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先天性大動脈狭窄症に対する今野法術後の左室機能

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〔東女医大誌 第61巻 第5号頁 392∼399平成3年.5月〕

先天性大動脈狭窄症に対する今野法術後の左室機能

東京女子医科大学 循環器小児外科学教室(主任 今井康晴教授)

テラ ダ マサ ツグ 寺 田 正 次

(受付 平成3年1月14日)

Left Vent㎡cular Function after Komo Proced腿re for Congenital Aortic Stenosis

Masats組gu TERADA

Department of Pediatric Cardiovascular Surgery(Dir㏄tor:Prof. Yasuharu IMAI) Tokyo Women’s Medical College

Left ventricular function at rest and during exercise after Konno procedure for congenital aortic stenosis in 14 patients was evaluated using multigated blood pool imaging. These patients were divided into two groups on the basis of the ratio of the Ieft ventricular posterior wall thickness to left ventricular internal dimention in systole, measured from M・mode ech㏄ardiography, as an index of the left ventricular hypertrophy:Group I(7 patients)having above the ratio of one and Group II(7 pat三ents)having less than one. The age at the time of surgery was 11.3±4.5 years in Group I and 9.6± 2.4years in Group II. Six out of Group I had subaortic stenosis with or without valvular stenosis, while six of Group II had valvular stenosis alone. Left ventricular systo監ic pressure and peak pressure gradients across the left ventricular outflow tract were similar in two groups. Mean left ventricular end−diastolic pressure was elevated in Group I. Left ventricular ejection fraction(LVEF)which was measured by the contrast ieft ventriculography was 84±5%in Group I and 80±6%in Group II. After Konno procedure the pressure gradients were decreased to 10±4mmHg in both groups, measured by Doppler echocardiography. The radionuclide study was performed 24±9months after surgery. LVEF at rest of the Group I was 78±11%and in five patients supernormal LVEF remained to be unchanged. LVEF of the Group II was 68±7%and was decreased within the norma董range, but still higher than in the control group(62±7%). LVEF during exercise was 81±12%in Group I and 76±896 in Group II. Although no patients had a significant decrease in LVEF during exercise in the either group, the responce to the exercise was better in Group II than in Group I.

We concluded that the left ventricular function after Konno pr㏄edure was satisfactory. In most patients with massive hypertrophy, LVEF at rest still remained supernormal two or three years after the successful Konno procedure, while in the patients with mild hypertrophy、it showed definite

improvement toward normal.

緒 言

狭小弁輪を伴う大動脈弁狭窄症や弁下狭窄症に

用いられる今野法は1975年目世界に先がけて,当

教室の今野らによって開発された術式であ

る1)2).本術式は上行大動脈から大動脈弁輪,心室

中隔および右室流出路に切開を加え,十分なサイ

ズの人工弁を挿入することによって,左室流出路

を拡大するもので,確実な狭窄解除の期待できる

方法である3)。

一般的に先天性大動脈狭窄症の患者は左室肥大

によって壁応力が低下し,高駆出状態を呈す

る4)∼6)が,効果的な狭窄解除によって左室駆出率

(以下LVEFと略す)は正常化するとの報告7)が見

られる.

(2)

我々はすでに,心プール法を用いて,先天性大

動脈狭窄症に対するる今野法術後(平均6.7ヵ月)

の左室機能が良好であることを報告した8).今回

の研究目的は,より遠隔期の左室機能を心プール

法によって求めた安静時と運動時のLVEFから

評価すると共に術前の左室肥大の重症度と術後の

LVEFの関係について検討することである.

対象と方法

1984年2月から1989年11月までに,先天性大動

脈狭窄症25例(手術時年齢1.7∼20.4歳)に対し今

野法を施行した.そのうち,術後に心プールシン

チグラフィーを施行した14例を対象とし,対象例

を術前の左室肥大の程度により2群に分けて術後

の左室機能について検討した(表1).左室肥大の

程度は,手術直前に施行した心エコー法(Mモー

ド)によって計測した収縮期の左室内径に対する

左室後壁厚の比(r=LVPWTs/LVIDs)を用い

て,その比が1以上の7例を1群(r二1.26±

0.20),1未満の7例をII群(r=0.75±0.09)とし

た.手術時年齢は,1群が5∼18歳(11.3±4.5歳),

II群が6∼13歳(9.6±2.4歳)であった.1群の7

例中6例は弁下狭窄9)(discrete且bromuscular

type;5例, tunnel type;1例)を有し,そのう

ち5例は弁論狭窄も合併していた.他の11列は弁

性狭窄に軽度の大動脈縮窄を伴っていた.II群は

7例中6例が素性狭窄単独例で,他の1例は弁性

および弁下狭窄(discrete fibromuscular type)

を合併していた.

大動脈弁逆流は1群の3例(1度;1例,II度;

2例),II群の4例(1度:2例, II度;2例)に

認めた.他の合併心血管奇形は1群3例(大動脈

弓離断複合,心室中隔欠損,大動脈縮窄と動脈管

開存),II群2例(肺動脈狭窄;圧較差136mmHg,

10mmHg)に認めた.1群は4例に手術既往があ

り,大動脈弓離断複合の一;期的修復(3ヵ月時),

心室中隔欠損孔閉鎖と左室流出路肥厚心筋切除術

(5歳時),大動脈弁形成術(4歳時),動脈管開存

と大動脈縮窄を合併した症例は縮窄が軽度なた

め,動脈管切断(4歳時)のみ施行した.II群は

1例に大動脈弁切開術(5歳時)が施行されてい

た.

術前状態は全例がNYHA機能分類II度で,労

表1 症 例

Group

Case mo.

Age

iys) Sex

LVOTO

Associated ≠獅盾高≠撃 Previous 盾垂?窒≠狽奄盾

LVPWTs

^LVIDs

1 15

F

VAS十SAS

1.29 2 8

F

SAS

AR(1) 1.54

3 12

M

VAS

CoA十PDA

PDA division 1.05

1 4 5

M

VAS+SAS

1.50

5 14

F

VAS十SAS

AR(II)+VSD VSD cl.+myectomy 1.05

6 7

M

VAS十SAS

IAA complex IAA repair 1.23

7 18

M

VAS+SAS

AR(II)

AVP

1.14

8 11

F

VAS+SAS

AR(H) 0.73 9 8

F

VAS

0.72 1G 6

M

VAS

AR(1) 0.81 II 11 7

F

VAS

AR(II)+PS 0.88 12 9

M

VAS

AR(1) 0.60 13 13

M

VAS

AVP

0.78 14 10

M

VAS

PS

G.76

LVOTO=Ieft ventricular outdow tract obstruction, LVPWTs/LVIDs=the ratio ofthe left

ventricular posterior wall thickness to the left ventricular internal dimention in systole,

VAS:valvular aortic stenosis, SAS:subaortic stenosis, AR:aortic regurgitation, CoA: coarctation of the aorta, PDA:patent ductus arteriosus, VSD:ventricular septal defect, IAA:interrupted aortic arch, PS:pulmonary stenosis, cl.:closure, AVP:aortic valve

(3)

表2 1,II群の術前の血行動態

1群 II群

pValue

LVP (mmHg)

226±30 215±77

NS

PG (㎜Hg) 114±28 119±72

NS

LVEDP(㎜Hg)

22±4 12±4 p<0.01

PAPm (mmHg)

23±5 19±3

NS

LVEF (%) 84±5 80±6

NS

LVEDP (%of N) 99±17 91=ヒ24

NS

LVP:1eft ventr圭cular pressure, PG:pressure gradient between left ventricle and ascending aorta, LVEDP= left ventricular end−diastollc pressure, PAPm:mean pulmonary arterial pressure, LVEF l left ventricular ejection fraction, LVEDP:left ventricular end− diastolic volume, N:normal, NS;not signi丘cant. Data are expressed as mean±standard deviation of the mean,

作時の息切れ,運動制限,易疲労感,胸痛,頭痛

などを訴え,1例に失神の既往を認めた.

術前の心臓カテーテル検査は全例に施行された

(表2).左室収縮期圧(LVP)と左室一大動脈間

収縮期圧較差(PG)は両年間に有意差を認めな

かった.左室拡張末期圧(LVEDP)は1群(22±

4mmHg)で上昇していた.平均肺動脈圧は両群に

有意差を認めなかった.選択的左室造影から算出

したLVEFは1群84±5%, II群80±6%(n=

6)で,13例中10例が80%以上を示し,野糞間に

有意差は認められなかった.左室拡張末期容積は

1群が正常予測値(Nakaza宙aら10))の99±18%,

II群が91±24%であった.大動脈造影から求めた

弁輪径は1群10∼21mm(平均16.0±3.8mm), II

群11∼18mm(平均15.6±2.4mm)であった.な

お,大動脈弓離断修復後の症例は1弓部に圧較差を

認めなかった.また,大動脈縮窄合併例の縮窄前

後の圧較差は13mmHgであった。

今野手術に使用した人工弁はいずれもSt. Jude

Medica1弁で,23mmが5例,25mmが9例で

あった.大動脈遮断時間は両群とも同様であった

(1群;104±15分,II群;106±9分). II群の肺動

脈狭窄を合併した2例目うち,1例に濁三部肥厚

心筋切除術と弁交連切開術,他の1例に交連切開

術を行なった.

心電図同;二型平衡野心プール法によって,安静

時および運動負荷中のLVEF測定した11)12).

99mTc−0410mCi/m2をin vivoにて赤血球に標識

した後,平衡時の心プールイメージを行なった.

患者の体位は仰臥位とし,撮像方向は左右心室が

最も分離できる左前斜位(30.∼45.)で頭側に10.傾

けた方向で行なった.低エネルギー円高感度コリ

メーター(30。スラント穴型)を装着したガンマカ

メラ(シーメンスLEM−ZLC西独製)を使用し,

データ収集は64×64画素サイズで心電図R波に

同期させ,1周期を16フレームに分画するフレー

ムモードを使用した.LVEFは(拡張末期カウン

ト数一収縮末期カウント数)/拡張末期カウント

数)から算出した.

左室局所機能を見るために,左室造影における

segmental analysisと同様に左室を区画分割し,

安静時および運動時の局所壁運動を観察した.

運動負荷試験には臥位エルゴメーターを使用し

た.負荷量を決定するために,あらかじめ多段階

漸増法によって最:大負荷量を測定した.多段階漸

増法では,身長130cm以上の患者では15ワットか

ら,130cm未満の場合は10ワットから開始し,毎

分15ワット(身長130cm以上)あるいは10ワット

(身長130cm未満)ずつ運動量を増やし,中等度以

上の胸痛,息切れあるいは下肢疲労感が出現した

時点で中止するsymptom−limited負荷法を採用

した.実際の運動負荷試験は,one・stage法もしく

はtwo・stage法によって施行した. one−stage法

は,4分間でその合計負荷量が最大負荷量の80%

になるように負荷量を設定した.two−stage法は

負荷量の設定を3分間ずつの2段階に分け,後半

3分間の負荷量を前半より多くし,合計負荷量が

最大負荷量の80%になるように負荷量を設定し

た.1群の4例とII群の6例はone・stage法にて,

1群の3例とII群の1例はtwo・stage法にて斜

な:つた.安静時および運動中は,1分毎に血圧測

定と12誘導の心電図検査を行なった.

心プール法によるLVEFの正常値および正常

範囲は川崎病の既往を持つ9例の対照群によって

決定した12).これら9例はいずれも心カテーテル

検査,心血管造影および冠動脈造影検査によって,

左室の収縮様式および冠動脈は正常であり,ま

た,201TLCIによる心筋潅流イメージングにて三

(4)

流欠損の低下などの異常は認めなかった.対照群

の年齢は12∼19歳(15.2±3.1歳)で対象群より高

齢であった.また,対照群では全例two−stage法

にて運動負荷試験を行なった.

検査時,1例(症例2)にジギタリス製剤と降

圧剤(カルシウム拮抗剤)が投与されていた.

検査値は平均値±標準偏差にて記した.2群間

の平均値の差の検定はt検定によって行ない,危

険率0.05以下を有意差ありとした.

結 果

全例,術後経過は良好であった.術後観察期間

42±14ヵ月において,全例NYHA機能分類1度

の生活を送っている.抗凝固療法として2例に

ワーファリン,他の12例には抗血小板製剤が使用

されているが,出血や血栓などによる合併症は見

られていない.

1.胸部レントゲン検査

術前の胸部単純X線検査から求めた心胸郭比

(CTR)は1群57±5%, II群52±5%で,1群の

方が大きい傾向にあった(p<0.10).退院時(術

後約1ヵ月)のCTRは1群59±7%, II群55±

4%で,両方とも術前に比べて若干増大したが,

半群とも各1例を除いて,術後6ヵ月までに術前

値に回復した.術後2年目のCTRは1群が55±

6%,II群は52±4%で術前とほぼ同様の値で

あった.

2.心電図変化

術前の心電図では全例が洞調律で,左室肥大所

見を示した.1群全例と11群の1例にST−T変化

を認めた.1群では,左側胸部誘導と肢誘導にST

低下(1∼3mm)と陰性T波を認めた. II群の1

例は弁性,弁下狭窄とII度の大動脈弁逆流を認め

た症例で,ST−Tの変化は1群に比べ軽度であっ

た.II群の6例はST−T変化を伴わず,左側胸部

誘導にR波の増高のみ認めた.

術後も全例が洞調律であった.3例に右脚ブ

ロックを認めたが,そのうち2例は一過性であっ

た.8例に認めたST−T変化は術後しだいに改善

し,5例は術後1年までにST低下の正常化とT

波の陽転を見たのに対し,左室肥大が特に強い2

例(症例2,4)(r〈1.50)と大動脈縮窄を合併し

た1例(症例3)はST−T変化が正常化するのに

3年を要した.

3.術後の心エコー検査

術後の断層超音波検査では,形態的に左室流出

路狭窄が認められた症例は1例もなかった.ドプ

ラー心エコー法より求めた左室流出路圧較差は,

1群0∼16mmHg(10±6mmHg), II群0∼10

mmHg(5±4mmHg)であった.

4.術後の心カテーテル検査

術後1ヵ月後に1群5例,II群4例に右心カ

テーテル検査を施行した。平均肺動脈懊騰勢は,

1群15±5mmHg, II群13±1mmHgであった.右

室一肺動脈間圧較差は1群10±3mmHg, II群

10±4mmHgであった.

5.心プール法

術後10∼36ヵ月(24±9ヵ月)後に心プールシ

ンチグラフィーを施行した.安静時の平均LVEF

は,1群78±11%,II群68±7%で,両群とも対

照群(62±7%)より有意に高値を示した(p<

0.01,p<0.05)(図1).対照群のLVEFの平均

値±2標準偏差を正常範囲(62±14%)とすると,

1群では7例中5例が正常範囲以上のLVEFを

示したのに対して,II群は1例(77%)を除いて

100 (%) 80 m+2SD

至 m

§60

薯一,SD

20 0

羅鑛

員ormai range OlgroupI ●=grouplI

before 24士9 months after

(5)

全例が正常範囲内であった.両群とも左室局所壁

運動に異常は認めなかった.

運動負荷試験の負荷量は1,II高間に差はな

かったが,・対照群より少なかった(表3).安静時

と運動中の心拍数は3群とも同様であった.安静

時および運動中の平均最高血圧は3群間に有意差

を認めなかったが,1,II群は対照群に比べて低

い傾向にあり,特に,1群の左室肥大が特に肇い

2例(症例2,4)は運動中の血圧の上昇が不良

で最大負荷時の血圧は安静時よりわずかに低下し

ていた.運動中の平均LVEFは1群81±12%, II

群76±8%で,1群と対照群(70±7%)の間に

表3 運動負荷量と安静時,運動中の心拍数,最高血圧と左室駆出率

Case Work load

HR

(/min)

SBP

(mm且9)

LVEF

(%)

Group

No, (W/kg/m) Rest

Ex

Rest

Ex

Rest

Ex

1 1.03 56 111 108 135. 66 67 2 0.39 67 122 147 147 86 86 3 0.69 71

U6

134 134 83 88 1 4 1.67 80

U6

105 102 82 83 5 0.85 66 147 96 149 62 62 6 1.25 76 13S 123 166 85 85 7 0.70 60 146 96 136 93 93

m±SD

0.94±O.42 68±8 128±15 114±19 143±21 78±11 81±12 8 0.93 62 109 113 154 76 76 9 1.41 63 119 108 173 72 82 10 1.19 80 147 103 135 77 75 II 11 0.87 79 165 102 133 62 79 12 0.70 81 118 117 159 66 74 13 1.11 76 125 123 156 72 84 14 1.06 74 150 104 119 61 61

m±SD

1.04±023 74±8 133±21 110±8 147±19 68±7 76±8

C

m±:SD 1.27±0.14 64±8 122±11 120±13 168±25 62±7 70±7

C:contro1, HR:heart rate, SBP:systo】ic b】ood pressure, LVEF;】eft ventricular ejection

.fraction, Ex:exercise. 100 80 § §60 § 善 ≧40 20 0 (%) Control

Group I

Group n

RES丁 EX REST EX REST

図2 対照群,1群およびII群の運動中の左室駆出率

EX

(6)

有意差を認めた(p〈0.05)(図12).Borerらの報

告13)に従って,5%以上の変化を有意と判定した.

両群とも運動中にLVEFが有意に低下した症例

はなかった.対照群は全例が有意な増加を示した

が,1群は7例中2例,II群は7例中4例が有意

な増加を示した.両群の変動値を見ると,1群は

5%(83→88%)と7%(78→85%)であったの

に対し,II群は10,17,7,12%で,運動に対す

る反応はII群の方が良好であった.両群とも運動

中に異常な壁運動を認めなかった.

考 察

今野法は他の駐輪拡大術14)15)に比べて,拡大率

が大きく(約2倍まで)16),様々な弁下狭窄例に対

しても確実な狭窄解除が可能で17)18),手術成績,遠 隔成績も良好8)16)∼20)である.さらに,弁輪拡大と時

下狭窄の解除が同時にできることや,乳幼児21)に

も適応できる利点を有している.合併症としては

術後の房室ブロックや脚ブロック,心室性不整脈

の発生,中隔枝の障害による心筋梗塞人工弁周

囲逆流,右室流出路パッチ拡大部の圧較差残存,

心室中隔部の短絡などが報告されている16即).今

回の対象例では,右脚ブロックを3例(うち2例

は一過性)に合併したに過ぎなかった.

今回の研究では,弁性,弁下狭窄例を含めて,

術後の圧較差は10±4mmHgで,狭窄の解除は良

好であった.術前の心電図で認められたST−T変

化は大部分の症例において術後1年までに正常化

した.心胸郭比は術後1ヵ月の時点では術前に比

較して,若干増大していたが,6ヵ月までには大

部分の症例が術前値に回復し,その後もほぼ同様

の値を示した.心プール法によって求めた術後の

安静時LVEFは全例が正常範囲内か正常範囲以

上であった.運動中のLVEFの反応は正常群に比

べると劣るものの,有意なLVEFの低下を示した

症例はなく,約半数例が有意な増加を示していた.

また,安静時と運動中に異常な壁運動は認められ

なかった.以上より,圧較差軽減と左室機能温存

の両面において今野法は優れた術式であると言え

る.

先天性大動脈狭窄症患者は,求心性左室肥大に

よって収縮;期壁応力が低下するため,後天性大動

脈弁狭窄症22)23)とは異なり,正常以上のLVEFを

示す4)∼6).Asseyら6)は,正常以下の収縮期壁応力

は,生来の圧負荷による心筋のhyperplasiaに起

因しており,この高網出状態は青年期まで維持さ

れると述べている.

Dornら7)は先天性大動脈弁狭窄症に対して弁

置換術あるいは修復術を施行した7例について術

前と術後(36±7ヵ月)のLVEFおよび壁応力を

比較した結果,術後に壁応力は増大し,LVEFは

86±4%から74±4%に低下していたことから,

効果的な狭窄解除によって,術前の高吟出状態は

正常化することを示した,今回の研究では,術前

の左室肥大が比較的軽度で主に笹野狭窄からなる

II群の術後のLVEFは対照群よりは高いものの,

Dornらの報告と同様に正常化していることが判

明した.一方,左室肥大がより高度で,術前の心

電図上における広範な虚血性変化と左室拡張末期

圧の上昇,すなわち左室コンプライアンスの低下

を示した1群では,7例中5例が術後も正常範囲

以上のLVEFを示した.その5例中3例ですでに

ST・T変化は正常化していた.また,5例の手術時

年齢は5∼18歳で,術後のLVEFと手術時年齢と

の間には一定の相関を認めなかった.以上より,

先天性大動脈狭窄症では,左室肥大が軽度な場合

は術後2,3年までにLVEFは正常化するが,左

室肥大が高度な症例の多くが,この時点では駆出

率が正常化しないことが判明した.

大動脈縮窄症も大動脈狭窄症と同様に左室後負

荷の増大によって左室の求心性肥大を来す疾患で

あるが,Carpenterら24)は効果的な修復がなされ

た大動脈縮窄に対して術後2∼27年後に評価した

結果,LVEF,左室心筋重量とも正常値以上であっ

たと報告している.また,動物実験や臨床試験の

結果から,後負荷が解除されても左室肥大は軽減

するだけで消失しないとも言われている25)26).今

回の研究でも,対象群は左室肥大の程度にかかわ

らず対照群よりも高いLVEFを示していた.

術前の左室肥大の程度と手術時期がより長期的

な経過観察後の左室機能や肥大の程度にどのよう

な影響を与えるかは今後の興味深い問題点であ

る.

(7)

肥大心は正常心に比べて酸素消費量が増加して

いるので,青年期を過ぎて冠動脈の動脈硬化性病

変を合併すると,酸素の需要と供給のバランスが

くずれ27),心筋障害を併発し,心機能低下による心

不全や心室性不整脈の発生を来す危険性もありう

る24).今回の対象例でも見られたように先天性大

動脈狭窄症の患者は青年期までは正常以上の

LVEFが保たれるため,全身状態が比較的良好な

症例が多い.しかし,より長期的な予後を考慮す

ると左室肥大が重症化する以前に確実な狭窄の解

除をすることが重要と思われる.不十分な弁切開

術28),左室流出路心筋切開や心筋切除29)30)あるい

は小さい人工弁による大動脈弁置換、術など術後に

有意な圧較差を残す危険性があり,圧較差の残存

は左室肥大,高駆出状態の遷延鋤,二次的な心筋障

害32>を伴う危険性が高いことからも,確実な狭窄

解除が重要である、今野法は安全に,しかも確実

な狭窄の解除ができること,運動中も左室機能が

良好に保たれることなどより,積極的に推奨され

る術式である,

結 語

先天性大動脈狭窄症に対して,今野法施行後

24±9ヵ月時に左室機能の評価を行なった結果,

安静時,運動中の左室機能は良好に保たれていた.

左室肥大の軽度な症例ではLVEFの正常化が見

られたが,高度な肥大を認めた症例の多くが依然

として正常範囲以上のLVEFを示した.

稿を終えるにあたり,本研究の御指導と御校閲を賜

りました今井康晴教授,黒澤博身助教授に深謝致しま

す.また,本研究に際し,.』御指導,御協力いただきま

した東京女子医科大学放射線科医学教室の廣江道昭

講師(現東京医科歯科大学第2内科),近藤千里博士を

はじめ長先生方に心から感謝致します.

文 献

1)Konno S, Imai Y, Iida Y et al:Anew method for prosthetic val>e replacement in congenital aortic stenosis associated w三th hypoplasia of the aortic valve ring. J Thorac Cardiovasc Surg 70:909−917, !975

2)今井康晴,黒沢博身,河田政明ほか:先天性大動

脈狭窄に対するKonno手術.手術44:

1051−1055, 1990

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