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第8回 なぜアフリカでは紛争が多いんですか?

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Academic year: 2022

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第8回 なぜアフリカでは紛争が多いんですか?

著者 武内 進一

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization (IDE‑JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名 IDE スクエア ‑‑ コラム おしえて!知りたい!途

上国と社会

ページ 1‑3

発行年 2019‑06

出版者 日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL http://doi.org/10.20561/00051413

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アジア経済研究所『IDEスクエア』

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8 なぜアフリカでは紛争が多いんですか?

中部アフリカのルワンダでは、1994 年に少数派民族(トゥチ)を標的とした大 量虐殺が起こり、少なくとも 50 万人が殺されました。この殺りくの引き金となっ たのは、内戦のなか、トゥチが反政府武装勢力を支援していると疑った政権中枢の 人々が、彼らを抹殺するよう呼びかけたことでした。国民を保護すべき国家の指導 者が、国民の殺りくを呼びかけた恐ろしい事件です。

西アフリカのナイジェリアでは、イスラーム急進主義を掲げるボコハラムが、

2014年に200人を超える女子生徒を誘拐しました。ボコハラムはナイジェリア北 西部地域で既に 10 年以上武力紛争を続けており、カメルーンやニジェールなどの 周辺国を含め、甚大な被害を生んでいます。

なぜアフリカで紛争が多発するのでしょうか? 近年の具体的な事例から考えて みましょう。

アフリカでは近年、紛争が特定地域に集中する傾向があります。図に示した北ア フリカのリビア、西アフリカのマリからナイジェリア北部、中央アフリカ共和国と コンゴ民主共和国東部、そして東アフリカの南スーダンとソマリア南部といった地 域では、近年深刻な紛争が続いています。しかし、それ以外の地域では、ここ20年 くらい、大きな紛争はあまり起こっていません。冒頭に挙げたルワンダも、現在で は政治的に安定しています。

アフリカの紛争についての報道をよく耳にします。なぜアフリ カでは紛争が多いんですか?

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アジア経済研究所『IDEスクエア』

2 近年のアフリカで起きている紛争を考えるうえで、重要な問題が二つあります。

一つはイスラーム急進主義、もう一つはアフリカの国家をめぐる問題です。

上で挙げた国々の中で、リビアは今日イスラム国(IS)の主要拠点の一つになっ ています。また、マリ、ナイジェリア、ソマリアなど、サハラ砂漠周辺地域でも、

しばしばアルカーイダや IS との関係を強調しイスラーム急進主義を掲げる組織が 紛争の原因となっています。

イスラーム急進主義を掲げる組織が活動を広げる理由は地域によって様々ですが、

総じて言えることが二つあります。一つは、地理的に近い中東の影響です。アラブ 人が住民の圧倒的多数を占める北アフリカはもちろんのこと、サハラ砂漠南縁部も ほとんどの住民がイスラーム教徒です。中東で活発化したイスラーム急進主義の影 響が、武器や資金の供与などを通じて、広がりやすい社会環境があります。

もう一つは、国家が信頼を失っていることです。紛争が続く国々では、多くの場 合、開発の失敗や汚職などのため政府が人々の信頼を失っています。そこに「正し いイスラーム」を掲げて急進主義勢力が武装活動を活発化させているのです。自爆 テロなど許し難い手段を取るとしても、イスラーム急進主義には一種の「世直し運 動」という性格があります。そして、政府への不信感と相まって、そうした考えが 社会で一定の共感を得ているために、問題の解決を難しくしているのです。

国家をめぐる問題は、サハラ砂漠周辺地域だけでなく、アフリカの紛争や政治に ついて考える際にとても重要な意味を持っています。今日のアフリカ諸国は、19世

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アジア経済研究所『IDEスクエア』

3 紀末に植民地列強が引いた国境線によって出来上がりました。もともとの社会のま とまりとは無関係に国家がつくられたことで、その運営はとても難しくなりました。

国家という巨大な権力装置を動かすには、人々の間で共通のルールを作り、それを 実行しなければなりません。これは簡単なことではありません。

考えてみてください。日本のような比較的同じ民族で構成された国でさえ、明治 維新の際の戊辰戦争まで国内で幾多の戦争を繰り返し、ようやく今日の姿にたどり 着いたのです。

私たち自身の歴史を振り返れば、アフリカやアジアの独立間もない国家に紛争が 多いのは当然です。むしろ、アフリカのように植民地支配によって国家を押し付け られた社会にあって、紛争解決に成功していることこそ驚きです。アフリカの人々 の営みから、私たちは共生と共存に向けた多くの知恵を学ぶことができるのです。

回答:武内進一(たけうちしんいち)

回答者プロフィール

武内進一(たけうちしんいち)アジア経済研究所新領域研究センター・上席主任調 査研究員/東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター教授。博士(学術)。専門 はアフリカ研究、国際関係論。おもな著作に、『現代アフリカの紛争と国家―ポスト・

コロニアル家産制国家とルワンダ・ジェノサイド』明石書店(2009年)、『現代アフ リカの土地と権力』(編著)アジア経済研究所(2017年)など。

参照

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