25 2.中課題2:貝毒標準物質の抽出・精製技術の開発 (1)成果の概要 工程表 進捗状況・成果 Dinophysis培養物を対象にPTX2 や OA 等 の毒の精製条件について,既存の精製条件を より効率化する(小課題1関連)。(平成23 -24年度) Dinophysis培養物を対象にカラムスイッチ ングバルブやオートインジェクタ等の機器 を効率的に使用し,クロマトグラフィーによ る毒の精製を可能な限り自動化する(小課 題1関連)。(平成23-25年度) P. limaとP. reticulatumが生産する毒を対 象とした精製条件の検討(小課題1関連)(平 成23-24年度) P. limaとP. reticulatumが生産する毒を対 象とした機器による精製自動化条件の検討 (小課題1関連)。(平成23-25年度) Dinophysis の培養液から毒を固相抽出によ り 抽 出 し , 市 販 の カ ー ト リ ッ ジ カ ラ ム SepPak C18 plus による前処理精製物を HPLC による自動連続精製システムを用い て精製することにより,高純度毒を精製でき ることが明らかになった(図1)。(平成23 年度) ※1 カラムスイッチングバルブとオートインジ ェクタによる連続自動精製システムを市販 装置の組み合わせにより考案した(図2)。 (平成23年度) ※2 収穫藻体の一部を用いて既報メソッドによ り抽出精製を行い,OA 及び DTX1 を単離し た。YTX に関しては,試験的に溶媒抽出ま で行った。(平成23年度) 既報メソッドによりOA, DTX1 及び YTX を 単離した。(平成24年度) 精製自動化は,市販汎用オートサンプラーと 大量分取用フラクションコレクターを利用 して終夜連続運転で自動分取が可能である 事を確認した。(平成23年度) 前年度に引き続き,同上の手法で精製自動化 を実行した。(平成24年度) 平成23~24 年度に大量培養後,冷凍保存し たP. lima藻体からOA と DTX1 の単離精製
26 ラン藻や渦鞭毛藻が生産する主要毒を効率 的に精製する方法を確立する(小課題2関 連)。(平成23-25年度) を行った。藻体のメタノール抽出物から液液 分配の後,アルミナ及びシリカゲルクロマト カラム,中圧逆相クロマトカラムにより荒分 けし,最終的に HPLC 分取精製を行った。 NMR により単離物が OA と DTX1 である事 を確認した。また,マイナー化合物ではある がOA 類縁体の 7-deoxy OA も得られた。培 養容量約1000 L 分から OA 100 mg、DTX1 10 mg を得た(HPLC 純度 85~90%)。これ は従来培養法による収量よりも10 倍以上の 収量で得られた。 (平成25年度)(図3,4,5) ※3 平成23~24 年度に大量培養後,冷凍保存し たP. reticulatum藻体からYTX の単離精製 を行った。P. reticulatum培養液(464L 相 当量)を濾過し,HP20SS 樹脂,液液分配, 中 圧ガ ラスカ ラム クロマ トグ ラフィ ー, HPLC 分取クロマトグラフィーにより YTX を精製した。HPLC 分取クロマトグラフィー においては,C30HPLC カラムの利用により 大量のYTX を精製することが可能であるこ とが明らかになった。精製したYTX は NMR により高純度であることが確認された。 (平成25年度)(図6,7) ラン藻が生産する主要毒であるC1 と C2 の 単離において,特殊な樹脂を使用しない,代 替となる精製手順を検討したところ,市販の 膜ろ過装置を使用して既報と同等の純度が 得られることを NMR にて確認した。(平成 23年度) (図 8,9,10) ※4
27 自動分取装置を使用して,単離した毒を最終 精製し,それぞれの異性体を単離する方法を 確立する(小課題2関連)。(平成24-25 年度) 渦鞭毛藻Alexandrium tamarense の培養 藻体10L 相当を使って,効果的な抽出法を 検討した。ラン藻で有効であった膜ろ過を適 用したところ,色素タンパク質などを効果的 に除去できた。また,グラファイトカーボン が充填された固相カートリッジを通液させ ることで,そのまま高圧カラムによる自動精 製が可能であることを確認した。従来の中圧 カラムを主体とする精製法から,汎用性があ り,簡便な精製法へと大幅に改良できた。(平 成24年度)(図11) ※5 渦鞭毛藻Gymnodinium catenatumの培養 藻体10 L 相当を使って,効果的な抽出法を 検討した。ラン藻で有効であった膜ろ過を適 用したところ,色素タンパク質などを効果的 に除去できた。その後,ゲルろ過カラムクロ マトグラフィー,親水性クロマトグラフィ ー,再度ゲルろ過クロマトグラフィーに供す ることで,総収率50%で GTX5,6 を単離す ることができた。 (平成25年度)(図15,16)※7 自動分取装置(アジレント社製)にて貝毒を 検出するためのMS 条件を設定した。成分分 離には親水性相互作用のあるカラムを使用 した。二種類のカラムを使用することによ り,それぞれの異性体を単離することが可能 となった。また,抽出液を精製するための効 率的な前処理として,グラファイトカーボン が充填された固相抽出カートリッジが有効 であることを見出した。実際に,プランクト ン抽出液にて,効率よく検出できることを確 認した。(平成24年度)(図 12,13,14)
28 ※6 前年度に引き続き,自動分手法の条件を検討 した。新たにGTX5,6 の溶出位置を特定し, 実際の精製に適用可能であることを明らか とした。また,精製したGTX5,6 に対し NMR とHPLC にて純度を確認し,95%以上であ ることを確認した。 (平成25年度)(図 15,16)※7 成果目標:より汎用性の高い精製用担体等を用いることにより,既存の精製法を汎用的な 手法に改良する。また,精製手順についてもより簡便化や機器による自動化を図り,効率 的な精製技術を確立する。 <成果の概要の補足> ※1:OA と PTX2 は夾雑物との重なりがないためこの条件で高純度精製物が得られる。 図1.D.forti の SepPak C18 60%メタノール溶出画分の HPLC-DAD クロマトグラム
夾雑物
OA, PTX2は単一のピークで検出されているが、付近に夾雑物が多く存在しているため、 夾雑物の混入していないフラ クションを収集する。
DTX1は極大吸収の異なる化合物と保持時間が重なっているため再精製が必要である。
OA PTX2 DTX1
29 ※2:カラムスイッチングバルブとオートインジェクタを用いた自動精製システムにより 精製対象ピークやその再度フラクションを分画できる。 図2.カラムスイッチングバルブとオートインジェクタを用いた自動精製システムの概 略図 ※3 収穫時に濾過操作で培地と藻体に分離。培地中に含まれるOA 及び DTX1 は HP20 樹脂で回収し,藻体抽出物と併せて精製した。含水メタノール-ヘキサン分配によりクロロ フィルや脂質などを除去し,次いでクロロホルム-水分配で目的成分とその他成分に分液し た。その後,アルミナとシリカゲルの純相カラム,中圧逆相クロマトカラム,HPLC 逆相クロマ トカラム精製によりOA 及び DTX1 を得た。 Pump Auto injector Column Tube Fraction collector Resurve Resurve Fraction Collector (time base) Side fraction 自動精製システム概略図 Va lve Aー B Bー B Aー B Aー A Resurve Resurve Valve 1 Valve 2 A B B A waste
30
図3.P. lima藻体からのオカダ酸類抽出フローチャート
図4.HPLC 精製によるオカダ酸類精製時の HPLC クロマトグラム (19.3 分:OA, 26.6 分:DTX1)
31
図5.OA と DTX1 の1H-NMR スペクトル (600 MHz, CHCl3),(上)OA、(下)DTX1
図6.最終精製におけるP. reticulatum C30 A40:C60 画分 Mightysil RP18GP クロマトグ ラム
32 図7.精製したYTX の H-NMR スペクトル 1H, 800 MHz, CD3OD 表1.精製したYTX のマイクロ天秤による秤量結果と各定量分析結果の比較
QNMR
Eretic
LC-MS (EIC)
m/z 1141.47±0.05 mmu
HPLC-UV
230 nm
定量値(µg)
110
15.6
15.0
マイクロ天秤による
秤量値(µg)
115
14.5
14.5
秤量値との真度(%)
95.7
107.6
103.4
※4:特殊な樹脂とは,Bio Gel P-2 (200-400mesh, Bio Rad) で現在市販されていない旧 製品をさす。同製品は今も販売されているが,毒を保持する能力がなく精製には不向きで
33 ある。本樹脂を使用した精製は必須の工程であるため,それと同等の効果が得られる代替 手法の開発が不可欠であった。現時点でのラン藻からの精製方法を図8に示す。特殊な樹 脂の代替法として検討した膜ろ過法(図9)では,毒の回収率は90%以上であることを確 認した。また,この方法により,数日間で有毒画分を処理できるようになり,精製期間を 大幅に短縮することができた。得られた毒は高純度であることが NMR により確認された (図10)。 図8.ラン藻細胞画分からの主要毒の精製スキーム ラン藻 Anabaena circinalis 培養液 ラン藻 細胞画分 0.5 M 酢酸溶液 (200 ml) を加え、 抽出液を酸性とした。 200 mlずつ、プラステ ィックボトル(250 ml 容)に分注した。 超音波破砕 (Output level;6, on ice, 30 sec x 5 times, Iwaki) 遠心分離 (9000 rpm, 4degC, 30 min, Kubota) 上清 残渣 (操作1)を2回繰り返した。 上清 混ぜ合わせた。 活性炭 200 ml (湿重量200g 相当) をオープンガラスカラムに充填した。 上清約 1 L を通液した。 カラム を蒸留水 400 ml で洗浄した。 4% 酢酸-50% エ タノール溶液 (1.6 L) にて有毒成分を溶出した。 有毒画分 (操作1) Vivaflow50 にて膜ろ過 (分画分子量10000, 再生セルロース膜) をした。 100mlの0.05M 酢酸溶液にて、2回ろ過セッ トを洗浄した。 ろ液 減圧濃縮した。 陽イオン交換カラムクロマトグラフィー (DEAE 650M, 450 x 20 mm i.d., Tosoh) 溶離液;5% B (A; 蒸留水、B; 1 M 酢酸溶液)、流速;2 ml/min C1/2 粗画分 (105 ml ~240 ml) 回収率:85% 以上 減圧濃縮した。 陰イオン交換カラムクロマトグラフィー (BioRex‐70 200‐400mesh, 450 x 10 mm i.d., Bio‐Rad) 溶離液;5% B (A; 蒸留水、B; 1 M 酢酸溶液)、流速;1 ml/min C1/2 粗画分 (16ml ~32 ml) 回収率:85%以上
34 図9.膜ろ過法の概略図 Vivaflow 50 再生セルロース膜 分画分子量:10000 MWCO ラン藻抽出液 ペリスタポンプ 濾液 ろ過前 ろ過後 濾過膜 分子量10000以下 抽出液 濾液 1 ml/min 図10.C1/C2 粗精製画分の NMR による純度確認 (上段:改良した精製法,下段:既存の精製法) :GTX2/GTX3 由来のシグナル :1-butanol 由来のシグナル
35 ※5:渦鞭毛藻の細胞画分から,ろ過法を主体とする精製を経て,高圧カラムを利用し た最終精製へと導く汎用的かつ簡便な精製法を開発した。 図11.渦鞭毛藻Alexandrium tamarense からの効率的な抽出方法の確立 ※6:自動分取MS による麻痺性貝毒の精製条件 図12.自動分取 MS 装置における分析条件(アイソクラティック溶出) 0.5 M 酢酸 遠心分離 残渣 吸引ろ過(膜孔:0.45 m, 材質:PES) 膜ろ過(分画分子量:10 kDa, 材質:PES) 減圧濃縮 固相抽出 (HyperSep PGC, 50mg) 自動分取装置による精製
ZIC-HILIC, TSKgel Amide80 など Alexandrium tamarense 細胞画分(75 ml, 10 L 相当) 上清 ろ液 ろ液 ろ液 麻痺性貝毒(C2, GTX4) ×2 2200cps 1700cps GTX4 11.5 min C2 13.0 min GTX4 12.0 min C2 13.0 min 固相抽出 前 ZIC-HILIC, 60%B 固相抽出 後 ・5-7倍感度上昇! ・分離が良好 ポンプ A; 蒸留水 (移動相) B; 95%アセトニトリル (ともに、3.6 mM ギ酸・2.0 mM ギ酸アンモニウムを含む) カラム 1) TSKgel Amide-80 (250 x 2 mm, Tosoh)
2) ZIC-HILIC(150 x 2 mm, Merck) 質量分析計 (MS)
⾙毒 m/z-1 m/z-2 m/z-3 TSKgel Amide80 ZIC-HILIC
C1 316 298 396 70%B 60%B C2 396 298 GTX1 332 314 GTX4 412 314 GTX2 316 396 GTX3 396 316 GTX5 300 380 282 60%B dcGTX2 273 255 dcGTX3 353 335 255 neoSTX 316 298 50%B 50%B dcSTX 257 239 MSパラメーター • マルチモードソース(ESI) • ドライガス: 5 L/min • ネブライザー: 60 psi • ドライガス: 250℃ • バポライザー: 150℃ • キャピラリー電圧: 2000 V • コロナ電流: 0 A • チャージ電圧: 2000 V • ポジティブ
36 図13.GTX2/GTX3 標準品による異性体の分離例 図14.親水性相互作用カラムにおける各貝毒成分の溶出時間例 ※7:渦鞭毛藻の細胞画分から,ろ過法を主体とする精製を経て,実際にGTX5 と GTX6 を単離した。それらについて,NMR と HPLC で純度を確認した。 GTX2 8.0 min GTX3 13.5 min GTX2 15.0 min GTX3 17.5 min
ZIC-HILIC
TSKgel Amide80
MS クロマトグラム UV クロマトグラム MS クロマトグラム UV クロマトグラム ZIC-HILIC TSKgel Amide80 GTX5 dcGTX3 dcGTX2 60%B GTX4 18:00 GTX3 17:00 GTX1 16:00 GTX2 15:00 14:00 13:00 12:00 C2 11:00 C1 10:00 9:00 8:00 70%B Time (min) GTX5 dcGTX3 dcGTX2 60%B GTX4 18:00 GTX3 17:00 GTX1 16:00 GTX2 15:00 14:00 13:00 12:00 C2 11:00 C1 10:00 9:00 8:00 70%B Time (min) dcSTX neoSTX GTX5 50%B GTX5 18:00 17:00 16:00 15:00 dcGTX3 GTX3 14:00 C2 GTX4 13:00 12:00 11:00 dcGTX2 10:00 GTX2 9:00 GTX1 C1 8:00 60%B Time (min) dcSTX neoSTX GTX5 50%B GTX5 18:00 17:00 16:00 15:00 dcGTX3 GTX3 14:00 C2 GTX4 13:00 12:00 11:00 dcGTX2 10:00 GTX2 9:00 GTX1 C1 8:00 60%B Time (min) 50%B 18:00 neoSTX dcSTX
37
図15.GTX6 のクロマトグラムと NMR スペクトル
38 3.中課題3:二枚貝代謝物質の精製技術の開発 (1)成果の概要 工程表 進捗状況・成果 ホタテガイによるPTX2 から PTX6 への変換 について,in vitroおよびin vivoでの条件 検討を行う(小課題1関連)。(平成23-2 4年度) in vitro 変換では,主に外套膜で PTX2 から PTX1 への変換が確認された(図 1)。ホタテ ガイ由来のジスルフィド結合を持つ分子量 の異なる少なくとも二種類の分子が関与し, 季節変動が示唆された。貝柱への強制投与に よるin vivo 変換では,PTX2 の酸化による 変換に加えて,別の物質に変換または分解さ れている可能性が示唆された。(平成23年 度) ※1 北海道産ホタテガイでは2 月からは PTX 変 換能陽性の個体が現れ始めた。その後割合が 上昇し,4 月からは 100%となった。北海道 産及び青森産(昨年)の7 月ホタテガイでは 変換能が確認できたが,宮城女川産ホタテガ イでは 7 月下旬には変換能が確認できなか った。北海道産ホタテガイでも8 月には変換 活性が消失した(図2)。季節変動の要因と しては,餌,温度,性周期が考えられる。(平成 24年度) ※1 平成24年度Dinophysis fortii 給餌実験試 料の分析の続きと,新規給餌実験を行った。 分析の結果,中腸腺への蓄積が大半でありホ タテガイに含まれていたPTX 群は総給餌量 の70%程度と妥当な数値であった(表2)。 し か し,DTX 群については飼育海水中の DTX1 が多く,総給餌量の 180%程度にまで 増加した。給餌に用いたD. fortiiには検出で きない DTX 誘導体が含まれると考えられ, 培養海水のアルカリ加水分解試料の測定を
39 PTX の変換機構を明らかにし,PTX2 から PTX 代謝物を変換反応により生産するため の基礎技術を開発する(小課題1関連)。(平 成24-25年度) 行ったが,DTX 誘導体は検出できなかった。 新 規 給 餌 実 験 で は,Dinophysis caudata を,12 枚に対して給餌した。ほとんどの貝は 2,3 日目から死亡し始め,試験期間を通じて 生存した貝は1 枚のみであった。症状として は海水が白く濁り,貝殻を閉じなくなり,エラ がボロボロになった。中腸腺の蓄積量は昨年 度の D. fortii 給餌個体に比べて多くなかっ た。しかし,殺貝成分を含むと考えられるD. caudata の給餌条件と,何も症状を示さなか った D. fortii 給餌条件での比較は困難であ る。(平成25年度) ホタテガイの外套膜PTX 変換能は 48 時間の 氷蔵で失われた。(平成24年度) ホタテガイへの,in vivo でのプランクトン 投与によるPTX 変換機構について解析を行 った。各試験個体の中腸腺に含まれていた PTX 群は,表1の値となった。PTX2 が最も 少なく,PTX1,PTX3 は同程度含まれ,PTX6 が最も多い割合となった。給餌個体の PTX 群の蓄積率は,給餌Dinophysis fortii 細胞 から計算された PTX2 換算で 8.53-28.7%で あった。蓄積率が低かった個体1 は飼育海水 中の残存細胞が多い傾向にあり,個体差と考 えられた。蓄積率が低い個体を除くと PTX 群の蓄積率や変換率には性差はあまり無い ことが示唆された。(平成24年度) *2 前 年 度 の ホ タ テ 外 套 膜 抽 出 条 件 を 見 直 し,PTX の変換にはシトクロム P450(CYP) の関与が推察されたために,抽出条件を CYP に最適化し,調製を簡略化した。これによ り,PTX2 から PTX6 までの効率的な変換を
40 可能にし,また,調製外套膜の活性を損なわず に冷凍保存することも可能になった。昨年度 までとは異なり,変換活性は活性が見られな くなった夏季にも継続して見られた(表3)。 一方で,PTX2 から変換物の生成が常に一定 の割合ではないことから,変換に関わる CYP が単一ではないもしくは変動する可能性が 示唆された。また,外套膜に局在する変換活 性が,他の部位に必ずしも見られないわけで はなく,貝柱は本実験の条件では乳化してし まい活性の確認が困難であった。本研究の成 果により,PTX 群の変換物の多量調製が可能 になった。 ホ タ テ 外 套 膜 に よ る 変 換 実 験 の 結 果 か ら,CYP を主体とする酵素によって PTX 群 の変換が行われていることが明らかになっ たため,生物体内での酸化還元代謝への関与 が明らかにされているCYP とフラビン含有 モ ノ オ キ シ ゲ ナ ー ゼ (flavin-containing monooxygenase:FMO)を用いて PTX 群の 変換を確認した。本研究ではヒト CYP1A1, 2A6, 3A4, 4F12 とラット CYP1A, 2A1, 3A1, ヒトFMO1,3,5 を試験に用いた。組換え酵素 と PTX2 の反応の結果,ヒト CYP3A4 では PTX2 が大きく減少し,PTX1(図 3)と PTX6 (図 4)のチャンネルにピークが現れたが, 溶出時間が異なるために,正しい変換物では な か っ た 。 ラ ッ ト CYP3A1 で も , ヒ ト CYP3A4 と同様に PTX1 と同じ分子量を示 すが溶出時間が異なるピークが現れた。当所 の目的であるPTX 群の正しい変換は確認で きなかったが,複数の異性体が生成された。 分子構造を解明することにより,新規の誘導 体の生成法として,また,ヒトや動物の体内で の代謝産物を明らかにすることが可能にな る。(平成25年度)
41 二枚貝の代謝産物であるdcGXT2/3 も含め, 効率よく多種類の麻痺性貝毒類縁体を調製 するため,化学変換反応の条件を最適化する (小課題2関連)。(平成23-25年度) 化学反応で得られた生成物について,自動分 取装置などを使用して,単離する技術を確立 する(小課題2関連)。(平成24-25年度) 麻痺性貝毒類縁体のうち,dcSTX, neoSTX, GTX5 を,それぞれの前駆物質からチオール 試薬を用いて効率的に調製する化学反応条 件を設定した(図5)。(平成23年度) ※3 GTX5 から dcSTX を効率よく調製する反応 条件を検討した結果,6 N 塩酸溶液で 110℃,3 時間反応させると,ほぼ 100%の 変換率でdcSTX を得ることができた。これ まで,dcSTX は C1/2 から総収率 30% 程 度で得られていたものが,ほぼ90% 以上の 収率で調製できるように改良できたうえ, 新規の変換ルートを確立することに成功し た。 (平成24年度)(図6) ※4 前年度に確立したdcSTX の調製法の再現性 を確認するとともに,調製スケールでの精製 が可能であることを確認した。 (平成25年度)(図8)※6 自動分取装置(アジレント社製)にて貝毒を 検出するための MS 条件を設定した。成分 分離には親水性相互作用のあるカラムを使 用した。二種類のカラムを使うことで,それ ぞれの異性体を単離することが可能となっ た。また,抽出液を精製するための効率的な 前処理として,グラファイトカーボンが充填 された固相抽出カートリッジが有効である ことを見出した。dcSTX の反応液を中和し て自動分取装置に供したところ,問題なく成 分を単離できることを確認した。(平成24 年度)(図7) ※5
42 前年度に確立したdcSTX を実際に調製スケ ールで自動分取し,NMR と HPLC にて純度 を確認した。その結果,95%以上の純度を有 していることが判明した。 (平成25年度)(図8)※6 成果目標:培養株から精製したPTX2 を基質として,代謝産物 PTX1 および PTX6 へと導 くための反応条件(化学的手法,生化学的手法,生物学的手法など)を検討し,PTX1 や PTX6 を生成させる技術を確立する。有毒ラン藻や渦鞭毛藻が生産する毒成分を基質とし て,ほかの主要成分へと導くための反応条件(化学的手法,生化学的手法)を検討し,主 要毒を全て調製できる技術を確立する。 <成果の概要の補足> ※1:外套膜と貝柱でPTX2 から PTX1 への変換が確認された。DTT(ジチオスレイトー ル)を加えると外套膜での変換は約1/4 に,貝柱では消失した。中腸腺で見られた PTX6 はDTT による影響を受けなかった。 図1.in vitro変換:ホタテガイ部位によるPTX2 の変換 0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 PT X 1 PT X 6 PT X 1 PT X 6 PT X 1 PT X 6 PT X 1 PT X 6 PT X 1 PT X 6 PT X 1 PT X 6 PT X 1 PT X 6 PT X 1 PT X 6 PT X 1 PT X 6 PT X 1 PT X 6 エラ 外套膜 貝柱 中腸腺 生殖腺 DTT入 エラ DTT入 外套膜 DTT入 貝柱 DTT入 中腸腺 DTT入 生殖腺 (μg)
43 図2.ホタテガイ外套膜の PTX2 変換活性
44 図4.PTX6 異性体 ※2:ホタテガイにPTX2 を生産するDinophysisを給餌することにより,ホタテガイ代謝 毒であるPTX1,PTX4,PTX6 を効率的に生産できる可能性が見出された。(次頁へ) 表1.Dinophysis給餌試験におけるホタテガイ中腸腺当たりの毒量(µg) PTX2 PTX1 PTX3 PTX6 合計 蓄積率 1 ♂ 0.682 1.392 0.982 2.094 5.15 8.53% 2 ♀ 1.135 2.321 2.614 5.867 11.937 20.8% 3 ♂ 1.102 3.928 3.517 7.783 16.33 28.7% コントロール ♀ - - - 0.426 0.426 -
45 表2.D. fortii給餌試験におけるホタテガイ当たりの毒量(µg) 表3.調製外套膜によるPTX 変換活性 ※3:dcSTX は dcGTX2/3 を前駆物質として化学誘導した。neoSTX は GTX1/4 を前駆物 質として化学誘導した。GTX5 は C1/2 を前駆物質として化学誘導した。赤字:平成 23 年 度に達成した化学反応条件とその収率。黒字:既報の反応条件とその収率。 DTT: ジチオスレイトール, NH4HCO3: 重炭酸アンモニウム
46 図5.麻痺性貝毒類縁体の調製スキーム ※4:GTX5 を前駆物質として,dcSTX を効率的に調製できる,新規変換ルートを確立し た。これによって,二枚貝代謝物の一つであるdcSTX を効率よく調製する反応経路を確立 した。(次頁へ) 図6.GTX5 から dcSTX の効率的な変換ルート
C1
C2
dcSTX
GTX5
GTX2
GTX3
GTX1 GTX4 neoSTX 1% DTT 1% NH4HCO3aq. r.t., 1.0hr Yield: 90% < 1% DTT 1% NH4HCO3aq. 50oC., 1.0hr Yield: 90% < 0.1M HCl aq. Yield: 90% < 0.1 M Phosphate buffer (pH 6.0) 75oC, 1.0hr Yield: 30‐40% 1% DTT 1% NH4HCO3aq. 50oC., 1.0hr Yield: 90% < GTX5, GTX6dcGTX2
dcGTX3
ラン藻 Anabaena circinalis 渦鞭毛藻 1% NH4HCO3 aq. 50°C, 1h 100% 1% DTT C1/C2 GTX5 1% NH4HCO3 aq. r.t, 1h 94% 1% DTT dcGTX2 dcGTX3 dcSTX 0.1M KPB pH7.0, 75°C, 1h 30-40% GTX2 GTX3 0.1M HCl aq. 100°C, 5min 100% GTX1 GTX4 1% NH4HCO3 aq. 50°C, 1h 100% 1% DTT neoSTX ラン藻 Anabaena circinalis (CS-541/04) 渦鞭毛藻 Alexandrium tamarense 15 min 100% -ME STX 6N HCl aq. 110°C, 3h 116% 新規変換ルート を確立 総収率 90%<47 ※5:dcSTX の反応液を重炭酸アンモニウムで中和した溶液をそのまま,自動分取装置に 供したところ,問題なく生成物を単離することが可能であることが分かった。 図7.GTX5 の精製とそのクロマトグラム ※6:GTX5 から化学変換によって,実際に dcSTX を調製した。それについて,NMR とHPLC で純度を確認した。 反応液 重炭酸アンモニウムを添加 中和 自動分取装置による精製 UV クロマトグラム(210nm) MS クロマトグラム dcSTX TSKgel Amide 80 カラム 移動相比率: 50%B GTX5 dcSTX 6N HCl 110C, 3 hrs 収率:116%
48 図8.単離したdcSTX の NMR スペクトルとクロマトグラム Ⅲ.主要な成果 1.成果の内容 1)貝毒生成プランクトンの培養株の検索と大量培養条件等の検討 下痢性貝毒DTX1 及び脂溶性貝毒 PTX2 の原料として細胞当たりの毒含量が高いD. fortiiを単離した(p.9)。また,PTX2 を大量に生産するD. caudateを単離して大量 培養条件を確立した(p.10)。下痢性貝毒 OA,DTX1 の精製のために既存株である P. lima 株(PL197)の大量培養条件の再現性を確認するとともに,安定的に OA と DTX1 を製造できることを確認した(p.11)。 麻痺性貝毒生産プランクトンにおいては,A. tamarenseからGTX1,GTX4 成分の ための候補株, G. catenatumからGTX5,GTX6 のための候補株を選抜した(p.9-10 )。さらにこれらの株について大量培養技術を確立した(p.11-12)。 2)貝毒標準物質の抽出・精製技術の開発 下痢性・脂溶性貝毒生産藻類から OA,DTX1 及び PTX2 を精製するための前処理条 件やカラムスイッチングバルブとオートインジェクタによる連続自動精製システムを 市販装置の組み合わせにより考案した(p.24-25)。 麻痺性貝毒の精製においては,現在,製造中止により市販品の入手ができない特殊 な樹脂を使用しない代替となる精製手順を考案するなど新たな効率的前処理手順を考 案するとともに,新たに膜ろ過による精製手順を考案するなど(p.26),麻痺性貝毒の
49 精製手順を簡略化することに成功した。また,市販自動分取装置を利用した精製シス テムを構築した(p.26-27)。 当初計画には含まれていない研究成果としては,精製した貝毒標準品の高精度な値 付け法に関する基礎的知見を得た(p.25)。 3)二枚貝代謝物質の精製技術の開発 下痢性・脂溶性貝毒において国内ホタテガイの主要毒であり代謝毒である PTX6 を 製造するために,有毒プランクトンが生産した PTX2 をホタテガイ酵素により初めて PTX6 まで変換する条件を見出した(p.38-39)。 麻痺性貝毒類縁体のうち,dcSTX, neoSTX, GTX5 を,それぞれの前駆物質から効率 的に変換させる化学反応条件を確立することに成功した(p.40)。 2.成果の活用 本事業で得られた技術は、今後貝毒標準品の製造等に活用することができる。 Ⅳ.論文、特許等の実績等 別紙のとおり
別添
論文、特許等の実績等
学術論文
口頭発表
Nagai S, Suzuki T, Kamiyama T. Successful cultivation of the toxic dinoflagellate Dinophysis tripos (Dinophyceae). Plankton & Benthos Research 8: 171-177 (2013).
麻痺性貝毒原因プランクトンの培養による貝毒標準品製造.及川寛・長井敏・神山孝史・渡邊龍一・鈴木敏之.平成24年度 東北ブロック水産業関係研究開発推進会議貝毒研究分科会.2012年11月. タイトル、発表者名、学会等名、発表年月 鈴木敏之ほか 国内外の貝毒監視体制の現状と今後の動向,食品衛生学雑誌, 54(3): 265-274 非動物試験による貝毒検査に向けた貝毒標準品安定供給技術の開発.渡邊龍一.第9回「シーフードショー大阪」 第17回 技術交流セミナー.2012年2月 麻痺性貝毒プランクトンの毒成分組成と大培養に向けた培養法の検討.及川寛・長井敏・神山孝史・渡邊龍一・鈴木敏之. 平成24年度日本水産学会春季大会.2012年3月. タイトル、著者名、学会誌名、巻、ページ、発行年月
Nagai S, Suzuki T, Nishikawa T, Kamiyama T. Differences in the production and excretion kinetics of okadaic acid, dinophysistoxin-1, and pectenotoxin-2 between cultures of Dinophysis acuminata and D. fortii isolated from western Japan. Journal of Phycology 47: 1326-1337 (2011).
機関名 機関名
Suzuki T, Quilliam M.A. LC-MS/MS Analysis of Diarrhetic Shellfish Poisoning (DSP) Toxins, Okadaic Acid and Dinophysistoxin Analogues, and Other Lipophilic Toxins. Analytical Sciences 27:571-584 (2011)
脂溶性貝毒ペクテノトキシン群の細胞毒性.菊次沙織・松嶋良次・渡邊龍一・内田肇・内田直行・村田昌一・安元健・鈴木敏 之.平成25年度日本水産学会春季大会.2013年3月.
麻痺性貝毒標準品製造のためのAlexandrium tamrense大量培養.及川寛・渡邊龍一・鈴木敏之.平成25年度日本水産学 春季大会2013年3.
下痢性貝毒標準品作製を目的とした渦鞭毛藻Prorocentrum limaによるオカダ酸生産 優良株の探索と大量培養条件の検討、吉野 敦・鈴木敏之・安元 健、平成25年度日本水産学会秋季大会(三重)、2013 年9月 ホタテガイにおける脂溶性貝毒PTX2の変換反応.松嶋良次・菊次沙織・渡邊龍一・金森誠・馬場勝寿・高坂佑樹・鈴木敏 之.平成24年度 東北ブロック水産業関係研究開発推進会議 資源生産部会貝毒研究分科会(赤潮・貝毒部会 東日本ブ ロック).平成24年11月.
Quantitative NMR analysis using an electronic signal in the preparation of reference materials of marine biotoxins. Watanabe R. Matsushima R, Harada T, Yasumoto T, Suzuki T. The XV international conference on Harmful algae. Changwang, Korea, Oct. 2012.
Accumulation and transformation of paralytic shellfish toxin by pen shell Atrina pectinata. Oikawa H, Matsuyama Y. The XV international conference on Harmful algae. Changwang, Korea, Oct. 2012.
麻痺性貝毒成分の分析用標準品製造のためのGymnodinium catenatum大量培養の検討.及川寛・渡邊龍一・鈴木敏之.
平成25年度日本水産学秋季大会.2013年9月.
Preparation of saxitoxin analogues by chemical derivatization.Harada T, Watanabe R, Oikawa H, Matsushima R and Suzuki T. The XV international conference on Harmful algae. Changwang, Korea, Oct. 2012.
「ホタテガイにおけるペクテノトキシン群のin vitro変換」松嶋良次・内田肇・渡邊龍一・菊次沙織・永井宏史・鈴木敏之 平成26年度日本水産学会春季大会.2014年3月 下痢性貝毒原因生物.平成25年度日本水産学会秋季大会 水産環境保全委員会研究会 有害有毒プランクト ンの分類・生理・生態・生活史・個体群動態.長井 敏・鈴木敏之・神山孝史,講演要旨集,東京海洋大学,平成 25年9月22日. 麻痺性貝毒標準品の安定供給に向けた精製法および化学変換反応の効率化,.原田知子・渡邊龍一・及川寛・松嶋良次・ 鈴木敏之.平成25年度日本水産学会春季大会, 2013年3月. 沖縄本島沿岸域における渦鞭毛藻Prorocentrum limaの分布観測とその培養法、吉野敦、第15回マリンバイオテクノロジー 学会大会(沖縄)、2013年6月 「Dinophysis fortii給餌ホタテガイにおける脂溶性貝毒の動態」松嶋良次・長井 敏・内田肇・渡邊龍一・平野和夫・永井宏史・ 安元健・鈴木敏之 平成25年度日本水産学会秋季大会.2013年11月 「Dinophysis fortii給餌ホタテガイにおける脂溶性貝毒の動態解析」松嶋良次・長井 敏・内田肇・渡邊龍一・金森誠・馬場勝 寿・鈴木敏之 平成25年度 東北ブロック水産業関係研究開発推進会議 資源生産部会貝毒研究分科会(赤潮・貝毒部会 東日本ブロック) 2
出版図書 区分;①出版著書、②雑誌、③年報、④広報誌、⑤その他 区分 ① ① 国内特許権等 国際特許権等 特許権等の名称 発明者 権利者 (出願人等) 特許権等の種類 番号 出願年月日 機関名 番号
Suzuki T. et al., Chemistry, metabolism and detection of pectenotoxins and yessotoxins in “Seafood and freshwater toxins 3rd edition” ed by L.M. Botana, March 18, 2014 (Taylor and Francis)
特許権等の名称 発明者 (出願人等)権利者 特許権等の種類 出願年月日 取得年月日 機関名
Suzuki T. Chemistry and detection of okadaic acid/dinophysis toxins, pectenotoxins, and yessotoxins in “Toxin and biologically active compounds from microalgae” ed by G.P. Rossini, , April 5, 2014 (Science Publishers)
取得年月日
著書名、(タイトル)、著者名、出版社名、発行年月 機関名