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家族的に発生せる嚢腫腎の一症例

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一30一

〔臨床實瞼〕

(女子医学研究へ第21巻・第3号頁120−123昭和26年9月)

家族的に発生ぜる嚢腫腎の一症例

東京女子医科犬学内科学激室 (主任 三神教授) 後 ゴ

藤 京 子

・bウ キヨウ コ (受付 昭和26年7月11日) 緒’ 言 嚢腫腎は,諸家の読によれば,二二例に於て大体0.15 %,諸種腎臓二上こ於ては約1%内外の率に発見Stt る比較的稀有な疾患である。 ’本症の発生に就いては従来諸読区々であり,瀦旧説, 崎型読,腫瘍三等論ぜられてるるが,就中崎型設に属す る「先天挫組織異常説」に就いては,之を裏づける事実 として(1)腎のみでなぐ肝其他の器官に多発性に嚢腫 を認める場合がある事(2)腎肝に屡々異常な組織二分 が発見ざれる事(3)家族中に往々同一患者が見られ二 二的関係の認められる事(4)本症患者に1翼々他部の崎 型を伴ふ事(5)屡々三見に於て本症が認められる事な ど挙げられて居り,特に家族的発郵こ就いては多くの文 献が之を認めて居る。報告例としては,古くはVirchow が兄弟4人に本症患者を見た例を始め,Crawfordジ Singer氏の例がありジ本邦では,石原氏が三代に論り 三人に,石津氏が血族五人に,永井氏が三代に互り七人 、に,それぞれ本症患者を証明ざれた報告がある。 此度当内科で臨床的に嚢腫腎患者を診断した所,その 兄及姉が同機本症を有した事が証明されたので,家族的 発生の一例としてi妓に報告する。 症 例 患者 木○新0 45才 男子・仕立職 主訴 左季肋部痛 初診 1950年2.月14日 家族歴 父系組父母及び母系組父母共に特筆す’ べき疾患なく老衰死,父は71才にて脳盗血で死 亡,父の同胞6入で,認むべき疾患はない。母は 71才にて胃癌で死亡し,母の姉の死因は不明。以 上の中には腎疾患は証明されなV・Q本患者の兄弟 姉妹計10人,内1名死産,4名は孚L幼見の中に 病名不詳で死亡,成長者5名の中,男子1名脊椎 カリエスにて19才で死亡,女子1名腹膜炎にて 48才で死亡,現在本人の他兄姉1名宛生存.して v・る。 後述の如く本患者診断後,生存せる兄姉両名に 共に本疾患が証明された。 既往歴 18才一腹膜炎:と診断された。以後次 第に腹部の膨隆を認めているD42才一肺:炎:経過。 44才一夏,遍労の後血尿を「1,2’・回認めた。尿渥 濁には気附かない。街,絡午前徴用当時,過激な 労働の興野の赤変を認めてy・る。特に近年動悸息 切れが激しい。性病は否定。 現病歴 近頃特に腹部膨溝感あ窮当年2月・4 日突然発熱,頭痛咳漱を件い就床した。38∼39度 の弛張熱が約二:日継続,咳噺に際し,左季肋部に 疹痛を感じ軽度の圧痛を認めたので医師IZ)診察を 受け,左腎或は腺臓の腫大がある・と診断され当科 に紹介された。発熱三日目より下熱以後食慾軽 度不振,ロ渇甚しく,悪心嘔吐及び頭痛眩量ごく 軽度の呼吸促迫を訴える。排便排尿共に異常を訴 えなVbo 現症 体格中等度,癒痩甚しく,皮膚高度貧血 朕,緊張不良,皮下脂肪組織減少す。意識明瞭で 特に苦痛を訴えなV・。 起居自由。’‘脈搏緊張良, 1.分間80規則的,体温36・90C・顔色蒼白・眼瞼 結膜貧血し,球結膜に1黄疸を認めす,瞳孔異常な しQ舌苔なく,咽頭部正常,左右共頸部淋巴腺腫 脹を認めない。 .胸部 打診斯見上,心濁音界が左右に一横指宛 拡大,.聴診上肺動脈弁才:部で軽V・牧縮期性雑普を 魏iく。肺部所見なし。 腹部 全体に膨満し,特に左上部に膨隆を認め るQ腹壁i韮薄,腹壁静脈の怒張はなv・。腹囲最大 周84cm。触診によりr左右両側腹部に共に超小児 一120一’

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瀬瀬

騨馨・ 憂

灘・

正 面 右 側 面 木○新○氏 腹部 (撮影 昭和25年2月23日) 頭大乃至殆ど大人頭大に達する腫瘤を触れ,左側 腫瘤は上端に軽度の圧痛を証明する。(写眞参照) 之を詳述すれば,左側腫瘤は腹壁直下に触れ, 右下端は膀に達し,下縁は左前上腸骨棘の四横指 直上方,左縁は左側腹壁に裏し,上部は左肋骨弓 下に1隠れる。腫瘤の硬度強靱,表面は:大小種:々の 鶏卵大乃至小指頭大の凹凸として触れる(恰も南 瓜の表面を触れる様である)o腫瘤辺縁よりポリ ープ歌に突出して触れる部分もある。全体には呼 吸性移動がごく僅に認められ,用手icよる移動性 は殆どない。 右側種瘤は,概ね左と相対的関係にあるが,梢 下方に位置している。腹腔深部にある爲触診し難 い。上界は右肋弓下深部で境界不明瞭,.右方は側 腹壁に接し,左端は腹部正中線より三横指へだた り,下端は骨盤腔内に入る。腫瘤の硬度強靱で, 表面は粗大穎粒欺である。呼吸性及用手性移動は 全く無い。 左右腫瘤共に波動を触れない。打診上,腫瘤の 部は濁音を呈し,体位変換により移動せず,他の 腹部で腹水潴溜を思わせる所見はない。肺肝境界 は右乳線上第六肋骨上で,肋弓下lc肝臓を触知し なv・。 脚部er. ge腫其の他の所見なく,腱反射且1{常,身 休他部に崎型,形態異常を認めなV・。 胸部X線所見 心臓陰影が左右に高度に肥大拡 張し,上方への肥大拡張はない。肺には特別の所 見がなv・。 諸検査成績 (1)血圧 最高154,最低104mg水銀柱。

(2)赤沈 1時聞値40mm,中問値37mm。

(3) 血液所見 赤血球277万r.白血ex 11300・ ザーリー55%,血色素係数1.0,白血球百分率は 中性嗜好94%,エオジン嗜好0,塩基嗜好O, 淋巴球3%,軍.核球3%,異常細胞は出現して いなV・。 ’ ・ (4)血液ワ氏反応(一),小林氏反応(一)。 (5)糞便 外観正常,潜血反応(一),飼虫卵 少数。 (6) 尿 一日排尿量2.000cc,淡黄色租潤濁, 比重1011,反応弱酸性,蛋白質(+),末吉氏定 量法により0.5%;,糖(一),ウロビリン体(一), ヂアゾ反応(一),インヂカン反応(一),尿沈渣 に白血球多数を認める。赤血球少数,上皮殆どな く円柱なく特定の細菌を認めなv・Q (7)腎機能検査法として稀釈力及び濃縮力試 験施行。早朝室腹時1,000 ccの水を約10分間に 欲ませて後,型の如く分劃探取せる尿につき,量 一121一

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一一 32 一’ 及び比重を測定した結果次表り如くなった・即ち 稀釈力濃縮力共に菩しく障碍され,邊延過剰反応. を示し,尿比重は各時期共殆ど10 10前後に固定 して変動なく,高度の腎機能不全の存在を示して V・る。

木○氏 水試験成績

時喉到矯備

考 8 a.m. 81ん” 9 ” 9. 1/2M lo ,t .10 1/2 ” 11 ” 11 1/2 ” 12 t, 2 p.m. 4 t, 6 tt 8 ” 10 ” 8翌朝 90 60 30 55 160 32 70 72 56 168 210 198 142 126 fi狽盾 IOII 1009 1008 1007 1008 1010 1008 1008 1008 1008 .工009 1007 1009’ 1008 1011 1 朝食廃止,8時番茶 1000cc飲用 i4時間尿量625cc i12時乾燥耳食『

[6時㈱食

24 r時…間尿量2169cc (Volhard法変法}こよる) (8) スギウロン静注による排泄題言孟撮影術 では30分経過後も両腎孟の像を認め得てv・なv・。 (9) 染尿膀胱鏡検査 膀胱壁には変化がな いQ右回尿管口は萎縮して不明瞭となり,カテー デル挿入不可能,左輸尿管はカテーテル挿入可能 であるが,静注したインヂゴカルミンは注射後一 時間を経過しても排泄を認めていない。 (fO)逆行性腎孟造影術 左側にのみ施行す る。左輸尿管は軽度に拡張迂曲し,腎孟像は全く その正常な形態を失い,拡張して不整四辺形を呈 レている6 (11)血液比重硫酸銅法により全』血比重1039 血清比重10230 (12)、血中淺方寸素量 早朝塞腹時血清を用い てキ・’ルダPル氏法によう82mg/dlo 以上の臨床断言並に:諸検査成績を綜合すると, ;左右腫瘤は,位置的相対的関係から,両側腎臓の 腫大せるものであり,形欣硬度,表面の特有な二 恩,尿所見及び腎機能検査成績,更にX線上の二 三三等が,成書の記載と一致するので,本症を両 側嚢腫腎と診断しためであるσ 泊加 本患者の兄}ま現在52才で,2年前より 胃腸二二を訴え,胃癌の疑いあり,開腹手術の目 的で弟に随行,本院外科に入院して2月下旬に手 術を受けた。その際,両側に二倍手二大の嚢種腎 を発見し,尚肝臓表面にも3,4個の小二種のあ る事を確認したQ術前には腹部腫瘤を証明してv・ なv・。 更に本患者の姉は翌年に至り,尉k地の本校卒 業瀬川コヨ医師により診察の結果,門門腎を有す る事が確認されている。 以上兄弟三三二二本症患者である。 考、 』按 嚢! mF−tl」cに:就いて,:先人の統計的に調査iされた成 緯と,本症例とを坪較考按して見る。 年令 Braasch倣Mayo Clinicに於甑る本症酵)亭均 年齢46年とする。Sieberは40∼49年半最多とし, 本邦服部勲100例中30∼39年力:27例,40−49年 が34例,50・一59年が30例と報皆してみる。本卦の 45才は諸家の最多とすう年齢に一致してみる。、 性別 諸家の統計上,男女の比率は一定しない。本例 でば男子2名,.女子1名である。 罹患側Sieberの本症剖検例によれば,両側性140 −150例に対し片側陸僅に9例であり1服部氏をこよれば ・本邦例100例中両側性90例,片側性10例となって みる。即ちその大部分は両捌性であり,本症例も亦両 側性に存在する。 遺鯵関係 前述の如くVirchow以来多くの人々の注 目警視してみる所であり,本甲は同胞十割の中,生存せ る兄弟姉3名の悉くに本疾患を早ta例である。 臨床症状 嚢腫腎を有する患者は,一生涯無症 欺に経過する者あり,叉偶然に腹部検診又は手術 により発見される者もあるが,その臨床症ジ伏lcnt て服部氏が100例の患者lc就き統計的観察を行っ た域績によると,腹部腫瘤57例,血尿.22例, 局部疹痛20例,多尿及び尿意頻数・13例,頭痛 12例,全身倦怠及び違和11例,浮腫9例,・口渇 6例,腹部不快感5例,発熱5例,食慾不振5例 となっている。本患者では,この中,腹部腫瘤, 血尿,局部疹;痛,多尿,口渇,発熱,食慾不振を 訴えている。 .腹部腫瘤に:就てStillerは,硬度概して万力性 強靱緊張し,表而は凹凸不準の隆起を触れ,波動 一 122 一一

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を触れないのが特徴であると云って悟るが,本例 者ぱ臨床的に崎型なく,他臓器の嚢腫も証明しなかった は之に該当してv・る。 一 局所疹痛は,嚢腫内圧充進或は腫瘤の周囲圧:迫 に起因し,叉は嚢腫の化膿により起るとされてV・ るが,本症例では疹痛と共に発熱を見,血中白血 球増多症特に’中性嗜好多核白血球増多を來し,尿 中;c多数の白』血球を認めた事実から,この疹痛は 一部は腫瘤増大による周囲組織の圧迫に:より,叉 之に軽度の感染が起ρたと考えられる。 血尿は本症にては,持続的に認める事は比較的 少なく,多く間融的に発來するのを例とし,原因 としては,腎欝血,嚢腫壁の血管障碍,腎孟附近 の毛細管破裂,或は静脈の迂曲拡張静賑瘤性変化 等により詮明されている。本患者は56年前及び 昨年,間歌的に過激な労働後,血尿を見ている。 多尿は木症前牟期に特に屋々見られ,原因は濃 縮力不全,血圧山烏によると考えられている。本 四rcつtoてt:”2・000cc以上の多尿を見ている・. 循環器系統に於て依,心肥大拡張,血圧充進, 血管壁アテ・一ム変性,浮腫等諸家により挙げら れてv・る。Fahr;c依れば,腎実質減退せる者は 心肥大を見,実質充分に存在すれば肥大を見ない と云うが,本例には心肥大拡張,血圧充進出に存 在する。 合併症嚢腫腎を有する患者は屡々,他の臓器に嚢胞 形威を見,又晦型を件ふ事が認められてみる。旧例の患 が,兄に於ては,手術により肝臓嚢胞の存在を証明して みる。 予後 全く不良で,出血,化膿,尿毒症等の危険を招 き易く,就中死因の大半は尿毒症であり,Sieberによ れば57%の高率を示す。本症例にても,腎機能不至が 高度で,しかも血中残余窒素量第2度充進あり,貧血, 巌痩等一般状態の不良から,予後思ほしからず,早晩尿 毒症に陥るであらうと考へられる。 結 語 以上述べた様に,私は当内科敏室k於て45才 男子の嚢腫腎患者一例を経験し,更にその同胞二 名が本症を有する事を知り得たので,家族的発生 の}例として,蝕に:報告する次第である。 絡りに臨み,終始御懇切な御指導と御校闘を賜ったヨ ’神教授に深甚なる感謝の意を表する次第である。 献 (1)尿井進;家族性に表はれし嚢腫腎,一日本外科学 会雑誌,42回,10号,1669 (2)光田照;嚢腫肝腎症,台湾医学会雑誌,41巻,

‘、2泓隅、7年、2月,日本姻学会鵜、2

回,9号,1586,16年12月 (3)森本末吉,山出慧子;:巨大嚢腫腎の一例に就て 病理学会雑誌,1巻,4号,518,17年7月 (4)服蔀課,水谷不二夫室嚢腫腎に就て,グレンツ 「ゲビpト,13年,5号,539,14年5月 一ユ23一

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