The Chemical Society of Japan
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The Chemloal Soolety of Japan
重 油 に よ る 海 の 汚染 と 生物 浄化 一 重 油炭 化 水 素 を分解 す
る 細菌
1
は じ め に平 成
9 年 1 月 2
日深夜
に荒
天 の 日本海
で, ロ シ アの タンカー 「
ナ ホ トカ」 号が船 体 を破
損 して沈 没 し た。 その船 首 部 分は積み荷の中 国 産C
重 油 を流 出 し な が ら漂
流し,福井県
三国町海岸
に漂着
し た。
約 S , OOO
kl
の大 量の流出
し た重 油は日 本海側
の島根
か ら新潟
に至 る府
県の海
岸に漂着
し, 特
に福 井・
石川 両 県の海岸 一 帯
で は著
しい自
然 環境
の汚染
とい う大き な問題
を引 き起こし た。 漂 着 し た重
油の回収
作 業は, 住 民・
ボラ ンテ ィア・
自 衛隊員
らに よ り行
わ れ, その量は ドラ ム缶
数 万 本に も
達
し た。 こ の ような大 量の重 油の流 出事 故は わが国では初めての こ と でもあり, そ の対
応に は多
く の問
題 を残
し た。特
に福井
県か ら石 川 県の 日本海沿岸地域
は越前加賀海
岸 国定
公 園に指定
された
観
光 地であ り, 多 くの海 水 浴 場 も あ り, 「きれい な
北 陸
の海
」を代表
する所である。 さ ら に こ の地域
は沿 岸 漁業
の盛ん な所で もある。g
れ らの海岸
に大
量の重油
が漂着
し たの で ある か ら,』
その経済 的 損 失 も計 り知 れ ない。
これま で の海 外で の石
油
流 出事故
の場合
,微
生 物による生物
浄 化の話 が 伝 え られてい る。 これ は 汚 染 した地 域に多 量の油 を 分 解 する紐 菌 を 散布
し, 油の生
物分解
を促進
し ようと す る も の で あ る が, この方法
を実施
する に は自
然 環境
に対
する その影
響
の問 題を あ らか じ め解
決して お く必 要が あ る。一
方,自
然 界 に は広
く炭化水素 (
n一
アル カン)を分 解
・資
化す る微
生物
がい る こ と が知
ら れてい る。
海
水中
には10 〜 105
個 /ml の炭
化 水素
分解細菌
が生息
する とい われ, その種 類は細 菌 類 ・放線
菌類 ・
かび類 ・酵
母な ど23
属に及ん で い る。今
回の重油
の汚 染 地 域で は, これ まで に重 油 炭 化 水 素 分 解 細 菌の調 査はな く, 生 物 浄 化 を評価
す る560
た めに も その
基礎
デー
タ を得
る こ と が必要
であっ た。 そ こ で石 川 県加 賀 地 方の海 岸の重 油 炭 化 水 素 分解
細菌
の生息
と分 布 状 況 を調べ , その分 離 を行っ た の で研 究の
一
端
を紹
介す る。
2 重 油炭 化水 素分解 細菌
の分離
漂 着 した 重 油の成 分は炭 素 数
10
か ら40
に及ぶ直鎖状高
級炭
化 水 素 を主成
分 とするもの で あり,ベ ン ゾ (a )ピレ ンや トル エ ンな どは非 常に 少 ない もの であっ た
。
このC
重 油は島根 県沖
で流出
し,冬
期の荒 天の 日本 海
を漂
流す る間
に,揮 発性 物
質・
水溶
性 物 質 をほ と ん ど失
い, 高い粘 度 を持った 高 沸 点の油 として海
岸
に漂着
した もの である。加 賀 市 塩 屋 海 岸で重 油に汚
染
し た海藻 ・
ごみ などを採 取 し
,
重 油と無 機 塩 類 を含む液 体 培 養 液に 加え,28
℃ で振 盪 培 養 を行っ た とこ ろ,細 菌
の 盛ん な生育
が覩察
さ れ た。 こ の細菌
を「
重油
を唯一
の炭 素 源 とエ ネル ギー
源 と す る培養液
」に移植
し, 培
養
を繰
り返す こ とに よ り重 油炭化
水素
を分 解 ・資化
す る細菌
を分離
する こ とに成功
し た (図
1
)。 重 油の代 わ りにその主 な炭 化 水 素 成 分であ る n一
テ ト ラデカ ン (n− C14H30
), n一
ヘ キ サデカ ン(n
− Cr6H34
>, n一
オ ク タデカ ン(
n− C
、8HSH>
, n一
エ イ コ サ ン
(
n− C20H42
)な ど を炭
素 源 と し た培 養 液で も, こ の細
菌は生育
す るこ とが で き,少
な く と もC
重 油の炭 化 水素
の50
%以上を この細菌
は分
解
す るこ と が で き る。 こ の細菌
は約 1
μm の長
さ の短い槹菌
である が, 低 温で保 存 し た菌
は球図
1
分離し た重油 炭化水素分解細菌。
重 油一
無機塩 類 寒天培 地で培 養し た。化学と教 育 45巻 IO号 (1997 年)
N工 工
一
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レ の 歹
一
図
2
分離し た重 油炭 化水素分解 細菌。 Arthrobacter
ミρ.
の走 査 電子 顕微 鏡 写 真。
状 をして い る
。
生 育 状 態により形を変え る性 質を 持っ てい るこ と か ら “Arthrobacte
〆’
属の菌で あ るこ と が 明 ら か と なっ た
。
石 川 県加 賀 市, 金 沢 市 及 び内
灘 町の各海岸
より採取
し た 重 油 塊を調べ たとこ ろ, い ずれ もこの
属
の細
菌が生 息してい るこ と が確 認さ れ,冬
期の この地域の日本海
沿岸
に分 布 する代 表 的な重 油 炭 化 水 素 分解
細 菌であるこ とが明 らか となっ た (図
2
)。砂浜
に打
ち上 げ られ た油 塊に は早
春の低い 海 水 温 度, 気 温 に もか わ らず, 約 los 個 /g
の 重 油炭
化 水 素 分解
細菌
が 生息
してい た。5
月には約 107
個
/ g
の菌
数に まで増 加 し,
ま た3 − 4 種
類の菌
が 生 息してい た。 しか し,6
月に は油の分 解に伴ない
菌数
は減少
し てい ることが分
か り, 漂着
し た重 油の細 菌によ る分解 ・
浄化
は 予想を 上 回 る もの であっ た。
3 微生 物
によ
る n一
ア ル カン の分 解
一 時期
, 石油
タンパ ク質
が話
題に なっ た ことがCH3 (CH2 )nCH3 n
;
8−
38、
幣
1)ア ル カ ン水酸 化酵 # 3(CH2 )nCH20H
畢
(2) 長ecア ルコー
ノ履 化 鰥CH3 (CH2 )nCHO
畢
(3) 長 鋭アル デ ヒ ド酸 化酵素CH3 (CH2 )nCO
一
補酵累A畢
(4)脂 肪 醗醗 化酵 素 系 アセ チ ルー
補 酵 素A畢
(5)− ncresu
系図
3
高級炭化水素の代謝反応。
あっ た
。
これ は微 生 物に よっ て石 油の炭
化水素
をタン パ ク質に
変
え よ う とい う話である。 その こ ろ 多 くの研究者
が石油炭化
水素
を資化
す る微 生 物のスク リ
ー
ニ ングを行い, 多 種 類の微生物が その
能
力を持つ こ とを明らか にし た。 n一
アル カ ン が微 生 物に よっ て代 謝 分 解される反 応の一
部を図
3
に 示 す。4
お わ り に重 油の流 出 事 故 を 契 機に,
加賀地方
の日本海沿
岸に 生息す る海 洋 性 高 級 炭 化 水 素 分解
細 菌の種
類と分
布
が初め て明らか になっ た。
また,
冬 期で も この細
菌が速や か に漂 着 し た油 塊に付 着 して増 殖 し, 油の分解 ・浄
化に働
い て い るこ とが分か っ た。 この種の細 菌の働 き を効 果 的に利
用 する た めの研 究は, 今 後の こ の ような事 故の対 処に
役
立つ もの と考 えられる。
板 垣 英 治 ITAGAKI Eiji
(金 沢 大 学理
学部化学科 ・
教 授 〉[連 絡 先]920
−
11金 沢 市 角 間 町 (勤 務 先 〉。
全 全
化 学と教 育 45 巻 lO 号 (1997 年 )
561
N工 工