(東女医大誌 第34巻第9号頁433−443 昭和39年9月)
〔綜 説〕
心室中隔欠損症および類似疾患の外科治療
東京女子医科大学外科学教室(主任
講師 服 部
ハツ トリ
榊原 任教授)
淳
ジユン
(受付 昭和39年7月25日)
緒 言
心室中隔欠損は最も良く知られt;心奇形であ り,今日では外科的治療が唯一の根治手段である ことに疑問をはさむ者はなくなってきている.わ れわれの教室で,心臓手術を始めてから今日まで 13年の年月を経過し,その間に手術を行なったも のは約4000例に及んでいる、この中,心室中隔欠 損は500例で,先天性心疾患三二2位を占めてい
る.
本症は1879年Rogerにより報告され,以来 Maladie de Rogerとして予後良好の疾患といわ
れ,Abottは平均寿命14.5才と述べ乍ら比較的良 性と判定している.
しかし,近年本症は血行動態の解明と共に悪 性の場合が多いとの意見が一般的になってきて いる.これは本症がしばしば肺高血圧を伴うこと と,肺高血圧がなくとも肺血流量が多いために右 心不全や重症な肺および心内感染を起し易いこと が明らかになってきたためである.すなわち,日 本病理輯集より見ると,非チアノーゼ性心疾患中
では最:も高い死因を占め,しかも新生児,乳幼児 期の死亡率の高い様子がみられる.本学病理教室 で剖検:された2才以下の非手術,先天性心疾患㊧
中でも高率を占めている.一方成人まで成長した ものでも25才から30才の間に一つの山がみられ
る.すなわち本症の死亡は新生児,乳幼児期に極 めて多く,特に6カ月未満,1才未満に多く見ら れるものと,20才子後半から30才代に多く見られ るものがある.この事実は本症の血行動態を極め て良く反映している.すなわち,出生直後より,
肺」血管床が胎生期肺血管構造を示すため,肺高血 圧症を伴う型と,一度正常肺血管構造に近づいた
ものが,多量の肺血流量のために肺毛細管の硬 化,閉塞を起こして肺高血圧症になるものがあ
り,前者は新生児,乳幼児期死因の一因をなし,
後者は成入信死因の原因となるわけである.一 方,肺1血流量の程度もその予後を左右し,乳幼児 期の多量の左室より右室への短絡は,右心不全,
肺合併症の原因となる.
したがって,本症の手術適応は,現在では,新生 児,乳幼児期より成人に至る間の本症患者が対象 になるわけであるが,高度の肺高血圧のための肺 動脈圧が大動脈圧に等しいか,更に上廻り短絡の 方向が右室より左室に向うfいわゆる逆短絡をな すEisenmenger化した症例と,学童期以降で,
心電図,レ線写眞に異常がない極めて小さな短絡 を有するものが適応から除外されている.
心室中隔欠損の発生機序および 中隔欠損の位置的分類
心室中隔の形成は,胎生期の初期に始まる.す
Jun HA[V[1}ORI (Department of Surgery, Tokyo Women s Medical College): Surgical treatments of ventricular septal defect and related diseases.
一 433 一
なわち,胎生2カ月の始めに三日月状の筋肉塊が 心尖部に生じ,室間溝に沿って上前方に発育し,
房室管に向い,第6週には背側心内膜床の右側小 隆起に融合する.しかし,心室中隔の腹側心内膜 床ventral endocardial cushionに到達する前に 発育を停止する.一方,肺動脈円錐部は脈管隆起 の心室内の続きであるright dorsal septal ridge 右動脈幹隆起と1eft ventral septal ridge左動 脈幹隆起が螺線状の走行をとって下降し室間孔を 縮め,一方腹側心内膜床の回縁も局所的に大きく なり,conus ridgeと結合し,中隔を形成する.
したがってこれらの5つの部分の中央に図1の 如く線維組織よりなる膜性部が形成されわけであ
る.以上の理由から,心室中隔欠損は,最もこ の膜性部に多いが,その他一般的には,これらの 結合線,特にconus ridge(right dorsal septal ridgeと1eft ventral septal rfdge)の結合線上 およびventra1とdorsal endocardial cushion の結合線上にできると老えられる.
しかし,こうした結合線上ばかりでなく,笏性 のinferior septumの発生途上に左右心室間の 聞隙を生ずることもあり,時に心尖部その他の筋 性部に欠損を生ずる場合もみられている.
したがって心室中隔欠損を解剖学的にみると図 2の如く肺動脈弁直下からcrista supra ventri−
cularisの上を越えて,膜性部に及ぶ部位に多く
− 一
x一
左動脈幹隆起 一
一
右動脈幹隆起
_腹側心内膜床の右結節
、背側心内膜床の右結節!
ノ
lnferior Sebtum
図1 心室中隔発生模式図
2.
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多9:
図2 心室中隔欠損の発生部位と動脈弁の関係 一434一
みられる.
欠損の位置的分類は,心臓外科が発達して以 来,数多くの人々によってなされたが,われわれ の教室でも数度の変遷を経ている.
大別すると,Group I動脈円錐部, Group II 二上乙部,Group III膜性部に分けられ,その 他,笛二部不定位の欠損に分けることができる.
著者らは本学病理学教室で剖検された本症例56 例を調査し,更に細分を行なった1).
Group I.動脈円錐部中隔欠損(室上稜には欠 損がかからず肺動脈弁までの間に欠損のあるも の)は,A)高位欠損, B)低位欠損, C)全欠 損,に分けた.
Group IIの室晶晶部欠損は, A)室上稜のみ
・に欠損が限局しているもの,B)二上稜と動脈円 錐部にかけて欠損が及ぶもの,C)室上稜と膜三 部にかけて欠損が及ぶもの,D)室上稜,動脈円 錐部および膜二部にかけての巨大欠損のあるもの に分け,Group IIIの膜性部欠損は, A)膜性
:組織の中に小さな欠損があるもの,B)欠損部周 囲に膜性組織がわずかに認められるもの,C)膜 性部欠損に更に筋性部欠損の加わっているもので 室温稜に及ばないものに分け,不定位筋性部欠損 は,心尖部付近にあるものと三尖弁付近にあるも のに分類した.
このようにしてGroup別に発生頻度をみると,
Group Iの動脈円錐部欠損は18%, Group IIの 室上稜部欠損は16%,Group.111の膜性部欠損は 64%で最も多く,不定位筋性部欠損は2%に過ぎ なかった.
この結果は,臨床的に手術によって確めた部位 別頻度にほぼ一・致するが,筋性部欠損は更に低頻 度であった.
以上の如く分類した理由は,心室中隔が右室側 より見ると丁丁側方から下学後方に向う中央を突 とする半球状をなし,右室切開によって根治手術 を行なう場合でも,総て同一の切開創から手術を 充分行なえるわけでないことと,中隔欠損の位置
と大きさにより,右後方にある大動脈弁への影響 および刺激伝導系への損傷を避ける必要があるた めである.
すなわち,肺動脈弁と大動脈弁および心室中隔 を模型上よりみると,中隔欠損のある部位は,図 3の黒点で示す通り,大動脈弁右冠動脈弁の左端 より右端を越え,無冠動脈弁の右半分にわたる部 位にあり,これらの部位の縫合には常に大動脈弁
を縫い込まないように注意する必要があるからで ある.また,刺激伝導系の走行は図4に示す通り
r
if
三寒
差響
轡・講ii馨継1塗響㍗聴箋
L_』 ∴瓶詠幽_漏酒__ム,幽_幽_乱、、.ぶ漉漉」
図3 大動脈弁(左側)と肺動脈弁(右側)および 心室中隔欠損の発生部位の模型
大動脈弁の左側上下の縦線はCrista supra ventricularisを示す.
朗1
藝
右室側では心室中隔膜性部の下縁を通り,その 部位で左室枝を分岐して下行するため,膜吐血の 大きな欠損の縫合時に,刺激伝導系の損傷を注意 する必要があるためである.
心室中隔欠損の手術法
本症の根治手術は血流遮断下に右心室を切開し て欠損閉鎖を行なうわけである,血流遮断のため には低体温法を使用したり人工心肺装置による体 外循環を行なうが,これらの手技,装置も改良ヵミ 重ねられ,現在では本症に対し,軽度低体温と人 工心肺装置による体外循環に短時間の大動脈間歓 遮断によるanoxic arrestあるいは氷による選 択的心臓冷却によるcold arrest法が使用されて いる.こうした補助手段の改良に伴って,年令的 にも幼児から乳児へと根治可能の範囲が拡大して いるが,まだ新生児,乳児期の体外循環操作が困 難であることから,こうした体重5・㎏以下のもの に対しては,新生児,乳児期の心肺危機を乗り越 えさせる意味で,以下述べる肺動脈挾窄作成術が 登場して来ている.
一435一
上行大動脈 右冠状動脈
1
Pulmonary corre
Right branch of Atrioventricvlar bund!e 上大静脈__
__粥
識鴛1懸ポ駕灘
卵円窩
Atrioventricular bundle 三尖弁中隔尖
図4 刺激伝導系と心室中隔欠損との関係
肺動脈狭窄作成術
本法は1952年Damman, Mttllerらによって単 心室患者に行なわれたもので,一時かえりみられ
なかったが,近年再び乳児の肺高一血圧症あるいは 肺血流量の多い心疾患に応用されて来たものであ る.すなわち乳児期の重症例に対し入工的に肺動 脈に狡窄を作り,肺血行量を低下させ,肺動脈圧
を強制的に減少させ,肺血管床の保護,改善と,
肺感染防止を目的として行なわれる対症療法であ って,将来の根治手術を前提としたものと考えて
いる.
手術方法は,左側開胸で心膜を開き,図5の如 く,肺動脈と大動脈の中間を剥離し,肺動脈に紐 を纒罪してこSに挾窄を作成するわけで,手術侵 襲はできるだけ少なくし,且つ肺機能を温存する
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図5 肺動脈狭窄作成術(Banding)
如く配慮する.紐は始め綿テ・一一一一プを使用したが,
最近ではテトロール製のものを使用している.懸 子を起させる程度は,発表老.たよって,幾分差を
みるカミ,大体一致しているところでは,肺動脈圧 を30〜40%減少させる程度であり,肺動脈の直径 および周囲で,約i/3減じる程度が適当である.本 法による成功例も未だ第2回目の根治手術を行な
った症例を持たず,これは今後の問題と老えてい
る.
直視下根治手術
欠損孔への到達経路としては,心室壁切開を行 なうことが最も簡単であり,最も利用されている
:方法である.右室壁の切開線は,図6の如く肺動 脈に向って縦に切開を加えるか,あるいは冠動脈 を避けて,洋室中央部で横切開を行なう方法の2 つカミある.手術後の心機能温存の意味からは心筋 線維の走行に平行し横切開が望ましいが,Group Iの動脈円錐部の欠損では,横切開は不適当の事 がある.これらに対し,縦切開でGroup IIIの 大きな欠損を閉鎖するためには,心室前面の2/3程 度切開する必要を生ずる.
特に置上稜の非常に発達したかげにかくれるよ うな欠損の場合の閉鎖は,心室切開では充分視 野を得るのに苦心する事があり,こうした例では 右心房を開き三尖弁の一部を切開して入る経右房 法が用いられることもある.経回三法は1957年 Cooleyによって1報告され,その後, Stirling,
Stanly, Lillehei, Kayらによって報告され,肺 一436一
図6 心室切開線
左側の細線は経右房法の際の切開線を示す.
や・\岬//・・ラ
ヘ ノニ
,漏夫 後夫三
る2 一
, _ 1 、
高血圧症を伴う本法の術後心室収縮力を弱めない 方法として推奨された方法である.これに対し,
われわれは剖検例より検討を行ない,室三稜より 動脈円錐部の欠損に対しては三尖弁の前尖の,図
7のAB, BD間を切開し,これを下方におとす ようにすることにより視野が得られ,階上稜部お よび膜性部の欠損では,前轍と中隔尖の堺AB 間を切開し,更に不足の視野に対してBC, BD間
を切開する.膜性部の大きな欠損で欠損後縁が中 隔尖の裏側に入り込んでいるものでは,AB, BC 間を切開し,中隔尖の半分を挙上することによ り,良好な視野が得られることを認め,臨床例10 例に応用した.切離した三尖弁は欠損閉鎖後,完 全に縫合しておくが,三尖弁口輪に沿った切開線 での縫合は術後の三尖弁閉鎖不全をみた例はな い.この方法では,右心室前壁に異常冠動脈の走 行があっても,手術可能であること,三尖弁口輪 に接する大きな膜性部欠損の閉鎖に有利である特 徴をもつが,一方他の心室内奇型を合併する例で
は不適当である.
欠損孔の閉鎖は動脈円錐部高位欠損では,図8 の如く直接縫合の上,搏出時拡張する関係上左右 から減張縫合を加える必要がある.
D
、: \こ
漁雛)・、
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E9 7 右房側より見た心室中隔欠損の位置と三 尖弁の切開線を示す.
図8 動脈壁錐部高位欠損閉鎖法
円錐部の低位欠損では周囲に膜様組織があれば 直接縫合の上,縫合線方向に対して減張力が働く 如くteflon膜で補強する.膜様組織がない際は,
teflon sheetを使用してpatchをあてるが,こ の部は大動脈弁右冠動脈弁が欠損孔のすぐ裏にあ 一437一
図9 るので注意が必要である.
室三稜の欠損は多くは大動脈が機能的に騎剰し た型になるので,前者と同様patchをあてる必 要があり,前者同様,大動脈弁への注意が必要と
なる.膜二部の小欠損は,そのまま閉鎖すること で充分な場合が多く,大動脈弁,刺激伝導系への 影響は殆どない.
膜二部の大きな欠損では図9の如く三尖弁の 中隔尖の二丁群,いわゆるpapilary muscle of conusが邪魔して欠損を見透せないことがあるの
で,この際は一時これを切離した上で欠損を閉鎖 し,その後再び縫着する方法が必要であるし,特 に大きな欠損で後縁が三尖弁口輪に及ぶものでは patchをあてる必要がある.
patchの縫合法は,従来patchの周囲を心室 中隔二二側にマットレス縫合で縫着していたが,
最近これを図10の如く,左室側より,縫着する方
膜性部の大きな欠損の場合の縫合図
法を用いている.この方法では,縫合糸が単に中
図10 糸つき・teflon patchによる左室側よりの閉鎖法
隔を貫通するのみで組織を縫縮しないため,損傷 が少なくてよい方法だと考えている.
心室中隔欠損に類似する疾患
臨床的には前胸壁で収縮期雑音を有し,心電 図,胸部レ線上で左室優性,もしくは左室肥大,
拡大を認め,肺野に左→右短絡に起因すると思わ れる像を呈する疾患が幾つかある.これらの疾患 の中には,心カテーテル検査,血管心臓造影法に よって鑑別可能のものも含まれるが,鑑別者の念 頭に以下述べる疾患が入っていない際には,重要
な所見を見落したり,或は更に特殊検:査を行なえ ば,鑑別可能であるかもしれない場合でも,単に 心室中隔欠損と診断し,手術に至る揚合がある.
また如何に鑑別を試みても,鑑別不可能の場合も 多い.
こうした疾患群では手術者がそれぞれの疾患を 熟知している必要があり,開心直前あるいは開心
と同時に適確な判断を行なって,治療に当らない と,限られた体外循環時間を徒らに失うことによ り患者の予後を不良にする.
1. 非破裂バルサルバ洞動脈瘤を合併した心室 中隔欠損
心室中隔欠損に合併し易い心奇型は,動脈管開 存,大動脈弁閉鎖不全,バルサルバ洞動脈瘤破裂 があるが,これらは臨床的に拡張期雑音を認める 場合が多いので,さして鑑別に困難でない.しか
しバルサルバ洞動脈瘤が破裂を起しておらず,し かも心室中隔欠損と合併するものが比較的しばし 一ms一
ばみられる.教室今野の分類によると,パルサル バ洞動脈瘤の発生する部位は,大動脈弁右冠動脈 弁と無冠動脈弁であり,その発生部位と方向から
1,lvsD, ll, IIvsD, IIIv, IIIA, IVの7型に分けられ
るが,本編で問題になるものの多くはIVSD型で ある.すなわち右冠動脈弁の左端左冠動脈弁寄り の部分より発生した動脈瘤は,多くは動脈円錐部 心室中隔欠損と合併し,右血流出路に突出をみる.
このような状態では動脈瘤の大きさと,心室中隔 欠損の大きさによって,短絡の大小が異り,また大 動脈弁閉鎖不全を合併した例との鑑別が困難にな ることもある.このような例では,極めて小さな 短絡から推定して,小さな心室中隔欠損と考え開 心した際に動脈瘤を排除すると,大きな中隔欠損 を発見する事がある.本症の外科治療は図11の如
図11 非破裂Valsalva洞動脈瘤を伴った心室中隔 欠損の閉鎖塞
く突出した動脈瘤を左室側に押し込んだ後,中隔 欠損を縫合することも行なわれるが,この際,動 脈瘤の表面が薄くなっており,将来破裂の危険が 予側される例では菲薄部を切除,teflonによる 補強を行なう.大動脈弁閉鎖不全を伴わない例で
は,突出部動脈瘤を基底部で縫合し,更にその部 分に心室中隔欠損辺縁をマットレス縫合,あるい は連続縫合により,縫合を行ない,更にその上に tefion片を使用して,減張縫合を行なうと,予後 が良好である.われわれの教室では,既に母数例 の本手術症例があるが,最近の例では何れも再開 通を見ていない.
2.膜様中隔動脈瘤
図12に見られるように心室中隔の膜性部が憩室 状の小さな動脈瘤となり,右心房と右心室の移行 部に張り出してくる先天性心疾患である.動脈瘤 のみでは症状のないものが多いので,臨床的に はあまり注目されなかったものである.最近の心 臓外科の発達により,動脈瘤の中央に孔の開いた 状態のものが単なる心室中隔欠損として開心され る機会があったり,他の疾患で開心した際に発見 される機会が多くなったために,注目をひくよう になって来ている.幸い教室では,本症の剖検例 3例と,治験例1例を経験している.
本症の発生は,心室中隔膜縁部形成時,心室間 孔を閉鎖する膜性中隔の組織の脆弱に,左心室圧
が加わって,できるのであろうとされ,更に心内 膜:炎が加わって動脈瘤の発育が促進されたり,破 れて,心室中隔欠損が発生するようである.
本症の症状は刺激伝導系の障害であり,房室調
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図12 破裂した膜様中隔動脈瘤の縫合閉鎖図
一 439 一
律,発作性心房細動,発作性上室頻脈,P−Q.延 長,およびA・VBlockがあげられている.破裂 していな.い本症の診断は困難であろうが,上記の 症状を有し,左室造影法により,憩室状の動脈瘤
を証明すれば確実である.
本疾患の手術報告例はスウェーデンに1例,本 邦では榊原家・大沢4),榊原任・大沢5)の2例の
3例しかない.動脈瘤は通常房室中隔と心室中隔 膜性部にまたがって発生している関係上,図12に 見る通り三尖弁前尖と中隔尖の境にあり,右室よ り右房にまたがって存在している.これを左室 例より見ると,大動脈弁無冠動脈弁の直下であ り,前述の房室結節,His束の通路および左右の Prukinjeの線維の分岐部にあたるわけである.榊 原任・大沢例では,この頂点に円形の中隔欠損が あり,臨床的に心室中隔欠損と診断された例であ り,まず中隔欠損を縫合閉鎖の後,動脈瘤基部に 糸をかけ図の如く縫合したものである.
3.左室唖聾交通症
左心室から右心室への短絡のできる先天性心疾 患を総懸して左心室右心房交通症(1eft ventri−
cular right atrial communication)と呼んでい る.本症も極めて稀な疾患であり,100年間に10 例の報告しかないといわれているが,これも最近 外科治療が行なわれるようになってから次第に報 告を増して来ている.
解剖的にみると,図13の如く,心室中隔膜性部 の続きである膜性中隔によって,左室と右心房が 相接する部分,すなわち房室中隔の部分の欠損お よび心室中隔膜性部欠損に三尖弁の線維輪近辺の 異常を伴ったもので,教室今野6)9)は,これを3 型に分類している.すなわち,1型は膜性中隔の 心室心房間部atrio−ventricular partの欠損で
あり,2型は,心室中隔膜性部欠損inter ventr−
icular partとそれに対応する癒合した三尖弁部 のPerforationを伴ったもの,3型は大きな膜 性部欠損と三尖弁中隔尖の破裂,肥厚,短縮が合 併したもので,臨床的には,心室中隔欠損象三尖 閉鎖不全として理解されているものである.
臨床的には心室中隔欠損と同様の心雑音を呈す るが,心雑音は時に,胸骨右縁に強く,その部に
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第3図左室一右房交通(頬型3)の摸型図
図13 左室右房交通症の各型
振顛をふれるものであり,心電図,レ線所見は心 室中隔欠損に酷似し,心カテーテルにより,:右房
で左一右短絡が証明される.
したがって,心房中隔欠損と間違われたり,前 述の心室中隔欠損兼三尖弁閉鎖不全として診断さ
れるものが多い.
手術時注意すべきことは,三尖弁閉鎖不全を伴 った心室中隔欠損と考えて,右室切開を行なう場 合のあることで,心室中隔欠損の項でも述べた如 く,この部は右門門からは極めて見えにくく,且つ 手術操作が行ない難い揚所であることで,そのた
め開心はすべて,右房より行なうべきものである.
右房を開いて見れば1皿型共容易に動脈血の噴出 する小孔を認め得,また縫合は容易である.皿型 も解剖を知り,右回より縫合を行なえば比較的容 易であるが,房室中隔と心室中隔の閉鎖は連続し
て行なう必要があり,殊にteflon patchを必要 一440一
とする場合があるであろう.本教室での治験は 3例あり,、これらは今野の分類の1,E型に相当 し,いずれも経過良好である.
4.心室中隔欠損に合併した右室内肉柱異常 心室中隔欠損に肺動脈流出路の肉柱増殖性挾窄
が加わった者は,大動脈の右室騎剰を伴いファロ ー四微として知られるところであるが,部分的に 異常肉柱ボあったために前述の左心室右心房交通 症の如き臨床症状を呈した1例を経験している.
本症例は,心陰影拡大著明な患者で,心電図上 左室優勢がみられ,しかも胸骨右縁第3肋間に薯 明なpan systolic harshな雑音を認め,その部 に振回を振れた例である.心カテーーテルを施行し たが右房に短絡を認めず,心室中隔欠損症と心 臓の反時計方向廻転と診断し手術を行なった.心 膜を開いたところ拡大した右室前壁が部分的に paradoxicalな動きを示すのを認めた.その部分
を避けて右室切開を行ない,内部に心室中隔欠損 と図14のような右書前壁と中隔を結ぶ肉柱塊を認
考えられるものである.
5.両大雪管右室起始症
以上述べた疾患は,心室中隔欠損の発生と原因 が同じであったり,あるいは心室中隔欠損に近い 部位の異常があり,いずれも臨床的.に心室中隔欠 損との鑑別が困難な例であるが,更に図15の如く
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図14 肉柱異常を伴った心室中隔欠損 短絡音は肉柱にあたり右房側に向うことを示す.
めた.このため短絡のjetが右方に向い右房側
.に放散する心雑音となったことを理解できた.心 室中隔欠損がなくて,このような異常肉柱のため に肺動脈挾窄様症状を呈したとの報告例もあるの で,こうした異常も時々発生する可能性があると
図15 両大血管右室起始症の模型図
大動脈の右方転位により右室より大動脈,肺動 脈が出ているものを両大血管愚物起始症と名づけ ている.したがって左室の流出口は心室中隔欠損 のみである.この疾患はpartial transposition,
double outlet right ventricle, origin of both great vessels from right ventricle等と呼ばれ
ているものである.本症の,臨床報告は1957年の Withamの3例が始めてで,以来1961年のNeu−
feldらの報告等,年々増加の傾向がみられる.
本症にはNeufeldらの分類にもある通り肺動 脈狡窄を伴うものと,伴わないものがあり,肺動 脈狡窄のあるものは臨床的にチアノーゼを有し,
ファm一一四微と類似した病像を呈するが,肺動脈 狡窄を伴わないものは,肺高血圧を有する心室中 隔欠損に極めて良く似ている.
これらの中にはTaussig−Bing complexを含 めて良いと考えている.
Neufeld .らは本症の解剖学的特徴を1)外観上大 動脈と肺動脈との関係は正常であり,2)大動脈が 全く右室から出ていて肺動脈の右に位置し,3)大
一 441一一一
動脈弁口が正常より高位にあり,図の如く肺動脈 弁口と同一水平面にあり,4)僧帽弁と大動脈弁と の組織の不連続性を挙げている.これに対し教室 の僑本7)8)は5例の経験と4例の剖検例および文 献上の52例について検討し,図16のような7型に 分類し,更にNeufeldらの言う大動脈と肺動脈の 位置正常に対してむしろ大動脈の方が肺動脈より
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図16 橋本の分類による両大血管右室起始症の各型 左側は心室中隔欠損に類似する群であり,中央 はTaussig−Bing複合である.
右前方に位置している例のあることを指摘した.
橋本の分類は図の如く心室中隔欠損の位置から室 上稜の上方,室上一部,室上弓の下方に分け,ま たそれを前と後の2群に分けている.前方に位置 するものはTaussig−Bing complexに相当する
ものである.
大動脈弁と僧帽弁の前尖との連続性は正常心で は無冠動脈弁と僧帽弁前尖の間に線維三角による 連続性が保たれ,たとえ大動脈弁が右側に転位し 右室に騎乗しても,この連続性は保たれている が,本症ではこの連続性がない.
このような状態のため左心室より搏出された動 脈血は,一旦右心室に入り,更に欠損の位置が大 動脈の直下にある例では動脈血が主として大動脈 内に流れるために心室中隔欠損と鑑別困難であ
り,右室圧は左室圧に等しいために肺高血圧を伴 うわけである.
本症の外科治療はこうした症例に対し行なわれ る.すなわち心室切開し,図17の如く心室中隔欠
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図17 両大血管右室起始症修正図 teflon patchにより欠損孔と大動脈を直結する 管を作る.
損と大動脈弁口部の間をteflon patchの如き代 用膜で形成し,動静脈血混合が起こらないように し,左室右室の分離による肺動脈圧低下を目的と して行なわれる.本症5例中4例は肺高血圧を伴 った心室中隔欠損の診断で開心術を行ない,3例 は本症であることを認め手術を行ない成功した.
しかし乍ら,1例は経右房的に手術を行ない,心 室中隔欠損を閉鎖したために失ったもので,経右 房的手術は本症の如き奇型に不適当であることを 教えられた例である.
6.両大血管左室起始症
両大血管右室起始症と逆の大動脈は左室側より 出て,肺動脈が左室流出路に転位し,心室中隔欠 損により右下の血液が肺に流入していた例を経験
している.
こうした例は未だ報告がなく,恐らく始めての 例と思われる.手術は図i8の如く心室中隔欠損
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図18 両大血管左室起始症
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の下縁と肺動脈弁大動脈弁の間にteflonによる patchを縫着することによって目的を達するこ とができるわけで,この1例も手術に成功してい
る.
この他,心室中隔欠損と鑑別困難な疾患に本症 と合併した僧帽弁閉鎖不全症がある.こうした例 では欠損閉鎖後に僧帽弁閉鎖不全が明らかとなる 例もあり,時に術後左室,左房の拡大,肥大が増 加することがあるので注意が必要である.
結 語
以上,今や一般化しつつある心室中隔欠損の手 術について,外科治療を行なうに必要な解剖と術 式をあげて,併せて本症に類似する疾患の解剖的 特微を主に述べた.
これら類似疾患は500例近い心室中隔欠損の開 心経験中にそれぞれ数例ないし十数例にすぎない が,今後更に心臓手術が広く行なわれるようにな るにつれ,こうした症例に出会う機会が多くなる
ことであろう.このような稀れな疾患に胸を開い てから,あるいは心臓を開いてから遭遇すること があっても,迅速適確な判断と機敏な術式選択が 行ない得るようにと思い,まとめて報告した次第:
である.
参考文献
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