研究ノート
D.].ハリスの均衡成長率概念について
篠 崎 敏 雄
I 序D
J
H
a
r
r
i
s
は, その著C
a
t
i
t
a
lA
正ι
u
m
u
l
a
t
i
o
nand Income D
i
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r
i
b
u
t
i
o
n
(
1
9
7
8
)
の 中で,差別型貯蓄関数を伴う二部門モデルによる,独特の均衡成長率(保証成長率〉概 念を使用している。保証成長率概念は,短期理論としての不安定性原理に関する分析に 使用する場合ム長期理論としての黄金時代に関連する分析に使用する場合とがある。 ハリスは彼の均衡成長率すなわち保証成長率の概念を,後者の分析に使用している。 ここで、は,ハリスの均衡成長率概念の導出,その概念の含意や特徴,ハロッドの保 証成長率概念との比較,等について考察してみたいと思う。 第1
1
節では,一部門モデルの場合に,均衡資本蓄積率によって表される,保証成長 率概念について検討する。第III節では,ハリスの均衡成長率概念の基礎となっている, 生産の単純なモデルについて考察する。第I
V
節では,利潤率の関数としての賃金率や 商品の価格の問題を考察する。第V
節では,所与の利潤率に対して定まるものとして の,ハリスの均衡成長率(保証成長率〉概念について検討する。第V
I
節では,技術パ ラメーター,貯蓄率および利潤率と均衡成長率との関係についての,ハリスの分析を 検討する。第四節では,結びとして,ノ、リスの均衡成長率(保証成長率〉の概念や, それを用いての彼の分析について,自己の見解を纏めたいと思う。 II 均衡資本蓄積率によって表される保証成長率Dr
ハリスは,ハロ y ドの保証成長率を次のようにして導出している。まず,/を純 投資,Y
を 純 所 得 を 純 所 得 か ら 貯 蓄 さ れ る 所 与 の 割 合 を 表 す も の と す る 。 ま た ,K
-130ー 第58巻 第4号 778 を経済の総資本スト yグの価値 ,gをその成長率とする。さらにUで以て,外生的に与 えられ一定であると仮定される,純所得に対する資本スト yクの価値の比率(資本一所 得比率)を表す。これはもちろん均衡比率である。 このようにして第一に,投資と貯蓄の均等とし、う均衡条件を考える。すなわち,純 所得の一定割合の貯蓄が意図されuている投資に一致するということである。記号では 次のようになる。
1
=sY
( ) l 第二に, この式から次式を導き出す。1
Y
g =一一=、一一=K
JK
v
(2) ハリスは,これをハロッドの基本「動学方程式JHarrod'sbasic “dynamic equation"と 呼んでいる。ところで(2)式は, (1)式の両辺を資本ストッグの価値 K で割り ,KIY = Uという第二の均衡条件を入れれば出て来る。又,資本一所得比率 Uは一定であるの で,それに等しいKIYも一定であり, したがって資本の成長率gと所得の成長率は 等しくなる。5
1
v
に等しいこのgを,ハリスは保証成長率 the warranted rate of growthと呼んでいる。 ところで一方,ハロッド自身の保証成長率は次のようなものであった。 G 一旬、- 3 W Cr (3) ここで 5dは望まれる貯蓄率, Crは必要資本産出比率(または必要資本係数),G
w
は これらの比率に等しい所得の成長率としての保証成長率である。 (2)式に表されているハリスの保証成長率は, (3)式のハロッドの保証成長率に対し, 基本的に二つの点で異っている。第一は, (2)式では現実の貯蓄率sと望まれる貯蓄率 勾との差が捨象されているということである。そこでは)式では Sdの代わりにSを( 1) D.
J
Harris, Capital Aωumulatioηand lnωme DistributiOn, 1978, p 27 (森義隆・馬場義久共訳資本蓄積と所得分酉日J,33ベーシ〉。 ( 2) Op at, p.. 27 (邦訳, 33ベージ〉。
( 3) R. Harrod, Eωnomic Dynamics, 1973, p 17 (宮崎義一訳経済動学.1, 26ベージ〉。
(4) この捨象の取り扱い方については,次のところを参照されたい。R.F Harrod,“An Essay in Dynamic Theory", EωnomiGJournal, March, 1939, pp. 20-21
779
DJ
ハリスの均衡成長率概念について -131ー 用いているのである。第二は,ハリス自身も認めているように,ハロ y ドが限界概念 の資本係数C
rを用L、ているのに対し,ハリスは平均概念の資本係数Uを用いている ことである。このことによって,保証成長率を資本蓄積率によって表すことが出来る。 ハリスはこの利点があるので,彼の分析の展開のため,平均概念である資本一所得比 率を使用したと考えられる。 次に, この保証成長率は正常保証成長率であって,特殊保証成長率ではなしご〕この ことは,保証成長率に関連した後の分析において,ハリスが保証成長率の不安定性の問 題を取り扱わず,黄金時代径路の問題を取り扱っていることからも,当然のことである。 III ハリスの生産の単純なモデル 次に,ハリスの二部門モデルにおける均衡成長率(保証成長率〉の概念を考察する 準備として,彼の単純化された生産モデルについて説明する。ハリスは先ず一般的な 生産モデルについて述べ,後にそれを一部単純化したモデルについて述べている。 そのモデ、ルは,ハリスの叙述から,次の六つの仮定に基礎を置いていると考えられる。 (1) 生産されたただ2種類の商品,すなわち資本財と消費財が存在すぷ)(
2
)
中間財は無視する。 (3) 2種類の商品は,各々相異なる産業で,資本財と労働を用いて生産さぷケした がって結合生産は存在しない。 (4) 生産には一期間がかかる。 (5) 平均概念の資本係数は,他の多くの論者によっても用いられている。 (6) 正常保証成長率と特殊保証成長率との区別については,次のところを参照されたし、。 Harrod, Eωnomic Dynamiω, p. 36, pp. 39-44, p. 101 (邦訳, 56ページ, 60-62ページ, 159ページ〉。篠崎敏雄 r特殊保証成長率概念の定式化についてJ,香川大学経済論叢,第 58巻第 3号,昭和 60年 12月, 74-77ページ〉。 (7) C Hf.arris, Ca.戸italAαU1咋ulationand., p. 97 (邦訳, 107ベージ〉。ハリスの一般的な 生産モデノレでは,商品の種類はn種類とされ,いずれの商品も,資本財としても消費財と しても役立つとされている〔命 cit,p. 52 (邦訳, 60-61ページ))。しかし,その単純化 されたモテソレでは,用途の固定した2種類の商品のみを考えるのである。 (8) Harris, Capital Aωumulation and , p 52 (邦訳, 61ページ〉。 (9) Cf op.at, p 52, p.97 (邦訳, 61ページ, 107ページ〕。 (10) Cf op. dt,. p. 52 (邦訳 61ページ〕。 (11)C
.f0戸ci,.tp.52 (邦訳 61ページ〉。-132- 第58巻 第4号 780
(
5
)
資本財のスト yグは,期間あたり所与の率S
で,時間を通じて減価する。S
の イ直は,それが使用される産業とも,また資本財の年齢とも無関係である。 (6) ただ一つの技術techniqueが利用可能である。したがって,技術変化は考慮さ れなし、。 ところで, この与えられた一つの技術について,次のような技術係数行列が示され る。 aOl a02[
す
ト
(4) α11 a12 a21a
2
2
ここで ,aOjは労働係数,aljは資本財係数である。下っき添字のf
= 1, 2は,それぞれ 資本財部門と消費財部門とを表している。又消費財は仮定により生産に投入されないの で, a21 a22 0である。しかし,その他については ,aけ >0とされる。なお,行列中 にある実線または破線は,労働係数と資本財係数等との区別を示すためのものである。 次に,資本財の減価償却率s
については, 0<δ 壬 lと仮定される。また,資本財は 剰余を伴って自己の再生産を行うことが出来る〔すなわち all<
1)と考えて,1
/
all -δ>0と想定する。そして, 1/all一δは「資本財の自己純再生産率」と呼ばれ,R
という記号で表される。 また,技術パラメーターμを次のように定義する。 μ =年伴旦這
all/ aOl (5) これは,雇用労働に対する物的資本の比率の二部門間における相対比率である。たと えば,μ>
1の場合には,雇用労働に対する物的資本の比率は,消費財部門において より大きL。、μ <1の場合には,その逆となる。また, μ =1とL、う特殊な場合には, 二つの部門で資本一労働比率が等しく,生産係数は測定単位を適切に選ぶことによっ て,二部門で同ーにすることが出来る。この場合には,生産の観点から言って,資本 (2) Cfo
p
eit, pp..53-4(邦訳, 61-2ページ〉。 (3) Cfo
p
at, p 98 008ベージ)。 (14) 印 cit,p 98 (邦訳, 108ベージ)。 (5) Op cit, p 98 (邦訳, 108-9ページ)。781 DJハリスの均衡成長率概念について 133-財と消費財との聞の異質性が消えて,ただ一つの商品の生産が行われていると考える ことが出来る。
I
V
利潤率の関数としての賃金率と価格 ノ、リスは,以上のことを基礎に,利潤率,賃金率および商品の価格の聞の関係の分 析をし,さらには彼の均衡成長率概念の説明を行おうとする。なお,均衡状態におい て,均ーの賃金率と均一の利潤率の成立を想定する。また,諸価格は与えられた技術 のもとで生産費をちょうど償うような大きさであると考える。 これらの条件を式で表現する。まず,ムとんを,それぞれ計算単位で表した資本財 の価格と消費財の価格であるとする。またw
を計算単位で表した賃金率r
を純利 潤率とする。このようにして,ある期間の価格体系の均衡条件は次の2式で表されギ16)ρ
a
O
,
w+a"
ρ
,
(δ+r)ρ
a02W+ a
'
2
ρ
,
(o+r)
(6) (7) すなわち,資本財1単位の価格ρ1も,消費財 1単位の価格んも,それぞれの生産費(賃 金プラス粗利潤〉に等しくなっている。今,消費財をニュメレール商品として選ぶと,P
2
= 1となり,価格体系の均衡条件は次のようになる。ρ
aO'w+α
"
ρ
,
(o+r)
1 =a
0
2
W
+
a
'
2
ρ,
(o+r)
(6) (7)' この場合,資本財価格ρ1も賃金率W も,消費財の単位で表されていると解釈すべきで ある。 ところで, (6)式, (7)式 お よ び ん =1とし、う三つの連立方程式の体系においては,未 知 数 は ム,P
2
,w
, rの四つである。又, (6)式と(7)'式の二つの連立方程式の体系にお いては,未知数はム ,W,r
の三つである。いずれにしても,方程式の数よりも米知数 の数が一つ多く,自由度が1ということになる。しかし,たとえばW とTのどちらか の値が知られると,残りの二つの値が定まることになる。 そこでハリスは,(6)式と(7)'式において,一つの変数?を任意に与えられたものと考 えて,残りの変数wとムの解を得ょうとする。その結果, (6)式と(7)'式とから,次の (16) C.f0戸at.p..99 (邦訳, 110ベージ)。-134ー 第58巻 第4号 782 二つの式が得られる。 ) -T て j 一 一 T 一一(
R
王 与
/ t J O U一
G G一
川 町(
8
)
ρ a O l 1一瓦
2C(r) (9) ただし, c(r) =μ-all(μ -l)(R-r)>0であり,また ,R = l/all-δ>0である。 このRは,前に「資本財の自己純再生産率」と呼んだものである。 (8)式の導出は,まず(6)式と(7)'式からρlを消去し,得られた W の値を表す式を整理 し,R
= l/all-oを考慮すると次のようになる。 w = 一 一--=----'"ll(R-r) 、 G 仇伽o凹21い
allム
竿
E旦
引
吋
L(O+
r
け)+α仇1日1バ
(R
一r
)
1 し Ul1U02 j さらにμ=ι2
位。主=白血を考慮し,式を変形すると次のようになる。 all/ aOl alla02 W 一 一 色1(R-r) a02[μ-all(μ -l)(R-r)] そこで ,c(r) =μ-all(μ一l)(R-r)と置くと, (8)式が得られる。この c(r)は, μ, all,R
が定数であるのでr
のみの関数である。また, (9)式は, (6)式に(8)式を代入す ることによって,簡単に得られる。 ところで(8)式の右辺は, all, a02,R
が定数で,手 (r)が7の関数であるので,全体 として rの関数である。そこで(8)式は,与えられた技術に適合するところの,賃金率 W と利潤率 rとの聞のいろいろな均衡的組み合わせを示している。この(8)式をグラフ で表せば r賃金一利潤曲線」が得られる。また(8)式から分かることは,賃金率wが正 であるためには R > rでなければならず,w
=
0
の時 R = rとなるということであ る。すなわち r資本財の自己純再生産率JRは,賃金率がゼ口の時の利潤率であり, その意味で最大利潤率なのである。 V 所与の利潤率に対して定まるものとしての, ハリスの均衡成長率(保証成長率) 次に,差別型貯蓄関数と,技術パラメーター μを考慮した,ハリスによる均衡成長 (17) 印 cit,p.100(邦訳, 111ペーの。783 D..Jハリスの均衡成長率概念について -135-率(保証成長率)の概念について検討してみよう。ハリス自身は,均衡成長率を,直 接には均衡蓄積率で考えている。 ハリスは先ず,均衡状態について次のように言う。「均衡では,資本財の総ストッグ M と労働の総雇用Lは使用されている技術と二つの商品の産出高水準X" Xzに対し て調整される。」このことは次の二式で示される。 M allXl十alZXZ ) ) ハ υ U 噌B A l l ( (
L
a01Xl+
aOzXZ ω)式は,資本財の生産と消費財の生産とに利用される資本財の合計が,資本財の総ス トックに等しいことを示している。したがって, この式は資本(財)スト yクの完全 利用を示していると考えることが出来る。 (11)式は,資本財部門と消費財部門の総雇用 最を示している。唄 また,資本財の産出高Xlは,資本ストググの純増と, i減価の補墳のための需要に当 てられる。それは次のように粗投資に等しL。、 Xl= (g+δ)M
(12)(20 次に,体系の均衡のための条件としての,貯蓄と投資の均等ということを考える。 その場合,差別型貯蓄関数を用い, 0 ~玉 Sw くれ三五 I と想定する。 Sγ は純利潤からの 貯蓄率であり, Sωは賃金からの貯蓄率である。そこで資本財の相対価格ムで純投資を 評価し,投資とその資金調達の源である貯蓄との問にはタイム・ラグがないと想定し た上で,価値でJまかった貯蓄と投資の均衡条件を示す。 ρ19M = Srp1Mr+swwL 1(3) 左辺は純投資であり,右辺は第一項の純利潤からの貯蓄と,第二項の賃金からの貯蓄 との和としての純貯蓄である。(13)式を変形すると,均衡条件をみたす次のような蓄積 率が得られる。 g=Srr+sω(ω'L/P1M) また, (10)式に(12)式を代入すると,消費財の産出高X2を示す次式が得られる。 (18) 印 cil,p 102(邦訳, 112ページ〉。 (19) 印 cil,p.103 (邦訳, 114 '".-.ジ)。 (20) 印 cil,p.103 (邦訳, 114ベージ〉。 (21) 匂 αt,p..104(邦訳, 114ベーめ。 ( 13)'-136- 第58巻 第4号 784 X2 = all(C-g)M 2
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
一
a12 ) 4 1 ︿ ただし,C
は最大成長率を示し,技術的に決定される資本財の自己純再生産率R
=
1
/
。
11一
δに等しL。、 つづいて,資本財の総ストックM
と労働の総雇用L
との比率が次のように示される。 M a12 L一五託証工瓦司王
-1)(百工記]
(15) この式の導出のための計算はやや煩演であるが,まず(10)式と(11)式に, (12)式と(14)式を代 入する。次に,こうして得られたMの値とLの値との比率をとり,整理すると次のよ うになる。 M a12τ 一石両~
_
(aI2/a02 '¥I/'J
GUii}
ぶ一円不可了一
1)(C-g)J ここで, μ =討 誌 を 考 慮 す る と , (15)式が得られるのである。 このような準備の下に,利潤率Tが与えられた場合における,均衡成長率を表す式 が示される。ハリスは,均衡成長率を示す(13)'式に, (8)式, (9)式および(15)式を代入して, 次の式を得ている。 ) 一 T一
7
m
p
山一山 ‘ 、 一 e d+
一
l T f で l J H H 一 ω 、 ノ 一 S H ご 一汗 U T 一μ
円 、 三 ( -g ( 16) ハリスはこのgの値を r均衡において所与の貯蓄率,技術係数および利潤率に適合す る成長率」と呼んでいる。またこの式は,貯蓄率や技術係数等が与えられれば,均衡 状態における利潤率と成長率との関係を示しているが,この関係を「成長一利潤関係」 と呼んでいる。 この式の導出もやや面倒であるが,前述のように,次の間'式から出発する。 g Z41L = Srt +sω五百
1(3)' これに, (8)式, (9)式および同式を代入して, μ =手引笠
。
ifl迎-'- C =R
,を考慮 ll/aOl alla02 (22) 匂 cit,p. 104(邦訳, 115ページ〉。 (23) 仰 cit,p 105(邦訳, 115ページ)。 (24) 匂 αt,p.105(邦訳, 115ベージ〉。785
D
Jハリスの均衡成長率概念について -137-しながら整理すると, 次のようになる。 g一 (Sr-Sω)μr+ swR[μ-all(μ一l)(R-r)] 一 μ(l-sw)+Sw[μ-all(μ -l)(R-r)] ここで ,~(r) = μ-all(μ -l)(R-r)を考慮すると, (16)式が得られるのである。V
I
技術パラメーター,貯蓄率および利潤率と均衡成長率 (16)' 前にも述べたように, ハリスは, 均衡成長率または保証成長率の概念を, とくに黄 金時代との関連で取り扱っている。そこで,黄金時代の解の存在の問題と関連して展 関している,彼の均衡成長率に関する分析についての議論を検討してみよう。 まず,労働力が外生的に決定され,時聞を通じて一定率n
で増加し,労働は完全雇 用されていると想定する。さらに技術変化が無いとすると, この nが完全雇用の維持 のために必要な成長率, したがって自然成長率となる。そこで,時聞を通じての完全 雇用の維持のためには,資本ストックが労働力と同じく ηという率で成長しなければ ならず, 黄金時代の成長のためには次式が成立する必要がある。g=n
(I司 もしこの等式が成立しなければ黄金時代はそのままでは成立しないが,黄金時代成立 の可能性のためには,gかn
かが変化可能で、なければならない。そこでハリスは,均 衡成長率としてのgの可変性に焦点を当てて分析を行う。 前に説明した(16)式は,貯蓄率 Sr, Swや,技術パラメーターμ(技術係数によって定 まる〉等が与えられた場合,利潤率7の関数として均衡成長率gが定まるとL、う関係 を示していた。すなわち Sr,$w,μall,R
をパラメーターとして ,gが7の関数 であるという式である。この逆関数を考えれば,rはgの関数となる。それゆえ,nに 一致するgをもたらす利潤率 rの値を見出すことが出来る。また,パラメーター, と くに貯蓄率 Sr, Sω と技術パラメーター μの値が変化すれば, このgとrの関係も変 化するとし、う問題もある。ハリスはこれらのことについて論じている。 ここで、ハリスは,少し本筋をはずれるが,黄金時代における資本一所得比率につい ても述べているon に等しいgをもたらす利潤率rが定まると, この利潤率と与えら れた技術的条件が, (6)式と(7)'において,賃金率wと資本財の相対価格ムとを定める。ー138- 第58巻 第4号 786 このムにより資本財のスト yクの価値が定まり,それと総純所得との比率が,与えら れた利潤率と生産技術に対応する,黄金時代における資本一所得比率である。もちろ ん,上の説明で分かるように,黄金時代でなくても,与えられた利潤率に対応する, 均衡における資本一所得比率というものは存在する。 再び本筋に戻り rただたまたま自然成長率に等しくなりうる「保証」成長率の特異 な値の出現という問題」についての,ハリスの議論を検討しよう。/ここでは,前に説 明した(日)式を中心に分析が行われるので, これをもう一度次に示す。
g=~二註iι土主主主LrJ
一 μ(
l-.
s
w
)+s
.
w
c
(
r ) (16) これは,~(r) =μ--a,,(μ l)(R-r)であるので,次のように表すことも出来る。 g =主
r-Sw
並主主w
R
[
)
ニ生血二旦臼二!Jl
一 μ(
l
-
.
s
w)+s
.
ω[μ-all(μ -l)(R-r)] (16)' 上式で,貯蓄率 Sr,S
w
,技術パラメーターμおよび技術係数 allおよび最大利潤率R
= l/all一δが与えられれば,gは利潤率の関数である。ところが,技術的に達成可 能なr
の範囲は, 0 三五 r玉R
=1
/
a
l1-8
である。したがって ,gの変化可能な範囲も それに対応して定まる。その範囲の中に, (1)7式をみたすgの億があるかどうかは,パ ラメーターの値いかんによる。 第1図で, (1日式または(16)'式を基礎に,技術パラメーター μ,貯蓄率Sr, Sω,利潤率 rと均衡成長率gとの間の関係が示される。まず,他のパラメーターを一定としてお いて, μとgとの聞の関係が示される。今 r=R
とすると, (16)'式は次のようになる。 g =s
r
R
1(8) したがって ,gの備はμの値に無関係に一定に定まり, (1)8式の関係はS
r
R
の高さを 持った水平線55で表される。次に r= 0の場合(16)'式は次のようになる。 gswR-s~;:[五手ifz知名司王
(1的 その場合のμとgとの間の関係は,右下がりの曲線5'5'で表わされる。そこで,利 潤率rがOから最大利潤率Rに向かつて徐々に上昇したとすると, μ と g との関係 (25) 印 at,pp..107-9 (邦訳, 118-9ベージ〕。 (26) 印 cit,p. 108 (邦訳, 118ベージ)。 (27) 印 cil,p 107, n 10 (邦訳, 118ベージ,注 (0))。787 D
J
ハリスの均衡成長率概念について -139ーR
一 一
G
gL 5' μ一一一一一一一一一---'μ * / S r R / S w R ¥ ¥ 一 一5' S S μ μ=1 第1図 を表す曲線は,5
'
5
'
から55
へ向かつて,徐々にシフ卜して行くと考えられる。それ ゆえ,5
'
5
'
と55
との間の諸点は,成長率の可能な範囲を表しているのである。 次 に,パラメーターとしての二種類の貯蓄率Sr, ωのf
直と,55
や5
'
5
'
との関係が考 察される。まず Sr でSw 0,すなわち極端な古典派貯蓄関数の場合には, (16)式は 次のようになる。 g = r' 白。 したがって,均衡成長率gは利潤率 Tと同じ値の範囲をとり得,0
~五 g壬R=G
とな る。 Gはgが技術的に達成可能な最大の率である。そういう意味で,この時gのとり 得る範囲は最大となる。 次に5'5'と5S
との交点に対応する技術パラメーター〆の場合が考察される。こ の場合は(J6)'式において ,r=
0の時と r=
R
の時とでgの{直が一致する場合であ る。したがって戸は, (J8)式と(19)式のそれぞれ右辺の値を等しいと置いた時のμの値で あり,次のようになる。 ホ .sw(.Sr-l)Rall μ -S
:
X
S
r
ご百五二亡G
二
Sw) (21) この場合,とくに Sr Sw .sと想定すると, (21)式から容易に分かるように,〆は (28) 印 at,p,,108, n 11 (邦訳, 119ページ,注(11))。-140- 第58巻 第4号 788 lとなる。この時, (16)'式はこれも容易に分かるように,次のようになる。 g =
sR
(22) それゆえ,均衡成長率gは,利j関率 rと無関係に,一定の債をとることになる。第1 図で言えば,それは,水平線s
s
と横軸からμ =1のところで立てられた黍線との交 点の状態である。均衡成長率gは,唯一の値sR
をとるのである。 ところで ,R
の値は前述のように,資本財の自己純再生産率である。そして,資本 財の生産における,資本財投入の1単位あたりの純産出高という意味も持っている。 すなわち ,R
は資本財生産部門における,資本一産出高比率の逆数である。 ところが, μ =1
の場合,消費財生産部門の資本一産出高比率の逆数はR
に等しし、。 すなわち二つの生産部門の資本一産出高比率はl/R
となり等しくなる。このこと念式 で考えてみよう。 μ =1
の場合,(
6
)
式と(7)'式とから,次のようになる。 ρa
1
1
/
a
'
2
(23) それはまず, (6)式と(7)'式から, μ =学 伴 主 = 些 笠 片 考 慮 し て , 資 本 財 の 相 対 価 格。
1
1
/a
O
'
a
1
1
a
0
2
ム と 賃 金 率W との関係を示す次式を得る。。
11μ-1 か=て一一十一一ァ←a
O
'
ω (24) U12 J..L ここで, μ =1と置くと, (23)式が得られる。それゆえ,a
l
l
ρ,a
'
2
となり,資本財の 自己純再生産率Rは次式のようになる。 R=
l
/
a
1
1
-
o
=
1/ρ,
a'2-O
。
。
ところで,この式の最右辺のρ
,a
'
2
は,消費財l単位の生産に必要な資本財の〔消費財 ではかった〉価値である。そこで, 1/ムa
'
2
一δは,消費財生産部門における,純産出 高と資本価値との比率であり,その意味において資本一所得比率(資本一産出高比率〉 の逆数である。このようにして, μ =1の場合,消費財入生産部門の資本一所得比率の逆 数はRに等しくなる。そしてそのことによって,資本財と消費財の両生産部門におい て,資本一所得比率は等しくなる。 それゆえ,経済全体についての均衡状態における資本一所得比率をUとすると, (2あえは (29) C.f0戸ιit,p.103, n 9 (邦訳, 113ページ,注 (9))。 (30) cf..ot..at, p..103, n 9 (邦訳, 113ベ}ジ,注(9 ))。789 DJハリスの均衡成長率概念につし、て -141ー
g=s/v
(26) となり, これはハリスが「ノ、ログトの基本「動学方程式JJと呼んだ,(
2
)
式と同じもの になる。 このようにして,ハログドの保証成長率と, (]6)式の形で表されたノ、リスの均衡成長 率(保証成長率〕との, もっとも基本的な違いは,次のこつであることが分かる。一 つは,ハロ y ドが比例的貯蓄関数を用いたのに対し,ハリスはポスト・ケインズ派の 特徴の一つをなしている,差別型貯連関数を用いたということである。もう一つは, ハロッドが一部門モデルを使用したのに対し,ハリスが二部門モデルを使用し,又と くに,両部門で必ずしも等しくない雇用労働に対する物的資本の比率というものを考 慮したことである。V
I
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結 び 以上のようにして,D
J
ハリスの均衡成長率(保証成長率〉についての議論を検討 し, ρ ロッドの保証成長率概念との比較をしながら,その特徴等を考察した。 まず,一部門モテ、ルにおいて,均衡資本蓄積率によって表される,ハリスの表現し たハロッドの保証成長率概念について検討した。これを本来のノ、ロッドの保証成長率 概念と比べると,所得の成長率の代わりに資本蓄積率を用いていること,資本一所得 比率(または資本一産出高比率)の限界概念の代わりに平均概念を用いていること, および,望まれる貯蓄率の概念を使っていない点で異なっている。 次に,ハリスの三部門モテ事ルにおける均衡成長率(または保証成長率〉概念を考察 する基礎として,彼の単純化された生産モデ、ルについて検討した。ハリスの叙述から, 彼のモデルは六つの仮定に基礎を置いていると考えられ,それらについて検討した。 関連する範閤では,ハリスは技術変化を考慮せず,固定的な技術係数を用いている。 またハリスは,分析において重要な概念として r資本財の自己純再生産率」や,雇用 労働に対する物的資本の比率の二部聞における相対比である,技術パラメーターにつ いても述べている。これらについても検討した。 続いて,以上のハリスのモデルを基礎とした,所与の利潤率に対して定まる賃金率 と生産物の相対価格について考察した。賃金率も生産物価格も,消費財をニューメレー-142ー 第58巻 第4号 790 ル商品として測る。そうすると,賃金率も資本財の相対価格も,所与の利潤率に対し て,その関数として定まる。賃金率と利潤率との関係を表す式から r資本財の自己純再 生産率」は,賃金率がゼロの時の利潤率,すなわち最大利潤率に等しいことが分かる。 次に,差別型貯蓄関数と技術パラメーターを考慮した,ハリスの均衡成長率(保証 成長皐〕概念について検討した。この場合もハリスは,均衡成長率を均衡資本蓄積率 で以て考えている。そして均衡の条件としては,資本ストグクの完全利用および投資 と貯蓄の均等を考えている。このようにして,利潤からの貯蓄率,賃金からの貯蓄率, 技術パラメーター,最大利潤率(これは技術係数と減価償却率で定まる)等のパラメー ターを所与とすれば,利潤率によって定まる均衡成長率の式を導出する。このことに ついて検討した。 最後に,ハリスが黄金時代の解の存在の問題と関連して展開している,彼の均衡成 長率に関する分析について検討した。ハリスは技術変化が無いと仮定して,労働力の 成長率で以て自然成長率とし,又完全雇用を仮定する。黄金時代の成立のためには, この自然成長率に,均衡成長率(保証成長率)が一致することが必要である。もし始 めから均衡成長率が自然成長率に等しくない場合,均衡成長率が変化して自然成長率 に一致する可能性の問題を考察する。そこでハリスは,貯蓄率や技術パラメーターお よび利潤率の変化に対し,均衡成長率がどのように変化し,又どの範囲で変化可能か を,グラフを使って考察している。その議論を基礎に,ハログドの保証成長率とハリ スの均衡成長率(保証成長率〉との比較について検討した。ハリスの概念は,差別型 貯蓄関数と二部門モテ、ルを使用しているため,より精綴になっていると言える。