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腸回転異常症に併存した横行結腸癌の1例 第74巻11号3103頁

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Academic year: 2021

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  症  例

腸回転異常症に併存した横行結腸癌の 1 例

昭和大学横浜市北部病院消化器センター 前 田 知 世  日 高 英 二  内 田 恒 之 大 本 智 勝  石 田 文 生  工 藤 進 英  症例は48歳男性で,便潜血反応陽性の精査にて下部消化管内視鏡検査を施行され,横 行結腸癌が認められた.CT colonographyにて横行結腸に高度の壁変形像を認め,さら に,non-rotation typeの腸回転異常症を伴っていた.CT angiographyにて,腫瘍の支 配血管は中結腸動脈(MCA)で,上腸間膜動脈(SMA)の左側から分岐し,上腸間膜 静脈(SMV)背側を走行していた.以上より,腸回転異常症に併存した横行結腸癌と 診断した.癒着が高度であり,開腹にて横行結腸部分切除術を施行した.郭清は, MCAがSMVの背側を走行していたためMCAの右枝で処理しD2 とした.診断はtub2, pSS,pN0,ly0,v0,fStage IIだった.腸回転異常症に併存した右側結腸癌は,SMA とSMVの分枝の走行異常が多く,術前にCT angiographyにて血管走行を把握してお くことが重要である. 索引用語:腸回転異常症,大腸癌,CT angiography 緒  言  腸回転異常症は,小児期までに診断されることが多 く,成人になって診断されることはまれである.今回, 腸回転異常症に併存した横行結腸癌の 1 例を経験した ので報告する. 症  例  症例:48歳,男性.  主訴:便潜血反応陽性.  既往歴:37歳時に大腸ポリープを内視鏡的に切除し た(悪性所見なし).  現病歴:便潜血反応陽性の精査のため近医を受診. 下部消化管内視鏡検査を施行され,横行結腸に 2 型病 変を指摘された.精査加療目的に当科紹介となった.  初診時現症:身長169cm,体重77.3kg.腹部は平坦, 軟.手術痕なし.  血液検査所見:血算・生化学所見は特に異常所見は なく,腫瘍マーカー (CEA,CA19-9)も正常範囲内 であった.  下部消化管内視鏡検査:横行結腸に30mm大の 2 型 腫瘍を認めた.生検にて高分化腺癌と診断された.  腹部造影CT検査:病変は30mm大の造影効果のあ る壁肥厚として描出された.有意な領域リンパ節の腫 大は認めなかった.上腸間膜静脈(SMV)が上腸間 膜動脈(SMA)の左側に位置するSMV rotation sign を認め,中結腸動脈(MCA)はSMV背側を走行して いた(Fig. 1).  2013年 8 月23日受付 2013年 9 月 4 日採用  〈所属施設住所〉   〒224-8503 横浜市都筑区茅ヶ崎中央35- 1 Fig. 1 腹部造影CT検査:SMVがSMAの左側に位置す るSMV rotation signを認め(矢印),MCAはSMV背 側を走行していた(矢頭).

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 CT colonography:横行結腸に高度の壁変形像を 呈した腫瘍を認めた.盲腸・上行結腸が腹部正中に認 められ,結腸のほとんどは左側に位置しており, non-rotation typeの腸回転異常症であった(Fig. 2).  CT angiography:腫瘍の支配血管はMCAであり, SMAの左側から分岐していた(Fig. 3).  以上の検査より,横行結腸癌,cSS,cN0,cH0, cP0,cM0,cStage IIと術前診断し,全身麻酔下に結 腸部分切除術を施行した.  手術所見:腹腔鏡手術で開始したが,癒着が強かっ たため,開腹手術に移行した.上行結腸・盲腸は後腹 膜に固定されず,正中に存在し,Ladd靱帯は認めな かった.横行結腸部分切除術を施行.リンパ節郭清は MCAがSMVの背側を走行していたため,MCAの右 枝をSMV左縁で処理しD2 郭清とした.虫垂切除は 施行したが,腸回転異常に対する固定術は施行しなか った.手術時間は214分,出血は117mlであった(Fig. 4).  切除標本・病理組織所見:横行結腸に50×32mmの 2 型 腫 瘍 を 認 め た(Fig. 5). 病 理 診 断 は,tub2, pSS,ly0,v0,pN0 ( 0 /21),sH0,cP0,cM0, fStage IIであった.  術後経過:術後経過は良好で,第 4 病日より経口摂 取を開始し,第 9 病日に退院した.現在術後 2 年 2 カ 月であるが,合併症・再発なく経過している.術後補 助療法は行っていない. 考  察  消化管は胎生期にSMAを軸として270度の反時計 回転を経て固定される.不完全または異常回転の結果, Fig. 2 CT colonography:横行結腸に高度の 壁変形像を呈した腫瘍を認めた(矢頭).盲腸・ 上行結腸が腹部正中に認められ,結腸のほと ん ど は 左 側 に 位 置 し て お り,non-rotation typeの腸回転異常症であった. Fig. 3 CT angiography  a) 矢頭は腫瘍を示す.腫瘍の支配血管はMCA であった.  b) MCAはSMAの左側から分岐していた. a b

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腸回転異常症が発生する1).Wangらは腸回転異常症

を 4 分類し,①90度で回転が停止したnon-rotation type,②180度で停止したmalrotation type,③逆回 転しているreversed type,④paraduodenal herniaと 分類した1).このうち,non-rotation typeが53.3%と 最多2)であり,本症例も最も頻度の高いnon-rotation typeであった.  医学中央雑誌において1983年から2013年までで「腸 回転異常」および「大腸癌」をキーワードにして検索 すると(会議録除く,手術症例のみ),腸回転異常症 に併存した大腸癌の報告が29例あり,そのうち24例 (82.8%)がnon-rotation typeだった.腫瘍発生部位 は盲腸 4 例,上行結腸 7 例,横行結腸 5 例,S状結腸 6 例,直腸 7 例であった.S状結腸直腸癌は44.8%, 盲腸から横行結腸までの発生は55.2%であり,右側結 腸癌が多く,本症例も横行結腸癌が併存していた.本 邦の大腸癌好発部位はS状結腸と直腸で併せて大腸癌 の70%に達することから,虫垂から右側結腸の解剖学 的位置異常が大腸癌の発生に関与している可能性も指 摘されており3),腸回転異常を伴う症例の検診では, 右側結腸癌を念頭において全大腸を観察する必要があ ると思われる.  腸回転異常症と術前診断ができなかった報告例は29 例中 4 例で,そのうち 2 例は緊急手術例であった.術 前診断されていた25例のうち12例は消化管造影,13例 はCTで診断されていた.腸回転異常症の診断には消 化管造影で消化管の走行異常,あるいは造影CTで SMV rotation signを確認することが有用である.本 症例も造影CTで診断されており,造影CTを確認す る時は腸回転異常症の可能性も考えて,SMAとSMV の走行に注意する.また,腸回転異常症はまれな疾患 ではあるが,画像診断によりほとんどの症例で術前診 断が可能であると思われた.  腸回転異常症に合併した悪性腫瘍で最も問題になる のは解剖学的位置関係と血管の走行異常に伴うリンパ 節郭清である4).腸回転異常症は単に腸係蹄が腹腔内 のどの部分に存在するかという位置の異常であり, SMAの分岐は正常であり,この分岐をたどれば癌取 扱い規約に沿ったリンパ節郭清が可能であるとの報告 がある5).しかし,下腸間膜動脈の支配領域が小腸と 左側結腸に及ぶ分岐形態異常を認めた症例6)も報告さ れており,術前にCT angiographyにて腹腔動脈・ SMA・下腸間膜動脈・腫瘍支配動脈の同定が望まし いと考える.  未記載 4 例を除く25例のうち,リンパ節郭清の程度 は,D1 が 5 例,D2 が 8 例,D3 が12例であった.D1 となった症例のうち, 2 例は全身状態が悪く, 1 例は P1 で治癒切除不能と判断した例だった.報告例の多 くで大腸癌取扱い規約に沿ったリンパ節郭清が施行さ れていた.本症例では,SMAがSMVの右側にあり, MCAがSMVの背側を通っていたため,大腸癌取扱 い規約で示されているD3 郭清を施行することが困難 でありD2 郭清となった. Fig. 4 手術所見:リンパ節郭清はMCAがSMV の背側を走行していたため,MCAの右枝を SMV左縁で処理しD2 郭清とした. Fig. 5 切除標本所見:横行結腸に50×32mmの 2 型腫 瘍を認めた.

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 29例のうち,術前CT angiographyまたは術前血管 造影検査が施行されたのは 6 例と少なく,手術中に支 配動脈の確認が可能であった場合は取扱い規約に沿っ たリンパ節郭清が可能と考える.十分な術前検討の上, 腹腔鏡手術を施行した症例も報告7)されている.しか し,術中に血管走行が把握しにくいことも多く,腹腔 鏡手術では不十分な郭清となる症例8)もあったため, 特に腹腔鏡手術や血行支配の複雑な横行結腸癌では術 前にCT angiographyで血管の走行を確認しておくこ とが重要と思われた.  Non-rotation typeの腸回転異常症に対する治療と して,Ladd靱帯の形成を認めた場合は,十二指腸・ 小腸と結腸の間の癒着とLadd靱帯を切開剥離し捻転 が生じないように腸を配置するLadd手術を考慮す る9)10).腸管の固定は必ずしも推奨されていない11)が, 再発性の腸捻転を起こした症例では必要となる12).虫 垂炎を合併した場合に診断・治療に難渋した報告例も あり,腹部手術施行の際は,予防的虫垂切除を考慮す べきと言われている13).本症例においては,予防的虫 垂切除術は施行したが,腸管固定術は施行しなかった. 現在のところ,術後腸閉塞の出現はなく経過している. 結  語  腸回転異常症に併存した横行結腸癌の 1 例を報告し た.腸回転異常症に併存した大腸癌では,血管の走行 異常が見られることが多く,術前にCT angiography で血管走行を把握しておくことが手術時のリンパ節郭 清をより安全に行うために重要と思われた.  本論文の要旨は第73回日本臨床外科学会総会におい て発表した. 文  献

 1) Wang C, Welch C : Anomalies of intestinal rota-tion in adolescents and adults. Surgery 1963 ; 54 : 835-855  2) 加藤憲治,櫻井洋至,松田信介他:左下腹部痛で 発症した腸回転異常を伴った急性虫垂炎の 1 例. 日臨外会誌 1996;57:2494-2498  3) 板谷喜朗,河本和幸,金城昌克他:腸回転異常症 に 併 存 し た 横 行 結 腸 癌 の 1 例. 日 臨 外 会 誌  2009;70:3066-3069  4) 福原研一朗,大村 泰,葛城邦浩他:腸重積で発 症した腸回転異常を伴う盲腸癌の 1 例.外科  2010;72:1238-1241  5) 磯貝晶子,長嶋 隆,渡辺泰治他:盲腸癌を伴っ た腸回転異常症の 1 例.手術 1995;49:1447- 1450  6) 仲宗根由幸,西島 功,池原康一他:下腸間膜動 脈の走行異常を伴う腸回転異常症に合併したS状 結腸癌の 1 例.日臨外会誌 2009;70:1118- 1121  7) 山本純也,渕野泰秀,大石 純他:成人腸回転異 常症を伴った上行結腸癌に対し腹腔鏡補助下結腸 右半切除術を施行した 1 例.日消外会誌 2007; 40:1960-1965  8) 坂口達馬,徳原克治,岩本慈能他:腸回転異常を 伴った大腸癌に対し腹腔鏡下手術を施行した 1 例.日本大腸肛門病会誌 2013;66:105-109  9) 楠田慎一,福島正之,北原光太郎:幼少時から腹 部症状をみとめた中腸軸捻転症の 1 例.日腹部救 急医会誌 2007;27:91-93 10) 佐々木啓成,和田敏史,森谷雅人他:上行結腸癌 を合併した成人腸回転異常症の 1 例.日外科系連 会誌 2003;28:920-923 11) 岡本竜弥,佐野 薫,小笠原敬三他:腸回転異常 症術後再軸捻転の 1 例.日小外会誌 2004;40: 193-197 12) 芳澤 淳,好沢 克,高見澤滋他:Ladd手術後 に中腸軸捻転症再発をきたした腸回転異常症の 1 例.日小外会誌 2009;45:66-71 13) 高木 哲,三澤良輔,内川裕司他:成人腸回転異 常症患者における急性虫垂炎の 1 例.日臨外会誌  2008;69:81-84

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A CASE OF TRANSVERSE COLON CANCER WITH ADULT INTESTINAL MALROTATION  

Chiyo MAEDA, Eiji HIDAKA, Tsuneyuki UCHIDA, Tomokatsu OMOTO, Fumio ISHIDA and Shin-ei KUDO Digestive Disease Center, Showa University Northern Yokohama Hospital  

  A 48-year-old man with transverse colon cancer was admitted to our hospital. Computed tomogra-phy (CT) colonogratomogra-phy showed a severe deformity in the transverse colon, and the small bowel on the right and the large bowel on left in the abdominal cavity. CT angiographic findings suggested that the ar-tery feeding the tumor was the middle colic arar-tery (MCA), which branched to the left of the superior mesenteric artery. The diagnosis was a transverse colon cancer with non-rotation type of malrotation. The patient underwent partial colectomy with lymph node dissection and appendectomy. The MCA, feed-ing artery of the tumor, was runnfeed-ing under the superior mesenteric vein. The right branch of the MCA was ligated for D2 lymph node dissection. The tumor was finally diagnosed as tub2, pSS, pN0, ly0, v0, and fStage II.

  Proximal (right-sided) colon cancer with intestinal malrotation has a high rate of superior mesenteric artery and superior mesenteric vein anomalies. It is important to understand vessel anomalies on CT angi-ography before surgery.

Key words:intestinal malrotation,colon cancer,CT angiography  

参照

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