博 士 ( 医 学 ) 谷 口 明 久
学 位 論 文 題 名
ラット副腎自家移植再生における血管増生に関する検討 学位論文内容の要旨
緒菖:両側 副腎腫瘍の治療は両側摘除が 標準的であり、術後は終生 ステロイド補充が必要であ る。現在ま でに副腎自家移植はごく―部の症例に行われているにすぎず、―般的な治療法ではな い。副腎皮 質移植が可能となれば生理的 日内リズムのホルモン分泌 やス卜レスに対する適応能 カの回復を持つ利点がある。
げっ歯類 のモデルでは副腎皮質移植は 可能である。両側副腎摘除 後、副腎皮質細胞の移植を 腎被膜下、 大網または皮下に行われてい る。臓器、組織移植が成功 するには血管新生が必要で あり、特に 血管内皮細胞増生因子(VEGF)が血管新生に重要とされて いる。肝臓の再生、膵ロ細 胞 移植 にお けるVEGFとFlk‑l、Flt‑lの発 現は過去に報告されている が副腎皮質再生における 検討はいまだかつてない。本研究ではラット副腎皮質移植後の再生におけるVEGF、Flk一1とFit一1 の発現の推移を研究した。
材料及び方法:1.実験動物および処置:週齢8−9週の雄Wistarラットを麻酔後、両側副腎摘除し、
副腎 被膜組織を腹直筋のポケッ卜に移植。術後1、2、3、4週目で頚椎脱臼後直ちに採血、移植副 腎を採取した。術後のステロイドの補充は行わなかった。12週齢の同ラッ卜をコントロ―ルとした。
2.採 血サ ンプ ル の分 析: コル チコ ス テロ ンは 高速 液体クロ マ卜グラフイ一法で測定した 。 3. RNAの 抽出 とR1. ―PCR反 応:T開Reagentで再 生副腎からRNAを抽出。12週齢の副腎皮 質 をコ ントロールとした。VEGF、鬥k11、Fい1のmRNAの検出は総RNA0.2鱈を使用しR1.ーPCR反応 を行 った。産物はエチジウムブロマイドを含む1j%のアガロースゲル上に電気泳動した。その後 T陀nsiIluminatorで検出しNIHimageで各々GAPDHとの比を計算したふ
4.組 織学 的検 討 :組 織は48時 間亜 鉛 固定 液に 浸透 後 、パ ラフ アン 包埋 し た。5卿の切片 を HematoxyIirr・Eosin(HE)染色と免疫組織染色に使用した。0.05%サポニンで抗原賦活を行った。
一次 抗体を4℃24時間反応させた後、avidinlbiotin反応を行いDABで発色した。HematoxyIinで対 比染 色した。一次抗体はウサギ坑ラットポリクロ―ナルVEGF、F|k11、F|や1とマウス抗ラット CD31抗体を100倍希釈で使用した。
5. 統 計 : 各 群 間 の 統 計 学 的 処 理 はANOVA検 定で 解析 し、P<O.05を 有意 差 あり とし た。
結果:1.コルチコ ステロンの測定:血清コルチ コステロンは術後経時的に増加した。[コント ロー ル :256.3土47、1週 目:19.9+5、2週目:75.4土47、3週 目:104.0土61、4週:190.5+56 ng/ml、n=6、Pく0.01:コ ン ト ロ ― ルvs.1、2、3週、4週 目vs.1、2、3週 目、3週 目vs.1週 目]。
2. 再生 副腎 組織 の 検討(HE染色 、CD31免 疫組 織 染色):HE染 色では、移植1週目で組織の 生 着が確認された。周囲からの毛細血管が移植片に侵入し、副腎のsinusoidと結合していた。314週 では1週に比して径の増大がみられ た。CD31染色にて再生過程 中副腎細胞周囲sinusoidの再 構 築が見られた。
3. VEGFmRNA、Flk‑lmRNA、Ftt‑lmRNA、の発現:VEGFは経時 的に増加し、コントロールが 最 強であった。Flk‑lは術後早期に高い発現を示し た。FIt‑lはVEGFと同様の発現傾向を示した。
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[VEGF/GAPDHの比(コントロ−―ル:0.39土0.09、1週目:0.16土0109、2週目:0.19土0.09、3 週目: 0.21t 0.08、4週目:0.37士0.08)、n=6:Pく0.01:コントロールvs.1、2、3週目、4週 目vs.1、2週目] 。[Flk―1/GAPDHの比(コン卜ロ―ル:O.17土0.08、1週目:0.33士0.05、2 週目 :0.28士0.03、3週目 :0.25土0.06、4週目 :0.18土0.05)、n=6:Pく0.01:1週目vs.コ ン トロ ― ル 、4週 目、Pく0.05:1週 目vs.3、4週 目、2週 目vs.コ ントロー ル、3週 目vs.コ ントロ
―ル 、4週 目 ] 。[Flt‑l/GAPDHの比 (コン トロ― ル:0.49+0.07、1週目 :0.19土0104、2週 目:0.24土0103、3週目 :0.30土0.04、4週目 :0.33+0.05、n=6:Pく0.01:コントロールvs.1、 2、3、4週目、4週目vs.1、2週目、3週目vs.1週目]。
4. VEGF、Flk―1、FIt‑lの免疫組織化学:VEGFは副腎皮質細胞の細胞質に発現し、術後経時的 に増加し た。4wとコントロ―ルが同等のレベルであった。Flk‑lは副腎sinusoid血管と栄養血管 の内皮細 胞に発 現し術後早期に強く発現した。また術後早期の副腎周囲には多数のFIt‑l陽性の 細 胞 が 観 察 さ れ た 。FIt‑lは 副 腎 の 細 胞 質 に 発 現 し 、VEGF同 様 の 推 移 を 示 し た 。
考 察およ び結諭 :我々の 結果で は副腎 再生過 程で副 腎皮質 細胞のVEGFの発現 が徐々 に増加、
さ らには 血管内 皮細胞においてはFlk‑lの発現が一過性に亢進することを示した。さらにはVEGF の 除 去 に 必 要 な decoy受 容 体 で あ るFIt‑lの 発 現 を 副 腎 皮 質 細 胞 に 認 め た 。 移植後、コルチコステロンの有意な上昇および組織の増大がみられ、副腎皮質再生が確認され た 。4遇で は副腎 移植後 、球状層 および 東状層 は同定 された が網状 層は確 認でき なかった が6 ケ月まで観察した再生副腎には網状層を観察できた。被膜移植に含まれる幹細胞より三層に分化 増殖したものと考えられた。毛細血管が周辺より侵入、sinusoid内皮に結合、さらには血管の増大 を 認めた 。この 結果とVEGFの副腎 皮質で の発現 の増加、Flk‑lの一 過性の発現の亢進を考える と 以下の メカニ ズムが推 測され た。っ まり副腎皮質細胞が産生するVEGF、―過性に発現の亢進 し たFlk‑lが血 管の新 生、内 皮細胞 の増殖 、さら には栄 養血管の 新生を起こす細胞を遊走させ る、paracrineの作用によって、VEGF‑Flk一1システムが働くというものである。VEGF一Flk−1の発現 は 術後早 期の低 酸素状態 による 刺激を 受けた ものと 考えら 得る。 過去にACTHが副腎 皮質細胞 におけるVEGF発現を上昇させると報告されている。通常副腎摘出後のコルチコステロン減少によ るACTHの上昇 が予想 され、 それに よる影 響が推 測される 。他臓 器にお いて再 生や移 植早期に VEGFの ― 過 性 の発 現 増 強 が見 ら れ る が正 常 成 人ラ ット副 腎でもVEGFの発現 は認め られる 。 副腎は、各種ストレスに反応してステロイドホルモンを即座に分泌するため、常に血管の維持が必 要である。そのためVEGFの発現が重要であると推測される。
今 回我々 の実験 では、FIt‑lが副腎 皮質細胞に発現していた。Flt‑lはVEGFの作用をブロック す るdecoy受容 体と考 えられ ており 、副腎 皮質細 胞に発 現し、再 生過程で誘導されたVEGFの作 用が過剰に働くことを阻害し、VEGF‑Flk‑lの作用を調節しているのではないかと推測した。過去 の 報告で はFIt‑lの発 現は副 腎血管 内皮細 胞とする報告が多い。我々の副腎皮質におけるFIt‑l の 発現理 由とし て、肝臓同様に再生過程で増加し、VEGFによるautocrine作用により副腎皮質細 胞 とsinusoid内 皮細胞 の移動性 を高め 、組織の再構築を調整していることが推測された。今後 FIt‑lの副腎皮質の役割について検討する必要がある。
今回、副腎皮質再生過程における血管新生、sinusoid形成においてVEGF、Flk‑l、Flt一1の経時 的変化を観察しその重要性を示唆した。
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学位論文審査の要旨 主 査 教 授 小池隆夫 副 査 教 授 本間研一 副査 教授 野々村克也
学 位 論 文 題 名
ラット副腎自家移植再生における血管増生に関する検討
こ の 論 文 は ラ ッ ト 副 腎 自 家 移 植 モ デ ル を 用 い て 副 腎 皮 質 再 生 過 程 に お け るVEGFお よ び VEGFレ セ プ タ ーFlk‑l、Flt‑lの 発 現 の 推 移 を 観 察 し た も の で あ る 。 過 去 の 報 告 で はVEGF は 定常 状態 の副 腎皮 質 細胞 に発 現し 、Flk‑l、Fltー1は 副腎 血管 内皮 細胞 に発現するとされる。
し か し 、 本 研 究 と 同 様 の 検 討 は 過 去 に み ら れ な い 。 主 と し て 免 疫 組 織 化 学 お よ びRTPCR を 用 い て 検 討 を 行 っ た 。 移 植 後 、 副 腎 皮 質 の 増 殖 、 栄 養 血 管 の 増 大 お よ び 副 腎sinusoid内 皮 細 胞 の 再 配 列 が 観 察 さ れ た 。 ま た 、 コ ル チ コ ス テ ロ ン の 上 昇 も 認 め ら れ 副 腎 皮 質 の 再 生 が 確 認 さ れた 。そ の過 程でVEGF、F1t―1は副 腎皮 質細 胞 に発 現し 、経 時的 に増 加し た。Flk‐1 は 副 腎sinusoid内 皮 細 胞 に 発 現 し 、 再 生 初 期 に 一 過 性 に 発 現 増 強 を 示 し た 。 更 に 過 去 の 報 告 と 異 な りFlt‐1は 副 腎 皮 質 細 胞 に 発 現 し た こ と を 報 告 し た 。 以上 より 、副 腎自 家移 植再 生 に お け る 血管 増生 にVEGF.F瓜‐1.Flt ̄1の 関与 があ る こと を示 唆し た。 ゛質 疑応 答で は副 査 の 本 聞 研 一 教 授 か ら 、 今 回 示 し た コ ル チ コ ス テ ロ ン 濃 度 は や や 高 く 採 血 手 法 に よ る 影 響 が 無 か っ た か ど う か 、 副 腎 皮 質 再 生 過 程 に お け る 副 腎 皮 質 内 皮 細 胞 のFlk‐1の 誘 導 因 子 と し て 低 酸 素 とVEGFど ち ら の 関 与 が 強 い か と の 質 問 、Flt‐1局 在 の 確 認 は 免 疫 組 織 染 色 の み で は 偽 陽 性 の 可 能 性 も あ りinsituhybddizationが 有 効 と の 助 言 が あ っ た 。 こ れ ら の 質 問 に 対 し 申 請 者 は 、 採 血 時 の ス ト レ ス は 注 意 し た が 皆 無 だ っ た と は 言 え な い と 回 答 し た 。 コ ル チ コ ス テ ロ ン の 値 は 文 献 に よ っ て 様 々 で あ り 、 今 回 発 表 し た 値 と 同 様 な 報 告 も あ っ た と 説 明 し た 。 加 え て 、 採 血 時 の ス ト レ ス を 一 定 に す る た めACTHを 投 与 後 に 採 血 し て い る 論 文 が 多 く 、 測 定 法 は 今 回 用 い たHPLC法 よ りR亅Aで の 報 告 が 多 い と 回 答 し た 。 副 腎 血 管 内 皮 の Flk−1の 誘 導 は 指 摘 さ れ た と お りVEGFよ り 低 酸 素 が 強 く 関 与 し て い た 可 能 性 が 推 測 さ れ る と 回 答 し た 。 副 腎 のFlt‐1の 局 在 に っ い て は 、 免 疫 組 織 染 色 によ る検 討は 過去 に無 いと 説 明 し た 。 ま た 、 指 摘 さ れ た と お りFltIlのinsituhybndizationが 必 要 で あ る と 回 答 し た 。 次 い で 、 主 査 の 小 池 隆 夫 教 授 か ら 、 副 腎 幹 細 胞 移 植 の 可 能 性 と そ れ に よ る 細 胞 の 分 化 が ど こ ま で 解 明 さ れ て い る の か 、 副 腎 に お け るVEGFの 血 管 新 生 以 外 の 役 割 、 副 腎 被 膜 組 織 を 腎