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人工股関節全置換術術後急性期患者におけるベッドからの起き上がり方法の違いが動作時の股関節角度,時間,疼痛,困難感に与える影響

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(1)理学療法学 第 408 44 巻第 6 号 408 ∼ 414 頁(2017 年) 理学療法学 第 44 巻第 6 号. 研究論文(原著). 人工股関節全置換術術後急性期患者におけるベッドからの 起き上がり方法の違いが動作時の股関節角度,時間, 疼痛,困難感に与える影響* 山 原   純 1)# 萩 尾 佳 介 2) 坂   浩 文 1) 稲 場 仁 樹 1) 谷 口 陽 一 3) 農 端 芳 之 1) 齊 藤 正 伸 2). 要旨 【目的】人工股関節全置換術(total hip arthroplasty;以下,THA)術後急性期患者におけるベッドから の起き上がり方法の違いが,動作時の股関節角度,時間,疼痛,困難感に与える影響を明らかにすること。 【方法】THA 術後第 7 病日の患者 18 名を対象とした。降りる方向と自己介助方法により分けた 6 種類の ベッドからの起き上がり方法を実施し,三次元動作解析装置を用いて分析した。評価項目は動作時股関節 最大角度(屈曲,内転,内旋),動作時間,疼痛と困難感とし,各方法間で比較した。【結果】術側方向へ の起き上がり方法は,非術側方向に比べて,動作時術側股関節最大内転角度が各方法間で有意に低値で あった。最大屈曲角度,最大内旋角度,動作時間,疼痛と困難感は各方法間において差を認めなかった。 【結論】術側方向への起き上がり方法は,非術側方向への方法に比べて,動作時の術側股関節の最大内転 角度が低値を示す。 キーワード 人工股関節全置換術,急性期,起き上がり,股関節角度.  術後急性期に早期離床を進めるためには,まずベッド. はじめに. から起き上がる動作が必要である。この動作も指導対象.  THA 術後患者の周術期管理において,股関節脱臼は. のひとつであり,後方または後側方アプローチ,再置換. 注意すべき合併症のひとつである。その発生原因のひと. 例では,過度な股関節の屈曲・内転・内旋位をとらない. 1). つとして脱臼しやすい肢位をとることが挙げられ ,そ. ように,術直後は腹筋を利用した前方からの起き上がり. の予防のため,リハビリテーションにおいて術中の股関. 3) が指導されている 。しかし,起き上がった後にベッド. 節安定性に基づいた術後の動作指導が患者に対し行われ. のどちら側に降りるのが適切であるかは明らかとなって. ている. 2). 。. おらず,非術側方向から降りると術側股関節が内旋位を とるため,術側から降りる指導を勧めている報告. *. Effect of the Differences in the Methods of Rising from a Bed on Hip Joint Angle, Operating Time, Pain and Difficulty in Patients after Total Hip Arthroplasty 1)独立行政法人国立病院機構 大阪南医療センターリハビリテーショ ン科 (〒 586‒8521 大阪府河内長野市木戸東町 2‒1) Jun Yamahara, PT, MSc, Hirohumi Saka, OT, Masaki Inaba, PT, Yoshiyuki Nobata, PT: Department of Rehabilitation, National Hospital Organization Osaka Minami Medical Center 2)独立行政法人国立病院機構 大阪南医療センター整形外科 Keisuke Hagio, MD, PhD, Masanobu Saito, MD, PhD: Department of Orthopedics, National Hospital Organization Osaka Minami Medical Center 3)独立行政法人労働者健康福祉機構 関西労災病院リハビリテーショ ン科 Yoichi Taniguchi, PT: Department of Rehabilitation, Kansai Rosai Hospital # E-mail: jun_yamahara@yahoo.co.jp (受付日 2016 年 2 月 24 日/受理日 2017 年 6 月 17 日) [J-STAGE での早期公開日 2017 年 7 月 24 日]. 4)5). も. あれば,術側から降りると非術側下肢の自由度が制限さ れるため,非術側から降りる指導を勧めている報告. 6)7). もある。また,起き上がりの自己介助方法も,背臥位か ら長座位となり,自身の上肢で介助し移動させる方法を 勧めている報告. 8). もあれば,上肢での介助は座位が不. 安定となり股関節の過度な屈曲や内転が生じるため,自 身の非術側の下肢で介助し移動させる方法を勧めている 報告. 9). もあり意見が定まっていない。.  指導内容が定まっていない理由として,過去の報告は 臨床の経験による専門家の意見で留まっており科学的な 検証が十分に行われていないことが挙げられる。これま で健常者や高齢者の起き上がりを分析した報告. 10‒12). は.

(2) 人工股関節全置換術術後急性期患者の起き上がり方法による特徴. 409. あるが,THA 術後患者の起き上がりを分析した報告は. そこから開始の合図とともに動作を開始し,ベッド横の. 皆無である。また,これまでの報告は脱臼の危険性にの. 端座位にて体幹の揺れがなくなった時点で動作終了と定. み着目しているが,起き上がりは日常生活において基本. 義した. かつ頻回に行われるものであり,安全性はもとより,短. シリーズ)とベッドのマットレス(モルテン社,ピュア. 時間で行えること,痛みなく楽に行えることも考慮して. レックス)は病棟で使用しているものを使用し,ベッド. 指導する必要がある。. 柵は取り外した。ベッドの高さは一定(57 cm)とし,.  したがって,THA 術後急性期患者に従来指導されて. 背もたれは上げずに水平位とした。. いる自己介助方法や動作方向が異なる起き上がり方法に.  実施する起き上がり方法は 6 種類とした. ついて,動作時の股関節角度のみならず動作時間,疼痛,. の起き上がり方法は,背臥位から長座位に移行し,そこ. 困難感も含めて分析し,方法の違いによる特徴を明らか. から術側方向と非術側方向にそれぞれ,術側下肢の移動. にすることは,臨床において動作指導を行ううえで有意. に自己の介助を用いずに降りる方法(術側方向自己介助. 義な情報であると考える。本研究の目的は,THA 術後. なし,非術側方向自己介助なし),術側下肢の移動に自. 急性期患者におけるベッドからの起き上がり方法の違い. 己の上肢を使用した介助を用い降りる方法(術側方向自. が,動作時の股関節角度,時間,疼痛,困難感に与える. 己上肢介助あり,非術側方向自己上肢介助あり),術側. 影響を明らかにすることである。. 下肢の移動に自己の非術側下肢を使用した介助を用い降. 対象および方法. 11). 。ベッド(パラマウントベッド社,KA-5000. 8)9). 。6 種類. りる方法(術側方向自己下肢介助あり,非術側方向自己 下肢介助あり)とした(図 1)。. 1.対象.  はじめに,被検者に 6 種類の起き上がり方法を理解さ.  被検者には本研究に関する説明を行い書面による同意. せるために,研究補助者が各起き上がり方法をベッド上. を得た。本研究は国立病院機構大阪南医療センター倫理. にて実演し,被検者に以下の指示を与えた。:「測定前. 審査委員会の承認を得(登録番号 25-21) ,ヘルシンキ宣. に降りる方向と動作方法を指示します。測定時はベッド. 言にしたがって実施された。. で仰向けの姿勢から開始の合図とともに体を起こしてく.  対象は当院にて 2013 年 10 月∼ 2014 年 9 月に THA. ださい。そこから事前に指示された方向・方法にて足を. を施行した術後第 7 病日の患者 18 名である。術前より. 降ろしていき,ベッドの横に座った姿勢で止まってくだ. 起き上がりに介助を要すること,体幹,両上肢,非術側. さい。実演した方法のように,介助なしの方法は手足の. 下肢に重篤な機能障害を有する患者は除外した。性別は. 介助を使用せずに手術した足を降ろしてください。手の. 男性 4 名,女性 14 名であり,手術時平均年齢は 67.9 ±. 介助を使用する方法は,自身の手で手術した足を降ろす. 10.4 歳であった。原疾患は変形性股関節症 16 名,大. ことを介助してください。足の介助を使用する方法は,. 骨頭壊死 2 名であり,反対側の股関節に変形性股関節症. 手術した足の下に手術していない足を交差させ,手術し. を有する患者は 2 名,THA の既往歴を有する患者は 6. た足を降ろすことを介助してください。また,起き上が. 名であった。手術は全例とも後側方アプローチで施行さ. りは楽な速度で行ってください」。. れていた。被験者らは術中にインピンジメントテストを.  次に,被検者の体表に 18 個の赤外線反射マーカーを. 施行し,当院の術中安定性の基準である術側股関節角度. 装着した。マーカーを貼りつけた部位は両上前腸骨棘,. が屈曲 110°,および屈曲 90°位での内旋 60°,屈曲 45°. 両腸骨稜,両大. 位での内転 20°および内旋 80°で,インプラントインピ. 下. ンジメントおよび骨性インピンジメント,易脱臼性が生. た。両腸骨稜のマーカーは仙骨部のマーカーの位置を仮. じないことを確認した。被験者は術側股関節の過度な屈. 想計算するために用いた。その後,乱数表を用いて作成. 曲・内転・内旋位を避けるために,ベッドからの起き上. した順番にしたがい,被検者に 6 種類の起き上がり方法. がりは長座位を経由した動作を指導した。当院の THA. をランダムに実施した。測定時にベッドとの接触にて. のクリティカルパスにおいて,術後 1 日目の目標は「立. マーカーが外れた場合,その測定は再試行された。6 施. 位保持ができる」 ,術後 2 日目は「車椅子や歩行器で移. 行を 1 セットとし,計 3 セット実施した。その際,8 台. 動できる」,術後 7 日目は「杖歩行が開始できる」である。. のカメラによる赤外線位置センサー(Motion Analysis.  後述する 6 種類の起き上がり方法について,動作解析. 社,MAC 3D System). システムを用いて,それぞれにおける股関節角度を計測. カー位置を tracking し,その位置関係から動作中の股. した。. 関節角度を計測した。同時に各起き上がり方法における. 外側部,両膝内側部,両膝外側部,両. 外側部,両内果,両外果,両第 2 中足骨頭部であっ. 13). を用いて動作中の体表マー. 動作時間を計測した。また,各起き上がり終了時に 14)15). を用いて動作. 2.測定方法. visual analogue scale(以下;VAS).  起き上がりは,ベッド上の背臥位を開始の姿勢とし,. に対する疼痛と困難感を計測した。疼痛は,左端が「痛.

(3) 410. 理学療法学 第 44 巻第 6 号. 図 1 6 方法の起き上がり動作. みなし」 ,右端が「これ以上の痛みはないくらい痛い」. 下肢介助あり)に分け,各評価項目に関してそれぞれ. と記載された長さ 100 mm の線を使用し計測した。困. の方法間の比較を行った。自己介助なしの 2 方法間の評. 難感は,左端が「ぜんぜんむずかしくない」 ,右端が「か. 価項目の比較には Wilcoxon 符号付順位和検定を用い,. なりむずかしい」と記載された長さ 100 mm の線を使. 自己介助ありの 4 方法間の比較には Friedman 検定と. 用し計測した。. Bonferroni の方法による多重比較を用いた。統計ソフト は EZR,version 1.28.. 3.評価項目  評価項目は,各起き上がり時の術側股関節の最大屈曲. 16). を用いた。有意水準は 5% とした。. 結   果. 角度(°),最大内転角度(°),最大内旋角度(°),動作.  各評価項目における自己介助なしの 2 方法間,自己介. 時間(秒),疼痛(mm) ,困難感(mm)とした。股関. 助ありの 4 方法間の比較を表 1,表 2 に示した。. 節角度は,MAC 3D System で得られたマーカー位置.  自己介助なしの 2 方法間の比較において,術側股関節. データを筋骨格モデリングソフトウェア(musuculo-. 最大内転角度の中央値は,術側方向へ降りる方法が 4°,. graphic 社,SIMM)へ読みこんで算出した。基準とな. 非術側方向が 11°であり術側方向が有意に低値を認めた. る股関節角度は,静止立位時の股関節角度を屈曲伸展. (p < 0.001) 。術側股関節最大内転角度が 20°以上を記録. 0°,内外転 0°,内外旋 0°と設定した。最大角度は,定. した被験者は,非術側方向において 4 名存在し,すべて. 義した起き上がり動作中における各最大値を採用した。. 非術側方向へ降りるために術側下肢を非術側方向に移動. 動作時間は,三次元動作解析装置にて計測した動作記録. したときに記録した。術側股関節最大角度の屈曲と内. より定義した起き上がりに要した値を採用した。VAS. 旋,動作時間,疼痛,困難感は有意差を認めなかった。. は左端から印までの距離を 1 mm 単位で計測し採用し.  自己介助ありの 4 方法間の比較において,術側股関節. た。対象者の各評価項目は 3 セットの平均値を採用した。. 最大内転角度の中央値は,術側方向へ降りる方法におい て自己上肢介助あり,自己下肢介助ありがともに 5°,. 4.統計解析. 非術側方向へ降りる方法において自己上肢介助ありが.  6 方法は,自己介助なしの 2 方法(術側方向自己介助. 11°,自己下肢介助ありが 13°であり,術側方向が有意. なし,非術側方向自己介助なし)と自己介助ありの 4 方. に低値を認めた(p < 0.001) 。術側股関節最大内転角度. 法(術側方向自己上肢介助あり,非術側方向自己上肢介. が 20°以上を記録した被験者は,非術側方向自己上肢介. 助あり,術側方向自己下肢介助あり,非術側方向自己. 助あり,非術側方向自己下肢介助ありにおいてそれぞれ.

(4) 人工股関節全置換術術後急性期患者の起き上がり方法による特徴. 411. 表 1 各評価項目の自己介助なしの 2 方法間の比較(各方法,n = 18) 自己介助なし. 評価項目. P-value. 術側方向. 非術側方向.  屈曲. 66(30 ∼ 85). 59(29 ∼ 83). 0.794.  内転. 4(‒ 6 ∼ 13). 11(2 ∼ 25). < 0.001.  内旋. 12(2 ∼ 31). 14(2 ∼ 32). 0.705. 8.5(4.8 ∼ 16.0). 9.4(3.8 ∼ 15.5). 0.276. 疼痛(mm). 5(0 ∼ 10). 5(0 ∼ 20). 0.717. 困難感(mm). 5(0 ∼ 23). 5(0 ∼ 48). 0.623. 術側股関節最大角度(°). 動作時間(秒). 中央値(最小値∼最大値) Wilcoxon 符号付順位和検定. 表 2 各評価項目の自己介助ありの 4 方法間の比較(各方法,n = 18) 自己上肢介助あり. 評価項目. 自己下肢介助あり. 術側方向. 非術側方向. 術側方向. 非術側方向.  屈曲. 62(35 ∼ 82). 58(32 ∼ 83). 64(26 ∼ 87). 64(28 ∼ 91).  内転. 5(‒ 4 ∼ 12). 11(2 ∼ 21)* †. 5(‒ 4 ∼ 14). 13(‒ 2 ∼ 23)* †.  内旋. 20(‒ 4 ∼ 45). 14(3 ∼ 37). 13(‒ 1 ∼ 27). 10(2 ∼ 26). P-value. 術側股関節最大角度(°). 動作時間(秒). 0.392 < 0.001 0.123. 13.4(5.5 ∼ 39.8). 10.1(5.8 ∼ 26.6). 12.2(5.7 ∼ 34.8). 10.5(5.0 ∼ 24.1). 0.072. 疼痛(mm). 8(0 ∼ 66). 6(0 ∼ 47). 6(0 ∼ 29). 7(0 ∼ 48). 0.68. 困難感(mm). 10(0 ∼ 75). 7(0 ∼ 56). 12(0 ∼ 32). 9(0 ∼ 48). 0.128. 中央値(最小値∼最大値) Friedman 検定,Bonferroni の方法による多重比較 * p < 0.01:vs 術側方向自己上肢介助あり,† p < 0.01:vs 術側方向自己下肢介助あり. 表 3 各方法における術側股関節最大内転角度を記録した動作相(各方法,n = 18) 自己介助なし. 動作相. 自己上肢介助あり. 自己下肢介助あり. 術側方向. 非術側方向. 術側方向. 非術側方向. 術側方向. 非術側方向. 背臥位から長座位に至るまで(n). 13. 1. 14. 1. 9. 1. 長座位から端座位に至るまで(n). 5. 17. 4. 17. 9. 17. 表 4 各方法における術側股関節最大屈曲時の内転角度と内旋角度(各方法,n = 18) 自己介助なし. 術側股関節角度 最大屈曲(°). 術側方向. 非術側方向. 自己上肢介助あり 術側方向. 非術側方向. 自己下肢介助あり 術側方向. 非術側方向. 66(30 ∼ 85) 59(29 ∼ 83). 62(35 ∼ 82) 58(32 ∼ 83). 64(26 ∼ 87) 64(28 ∼ 91). 内転(°). ‒ 6(‒ 16 ∼ 11) 2(‒ 15 ∼ 21). ‒ 6(‒ 25 ∼ 7) 1(‒ 13 ∼ 13). ‒ 3(‒ 13 ∼ 12) 5(‒ 6 ∼ 18). 内旋(°). 1(‒ 11 ∼ 25) 2(‒ 16 ∼ 23). 4(‒ 20 ∼ 18) 2(‒ 18 ∼ 36). ‒ 2(‒ 19 ∼ 16) ‒ 4(‒ 17 ∼ 11). 中央値(最小値∼最大値). 3 名ずつ存在し,すべて非術側方向へ降りるために術側. から長座位に至るまでが半数以上であり,非術側方向へ. 下肢を非術側方向に移動したときに記録した。術側股関. 降りる方法では長座位から端座位に至るまでが多かった。. 節最大角度の屈曲と内旋,動作時間,疼痛,困難感は有.  各方法における術側股関節最大屈曲時の内転角度と内. 意差を認めなかった。. 旋角度を表 4 に示した。各方法における術側股関節最大.  各方法における術側股関節最大内転角度を記録した動. 屈曲角度の最大値は 82 ∼ 91°であり,そのときの内転. 作相を表 3 に示した。術側方向へ降りる方法では背臥位. 角度の最大値は 7 ∼ 21° ,内旋角度の最大値は 11 ∼ 36°.

(5) 412. 理学療法学 第 44 巻第 6 号. であった。.  Alexander らは地域高齢者の起き上がり時間は 3.2 ∼ 5.1 秒であったと報告している. 考   察. 11). 。一方,本研究におけ. る起き上がり時間は 8.5 ∼ 13.4 秒であった。先行研究の.  本研究にて実施した 6 種類の起き上がり方法におい. 対象者は健常者であるが,本研究の対象者は術後 7 日目. て,術側方向に降りる方法は非術側方向と比較して,動. の急性期患者であり,かつ術側下肢の筋力低下があった. 作時の術側股関節の最大内転角度が低値を示した。. と考えられることから,起き上がり動作に時間を要した.  この動作方向による最大内転角度の違いは,降りる方. のは妥当な結果であったと考える。. 向によって必要とする術側下肢の動きが異なるためと考.  樋口らは,健常者の起き上がり時間は左右への動作方. える。術側方向に降りる場合は術側下肢を外転方向に動. 向で違いがなかったと報告しており. かすが,非術側方向に降りる場合は術側下肢を内転方向. き上がり方向による動作時間に差がなかった結果と一致. に動かさなければならない。実際に,非術側方向への起. している。また,自己介助の種類においても差を認めな. き上がり方法において最大内転角度を記録した動作相. かったことより,どの自己介助方法を指導しても動作時. は,ベッドから術側下肢を降ろす動作を含む長座位から. 間に大差は生じないと考える。. 端座位に至るまでに多かった。また,高値な内転角度を.  本研究において,疼痛と困難感はいずれの方法におい. 記録した動作はすべて非術側方向への起き上がり方法で. ても 20 mm 以下であり,患者負担の少ない動作であっ. あり,術側下肢を非術側方向すなわち内転方向に移動し. たと考えられる。ただし,動作方向,自己介助の種類に. たときであった。. よる違いは認めなかったが,自己介助ありの 4 方法は被.  先行研究において,Ford-Smith らは 30 ∼ 50 歳台の. 験者による結果のばらつきが大きかった。被験者ごとに. 健常成人の右側への起き上がり動作の分析において,お. 行いやすい自己介助方法が異なる可能性があり,患者に. よそ 4 割の被験者は降りる方向と反対側の左下肢が内旋. 合わせた自己介助方法を指導することが望ましいと考. する動作パターンであったと報告していた. 12). 。本研究. 10). ,本研究の,起. える。. においても,非術側方向への起き上がり方法において.  本研究の限界として挙げられる点は,第 1 に研究の外. は,反対側の術側股関節が最大 2 ∼ 37°内旋していた。. 的妥当性である。ベッドからの起き上がりは手術の術. 一方で本研究では両側への起き上がりを実施したことか. 式,患者の関節可動域,筋力,他部位の機能障害,日常. ら降りる方向と同側下肢の分析も行えており,術側方向. 生活動作能力,ベッド周囲の環境など様々な要因が関連. への起き上がり方法においても同側の術側股関節が最大. するため,本研究の結果をすべての THA 術後患者にあ. ‒ 4 ∼ 45°内旋していた。しかしながら動作方向による. てはめられない。しかしながら,本研究の方法は,術前. 術側股関節の最大内旋角度に差はなく,最大内転角度に. の起き上がりが自立,かつ他部位に重篤な機能障害を有. 違いを認めた。先行研究においては,ビデオカメラにて. しない患者を対象に選択し,また術式と測定時のベッド. 撮影された動画より評価者が右側への起き上がりのみの. の条件は一定としているため,比較するうえでの妥当性. 運動パターンを分析していたが,本研究では,THA 術. はあったと考える。第 2 に,対象が術後第 7 病日の患者. 後急性期患者の両側への起き上がりについて,動作解析. であったため,術直後から術後第 7 病日までにおける. システムを用いることで動作を三次元で捉え,かつ動作. THA 術後患者の起き上がり方法については,本研究の. 中の股関節角度を詳細に分析することが可能であった。. 結果をあてはめることができないことである。術後第 7.  各方法の起き上がり時に認めた術側股関節最大屈曲時. 病日を選択した理由は,術直後は全身状態が不安定,点. の角度は,屈曲の単独肢位が 100°未満,屈曲・内旋,. 滴を行っているなど,リスク管理と患者負担が大きいた. 屈曲・内転・内旋の複合肢位も内旋角度が 45°未満であ. めである。しかしながら,術側方向への起き上がり方法. り,ともに術中インピンジメントテストの角度まで到達. は過度な股関節内転位を招かないという本研究で得られ. していないことから,本研究の被験者においては,従来. た結果は,術側下肢の筋力低下がより顕著と考えられる. の起き上がり方法はいずれも脱臼の危険性が低かったと. 第 7 病日以前にも十分あてはまる可能性がある。第 3 に,. 考える。しかしながら,反復脱臼例や再置換術後例など. 体表マーカーを使用した動作解析システムは骨運動と皮. 脱臼リスクの高い患者においては,従来の起き上がり方. 膚との間の位置関係のずれより,計測された関節角度に. 法が必ずしも安全であるとはいえず,過度な股関節の屈. 測定誤差が生じる。萩尾らは,健常成人にて光学式位置. 曲・内転・内旋位は可能な限り回避すべきである。その. センサーと Open MRI で計測された股関節角度を比較. ような脱臼リスクの高い患者においては,本研究の結果. し,体表マーカーから計測された股関節角度の誤差は屈. より,非術側方向と比べて過度な股関節内転位を招かな. 曲・内転・内旋いずれの方向も平均 5°以内であったと. い術側方向への起き上がりを指導することで,脱臼リス. 報告している. クを軽減させる可能性がある。. いると考えられるが,起き上がり方向による最大内転角. 17). 。本研究においても測定誤差が生じて.

(6) 人工股関節全置換術術後急性期患者の起き上がり方法による特徴. 度の差は 5°以上あり,測定誤差を加味しても臨床的意 義のある差であったと考える。第 4 に,病棟生活で普段 行っている起き上がり方法が結果に影響している可能性 があることである。本研究を実施する以前における当院 の起き上がり方法の指導は,本研究の設定と同様の長座 位を経由した方法を行っているが,降りる方向は定めて おらず,自己介助方法も指導者によって異なっていた。 したがって,指導内容によるバイアスは少ないと考えら れるが,病棟生活において普段行っている起き上がり方 法による習慣が,結果に対するバイアスとなった可能性 はある。 結   論  本研究の THA 術後急性期患者に,動作方向と自己介 助方法により分けた 6 種類のベッドからの起き上がり方 法を実施した結果,動作時の術側股関節の最大内転角度 は,非術側方向への起き上がり方法よりも術側方向への 起き上がり方法において低値を示した。その他の最大屈 曲角度,最大内旋角度,動作時間,疼痛と困難感は,動 作方向や自己介助方法による違いを認めなかった。 文  献 1)伊藤 浩,松野丈夫:THA の脱臼と対策 THA 術後脱臼 の病態.関節外科.2006; 25: 383‒387. 2)大谷卓也,藤井英紀,他:THA の脱臼と対策 当科にお ける THA 術後脱臼予防の取り組み.関節外科.2006; 25: 51‒56. 3)大塚陽介,北島麻花,他:リハビリテーション技術シリー ズ 股関節手術患者の援助技術.医療.2007; 61: 271‒277. 4)徳本裕子,稲富かおる:絶対に必要なこと&指導の工夫 を教えて! わかりやすい THA 患者の看護の工夫 指導 の工夫編 脱臼予防に関する指導の工夫.整形外科看護. 2012; 17: 880‒884. 5)今利英子,近藤梨恵,他:拡大版 新人ナースがまず覚え たい! コマ送り写真でわかる! 整形外科の基本看護技術. 413. (2) THA 後のトランスファー.整形外科看護.2013; 18: 434‒444. 6)川浪美紀:エビデンスを再確認! THA&TKA の術前・ 術後ケア 他施設のケアがわかるアンケート結果つき 患者指導のポイント THA の患者指導.整形外科看護. 2013; 18: 53‒60. 7)松原正明,平澤直之,他:THA の脱臼と対策 MIS-THA における術後管理とリハビリテーション.関節外科.2006; 25: 437‒442. 8)冨士武史,河村廣幸,他:ここがポイント! 整形外科疾 患の理学療法(改訂第 2 版).金原出版,東京,2006,pp. 176‒179. 9)佐 々 木 伸 一, 嶋 田 誠 一 郎, 他: 動 作 分 析 の 基 礎 と 実 際 人工股関節全置換術後患者の起居動作分析.理学療法. 2002; 19: 925‒933. 10)樋口朝美,鈴木博人,他:健常者におけるベッド上での起 き上がり動作パターンの研究.東北理学療法学.2014; 26: 58‒61. 11)Alexander NB, Fry-Welch DK, et al.: Quantitative assessment of bed rise difficulty in young and elderly women. J Am Geriatr Soc. 1992; 40: 685‒691. 12)Ford-Smith CD, VanSant AF: Age differences in movement patterns used to rise from a bed in subjects in the third through fifth decades of age. Phys Ther. 1993; 73: 300‒309. 13)Taylor-Hass JA, Huqentobler JA, et al.: Reduced hip strength is associated with increased hip motion during running in young adult and adolescent male long-distance runners. Int J Sports Phys Ther. 2014; 9: 456‒467. 14)横山寛子,中野渡達哉,他:人工股関節全置換術後早期に おける実用的歩行機能に関する身体機能的因子について 股関節可動域と疼痛に着目して.東北理学療法学.2014; 26: 118‒123. 15)沖 井  明, 鈴 鴨 よ し み, 他: 下 肢 人 工 関 節 置 換 術 術 後 の転倒関連自己効力感は術後の QOL に関連する.The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine.2015; 52: 55‒62. 16)Kanda Y: Investigation of the freely available easy-touse software ‘EZR’ for medical statistics. Bone Marrow Transplant. 2013; 48: 452‒458. 17)Hagio K, Sugano N, et al.: A novel system of fourdimensional motion analysis after total hip arthroplasty. J Orthop Res. 2004; 22: 665‒670..

(7) 414. 理学療法学 第 44 巻第 6 号. 〈Abstract〉. Effect of the Differences in the Methods of Rising from a Bed on Hip Joint Angle, Operating Time, Pain and Difficulty in Patients after Total Hip Arthroplasty. Jun YAMAHARA, PT, MSc, Hirohumi SAKA, OT, Masaki INABA, PT, Yoshiyuki NOBATA, PT Department of Rehabilitation, National Hospital Organization Osaka Minami Medical Center Keisuke HAGIO, MD, PhD, Masanobu SAITO, MD, PhD Department of Orthopedics, National Hospital Organization Osaka Minami Medical Center Yoichi TANIGUCHI, PT Department of Rehabilitation, Kansai Rosai Hospital. Purpose: The purpose of this study was to clarify the effect of the different methods of rising from a bed on hip joint angle, operating time, pain and difficulty faced by patients during the early postoperative period after total hip arthroplasty (THA). Methods: Eighteen patients were examined on the 7th day after THA. 3-D motion analysis was performed, in which the participants were asked to rise from a bed using six different methods, which were classified as directions to get off using self support. The hip joint maximum angle during operation (flexion, adduction, internal rotation), operating time, pain, and difficulty were evaluated and compared between the methods. Result: The hip maximum adduction angle of the side affected during the operation was significantly lower that of the non-affected side for each method of rising. There were no significant differences in the hip maximum flexion angle and internal rotation angle of the affected side, operating time, pain, and difficulty among the methods. Conclusions: The hip maximum adduction angle of the side affected during the operation was lower than that of the non-affected side for all the methods. Key Words: Total hip arthroplasty, Acute phase, Rising from a bed, Hip joint angle.

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