数 のカテゴリーに該当するときは,そのうち主な一つについてだけカウントする よう求めた.これにより,上記の A から E について,調査対象者が有するサポ ートの出所の数(サポートのチャンネル数)を知ることができる
4). もう一つは,ネームジェネレータ形式の質問である.これは上記の E.経済的
援助を期待できる相手の中から,具体的に 3 名までを挙げてもらい,それらの 相手の属性,回答者との関係,その相手同士の関係について答えてもらうもの である
5).
3.2 態度・信念・意識に関する項目
意識や態度,信念にかかわる項目としては,全般的な生活満足度,地域生活 の満足度,階層帰属意識,主観的自由,一般的信頼,特定的信頼,制度信頼,
利他性,他者との協力傾向,社会の公正さに関する意見,その他の規範意識に ついて幅広く尋ねた.
これらの意識項目については二つの方向での分析をおこなう.第一に,通常 の階層意識研究の分析枠組みを用いて,人びとの属性や社会経済的地位が,態 度や意識や信念,そして政策選好に及ぼす効果を明らかにする.だが第二に,
本調査の重要な狙いは,人びとの態度や意識の持ち方が,彼ら/彼女らの社会関 係のあり方(サポートネットワークのあり方など)に及ぼす効果を明らかにす ることにある.すなわち,他者との協力傾向や戦略的態度,利他性,他者への 信頼の有無といった人びとの意識や態度の持ち方が,人びとのサポートネット ワークの形成や,その利用の仕方にいかなる影響を与えるのか,その結果とし てどのような人が,暮らしの安全に関して有効な備えをすることができている のかを分析する.これは本調査データを用いた主要な研究として,今後さらに 詳細な分析をおこなう計画である.
3.3 社会経済的地位および居住地に関する項目
社会経済的地位に関するフェースシート項目として,個人収入,世帯収入,
学歴,職業,家族構成などについて回答を得た.その他,地域生活に関するも のとして,さまざまな社会活動や団体への参加に関する項目,居住年数,出身 地についてもたずねた.
ところで,調査地である八王子市は人口 56 万人からなる広い面積を持った自
治体であり,商業地区,工業地区,住宅地区から農村地区まで,多様な特性を
持つ地域を含んでいる.そのため,居住する地域によって,暮らしの安全に関
する人びとの状況に違いが生ずるかどうかが重要な都市社会学的問いとなりう
る.そこで,返信用封筒に付した番号から,回答者のおおまかな居住地域情報 を得られるように工夫した
6).ただし,個人の特定ができないよう,返信用封 筒の番号と対象者個人とは対応させていない.そのため,分かるのはおおまか な地域のみであり,調査データの完全な匿名性を確保することができた.
このように,この調査ではかなり広範な項目について調べたため,本稿で紹 介できるのはその結果のごく一部とならざるを得ない.この調査で得たデータ については,これからより詳細な分析をおこなっていくことになる.そうした さらなる分析課題については,最終節で説明することにしたい.
4 基本属性の分布
ここでは,有効回収サンプルについて,性別,年齢,収入などの基本属性に 関する集計結果を確認する.
4.1 年齢と性別
まず性別について度数分布を確認すると(表 1),男性が 549(47.5%),女 性が 607(52.5%)となっており,女性の回収数が多かった.同時期の住民基本 台帳では,男性が 51.0%,女性が 49.0%となっており,男女の比率が逆転してい る.このように,女性の回答比率が高くなる傾向は多くの社会調査に共通の現 象であるが,暮らしの安全調査でも同様であった.
表 1 性別の度数分布(人)
男性 女性 合計
549 607 1156
47.5% 52.5% 100.0%
171759 164781 336540
51.0% 49.0% 100.0%
暮らしの安全調査
住民基本台帳
(H25年3月末日における25 歳~ 69歳)
注:暮らしの安全調査は無回答 6 ケースを除く
歳から69歳
る.そこで,返信用封筒に付した番号から,回答者のおおまかな居住地域情報 を得られるように工夫した
6).ただし,個人の特定ができないよう,返信用封 筒の番号と対象者個人とは対応させていない.そのため,分かるのはおおまか な地域のみであり,調査データの完全な匿名性を確保することができた.
このように,この調査ではかなり広範な項目について調べたため,本稿で紹 介できるのはその結果のごく一部とならざるを得ない.この調査で得たデータ については,これからより詳細な分析をおこなっていくことになる.そうした さらなる分析課題については,最終節で説明することにしたい.
4 基本属性の分布
ここでは,有効回収サンプルについて,性別,年齢,収入などの基本属性に 関する集計結果を確認する.
4.1 年齢と性別
まず性別について度数分布を確認すると(表 1),男性が 549(47.5%),女 性が 607(52.5%)となっており,女性の回収数が多かった.同時期の住民基本 台帳では,男性が 51.0%,女性が 49.0%となっており,男女の比率が逆転してい る.このように,女性の回答比率が高くなる傾向は多くの社会調査に共通の現 象であるが,暮らしの安全調査でも同様であった.
表 1 性別の度数分布(人)
男性 女性 合計
549 607 1156
47.5% 52.5% 100.0%
171759 164781 336540
51.0% 49.0% 100.0%
暮らしの安全調査
住民基本台帳
(H25年3月末日における25 歳~ 69歳)
注:暮らしの安全調査は無回答 6 ケースを除く
歳から69歳
年齢の分布については,性別とのクロス表で確認する(表 2).まず,この 調査の男女を合わせた「全体」の結果と,同時期の住民基本台帳の集計結果を 比べると,この調査の回収サンプルは,かなり高年齢層に偏っていることが分 かる.
とくに 25 歳~39 歳の若年層では,10%ポイント以上の差があるので注意が 必要である.また,男性と女性を比較した場合,とくに男性について 65 歳以上 の高年齢層の比率がかなり高くなっている.これは,男性はフルタイム労働者 であることが多く,定年前の年齢層では調査への回答率が低くなってしまうた めだと考えられる.このように,サンプルが高年齢層に偏る傾向も多くの社会 調査に共通の現象であるが,本調査でも同様であった.
表 2 年齢の分布
以上,本調査の回収サンプルを母集団と比較すると,性別については女性に 偏り,年齢について高年齢層に偏ったものとなっている.データの分析にあた っては,性別と年齢について適切にコントロールすることが必要になる.また,
性別や年齢のコントロールや適切なウェイトづけをしていない集計値について は,とくに慎重に解釈する必要がある.
4.2 個人収入の分布
次に,回収サンプルの収入,とくに個人収入の分布を確認する.これは,
収入は現代社会においてさまざまな暮らしのニーズを満たすために使用でき
25-39歳 40-49歳 50-59歳 60-64歳 65歳以上 合計
男性 106 116 118 90 117 547
19.4% 21.2% 21.6% 16.5% 21.4% 100.0%
女性 134 133 146 105 85 603
22.2% 22.1% 24.2% 17.4% 14.1% 100.0%
全体 240 249 264 195 202 1150
(男女の合計) 20.9% 21.7% 23.0% 17.0% 17.6% 100.0%
住民基本台帳 107178 84947 65108 41544 37763 336540
31.8% 25.2% 19.3% 12.3% 11.2% 100.0%
注:住民基本台帳の集計は注:住民基本台帳の集計はH25H25年3年月末日現在における3月末日現在における25歳~2569歳から歳 69歳
る最も重要な資源となっているためである.それゆえ,十分な収入を得られ ないことは,即座に,暮らしの安全を脅かすきわめて深刻な事態をもたらし うる.
なお,本稿では収入のうち,とくに個人収入に着目する.社会学において計 量的に不平等を扱う社会階層論の分野では,社会階層の指標として世帯収入を 用いることが多い.それは主要な「消費生活の単位」として明に暗に世帯を想 定しているからであり,例えば専業主婦で本人の収入がなくとも,夫の収入が あればある程度のライフチャンスが確保できると考えるからである.本稿でも そのことを否定するわけではないが,しかしながら「暮らしの安全」という観 点から見れば,基本的には個人収入が重要になると考えられる.というのも,
例えば離死別などによって収入を失ってしまう危険性の個人差も,暮らしの安 全にとっての問題となり得るからである
7).
表 3 は,個人収入の分布である.全体,男性,女性のそれぞれについて示し ている.まず全体をみると,もっとも多いのは 300
– 500 万未満(20.3%)であるが,次に多いのは 100 万未満(16.9%)となっている.これはピークの異なる 二つの分布(男性と女性)を合成したものだからである.男性だけを見ると,
300
– 500 万 未 満(29.7%)がもっとも多 い山型の分布になって いる.他方,女性だけ をみると,100 万未満
(29.8%)がもっとも多 い.このように,男性 と女性では個人収入の 分布はまったく異なっ ており,男性の方が高 い収入を得ている人が 多く,女性は少ない収 入しかない人が多い.
これは第一に,男性
本人収入 全体 男性 女性
なし 10.9 1.7 19.4
100万未満 16.9 2.6 29.8
100-130万未満 7.4 3.4 11.1
130-200万未満 8.0 6.0 10.0
200-300万未満 13.1 13.8 12.4
300-500万未満 20.3 29.7 12.1
500-700万未満 10.3 17.4 3.7
700-900万未満 6.5 12.9 0.7
900-1100万未満 3.8 7.8 0.2
1100-1300万未満 1.0 1.9 0.2
1300-1700万未満 0.7 1.3 0.2
1700-2100万未満 0.5 0.7 0.3
2100万以上 0.4 0.9 0.0
合計(%) 100.0 100.0 100.0 合計(N) 1131 536 588
表3 個人収入の分布(%)
る最も重要な資源となっているためである.それゆえ,十分な収入を得られ ないことは,即座に,暮らしの安全を脅かすきわめて深刻な事態をもたらし うる.
なお,本稿では収入のうち,とくに個人収入に着目する.社会学において計 量的に不平等を扱う社会階層論の分野では,社会階層の指標として世帯収入を 用いることが多い.それは主要な「消費生活の単位」として明に暗に世帯を想 定しているからであり,例えば専業主婦で本人の収入がなくとも,夫の収入が あればある程度のライフチャンスが確保できると考えるからである.本稿でも そのことを否定するわけではないが,しかしながら「暮らしの安全」という観 点から見れば,基本的には個人収入が重要になると考えられる.というのも,
例えば離死別などによって収入を失ってしまう危険性の個人差も,暮らしの安 全にとっての問題となり得るからである
7).
表 3 は,個人収入の分布である.全体,男性,女性のそれぞれについて示し ている.まず全体をみると,もっとも多いのは 300 – 500 万未満(20.3%)であ るが,次に多いのは 100 万未満(16.9%)となっている.これはピークの異なる 二つの分布(男性と女性)を合成したものだからである.男性だけを見ると,
300
– 500 万 未 満(29.7%)がもっとも多 い山型の分布になって いる.他方,女性だけ をみると,100 万未満
(29.8%)がもっとも多 い.このように,男性 と女性では個人収入の 分布はまったく異なっ ており,男性の方が高 い収入を得ている人が 多く,女性は少ない収 入しかない人が多い.
これは第一に,男性
本人収入 全体 男性 女性
なし 10.9 1.7 19.4
100万未満 16.9 2.6 29.8
100-130万未満 7.4 3.4 11.1
130-200万未満 8.0 6.0 10.0
200-300万未満 13.1 13.8 12.4
300-500万未満 20.3 29.7 12.1
500-700万未満 10.3 17.4 3.7
700-900万未満 6.5 12.9 0.7
900-1100万未満 3.8 7.8 0.2
1100-1300万未満 1.0 1.9 0.2
1300-1700万未満 0.7 1.3 0.2
1700-2100万未満 0.5 0.7 0.3
2100万以上 0.4 0.9 0.0
合計(%) 100.0 100.0 100.0 合計(N) 1131 536 588
表3 個人収入の分布(%)
がフルタイム労働者として家計支持的な収入を得る一方で,女性は主婦として 家計補助的な収入(130万円未満)に抑えるケースが多いことによる.また第二 に,同じフルタイム労働者であっても男性と女性には賃金に格差があることが 知られており,男女間の差別的な賃金によるところもあると考えられる(杉橋 2004).いずれにせよ,「暮らしの安全」にとって最も重要な個人的資源であ る収入について,女性は男性よりかなり弱い立場におかれやすいことは明らか だといえるだろう.
次節以降では,性別・年齢・個人収入という基本属性と,人びとの「不安」
および「サポートの有無」との関連を分析し,どのような人が暮らしの「安心」
を得られないのか,どのような人が周囲の人からの支えを得やすいのかを検討 してみよう.
5 暮らしの安心──不安の分析
以下では,本調査の主たる関心事である「暮らしの安全と安心」に関する結 果の一部を示す.まず第 5 節では,暮らしの安心の裏返
..し
.として,災害,健康,
孤立,失業,貧困の 5 つの分野に関する人びとの「不安」を検討する.次いで 第 6 節では,暮らしの安全にかかわる調査項目として,それら 5 つの分野にお ける周囲からの「サポートの有無」,すなわち,困ったときに頼れる知人の有 無について検討する.
5.1 不安の分布
ここでは,災害,健康,孤立,失業,貧困の 5 つに関する人びとの不安につ いて検討しよう.はじめに全体的な分布を示したうえで,とくに基本的な属性
(性別,年齢,収入)との関連から,どのような人が暮らしの不安を感じてい るのかを示そう.
本調査では「以下の(a)~(e)の事柄について,ご自分の生活に不安を感じます か,感じませんか」という質問文で,(a)災害,(b)病気やケガ,(c)社会からの孤 立,(d)自分や家族の失業,(e)貧困のそれぞれについて,不安の有無をたずねた.
回答は「不安である/どちらかといえば不安である/どちらかといえば不安
ではない/不安ではない」の 4 件法とした.これについて「不安である/不安 ではない」の 2 つのカテゴリーにまとめた分布を示す.
図 1 不安の有無の分布8)
「不安である」と答えた人の割合がもっとも高かったのは,災害(87.1%)で あった.以下,健康,失業,貧困と続き,不安であると答える人が最も少なか ったのは社会的孤立であった(47.7%).
5.2 不安と基本属性の関連
では,どのような人びとに,そうした不安を感じている人が多いのだろうか.
ここでは,性別,年齢,個人収入について,不安との関連を検討する.
ただし,(a)災害から(e)貧困までの 5 つの分野それぞれについて検討するには,
本稿では紙幅が足りない.そこで,(a)から(e)の 5 つの分野について,「不安で ある」を 1,「不安ではない」を 0 とし,すべてを合計した新たな変数「不安 のある分野数」を作成する.この変数の値は,(a)から(e)の 5 つの分野のうち「不 安である」と回答した数を示しており,暮らしの不安についての総合的な傾向 を把握することができる.そのうえで,個別の分野について特記すべき点は,
本文で説明を加えることにしよう.
5.2.1 不安と性別
まず,不安のある分野数と性別とのあいだには,明確な関連があることが分 かる.図 2 をみると,不安の数が少ない人びと(0 から 2)では男性の割合が高
61.3%
71.3%
47.7%
80.8%
87.1%
38.7%
28.7%
52.3%
19.2%
12.9%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
貧困 失業 孤立 健康 災害
不安である 不安ではない
ではない/不安ではない」の 4 件法とした.これについて「不安である/不安 ではない」の 2 つのカテゴリーにまとめた分布を示す.
図 1 不安の有無の分布8)
「不安である」と答えた人の割合がもっとも高かったのは,災害(87.1%)で あった.以下,健康,失業,貧困と続き,不安であると答える人が最も少なか ったのは社会的孤立であった(47.7%).
5.2 不安と基本属性の関連
では,どのような人びとに,そうした不安を感じている人が多いのだろうか.
ここでは,性別,年齢,個人収入について,不安との関連を検討する.
ただし,(a)災害から(e)貧困までの 5 つの分野それぞれについて検討するには,
本稿では紙幅が足りない.そこで,(a)から(e)の 5 つの分野について,「不安で ある」を 1,「不安ではない」を 0 とし,すべてを合計した新たな変数「不安 のある分野数」を作成する.この変数の値は,(a)から(e)の 5 つの分野のうち「不 安である」と回答した数を示しており,暮らしの不安についての総合的な傾向 を把握することができる.そのうえで,個別の分野について特記すべき点は,
本文で説明を加えることにしよう.
5.2.1 不安と性別
まず,不安のある分野数と性別とのあいだには,明確な関連があることが分 かる.図 2 をみると,不安の数が少ない人びと(0 から 2)では男性の割合が高
61.3%
71.3%
47.7%
80.8%
87.1%
38.7%
28.7%
52.3%
19.2%
12.9%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
貧困 失業 孤立 健康 災害
不安である 不安ではない
く,不安が多い人びと(3 から 5)では女性の割合が高い.5 つの分野すべてで
「不安である」と答えた人は,男性の 33.1%に対し,女性は 45.5%にものぼる.
なお,分野ごとにそれぞれ比べても,女性の方が「不安である」と答える人の 割合が高く,5 つすべてについて統計的に有意な差があった(項目ごとの表は 省略する).
図 2 性別と不安のある分野数のクロス集計9)
まとめると,男性と女性を比較した場合,災害,失業,貧困,孤立,健康の すべてについて,女性の方が男性よりも「不安である」と答える人の割合が高 いことが分かった.すなわち,女性の方が暮らしの多くの分野で「不安である」
と答える傾向にある.この傾向が,男性と女性のおかれたどのような境遇の違 いによるのかは,さらに今後分析する必要がある.
5.2.2 不安と年齢
次に,生活の不安と年齢との関連を検討してみよう.
図 3 年齢と不安のある分野数のクロス集計10)
6.4%
2.9%
12.5%
5.6%
17.6%
13.9%
14.6%
15.2%
15.9%
16.9%
33.1%
45.5%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
男性 女性
0 1 2 3 4 5
7.0%
4.2%
3.0%
4.9%
4.2%
11.8%
11.1%
6.8%
7.0%
9.2%
11.8%
22.2%
13.7%
14.3%
17.2%
12.9%
14.8%
13.3%
14.8%
18.4%
10.8%
14.3%
16.7%
19.3%
18.8%
45.7%
33.3%
46.4%
39.8%
32.2%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
65歳以上 60-64歳 50-59歳 40-49歳 25-39歳
0 1 2 3 4 5
年齢に関しては,一般に「弱者」とされる高齢者ほど不安を感じる事柄が多 いのではないかといった仮説を立てることも可能である.だが,実際には明確 な関連は見られなかった.図 3 をみると,25-39 歳の若年層から 50-59 歳の壮年 層までは,年齢層が高いほど不安を感じる分野数が増える傾向にある.しかし 60-64 歳の層では不安を感じる分野数が減り,65 歳以上の層でも,50-59 歳の層 よりは不安を感じる分野数が少ない.このように,年齢に関しては,50-59 歳 の層がさまざまな生活上の不安をもっとも強く感じていることが分かる.
個別に見ると(表は割愛する),災害に対する不安については年齢による差 はみられなかった.失業,貧困,孤立,健康の 4 分野については,図 3 と同様 に,50-59 歳でもっとも「不安である」とする割合が高かった.さらに,失業,
貧困,孤立については,25-39 歳や 40-49 歳の層でも,60 歳以上の層より「不 安である」とする割合が高く,むしろ若年層が不安を感ずる傾向がみられた.
失業については,稼働年齢を過ぎた 60 歳以上の人びとの不安の割合が減るの は不思議ではないが,貧困や孤立についても同様の傾向が見られた点は興味深 く,今後より詳細な分析が求められる.
5.2.3 不安と収入
最後に,生活の不安と個人収入との関連についてみてみたい.
図 4 個人収入(4 分位)と不安のある分野数のクロス集計11)
図 4 からわかるように,人びとの個人収入の金額とその人が感ずる生活の不 安には明確な関連がある.すなわち,収入が少ないほど不安を感ずる分野数は
6.2%
4.9%
4.5%
2.9%
13.5%
10.2%
6.8%
5.6%
19.6%
18.6%
14.6%
12.4%
15.8%
16.4%
14.6%
14.4%
16.5%
17.3%
13.6%
17.3%
28.5%
32.7%
45.8%
47.4%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
500万以上 300-500万 100-300万 100万未満
0 1 2 3 4 5
年齢に関しては,一般に「弱者」とされる高齢者ほど不安を感じる事柄が多 いのではないかといった仮説を立てることも可能である.だが,実際には明確 な関連は見られなかった.図 3 をみると,25-39 歳の若年層から 50-59 歳の壮年 層までは,年齢層が高いほど不安を感じる分野数が増える傾向にある.しかし 60-64 歳の層では不安を感じる分野数が減り,65 歳以上の層でも,50-59 歳の層 よりは不安を感じる分野数が少ない.このように,年齢に関しては,50-59 歳 の層がさまざまな生活上の不安をもっとも強く感じていることが分かる.
個別に見ると(表は割愛する),災害に対する不安については年齢による差 はみられなかった.失業,貧困,孤立,健康の 4 分野については,図 3 と同様 に,50-59 歳でもっとも「不安である」とする割合が高かった.さらに,失業,
貧困,孤立については,25-39 歳や 40-49 歳の層でも,60 歳以上の層より「不 安である」とする割合が高く,むしろ若年層が不安を感ずる傾向がみられた.
失業については,稼働年齢を過ぎた 60 歳以上の人びとの不安の割合が減るの は不思議ではないが,貧困や孤立についても同様の傾向が見られた点は興味深 く,今後より詳細な分析が求められる.
5.2.3 不安と収入
最後に,生活の不安と個人収入との関連についてみてみたい.
図 4 個人収入(4 分位)と不安のある分野数のクロス集計11)
図 4 からわかるように,人びとの個人収入の金額とその人が感ずる生活の不 安には明確な関連がある.すなわち,収入が少ないほど不安を感ずる分野数は
6.2%
4.9%
4.5%
2.9%
13.5%
10.2%
6.8%
5.6%
19.6%
18.6%
14.6%
12.4%
15.8%
16.4%
14.6%
14.4%
16.5%
17.3%
13.6%
17.3%
28.5%
32.7%
45.8%
47.4%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
500万以上 300-500万 100-300万 100万未満
0 1 2 3 4 5
多くなり,収入が多いほど不安な分野数は少なくなる傾向が見て取れる.
またこの傾向は,それぞれの分野について個別にみた場合でも同様であった
(表は割愛).災害への不安については 300-500 万の層と 500 万以上の層で僅 かながら逆転していたが,その他はすべて,低収入であるほど「不安である」
と答える割合が高い傾向にあった
12).
まとめると,災害,失業,貧困,孤立という多くの局面について,人びとが 得ている収入と不安のあいだに明確な関連がみられた.すなわち,収入が多い 人ほど不安なく安心して生活できる状況にあり,収入が少ない人ほど安心でき ず不安を感ずる状況にあることが分かった.これは,今日の日本社会では,経 済的な資源が暮らしの全域において最も重要な資源となっていることから,当 たり前といえる結果である.しかし社会のあり方や政策を考える上では,貧し い人ほど不安なのは当たり前であり仕方がないことだ,などと片付けるわけに はいかない.収入が少ない人でも安心して暮らせるような社会的な仕組みをど のように作っていけばよいかは,重要な実践的検討課題としなければならない.
6 暮らしの安全──サポートネットワークの分布
前節では,さまざまな生活上の事柄について,どのような人びとが安心(不 安)を感じる状況におかれやすいのかをみてきた.だがこれはあくまで人びと が主観的に感じている「安心感(不安感)」であり,彼ら/彼女らが客観的にみ て「安全」といえる状況にいえるかどうかは,また別の指標によって評価すべ き問題となる.
そこで本節では,その「安全」に関する有力な指標の一つとして,人びとが 実際に困った状況に置かれたときに得られる「サポート」に着目する.例えば,
前節の最後でも述べたように,現代の日本社会において個人が所持する収入や 資産はもっとも重要な資源であり,それが少ないことは生活上のさまざまな困 難を引き起こしうる.しかし,困難に対処するための個人的な資源がなくても,
他者との繋がりから得られる資源(社会関係的な資源)があれば,その危険を ある程度補うことができると考えられるだろう.
そこで,本調査では,上記の 5 つの暮らしの安全について,以下のように他
人からのサポートの有無を調べた.
A.災害:「もしあなたが地震などの災害で家を失ったときに,避難場所を提供 してくれそうな人はいますか」
B.健康:「あなたが病気やケガで困っているときに,家事や介助を頼める人は いますか」
C.孤立:「あなたには,重要なことを話したり,悩みを相談できる知り合いは いますか」
13)D.失業:「もし,あなたが新たに仕事を探す必要ができたとき,仕事を紹介し てくれそうな知り合いはいますか」
14)E.貧困:「あなたには,経済的な援助(お金を借りる,ものをもらうなど)に ついて,頼りにできるお知り合いはいますか」
この質問文のあとに,(a)仕事上の知り合い,(b)近所・団体・サークル等の知り 合い,(c)学校時代の知り合い,(d)その他の知人・友人・恋人,(e)別居の家族・
親族,(f)同居の家族・親族,のカテゴリーそれぞれについて,頼りにできる 知り合いが「いる」か「いない」かを選択してもらった.
このようにして得られた回答について,「いる」を 1,「いない」を 0 とし,
(a)から(f)までを合計すると,最小 0 から最大 6 までの値をとる変数ができる
15). この変数の値は,その回答者が災害や貧困などの困難に際して期待できるサポ ート源の数(サポートチャンネル数)だと考えることができる.
ところで,このサポート源の数が 0 であるか,1 以上であるかの違いには,
重要な意味がある.例えば,経済的なサポート源の数が 0 であるとは,仕事上 の知り合いから同居の家族にいたる誰からも経済的な援助が期待できない
.................,と 回答者が認識していることを意味しており,とりわけ深刻な状況にあると考え られるからである.そこで今回は,この「サポートの有無」にとくに着目して,
集計結果を示すことにしたい.
人からのサポートの有無を調べた.
A.災害:「もしあなたが地震などの災害で家を失ったときに,避難場所を提供 してくれそうな人はいますか」
B.健康:「あなたが病気やケガで困っているときに,家事や介助を頼める人は いますか」
C.孤立:「あなたには,重要なことを話したり,悩みを相談できる知り合いは いますか」
13)D.失業:「もし,あなたが新たに仕事を探す必要ができたとき,仕事を紹介し てくれそうな知り合いはいますか」
14)E.貧困:「あなたには,経済的な援助(お金を借りる,ものをもらうなど)に ついて,頼りにできるお知り合いはいますか」
この質問文のあとに,(a)仕事上の知り合い,(b)近所・団体・サークル等の知り 合い,(c)学校時代の知り合い,(d)その他の知人・友人・恋人,(e)別居の家族・
親族,(f)同居の家族・親族,のカテゴリーそれぞれについて,頼りにできる 知り合いが「いる」か「いない」かを選択してもらった.
このようにして得られた回答について,「いる」を 1,「いない」を 0 とし,
(a)から(f)までを合計すると,最小 0 から最大 6 までの値をとる変数ができる
15). この変数の値は,その回答者が災害や貧困などの困難に際して期待できるサポ ート源の数(サポートチャンネル数)だと考えることができる.
ところで,このサポート源の数が 0 であるか,1 以上であるかの違いには,
重要な意味がある.例えば,経済的なサポート源の数が 0 であるとは,仕事上 の知り合いから同居の家族にいたる誰からも経済的な援助が期待できない
.................,と 回答者が認識していることを意味しており,とりわけ深刻な状況にあると考え られるからである.そこで今回は,この「サポートの有無」にとくに着目して,
集計結果を示すことにしたい.
6.1 サポートの有無の分布
はじめに,全体でどの程度の人びとが「サポートを誰からも期待できない」
としたのかを示そう.
図 5 困ったときに頼れる相手の有無
図 5 は,頼れる相手が「いる」に一つも○をつけなかった人(なし)と,○
をつけたのが親族のみだった人(親族のみ),親族以外にも○をつけた人(非 親族含む)の割合を示している(N = 1163)
16).ここから,頼れる相手が誰も いない人(なし)の割合が多い順にまとめると,D.仕事の紹介(31.9%),E.
経済的援助(23.0%),A.災害時(9.2%),B.病気やケガ(6.5%),C.重要事の 相談(5.5%)の順であった.
このように頼れる相手が「なし」であることに着目すると,D.仕事の紹介と E.経済的援助のほかは,おおむね 9 割以上の人が,何らかの相手からサポート が期待できると答えていることになる.しかし,サポート源の有無だけでなく 内訳に注目すると,暮らしの安全の分野ごとに,だいぶ内実は異なることが分 かる.とくに注目したいのは,D.仕事の紹介以外の 4 つの分野に関しては,頼 れる相手が「親族のみ」とした人がかなり多いということである.
とくに「B.病気やケガ時に頼れる相手」についてみると,誰もいない人は 6.5%
と少なかったものの,57.4%の人は頼れる相手が親族のみであり,親族のネット ワークから切り離されたときに支援を失う脆弱性が高いと考えられる.他方,
23.0%
31.9%
5.5%
6.5%
9.2%
55.0%
7.7%
29.6%
57.4%
38.0%
22.0%
60.4%
64.9%
36.1%
52.8%
0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
E.経済的援助を期待できる相手 D.仕事の紹介を期待できる相手 C.重要事を相談できる相手 B.病気やケガ時に頼れる相手 A.災害時に頼れる相手
なし 親族のみ 非親族含む
「E.経済的援助を期待できる相手」は,誰もいない人が 23.0%と多いだけでな く,親族のみの人も 55.0%おり,やはり親族のネットワークを失ったときの脆 弱性が高いと考えられるだろう.逆に「D.仕事の紹介を期待できる相手」とし ては,親族の重要性はかなり小さいことが分かる.仕事の紹介に関して頼れる 相手「なし」の割合が 31.9%と最も高くなったのは,他の分野については頼り やすい親族があまり役に立たない分野だからだとも考えられる.
以上をまとめると,今回あげた 5 つの分野に関して,頼れる相手を挙げられ ない人が多かったのは,D.仕事の紹介と E.経済的援助であった.また,頼れる 相手がいても「親族のみ」とする人はかなり多い.とくに,B.病気やケガ時の 援助や E.経済的援助について,6 割弱の人は「親族のみ」としており,とくに これらの分野については親族のネットワークから切り離されたときの人びとの 脆弱性が高いと考えることができる.
6.2 サポートの有無と基本属性
つぎに,いくつかの基本属性と,これらのサポートの有無についての関連を みてみたい.
6.2.1 サポートの有無と性別
サポートの有無と性別との関連を見ると,今回取り上げた 5 つの分野の多く について,女性の方が男性よりもサポートネットワークを有していることが分 かる(表 4).A.災害,B.病気やケガ,C.相談については,男性の方が女性より 頼れる相手「なし」の割合が高い.また,相談相手が「親族のみ」である割合 も高い.E.経済的援助についても,男性の方が女性よりも「なし」の割合が高 かった
17).女性の方が男性よりも「なし」の割合が高いのは,D.仕事の紹介を 期待できる相手のみであった.これは男性の方が女性よりもフルタイムの正規 労働につくことが多く,仕事関係のネットワークを築くのに有利であることに よるだろう.
すでにみたように,現代社会の主要な個人的資源である個人収入については,
男性の方が多くを得やすく,女性の方が少ないという明確な傾向がある(4.2 節).
「E.経済的援助を期待できる相手」は,誰もいない人が 23.0%と多いだけでな く,親族のみの人も 55.0%おり,やはり親族のネットワークを失ったときの脆 弱性が高いと考えられるだろう.逆に「D.仕事の紹介を期待できる相手」とし ては,親族の重要性はかなり小さいことが分かる.仕事の紹介に関して頼れる 相手「なし」の割合が 31.9%と最も高くなったのは,他の分野については頼り やすい親族があまり役に立たない分野だからだとも考えられる.
以上をまとめると,今回あげた 5 つの分野に関して,頼れる相手を挙げられ ない人が多かったのは,D.仕事の紹介と E.経済的援助であった.また,頼れる 相手がいても「親族のみ」とする人はかなり多い.とくに,B.病気やケガ時の 援助や E.経済的援助について,6 割弱の人は「親族のみ」としており,とくに これらの分野については親族のネットワークから切り離されたときの人びとの 脆弱性が高いと考えることができる.
6.2 サポートの有無と基本属性
つぎに,いくつかの基本属性と,これらのサポートの有無についての関連を みてみたい.
6.2.1 サポートの有無と性別
サポートの有無と性別との関連を見ると,今回取り上げた 5 つの分野の多く について,女性の方が男性よりもサポートネットワークを有していることが分 かる(表 4).A.災害,B.病気やケガ,C.相談については,男性の方が女性より 頼れる相手「なし」の割合が高い.また,相談相手が「親族のみ」である割合 も高い.E.経済的援助についても,男性の方が女性よりも「なし」の割合が高 かった
17).女性の方が男性よりも「なし」の割合が高いのは,D.仕事の紹介を 期待できる相手のみであった.これは男性の方が女性よりもフルタイムの正規 労働につくことが多く,仕事関係のネットワークを築くのに有利であることに よるだろう.
すでにみたように,現代社会の主要な個人的資源である個人収入については,
男性の方が多くを得やすく,女性の方が少ないという明確な傾向がある(4.2 節).
A. 災害時に頼れる相手
なし 親族のみ 非親族含む 合計(N)
男性 11.5% 37.3% 51.2% 549
女性 7.2% 38.4% 54.4% 607
合計 9.3% 37.9% 52.9% 1156
注:カイ二乗 = 6.199, 自由度 = 2, p < 0.05
B. 病気やケガのときに頼れる相手
なし 親族のみ 非親族含む 合計(N)
男性 8.4% 63.0% 28.6% 549
女性 4.9% 52.1% 43.0% 607
合計 6.6% 57.3% 36.2% 1156
注:カイ二乗 = 27.763, 自由度 = 2, p < 0.001
C. 重要事を相談できる相手
なし 親族のみ 非親族含む 合計(N)
男性 7.3% 35.2% 57.6% 549
女性 3.8% 24.4% 71.8% 607
合計 5.4% 29.5% 65.1% 1156
注:カイ二乗 = 26.832, 自由度 = 2, p < 0.001
D. 仕事の紹介を期待できる相手
なし 親族のみ 非親族含む 合計(N)
男性 28.4% 6.2% 65.4% 549
女性 35.1% 9.1% 55.8% 607
合計 31.9% 7.7% 60.4% 1156
注:カイ二乗 = 11.452, 自由度 = 2, p < 0.01
E. 経済的援助を期待できる相手
なし 親族のみ 非親族含む 合計(N)
男性 25.7% 51.7% 22.6% 549
女性 20.4% 57.8% 21.7% 607
合計 22.9% 54.9% 22.1% 1156
注:カイ二乗 = 5.514, 自由度 = 2, p = 0.06
表 4 性別とサポート有無のクロス表
これはとくに結婚による世帯形成において,男性が主たる家計支持者として 賃労働に従事する一方,女性は主婦やアルバイトなどで家計補助的な収入に抑 えることが多いためである.しかしながらこの性別役割分業は,離別・死別に
2, p<0.01 2, p
2, p=0.063
よって婚姻関係がなくなった り,関係が悪化した場合など に,とくに女性が低収入の生 活に陥る危険をともない,女 性と子どもの貧困として社会 問題にもなっている.その一 方,生活の困難に対するサポ ートネットワークの有無につ いては,男性の方が若干弱い という結果がみてとれた.こ れは,男性のフルタイム労働 が地域生活や人間関係の範囲 を,比較的狭い領域に制限す ることによると考えられる.
このように,サポートを期 待できるような社会関係をも ちやすいことが,女性にとっ て個人的資源の少なさからく る暮らしの危険をどの程度補 いうるのか,またそうした社 会関係を形成しづらいことが,
男性にとってどのような危険 をもたらしうるのかは,より 詳細な分析で明らかにする必 要がある.さしあたりは,男 性が配偶者を失ったときの人 間関係に関する脆弱性が問題 となる可能性が示唆されてい るといえる.その一方で,仕 事の紹介について女性のサポ
表5 年齢とサポート有無のクロス表
A. 災害時に頼れる相手
なし 親族のみ 非親族含む 合計 (N)
25-39歳 3.8% 24.2% 72.1% 240
40-49歳 8.8% 32.9% 58.2% 249
50-59歳 9.5% 39.0% 51.5% 264
60-64歳 8.2% 48.2% 43.6% 195
65歳以上 16.7% 49.3% 34.0% 203
合計 9.2% 38.0% 52.8% 1151
注:カイ二乗 = 81.646, 自由度 = 8, p < 0.001 B. 病気やケガ時に頼れる相手
なし 親族のみ 非親族含む 合計(N)
25-39歳 6.2% 42.5% 51.2% 240
40-49歳 6.8% 57.0% 36.1% 249
50-59歳 5.7% 56.1% 38.3% 264
60-64歳 5.1% 64.6% 30.3% 195
65歳以上 8.9% 69.5% 21.7% 203
合計 6.5% 57.3% 36.2% 1151
注:カイ二乗 = 47.998, 自由度 = 8, p < 0.001 C. 重要事を相談できる相手
なし 親族のみ 非親族含む 合計(N)
25-39歳 5.0% 12.5% 82.5% 240
40-49歳 4.0% 17.3% 78.7% 249
50-59歳 6.1% 25.4% 68.6% 264
60-64歳 5.1% 45.1% 49.7% 195
65歳以上 6.9% 55.2% 37.9% 203
合計 5.4% 29.5% 65.1% 1151
注:カイ二乗 = 149.902, 自由度 = 8, p < 0.001 D. 仕事の紹介を期待できる相手
なし 親族のみ 非親族含む 合計(N)
25-39歳 20.8% 6.7% 72.5% 240
40-49歳 33.3% 4.8% 61.8% 249
50-59歳 33.3% 5.7% 61.0% 264
60-64歳 34.9% 9.7% 55.4% 195
65歳以上 37.4% 13.3% 49.3% 203
合計 31.7% 7.7% 60.6% 1151
注:カイ二乗 = 36.664, 自由度 = 8, p < 0.001 E. 経済的援助を期待できる相手
なし 親族のみ 非親族含む 合計(N)
25-39歳 14.2% 60.4% 25.4% 240
40-49歳 18.1% 60.2% 21.7% 249
50-59歳 22.7% 48.9% 28.4% 264
60-64歳 29.7% 53.3% 16.9% 195
65歳以上 33.0% 50.7% 16.3% 203
合計 22.9% 54.8% 22.2% 1151
注:カイ二乗 = 40.030, 自由度 = 8, p < 0.001