ストレッチング体操が植込み型除細動器あるいは両心室ペーシング機能つき植込み型除細動器を装着した運動習慣のない慢性心不全患者の血管内皮機能と運動耐容能に与える影響
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(2) 176. 理学療法学 第 45 巻第 3 号. 一方で,ストレッチング体操は,CHF 患者において. チング体操等を含む中等度から高強度の運動を,1 日 20. 持久力トレーニングの前に実施するウォームアップとし. 分以上,週 3 回以上実施している患者と定義し. 7). 11). ,定. 。ストレッチング体操は,持久. 期的な運動習慣の有無は,問診で理学療法士により確認. 力トレーニングと比較して低負荷であり,また,屋内で. された。本研究は,国立病院機構静岡医療センターの倫. 安全に行うことが可能である。近年,心疾患患者に対す. 理委員会の承認を得た後,ヘルシンキ宣言に則り実施さ. るストレッチング体操が,血管内皮機能障害を改善する. れた(承認番号 23-4)。研究に参加した対象は,事前に. て広く利用されている. ことが報告された. 8)9). 。CHF 患者において,血管内皮. 機能障害の改善は,運動耐容能を増加させる要因のひと つとして考えられていることから. 本研究の趣旨と目的および起こり得る可能性についての 説明を受け,書面で同意した。. 10). ,ストレッチング. 体操は,血管内皮機能障害の改善を介して運動耐容能を. 2.研究プロトコル. 増加させる可能性があると考えられる。しかし,ICD. 本研究は単一施設,非盲検,無作為化比較試験である。. あるいは CRT-D を装着した CHF 患者においてストレッ. 患者を 4 週間のストレッチング体操を実施するストレッ. チング体操が,運動耐容能を増加させるか否かは明らか. チング群と,従来の生活習慣を 4 週間継続する対照群の. にされていない。. 2 群に無作為に分類した。まずはじめに,研究開始日の. そこで本研究は,ICD あるいは CRT-D を装着した. 前日に,血管内皮機能検査,血液検査,運動機能検査,. CHF 患者に対する 4 週間のストレッチング体操が,血. そして身体活動量の測定を実施した。その後,ストレッ. 管内皮機能と運動耐容能に与える影響を検討し,同時に. チング群の患者は,ストレッチング体操を毎日,4 週間. ストレッチング体操が自宅で安全に実施することができ. 継続して行った。一方で,対照群の患者は,従来の生活. るか否かを確認することを目的とした。. 習慣を 4 週間続けた。患者には,研究期間の間,ストレッ. 対象と方法. チング群に指導したストレッチング体操を除いて,その 他のすべての運動を実施しないように指示をした。身体. 1.対象. 活動量の測定は 4 週間の研究期間を通して実施した。研. 2008 年 1 月∼ 2014 年 1 月までの間に,国立病院機構. 究終了日の翌日には,研究期間前に行った検査と同じ内. 静岡医療センターの循環器科で ICD あるいは CRT-D の. 容の検査を再び実施した。. 植え込み術が行われ,入院中の理学療法が行われた患者. なお,本研究の介入は 2013 年 1 月∼ 2014 年 6 月の間. 93 名の内,後述する除外基準に該当しない外来患者 32. に実施された。. 名を本研究の対象とした。すべての患者は,虚血性心筋 症あるいは拡張型心筋症を原因とする CHF 患者であり,. 3.ストレッチング体操. 心不全症状に対する適切な薬物治療が行われていた。ま. ストレッチング体操は,手関節掌屈,手関節背屈,体. た,研究開始の 1 ヵ月以上前から心不全による入院がな. 幹回旋,閉脚位における体幹屈曲,開脚位における体幹. く, そ し て 主 観 的 な 症 状 と New York Heart Associ-. 屈曲,片膝位における股関節伸展そして足関節背屈の 7. ation(以下,NYHA)の心機能分類で著明な変化を認. 8) 種類のストレッチングから構成されている(図 1) 。. めない患者であった。ICD の植え込みは,致死的心室. 患者は,それぞれのストレッチングにおいて,床に敷い. 性不整脈を認めた患者,あるいは将来に致死的心室性不. たマットの上あるいは椅子の上で,30 秒間の骨格筋の. 整脈の出現を予測された患者に対して行われた。CRT-D. 伸張と 20 秒間の弛緩を交互に 2 回ずつ繰り返した。ス. の植え込みは,CHF の標準的な薬物治療にもかかわら. トレッチング中の息こらえをさけるため,患者には骨格. ず NYHA class III ∼ IV,左室駆出率(以下,LVEF). 筋の伸張時に 1 ∼ 30 までの数を唱えるように指導した。. < 35%そして心電図の QRS 幅≧ 120 ミリ秒のすべての. また,各ストレッチングにおいて,患者には関節や筋肉. 条件を満たし,かつ致死的心室性不整脈を認めた患者,. に疼痛を感じない強度で筋肉の伸張を行い,筋肉の伸張. あるいは将来的に致死的心室性不整脈の出現を予測され. 後は完全に弛緩するように指導した。ストレッチング体. た患者に対して行われた。ICD あるいは CRT-D の植え. 操の指導は,研究開始日とその翌日の 2 日間,理学療法. 込みから 3 ヵ月未満の患者,LVEF が 40%以上の患者,. 士によって実施された。その後,患者は,指導された通. 定期的な運動習慣や喫煙習慣を有する患者,中枢神経疾. りのストレッチング体操を自宅で継続した。また,スト. 患,整形外科疾患または認知症を合併している患者,研. レッチング体操を実施する際には,本研究用に作成した. 究期間中に内服薬が変更となった患者,そして研究の同. オリジナルのビデオを見ながらストレッチング体操を行. 意が得られなかった患者は本研究の対象から除外した。. うように指導した。ストレッチング体操の実施には,約. なお,定期的な運動習慣を有する患者とは,持久力ト. 20 分の時間を要した。. レーニング,レジスタンストレーニングそしてストレッ.
(3) ストレッチング体操が血管内皮機能と運動耐容能に及ぼす影響. 177. 図 1 ストレッチング体操 (a)手関節背屈, (b)手関節掌屈, (c)体幹回旋, (d)閉脚位における体幹屈曲, (e)開脚位における体幹屈曲, (f)股関節伸展,(g)足関節背屈.. 4.調査および測定項目. 着した指尖プローブによって指尖容積脈波を計測した。. 患者背景因子として,年齢,性別,body mass index. はじめにベースラインの指尖容積脈波を計測し,続いて. (BMI),心不全の原因,合併症,NYHA の心機能分類,. 上腕のカフを SBP の圧にさらに 60 mmHg を加えた圧,. 収縮期および拡張期血圧(SBP と DBP) ,心拍数(HR),. あるいは 200 mmHg の圧まで加圧してテスト肢を駆血. 血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド(以下,BNP),ペー. した。テスト肢の指尖容積脈波の波形が消失した時点か. スメーカーの種類,ペースメーカー植え込みから研究開. ら 5 分間駆血した後,駆血を解放して指尖容積脈派を再. 始までの期間,心臓超音波検査により測定された LVEF. び 6 分間計測した。RHI は,ベースラインの指尖容積. そして服薬状況をカルテから調査した。また,抑うつ状. 脈波の振幅に対する駆血開放後の指尖容積脈波の振幅の. 態を Self-rating Depression Scale(以下,SDS)を用い. 比として表され,コンピュータで自動的に解析されて表. て,研究開始前日に理学療法士が評価した. 12). 。SDS は. 示される。. Zung によって抑うつ状態を主観的に評価するために開. 運動機能の指標として,運動耐容能の指標である 6 分. 発された検査であり,40 点以上を抑うつ傾向あり,40. 間歩行距離(以下,6MWD)と,体幹とハムストリン. 点未満を抑うつ傾向なしとしている. 12). 。. グスの柔軟性の指標である sit-and-reach(SR)test を. 血管内皮機能の指標として,Endo-PAT 2000(Itamar. それぞれ測定した。6MWD は,CHF 患者において簡便. Medical, Caesarea, Israel)を使用して反応性充血指数. に運動耐容能を評価可能で,予後予測にも信頼できる指. (以下,RHI)を測定した. 13). 。先行研究では,いくつか. の薬剤は,RHI の値に影響を与えることが知られてい るため. 14). ,患者には検査の 9 時間前からすべての薬剤. の服用をしないように指示をした. 15). 。RHI の測定は,. 標として確認されている. 16). 。6MWD の測定は,アメリカ. 胸部医学会(American Thoracic Society)による 6MWD 試験のガイドラインに則り,30 m の廊下を歩行路として 用いた. 17). 。患者には,6 分間でできるだけ長い距離を. 背臥位で 15 分間の安静の後に実施した。まず,患者の. できるだけ早い速度で歩くように説明し,途中で息切れ. 片方の上腕に血圧測定用のカフを巻き,カフを巻いた上. や疲労を感じたら歩行速度を落すこと,あるいは立ち止. 肢をテスト肢,反体側を対照肢として,両側の示指に装. まって休むことを許可した。sit-and-reach(SR)test は,.
(4) 178. 理学療法学 第 45 巻第 3 号. 長座位体前屈計(T-284, TOEI LIGHT, Soka, Japan)を 用いて実施した. 18). 。患者は,まず壁に背を向け,臀部,. 身体活動量を示す。ストレッチング群におけるストレッ チング体操の実施頻度は 6 ± 1 回 / 週であった。また,. 背部および頭部を壁に密着させた状態で,長座位の姿勢. 研究期間中の身体活動量は両群に有意な差はなく,両群. をとった。その後,両上肢と膝を伸展したまま上体を可. ともに低い値であった。BNP の変化も両群に研究期間. 能な限り前屈し,指尖が移動した距離を長座位体前屈計. 前後で有意な差はなく,研究期間中の MACE と ICD の. で測定した。SR は,指尖が移動した距離の値とし,そ. 作動は両群ともに認めなかった。. の単位を cm で表した。なお,SR は 2 度測定し,その. 研究期間前後における RHI,6MWD および SR の変. 最大値を採用した。. 化を表 3 に示す。対照群の RHI,6MWD および SR は. 身体活動量の指標として,患者の 1 日あたりの歩数に. 研究期間前後で有意な変化を認めなかったが,ストレッ. 加えて,中等度∼高強度の身体活動に費やした時間を,. チング群の RHI,6MWD および SR は研究期間前と比. 加速度計(Lifecorder GS, SUZUKEN, Tokyo, Japan)を. 較して研究期間後に有意に増加した(それぞれ,P<0.01,. 使用して測定した. 19). 。患者は,睡眠時と入浴時を除い. P<0.05,P<0.01) 。. た 1 日中,加速度計を腰部に装着した。加速度計によっ. 4 週間の研究期間前後の RHI の変化量(Δ RHI)と. て記録された垂直方向の加速度データは,コンピュータ. 6MWD の変化量(Δ 6MWD)との関係を図 2 に示す。. にインストールされた専用のソフトウェア(Liflyzer 05. Δ RHI とΔ 6MWD との間に有意な正の相関を認めた. coach, SUZUKEN, Tokyo, Japan)によって解析され, 独自のアルゴリズムを使用して,9 段階の身体活動レベ ルに変換された。Lifecorder を使用した先行研究による. (r=0.53,P<0.05) 。 考 察. と,9 段階の身体活動レベルのうち,身体活動レベルの. 本研究により,ICD あるいは CRT-D を装着した CHF. 1 ∼ 3 は軽強度(<3.6 metabolic equivalents [METs]) ,. 患者に対するストレッチング体操は,血管内皮機能障害. 4 ∼ 6 は中等度強度(3.6 ∼ 6.0 METs),そして 7 ∼ 9. を介して運動耐容能を改善することが示された。. は高強度(>6.0 METs)の身体活動にそれぞれ相当する. 本研究において,ストレッチング群の RHI が研究期. 20). 。よって,本研究では,身体活動. 間後に有意に上昇したことから,4 週間のストレッチン. レベルの 4 ∼ 9 に費やした 1 日あたりの時間を,中等度. グ体操は血管内皮機能障害を改善したことが明らかと. ∼高強度の身体活動に費やした時間(moderate-to-vigor-. なった。本研究において血管内皮機能の指標として使用. ous intensity physical activity time [MVPA 時間 ])と. した RHI は,指尖部の微小血管における一酸化窒素(以. した。1 日あたりの歩数と MVPA 時間は,4 週間の研. 下,NO)依存性血管拡張能を反映する指標であること. 究期間中の平均値とした。. が知られている. ストレッチング体操の安全性について,心不全の重症. する 4 週間のストレッチング体操は,酸化ストレスの軽. 度変化の指標として BNP を,そして研究期間中の主要. 減を介して NO の利用能を増加させ,血管内皮機能障害. と報告されている. 21). 心血管イベント(MACE). と ICD の作動について調. 査した。. 22). 。先行研究によると,CHF 患者に対. を改善することが報告されている. 8). 。また,Nishiwaki. らは,中年の男性に対して,本研究と同様のストレッチ ング体操を 4 週間実施したところ,脈波伝播速度(以下,. 5.統計解析. baPWV)の値が低下したことを報告している 2. 23). 。baPWV. 2 群間の患者背景因子の比較を行うために,χ 検定あ. の値は低いほど血管内皮機能が良好であることが知られ. るいは対応のない t 検定を実施した。研究期間前後に測. ており. 定した血管内皮機能そして運動機能の比較を行うため. 能を改善した本研究の結果を支持すると考えられる。. に,対応のある t 検定を実施した。また,研究期間前後. 本研究において,ストレッチング群の 6MWD が研究. における血管内皮機能の変化と運動耐容能の変化との関. 期間後に有意に上昇したことから,4 週間のストレッチ. 係を,Pearson の積率相関係数を使用して解析した。す. ング体操は,運動習慣のない CHF 患者の運動耐容能を. べてのデータは平均値±標準偏差で表し,有意水準は. 改善することが明らかとなった。CHF 患者の運動耐容. P<0.05 とした。解析は,SPSS 19.0 for Windows(SPSS. 能は低下していることが知られているが,その要因のひ. Statistics, IBM, Tokyo, Japan)を用いて実施した。. とつとして,血管内皮機能の低下による運動中の末梢骨. 結 果. 24). ,4 週間のストレッチング体操が血管内皮機. 格筋への循環不全が挙げられている. 25)26). 。一方で,継. 続的に運動療法を実施することによって,血管内皮機能. 患者背景因子を表 1 に示す。すべての患者背景因子に. の改善を介して運動耐容能が増加することが多くの先行. おいて,2 群間に有意な差は認められなかった。. 研究で示されている. 表 2 にストレッチング体操の実施頻度と研究期間中の. 者に対して有酸素運動を実施した結果,血管内皮機能障. 27)28). 。Hambrecht らは,CHF 患.
(5) ストレッチング体操が血管内皮機能と運動耐容能に及ぼす影響. 179. 表 1 患者背景因子. 男性 / 女性(例) 年齢(歳). 対照群. ストレッチング群. p. 13 / 3. 14 / 2. ns. 69 ± 8. 70 ± 10. ns. 23.0 ± 3.5. 22.6 ± 2.9. ns. 2 / 11 / 3. 3 / 12 / 1. ns. 7/9. 8/8. ns. 左室駆出率(%). 30 ± 8. 29 ± 10. ns. BNP(pg/mL). 246 ± 213. 217 ± 179. ns. 15 ± 13. 20 ± 16. ns. 糖尿病. 3. 2. ns. 高血圧症. 11. 12. ns. 脂質異常症. 12. 10. ns. 5 / 11. 4 / 12. ns. アンジオテンシン II 受容体拮抗薬. 10. 13. ns. アンジオテンシン変換酵素阻害薬. 4. 4. ns. 2 BMI(kg/m ). NYHA 心機能分類 Class I/II/III(例) 心不全の病因(ICM / DCM). ペースメーカー植え込みから研究開始までの期間(月) 合併症(例). ICD / CRT-D(例) 内服薬(例). β 遮断薬. 15. 14. ns. 利尿薬. 13. 13. ns. スタチン. 15. 14. ns. 6. 7. ns. 3,003 ± 1,293. 2,571 ± 1,125. ns. 2.8 ± 1.9. 2.6 ± 2.2. ns. 44.6 ± 5.0. 41.3 ± 6.5. ns. アミオダロン 研究期間前の 1 日あたりの歩数(歩 / 日) 研究期間前の MVPA 時間(分) Self-rating Depression Scale(点). 平均値±標準偏差.BMI, body mass index;NYHA, New York Heart Association;ICM,虚血性心筋症;DCM,拡 張型心筋症;BNP, 血漿脳性ナトリウム利尿ペプチド;ICD,植込み型除細動器;CRT-D,両心室ペーシング機能つ き植込み型除細動器;MVPA 時間,中等度∼高強度の身体活動に費やした時間.ns, not significant.. 表 2 ストレッチング体操の実施頻度,1 日あたりの身体活動量,安全性に関する指標 対照群 ストレッチング体操の実施頻度(回 / 週) 1 日あたりの歩数(歩 / 日) MVPA 時間(分) 研究期間後の BNP(pg/mL). ストレッチング群. ―. 6±1. 3,311 ± 1,231. 2,727 ± 1,011. 3.5 ± 3.6. 2.5 ± 3.4. 168 ± 160. 268 ± 246. 研究期間中の MACE(例). 0. 0. 研究期間中の ICD の作動(例). 0. 0. 平均値±標準偏差.MVPA 時間,中等度∼高強度の身体活動に費やした時間;BNP,血漿 脳性ナトリウム利尿ペプチド;MACE,主要心血管イベント;ICD,植込み型除細動器.. 表 3 研究期間前後における RHI,6MWD および SR の変化 対照群 研究期間前 RHI 6MWD (m) SR (cm). ストレッチング群 研究期間後. 研究期間前. 研究期間後. 1.9 ± 0.3. 1.8 ± 0.2. 1.7 ± 0.3. 2.2 ± 0.3*. 425 ± 112. 424 ± 108. 410 ± 123. 431 ± 124**. 25 ± 11. 25 ± 14. 28 ± 9. 32 ± 9*. 平均値±標準偏差.RHI,反応性充血指数;6MWD,6 分間歩行距離;SR,sit-and-reach. *P<0.01 vs. 研究期間前;**P<0.05 vs. 研究期間前..
(6) 180. 理学療法学 第 45 巻第 3 号. は 1 週間に平均 6 回であり,アドヒアランスが高い運動 様式であると考えられた。さらに,研究期間中の BNP の有意な変化はなく,研究期間中の MACE と ICD の作 動も認めなかった。以上のことから,ストレッチング体 操は,ICD あるいは CRT-D を装着した運動習慣のない CHF 患者において,血管内皮機能障害を改善し運動耐 容能を増加させるために効果的で,かつ自宅で安全に実 施することが可能な運動様式であると考えられた。 本研究は,いくつかの限界を含んでいる。本研究はス トレッチング体操が血管内皮機能と運動耐容能の改善を 図 2 研究期間前後の RHI の変化量と 6MWD の変化量との 関係 RHI,反応性充血指数;6MWD,6 分間歩行距離;Δ RHI, 研 究 期 間 前 か ら 研 究 期 間 後 に か け て の RHI の 変 化 量; Δ 6MWD,研究期間前から研究期間後にかけての 6MWD の変 化量.. 検討したはじめての研究であったため,サンプル数が少 ないパイロットスタディとして,実施した。本研究の介 入期間前後の 6MWD の平均値と標準偏差から効果量を 求め(効果量 0.24),パワー 0.8,有意水準 0.05 でサン プルサイズを計算すると,それぞれの群で 69 のサンプ ルが必要であった。今後,十分な検出力のもとで統計解 析を実施するためにも,サンプルサイズを増やすことが. 害と運動耐容能が増加し,さらに運動前後の血管内皮機. 重要である。また,自宅における運動の実施頻度は自己. 能の変化率と運動耐容能の変化率の間に有意な正の相関. 申告性であり,正確性が欠ける可能性がある。さらに,. 10). 。また,心不全患者に. 本研究の介入期間は 4 週間であったが,最適な介入期間. 対する機械補助下での極低強度の自転車運動であって. は明らかにできていない。最後に,本研究は定期的な運. も,血管内皮機能の改善と 6 分間歩行距離を増加させる. 動習慣がない CHF 患者のみを対象としているため,ス. を認めたことを報告している. 29). 。さらに,重症心不全患者に. トレッチング体操が運動習慣を有する CHF 患者におい. 対して 1 日 1 回 45 分の和温療法を実施したところ,わ. て血管内皮機能や運動耐容能を改善するか否かは明らか. ずか 10 日間で有意に 6MWD が増加したことも報告さ. になっていない。今後,これらに関してさらなる調査が. ことが報告されている. れている. 30). 。和温療法が運動耐容能を改善するメカニ. ズムのひとつとして,NO の産生を刺激することによっ て血管内皮機能を改善し,運動中の全身性血管系の拡張 をもたらすことが考えられている. 31). 。本研究において,. 重要であると考えられる。 結 論 ICD あるいは CRT-D を装着した運動習慣のない CHF. 研究期間前後で RHI と 6MWD が有意に増加し,さらに. 患者に対する 4 週間のストレッチング体操は,血管内皮. 研究期間前後の RHI の変化量と 6MWD の変化量との間. 機能障害の改善を介して運動耐容能を増加する効果があ. に有意な正の相関を認めた。これらのことから,低強度. ると考えられた。ストレッチング体操は,ICD あるい. のストレッチング体操は 4 週間という短期間であって. は CRT-D を装着した CHF 患者の運動療法として自宅. も,運動習慣のない CHF 患者の NO 依存性血管拡張能. で安全に実施することが可能な運動様式であると考えら. を改善し,運動中の末梢骨格筋の血流量を増加させた結. れた。. 果,運動耐容能の改善を生じたと考えられた。一方で, 臨床的に意味があると判断される 6MWD の増加量は, 50 m 以上であると報告されている. 32). 。本研究において,. ストレッチング群の研究期間前後の 6MWD の増加量は 平均で 24 m であった。よって,臨床的に意味がある 6MWD の増加を得るためには,4 週間という介入期間 は短かった可能性が考えられた。 本研究では,研究前から運動習慣を有している対象は 除外している。また,身体活動量計により評価した患者 の研究期間中の身体活動量は,きわめて低い値であっ た。このことから,本研究で認められた血管内皮機能障 害の改善と運動耐容能の増加は,本研究の介入効果であ ると考えられる。また,ストレッチング体操の実施頻度. 利益相反 本研究において開示すべき利益相反はない。 文 献 1)Belardinelli R, Capestro F, et al.: Moderate exercise training improves functional capacity, quality of life, and endothelium-dependent vasodilation in chronic heart failure patients with implantable cardioverter defibrillators and cardiac resynchronization therapy. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil. 2006; 13: 818‒825. 2)Freedenberg V, Thomas SA, et al.: Anxiety and depression in implanted cardioverter-defibrillator recipients and heart failure: a review. Heart Fail Clin. 2011; 7: 59‒68. 3)Sears SF, Matchett M, et al.: Effective management.
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(8) 182. 理学療法学 第 45 巻第 3 号. 〈Abstract〉. Effects of Stretching Exercises on Vascular Endothelial Dysfunction and Exercise Capacity in Chronic Heart Failure Patients with an Implantable Cardioverter Defibrillator or Cardiac Resynchronization Therapy-defibrillator. Michitaka KATO, PT, PhD Department of Shizuoka Physical Therapy, Faculty of Health Science, Tokoha University Yuji MORI, PT, Kaito KOCHI, PT, Daisuke MORIMOTO, PT, Seina KADOTANI, PT, Kazuya KITO, PT, Takayuki HAMA, PT Department of Rehabilitation, Shizuoka Medical Center Michio OGANO, MD, PhD, Jun TANABE, MD Division of Cardiology, Shizuoka Medical Center. Purpose: Endurance training improves vascular endothelial dysfunction and exercise capacity in patients with chronic heart failure (CHF). However, CHF patients with an implantable cardioverter defibrillator (ICD) or cardiac resynchronization therapy-defibrillator (CRT-D) often avoid endurance training for fear of ICD shock. Recent studies have shown that stretching exercises enhance antioxidant activity and improve vascular responses. We aimed to assess the effects of four weeks of stretching exercises on oxidative stress and vascular endothelial function in CHF patients with an ICD or CRT-D. Methods: Thirty-two sedentary CHF patients (men, 83%; mean age, 69 ± 9 years; left ventricular ejection fraction, 30 ± 9%) with an ICD or CRT-D were randomly divided into a group that performed four-week stretching exercises (stretching group), and a group that continued a sedentary lifestyle (control group). We compared the reactive hyperemia peripheral arterial tonometry index (RHI) and 6 minute walk distance (6MWD), and sit-and ‒reach test (SR), between the two groups before and after the four-week study period. Results: In the stretching group, a significant increase in the RHI, 6MWD, and SR were observed after the study period compared to before (p<0.01, p<0.05, and p<0.01). No significant changes were observed in the control group. Conclusion: Four weeks of stretching exercises may increase exercise capacity through improve of vascular endothelial dysfunction in sedentary CHF patients with an ICD or CRT-D. Key Words: Implanted cardioverter defibrillator, Cardiac resynchronization therapy defibrillator, Chronic heart failure, Endothelial function, Exercise capacity.
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