• 検索結果がありません。

市民参加型イベントにおけるソーシャル・キャピタルの考察

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "市民参加型イベントにおけるソーシャル・キャピタルの考察"

Copied!
16
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

論 文

1.はじめに

近年ソーシャル・キャピタルについて学術的 関心が高まり,社会科学分野や,政治学,経済 学,経営学,情報科学等に広く論じられており,

多くの研究者がその概念や効果,測定について,

実証,反証を繰り広げている。しかしながら,

どのようにソーシャル・キャピタルを醸成する かに関しては具体的な政策アプローチの提示が いまだにできていない。

一方,ソーシャル・キャピタルの醸成を効果 的に支援する施策の検討は盛んになっている。

主要なアプローチとして参加型の大規模イベン トがある。その典型は博覧会やスポーツイベン トで,テーマに関心を寄せる市民スタッフやボ ランティアが数多く参加し,ネットワークを形 成し,ソーシャル・キャピタルの醸成に寄与し ている。

従来,こうした大型イベントは来場者数や経 済波及効果が成果指標とされ,成否が判断され ることが多いが,ソーシャル・キャピタルの醸 成という市民的・社会的効果に政策の狙いは 移っており,新たな政策の立案,実現および評 価の体系,その理論的検討が必要である。

本論はその典型事例である「横浜トリエン ナーレ 2008」をとりあげる。経済波及効果とソー シャル・キャピタルの醸成効果により,社会を 変容することが目指された政策事例である。

2.ソーシャル・キャピタル論の整理 2-1.既存研究の整理

ソーシャル・キャピタルという概念を最初に 打ち出したのは,成功した学校におけるコミュ ニ テ ィ 関 与 の 重 要 性 を 示 し た ハ ニ フ ァ ン

[Hanifan 1916]である。

その後,都市計画分野でジェイコブス[Jacobs 1961]が近代大都市の近隣関係を論じた。世襲 化 す る 文 化 資 本 の 視 点 か ら ブ ル デ ュ ー

[Bourudieu 1986],教育の人的資本の視点から コールマン[Coleman 1988]と続き,パットナ ム[Patnam 1993]がイタリアの政策パフォー マンスを分析し,各分野で注目される概念と なった。

パットナムの研究の流れとは別に,グラノ ベ ッ タ ー に よ る 弱 い 紐 帯 の 強 さ の 研 究

[Granovetter 1973]があり,これを批判する 形でバートが構造的なすき間論を唱え[Burt 1992],リンがこうしたネットワーク論による

*早稲田大学大学院社会科学研究科 2009年博士前期課程修了

沼 田 真 一

─ 横浜トリエンナーレ 2008 を事例として ─

市民参加型イベントにおけるソーシャル・キャピタルの考察

(2)

ソーシャル・キャピタルの議論を体系的に整理 している[Lin 2001]。

日本においては,ソーシャル・キャピタルの 研究は内閣府経済社会総合研究所[2005]が個 人向けアンケートのデータを合成してソーシャ ル・キャピタル指数を都道府県ごとに比較した ものや,地域政策研究センター[2006]がある。

また,日本総合研究所[2008]が,日本のソー シャル・キャピタルの学問領域を網羅的に整理 している。

2-2.既存研究の課題

ソーシャル・キャピタルの概念や効果,測定 については,各国各分野で盛んに論じられてい るが,ソーシャル・キャピタルはどのような環 境や仕組みが整えば醸成可能なのか,しかもそ れを政策として意図的にかつ,短時間で醸成す るにはどのような手法が有効なのか,こうした 具体的な計画論としてソーシャル・キャピタル を論じた論文は見当たらない。本論は市民参加 型イベントを用いてソーシャル・キャピタルを 醸成することが可能と考え,この考察を行うも のである。

2- 3.パットナムとリンのソーシャル・キャ ピタル

ソーシャル・キャピタルの定義はそれぞれの 論者によってことなる。そのため,まず,本論 におけるソーシャル・キャピタルが何であるか を明確に定義づけた上で,これを醸成する手法 について論じていきたい。

パットナムはソーシャル・キャピタルの定義 を「人々の協調行動を活発にすることによって 社会の効率性を高めることができる信頼,規範,

ネ ッ ト ワ ー ク と い っ た 社 会 組 織 の 特 徴 」

[Putnam 1993:167]としている。

リンは,パットナムのソーシャル・キャピタ ル論に対して,「ソーシャル・キャピタルはネッ トワークの様々な特徴そのものでなく,そこに 埋め込まれた資源である」[Lin 2006:19]と述 べており,ソーシャル・キャピタルは「行為者 が何らかの行為を行うためにアクセスし活用す る社会的ネットワークに埋込まれた資源」[Lin 2001:24]と定義し,ネットワーク理論の論者と して異なる研究を行っている。

パットナムとリンの相容れない認識の違いは 公共財というパットナムの視点と個人財という リンの視点の相違によるものであり,この定義 の違いがソーシャル・キャピタルのもっとも大 きな混乱である。

2-4.本論におけるソーシャル・キャピタル の定義

パットナムの

「ソーシャル・キャピタル」 リンの

「ソーシャル・キャピタル」

本論の

「ソーシャル・キャピタル」

ネットワーク に埋め込まれた

資源

信頼 規範

ネットワークに 埋め込まれた

資源 信頼

規範 ネット ワーク

図1 本論におけるソーシャル・キャピタルの定義

図1のように,本論においてはこうしたソー シャル・キャピタルをめぐる解釈の段階から脱 し,かつ計画概念として,ソーシャル・キャピ タルを「特定の共通した所属を持つ,ネットワー

(3)

ク内に埋め込まれた資源,信頼,規範」と再定 義する。

この定義はパットナムのソーシャル・キャピ タルの定義に,ネットワークに関するリンの視 点を含めたものである。さらに,ネットワーク に埋め込まれているのは「資源」だけでなく,「信 頼」「規範」もネットワークに埋め込まれてい るものと位置づけ,ソーシャル・キャピタルが,

ネットワークに埋め込まれた「資源」「信頼」「規 範」の三つの要素から構成されるものと考える。

また,本論におけるネットワークの範囲は「特 定の共通した所属を持つ人々」として,ネット ワーク内部と外部の境界を定めて,より明確な 範囲でのソーシャル・キャピタルの醸成を考察 することとする。

また,本論に置いて,「埋め込まれている」

という定義上,ソーシャル・キャピタルを構成 する資源,信頼,規範の要素は,無形で可視化 されていないものとする。

2-6.「資源」の定義

本論における資源は,「象徴的な資源と社会 的地位に帰属した資源」と定義する。

また象徴的な資源とは,個人や集団によって 意味を与えられた財であり,具体的にいえば,

「知識」「教養」「技術」「才能」「人間性」など である。そして,社会的地位に帰属した資源と は,ある組織内における地位がもたらす社会的 な権威,名声,富などである[Lin 2001:29-38]。

そして「特定の相手,集団内で認識されたも の」が資源であり,象徴的な資源として,特定 の相手,もしくは集団内で意味をあたえられた もの,つまりは他者が認識し,発見,獲得した ことより,はじめて「資源」となりえる。

2-7.「信頼」の定義

本論における信頼は「相手の能力や,人間性,

自分に対する感情などの判断にもとづいてなさ れる,相手の意図についての期待」と定義する。

この場合の「信頼」には,「安心」は含まない。

山岸は「信頼」と「安心」を区別し,「安心と は相手と自分との関係には社会的不確実性が存 在しないと判断することである」と述べている

[山岸 1998:47]。本論においてもこの定義を採 用するが,「安心」については象徴的な資源の 一部とみなし,信頼の一部とはみなさない。

また,金銭的な契約関係に基づいて成立して いるような信頼は本論のソーシャル・キャピタ ルに含めない。

2-8.「規範」の定義

本論における規範は,「個人と個人の所属す る集団により共有する信念,基準,期待」と定 義する。

園田らは「社会規範は個人を超越して社会性 を有するものであり,しかも個人に内面化され ることが不可欠なものである[園田・井田・加 藤 1996:14]」と述べており,この定義に基づい たものである。

パットナムのソーシャル・キャピタルにおけ る規範は,互酬性の規範について言及したもの だが[Putnam 1993:171-176],本論における規 範は互酬性も含めて,より幅広い意味で規範を 取り扱う(1)

2-9.ソーシャル・キャピタルの構成要素の 再整理

2-4 から 2-8 までの議論を再整理すると,表 1のようになる。ソーシャル・キャピタルとは

(4)

特定の共通した所属を持つ,ネットワーク内に 埋め込まれた資源,信頼,規範である。これら が「特定の共通した所属を持つ人々」のネット ワークに無形で可視化されないまま埋め込まれ て存在しており,特定の相手により認識された とき,資源になり,信頼になり,規範になる。

表1 本論における社会創発資本の定義

社会創発資本の定義

『特定の共通した所属を持つ,ネットワーク内 に埋め込まれた資源,信頼,規範』

資源 可視化されていない象徴的な資源と 社会的地位に帰属した資源

信頼

相手の能力や人間性,自分に対する 感情などの判断にもとづいてなされ る,相手の意図についての期待 規範 個人と個人の所属する集団により共

有する信念,基準,期待

2-10.「社会創発資本」としてのソーシャル・

キャピタル

2-9 までに本論におけるソーシャル・キャピ タルの定義を詳細に論じてきたが,以降,本論 において定義されたソーシャル・キャピタルを,

前述してきた定義と明確に区別し,新しい計画 概念の定義として位置づけを明確にするために

「社会創発資本」という用語を用いる。

「社会創発資本」の定義(表1)とは,「特定 の共通した所属を持つ,ネットワーク内に埋め 込まれた資源,信頼,規範」である。パットナ ムのソーシャル・キャピタルの定義を中心にす

えながらも,リンのネットワークに埋め込まれ た資源という定義を加え,この構成要素を「資 源」,「信頼」,「規範」とした上で,その一つ一 つに触れて再定義してきた。あらためて,社会 創発資本と「創発」という概念を加えて用いた のは,創発は「人間と環境および,それらの新 しい関係の質が同時的にまたは発展的に作り出 される現象」[延藤 1998:28-29]と論じられてお り,ソーシャル・キャピタルの構成要素が相乗 効果を期待でき,同時に発展的に作り出されて いくからである。

3.市民参加型イベントとしての横浜ト リエンナーレ

3-1.研究目的

市民参加型イベントという手法が,「特定の 共通した所属を持つ,ネットワーク内に埋め込 まれた資源,信頼,規範」で構成される社会創 発資本の醸成に有効であることを実証し,イベ ントという,その開催準備を含めた有限の時間 の中で,ソーシャル・キャピタルの醸成を加速 可能であることについて考察する。

加えて,より豊かな社会創発資本を醸成する ための仕組みとして市民参加型イベントそのも のの手法を考察し,社会創発資本が社会を変容 させる可能性について考察する。

3-2.仮説

市民参加型イベントが社会創発資本を醸成す ることを実証するために,以下の三つの仮説を 立てる。

①市民参加型イベントに参加するボランティ アのネットワークに多様な「資源」が埋め込ま れており,「信頼」「規範」が醸成され,この三

(5)

つの要素により構成されている社会創発資本が 見出せる。

②市民参加型イベントによって醸成される社 会創発資本には結合型の社会創発資本と橋渡し 型の社会創発資本の特徴が見られる。

③市民参加型イベントによって醸成される社 会創発資本には水平型の社会創発資本と垂直型 の社会創発資本の特徴が見られる。

3-3.調査手法

名前想起法に質的調査法を合成した調査票を 作成した。

対象は「横浜トリエンナーレ 2008」にかか わるボランティア(2)として「サポーター」 登録 した 260 人である。この中から定期的に会議に 参加しているサポーターを任意に 14 名選び,

強いつながりが生まれた 5 人の名前を挙げさ せ,各人の性別,年齢,職業・職種,居住区を わかる範囲内で記述させた。質問の回答は選択 型と記述型をあわせた形式とした。各人がそれ ぞれ名前を挙げた個人に対して,親密度,信頼 度を5段階で選択させ,さらに接触頻度を,顔 をあわせる回数,メールする回数,電話する回 数,ブログにコメントする回数として 4 段階で 選択させた。

引き続き,最大 5 人に対して<スキルアップ の機会を得たか><さらなるネットワーク拡大 機会を得たか><社会的,精神的よりどころを 得たか><出会った時期,強いつながりを持つ に至ったきっかけ>を記述させた。

この結果から横浜トリエンナーレ 2008 のサ ポーターの中にどのようなネットワークが形成 され,そのネットワークの構造がどのような形 を描き,どのような特徴や変化があるのかを見

出し,社会創発資本として「資源」「信頼」「規 範」がどのようなプロセスをえて醸成されてい るかを調査した。

3-4.市民参加型イベントの定義

社会創発資本の定義に続き,市民参加型イベ ントの定義を行う。

本論において,市民参加型イベントは「行政 機関が政策的な意味とテーマをもって,市民に 一定期間の自発的な参加を求め,成立させる公 的なイベント」と定義する。この定義によれば,

伝統行事の地域の「祭り」などは市民そのもの が主催者としてイベントを行うため,市民参加 型イベントにはならない。また本論において地 域の「祭り」のようなイベントは,主催者が特 定の住民などに「義務的,慣習的」な参加を促 すことがあり,地縁的な関係に基づく閉鎖的な 部分もあるため,市民参加型イベントの範囲と しない。市民参加型イベントとは,「自発的,

選択的」に参加する人々で構成され,開放的な 構造をもち,自ら参加する意思さえあれば,誰 でも参加可能な構造を持つものである。

図2 本論における市民参加型イベントの分類 イベント

主体

入学、就職、結婚、出産等

展示会、物産展等 オリンピック、博覧会、

国際会議等

(国家、地方自治体、NPO)

公的イベント

(個人、企業)

私的イベント

参加の構造

義務的・慣習的 伝統行事、お祭り

自発的・選択的 市民参加型イベント

3-5.横浜トリエンナーレの概要

本論では市民参加型イベントの構造をもつ調

(6)

査対象として横浜トリエンナーレを取り上げ る。

横浜トリエンナーレは,横浜市の開港 150 周 年・創造事業本部内のホームページ内で「3 年 に 1 回開催されるわが国最大級の国際現代美術 展覧会である。第 3 回目となる横浜トリエン ナーレ 2008 を開催することで,文化芸術創造 都市の実現を目指す取組みを国内外にアピール する。展覧会を開催しない年においても,継続 的に情報を発信し,市民ボランティアや若手 アーティストの支援・育成を進める。」と謳わ れており,横浜市によるクリエイティブ・シティ の実現を目指した事業として実施されている。

2001 年第 1 回目の横浜トリエンナーレから,3 回目を迎える横浜トリエンナーレ 2008 は 2008 年 9 月 13 日~ 11 月 30 日までの期間で,65 のアー トプロジェクトが展開した。最終的な来場者は 有料 4 会場の合計入場者数は 306,633 人である

[横浜トリエンナーレ組織委員会 2009]。

3-6.市民参加型イベントとしての横浜トリ エンナーレ

横浜トリエンナーレを題材としてあげたの は,パットナムが「われわれが社会的,政治的,

職業的アイデンティティを乗り越え,自身とは 似ていない人々とつながることが重要である」

と論じており,「芸術は因習的な社会障壁を乗 り越える上で特に有益である」としているから である。さらに「ソーシャル・キャピタルは芸 術活動の価値ある副産物となることがしばしば ある」と論じている一方で,「芸術文化活動が ほとんど活用されていないと述べている」から である[Putnam 2000:411]。

横浜トリエンナーレ 2008 では,「サポーター」

としてのボランティア登録者は 260 人であり,

ボランティアの参加者は「イベント」「広報」

や「調査・研究」などのいずれかのグループに 参加することにより,横浜トリエンナーレをサ ポートするためのプロジェクトを立ち上げるな ど多様な展開を見せた(3)

4.横浜トリエンナーレにおける社会創 発資本調査

4-1.横浜トリエンナーレ 2008 ネットワー ク

UCINET の NetDraw を用いてネットワーク 図(図3)を作成した。14 名中,男性が 6 名,

女性が 8 名であった。14 名があげた名前は,合 計 30 名であり,このうち男性が 9 名,女性が 21 名であった。

「□」は男性,「○」は女性であり,2008 年 のみのサポーターである。墨色で塗られたノー ド(4)は 2005 年と 2008 年の横浜トリエンナーレ 両方に参加しているサポーターである。サポー ターの名前はアルファベットで順不同で当て込 んでいる。

もっとも多くのサポーターから,名前が挙 がったのは m 氏である。その数は m 氏の入次 数 8 が最大である。続いて,v 氏の6,x氏,

y 氏の5,f 氏,i 氏の4,aa,o,ac 氏の3で ある。以下は割愛する。

このネットワーク図で,横浜トリエンナーレ 2008 のサポーターネットワークは,m 氏と v 氏の二人を軸に構成されていることがわかる。

高い接触頻度を持つのも m 氏と v 氏であった。

この両氏から名前を上がられているのは o 氏 のみである。o 氏は唯一この中のネットワーク の中でサポーターではない。o 氏は主催者とし

(7)

て図 3 におり,v 氏と m 氏と交渉し調整する役 割を担っている。o 氏が事業を推進するために m 氏と v 氏と強いつながりを形成していたこと がわかる。また,l 氏の入次数は0であるが,

主要なサポーターの名前をすべて挙げており,

横浜トリエンナーレ内のグループの中で,主要 なサポーターとつながる橋渡し型の活動をして いるといえる。彼はウェブ担当として情報を集 める必要があったため,主要な人々とのコミュ ニケーションを盛んに行っていたようだ。

また,i,f,aa の 3 氏が3者の関係の中で互 いに高い親密度を持っており,ヒアリングでも プライベートで盛んに交流していることがわ かった。ともに 10 歳ずつ年齢が異なり,互い に異質な人間であることに興味・関心を持ち,

友人としての付き合いが成立している。3者と も,互いが異質であることを認め合う関係であ

りかつ,その考えの志向性は似ていると答えて いる。

信頼度で特徴的なのは他のサポーターを強く 信頼しているサポーターは多くの入次数がある ことである。これは人を信頼することが,ネッ トワークをよりよく機能させ,「信頼する」と いう行為が,他者から信頼されるために強い影 響を与えることがわかる。

また 2005 年当時のネットワークでは,v 氏 と x 氏が双方向の関係性となっており,v 氏を トリエンナーレの活動に引き入れたのは x 氏で あり,互いの強いつながりは 2005 年当時に形 成されていることがわかる。

4-2.性別・年齢・職業・職種

ネットワークを構成する比率でいけば70%

が女性であり,横浜トリエンナーレ 2008 に登

z

r

u n p s

b t

d

g i aa

c

f a

ad

m h

v

o w e

q j

ab

x

ac r

r

r

図3 横浜トリエンナーレ2008 サポーターネットワーク

(8)

録しているサポーターの数も総数で女性が多い ことが予想される。また,30 名の年齢は 20 代 5 人,30 代 6 人,40 代,9 人,50 代 9 人,60 代 1 人であった。各世代で偏りがなく,多様な世 代が「サポーター」として参加していることが わかる(5)

業種,職種を見ると,大学生,主婦,会社員 との職業,職種を記入するケースが多く,互い の職業や職種を詳細に知ることなく,名前を挙 げている場合が多いことがわかった。「強いつ ながりの対象者」として名前を挙げ,さらに,

信頼度が高く,接触頻度が高く,非常に親密な 関係であっても,その職業や職種についてはほ とんど情報を持たないということは,このサ ポーターのネットワークの匿名性が高く,職業 や職種がほぼ不要な情報であることを示してい る。一方,入次数の多い,v 氏や m 氏はその職 業が広く認知されており,また,デザイナーと いう職能に関しては,名前を挙げたすべての人 がx氏の職業を認識していた。これは,デザイ ナーという職業がこのネットワーク内で重要か つ必要な職業であり,その能力を発揮する状況 が多くあったことを示している。また,具体的 な職業とあわせて名前が挙がったサポーター は,サポーター内での調整役と外部との交渉役 を務めるグループリーダーとしての役割を担っ ている。

4-3.外部のネットワークへのつながり 横浜トリエンナーレ 2008 のサポーターの多 くは,異質な人々と出会うことに積極的で活動 的な人々である。横浜トリエンナーレ 2008 に 参加しているサポーターの多くは,すでに複数 の外部ネットワークに所属している。

横浜トリエンナーレ 2008 のサポーターの外 部ネットワークは「環境系」「福祉系」「ビジネ ス系」「芸術系」「メディア系」など多様な分野 に広がっており,特に芸術系のネットワークで は,「アーティスト」「批評家」「ライター」「写 真家」などのクリエイティブな職業の人々や複 数のアート系団体とのネットワークが形成され ている(6)

サポーターの中には,同様のネットワーク内 に所属していながら,他の活動グループとほと んど顔をあわせることがない人々もおり,他の グループが「外部」ネットワーク化している状 況も見受けられた。また,横浜トリエンナーレ に関する会議をフォーマルな活動とすると,イ ンフォーマルな活動として,一部のサポーター で特定の居酒屋を愛用しており,この場がネッ トワーク拡大の機会になっていると認識してい るサポーターもいた。

加えて,個人的な友人などを紹介しあうなど 横浜トリエンナーレの活動を離れてプライベー トで交流しているサポーターがいることもわ かった。

4-4.社会的,精神的なよりどころ

横浜トリエンナーレのサポーターたちは,強 いつながりを形成することで,リンのいう表出 的な見返り[身体的健康,精神的健康,人生の 満足]を得ている[Lin 2001:307-312]。

分類すると,下記のようになる。

①共通の年代,居住地,職業

②共通の趣味・関心

③異質なものへの興味・関心

④異質なものへの尊敬・敬意

⑤悩みの相談・共有

(9)

⑥その他

同じ年代や居住地,職業を持つ場合,同類性 の原理(7)が働き,強いつながりを持ちやすく,

また,共通の趣味・関心を持つもの同士でも,

強いつながりを形成していることがわかる。

また,横浜トリエンナーレのサポーターたち では,自分とは異なる活動や考え方に対しても 興味,関心を抱くサポーターが多く,中にはそ の異質な存在に尊敬,敬意さえ抱くサポーター たちがいた。これにより,上記の①②とあわせ て③④も重要な社会的,精神的なよりどころと なっていることがわかった。

また加えて,サポーター同士で個人的な悩み 相談なども行われており,ネットワークに所属 することでの表出的な見返りは十分獲得してい るようである。

最後にその他の項目として,活動での相互扶 助の関係や,あるサポーターのもつ「雰囲気」「人 間性」が精神的なよりどころであるという回答 も得られた。

4-5.強いつながりの形成期間

名前を挙げられたサポーターとの出会いは横 浜トリエンナーレ 2008 のサポーター募集がは じまった 2007 年夏ごろと,サポーターの組織 体制などが変わり始める 2008 年春ごろに集中 している。また,強いつながりが形成されたきっ かけとしては,活動するグループが同じであっ たことやサポーター内部で行ったイベントの準 備などの理由が多く,こうした活動時間を共有 する中で親しくなり,強いつながりを形成する に至ったと思われる。

また,あるメンバーが抜けてしまうといった 危機的状況の中で強いつながりが生まれるケー

スもあった。

4-6.横浜トリエンナーレへの参加の動機 横浜トリエンナーレの参加の動機は大きく2 つに分かれる。

①  横浜トリエンナーレのサポーターとして イベントを盛り上げること

② 個人的な目的の実現すること

上記の①に関してはいえば,言葉どおり横浜 トリエンナーレを盛り上げ,成功させるための

「サポーター」として集まった人々である。彼 らは 2005 年の横浜トリエンナーレに参加して いる人々がほとんどであり,2005 年の経験から,

その楽しさ,面白さを多くの人に伝えたいとい う参加者である。

上記の②に関していえば,その個人の目的は さまざまである。「仕事のため」「研究のため」「ボ ランティア運営のノウハウを得るため」「自分 の能力をためすため」「仕事とは別の居場所づ くり」などそれぞれの目的があるが,それは,

リンの表出的な見返り(身体的健康,精神的健 康,人生の満足 ) を求めたものか,道具的な見 返り(富,権力,名声 ) を求めたものか,いず れかであると考えられる[Lin 2001:307-312]。

横浜トリエンナーレでのサポーターとしての 活動は,ボランティアの活動であるがゆえに,

道具的な見返りとして,富,権力,名声を求め るような動機は弱いが,横浜トリエンナーレを 成功させる活動の結果として道具的な見返りを 得ることにつながることはあったようだ。

また,社会的な地位や職業を横浜トリエン ナーレのサポート活動に持ち込みたくないと考 えるサポーターと,自分の知識や経験を活かし て活動を行おうとするサポーターと,異なる二

(10)

つの立場があることを触れておく。自分の能力 を活かすことで,自分の「知識」や「能力」を 資源として所属するネットワークに分配し,信 頼を構築することにつながる状況が見えること から,この相反する意識は社会創発資本を醸成 する上で非常に重要であると考える。また,こ うした「知識」や「能力」を得たいと考えるサ ポーターもおり,彼らの多様な参加の動機が横 浜トリエンナーレのサポーター活動においての 方向性や活動状況に大きな影響を与えていると いえる。

4-7.サポーターによる横浜トリエンナーレ の意味や価値

ヒアリングしたサポーターの半数以上が「ボ ランティア」か「協働」のどちらか,もしくは 両方の難しさついて言及した。これについては 多くのサポーターが共通した「規範」として共 有しており,サポーターのネットワークの中に 埋め込まれたようである。また,2005 年も参 加 し て い た サ ポ ー タ ー の 中 に は,2005 年 と 2008 年の横浜トリエンナーレとの違いに苦し み,活動から脱落していくものもいた。これは 2005 年の横浜トリエンナーレに参加していた サポーターよって形成された「横浜トリエン ナーレはこうあるべきだ」という規範が影響し ているものと思われる。

また,こうした困難さはあるにしても,互い の価値観の違いなども含めて,「勉強になった」

という考え方もあり,年代も仕事も志向も異な る異質な人々がサポーターとして集まっている からこそ,そのネットワークに埋め込まれる資 源も多様なものになっており,その点をポジ ティブに捉えるサポーターもいる。

また別のサポーターのヒアリングからは「積 極的で活動的なサポーターたちに影響を受け て,自分でも積極的に活動するようになった」

という回答も得ており,その意味や価値はサ ポーター一人一人の参加目的によっても大きく 異なると思われる。

4-8.社会創発資本の社会的影響

多くのサポーターは,この横浜トリエンナー レで形成されたネットワークを使って,横浜ト リエンナーレ自体をどのように変容させること ができるかを考えており,さらに,横浜トリエ ンナーレをよりよくすることで社会そのものを 変えていこうと考えているサポーターがいるこ とがわかった。前述した 2008 年の横浜トリエ ンナーレに関する「ボランティア」「協働」の 難しさといったことさえも,「経験」として,

サポーターのネットワークに埋めこみ,アーカ イブとして,次回開催される予定である 2011 年の横浜トリエンナーレに活かしていこうとす る動きが見られる。

このアーカイブはインターネット上で公開さ れることで,横浜トリエンナーレというひとつ のアートイベントに限らず,「ボランティア」「協 働」という枠組みで展開する事業すべてにその 情報を提供可能になり,ネットワークの外部に も幅広い意味で影響を与えることが予想され る。

また,横浜トリエンナーレのサポーターとし て参加した人々の中には,まさにこのネット ワークに埋め込まれた資源,信頼,規範を用い て,別のイベントやまちづくりの活動などに活 かそうと考えるサポーターもおり,横浜トリエ ンナーレで醸成された「社会創発資本」が社会

(11)

を変容させる可能性があることを示唆してい る。

5.調査結果の考察

5-1.水平型,垂直型の社会創発資本と参加 者の地位

リンは社会構造がピラミッド型であると仮定 したが,市民参加型イベントではかならずしも ピラミッド型の社会が想定されているわけでは なく,むしろ,敬遠されているとも考えられる。

初期段階において,サポーターとして参加する 市民は,どちらかといえば,「地位」を明示す るような状況をさけているように見受けられ る。それは社会構造がピラミッド型であること を前提にするならば,それを明示しあうことで,

サポーター内に垂直な関係を持ち込みたくない という思いのあらわれと考えられる。各人のヒ アリングの中で,「強いつながりができた」と 相手の名前を挙げても,彼らの職業・職種につ いてはほとんど具体的に記述することができな かった所以である。事実,ヒアリングしたサポー ターの中には仕事と違う関係を求めたいという 参加者もいた。パットナムも水平な関係を望ま しいと考え[Putnam 1993:88],実際にもサポー ターの中にはそうした関係を構築しようと考え る人々が多い。

その結果,サポーターの社会的な「地位」に 埋め込まれた資源が可視化されず,互いに資源 にアクセスする機会を妨げ,結果として資源獲 得の機会を減少させているとも考えられる。

また,サポーターとして横浜トリエンナーレ にかかわる時間以外のインフォーマルな場にな り,個人的趣味や興味について語り合い,社会 的な地位についての情報交換なども行われる中

で,より多くの埋め込まれた資源を認識しあい,

アクセス可能なレジームを形成しているようで もある(8)

初期段階では水平型のネットワークを好む参 加者同士であっても,サポーター活動としてグ ループ化され,具体的なボランティア内容が発 生すると,その業務内容をまとめ,調整し,制 作的な役割や事務運営的な役割を分担する必要 がある。その結果,水平的な関係が垂直的な関 係に変容していった。水平的な関係の時期に資 源分配者として多くのサポーターから資源を認 識された人物が,同時に信頼されるようになり,

サポーター内での地位が確立していく状況が見 受けられる。

同グループでの活動や時間を共有すること で,急速に結束が進み,グループ内の「規範」

が形成される。この規範に影響され,グループ 間同士での考え方の不一致や目的実現への手法 の相違による対立が深まり,調整機能を持たな い主催者は市民間に垂直型の構造を容認,推進 することで,全体を統括することを目指すこと になった。

主催者はこうした対立構造の中で,市民間で 信頼が得られている人物に意思決定権と調整機 能を持たせ,その参加者を中心に社会構造を作 り出す。結局この構造はリンが指摘した「社会 はピラミッド型であることを前提」としたもの となっている。

(図 4 参照)

5-2.結合型と橋渡し型の社会創発資本と参 加者の位置

市民参加型イベントは参加者が自ら主体的に 選択し,参加している市民であるがゆえに,橋

(12)

渡し型の特性をもつ参加者が多い。異質な人々 が出会い,互いに「異質」であるということに 興味を覚えるという「同質性」を見出し,結合 型の関係を築きネットワークを構築する。

資源の獲得と資源の維持では,資源の維持が 先行するというリンの仮定[Lin 2001:45-46]か らすれば,このネットワークに参加しようと考 えた人は何がしかの資源獲得が動機であると考 えることができる。また,積極的で活動的な橋 渡し型の特性を持つ参加者が多いため,結合型 の関係を形成する能力も高いと考えられる。

活動が発展してくると,いままで結合型で あった関係が,サポーターネットワークの外部 へと向かい橋渡し型となる。外部にリンクする ネットワークはその内部ネットワークがもつ多 様さに応じて,幅広い資源にアクセスが可能と

なる。

5-3.管理による信頼と規範への影響 主催者の組織の一部として管理しようとする と,関係は垂直型になる。垂直型の関係は,規 則や無気力などにつながり,社会創発資本は減 少する。

「ボランティア」の関係の中では,規則より も規範を生成することが重要である。突然現れ る誰が決定したのかわからないような規則を主 催者が一方的に「ボランティア」へ提示すれば,

信頼はまたたく間に崩壊してしまう。

興味深いことは,たとえ主催者と参加者とい う構造の中で,組織としての信頼が失われたと しても,個人間の信頼がそれを補完する場合が あるということである。これが「協働」の面白

図4 横浜トリエンナーレ 2008 の準備プロセスにおけるサポーターの関係変化 相互利用 交換

認識

不明 特定の人間が認識される

対立

生成 全体で共有

2005 年参加者高い傾向 一部の人間が高い地位へ 橋渡し型の特性を持つ人々の集まり 生成

強い

横浜トリエンナーレ2008開催︵9月

13日〜

11月

30日︶

グループ活動、サポーター内イベント

チラシ、ウェブ、フリーペーパーなど イベント実施など 強い

弱い

弱い

強い(外部へ)

強い

2007 年夏頃 2008 年春頃 2008 年夏頃 活動展開 活動開始

活動準備 活動期間

活動状況 企画 制作 運営 垂直 水平 結合 橋渡し

資源 信頼 規範 社会的 ボランティア内 参加者の基本特性

参加構造関係構造社会創発資本地位

弱い

(13)

さでもあり,難しさでもある。

5-4.協働とボランティアの限界と可能性 何を求めたか不明確な参加の呼びかけに対し ても,参加者はそれぞれの求められている内容 を独自に解釈し応募する。集まった市民に対し て,適切なメニューの提示がなければ「ボラン ティア」と「協働」という言葉に翻弄され,集 まった参加者の意欲と熱意は失われていく。そ の言葉の定義と,求めるものがそれぞれの立場 で異なるからである。

本論からいえることは,市民参加には計画が 必要であり,参加の構造を当初より綿密に定め ておくことが重要であるということである。

市民参加型イベントを実施するうえで,主催 者は,参加者にどのような役割や権限を与える のか,ということを整理したうえで参加を呼び かける必要がある。

主催者と,自由に活動しようとする市民とで,

主催者が管理者としての立場を強く打ち出すと

「協働」は正の関係に至らない。

管理するには人的コストなどがかさみ,想定 の枠組みを超える参加者の個別対応に悩まさ れ,結局のところ管理しきれない状況に陥る。

また,参加者の不満は蓄積し,主催者に対する 組織としての信頼は崩壊する。

結果として不明確な参加の呼びかけは集まっ た参加者を不幸にすることになる。横浜トリエ ンナーレのサポーターの中には,「トリエンナー レという言葉の持つ力とその言葉に期待し参加 して裏切られた脱力感」「アートの活動をして いない。自己実現のみの活動。自分のやりたい ことをしているだけ」というような感想を持つ ものもいた。

また,「協働」「ボランティア」は難しいとい うサポーター内のネットワークに埋め込まれた 経験から「ボランティアコーディネートが必要 である。」「行政担当者が変更されず,何がしか の形で,継続的に本事業と関係を持つべきであ る。」「ディレクター決定の企画計画時点から,

市民が参加して,計画構築に関与すべきであ る。」等の解決策も検討されている。

5-1 から 5-3 までで論じた内容も含めて結論 づけるならば,市民参加型のイベントをどのよ うに円滑に進めるか,ということを考えること と,社会創発資本を醸成するということはほぼ 同義であるということである。

5-5.市民参加型イベントの構造

横浜トリエンナーレ 2008 における市民参加 のプロセスを分析する中で,よりより参加の構 造をつくることが,豊かな社会創発資本を醸成 することつながることがわかった。ここで,横 浜トリエンナーレ2008からの改善点を幾つ かあげる。 ①主催者は,イベントの基本的な 考え方,方向性,目的などを含む基本構想や基 本計画を市民参加型ワークショップで決定す る。 ②主催者は,市民参加の枠組みを役割や 時間や時期などで整理し,多様なニーズに応え られるようにして参加を呼びかける。 ③主催 者は,参加市民間でヒエラルキーを作らず,第 3 者のファシリテーターによる調整役を配置す る ④主催者は,参加市民同士はもちろん,主 催者とも情報共有できる機会,場,ツールを用 意する。 ⑤主催者は,意思決定者 ( 会議体 ) を明確にし,権限,責任の範疇を明確する。 

⑥主催者は,推進事務局の活動時間を制限し,

必要以上の負荷をかけないような体制をつく

(14)

る。

以上6項目を挙げたが,これはすべての市民 参加イベントとして取り組む際に重視すべき項 目であると同時に,より豊かな社会創発資本を 醸成するために心に留めなければならないとで もある。

5-6.市民参加型イベントのシナリオ 行政組織が主体となった市民参加型イベント は機会を重ね,多くの参加者を生み出し,社会 創発資本が膨らみ続けると,「参加することが 当然のもの」という社会規範を形成し,[2]

で述べた「祭り」に近づいていく。

つまり,当初,選択的で自発的な市民参加型 イベントだったものが,「参加すべきもの」と して義務的で,慣習的なものとなり,一部の人 間による既得権益が発生し,自己利益を主張す る参加者もあらわれて閉鎖的な一面をもつ可能 性がある。

また,別の未来を想定するならば,協働とい うスタイルから,次の段階へ進んだ自主的な アートイベントが行われていく可能性もある。

それは,市民が「参加」するのではなく,市民 が「主体」となり,企画,制作,実施までやり きるイベントの実現である。これは横浜トリエ ンナーレで生まれた社会創発資本が市民主体の 企画を立案し,実行してしまうまでの知識と経 験をストックする可能性があるからである。

これが最終的には横浜市の横浜トリエンナー レの政策目的である市民力の向上と考えること もできる。

6.研究のまとめと今後の課題 6-1.まとめ : 社会創発資本としての定義

本論においては,まず,ソーシャル・キャピ タルの定義が不明確であることから,パットナ ムの視点に立ちつつも,リンの「ネットワーク に埋め込まれた資源」という定義を踏まえ,

「ソーシャル・キャピタルを「社会創発資本」

として再定義し,特定の共通した所属を持つ,

ネットワーク内に埋め込まれた資源,信頼,規 範である」として,パットナムやリンのソーシャ ル・キャピタルに新たな意味性を持たせ,論じ てきた。その結果,ソーシャル・キャピタルの 政策的な「埋め込み」,その調整過程について 新しい分析が可能になった。しかしながら,本 論はあくまで1つの事例であり,ソーシャル・

キャピタル醸成の政策的な支援など,今後さら に多くの事例検討と考察が必要である。

6-2.課題① : 母集団とサンプル数の取得 本論における母集団とサンプル数の関係でい えば,ネットワークを構成する 260 人全員への 調査ができず,14 名のみのヒアリングとなっ たことで,横浜トリエンナーレ 2008 のサポー ターの状況を語るには十分とはいいがたい。今 後の同様の研究では調査票の設計を再検討しな がら,サンプル数を引き上げ,より詳細のネッ トワーク図を描きながら,社会創発資本の資源,

信頼,規範について調査したいと考える。

6-3.課題② : 社会創発資本の「資本」とし ての妥当性

本論においては社会創発資本の資本としての ストックとフローについて,十分に考察を行う ことができなかった。ネットワークに埋め込ま れた資源,信頼,規範を蓄積するためには何が 必要なのか,何を投資したらよいのか,そこか

(15)

ら何を利益やリターンとしてえることができる のか。4-5 で若干ふれたが,社会創発資本その ものが,新しい市民主体の活動を生み出すかと いう計画論の視点については,今後も具体的に 検証していきたい。

6-4.課題③ : 他の市民参加型イベントとの 比較と実証

本論は,社会創発資本の醸成という計画論か ら市民参加型イベントの横浜トリエンナーレを 取り上げ分析したが,他の市民参加型イベント との比較が行われておらず,横浜トリエンナー レが社会創発資本の醸成にどれぐらい効果的 で,効率的であったかの比較分析を行うことが できなかった。他の市民参加イベントとの比較 分析を通して社会創発資本の醸成により効果的 なアプローチを確立したいと考える。

〔投稿受理日 2010.9.25 /掲載決定日 2011.1.27〕

⑴  社会規範についての整理は[北折 2000]が詳 しい。

⑵  横浜トリエンナーレ 2008 に参加しているボラ ンティアは「サポーター」と「本展ボランティア」

とに区別されていることを補足しておく。本論に おいて調査対象にしているのは,「サポーター」

である。「本展ボランティア」が横浜トリエンナー レ 2008 の会期中の会場運営を行うボランティア であるのに対し,「サポーター」は会期前から横 浜トリエンナーレを盛り上げるために活動してい たボランティアを指す。

⑶  横浜トリエンナーレ 2008 における市民の関わ りについては[横浜芸術文化振興財団 2009]が 詳しい。

⑷  ネットワーク分析では,「点」を「Node」,線 を「Tie」とし,ある点から他の点へ向かう線を「出 次数」,ある点へ他の点から向かってくる線を「入 次数」と呼ぶ。[安田雪 1997]が詳しい。

⑸  直接ヒアリングした 14 人以外の年齢はヒアリ ングした対象者による想定での記入であるため,

実年齢とは異なる可能性がある。

⑹  「クリエイティブ・クラス」の集積としての考 察も可能だが,本稿では割愛する。「クリエイティ ブ・クラス」については[Florida 2002]が詳しい。

⑺  「同類性の原理」とは「社会的な相互行為はラ イフスタイルや社会経済的特徴が似た個人間で行 われる」という仮説[Lin 2001:39]。

⑻  レジームとは,インフォーマルながら積極的な 役割を果たす社会構造として,クラレンス・ストー ンが「レジーム[政策連携体]とは,柔らかなガ バナンスへの参画のネットワークよりも強いもの で,ある共有された政策のもとに集い,成果を出 す意識を共有する中核メンバーが官民セクターの 境界を超えて形成する協力関係である」と述べて いる[stone 2001]。

参考文献 :

Bourdieu, P. 1986. The Forms of Capital. Handbook of theory and research for the sociology of education,edited by J.G.Richardson, New York, Greenwood Press. pp. 241-258

Burt, Ronald. 1992. Structural Holes: The Social Structure of Competition. Cambridge, Harvard University Press.

Coleman, James S. 1988. Social Capital in the Creation of Human Capital. The American Journal of Sociology 94, S95-S121.

Florida,Richard.2002. The Rise of the Creative Class, New York, Basic Books.

Granovetter, M. 1973. The stength of weak ties. 

American Journal of Sociology 78, 1360-80.

Hanifan, Lyda J. 1916. The Rural School Community Center, Annals of the American Academy of Political and Social Science vol.67, pp.130-138.

Jacobs, Jane. 1961. The Life and Death of Great Amercian Cities. New York, Random House.

Lin, Nan. 2001. Social Capital : A Theory of Social Structure and Action. Cambridge, U.K. , New York, Cambridge University Press.

――――――――――2006. A Network Theory of Social Capital, Handbook on Social Capital, edited by Dario Castiglione,Jan van Deth and Guglielmo

(16)

Wolleb, Oxford University Press

Putnam, Robert D, 1993. Making democracy work : civic traditions in modern Italy. Princeton, N.J.

Princeton University Press.

――――――――――2000. Bowling Alone : The Collapse and Revival of American Community. New York, Simon & Schuster.

Stone,C.N[2001].The Atlanta Experience Re-examined: The Link Between Agenda and Regime Change, International J o u r n a l o f U r b a n a n d R e g i o n a l Research,VOL.25,No.1,pp.20-34.

横浜芸術文化振興財団[2009],『アートボランティ ア横浜スタイル-横浜トリエンナーレ 2008 サ ポーターとボランティアの活動記録-』, 美術出 版社

延藤安弘[1998],『創発の生活空間計画-もうひ と つ の 実 践 的 計 画 論 - ], 日 本 建 築 学 会 ,Vol.113,No.1422, pp.28-29,

北折充隆[2000],『社会規範とは何か ―当為と所 在に関するレビュー』― 名古屋大学教育発達科 学研究科紀要 ( 心理学 )47,pp.155-165.

園田寿 ・ 井田良 ・ 加藤克佳[1996],『刑事法講義ノー ト{第 2 版}』, 慶応義塾大学出版会

内閣府経済社会総合研究所[2005],『コミュニティ 機能 . 再生とソーシャル・キャピタルに関する研 究調査報告』

日本総合研究所[2008],『日本のソーシャル・キャ ピタルと政策~日本総研 2007 全国アンケート . 調査結果報告書~』

日本政策投資銀行地域政策研究センター地域企画 部・北海道支店 [2006],『ソーシャル・. キャピ タルと地域経営―ソーシャル・キャピタル研究会 報告書―』

安田雪[1997],『ネットワーク分析-何が行為を 決定するか-』, 新曜社

山岸俊男 [1998],『信頼の構造―こころと社会の進 化ゲーム』, 東京大学出版会

横浜トリエンナーレ組織委員会 2009,『横浜トリエ ンナーレ 2008 報告書』

参照

関連したドキュメント

を行っている市民の割合は全体の 11.9%と低いものの、 「以前やっていた(9.5%) 」 「機会があれば

参加者は自分が HLAB で感じたことをアラムナイに ぶつけたり、アラムナイは自分の体験を参加者に語っ たりと、両者にとって自分の

巣造りから雛が生まれるころの大事な時 期は、深い雪に被われて人が入っていけ

るものの、およそ 1:1 の関係が得られた。冬季には TEOM の値はやや小さくなる傾 向にあった。これは SHARP

賠償請求が認められている︒ 強姦罪の改正をめぐる状況について顕著な変化はない︒

1989 年に市民社会組織の設立が開始、2017 年は 54,000 の組織が教会を背景としたいくつ かの強力な組織が活動している。資金構成:公共

都調査において、稲わら等のバイオ燃焼については、検出された元素数が少なか

 今年は、目標を昨年の参加率を上回る 45%以上と設定し実施 いたしました。2 年続けての勝利ということにはなりませんでし