• 検索結果がありません。

諸科学の役割と倫理

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "諸科学の役割と倫理"

Copied!
28
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)Title. 諸科学の役割と倫理. Author(s). 山本, 嘉太郎. Citation. 北海道學藝大學紀要. 第一部, 10(2): 6-32. Issue Date. 1960-02. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/3709. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) . 第 10 巻. 昭和35年2月. 北海道学芸大学紀要 (第一部). 第2号. 諸. 科. 学. の. 役. 割. と. 山. 本. 嘉. 太. 郎. 倫. 理. 北海道学芸大学旭川分校哲学研究室. KatarO YA 1AMOTO : The Role of Sci s ences and ~1oral .. (一) 周知のように人間がただの自然としての動物の段階を越えてホモサ ピーエソスヘ向って進化し始 めたのは洪積世にはいった時代のことであった. すなわちこの地上は中生代に於いては生物にとっ て温暖で且つ平穏な生存の場であった. しかしこの地上は新生代の第三期にはいって次第に激しく. 変動し始め, 生物にとって生存 の困難な場になった. 特に この第四期の洪積世にはいってからは, この地上はたびたび長期にわたって非常な寒冷となり, 氷雪期と間氷期とがかわるがわる過ぎ去っ た. この冷厳な生存の場の中でもろもろの生物は個体としてならびに種族として生存し続けるため にすべての力を出し尽して活動した. この洪積世の初期に霊長類の変種としてすでに出現していた 最初の人間もまたこのように激しく変動する生存の場の中で生存 しゆくためにあらゆる力をあげて. の活動を開始したのである. すなわち彼等は労働を推進 して生産活動をおこない, 言語を発達させ て社会生活をいとなみ始めた. 人間が地上のこのような冷厳な自然の中で生存しゆくために開始し. たところの生産活動を 通しての社会生活 こそは, 彼等のホモサピーエソスヘの進化の根本的な条件 となった. すなわち人間は経済的社会構成体を組織して次第にこれを発達さ せながら, 各時代をつ. らぬいて絶え間なく努力の生活を推し進めることに因って秀れた身体と知能をもち且つ高い文化 と. 知識をもつホモサ ピーエソスヘ進化することができたのである. 洪積世の経過中は人間は比較的に 緩漫な速度で進化してきた. が沖積世にはいってからは, 彼等は次第に大きな加速度を加えて前進. するようになった. 特に今から数千年以前の文明時代にはいってからは彼等はますます大きな速度 を加えて飛躍的な発展をとげるようになった, 文明時代以来の彼等の このようなさまざまな側面の. めざましい発展はしかし実は彼等の新しい諸科学の形成とその適用とを通して達成せられたことで. ある. このことは今日でも 諸科学をもたない民族が文明時代以前の人間の段 階に止まっていると云 う事実から見ても真実であることが知られる. それでは人間は諸科学の形成とその適用とを通して どのような側面のどのような段階への発展を達成したのであろうか. すなわちまず第一に人間は諸科学の形成を通して科学的人間へ高揚した。 ここで科学的人間とい. うのは, 常に対象的世界をゆたかな科学的知識を通して認識 し且つその中で科学的知識を適用しつ つ生活するところの, 人間を意味する. 文明時代にはいって以来の人間はホモサ ピー エソスとして ) の特有の諸性質を獲得し独特の生存活動をおこなうものへ発展してきた。1 なかんずくホモサピー エンスとしての彼等のもっとも重要な発展は彼等の科学的人間へ向っての. すばらしい高揚である. 古来人間は諸科学を, 彼等が不断に運動する世界の中で生存 し続けるため に, 形成して来た。 すなわち彼等は諸科学を彼等 が自身を包みささえる自然や社会や意識を認識 し - 6 -.

(3) . 諸 科・学 の 役 割 と 倫 理. てこれに確実に対応し且つこれに働きかけて これを生存に必須のものへ変革するために, 発展させ てきたのである. 周知のように古代の科学はエ ジプトとバ ビロニヤの科学者たちに依って創始せら. れ, それからギリシャの科学者たちに依って前進せしめられて, ひとまずその体系をととのえた. ここで人間の科学の歴史に於いての最初の数学や物理学や地学や天文学や植物学や動物学の自然諸 科学, 工学や医学や薬学等の技術諸科学, 法律学や政治学や倫理学等の社会諸科学, そうして形而. 上学や論理学等の哲学的諸科学が形成せられたのである. ただし現代の諸科学に比較して見れば, これ等の諸科学は, 実在する対象の可感的な且つ皮相的な側面だけを反映したところの, 低い次元 の知識でしかなかった。 原子論者たちが万物の根源をアトムであると考えたことはた しかにすばら しい着想ではあった。 が彼等の原子論は実験的研究を訣いており且つただ直観的な観 察だけで考え 出されたところの思想に過 ぎなかった. また天女学者たちが形作った地上や宇宙についての知識も. 秀れたものではあった。 がこの知識も, ただ肉眼を用いての観 察に基づいたところの, 球面天文学 的知識に過 ぎなかった。 しかもそれは占星術のための知識でさえあったのである. 特に哲学者たち. は哲学の歴史に於いて不滅の思想を形作った. がこの哲学的思想も当時の自然諸科学や社会諸科学 と不可分的に関連 しており, これ等 の諸科学の発達の段階をはるかには越えたものではなかった. 周知のようにここでは自然発生的唯物論の哲学的思想も形作られてはいた. がここで強く支配 して. いた哲学的思想は奴隷制もしくは貴族主義制の社会のイデオロギーである観念論の哲学的思想であ った, このように古代の科学者たちが認識する ことの できた対象としての世界は微視的にも巨視的 にも極めて狭小な範囲であった。 そうして彼等が形成したところの自然や人間社会や意識について. の知識も貧弱なものであった. けれども 上のような科学的知識は長期にわたる古代の経過中に生誕 した無数の科学者たちの倦むことのない研究を通して形成された知識の集積であったのである. も. ともと諸科学は短い時間を費 し, わずかな研究をおこなっただけでたやすく形成せられたり, 急速 に発展させられたりするというようなものではない. 常に諸科学は無数の科学者たちの長い時間を 費し且つ多くの研究を積み重ねることに因って始めて形成せられそう して一段一段と段階をのぼっ て発展してゆくものなのである. 古代の科学者たちに依って形成された上のような諸科学は, その 後に果てしない発展を続けてきたところの, 人間の科学の歴史の最初の段階のものであった。 つま. りこの段階の諸科学を形成した科学者たちは, 人間に於いての科学の歴史の創始者であったのであ る. 彼等はこのような諸科学の創始者となり偉大な功績を残したものといわなければならない. 古代に於いて活動した科学者たちは上のような諸科学の形成を通 してまず自身が全く知識をもた なかった人間からこれをもつ人間へ高揚した, いわば この科学者達 は人間の歴史に於いて科学的人. 間の先駆者となった. さらにこの科学者達は自身が形成した科学を無数の人たちへ伝達しそうして それを彼等と共有することを通して, 彼等を科学的人間へ高揚させた. この後の各時代にはいって. からも科学者たちは, 上の古代の科学者たちと同じ仕方で, それぞれの専門科学の研究を通してま ず自身が先導者的な科学的人間へ高揚し且つその研究の成果を無数の人たち べ惜しみなく伝達する ことを通 してこれ等の人たちを科学的人間へ高揚させるという役割を果たしてきたのである。 周知のように中世に於いてはすべでの人間は封建主義制の土台の上に立つ生活を強制せられ宗教 の迷信の中に混迷し続けた. このような社会の偉力に圧迫されて, わけても神学の魔力に支配され て, 各自の専門科学の研究をはかばかしく前進させる ことができなかった, もちろんこの時代のす べての諸科学が全くその前進をやめてしまったということはできない. 自然諸科学の中にも, 社会. 諸科学の中にも, そうして哲学的諸科学の中にも, わずかにしかもゆるやかに前進した側面はあっ た。 がとにかくこの中世は諸科学の発展のためにもまた科学的人間への高揚のためにも, たしかに 暗黒の時代であったのである。 - 7 -.

(4) . 山. 本. 嘉. 太. 郎. 近世にはいって次第に多くの人間が資本主義制の土台の上に立って社会生活をいとなむようにな ってから新しい諸科学の形成とそのめ ざま しい発展が始まった. すなわちここ で資本主義制の生産. 様式はしきりに諸科学の前進を要求し, 科学者たちもその要求に応じて自由に各自の専門科学を研 究することができるようになった。 ここで日に月 にその人数を増加していった科学者たちのますま す熱心で且つ勇敢な研究を通して, 歴史諸科学も技術諸科 学もす べて全く新しい段階へ発展せしめ られた。 すなわちここで数学はデカルトや ニュートン等の研究を通して微分学や積分学を含む高い 次元の体系に発展せしめられ, 実在するもろもろの対象の数量的および空間時間的側面を一層精密. に反映することが できるものへ前進せしめられた. また物理学は上の数学の論理を導入し実験的な らびに理論的研究方法を確立して全く新しい精密科学へ生れ変った. すなわちそれはガリレオやニ ュー トン等の研究を通 して惰性系の力学を含む体系へ発展せしめられ, 古典物理学的世界映像へ前 進した. また地理学はコロンブスやマ ゼランの探検とカントの研究を通 して地球のさまざまな側面 」的に反映する知識体系へ向っての前進を始めた. また天女学も, 物理学の場合と同様に, 数 を統- 学の論理を導入 し, 新しく望遠鏡を用いての観測的ならびに理論的研究方法を確立して 生 れ 変 っ た. す な わ ち そ れ は コ ペ ル ニク ス や ケプ ラ ー や チコ ブ ラ ー エ の 研 究 を 通 して, わ け ても, ブ ルー ノ. やガリレオのいたましい犠牲的研究を通 して, 占星術の迷想を払い去り且つ球面天文学を越えて,. 宇宙の知識体系に向って発展し始めた. 植物学および動物学は一方では古来の分類学の研究が進め られると共に, 他方では新しく顕微鏡を用いての生物体の組織の実験的研究がおこなわれることに 因って, やがて細胞学や生物進化論の確立を用意した. 特に解剖学者が出現して, 以前には固く禁 止されていたところの, 生物体なかんずく人体の解剖的研究をおこなった. その結果全く未知であ. った生物体の内部構造が次第に知られるようになった。 わけても人体の内部構造の解明を通して生. 理学や医学や薬学の前進がうながされた. さらにここで資本主義制の経済的構造が進行してゆくのにつれて, これを維持するための経済学 が 胎 動 し始 め た. そ う して や が て ア ダ ム ・ ス ミ ス や ジョ ン・ ス チュ ア ー ト・ ミ ル 等 の研 究 を通 して. 正統派の経済学が創始せられた, また政治学も上の土台に立って新しい体系へ移行せしめられた. すなわちそれはマキャ ベリーやホ ップス等の研究を通して絶対王制の思想体系となり, それからル ソーの研究に依って自由主義的民主主義の思想体系へ前進した. また法律学はこのような経済的な らび に 政 治 的構 造 を か え る た め に 研 究 が 進 め れ た. そ う して そ こ でフ ー ゴー ・ グロ チ ウ スや ロ ッ ク. やモンテスキュー等の新しい自然法の思想が形作られたのである. 特にルソーの思想は近代の開幕 を告げる人権宣言にまで展開したのである. 自然と社会とについての諸科学が上のように前進し始め且つそれ等の認識の方法が問題となった. ために, 哲学者たちは次第に認識論や論理学を主題として研究を 進めるようになった. すなわちそ こ で ベ ー コ ン やロ ッ ク や ヒュ ← ム 等 に 依 っ て 経験 論 が 形成 せ られ, デ カ ル トやライ プニ ッ ツ や ヴオ. ルフ等に依って理性論もしくは観念論が形成せられた. そうして特にカントに依って両者の綜合を 通 して先験的観念論が形成せられたのである. またデイ ドロやラメ トリ←や ドルバック等に依って. 以前の自然発生的唯物論は機械論的唯物論へ成長せしめられた. 近世にはいって科学者たちは上のような仕方で自然と社会と意識についての諸科学を確立し, こ. れ等の対象についての確実な且つ本質的な真理を集積し始めた, 彼等はこう して対象としての世界 に対して微視 的ならびに巨視的に次第に深くそうして広く 知圏を拡大 し始めた. つまり彼等は対象. 全体の構造ならびに運動を統一的に反映する世界映像の形成に着手したのである, そうしてまさに この時代から各国に於いての教育活動が日増 しにさかんになり, 私的および公的教育機関が増設せ られることとなった. したがって科学者たちに依って形成せられた専門科学の知識もこれを通して - 8 -.

(5) . 諸科学の役割 と倫理 よりたやすく急速に多数の人たちへ伝達せられそうして普及せられるようになった. つまり人間の 科学的人間へ向っての高揚がますますその速度を増 しゆくこととなったのである,. 近代にはいってからは科学者たちの研究はまたひとしお隆盛に赴き, 諸科学はますます急速な発 展を続けた。 すなわちここでまず特記しておかなければならないことはこの時代に弁証法的唯物論 なかんずく自然弁証法が創始せられたこと である. 弁証法的唯物論はマルクスとエンゲルスとに依 っ て 新 しい 世 界観 と して 確 立 せ ら れ, 自 然 弁 証 法 は 主 と して エ ン ゲ ル スと レー ニ ン と に 依 っ て 自然. 諸科学の方法論として前進せしめられたものである. この世界観と方法論とは近代においては上の 先覚者たちに依って確立された後にあまり多くの人たちへ伝達されはしなかった. したがってこれ 等は新 カント学派の科学論ほども適用されなかった. しかしやがてもっとも正しく確実な科学方法 論として諸科学の発展を促進するようになったのである. ところで数学に於いてガウスの整数論,. ロ バ チ ュ フ ス キイ の 非 ュ ーク リ ッ ド幾 何 学, リー マ ンの リ ー マ ン幾 何 学, ミ ン コ ウ スキ ー の 空 間 時. 間論, およ びヒルパー トの新しい幾何学の基礎等の研究がつぎつぎになしとげられた. その結果数 学はますます壮大な知識体系へ発展した, そうしてそれは諸科学の前進のためにいよいよ有効な役. 割を果すものとなったの である. また物理学に於いてはまずアンペールが電気力学の基礎を開き,. 次いでオームやファラデーや ジュール等に依って電気についての重要な諸法則が発見せられた. マ. イヤーからヘルムホルッに至ってエネルギー保存の法則が発見せられ, そうしてポルッマンは熱力. 学第二法則の統計的基礎を確立した. それからマイ ケルンンの光速度の発見, キューリー夫妻のラ ジュームの発見, プランクの量子論の基礎の確立を経て, やがてアイ ンシュタイ ンに依って特殊相 対性原理および一般相対性原理が発見せられた. この相対性理論の確立は古典物理学的世界映像の. 相対論的世界映像への発展と現代物理学の開始を意味する. さらにこの時代にはいってから化学の 新しい進前が始まった. すなわちここでまずダルトンは分子説を提唱し, 次いでアボガドロも彼の 分子仮説を発表した。 またヴエーラ←に依って尿素がはじめて人工的に合成せられた. かく して次 ぎ次ぎに諸元素が発見せられてゆくうちにメ ンデレーフに依ってこの諸元素の周期率が発見せられ. た。 ここで始めて物理学と化学とは直結しつつ物質の微視的構造の認識へ出発したのである. 天文 学もまた宇宙空間に向って巨視的にその視圏を拡大していった. 物理学者たちの微視的対象に対す. る認識の範囲はこれを直接に実験し観察するための感覚機官と技術機官, およびその延長としての 機械や装置の性能に支配せられる, これと同様に天女学者たちの巨視的対象についての認識の範囲. は彼等の認識機官およびそれ等の延長としての観測装置の性能に依って決定せられる. この時代に はいって初期に作られた ドルバ ッ ト天文台の屈折望遠鏡はロ径わずか24糎であった. がこの時代の. 7糎 末期に作られたウイルソ ン山天文台の反射望遠鏡は口径が152糎となった. また間もなく口径25 の反射望遠鏡も作られた‘ このように急速に前進する観測装置を用いての探索を通 して可視的宇宙 は急速に拡大 した. ここで以前のハーシェルの空想的宇宙論を越えたところのカプタイ ンの宇宙論 が形成された。 特にアイ ンシュタイ ンの相対性理論の確立とその適用を通して始めて宇宙が物理学 的に認識せられるようになり,新しい相対論的宇宙論が着想せられた.また植物学および動物学も観 察的ならびに実験的研究の集積の結果,飛躍的な発展を始めた.すなわちここではラマルクからダー ヴイソに至って生物進化論が確立せられた.この生物進化論こそは地上のあらゆる生物が,植物も動. 物も, 同一の下等な生物から悠久の時間の流れの中で進化してきた歴史の正しい反映である. この ダー ヴイ ンの 陶 汰 説 を 原 理 と す る 生 物 進 化 論 は そ の 後 ネ オラマ ル キ シ ズ ム の 用 不用 説, ドフ リー ス. の突然変異説およびメンデルに始まる遺伝学等を包括しつつますます巨大な知識体系へ と 成 長 し た。 この生物進化論の確立に因って植物学と動物学とはひとつの生物諸科学として統 ◆せられ, 且 つ多くの個別科学へ分化し発展することとなった.すなわちここで,微生物学,植物学,古生物学, 生 - 9 ー.

(6) . 山. 本. 嘉. 太. 郎. .遺伝学 進化学等は生物のそれぞれの側面を精細に反映す る個別科学とし 理学, 解剖学, 分類学, , て展開しながら, 同時にまとまった生物諸科学の体系として発展しゆく こととなったのである. 社会諸科学もまた上に述べた弁証法的唯物論と歴史的唯物論との確立を通 して自然諸科学と同様 の真理性を確立し始 めた, すなわちマルクスおよ びエ ンゲルスは人間社会が古来生産諸力 と生産関 係との対立と統一を原動力 とし, 且つこのような経済的構造と土台の上に生い立つ上部構造との相 互作用に因って運動してきた事実を洞察 した. 彼等はこの人類のもろもろの側面の発展の歴史を歴 史的唯物論に於いて真に正しく反映したのである. したがってこの歴史的唯物論は社会諸科学の一. 般的な方法論であると共に人間社会の全史をもっとも包括的に反映する科学でもある. 社会という ものを対象とする社 会学はまずオーエンに依って試みられ, それからコントやスペ ンサー等に依っ. て試みられた.がこれ等は資本主義制の社会をいつまでも保守す るためのイ デオロギーであり,人間 社会の歴史を正しく反映しない空想でさえあった, これ に対して歴史的唯物論は人間社会の全史を 正しくその法則性に於いてしかも本質的に且つ包括的に反映する知識体系であることに因って真の 社会科学なのである. しかし近代に於いては この歴史的唯物論はマルク ス主義の学派の外の人たち にまでは十分には伝達されなかった. したがってこの時代の大部分の社会科学者たちはこの歴史的 唯物論の自覚も反省もなく, それぞれの専門科学を各自ばらばらで資 本主義制のイ デオロギーとし. ての方向へ推進していった. すなわち経済学に於いてロッシヤ←やヒルデブラント等に依って歴史 主義の経済学が研究せられ, またカール・メ ンガや ジエヴオソズやレオソ・ワルラス等に依って限 界効用学説 が提唱せられたりした. 特にこれ等 の経済学者とは別にマルク スは上の歴史的唯物論に. 基づいて資本主義制の経済的構造を分析し, マルクス主義経済学を発足させた. この経済学は近代 の資本主義が帝国主義 から独占資本主義へと欄 熟してゆき, その土台が一国一国と崩壊して社会主 義制へ移行 し始める過程を反映した. またこの過程で政治は ブル ジョワ民主主義からブル ジョワ独 裁主義へ変化した後に, やがて社会主義 的生産様式の実現につれて次第に人民民主主義へ移行し始 めた。 この過程でブルジョワに味方する多数の政治学者たちはブル ジョワジー民主主義の政治を正 当化する政治学を考え出し, またこの政治を肯定する多数の法律学者たちもこれを維持するための. 法 律 学 を 形 作 っ た. こ れ に 対 して プロ レタ リ ア ー トの 味 方 で あ る マ ルク ス や エ ン ゲル ス や レー ニ ン. は階級の差別なく, 権力の支配なく, 各人がその能力に応じて働らき, 必要に応 じて与えられると ころの自由の社会を実現 するための政治や法律についての思想を形作った, またこの近代にはいって対象が自然と人間社会にまたがる混合領域の諸科学, すなわち人類学や 心理学等が確立せられ た. 今まで述べて来た諸科学を見ても知られ るように, 古くから人間の自然 的側面を対象とする諸科学はあった し, また人間の社会的側面を対象とする諸科学もあった. しか. し近代にはいって生物進化論を通して人間 の自然に於いての特殊の地位が確認せられた. そこでこ の人間を新しく プロパ←の対象として研究することが必要になった. また他 方に於いては人間はた しかに生物の一種類ではあるが, 同時に他の生物を越えた ところの社会生活や文化活 動をいとなむ. も の で あ る こ と を 明 ら か に す る 必 要 も 生 じた. こ の 必要 に 応 じ て ト ピ ナ ー ル や ブ ロ ー 力やそ の 他 の. 多くの人たちに依り形質人類学が創始せられた. やがてまた人間の文化をプロパ←の対象とする文 化人類学も創始せられた. それからこの両者はひとつのま とまった人類学の知識体系として前進せ しめられるようになったのである. また意識を対象とする心理学も以前から研究せられてはきた.. しかしこの近代にはいって解剖学や生理学や医学の進展につれてこの意識の問題を確実な方法で新 しく研究する必要に迫られた. そこでハートレトやスペンサーの連合心理学からヴソトの生理学的. 心理学が確立せられた. 特に比較解剖学や大脳生理学の前進に伴って意識は人間に於いてだけでは なく, 大脳を具有するす べての動物にも起る現象であることが明らかとなった. そこで動物心理学 - 10 一.

(7) . 諸科学の役割と倫理 や動物の意識の研究を通しての意識一般の研究が始められた, パブロフの条件反射学的大脳生理学. や後の条件反応学的心理学はこういう状勢の中から発足していったのである,. また哲学はヘ← ゲルの観念論的哲学の隆盛と衰退の後観念論の方では新カント学派の科学論, デ. ル タイ や りツ ケル ト の 生 の 哲 学, キ ェ ル ヶ ゴ ール の 実 存 主 義 ラッ セ ルや ホ ワイ トヘ ッ ドの 数 理 哲 学. 等 が形 成 せ られ た. そ う して 唯 物 論 の 方 で は フ オ ーク トや ビュ ッ ヒネ ル や モ レシ ョ ッ トや ヘ ッ ケ ル. 等 の自然科学的唯物論が流行すると共にマルクスおよびエンゲルスに依って唯物弁証法ないし弁証 法的唯物論が確立せられた. ここで世界の根源は物質であり, 自然や社会や意識等 のあらゆる事 物 は無限の弁証法的運動の過程中に存在する物 質の諸形態であることが知られるようになったのであ る.. 現代にはいってから人間の社会史に於いて最初の歴史的唯物論に基づく社会主義国が生誕した。 が第二次世界大戦を契機 としてさらにつぎつぎにこのような社会主義国が生誕しそうして成長 し始 めた. この時から地上に生きるすべての人たちは近世以来の資本主義制を保守するか, またはこの 新生した社会主義制を推進するかの立場に立って斗争し合うようになった. わけても科学者たちは. 形而上学的観念論かあるいは弁証法的唯物論かの世界観に立って論争し合うようになった, そうし て上のいずれの立場に立つ人たちも科学がそれぞれの世界観をささえる必須の知識であることを知 ってあらそってその 研究を奨励するようになった. このような社会状勢に因って弁証法的唯物論な かんずく自然弁証法は次第に自然科学者たちの間に普及し, 自然諸科学の確実な発展を可能ならし めている, 現代においてはこのような社会状勢の中で科学者たちはそれぞれの世界観に立って専門 科学の研究を進めており, このために諸科学は空前の飛躍的発展をとげつつある. すなわち数学に 於いては数学者たちはそれぞれの専門領域へ深く進んで, 数学基礎論や集合論や代数学や位相幾何. 学や解析学や幾何学や応用数学等 の諸部門を展開させている. その結果今日の数学は以前には見ら れない豊富な知識体系となっている. そうしてこの数学は自然及び社会の数量的ならびに空間時間. 的な側面を一層精密に反映することのできるものになっている. 特に物理学は現代の諸科学の中で もっとも偉大な発展をとげている. アイ ンシュタインに依って創始された相対性理論はその後の研 究を通して巨視的対象を一層精密に反映する真理として前進せしめられている. がまたラザフオー ドや ポ ーア やハイ ゼ ン ベ ルク や パ ウ リや シュ レー デ ン ガー や ヨ ル ダ ンや デラッ ク 等 に 依 っ て 微 視 的. な対象の探究が進められ, この対象を正しく反映するところ の量子力学が新しく形成せられた. そ の後この量子力学は彼等およ び彼等の多数の後継者たちの不 断の協力的な研究 の結果今日の巨大な 量子論に到達した. この研究を通して彼等は物質の微視的構造を最深部まで認識し, その極微の単 位としての素粒子を発見した, この量子論的世界映像に於いては世界の中の万有は, 無生物も生物 も, それぞれの場に於いてのこのような素粒子の相互作用や離合集散や変化に因って現象すると考 えられている. 今日の物理学者たちはこの量子論的世界映像と相対論的世界映像との統一を不可避. 的な問題としている. がとにかく彼等はこのような世界映像の確立を通して他の物理学的諸科学お よび生物学的諸科学へゆたかな基礎的知識を提供しているのである. また以前には地球 の諸側面に ついての諸科学はそれぞれの専門科学者に依って思い思いに研究されていた. しかしこの現代には いってこれ等の諸科学は次第にひとつ の地学へ統一せられるようになった. そうして今日の地学は. 測地学や地形学や構造地質学や鉱物学や岩石学や層位学や地球化学や地球物理学や火山学や地震学 や堆積論や気象学や海洋学や陸水学等を包む大きな知識体系となっている. 特に近年に至ってロケ ットを原動力とする観測機械を用いての大気圏およ び大気圏外の観測的研究がしきりに お こ な わ れ, 未知であった地球 の近傍の空間やがてまた太陽系空間が次第に詳 しく認識せられようとしてい る, と こ ろ で天 文 学 も ま た 現 代 に は い っ て か ら 目 ざ ま し い 発 展 を続 け て い る. す な わ ちま ず ウイ ル ー 11 一.

(8) . 山 本. 嘉. 太. 郎. ソン山天文 台の望遠鏡を用いての観測のデーターに基づいてハッブルは宇宙空間に分布する星雲間 の距離を測定する方法を見出し, その方法を通して上の望遠鏡の観測可能の範囲を半径5億光年 の 球状宇宙と考えた. 特にハッブルは星雲スペク トルの赤方偏位を観測してこれを ドプラー効果と見. て, 星雲の後退運動について の速度距離関係 の法則を確立した. その結果ハッブルを始めアイ ンシ ュタイ ンや ドージッタ←やエデイ ントン等 に依って半径約10億光年 の相対論的膨脹宇宙論が形成せ られた. また別にミルソの運動学的膨脹宇宙論も形成せられた. ところがその後バーデはパロマ天. 女台の口径500糎の望速鏡を用いての観測のデーターに基づいて上の星雲間の距離の測定方法の誤. 謬を改訂した. そうして今日ではこの新 しい測定の方法を通して上の望遠鏡を用いての観測可能 の 0億光年の球状宇宙と考えられている. 最近はまた巨大な電波望遠鏡が製作せられ, 空間は半径約2 これを用いての観測 のデーターが集積し始めている. このような巨大な望遠鏡や電波望遠鏡を用い. ての次第に豊富な観測のデーターに基づいて今日の天女学者たちは半径数十億光年の相対論的膨脹. 宇宙論を形成しつつある, それから生物を対象とする諸科学, すなわち微生物学や植物学や動物学や古生物学や遺伝学や進. 化学等も, またそれぞれの専門科学者たちの研究を通して絶えず発展 してきたことはいうまでもな い, 特に電子顕微鏡を用いての観察的研究や生物化学の実験的研究の結果この生物諸科学の中には. 特記にあたいする発見がなされている. すなわち微生物学に於いてはこのような研究を通 して単細 胞生物と無生物との中間に位するとも見られるところの多くの微生物が発見せらた. また無生物か ら生命体への合成の研究もしば しば試みられている, このような試みは人間がやがて生命体の創造 に成功し, 生物進化論の最後の確認へ達する道程にほかならないのである. 前にも述べたように現代はす べての人たちが それぞれの理想的生存を実現するために, 資本主義. 制の土台ならびにその上に生い立つ上部構造を保守するかあるいは社会主義制の土台とその上に生 い立つ上部構造を推進するかのいずれかのイ ズムをもってする どく対立しつめたく斗争している時 代である.ここでは特に前者を支援する科学者たちは形而上学的観念論的世界観の上に立って,また 後者を支援する科学者たちは弁証法的唯物論的世界観の上に立って, それぞれの専門科学を研究し ている. したがって現代の諸科 学はこのような世界観を媒介としてイ デオロギー性をおびているの. である. なかんずく政治や法律や倫理や教育や宗教や芸術や思想等のような土台に直結する上部構 造を対象とする諸科学は必然的により強いイ デオロ ギー性をおびているのである. このような社会 状勢の中 で弁証法的唯物論, なかんずく歴史的唯物論は社会科学者たちの間に急速に伝播する こと. となった. 最近の社会科学者たちはこの歴史的唯物論の発展とそれへの挑戦をめぐって各自の専門 領域を探究している. すなわち資本主義制のイ デオローゲンはこの歴史的唯物論の中に含まれる弱点を反論することを 通 してそれぞれの専門科学を推進 し, この対立する理論体系を崩壊させようとしている. がこれに 対して社会主義制のイ デオローゲンはこのような対立者の反論に対決 しながらそれぞれの専門科学. を前進させ, これを通して歴史的唯物論をますます普遍的に妥当する知識体系へ発展させようとし て い る.. 前にも少しく述べたようにこの歴史的唯物論は十九世紀にマルクスおよびエンゲルスに依って創. 始せられた理論であった. 彼等がこの歴史的唯物論を形成するために基礎にした諸科学は今日から 見れば未発達であった. 且つ彼等がまだ論及していない諸領域も残っていた. しかしこの現代には. いってからは彼等の多数の後継者たちがあらわれて, 日増しに前進する諸科学を包括し, 且つまだ 論及されなかった諸領域へ論及して, この理論を体系化しつつある. 今日の歴史的唯物論にしたが えば, やはりマルクスが考えた通りに, 社会の土台は経済的構造であり, この土台は何よりもまず 一 12 -.

(9) . 諸科学の役割と倫理 生産諸力と生産関係との対立と統一とに因って変化する。 そうしてこの土台の上に生い立 つ上部構. 造は土台の変化に因って変化ししてゆく. しかし上部構造は, それが成立 した後には, 逆に土台へ 作用をおよぼすようになる. 土台と上部構造もまたこのように不 可分に連関し作用 し合って変化す る, 古来の社会の経済的構造は-- 包括 していえば--原始共同体制から奴隷制, 封建主義制, 資 本主義制,そうして社会主義制へと発展してきた.もろもろの上部構造もこれに対応して発展 してき. た. ただし社会史のこのいっつの発展段階は全人類の社会史のもっとも包括的で且つ一般 的な発展 段階である, どこかある特殊な地域の社会史に限定して見ればそれ等の社会の中には如上の一般 的. な発展段階を順次には経由しなかったものもある, たとえば中国の社会は二千年以上もの間ア ジア. 的段階に停滞 した後に, 近代に至ってようやく資本主義制の段階へ移行 し, それから間もなく 社会 主義制の段階へと移行した. またアメリカの社会は近世にはいって奴隷制の段階へ逆行した後に , 資本主義制の段階へ移行した. しかしこれ等の事実は実は特殊な地域で偶然的な諸条件に因って起 った派生的現象に過ぎない. 人類社会の歴史は極めて深大で且つ複雑な濁流なのである. その中に はよ どみや激流や逆流も含まれる。 が人類社会の歴史は--部分的には停滞したり急行した り逆行 したりしたが--全体的には如上のいっっの発展段階を順次に一段一段とのぼり発展してきた, 社 会は常にこのように弁証法の法則にしたがって運動してやまないものである. 今日の歴 史的唯物論 は社会を このようなものとして認識 している。 そうしてこの歴史的唯物論の上に立つ社会科学者た. ちはそれぞれの専門科学の研究を通 してますますこの理論を高い次元の知識体系へ発展させている. のである. それから哲学者たちの研究は世界についての統一的な映像を形成し且つそれに対する人 間の態度をも解答することなのだから, つまりそれは世界観を形作ることなのだから, 哲学的諸科 学もまた必然的にイ デオロギー性をおびるわけである. すなわち現代に於いては哲学者たちもやは り資本主義制かあるいは社会主義制かのいずれかのイデオロ ーゲンとして各自の研究を 進 め て い る. まず資本主義制のイデオロ ー ゲンとしての哲学者たちは形 而上学的も しくは弁証法的観念論の 哲学を推進している, すなわちハイ デガ←やヤスパースやサルトル等は実存主義の哲学を形成して いる。 この 哲学はまた形成者の立場に因って個性をおびている. たとえばハイデガーの哲学は無神 論 であ り, ヤス パ ー ス の そ れ は 有神 論 で あ る よ う に, が この 実 存 主 義 的 哲 学 は共 通 して さま ざま な. 不安におびえ, 闘争や死への病に苦 しむ存在の実存の仕方を追求している。 またジェイムスやデュ ーイ および多くの彼等の後継者たちに依って実用主義の哲学が形成せられてきた, ここでは実用的. なものは真理であるという原始命題に基づいて認識論や存在論から社会諸科 学のさま ざまな問題ま 、 でが論及せられてきた. またかつてウイソ学団は論理的実証論を推進したが この学派の解体後も , 彼等の哲学は多くの後継者たちに依って記号論理学や意味論や分析哲学等と呼ばれる形態 へ展開せ. られている. これ等はみな形而上学的観念論的哲学であるが, このほかに弁証法的観念論的哲学と も云うべきものもある. この名をもって呼ばれる最初の哲学はヘ←ゲル哲学であった. それから現 代にはいって西田幾多郎が形成 した西田哲学や田辺元が力説した絶対弁証法の哲学はこの変種であ った. さらに近年になって実存主義と弁証法とを結合する試 みもあるが, これもまた弁証法的観念. 論の亜流である. これに対して社会主義制のイデオロ ー ゲンと しての哲学者たちは弁証法的唯物論の哲学を推進 し. てきた. 近代に於いてはこの哲学の 研究者ははなはだ少数であり, その領域もはっきりと分化し確 立していなかった. しかし現代にはいってからはこの哲学を研究す る哲学者たちが次第に多く現わ れ, 相互に協力 しながら各自の専門領域の研究を進めることとなった, ここで彼等はこの哲学を弁 証法的唯物論, 自然弁証法, 歴史的唯物論, 思惟の弁証法等の諸部門に分れて研究するようになっ た. 弁証法的唯物論は実在一般を対象と して, そこに働らく弁証法の一般 的な法則を探究する科学 - 13. 一.

(10) . 山. 本. 嘉. 太. 郎. である. それは世 界観の学であり, 且つ諸科学一般の基礎的な方法論でもある. また自然弁 証法は 自然の領域に働らく弁証法の法則を探究する科学であり, 且つ自然諸科学一般の方法論でもある.. また歴史的唯物論は人間社会の領域に働らく 弁証法の法則を探究する科学であり, 且つ社会諸科学 一般の方法論でもある. そうして 思惟の弁証法は思惟の領域に働らく弁証法の法則を探究する科学 であり, 且つ弁証法的唯物論と共に諸科学一般の基礎的な方法論でもある. そうしてそれは思惟的 知識の発展の歴史を追跡する過程 で諸科学の歴史学ともなる. したがって今日のこの哲学はもはや ただの個別科学の段階を越えて, これ等の諸部門からなる哲学的諸科学の体系にまで発展している のである. そうして この 哲学的諸科学は世界の中のすべての事物は不断のしかも永劫の弁証法的運. 動を続けているところの, 物質の諸形態にほかならないことをますます精細に論証している. 且つ この哲学的諸科学はこのようなすべての事物の中には永劫不変のものは何一つなく, 自然も社会も. そうして意識も, 早かれおそかれそれぞれの存在の過程を終って他物へ変化するものであることを 確 認 して い る.. 古来の各時代の科学者たちは常に不焼不屈 の研究を通 して上のような仕方で諸科学を発展させて きた. 今日までに確立されたところの自然と人間社会とそうして意識とを対象とする諸科学を弁証 法的論理にしたがって整序 し且つ統一して見れば, そこに驚歎にあたいする深大な世界映像が形成 」 せ ら れ る. 2. 科学者たちがこのような深大な世界映像を確立してきたという事実は彼等自身がまずこのような すばらしい知識体系をもつ科学的人間へ高揚 してきた ことを意味する. そうして科学者たちが形成 した こ の よ うな すむ らしい知識が日増に発達する教育機関や報導機関を通してますます多く の人た. ち へ伝達されてきたという事実はまた彼等がこのような無数の人たちを科学的人間へ高揚させたこ とをも意味する. このように して各時代の科学者たちの研究活動は彼等の生きた時代および死後の 時代の人類を科学的人間へ高揚させる原動力であったのである.. 次ぎに第二に人間は技術諸科学の形成を通 して技術的人間へ高揚した. ここで技術というのは人 間が自然や人間自身に能動的に働らきかけてこれを生存のために必要なものあるいは理想的なも の. へ変化させる方法のことである。 それは労働手段の体系であるだけではなく, ひろく人間が彼等の 目的を実現するために所与の事物に働きかるけための有効な手段の体系を意味する. 技術諸科学と. はこのようなさまざまな技術を対象とする諸科学のことであり, 技術的人間とはこのような技術を 体得した人間のことである. 前にも述べたように人間は洪積世にはいって出現 し, その冷厳な且つ 激変する自然の中で生存してゆかなければならなくなった. そこで彼等は生来具有していた認識機. 官を用いて自身 を包 み支える自然を認識 しそうしてこれに有効に対応し始めた. がそれだけでは十 分ではなくなって彼等はやり生来具有していた技術機官を用いて能動的にこのような自然に働らき かけ, これを衣食住のための財貨に変革し, またこれを自身の生存可能の場へ変化させ始めた. 人 間はこのように最初から, 技術機官を用いて外界に働きかけそうしてこれを変革するところの, 技 術的人間 として発足したのである. ところで人間のこのような技術は発足当初の時代には極めて幼稚なものであった. 彼等の技術機 官は未発達であり, したがって彼等の生産諸力も微小なものであった. 彼等は洪積世が過ぎ去る悠 久な時間にわたって石器を使用 し, これを少 しずつ改良してきた. 今日の人類学はこの洪積世の末. 期にはネア ンデルタ←ル人級の人間が火を使用 し, 採集経済活動をおこない, 部族的社会を組織し て生活 していたことを教えている。 この時代に於いての人間の技術的人間への進化はこのように極. めて緩徐であったのである. しか し沖積世 にはいってクロマニョン人級の人間が現われて新石器を 使用し, 家畜をかいならし, 岩壁に絵画を描くほどの技術を体得した, 特に今から数千年以前の文 一 14 -.

(11) . 諸科学の役割と倫理 明時代にはいってから人間は次第に急速に技術的人間へ高揚し始めた, がこのことは彼等が歴史諸 科学およ び技術諸科学を形成することに因って可能となったのである.. 実在するすべての事物 は無生物も生物もそう して人間も, その本性上それぞれの運動の法則にし. たがって或る形態から他の形態へ変化するものである. すべての事物は常に必然的な運動の法則に したがって存在し且つ変革されるも のであって神秘不可思議な奇蹟や偶然的な条件に因って無法則 的に変革せられるも のではない, したがってある事物を生存のために役立つものへ変革するために. は人間はまずその事物の空間時間的な構造および運動の法則について知らなければならない, これ を確実に知った後に彼等はその事物に働きかけ, 必要で且つ十分な条件をあたえることに因って始 め て 目的 の 事 物 へ変 革 す る こと が で き る の であ る. こ の こ と は つ ま り彼 等 がも ろ も ろ の事 物 を 目 的. の事物へ変革するためにはこのような事物の構造や運動についての歴史諸科学およびこのような事 物の変革の過程についての技 術諸科学が必要であるということにほかならない. たとえば現在の技. 術家たちが農耕技術を通して生産物を確実に且つ豊富に生産する場合には, 彼等はまず直接的に必 要な技術科学としての農学的諸科学 (すなわち農学, 農業生物学, 農業土木学, 農業機械 学, 農業. 気象学, 農芸化学等) を研究しなければならない。 がこれ等の農学的諸科学は実はこれ等に直結す る歴史諸科学としての生物諸科学を始め数学や物理学や化学や地学や天文学等と不可分的に連関し そうして促進し合うも のである. したがって今日に於いてはこのような技術諸科学と歴史諸科学と は相互に不可欠のも のとして研究せられている. 今日のもろもろの技術はそれぞれの技術科学とそ れに直結する歴史諸科学との相補的な発展を通してめざま しい前進を続けているのである.. このような理由で, 青銅器から鉄器の使用が始まったところの, 古代の技術家たちも彼等の技術 を向上させ生産諸力を増大させるために諸科学を創始した. すなわちエ ジプ トの技 術家たちは農耕 をおこなうために測地や暦法や治水等 の方法を研究して人間の科 学史に於いての胎動期の数学や天 文学や土木学や建築学を創始した. やがてメソポタミ ヤや中国の技術家たちもまた農耕を進めるた. めにこれとほぼ同様 の胎動期の諸科学を創始した. これ等の胎動期の科学的知識は, 今日の諸科学 に比較すれば, もちろん生れたを かりの幼稚なものではあった. それは多く の誤 謬や妄想や迷信を. 含んでいた. がとにかくこれ等の科学的知識を通して人間の技術が始めて確実な前進 の一歩を踏 み 出 した の であ る. エ ジプ ト と メ ソ ポタ ミ ヤ の 胎動 期 の 諸 科 学 が ギリ シ ャに 於 い て め ざ ま しい 成 長 を. とげたことについてはすでに述べた. ここではようやく歴史諸科学 と技術諸科学との分化 のきざし が現れ, 一方では愛知の学としての哲学が確立せられると共に, 他方に於いては建築や土木や造船 や農耕や医薬について の技術諸科学が胎動し始めた. このように前進し始めた諸科学 の体得を通し. てギリシャの技術家たちは今日そのおもかげがしのばれるあのすばらしい建築や彫刻の傑作を作り 上げるほ どの技術を達成 した. このギリシャの諸科学を継承したローマの技術家たちもまた彼等の 技術を向上させ, あの巨大なコロセウムや水道や浴場や聖ソフィ ア寺院を作り上げた. 神学の重い圧迫に因って諸科学と技術とが停滞した中世が終って, ルネッサンスないし近世が始 まってからこの諸科学ならびに技術はふたたび急速な発展を開始 した。 すなわち前にも述 べたよう. にこの時代にはいってからのヨーロ ッパに於いては次第に進行する資本主義制を支えるために諸科 学の有効な研究がさかんに奨励せられるようになり, その結果新しい数学や地理学や天女学等 が形. 成せられた. これ等 の諸科学を適用 して技術家たちは次第に性能の秀れた道具や機械や装置を製作 し生産 諸力 を 増 大 し始 め た. ハ ソ ス とザ ハ リ ア ス ・ ヤ ソセ ソ の 複 顕 微鏡, ガリ レオ の 望 遠 鏡, ゲ ド リッ ケ の 空気 ポ ン プ, ホイ ンス の 振 子 時 計, パ パ ソ の ピス ト ン付蒸 気機 関, ハ リ ソ ソのク ロ ノメ ー. ター, ハ ー グリ ー ヴス の 多 軸 紡 績 機, ワッ ト の蒸 気 機 関 や回 転機 関, ア ーク ライ トの水 力 紡 績 機, カ ー ト ・ライ ト の力 織 機 等 の 発 明 な い し改 良 が つ ぎつ ぎ と行 わ れ た. ま た ア グリ コラ の 「デ レ・メ ー 15 一.

(12) . 山 本. 嘉. 太. 郎. タリカ」 やロモノソフ の 「冶金術の基礎」 が書かれ, 鉱物の採 掘や金属の冶金の技術もますます進. 行 した。. く分化 し それから近代にはいってからは諸科学は一方では歴史諸科学と技術諸科学へ次第に細か.. てゆきながら, 他方ではまたこの両者は相互にますます密接に連関して促進 し合うようになった, 1 ‐ この時代に於いての歴史諸科学のめざましい発展についてもす でに述べたが, このような歴史諸参. 学と連関して多くの技術諸科学が展開せられ, それぞれの技術を躍進させた. すなわちまず物理学 的諸科学の発展と連関して工学的諸科学がめざましい発展をとげるようになった. 鉱山学の進歩,. 特に冶金学の進歩を通してジーメ ンス・マルチン法やベッセマ←法とトマス法等の技術が完成し, 大量の鉄鋼が生産せられるようになった. また合金学の進歩を通 して各種の特殊鋼 であるジュラル. ミンやステライ ト等 の新合金を生産する技術がもたらされた. また応用化学 の進歩を通してパー キ ン の ア ニ リ ン 染 料,リ ー バ ー マ ン と グ レー べ の ア リ ザ リ ン,バ イ ヤ ー とホ フ マ ン のイ ン ジ ゴの 合成 技. 術が成功した. そうしてこの染料合成を中心として化学工学の技術はますます拡大していった. さ らに電気工学のめ ざましい進歩が始まり, ファラデーの電磁誘導の発見からやがてグラムやヘフナ. ーに依って発電機が製作せられることとなった, また電磁方程式を誘導 して電磁波の存在を予言し たマクスウェルの洞察はヘルフの検証を経てポポフーやマルコニーの無線通信技術へ成長した。 こ. の電気工学の発展は動力史に於いて火力 の解放に続く第二の偉大な 発見であり, この電気使用の技 術は新しい現代文明を展開させた のである. また機械工学も展開し始め, 熱力学や流体力学や材料. 学や機構学の発達を通して蒸気タービンや内燃機関 の製作技術が達成せられた, そうしてここから 汽車や汽船や自動車や電車等の交通運輸機関を製作する技術が発達 していった。 また造船学も進歩. し始め, これを通して造船技術は二万トン級の巨船を建造することができるようになった. そう し てまた航空工学も発足 し, これを通 して グライ ダーから飛行機や飛行船を製作する技術が達成せら れた. さらに土木学の進歩を通 してますます巨大な港湾や運河や鉄道や橋梁を構築する技術が向上 し, また建築学の発達を通 していよいよ豪壮な建造物を建造する技術が達成されていったこ とはい う ま でも な い.. 上のような物理学的諸科学とさらに生物学的諸科学の発展に連関 して農学や林学や畜産学や水産 学等の技術諸科学が進歩し, ,それぞれの生産技術はいちじるしく前進した, わけても医学的諸科学 は 上 の 諸 科 学 と 連 関 して め ざ ま しい発 展 を と げ た. シュ ライ ンデ ン や シュ ヴァ ンそ う して シュ ル ツ. ェやコッホ等の研究を通しての細胞学の確立, マシヤンデイやミュ←ラーやベルナ←ルなどの研究 を通しての生理学の確立は医学的諸科学の確実な進歩を可能にした. わけてもコッホに依る結核菌 や コ レラ菌 の 発 見, ハ ン セ ンに 依 る瀬 菌, ナイ サ ー に 依 る 淋菌, エ ー ベ ル トに 依 る 腸 チ フ ス 菌, ク. レー プ ス に 依 る ジ フ テ リ ア 菌, ニ コ ライ エ ルに 依 る破 傷 風 菌, 志 賀潔 に 依 る 赤痢 菌, シヤ ワ デ ソ と. ホフマンとに依る徽毒スピロヘータ等々の諸発見を通 しての細菌学の前進はこの医学的諸科学の躍 進を促すこととなった. この時代の医学は, ビシヤの組織学から新しい技術科学として発足し, 薬 学の進歩と相互に促進 し合って, 次ぎ次ぎに有効な薬物療法や血清療法や手術療法を達成していっ た. その結果この医学的諸科学は, 以前にはどうしても治癒することができないも のとせられてい たところ の, 多くの疾病から人間を解放し, 人体 の健全な発達を可能に し, やがて人類の進歩をも 指導するところのすばら しい技術を展開させた のである.. 特に現代にはいってからは技術家たちは, すでに述 べた歴史諸科学と技術諸科学とのますます偉 大な発展を通して, いよいよすむ らしい技術を展開しつつある. すなわちまず物理学的諸科学の発 展と連関 して工学的諸科学は空前の躍進を続けている. 現代の物理学者たちに依って形成せられた 量子論は自然諸科学の広汎な領野にわたってそれぞれ の進展を促 したが, 特に原子 の構造と運動の - 16 一.

(13) . 諸科学の役割と倫理 解明を通 してこれに関係のある諸科学に画期的な変革をもたらした. この量子論に依る原子力の発. 見はやがて原子力工学 の形成に進展し, 巨大な原子力の利用が始まった. この原子力の発見は動力. 史に於いてのすばらしい第三の発見であって, 今後の生産諸力はこの原子力利用の技術を通 して全 く新しい段階へ前進することとなったのである. 今日の技術家たちはす でにこの原子力工学を通し て原子力の発電所や船舶や航空機への利用を開始している. 実はこの原子力利用の技術こそ測り知 ることのできないすばらしい未来の発展 の可能性をはらんでいる. また電気工学の研究もますます 急速に進み, その適用を通して電気技術は果てなく進展 している. ラ ジオやテレビや電波探知機や. レー ダ← 等 の 発 明 と改 良 を 始 め とL て, 電子顕微鏡や電波望遠鏡や電子計算機等の発明と改良, サ. イ クロ トロ ンや シ ンク ロ トロ ンや シ ンク ロ サイ ク ロ トロ ンや コス モ トロ ン 等 の 構 築 等 が あ りそ の 成. 果はこれを数えつく すことができないほ ど豊富ですばらしい. そう してまた機械工学 の 研究も急速 に進み, その適用を通してますます性能の秀れた原動機や製作機械や交通運輸の機関や実験観測 の 装置等が製作せられつつある。さらに造船学や航空学の研究もますます進展し,その成果の適用を通 して驚くべき大きな速度と積載力とをもつ船舶と航空機とが製作せられるようになった. 特に最近. に於いては原子力を原動力とする船舶や航空機 の製作技術が進みつつあるのである. 最近はまたロ ケット工学 の研究が急激に進み, その成果を適用 して遂に人工衛星や人工惑星が打ち上げられるよ. うになった。また土木工学や建築学も引き続き着実な研究が進められ,その新知識の適用を通してま すます完備 した交通路や鉄道や航路や港湾や空港が構築せられ, そうしてますます快適な建築物が 建造せられている, そうしてまた応用化学の進歩もめざましく, その成果を適用してより秀れた製 品が次ぎから次ぎへ と作り出されている. わけても高分子工学の新知識を適用して, 自然の原料か ら作られるところの製品以上の優秀な製品が人工的に作られるようになった. 特に近年ウイーナー およ び彼 の 後継 者 た ち に よ り サイ バ ネ テ ィ ック ス の 研 究 が進 め ら れ て い る. こ の サイ バ ネ ティ ッ ク. スは電気工学や通信工学や統計力学や神経生理学 の技術諸科学 の見事な複合的技術科学であり, こ の新知識の適用を通 してもろもろ の自動制 御装置や人工頭脳と呼ばれる電子計算機が製作せられる. ようになった。 そうしてまた採鉱学や冶金学の研究も絶え間なく進められ, 地下資源の生産が日に 月に増加 して, 工学的技術 のますます豊富な原料を供給していることも周知の通りである.. また現代にはいってからの生物諸科学と連関して, 林学や畜産学や水産学も研究が進行 し, それ ぞれの生産技術は絶えず向上している, 特に農学的諸科学 の進歩はいち じる しく, その生産技術は 以前の量の幾倍もにあたる量の農産物を生産できるほどに向上 している, しかし生物の技術諸科学 の中でもっとも感謝すべき研究が進められているのは医学的諸科学である. もともとこの医学的諸. 科学は生理学や薬学と不可分的に連関して進歩するも のであるが, この生理学や薬学は実にめざま. しい進歩を とげつつある。 すなわち最近の生理学は電子顕微鏡や生物化学を通して達成した細胞に ついての知識や条件反射学や脳波学を通して達成した神経系についての知識を集積してますます人 体の構造と生存の仕方を明らかに している。 また最近の微生物学は人体の有害な病原となるところ のさ ま ざま な 細 菌 やス ピ ロ ヘ ー タ - や 糸 状 菌 やり ケ ッ チ ヤ ー や ビー ル ス を 発 見 中 であ る が こ れ に ,. 対して薬学は有効な新薬を次ぎ次ぎに製造 している. たとえばそれは抗生物質 であるペニシリ ンや ス ト レ プ トマ イ シ ンや ク ロ ロ マイ セ チ ソやオ ー レオマイ シ ンや テ ラ マイ シ ン や アイ ロ タイ シ ソ の 発. 見である。 これ等の諸科学に支えられて現代の医学的諸科学は神経科や内科 や外科や眼科や耳鼻咽 喉科や歯科その他 のすべての部門にわたって飛躍的な発展をとげつつある. ここで達成さえ た新知. 識に基づいて今日の医療技術は以前には不治の疾病と考えられていた重い傷病から人間を解放しつ つある。 今日 の医療技術 のすばら しい向上は最近の数十年間の平均寿命が十年以上も延びたと言う 事実を見ても明らかに知られることである. なお近年に於いては保健衛生学や体育学がさかんに研 一 17. -.

(14) . 山. 本. 嘉. 太. 郎. 究せられるようになったが, これ等は人体の保健衛生か らさらに能動的に働らきかけてこれを理想 的な体格へ育成する方法について の技術諸科学 である. 今日の体育技術はこれ等 の新知識を適用 し て次第に多くの人たち の体位を向上させている.. それからわれわれはもうひとつ教育学的技術諸科学および教育技術 の進歩について述べておかな ければならない. この教育学的諸科学は, 体育学が主として人間 の個体的身体を形成する方法につ. いての技術科学であるのに対 して, 社会を構成 し且つ文化を創造しながら生活するところの社会的 人間を形成する方法についての技術科学なのである. 教育 の仕事は科学および技術が発生 した古代. にすでに開始せられ, その後の各時代を通して励行せられてきた. がこの教育に対する科学的研究 が始まり, これについての独立 した教育学が成立した のは近代にはいってからのことであった. そ. れ以来この教育学は各国に於いての教育の隆盛に対応して急速に成長 しそうして拡大 してきた ので ある. 今日では教育学は, 古来の教育の発達の過程を対象とする教育史を始め教育学や教育社会学 や教育心理学や教科教育学等に分化 しながら, それぞれの専門研究が進められている. この教育学. 的諸科学を適用 して各国 の教育者たちは学校教育および社会教育の場に於いて人間形成の仕事をし ている. 彼等はますますゆたかな科学的知識を体得し且つ教育技術を向上させながら理想的な社会 的人間の形成 の仕事を推進 しつつある.. 古来の科学者たちは上のような仕方でさま ざまな技術諸科学を研究しそうして技術を発展させて 来た. 且つ彼等は各自が形成した技術科学をその都度多くの人たちへ伝達しながらこれ等の人たち をも次第に高度の技術的人間へ向上させてきた. つまり今日までの 人間 の上のようなすばら しい技 術的人間への高揚はもっぱ ら科学者たちの歴史諸科学および技術諸科学の研究と伝達とを通 して始. めて可能となったのである. さて以上に於いて我々は古来の人間が科学者たちの諸科学 の研究と伝達とを通 して次第に輝しい 科学的人間および技術的人間へ高揚してきた過程をその歴史的現実をあげて説明して来た. 人間が 科学と技術とをもつことなくして生存 しゆくことは暗黒に包まれた人 生行路をさまよい歩むことに ほかならない, そこでは彼等は自身も自身を包む外界も見知ってはいない, 彼等はどこに何物が横 たわっているか, そうしていっ何事が起るかを全く見知ることなしに歩みゆかなければならないの. である. 彼等 の前途に受難と滅亡 の運命が待ちかまえている. がこれに対して人間が科学 と技術と をもって生存 しゆくことは, 彼等が自身および自身を包む外界を知識 の無 限に強大な燭光 の光明で 照らし見ながら人生行路を歩むことにほかならない, そこで彼等は自身および自身を包む外界の空. 間時間的構造を知っている。 彼等は自身を包む世界の過去から未来に向っての運動の仕方も知って いる. しかも彼 等は自身および自身の近傍の外界を変革する方法をも知っているのである. 事実人 間はこの諸科学に依って導かれ且つ技術に依って助けられながら現在までの進化と繁栄とを続けて きた。 すなわち人間は諸科学の研究と発展とを通 して次第に知圏を拡大し, 世界映像を発展させて きた。 彼等は諸科学を通して生産諸力を増大させ生産関係ならびにその上に生い立つもろもろの人. 間関係を変革してきた. 彼等は諸科学を通して経済や政治を進め, 法律や倫理を立て, 芸術や思想 を形作りより理想的な社会生活を推進 してきた のである. 文明時代以来の人間のさまざまな側面に. 向ってのすばらしい発展は各時代の科学者たちの上のような諸科学の研究とその適用とを通Lて始 めて達成せられたのである. つまり人間の過去の歴史に於いて科学者たちの諸科学 の研究と適用と は人間全体の発展と繁栄 のために不可欠の役割を演 じてきた. そう してまた将来に於いてもこのよ. うな科学者たちの役割はいつま でも変らないはずである. (二) 一 18 【.

(15) . 諸科学の役割と倫理 ところで諸科学が人間の発展と繁栄のために上に述べたようなすばらしい役割を演ずるのは, そ れ等の正善な意志に基づいて研究と適用とを通して可能となることである. しかし過去に於いて諸 科学はしばしば邪悪な窓意に基づいての研究と適用とを通して人間を迫害したり殺傷 したりしてき た.. すなわち近代に於いて社会科学者たちの中には資本主義制の社会を支援する立場に立って社会学 を研究する人たちがあった. たとえばスペンサー学派 の人たちがこれである. スペンサー学派の社 会学者たちは生物学の知識を不当に拡大して社会学の研究に適用 し, 社会を一個の生物的有機体に. 比論した. 彼等にしたがえば生物体はさまざまな機能を受持つ諸機官が頭脳に依って支配され統一 せられて一個の完全な有機体を構成している, これと同様に社会もまた多数の個人が少数の為政者. の支配を通して構成せられるところの一個の有機体にほかならない. ここでは各個人はそれぞれの. 職業をもち, 地位に位し, そうして階級に属 しながら社会生活をいとなまなければならない. また ダーヴイ ニズム の生物進化論は生物体が簡単な構造のものから次第に複雑な構造のも のヘ進化して きた事実を発見 し, 且つこの生物の進化は自然陶汰, 生存斗争, 適者生存に因って進行 してきたと 説明 した. これと同様な仕方で社会もまた進化する, すなわち社会は量の増大とその結合によって 同質性から異質性に進化するものであり, 一方それが単純な群族から複合過程によ って部族, 部族 の集合, 国民に進化する. またそれは質的に軍事型社会から産業型社会へと進化するも のである 。 近代国家は, つまりヨーロッパの列強国は, 人間 の社会史に於いて最高の段階に進化 した社会形態 であ る. した が っ て こ のよ う な 近 代 国 家 は い つ ま でも 存 続 し そ う して繁栄 して ゆ く べ きも の だ と い う の で あ る。. もちろん人間の社会は植物の票落や動物の群棲のような混沌無秩序の個人の集合体ではない そ . れは秩序があり法則にしたがって運動するところの有機的な組織体ではある. がそれはスペ ンサー. 学派の社会学者たちが考えたような生物体と全く同質のものではなかったのである. 本質的には人 間の社会は生産関係とその基礎の上に生い立つさまざまな人間関係の複合を通して構 成せられる複 雑な組織体である. しかもこ の人間の社会は生物体の進化と全く同じ仕方で発展 してきたも のでは なかった. この社会は最初に原始共同体制の社会と して構成せられた がその後の生産諸力を原動 , 力とする経済的構造の変化ならびにこの経済的構造と上部構造との相互作用に因って必然的に古代 の奴隷制の社会 へ, 中世の封建主義制 の社会へそう して近世および近代の資本主義制 の社会へと発. 展してきたものであった. 且つこの社会の発展はいつまでも終息することのない弁証 法的運動であ. った のである. スペンサー学派の社会学者たちは近代の社会, つまり近代ヨーロッパの列強の資本 主義制 の国家社会が, 人間の社会史に於いて最高の段階に達 したものであり それは調和的で矛盾 , の な い も の, そ う して 完全 で無 上 の も の だ か ら, 永 久 に 存 続 し繁 栄 し ゆく べ きも の で あ る と主 張 し. た. しかし人間が生産手段を独占する少数の支配者階級とこれをもたない多数の被 支配者階級に分 れて社会を構成し始めて以来, 奴隷制や封建主義制や資本主義制のどの社会に於いても これ等の , 対立する階級間の矛盾が発生し内在した。 そうして対立 する両階級間の斗争がいつでも社会の発展 の決定的な推進力となってきたことは社会史上の事実であった わけでも近代ヨーロッパの資本主 . 義制の列強は次ぎ次ぎと産業革命を完了 して帝国主義 の段階に進んでいた その内部では ブルジョ . ワ階級とプロレタリア階級の間の対立が深まり階級斗争が次第に激化しつつあったはず である し , かしスペンサー学派の社会科学者たちはこのような社会史の本質的な現実に向っては考察を進める ことなく, ただ彼等の属する帝国主義的資本主義制 の国家がどのように理想的で調和的であるか , またどのように完全で無上のものであるかについての論弁的な説明に従事したのである その結果 . 彼等の社会学 は社会 の弁証法的発展を反映する真の社会科学とはならず, 少数のブルジョワ階級の - 19 一.

参照

関連したドキュメント

あれば、その逸脱に対しては N400 が惹起され、 ELAN や P600 は惹起しないと 考えられる。もし、シカの認可処理に統語的処理と意味的処理の両方が関わっ

「欲求とはけっしてある特定のモノへの欲求で はなくて、差異への欲求(社会的な意味への 欲望)であることを認めるなら、完全な満足な どというものは存在しない

としても極少数である︒そしてこのような区分は困難で相対的かつ不明確な区分となりがちである︒したがってその

となってしまうが故に︑

人間は科学技術を発達させ、より大きな力を獲得してきました。しかし、現代の科学技術によっても、自然の世界は人間にとって未知なことが

大村 その場合に、なぜ成り立たなくなったのか ということ、つまりあの図式でいうと基本的には S1 という 場

自分ではおかしいと思って も、「自分の体は汚れてい るのではないか」「ひどい ことを周りの人にしたので

これも、行政にしかできないようなことではあるかと思うのですが、公共インフラに