原「 著 〔東女医大誌 第63巻 第8号頁709∼716平成5年8月〕
遊離脂肪酸結合より検討した早期糖尿病性腎症における
尿中微量アルブミンの解析
東京女子医科大学 第三内科学教室(主任話 由 薙 薄
大森安恵教授) (受付平成5年4月20日) Free Fatty Acid・Binding Analysis of U㎡nary Micro・albumin on the Early Stage of Diabetic Nephropathy Masahiro SHINADA Department of Medicine III(Director:Prof. Yasue OMORI) Tokyo Women’s Medical College To evaluate the d藍fference ip the renal albumin selectivity between insulin dependent and non− insulin dependent diabetes mellitus, we attempted to immobilize urinary albumin by high performance liquid aff孟nity chromatography(HPLAC)using Cibacron Blue F3G−A which strongly binds to human albumin. The renal albumin selectivity was investigated between 3 groups:normoalbuminuria (IDDM:n=8, NIDDM:n=10)<<28μg/ml), microalbuminuria(IDDM:n=9,NIDDM:n=11)〈36くく143 μg/ml)and macroalbuminuria(IDDM:n=7, NIDDM:n=10)(>160μg/ml). Two peaks(A and B)of albumin eluated through the HPLAC column were detected in all 3 groups. The rat孟。 of the two peaks(A/B)was 1.20士0.06(mean±SD)(healthy control subjects:n=5),1.26± 0.52(IDDM with normoalbuminuria:n=8),1.18±0.40(NIDDM with normoalbuminuria:n=10),0.78 ±0.44(IDDM with microalbuminuria:n=9),0.72土0.33(NIDDM with microalbum童nuria:n=11),0.44 ±0.19(IDDM with macroalbuminuria:n=7), and O.52±0.12(NIDDM with macroalbumlnuria:n=10), respectively. A/Bs were significantly decreased with童ncreasing urinary albumin concentration in both IDDM and NIDDM, respectively(p<0.05), and there was no difference between A/B ratio of IDDM and NIDDM in the same albumin concentration group, which suggests that there is no difference in the renal albumin selectivity between IDDM and NIDDM at the the point of free fatty acid binding on urinary albumin. 緒 言1987年Mogensenはインスリン依存型糖尿病
(IDDM)における糖尿病性腎症を5期目分けている1).まずIDDM発症初期に腎糸球体の
hyper丘ltrationがおこり尿中アルブミン排泄が微 量ながら増加する1期,次に尿中アルブミン値が 正常化する潜在期(II期)がおとずれるが,しだ いに尿中にアルブミンが,再び増加してくる時期 (III期)が再来し,持続的に顕性タンパク尿の出現 する顕性腎症(IV期)に移行して,ついに腎不全 (V期)に至るものである.インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)もIDDMと同様にその晩期合併
症には糖尿病性腎症による腎不全が存在する.しかしIDDMと異なり,NIDDMの発症時期が不明
なためstagingはできておらず, NIDDM患者の 尿中微量アルブミンの存在を早期の糖尿病性腎症 と診断することに疑問視する報告もある2). 糖尿病罹患中に出現する尿中微量アルブミン が,糖尿病の合併症としての,腎の機能的あるい は器質的障害により出現したかどうか,あるいはNIDDMにおける尿中微量アルブミンがIDDM
のそれと同じものか否かを研究するため,ヒトアルブミンに親和性の高い色素であるCibacron
blueを用いたアフィニティークロマトグラ
フィー法3)を改良した高速液体アフィニティーク ロマトグラフィー(HPLAC)法を考案し,患者の 尿中アルブミンを解析検討した. 対象と方法 1.対象 高血圧,膀胱炎を認めず,また,腎炎の既往がない健常者5名およびIDDM患者24名, NIDDM
患者31名を対象とし,早期第一尿を検査対象とし た.健常者尿は年齢27歳から35歳までの男2名, 女3名から得た.IDDM患者24名の検査時年齢は 24.8士5.8歳で,罹病期間は12.3±7.3年,NIDDM 患者の31名のそれは44.6±13.0歳で,罹病期間は9.3±5.5年である.なおIDDMおよびNIDDM
の診断は家族合,発症の経過,発見年齢,インス リン治療の有無,ケトーシス傾向,肥満の有無な どの臨床経過から診断した. 尿中アルブミン濃度は免疫比物法(TIA)にて 測定した4).正常アルブミン尿は尿中アルブミン 濃度34μg/ml以下,微量アルブミン尿は35∼150 μg/m1,顕性アルブミン尿は151μg/m1以上のも のと定義した.正常アルブミン尿群はIDDM患者8名(男3
名,女5名)とNIDDM患者10名(男6名,女4
名),微量アルブミン早雪はIDDM患者9名(男5 名,女4名)とNIDDM患者11名(男10名,女1名), 顕性アルブミン尿群はIDDM患者7名(男3名,女4名)とNIDDM患者10名(男7名,女3名)
であった(表1). 標準ヒトアルブミンは,human albumin frac− tion V(Sigma, USA)を用いた. 2.高速液体クロマトグラフィー(HPLAC)法 による尿中アルブミンの分析 使用カラムは,Selectispher TM10 Cibacron Blue F3G−Aカラム(Pierce, Rockford IL. USA) である.高速液体クロマトグラフィー機器は, Waters 600E(System Controller),484(Tunable Absorbance Detector),741(Data Module) (USA)を用いた. 検査対象の新鮮尿100∼200mlは1,800 rpm,10 分,4℃で遠心して細胞成分を除いた.2日間透 析にて分子量12,000∼14,000以下を除き,限外濾 過(UG60,10000NMWL, Millipore, USA)に て脱塩濃縮し,凍結乾燥して保存した.使用時,蒸留水に溶解し100∼200μ1(アルブミン量
100∼200μg)を注入用サンプルとした.Cibacron Blue F3G−Aカラムはbuffer 1(50mM Tris・ HCI, pH 7.4)で平衡化した後,検体をアプライ し,buffer 1を1ml/分で15分間流し,その後 buffer 2(50mM Tris−HC1,0.375M KICI, pH 7.4)を1m1/分で20分間,さらにbuffer 3(50 mM Tris−HCI,1.5M KCI, pH 7.4)を1ml/分 で30分間流し,2分ごとに分画した.溶出するタ ンパクの存在は吸光度280nmで検出した.最後に6M尿素30mlでカラム内に残ったタンパク質を
洗い流し初期条件に戻した. 表1 尿中アルブミン濃度で分類した糖尿病患者の臨床像 IDDMNIDDM
正 常 微 :量 顕 性 正 常 微 量 顕 性 健常老 アルブミン尿 アルブミン尿 アルブミン尿 アルブミン尿 アルブミン尿 アルブミン尿 アルブミン濃度μ9/m】 15±5 81±35 820±287 15±6 76±36 1β40±1,180 13±3 患者数 F/M 5/3 4/5 4/3 4/6 1/10 3/7 2/3 年齢 year 24.7±:6,9 23.1=ヒ4.0 27.4±5.0 41.4±9.1 42.5±12.3 49.2±15.9 30,0±2,8 発見年齢 year 16.2±5,4 11.5±4.5 7.3±3.4 33,8±11.2 35.1±14.9 36,1±17.3 罹病期間 year 8,3±3.9 11.7±6.4 20.1±6.9 7,6±5.0 7.1±5.6 11.0±6.5 HbAlc % 10,8±2.2 9.1±1.5 9.4±2.4 8.9±1.3 8.8±1,6 7,7±1.3 (mean±SD)3.SDS・PAGEによるタンパク分子量の同定 上記カラムにて溶出した分画の6m1を蒸留水で 透析後,限外濾過にて約200倍に濃縮した.得られ た溶液(タンパク量20∼30μg)をLaemmliの方 法5)により50μ1のサγプルバッファーに溶:解し, 10%のポリアクリルアミドスラブゲルを用いて, 電気泳動を行った.染色にはCoomassie blueを 用いた.
4.ELISA法によるHPLAC溶出分画のアル
ブミン測定 NUNC−Immuno plate(NUNC, Denmark)に 2μgの抗ヒトアルブミン・ヤギlgG抗体(E.Y. Labo, USA)を50mM carbonate buffer(pH 9,6),4℃で1夜コーティングした.上記プレー トは以後0.05%Tween−20添加0.45%NaClで各 反応後3回洗浄した.コーティングしたプレート の1ウェルに溶出サンプルを100μ1ずつ入れ室温 で2時間反応させた,2次抗体はアルカリフォス ファターゼ結合抗ヒトアルブミン・ヤギIgG(EY, Labo, USA)を, P−nitrophenol phosphate disodiuln(Sigma, USA)を基質として用い発色 させ,吸光度405㎜で検出した. それぞれのピークのアルブミン量はそのピーク を構成する各分画のアルブミン量を和して求め た.この方法による変動係数は,日内変.動6.7%, 日差変動15.2%であった.また,標準アルブミン を使った回収率は68±10%であった. 5.アルブミンの脱脂肪酸処理 Chenの方法6)に基づき,アルブミン2mgに対し て活性炭(Nakarai, Japan)5mgを加え,0.2N HCIでpH 3.0に調整し,2時間かけて氷上で掩 衿した.その後20分間超遠心した後,再び0.2N NaOHでpH 7.0に調整したものを脱脂肪酸化ア ルブミンサンプルとして使用した. 6.統計処理推計学的検討はnon・paired t検定および
MannWhitney検定を用いて行い, p<0.05を有 意差ありとした, 結 果 1.尿中アルブミンの溶出曲線図fのHPLACによる溶出曲線は細い実線で
albumin A280 (μ91mの 5 0 0.01 0 (a)標準ヒトアルブミン (Fraction−V) A B 280nm溶出繭線 ELISA 5 0 0.01 0 (b)健常者尿 (アルブミン濃度12μg/mの EUSA 5 0 0.0書 0 (c)糖尿病者尿 (アルブミン濃度3000μg/m2) 5 0 5 0 (d)脱脂肪酸化後健常者尿 (アルブミン濃度12μ9 EL[SA . 0.01 0 (e)脱脂肪酸化後糖尿病者尿 (アルブミン濃度3000μ9 0.01 ELlSA 0 0 30 50 70 min. 図1 Cibacron blue F3G・A HPLACカラムによる溶 出曲線 (a)標準ヒトアルブミン(フラクションV),(b)健 常者正常アルブミン尿群(12μg/ml),(c)糖尿病者 顕性アルブミン尿群(3,000μg/ml),(d)脱脂肪酸 処理後の(b)健常者尿,(e)脱脂肪酸処理後の(c)糖 尿病者尿. :280nmで検出された吸収曲線,一〇一: ELISAで測定したアルブミン濃度. 示した.(a)は標準ヒトアルブミンのHPLACに よる溶出曲線である.bufεer 2でピークAが溶出 し,buffer 3にてピークBが溶出された.(b)は健 常者正常アルブミン尿群(12μg/ml)の溶出曲線で ある.標準ヒトアルブミンと同じ位置にピークA とピークBを示した,(c)は糖尿病顕性アルブミ ン尿群(3,000μg/m1)の溶出曲線である.これも 標準ヒトアルブミンや健常者の正常アルブミン尿群と同じ位置にピークAとピークBが出現し
た.2.電気泳動法によるピークAおよびピークB 溶出タンパクの分析 Cibacron blueによる高速液体クロマトグラ フィー法(HPLAC)はいずれの尿検体も尿中アル ブミンを2つのピークに分けたので,実際どのよ うなタンパクを吸着し,さらに溶出したかを電気 泳動法にて確かめた. 図2のlane 1は糖尿病微量アルブミン尿群の ピークAである.ヒトアルブミンのバンド以外 に,わずかに52.3KDa,20.5KDaの・ミンドを認め る.lane 2は同患者のピークBである, lane 2も ヒトアルブミンのバンドの他に,わずかに52.3 KDaのバンドを認めたが,主としてアルブミンで あることがわかった.lane 3,4は糖尿病顕性アル ブミン尿群のピークAとピークBである.ヒト アルブミンの・ミンド以外にわずかに78KDaのバ ンドや52.3KDaのバンドを認めるが,主体はアル ブミンであることがわかった. 3.EHSAによるアルブミン濃度曲線 ヒトアルブミン特異抗体を用いたELISAで各 分画のアルブミン濃度を測定した.標準ヒトアル ブミンの濃度曲線は図1aに,健常者尿(12μg/m1) のアルブミン濃:度曲線は図1bに○一〇で示し た. 図1aに示したように,標準ヒトアルブミン溶 出曲線の2つのピークに一致してアルブミンの2 つのピークA,Bがみられた.糖尿病顕性アルブ ミン尿群(3,000μg/ml)のアルブミン濃度曲線は 図1cに示したが,やはり溶出曲線の2つのピーク に一致してアルブミンの2つのピークA,Bがみ られた.いずれもタンパク溶出曲線のピークと一 致してアルブミンのピークがみられた. 4.尿中アルブミンの脱脂肪酸処理 ピークAとピークBのアルブミンの相違を検 討するために,図1bと。の2つの尿サンプルを 脱脂肪酸処理した後,HPLACで検討した.タン パク溶出曲線と,ELISAで測定されたアルブミン 濃:度曲線を図1dとeに各々示した.いずれの尿 サンプルも,ピークAのアルブミン面積は処理前 に比べ縮小し,ピークBは拡大した.よって,ピー クAは脂肪酸付着の多いアルブミンを,ピークB は脱脂肪酸化されたかあるいは脂肪酸付着のわず かなアルブミンを示すことがわかった. 表2は12μg/mlの健常者尿と3,000μg/mlの糖 97.4KDa− 66.2KDa一 45.OKDa一 31.OKDa一 21.5KDa− 14.9KDa一 1 2 3 4 5 6 鑑_78.OKDa 一68.OKDa 図2 Cibacron blue F3G−A HPLACカラムから溶出した微量アルブミン尿者および 顕性アルブミン尿者サンプルの尿タンパク電気泳動 標準タンパク(Bio−Rad):Phosphorylase B(97.4KDa), Bovine serum albumin (66.2KDa), Ovalbumin (45KDa), Carbonic anhydrase (31KDa), Soybean trypsin inhibitor(21.5KDa), Lysozyme(14.9KDa), Lane 1:糖尿病微量アルブミン尿のHPLAC溶出ピークA, Lane 2:糖尿病微量ア ルブミン尿のHPLAC溶出ピークB, Lane 3:糖尿病顕性アルブミン尿のHPLAC 溶出ピークA,Lane 4:糖尿病顕性アルブミン尿のHPLAC溶出ピークB, Lane 5:Human transferrin(78KDa), Lane 6:Human serumalbumin(68KDa). ゲルはCoomassie blueにて染色した.
表2 Cibacron blueカラムから溶出したアルブミン 量とA/B比 対 象 ピークA ピークB μ9 μ9 A/B 健常者尿(未処理) 繼L尿(脱脂肪酸化後) 恃A病顕性アルブミン尿 @(未処理) 繼L尿(脱脂肪酸化後) 39 P5 R9 P6 33 T7 V4 X8 1ユ7 O.27 O.53 O.16 健常者尿のアルブミン濃度は12μg/ml,糖尿病者尿のアルブ ミン濃度は3,000μg/ml. 尿病者顕性アルブミン尿のピークA,ピークBを 構成するアルブミン量と,そのA/B比を示した ものである.健常者尿のピークAは39μg,ピーク Bは33μgだった.この尿を脱脂肪酸化するとピー
クAが15μgと処理前より縮小し逆にピークB
は57μgになり,その結果A/B比は1.17より0,27 へと減少した.顕性アルブミン尿のピークAは39 μg,ピークBは74μgであった.脱脂肪酸化後は ピークAは16μgとなりピークBは98μgとなっ た.その結果,A/B比は0.53より0.16へと減少し た,いずれも,脱脂肪酸化するとA/B・比は減少し た.なお,健常者の尿中アルブミンの脂肪酸付着 率は約50%程度であるといえる.5.糖尿病老の尿中アルブミンのHPLAC溶出
曲線 正常アルブミン尿,微量アルブミン尿,顕性アルブミン尿の代表的なHPLAC溶出曲線とアル
ブミン濃:度曲線を図3に示した.HPLAC溶出曲 線もELJSAによるアルブミン曲線も尿中アルブ ミン濃度が増えるにしたがいピークAが縮小し, ピークBが増大す.る傾向を示した. albu面n (μ9/mの 5 0 5 0 5 o (a)正常アルブミンIDDM患者尿 (アルブミン濃度9μgノ吊の. A280 0.02 O.01 @0 A 280nm溶出曲線 @ B EUSA (b)微量アルブミンNIDDM患者尿 (アルブミン濃度104μg加の 0.02 O.01 @ 0 A B一一
0.02 0,01 0 (c)顕性アルブミンNIDDM患者尿 (アルブミン濃度1000μg/mの A B 0 10 20 30 40 50 60 70 min. 図3 正常(a),微量(b),顕性(c)アルブミン尿を呈す る糖尿病者尿の代表的なHPLAC溶出曲線 :280nmで検出された吸収曲線,一〇一: ELISAで測定したアルブミン濃度. 6.糖尿病者尿中アルブミン曲線のピークAとピークBの比
IDDM患者およびNIDDM患者の正常アルブ
ミン尿群,微量アルブミン尿群,顕性アルブミン 尿群各群のA/B比を表3に示した.健常者のA/ B比は1.20±0.06で,ピークAとピークBはほ ぼ等しい.IDDM患者のA/B比は,正常アルブミ ン尿群で1.26±0.52であったが,微量アルブミン 尿群で0.78±0.44,顕性アルブミン尿群で0.44± 表3 健常者,糖尿病者の正常,微:量,顕性アルブミン尿のA/B比 健常者IDDM
NIDDM
正常アルブミン尿 量アルブミン尿 ー性アルブミン尿 L20±0.06(n=5) L26±0.52(n=8) O.78±0.44(n=9) O.44±0.19(n=7) 1.18±0.40(n=10) O.72±0.33(n=11) O.52±0.12(n=10) (mean±SD)2.0 1.5 更 く1.0 0.5 0.0 n,S. **
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● ** 健常者 IDDM NIDDM IDDM NIDDM IDDM NIDDMl L___」 一 L_」
標準アルブミン 正常アルブミン尿 微量アルブミン尿 顕性アルブミン尿 (Fraction V) 図4 健常者およびアルブミン濃度で分類したIDDMとNIDDM患者尿のHPLAC 溶出ピークA,Bのアルブミン:量の比(A/B比) *:P〈0.05,**=P<0.01,ns:not s量gnificant. 短い横線は平均値を示す,図中の番号は症例No.を示す. 0.19と,A/B比は尿中アルブミン濃度が高くなるにつれて減少している.NIDDM患者尿のA/B
比は,正常アルブミン尿群で1.18±0.40であるが, 微量アルブミン尿群で0.72±0.33,顕性アルブミ ン尿群で0.52±0.12と,やはりA/B比は尿中ア ルブミン濃度が高くなるにつれて減少していっ た. 図4は各群のA/B比の分布を示したものであ る.正常アルブミン尿群のA/B比は,IDDM,NIDDMともに健常対象群との間に有意差は見
られなかった.しかし,IDDM正常アルブミン尿 群のNo.6とNo.8, NIDDM正常アルブミン尿 群のNo.3のように健常対象群に比べA/B比が 明らかに高値を示した症例が存在した.微量アル ブミン尿,顕性アルブミン尿と尿中アルブミン濃 度が高くなるにつれて,IDDM, NIDDMのいずれ もA/B比は減少していった.しかし,正常アルブ ミン尿,微量アルブミン尿,顕性アルブミン尿それぞれの群内ではIDDMとNIDDMの間に有意
差は認められなかった(図4). 考 察 Cibacron blueのヒトアルブミンへの高親和性を利用したHPLAC法にて尿中アルブミンを解
析する方法を考案して検討したところ,尿中アル ブミンは2つのピークA,Bに分離することがわ かった.脱脂肪酸化でピークAが縮小しピークB が増大する・ことから,ピークAは脂肪酸付着のア ルブミンを,ピークBは脂肪酸の付着していない か脂肪酸付着のわずかなアルブミンを示すといえ る.正常アルブミン尿の状態では約50%に脂肪酸 が付着しているが,微量アルブミン,顕性アルブ ミンの状態になるにつれて,脂肪酸付着の少ない アルブミンが尿中に増えていった.よってピーク Aのアルブミン量/ピークBのアルブミン量(A/. B比)の平均は尿中アルブミン濃度と逆相関して減少した.IDDMとNIDDMのA/B比とアルブ
ミン濃度との関係をみたところ,ともに正常アル ブミン尿群から顕性アルブミン尿群へ尿中アルブ ミン濃度が増えるに従いA/B比が有意に減少した.しかし各群のIDDMとNIDDMの間には有
意差がみられなかった.IDDMもNIDDMも糖尿病性腎症が進んでい
く過程でなぜ尿中に脂肪酸の結合していないアル ブミン(ピークB)が増大するのかを腎糸球体の タンパク荷電選択性(charge selectivity)から考 察してみたい.Deckertら7)は,正常アルブミン尿の時期に糸球体基底膜を構成する物質の糖化に よって基底膜の荷電が陰性に傾き,その後腎症の 進展とともにヘパラン硫酸が減少8)9)して基底膜 は陽性に傾くと仮定した.すでに,脂肪酸の結合 しているアルブミン(ピークA)と脱脂肪酸化し たアルブミン(ピークB)のそれぞれの等電点は 4.8と5.6であると報告されている10)ので,正常ア ルブミン尿の時期には陰性荷電の弱いピーグB アルブミンの方が透過し易くなり,A/B比が一度 低下すると考えられる.等電点が脱脂肪酸化アル ブミンとほぼ同じ5.6のトランスフェリソが等電 点が4.8のアルブミンより早期に尿中へ排泄増加 する11)との報告も,上述のDeckertの説を支持す るものと思われる.今回,糖尿病正常アルブミン 尿群の中にもA/B比の低回例が存在したがこれ はDeckertの説にあるように基底膜の糖化によ るのかもしれない.その後ヘパラン硫酸の減少と ともに陰性荷電の強いアルブミンが透過し易くな り,等電点が4.8に近いと推定されるピークA溶 出アルブミンが一時増大する(A/B比の増大)と 考えられる. また,標準ヒトアルブミンとして使用したfrac− tion Vは血清アルブミンとほぼ同じもの12}と考 えられるが,そのA/B比は0.52±0,05(n=5,
mean±SD)であった.そしてIDDMもNIDDM
も腎症の進行とともにA/B比は0.5に近付いて いった.このことは腎のsize selectivityの破綻し た状態に至ったものと示唆される.つまり微量ア ルブミン尿群の一部と顕性アルブミン尿群のみら れる時期のA/B比の低下は,より多くの脱脂肪 酸化アルブミンが糸球基底膜のsize selectivity の破綻により膜を素通りするためと考えられる. これまで,IDDM患者を対象に微量アルブミン 尿と糖尿性腎症の進展との関係が検討されてき た13).NIDDMでも微量アルブミン尿の存在が将 来の顕性タンパク尿への進展を予測でき,腎症発 症の機序には糖尿病の四型による違いはないとす るMogensenの報告14)やSc㎞itzらの報告15)があるが,IDDMの腎症による微量アルブミンと
NIDDM腎症から出現したと思われる微量アル
ブミンが同じ性質かどうか不明であった.一方, Brennerらをはじめ多くの研究者が指摘している Hyperfiltration説16)17)に対して, IDDM患者ではその現象が確かめられているもののNIDDM患
者については一部にglomerular filtration rate (GFR)は変化しないとの報告18)やNIDDMでも 血糖コントロール不良時にGFRが増えるなどの 報告19)があるだけで,いまだ一定の見解がでていなかった.表3,図4にあるようにIDDM両患者
尿とも正常アルブミン尿,徴量アルブミン尿,顕 性アル’ブミン尿の3群に分類したとき,A/B比は 相対する群間で有意差が認められなかった.この ことは微量アルブミン尿の時期は遊離脂肪酸の結 合状態から検討する限り,IDDMも, NIDDMも 同じ病期として捉えることができる.この性状に 関して糖尿病の病型による違いはないと推察され た.発症時期の明らかなIDDM患者で当初検討さ
れた尿中微量アルブミンの出現について,Mogen− senは発症より6年以上経ていることをひとつの目安としている1)が,発症時期の不確かな
NIDDMについては,微量アルブミンの出現が糖 尿病性のものか他の原因によるものか鑑溺の難し い症例も少なくない.また,尿中アルブミンの増 加は糖尿病性腎症以外に,糸球体腎炎など他の腎 疾患や起立性タンパク尿など病的意i義を持たない 場合もみられ,高血圧の影響も大きい20)∼22).さら に,血糖コントロールが極めて不良な場合も一時 的に尿中アルブミン排泄が増加するため,アルブ ミンの絶対量または濃度をみる場合は良好な血糖 コントロール状態のもとで検査する必要がある23) とも言われている. 本論文はこれらの状況下の尿中アルブミンに対 して,腎症初期像を示すものか否か,遊離脂肪酸 付着から検討することが可能であることを実証し たといえる. 結 論 Cibacron blueを用いたHPLAC法により尿中 アルブミンを分析し,糖尿病性腎症が進展するに 従い遊離脂肪酸の付着していないアルブミンが増 加することを観察した.しかし,IDDM, NIDDM の両病型による尿中アルブミンの性質には違いはみられなかった. 従って.NIDDMにみられる微量アルブミンも 腎症の初期像を示すもめであり,遊離脂肪酸.結合 量の多寡にようて荷電が変化する.というアルブミ ンの性質は,早期腎.症の腎アルブミン選択性変化 に関係していることが示唆された. 稿を終えるにあたり御指導,御校閲を賜.りました大 .森安恵教授,.ならびに直接御指導いただきました.内潟 安子講師に深甚なる謝意を表します. 文 献 1)Mogensen CE:Microa正buminuria as a pre− dictor of clinical diabetic nephropathy. Kidney Int 31 :673−689, .1987 2).Damsgaad EM, Mogensen CE:.Microal− buminurねin eldefly hyperglycemic patients and controls. Diabetic Med 3:430−435,1986 3)森川秋月,岩島保法,林由紀子ほか:尿中アルブ ミンの生化学的特性と糖尿病microalbuminuria .における変化.Cibaqron Blue F3−GA.アフィニ ティクロマトグラフィによる分析.医のあゆみ 152:395−396, 1990 4)Kodama K, To皿ioka M, Uchigata Y et al: The range of aibumin concentration in the single−void first morning urine of 1090 healthy young children. Diab Res Clin Pract 9:.55−58, 1990 5)Laemmli UK;Cleavage. of structural pro. teins during the律ssembly of the head of ba.cter・ iophage T4. Nature(London)227:680−685, 1970 6)Chen RF:Removal of fatty acids from serum albumin by charcoal treatment, J Biol Chem 242:173−181, 1967 . . 7)Deckert T, Felt・RasmusseロB, Djurup R et al: G董omerular size and charge selectivity in insulin−dependent diabetes mellitus. Kidney Int 33 :100−106, 1988 8)Partbasarathy N, Spiro RG: E狂ect of diabetes on the glycosalnino91γcan component of the human glomerular basement加embrane. Diabetes 311738−741,1982 9)Shuleicher E, Wieland E.:Changes of human basement mernbrane in diabetes恥ellitus. J Clin Chem Clin Biochem 22:223−227,1984 110) Evenson MA, Deutch II】F: InHuence of fatty acids on the isoelectric point prob合rties of human serum albumin. Clin Chim Acta 841 341−354, 1978 11)]M【cCormick CP, Konen JC, Shibabi ZK: Microtransferrinuria and microalbuminuria. In the diabetic human. Clin Physiol Biochem 8: 53−58, 1990 12)Cokn EJ, Strong I」E, Taylor IIL et al: Prep・ aration and properties of serum and plasma proteins. IV. A system for the separation into fraction of the protein and lipoprotein compo・ nents of biological tissues and Huids. J Am Chern Soc 68;475−495, 1946 13)Viberti GC,..Hill RD, Jarrett RJ et.al: Microalbuminur三a as a predictor of clinical nephropathy in insulin・dependent diabetes meL litus. Lancet I:1430−1432,1982 14)Mogensen CE:Microalbuminuria predicts clinical proteinuria and early mortality in maturity−oncet diabetes. N Engl J Med 310: 356一.360, 1984 15)Schmit年A, Vaeth M:. Microalbuminuria:A Inajor risk factor in non・insulin−dependent diabetes. A 10−year follow・up study of 503 patients. Diabetic Med 5:126−134,1988 16)Brenner BM:Hemodynamically 血ediated .glomerular injury and the progressive nature of kidney disease。 Kidney Int 23:647−655,1983 17)Zatz R, Brenner.BM:Pathogenesis of dia− b6tic microangiopathy. The hemodynamic view. Aln J Med 80:443−453,1986 18)Watkins PJ, Grenfell A, Edm.onds M:Dia− betic complications of non−insul三n−dependent diabetes. Diabetic Med 4:293−296,1987 19)Ishida K, Ishibash三F, Takashina S: Compar. ison of renal hemodynamics in early non− insulin・dependent and insulin−dependent diabetes mellitus. J Diabetic Complications 5: 143−145, 1991 20)Ghiggeri GM, Candiano G, Ginevri F etl al= Hypertension and renal selectivity properties in diabetic microalbuminuria Nephro1.. Dial Transpl.ant Suppl 1:66−68,1990 21).]Mlogensen CE; Long・term antihypertensive treatment. inhibiting progression of diabetic nephropat五y. Br Med J 285:685−688,1982 22)Parving HH, Anderse凪AR,.Smidt VM e重ai: Early aggression antihypertensive treatment reduces r血te of decline in kidney function in diabetic nephropathy。 Lancet 1:1175−1179, 1983 23)Mogensen CE:Renal functional changes in diabetes. Diabetes 25:872−879,1976