Title
植物のクエン酸放出型低リン酸耐性を支配する有機酸代謝
特性に関する研究( 内容の要旨 )
Author(s)
木原, 智仁
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(農学) 甲第310号
Issue Date
2003-09-12
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/2651
※この資料の著作権は、各資料の著者・学協会・出版社等に帰属します。氏 名(本(国)籍) 学 位 の・種 類 学 位 記 番 号 学′位授与年月 日 学位授与の要件 研究科及び専攻 研究指導を受けた大学 学 位 論 文 題 目 審 査 委 員 会 木 原 智 仁 (愛媛県) 博士(農学) 農博甲第310号 平成1畠年9月12日 学位規則第4粂第1項該当 連合農学研究科 生物資源科学専攻 岐阜大学 植物のクエン酸放出型低リン酸耐性を支配する 有機酸代謝特性に関する研究 主査 岐阜大学 教 授 副査 岐阜大学 助教痩 副査 静岡大学 教 授 副査 信州大学 教 授 論 文 の 内 容 _一の 要 旨 夫 之 実 三 徹 博 博 鍍 .山 田 江 原 小 横 入 リン酸は、.植物が利用困難な難溶性の金属塩を容易に形成するため、ほとんどの土 壌で不足がちである。また、耕作可能な陸地の多くを占める酸性土壌ではその低リン酸
ストレスは深刻であるため、そこでの作物栽培は困難である。したがって、リン資渡に
は限りがあることも考慮すると、作物の難溶性リン酸利用能力の改善は持続的農業の観点から育種学の解決すべき課題の1つである。その低リン醸ストレスに対する植物の耐
性形質として根からの有機酸放出が挙げられ、ある種の植物はクエン酸を多畢に放出す
る。そのクエン酸放申にはヾ-有機酸代謝が影響を与えていると考.えられるが、詳細に解
析されてはいない。そこで本研究では、クエン酸放出能力が極めて高い低リン酸耐性(LpT)ニンジン培養細胞(エね〟αぷ相和ぬL.)とルービン(ム画料肌畑個L.)のプロテ
オイド根における有機酸代謝特性に関する解析を行った。
まず、LPT細胞のクエン酸分解系に関して詳細に解析.した。クエン酸分解は主に細 胞質でアコニクーゼとNADP特異的イ●ソクエン酸脱水素酵象(NADP_ICDH)によって 行われていると考えられている。しかし、これらの酔素には細胞内局在の異なるイソ型が存在することから、細胞内小器官の分画を行い細胞質画分のクエン酸分解系にちいて
詳細に解析した。まずミトコンドリアを精製してアコニターゼについて検討した結果、両細胞の細胞質型アコニクーゼの活性に差はないと結論した。一方NヰDP-ICDHにづい
ては、(1)95%の活性が細胞質両分た回収された、(2)粗酵素液中のN鳩皿岬」CDH活性
がWT細胞の45%であるLpT細胞では細胞質型のタンパク量と(3)細胞質型をコード していると考えられる刀也に王城〃の転写産物レベルがWT細胞の約50%であった。したがって、LPT細胞の低いNADP-ICDH活性は細胞質型のタンパクレベルの減少によるも
ー14-のであり、それは転写産物レづルの低下に起因することが明らかになった。これらのこ とは、LPT細胞では細胞質型NADP-ICDH活性の抑軌による細胞質での・クエン酸分解活 性の低下が、余剰なクエン酸蓄積に貢献していることを示唆している。
次に、ク主ン酸の合成力を決定する安寿の-1つであるクエン酸合成系への基質供給
につVノ、て酵素活性レベルで評価した。解糖系の律速酔素とそのバイパス酵素の活性およ
び解糖系由来の産物であるビルビン酸の含量について両細胞間で比較した結果、LPT細 胞においてクエン酸合成に有利な変動は認められなかった。一方、クエン酸合成の基質であるアセチルCoAを供鱒する酵素であるビルビン酸脱水素酵素複合体(PDC)の活
性はLPT細胞においてWT細胞よりも高く、この変動はクエン酸合成に有利であると
考ネられる。ここまでの結果および¶止itadal.(1999,助fJ放え肋J胸腔45‥197)の研
究から、LPT細胞では高いPDC活性とミトコン▲ドリア型クエン酸合成酵素(CS)活性 および低い細胞質型NADP-ICDH活性という代謝バランスによりWT細胞よりも優れたクエン酸蓄積を可能たしていると結論した。
続いて、リン酸欠乏下でのクエン酸放出能力が高いルービンプロテオイド根におけ る有機酸代謝特性について、放出能力が低く低リン酸耐性作物の分子育種における宿主 として位置づけられるイネ(0り郡∫α如L.)およびコムギ(升所血憫Ⅷ即血勅朋L.)の根 におけるリン酸欠乏に応答した代謝変動との比較により検討した。ルービンプロテオイ ド根ではリン酸処理した根端と比較してクエン酸含量が4倍に増加しており、クエン酸合成への基質供給に関与するホスホエノールピルビン酸(PEP)-ホスファグーゼと.ホス
ホ土ノールピルビン酸カルポキシラーゼ(PEPCぉe)の活性増加とクエン酸分解系酵素(ブコニクーゼ、NADP-ICDH)の活性減少を伴っていた○一方リン酸欠乏処理レたイ
ネおよびコムギの根部では、測定したすべてのクエン酸合成系酵素(ピルビン酸キナーゼ、▲pEPホスファクーゼ、PEPCa5e、CS)の活性ばかりではなくクエン酸分解酵素であ
るアコニターゼ(約7倍)の活性が増加しており、根内クエン酸濃度はリン酸処理した
根部のlふ2倍程度の増加であった。以上のことから、クエン酸分解活性の低下がルー
ビンプロテオイド根の代謝特性であることが明・らかとなり」そのことが優れたクエン酸
蓄積能力に貢献していることが示唆された。
以上本研究の結果は、クエン酸放出能力の高いLPT細胞とルービンプロテオイド 根における代謝的特長はクエン酸分解活性が抑制されることであり、その抑制とクエン 酸合成活性の強化という代謝バランスが余剰なクエン酸蓄積を可能にし、クエン酸放出 に貢献していることを示唆している。 審 査 結 果 の 要 旨 リン酸は、植物が利用困難な難溶性の金属塩を容易に形成するため、ほとんどの土壌で不足がちである。リン資源には限りがあることも考慮すると、作物の難溶
性リン酸利用能力の改善は育種学の解決すべき課題の1つである。その低リン酸ス
トレスに対する植物の耐性形質として根からの旺盛なクエン酸放出がよ・く知られて
いる。そのクエン酸放出は炭水化物代謝の影響を受けていると考えられているが、の低リン酸耐性(LpT)培養細胞とルービンのプロテオイド根における有機酸代謝特
性の解明が行われ、その結果が本論文の衰1辛から第3章にまとめられている。
第1章では、LPT細胞のクエン酸分解系の特性について詳細に解析した。クエン
酸分解は主に細胞質でアコニターゼとNADP特異的イソクエン酸脱水素酵素(NADトICDH)によって行われていると考えられているが、これらの酵素には卵胞
内局在の異なるイソ型が存在する。細胞内小器官を分画して解析した結果、細胞質型ア コニクーゼの活性には野生型(WT)細胞とLPT細胞で有意差はなく、一方細胞質型NADP-ICDH活性はLPT細胞で低下していた。さらに分子生物学的解析を行ったとこ
ろ、LPT細胞では細胞質NAI)P-ICDHペプチドが減少しており、細胞質型をコードする遺伝子の転写レベルが低下していた。以上のことより、LPT細胞では、細晦質型
NADP-ICDH遺伝子の転写抑制によりその活性が減少し、クエン酸の分解速度が低下
することにより余剰なクエン酸が蓄積すると結論した。・
第2章では、LPT細胞におけるクエン酸合成系への基質供給経路について酵素活 性レベルで評価した。解糖系の律速酵素とそのバイパス酵素の活性および解糖系由来の産物であるビルビン酸の含量の解析結果から、ほT細胞において解糖系は強化され
ていないと推測した。一方、ク羊ン酸合成の基質であるアセチルCoAを供給するピ
ルビン酸脱水素酵素複合体(PDC)の活性はLPT細胞においてWT:ah包よりも高か
った。第1章と第2章の結果および¶血血dal・(1999,助f愉f・飽乃り侮耽45:197)の研究結果から、LpT細胞は高いPDC活性とミトミ㌢ドリア型ク羊ン酸今成酵素(CS)
活性およ.び低い細胞質型NADP」ICDH.活性という代謝バランスによりWT細胞よりも優れたクエン酸蓄積を可能に〔ていると結論した。
第3章で臥リン酸欠乏下でのクエン酸放出能力が高いルービンのプロテオイド
根における有機酸代酎特性について、放出能力が低く低リン酸耐性作物の分子育種に
おける宿主として位置づけられるイネおよびコムギの根におけるリン酸欠乏に応答 した代謝変動との比較により検討した。ルービンプロテオイド根ではリン酸処理した根端と比較してクエン酸含量が4倍に増加しており、クエン酸合成に関与するいくつ
かの酵素の活性増加とクエン酸分解系の酵素活性減少を伴っていた。一方イネおよび コムギでは、測定したすべてのクエン酸合成関連酵素ばかりではなくクエン酸分解酵素の活性がリン酸欠乏処理によ・り増加-しており、クエン酸含量はl.5-2倍程度の増加
であ,つた。以上のことより、ルービンタロテオイド根はクエン酸分解活性の抑制によ
り高いクエン酸蓄積能力を有すると結論した。以上本研究は、クエン酵放出能力の高いLPT細胞とルービンプロテオイド根は
クエン酸分解活性の抑制という共通した代糾特性を有しており、この抑制とクエン酸
合成活性の強化という代謝バランスが優れたクエン酸蓄積能力とクエン酸放出能力
に貢献していることを明らかにした。以上の論文構成や内容について慎重に審話した結果、得られた知見は学術的に価
値があるものと判断された。その結果、審査委員全員一致で本論文が岐阜大学大学院
連合農学研究科の学位論文と▲して十分価値があるものと認めた。
ー16-学位論文の基礎となる学術論文は以■下の通りである。
1)Kihara,T,0lm0,T,Koyama,H.,SawaRtii,T.andHara,T(2003)CharaCterizationof
NADP-isocitratedehydrogenase expressionina・CarrOtmutantCe111inewith enhanced Citrateexcretion.PhmtSbi1248;145-153.
2)Kihara,T,Ⅶda,T,Suzuki,Y,Ham,TandKoyama,H.(2003)Alterationofcitrate