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赤門マネジメント・レビュー 15 巻 2 号 (2016 年 2 月)

ダイナミック・ケイパビリティ論からペンローズへ

―経営学輪講 Helfat and Winter (2011)―

From Dynamic Capabilities to Growth of the Firms: Technical Notes on Helfat and Winter (2011) Helfat, C. E., & Winter, S. G. (2011). Untangling dynamic and operational capabilities: Strategy for the (n)ever‐ changing world. Strategic Management Journal, 32(11), 1243–1250.

岩 尾 俊 兵,a 菊 地 宏 樹b Shumpei Iwao Hiroki Kikuchi

要約:ダイナミック・ケイパビリティについて、多数の論者から多様な定義が行われてきた。しかし、「劇的な環境変化に 対応する能力」というTeece 流の代表的な DC 定義下では、DC と業務能力を客観的に分離し研究するのが困難であ るという指摘が、近年Helfat と Winter によってなされている。Helfat and Winter (2011) による上記の指摘とそれを乗 り越えるための処方箋は、DC を単純に企業成長の源泉として捉え直すというものだと考えてよい。彼女らの論点は、そ の意味で、エディス・T・ペンローズの『企業成長の理論』の観点との類似点を見出しうる。

キーワード:ダイナミック・ケイパビリティの観察・測定可能性、企業成長の理論、リソース・ベースド・ビュー

Abstract: This technical note tackles to put ill-ordered research stream about Dynamic Capabilities (DC) to right. From research review, we could see theories on DC are now in confusion, and some weighty counters are attacking prior study of DC (e.g., Teece’s ideas). In this paper, Helfat and Winter (2011) is commented. Furthermore, this paper points out that Helfat and Winter’s research closely resemble Penrose’s idea about the growth of the firms. If we try to understand DC theory from Penrose’s idea, we will learn about DC more easily.

Keywords: objectivity of dynamic capabilities, the theory of the growth of the firms, resource-based-view

a 東京大学大学院経済学研究科 (Graduate School of Economics, the University of Tokyo, Hongo,

Bunkyo-ku, Tokyo, Japan), [email protected]

b 東京大学大学院経済学研究科 (Graduate School of Economics, the University of Tokyo, Hongo,

Bunkyo-ku, Tokyo, Japan), [email protected]

はじめに

企業が劇的な環境変化に直面しつつも長期的に成長を続ける源泉であるダイナミック・ケイパビ リティ (Dynamic Capabilities、以下 DC と表記) に関する理論研究・実証研究は、経営戦略論の文 脈で盛んな議論が展開され、Teece, Pisano and Shuen (1997) やそれに先行するディスカッション・ ペーパー類、Eisenhardt and Martin (2000)、Teece (2007)、Zollo and Winter (2002) などで以後の研 究の基礎となるDC 定義の精緻化がなされた。しかし、近年では DC のこれまでの定義ではその測 定可能性に疑義が生じる上に、経済に重要な影響を与える変化とそれを支える能力を軽視してしま

この経営学輪講は Helfat and Winter (2011) の解説と評論を岩尾・菊地が行ったものです。当該論文の忠実

な要約ではありませんのでご注意ください。図表も岩尾・菊地が解説のためにHelfat and Winter (2011) そ の他の関連文献を元に整理し直したものです。したがいまして、本稿を引用される場合には、「岩尾・菊 地 (2016) によれば、Helfat and Winter (2011) は…」あるいは「Helfatat and Winter (2011) は (岩尾, 菊 地, 2016)」のように明記されることを推奨いたします。

印刷版ISSN 1348-5504 ©2016 Global Business Research Center

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うのではないかという、一種の反省がDC 論者から提起されてきている。それが、本稿で取り上げ るHelfat and Winter (2011) による、“Untangling dynamic and operational capabilities: Strategy for the (n)ever-changing world” と題された論文である。この論文の著者は、Nelson and Winter (1982) にお いて進化経済学の創始者としての地位を獲得した後にWinter (2003) や Zollo and Winter (2002) 等 の研究で DC 論の主要論者となった S. G. Winter と、Helfat and Peteraf (2003) 等の論文で同じく DC 論の主要論者として知られる C. E. Helfat である。

彼女らが提起した DC 論への反省とその処方箋は「DC を企業成長の源泉として単純に捉えなお す」というものであり、E. T. Penrose による『企業成長の理論 (The Theory of the Growth of the Firm)』における議論との類似点を指摘しうる。そこで本稿では、初めに当該論文を解説し、次に 当該論文と Teece らの研究との相違点および Penrose の著作との共通点について指摘し、最後に企 業成長の理論とDC 論とが今後どのように相互に影響しあう可能性があるのかについて若干の考察 を行いたい。

Helfat and Winter (2011) の解説

本論文は短く、参考文献リストを含めても 8 ページに収まっており、論文 (Research Articles) コーナーではなく、“Research Prospectives” のコーナーに掲載されている。Helfat and Winter (2011) の構成は、最初に先行研究を引用しつつ DC と業務能力 (operational capabilities) の定義について Helfat と Winter なりの見解を述べ、その後で業務能力と DC の区別の仕方について批判を行う、と いうものである。そのうえで、Helfat と Winter は劇的な環境変化に対応する能力としての DC 観に 疑問を呈する。彼女らの疑問を要約すると、①変化する環境は少なくとも客観的に観察・測定する ことはできないのではないか、②一見劇的な変化には見えない小さな変化の積み重ねによって経済 全体に重要な影響を与える場合にも DC が関わっている可能性があるのではないか、③企業が保有 する能力を通常の能力と動的な能力 (DC) に切り分けるのは難しいのではないか、という三点に 要約できる (Helfat & Winter, 2011, p. 1249)。

議論の前半において、彼女らは Winter (2003) 流の組織能力概念を持ち出し、「特定の目的を繰 り返しある程度の信頼性で行いうること」が組織能力であると定義し、その場その場でのアドホッ クな対応と組織能力とを明確に区別する (Winter, 2003)。そうして、Helfat and Winter (2011) は上 記の組織能力を、当座の生計を立てるための「業務能力 (operational capabilities)」1 と、新たな生 計の手段を獲得するための「ダイナミック・ケイパビリティ (dynamic capabilities)」に分類する (Helfat, & Winter, 2011, p. 1244)。業務能力は既存の顧客に既存の資源で既存の価値を提供する一方 で (activity on an on-going basis using more or less the same techniques on the same scale to support existing products and services for the same customer population)、ダイナミック・ケイパビリティは既 存の業務能力を変化させるか、買収、提携あるいは製品開発をするなどして新たなビジネスを行う

1 業務能力は通常能力 (ordinary capabilities) と表現されることもある。Helfat and Winter (2011) の本文では

operational (or ordinary) という表記をされており、operational という単語の使用回数も多いことから、以 下、本稿では「業務能力」という用語を使用する。なお、この概念の引用元である Winter (2003) におい ては、上記に加えて、「ゼロレベルケイパビリティ (zoro-level capabilities)」との表現も登場し、DC は 「高次ケイパビリティ (higher-order capabilities)」であるとされている。

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ための能力とされる (conducting acquisitions, alliances, and new product development, which alter the ways in which firms earn their living)(Helfat, & Winter, p. 1245)。

このようにして、Helfat and Winter (2011) において業務能力と DC の区別はすんなりと行われる が、この定義の後にDC を「変化する環境へ対応する能力」として扱うのは難しいと彼女らは議論 する。 初めに、①変化する環境は少なくとも客観的に観察・測定することはできないのではないか、と いう論点に関しては以下の指摘がなされる。まず、環境に変化が起こったか否かについては、どの ような知識を持っている人が、どのような距離で観測したかによって、もしくは、どのくらいの期 間を観測期間にしたかによって判断が変化してしまう。たとえば、一般人からして革新的であると されている変化でも、高度な知識を保有する専門家からすれば微細な変化とみなされることがあ る。また、Birnholtz, Cohen and Hoch (2007) の子供向けのサマーキャンプの例において、キャンプ 参加者が相当数入れ替わってもキャンプ全体の特性は変化しなかったという発見を、大きな変化 (多くの参加者が入れ替わっていた) があったと考えることもできるし、変化はなかった (キャン プ全体の特性は変わらなかった) ということもできるように、変化の有無はどのレベルで対象を観 測するのかに依存する。さらに、大きな変化には時間がかかることも多く、あまりにも観測の時間 が短いと、その変化が結果としてもたらす影響の大きさを評価できない。 次に、②一見劇的な変化には見えない小さな変化の積み重ねによって経済全体に重要な影響を与 えるような場合にも DC が関わっている可能性があるのではないか、という疑問も提示される。 DC 論においてはしばしば、「劇的で、不連続な変化への対応」とか、「劇的な変化を起こす」とい うような言葉遣いが見られ、大きな変化が関連するものが研究の対象だと考えられてきた。しか し、彼女らは劇的な変化か否かということは上述したような時間や観点の問題から曖昧なものに なってしまうと指摘する。また、彼女らはいくつかの例を挙げて、既存の事業やあまり劇的ではな い変化を支えているケイパビリティが、十分にダイナミックな特性を持っていることもあることを 示している。たとえばインテルの製品開発能力やウォルマートの店舗展開の能力、石油産業の新し い油田を獲得する能力は、とくに劇的な変化を起こす能力とはみなされないが、経済的に重大な変 化を支えているために、定義から十分にDC とみなすことができるとされている。2 最後に、③企業が保有する能力を通常の能力と動的な能力 (DC) に切り分けるのは難しいので はないか、という点についての彼女らの議論は次のとおりである。ケイパビリティの中には、既存 の業務に用いられるものと、ダイナミックなものにきれいに分けられるものばかりではなく、両方 に用いられる能力も存在するというのである。具体的には、流通、マーケティング、販売などにか かわる能力は、その販路管理において扱うことになる商品が、既存の製品と新製品の両方になるの で、既存の事業を通常通り操業しているという意味で、業務能力でもあるし、新製品を市場に導入 するという意味において、経済的に重大な変化を起こすダイナミックな目的をも同時に持っている (dual-purpose)。また、時には業務能力、時には DC というように、変幻自在 (multiple-variant) に 用途が変わる能力の存在についても指摘がなされている。たとえば、企業間や、部署間をまたいで

2 ただし、これはあくまで Winter (2003) や Helfat and Winter (2011) 流の DC 定義を受け入れることが前提

となっており、Teece 流の DC 観への疑問はほぼ①の環境変化の観察可能性についての議論に集約されて いるといってもよいだろう。

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コミュニケーションを促進する能力は、普段は生産において各段階を調整して範囲の経済を発生さ せるという役割を果たしているが、これが新製品を導入する段になれば、新しい製品のデザインや 製造設計において、調整を果たし、組織における変化を可能にするといった例を思い浮かべればよ い。 上記の3 点の指摘は、次節において解説する Teece 流の DC を観察・測定することは必然的に難 しいとの主張として捉えうる。3

Teece et al. (1997) の視点と Helfat and Winter (2011) の視点による検討

Teece et al. (1997) の視点

DC 論と称される研究は非常に多く、考え方も多様で、既存の DC 論を代表する見方がなにかと いうのは、それ自体非常に難しい問題である。しかし、Helfat and Winter (2011) は主に Teece らの 研究を引用しており、DC 論の源流とされるのは Teece et al. (1997) に集約される一連の論文とさ れることから、Helfat と Winter が意識していたのは Teece et al. (1997) 流の DC 観であったといえる。

Teece et al. (1997) は、既存の戦略論研究群を総括し、独占レントを重視する競争圧力アプロー チや希少な資源を保有することから得られるレント (リカード的レント) に着目した研究潮流等が 存在するとする。そして、半導体産業、情報サービス産業、ソフトウェア産業など、グローバルな 競争下にある産業において競争優位を築く企業の存在を明らかにし、急激な環境変化の中で競争優 位を達成している企業を分析する視点の不足を指摘し、それを乗り超えるための DC アプローチを 提唱している。ここでは、環境変化に対してタイムリーにイノベーションを達成する企業を念頭に おいており、イノベーションを引き起こすことにより得られるシュンペーター的レントを重視し、 激動する競争環境の下ではシュンペーター的レントが企業の生き残りに必須であるとしている。そ して、イノベーションは既存資源の新結合から起こるのであるから、Teece ら以前の戦略論の流派 であったリソース・ベースト・ビュー (RBV) が想定する希少資源保有による経済レント発生と いう視点の上に、それらの資源の組み換え (新結合) による経済レントという視点を加える必要が あるとしている。このような視点から、RBV の拡張として DC を位置づけているのである。 なお、Teece らは 1997 年時点では以下のように DC を定義している。 Dynamic capabilities (ダイナミック・ケイパビリティ):我々はDCを、急速に変化する環境に 対応するために、組織内外部の競争力を統合し組み立て、再構築する企業の能力と定義する。 DC は従って、経路依存や市場ポジションによって与えられる競争優位の、革新を達成する組 織能力を表している (Teece et al., 1997, p. 516)。 そして、彼らは DC を上記のように定義した上で、DC を形成する要素として、プロセス

3 なお、これに関して Teece は、Teece (2014a, 2014b) の両論文において以下のような反論を行っている。

Teece (2014a) によれば DC は業務能力に比べて模倣が困難なものであり、これによって二者の区別が可能 であるという (Teece, 2014a, p. 18)。また、Teece (2014b) においては、Helfat and Winter (2011) や Winter (2003) が行う業務能力の定義は狭すぎるとし、Teece (2014a) において主張された DC の模倣可能性に加 え、目的、入手方法、中身、カギとなるルーティン、経営上の主眼、優先事項、結果の七つの点において 業務能力とDC は異なるとしている (Teece, 2014b, p. 332)。

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(processes)、ポジション (positions)、経路 (paths) の三つの説明を行っている。経営的・組織的 プロセスは、企業の内部において物事がどのように処理されるのかについてのルーティンや、現在 の慣習や学習のパターンを指す。次に、ポジションという言葉は、技術、知的資産、補完的な資 産、顧客基盤や協力企業・サプライヤーとの外部関係といった現時点における特殊な資産を指し、 経路という言葉は、企業がとりうる戦略的な代替案、そして収穫逓増とそれに付随する経路依存性 を指し、プロセスはポジションと経路により形成される、と述べられる (Teece et al., 1997, p. 518)。 さらに、「企業のコンピタンスとダイナミック・ケイパビリティの真髄は、企業の組織プロセス のなかに内在しており、その組織プロセスは企業の資産 (ポジション) とそれが進化してきた経路 により形成される (Teece et al., 1997, p. 524)」と述べられており、DC においてはプロセスが重要 であるということが示唆される。そのうえで、プロセスは、三つの役割があるとされており、それ は 調 整 / 統 合 (coordination/integration) 、 学 習 (learning) 、 再 配 置 と 変 形 (reconfiguration and transformation) であるという。そこでは、Fujimoto (1994) や Clark and Fujimoto (1991) といった 研究を取り上げて、改善活動やプロジェクトマネージャーの調整能力を具体例としてあげられる。

Helfat and Winter (2011) の視点による批判

Teece らはハイテク産業を念頭に、急速に変化する環境の中で資産の組み換えを適切に行うこと で、新たな環境でも競争優位を達成する能力をDC とよんだ。しかし、上記のように Teece らは調 整する組織のプロセスをも DC と捉えており、具体例として改善や製品開発のプロジェクトチーム における調整能力をもDC に含めている。これは急速な環境変化の中でのイノベーションを達する 能力というTeece の定義というよりは Helfat and Winter (2011) による論点②「小さな変化を積み重 ねた結果、経済的に重大な変化を引き起こすような DC」により正確に当てはまるだろう。また、 製品開発におけるプロジェクトマネージャーの調整能力にしても、論点③で上げられていたコミュ ニケーションの例同様、場合によって変幻自在に DC になったり、業務能力になったりするような ものとして捉えられうる。 このように考えると、Teece らは「急速に変化する環境の中での、劇的な変化」というような定 義を挙げつつ、その具体例として考えているものの中には、その定義に当てはまらないようなもの も含まれており、Teece らの 1997 年時点での DC 観は混乱しているといえる。このような混乱下に おいて、Helfat と Winter が指摘した「DC と業務能力の線引きは曖昧なものになってしまう」とい うことは的を射たものとなる。これを視覚的に整理すると、図1 のようになるだろう。 すなわち、従来 DC と業務能力とは完全に別概念として区別できるものとして研究されてきた が、実はそれらは純粋に区別できるものばかりでなく、両方の性格を持ち、概念的に重なる (オー バーラップする) ものも存在するということをHelfat と Winter は指摘したのである。

Helfat 自身がその 2 年後に石油産業を題材にして Stadler, Helfat and Verona (2013) という研究を 行っているように、DC と業務能力とが重複する場合には DC 部分を抜き出して研究することもで きる。

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DC 論とペンローズの『企業成長の理論』

Helfat and Winter (2011) によると、インテルの製品開発能力やウォルマートの店舗展開の能力、 石油産業の新しい油田を獲得する能力などは、企業の規模を大きくさせ企業を成長させる能力の例 であるからDC であるという。これは、ペンローズが企業成長の理論において述べた経営者サービ スと一致する。すなわち、Helfat and Winter (2011) のように DC を「企業成長をもたらす (同時に 経済に影響をもたらす) 源泉」と考えると、DC とは何かについて考察する際に、Penrose (1959) の『企業成長の理論 (The Theory of the Growth of the Firm)』がヒントになり、企業成長の理論におけ

る「成長の経済性」の概念から「業務能力から区別された純粋な DC」を特定できる可能性があ る。 Penrose (1959) は RBV の研究群において、企業が持つ資源は本質的に企業ごとに異なるという 点に着目したものとして扱われるが、彼女の研究の意義はそこにとどまるものではない (高橋, 2002)。高橋 (2002) によると、Penrose が自らの研究を『企業成長の理論』と題したことからも分 かるように、彼女の主張は「企業がなぜ成長するのか? 成長を制限する要因はあるか? そして成 長自体に経済性が存在するか (規模の経済性ではない成長の経済性)?」という疑問に対して、企業 が保持する内部資源に様々な理由で未利用部分が発生し、それによって企業範囲の拡張が有利にな る (成長の経済性を持つ) という論理で答えたものである。図 1 の右図において、「業務能力では ない DC」は、ペンローズのいうところの「規模の経済性ではない成長の経済性」をもたらすもの に相当すると考えられる。それは企業が拡張を行う際の経営者サービス (訳書によっては管理用 役) であり、新事業や新店舗の立ち上げ活動 (start-up) に使用されていれば経済性を発揮する が、成長しなければ立ち上げ活動はないので、未使用のまま宝の持ち腐れになる (Takahashi, 2015)。 図1 DC と業務能力の関係の理解の相違 出所) 筆者作成

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ペンローズの『企業成長の理論』は、従来の企業の経済学は企業を単独の生産財・サービスを生 み出す主体としており、現在のように生産する財・サービスを変化させていく企業の姿をとらえき れないという (Penrose, 1959, chap. 2)。もし企業が特定の財・サービスを担うだけのものであると すれば、その財・サービス市場の衰退とともに企業も衰退するが、企業が多角化を行うならば (Penrose, 1959, chap. 7) この制限は存在しない。そして、彼女は第 7 章~第 8 章で議論するように そのような多角化は研究開発・製品開発や合併・買収を通じて行いうるというのである。このよう な視点は、Helfat と Winter が DC として述べたものとほとんど完全に一致している (Helfat & Winter, 2011, p. 1245)。Helfat and Winter (2011) は Penrose を引用していないものの、その主張は Penrose の主張を見出すことのできるものとして捉えることができるものだったのである。4 Penrose の議論を要約すれば以下の通りである。初めに彼女は、企業成長の理論を扱うには成長 している企業を扱えばよく、成長は資源の (割引現在価値の) 拡大で測定できるとする。次に、こ こで扱う企業とは管理され調整された組織であって、単に持ち株会社として投機的に多数の企業を 保有する金融企業は対象にしない (つまり企業成長の理論というよりは組織成長の理論である)。 企業は物的・人的資源を持つが、企業が利用するのは資源そのものではなく資源から生み出される サービス (=生産的サービス) である。物的資源は倍数の法則5 によって常に遊休部分が残るし、 人的資源は経験によって知識を増し、その知識を活用して物的資源を新たな仕方で用いるため、こ の両者の作用によって生産的サービスの潜在量は増大し続ける。こうして生じる生産的サービス は、経営者サービスによって管理・調整される必要がある。しかしながら、生産的サービスの潜在 量は増加を続けるために常に遊休部分が存在し、企業者サービスによってその活用が意図され、先 ほどの経営者サービスが拡張計画を実現するためにも用いられることになる。しかし、一時点での 経営者サービスは一定量であるため、成長は制限される。とはいえ、経営者サービスは新たな管理 者を受け入れ、経験を積むことで増大していくことが考えられるため、成長の限界は後退してい く。 Penrose の議論は、未利用の経営者サービスの存在を指摘することによって、成長の限界が後退 することと「成長の経済性」を指摘しているが、このとき、経営者サービスの未利用部分は既存の 業務には使用されないのであるから (そうでなければ未利用になりようがない)、これを有効活用 した場合には純粋な DC として扱いうるだろう。すなわち、「成長の経済性」が活用されていると き、そこに純粋なDC の存在を観察できる可能性がある。6 4 なお、Teece (2014b) は脚注 15 において Penrose が DC について研究しているとみなすこともできると述 べている。 5 ある資産が必要とする稼働率が異なることによって、いくつもの資産の最適生産量は常にそれら複数資産 の最小公倍数になるため、未利用の資産が常に残るという法則。詳しくは高橋 (2002) を参照のこと。 6 ここで述べた Penrose の議論が今後の DC 論の研究に対して持つ示唆としては以下のものが考えられるかも しれない。a. 企業が保有する資源の割引現在価値が増大するような活動は DC に関わるとみてよい。b. 人 的資源の知識の増大は潜在的な生産的サービスを増大させるため、DC とみなしてよい。c. 経営者サービ スを節約するような技術は、企業のさらなる拡張を容易にするため、DC とみなしてよい。d. 経営者に経 験から効果的に学習させるような何らかの手法は、以後の経営者サービスを増大させ、さらなる拡張が容 易になるため、DC とみてよい。e. 企業間比較も、金融企業の研究もあまり意味がない。なぜならば前者 は単に企業者が成長の意図を持たないだけであるかもしれないし、後者は単に国債等の金融資産と同じよ うに株式に投資しているだけかもしれないからである。f. 成長の経済性が達成されているとき、そこに投 入される経営者サービスは純粋なDC であるとみなせる。

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おわりに

DC を環境変化への対応能力として捉えると、様々な混乱が生じる。そこで、Helfat と Winter は 本稿で取り上げた論文において、企業が成長していれば DC があるとみなすという単純な視点に 戻ってきた。それは、DC 論が紆余曲折を経て Penrose の企業成長の理論を再発見したともいえ る。ペンローズによる企業成長の理論は、Teece et al. (1997) や Teece (2007) とも矛盾せず、その 意味でようやくDC 論者間で統一された視点での研究が可能になる可能性が生まれてきたといえる かもしれない上、「純粋な DC」と「DC と業務能力の混合」とを区別する基準をも与えてくれる可 能性がある。

参考文献

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