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受賞論文「高知県浦ノ内湾における在来種オオシロピンノによる外来種ミドリイガイの利用」の紹介(2009年度日本甲殻類学会・学会賞受賞論文研究紹介)

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Carcinological Socie砂

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受賞論文「高知県浦ノ内湾における在来種オオシロビンノによる

外来種ミドリイガイの利用

J

の紹介

A c o m m e n t a r y o n

Utilization o f the non-indigenous green mussel

Perna viridis

b y the native pinnotherid c r a b

Arcotheres sinensis

in U r a n o u c h i Inlet

K o c h i

J a p a n "

山田ちはる

l

ヘ 伊 奇

2

・浅間穂高

3 Chiharu Y a m a d a

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It

ani

a n d H o d a k a A s a m a はじめに 本受賞論文 (Yamada et al., 2009) については,主 著者である山田と共著者2名との 出会いにより,報 告の機会を得られた. 伊谷は,共生生物学の専門家 であり ,本研究の報告を後押しした 浅間は,四国 を 中 心 に オ オ シ ロ ピンノ A rcotherωsinensis の フィー ルド調査や飼育実験をしており (A sa m a and Y a m a o ka, 2008). 当研究地の高知県浦ノ内湾にミド リイガイ P erna viridi訟の移入が認められはじめた頃 から,オオシロピンノの寄生の可能性を指摘し仔 細に検討していた. 浅間による精力的な研究成果が なければ,当研 究の報告には至らなかっただろう. ! 高知大学大学院総合人間自然科学研究科黒潮圏総 合科学専攻 干780-8520 高知県高知市曙町 2-5- 1

Graduate Schoo1 of Kuroshio Science, Kochi Univer-sity, 2-5-1 A kebono, K ochi 780-8520, Japan 高知大学教育学部海洋共生生物学研究室

〒780-8520 高知県高知市曙町 2-5- 1

Laboratory of Marine Symbiotic Bio1ogy, Facu1ty of Education, K ochi U niversity, 2-5- 1 A kebono, Kochi 780-8520, Japan

E-mai1: itani@ kochi-u.ac.jp

3 住鉱テクノ リサーチ株式会社

干792-0002 愛媛県新居浜市磯浦町 17-2

Sumiko Techno Research C o. Ltd., 17-2 Soura, Nii-hama, E hime 792-0002, Japan.

* 現所属 (Present address) 島根県松江水産事務所

干690-0011 松江市東津田町 174トl

Matsue R egiona1 Office of Fisheries Affairs, 1741 -1 Higashi・tsuda,Matsue, Shimane 690-0011 , Japan

本研 究は ,カクレガニ類による宿主利用 の一例 を 示した報告であるが,寄生者のオオシロピンノは在 来穫である一方で,宿主のミド リイ ガイは外来種で あり,天敵開放仮説 E n e m y release hypothesis (ER H) に関連する興味深い現象であると考え ている . 山田 はミドリイガイの高知県への侵入に関する様々な種 間関係に興味を持ち博士課程の研究を開始した ミ ドリイガイをはじめとするイガイ類の基礎生態や幼 生形態の研 究に多くの時間を 費や すことになった が,本研究はその際に得られた種間関係に関する貴 重な成果であった 今回,論文賞という形で評価 を 頂けた ことを光栄に思う. 研究の背景 ミド リイガイはインド 西太平洋の熱帯域を原産 とするイガイ科の二枚貝類で,中国や日本沿岸,さ らに米国南東部やカ リプ海などに移入して広大な分 布域を有する (Baker et al. , 2007) 本種の 日本への 移入は 1967 年が初記録であるが 1970 年代には記録 が途絶え. 1980 年代の再発見以後,特に 1990 年以 降に太平洋沿岸と瀬戸内海で急速に分布が拡大して いる( 植田. 2001 ; 岩崎ほか. 2004) 本 研 究地 で ある高知県浦ノ内湾では,ミド リイガイは 2000 年 頃から生息が認められるようになった(山田,未発 表) 天敵開放仮説 (E町I) は,移入種が移入先では個 体群成長を抑える天敵(捕食者や寄生者) がいない ために,在来種よりも有利で ある可能性を示してい る (Torchin& Laffe町 ,2009) 原産地ではミド リイ ガイがカク レガニ類に よる寄生的影響を受けること

(2)

山田ちはる・伊谷行・浅間穂高

が知られており, Jose & Deepthi (2005) は,インド

のKerala ではミドリイガイ個体群の 6 % がカクレガ ニ A .placunae に寄生され,それらの殻長と重量が 有意に‘L成少することを報告している. これまで日本 に移入したミドリイガイからはカクレガニによる寄 生は報告されていなかったが,本研究において,高 知県浦ノ内湾における在来種オオシロピンノによる 外来種ミドリイガイの利用状況を示すことができた (図 1). 以下に,概要を示す. 内容や文献について は一部省略しているので,詳しくは原著 (Yamada et al., 2009) を参照されたい. ミドリイガイへの寄生状況 高知県浦ノ内湾湾口の筏のフロートからミドリイ ガイの採集を行った 殻長70 から 9 5 m m のミドリ イガイを2008 年 2 月から 2009 年 1 月まで¥ 毎月お よそ30 個体,計 340 個体のミドリイガイを採集し たところ,オオシロピンノの寄生率は1 .8 %であっ た. また, 2008 年 4 月に筏のフロートから,ミド リイガイをランダムに多数採集したところ, 291 個 体のミドリイガイが採集され,寄生率は 3.4% で あ っ た こ の 際 , ミ ド リ イ ガ イ の Condition Index (CI) を測定したところ,寄生された個体では寄生 されていない個体よりも低く( 図2) ,共分散分析 によって有意な差が認められた. 本研究で採集されたオオシロピンノは 15 個 体 ( メス 5 個体,オス 10 個体) で,そのうち 13 個体 は単独で、寄生しており, 1 例のみオスとメスのペア で寄生していた. オオシロピンノのメスの甲幅は平 均8.4 m m ( 最小 7 . 2 m m,最大 9.9 m m ) であり,オ スでは平均3.5 m m (最小 2 . 0 m m,最大 4 . 0 m m) で あった メスの抱卵個体は採集されなかったが, 2 個体では甲幅を超える大きな腹部を持っており,性 成熟していた. オオシロピンノの甲幅とミドリイガ イの殻長との相関は有意ではなかった. この調査によって,原産地でミドリイガイを利用 するA.placunaeは日本において発見されず,在来 種のオオシロピンノがミドリイガイを利用すること カt明 ら か に な っ た オ オ シ ロ ピ ン ノ は マ ガ キ

Crassostrea gigas,ハマグリ Meretrix lusoria,アサ リ Ruditapes philippinarum に加え,ムラサキインコ 図1 . ミドリイガイ( 殻長64.5 mrn) に寄生するオオ シロピンノの雌個体( 甲幅9.3 mrn). Yarnada et al.(2009) より転載 K 也B " 0 0.55 0.50 0.45 !': 0.40

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Shel length l of Perna ν川dis(mm)

図2. オオシロピンノの寄生の有無と, ミド リイガイ

の殻長と condition index (CI) の 関 係 た だ し C I= I ,OOOX湿重量 (g) / [殻長(mrn) X 殻高 (mrn) ×殻幅(mrn)]

Septifer virga加 , ム ラ サ キ イ ガ イ 助Jtilus

galloprovincialis などのイガイ類からも採集されて

いる宿主特異性が低い種である (Takeda & Konishi,

1988) . 宿主特異性の高い寄生者は移入種を利用す る可能性は低いが,宿主特異性の低いオオシロピン ノであるからこそ,新しく日本に移入したミドリイ ガイを利用することができたと考えられる このよ うな状況はニュージーランドでも報告されており, ア ジ ア 原 産 の 外 来 種 で あ る ホ ト ト ギ ス ガ イ Musculista senhousia が 在 来 の 宿 主 特 異 性 の 低 い Pinnotheres novaezelandiaeに寄生されている (Miller et al., 2 0 0 8) オオシロピンノが寄生したミドリイガ イのCI が低かったことから,オオシロピンノはミ ドリイガイに寄生的影響を与えうることを示してい るが,オオシロピンノのミドリイガイへの寄生率が 低かったことは,現時点でミドリイガイの個体群へ の影響が低いことを示唆している E聞 が 示 す よ

(3)

4a“ .. 幽‘ー込品A舗噛白色‘. L i 白色色‘“誌... うに, ミドリイガイは寄生者であるカクレガニ類か らほぼ開放されている状態にあると考えても良いだ ろう E悶fでは,時間の経過とともに在来性の天 敵が移入種を利用し始めることによって,天敵開放 の状態が解除されることも示している (Torchin & Lafferty, 2009).今後,オオ シロピンノによる ミド リイガイの利用が高まるのかどうか,定期的なモ ニ タリングが必要である 在来イガイ類への寄生状況 在来イガイ類のムラサキインコ,クジャクガイ

s

bilocularis. ヒノT リガイモドキ H o r m o mya mutabilis へのオオシロピンノの寄生状況を明らかにするた め,浦ノ内湾湾口部より 2008 年 5 月から 9 月まで 毎月およそ 25 個体ずつ採集した. ヒバリガイモド キとクジャクガイは 2 種が同所的に分布するテトラ ポッドから,ムラサキインコは自然岩礁から採集 し同時期のミドリイガイへのオオシロピンノの寄 生率とこれらの在来 イガイ類における 寄生率を比較 した( 表1) オオシロピンノの寄生率はムラサキ インコとヒ/ " ¥ リガイモドキにおいて, ミドリイガイ とクジャクガイより高かった ムラサキインコとヒバリガイモドキは高い寄生率 でオオシロピンノが寄生することから,これらの個 体群は成長率や繁殖成功が下がるなどの寄生的影響 があるものと考えられる しかしクジャクガイは ヒバリガイモドキと同所的に分布しているにもかか わらず,オオシロピンノに寄生されていなかった 宿主特異性の低い寄生者にも利用されないクジャク カ、イの存在は,今後,オオシロピンノがより高い率 でミドリイガイを利用するようになるのか否かを考 える上で興味深い. オオシロピンノの宿主特異性の メカニズムに関する研究が必要で、ある. ムラサキイガイはどうだったのか ムラサキイガイは日本に 1932 年に移入した温帯 性の外来種である( 岩崎ら. 2004) ムラサキイガ イはかつて日本中に分布を広げていたが,近年,暖 帯 域 か ら は 分 布 が 縮 小 し て い る (Kurihara et al., 2010). 浦ノ内湾ではムラサキイガイはほとんど見 られず, ミドリイガイばかりが見られるようになっ た( 山田ら. 2010) 浦ノ内湾で起きた外来イガイ 類の種交代は海水温の温暖化により説明されるかも しれないし. E R H によってもある程度説明するこ とができるかもしれない. ムラサキイガイはオオシ ロピンノによ って高い寄生率で寄生されており( 植 田・河野. 1987 ;大垣. 1997; 浅 間 ・山岡,未発 表) . この寄生の影響により,ムラサキイガイの繁 殖率は低下しているものと考えられるからである ムラサキイガイが日本に移入した当初からオオシ ロピンノに寄生されていたものかどうかは知見がな いが,受賞論文の発表後,わずかであるが研究の進 展があった 京都大学瀬戸臨海実験所の所蔵標本よ り. 1930 年代のオオシロピンノの標本を調査した ところ. 1939 年に和歌山 県白浜 町瀬戸で採集され た 2 個体のオオシロピンノが保存された標本瓶に宿 主のムラサキイガイが保存されていることを確認し た( 伊谷ら. 2011). オオシロピンノが,日本に移 入して間もないムラサキイガイを利用したことが明 らかになったのである. ただしオオシロピンノに よるムラサキイガイの利用が,徐々に 高まって現 在,高い寄生率となっているのか,移入初期から高 い寄生率であ った のかは不明のままである. 表1 . 浦ノ内湾で 2008 年 5- 9 月に採集されたイガイ類のサイズとオオシロピンノの寄生率 オオシロピンノ 寄生された 寄生されていない イガイ類の種 採集地 の寄生率 イガイ類の殻長 イガイ類の殻長 (%) (mm) (即時 ミドリイガイ 筏のフロー ト 1.4 73.8-94.0 (n=2) 61.6-99.3 ( n = 138) ヒノ〈リガイモドキ テ トラポッド 12.5 19.0-29.8 (n=17) 19.0-33.9 (n = 119) クジャクガイ テ トラポッド

(n=O) 17.2-30.6 (n=129) ムラサキインコ 自然岩礁 20.2 23.8-39.8 (n=25) 17.5-47.7 (n=99)

(4)

山田ちはる・伊谷行・浅間穂高 謝 辞 このたびは論文賞をいただきまして ,あ りが とう ございました. 当時のCrustac巴na Research編集長の 和田恵次先生,その他委員の先生方,そして 渡溢精 一会長 に厚 く御礼申し上げます. 文 献

Asama, H., & Yamaoka, K., 2008. Life history of the pea crab, Pinnotheres sinensis, in terms of infi巴station in the

bivalve mollusk, Sept件r virgatus. J M B A 2 B i o -diversity Records, 5890・1-5

Baker, P., Fajans, J. S., A mold, W . S., Ingrao, D. A ., Marelli,

D. C., & Baker, S. M., 2007. Range and dispersal of a

甘opical marine invader, the Asian green mussel, Perna

viridis, in subtropical waters of th巴Southeastem United

States. Joumal of Shellfish Research. 26: 345-355

伊 谷 行 ・ 山 田 ち は る ・渡部哲也,20日 1930年代 に おけるオオシロピンノによるム ラサキイガイの利 用 京都大学瀬戸臨海実験所所蔵標本か ら一 黒 潮圏科学, 4: 169-174 岩崎敬二 - 木村妙子・木下今 日子・山口寿之 ・西川 輝 昭 ・ 西 栄 二 郎 ・ 山 西 良 平 ・ 林 育 夫 大 越 健 嗣・小菅丈治・鈴木孝男・逸見 泰久 ・風 呂 田利 夫 ・向井 宏,2004. 日本におけ る海産生物の人 為的移入と分散 日本ベントス 学会 自然環境保全 委員会 によ るア ンケート調査の結果か ら 日本ベ ン トス学会誌 59,22-44

Jose, B.,

&

Deepthi, T. R., 2005. Green mussel Perna viridis,

a new host for the pea crab Pinnotheres placunae along the Malabar coast, Kerala. Current Science, 89:

4

I

car

r20(2011)

1090-1091.

Kurihara, T., Kosuge, T., Takami, H., Iseda, M ., & Matsubara, K., 2010. Evidence of a sharper decrease in a non-indigenous mussel 1今1 tilus galloproνincialis than in indigenous bivalves from 1978 to 2006 on Japanese rocky shores. Biological Invasions, 12: 2671-2681 MiJler, A., Inglis, G. J., & Poulin, R., 2008. Use of the

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山田ちはる- 伊谷 行・上 回拓史,2010.高知県浦ノ

内湾におけ るミ ドリ イガイの生息場所利用と水平

図 2. オオシロピンノの寄生の有無と, ミド リイガイ の殻長と condition index   (CI) の 関 係 た だ し C I= I, OOOX 湿重量 (g) /   [殻長 (mrn) X 殻高 (mrn)

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