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当科における慢性中耳炎に対する鼓室形成術I型の検討
妻鳥敬一郎、樋口 仁美、中川 尚志 福岡大学 医学部 耳鼻咽喉科 (はじめに)鼓膜に永続的な穿孔が生じた状態を慢性中耳炎と呼ぶ。慢性中耳炎の根治的治療は 外科的治療による穿孔の閉鎖である。永続的な穿孔の誘因は様々で急性中耳炎の後遺症による 換気不全や鼓膜換気チューブ留置後、外傷性などがあげられる。今回当科の慢性中耳炎に対す る鼓室形成術後成績として穿孔閉鎖率と聴力改善の成功について検討した。 (対象)対象は2010年1月から2014年3月までの4年間に当科にて耳小骨連鎖再建を伴わない鼓室 形成術を行った慢性中耳炎120耳である。聴力改善の成績は鼓室形成術を施行し、穿孔が閉鎖し た症例のうち術後6ヶ月以上経過観察しえた88耳に対し、検討を行った。術後聴力成績評価は日 本耳科学会2010年案に基づき行った。 (結果)対象症例の年齢は9歳から89歳で平均37歳であった。術後鼓膜閉鎖症例は83%(100/120 耳)鼓室形成術I型閉鎖率83%(96/116耳)であった。再穿孔は17%(20/120耳)にみられた。 術後聴力改善の成功率は83%(73/88耳)であった。穿孔が閉鎖した症例の平均年齢は38歳、閉 鎖しなかった症例の平均年齢は34歳と差はみられなかった。しかし、術後聴力成績成功例の平 均年齢は34歳、不成功例の平均年齢は46歳と有意に不成功例は年齢が高い結果であった。当院における鼓室形成術I型の検討
井上 雄太、岩永 迪孝、和田 忠彦、羽田 史子、堀中 昭良、藤田 明彦 関西電力病院 耳鼻咽喉科 【はじめに】鼓室形成術I型は、穿孔性中耳炎に対する鼓膜穿孔閉鎖治療や耳小骨連鎖の再建を 必要としない真珠腫性中耳炎に対して用いられる基本的な術式である。一般的に80〜90%の聴 力改善および穿孔閉鎖率が報告されているが、一方で再穿孔を繰り返す症例や聴力改善不良例 も少なからず存在し、更なる検討が望ましい。今回、我々の施設における鼓室形成術I型の術後 成績や手術手技に関して報告する。 【対象と方法】2013年5月から2014年4月までの1年間において、当院で鼓室形成術I型を施行し、 少なくとも術後半年以上経過観察できた75耳を対象とした。年齢は5歳から84歳(平均年齢48.1 歳)、男性37人37耳、女性38人38耳であった。また、初回手術例は64耳(内訳として、慢性中耳 炎(鼓室硬化症、癒着性中耳炎、鼓膜炎を含む)が39耳、真珠腫が25耳)、再手術例は11耳であ った。それぞれの症例について日本耳科学会術後聴力成績判定基準 2010版に基づいて聴力成績 を評価し、さらに再穿孔の有無、乾燥耳が得られたかについても検討を行った。 【結果】日本耳科学会術後聴力成績判定基準2010版に基づいた聴力成績(短期成績を含む)は、 84.0%(75耳中63耳)であり、疾患別においては慢性中耳炎(鼓室硬化症、癒着性中耳炎、鼓膜 炎を含む)で84.6%(39耳中33耳)、真珠種性中耳炎で80.0%(25耳中20耳)、再手術例は90.9% (11耳中10耳)であった。また、経過観察中に再穿孔を認めた例は5.3%(75耳中4耳)、潜在化を 認めた例は4.0%(75耳中3耳)、耳漏の再燃を認めた例は1.3%(75耳中1耳)であった。 【考察】当院における聴力改善成績は84.0%で、他報告と比較してもほぼ同等の結果が得られ た。本検討において聴力改善不良例の多くは耳管機能不全を合併しており、術後の対応を考慮 する必要があることが示唆された。また、穿孔を繰り返す症例に対する工夫として、当科では 薄切軟骨を用いての鼓膜閉鎖を時に試み、良好な結果を得ている。その他、若干の文献的考察 も加えて今回の結果を検討し、詳細に報告する予定である。141
慢性中耳炎に対するinlay法による鼓室形成術の手術成績
田中 健、石井 賢治、林 賢、相原 康孝、神尾 友信 神尾記念病院 対象:2009年5月から2014年4月までの5年間に神尾記念病院で鼓室形成術を施行した慢性中耳炎 初回手術例459耳のうち、1年以上経過を追えた294耳について検討した。対象年齢は5歳から84 歳までで、平均55.2歳であった。疾患の内訳は、慢性穿孔性中耳炎269耳、鼓膜チューブ留置後 穿孔18耳、鼓膜切開後穿孔 6耳、外傷性鼓膜穿孔1耳となっていた。鼓膜穿孔の大きさで分類す るとGrade 1(鼓膜穿孔の大きさが緊張部の25%以内)が70耳、Grade 2(50%以内)119耳、 Grade 3(75%以内)78耳、Grade 4(75%以上)27耳であった。 成績:経過観察中に生じたすべての鼓膜穿孔(小穿孔も含める)の有無で判定すると、鼓膜穿 孔閉鎖率は95.9%(281耳/294耳)であった。また聴力改善率では、86.7%(255耳/294耳)で 成功例と判定された(聴力成績判定基準2010年案)。鼓膜穿孔の大きさと術後成績を比較する と、聴力改善率/穿孔閉鎖率はGrade 1では94.3%/95.7%、Grade 2では84.9%/98.3%、Grade3では84.6%/94.9%、Grade 4では81.5%/88.9%であり、各Grade間では有意差を認めなかっ た。 考察:聴力改善率、鼓膜穿孔閉鎖率とも他報告と比べ遜色なく良好であると考えられた。術前 鼓膜穿孔の大きさは、聴力改善率や穿孔閉鎖率に影響しないと考えれらた。術後に聴力改善し ない例や再穿孔をきたした例について考察した。
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反復する耳漏を主訴とした穿孔性慢性中耳炎に対する
鼓室形成術術後成績の検討
熊井 良彦、湯本 英二 熊本大学 耳鼻咽喉科頭頸部外科 はじめに 反復する耳漏はQOLを確実に下げるため、耳漏停止および聴力改善の希望の程度患者の年齢 および全身状態を考慮して手術適応を的確に判断することが重要である。 対象 2012年5月より2014年10月までに演者が鼓室形成術を行った51耳のうち、幼少時より反復する 耳漏を主訴に手術を行った穿孔性慢性中耳炎症例で術後6ヶ月以上経過を追えた15耳を対象とし た。年齢は39歳〜75歳(平均53.5歳)で男性7耳 女性8耳で両耳手術行った症例が3例含まれ た。 方法 術式は全例耳後部切開アプローチによる外耳道後壁保存型鼓室形成術で行い、原則として乳 突部に軟部陰影を認めた場合は乳突削開術を併用した。上記対象の1)術前耳漏細菌検査結果 2)術前の抗生剤使用状況3)鼓膜穿孔閉鎖の有無 4)耳漏停止の有無 5)術後6ヵ月の聴力改 善の成績判定(日本耳科学会 聴力改善の成績判定案 2000)6)乳突削開術併用の有無 7)耳 小骨再建術式8)術後抗生剤使用状況 9)耳小骨の破壊を伴った連鎖障害の有無と年齢(60歳以 上か以下か:病脳期間を反映)の関連について後ろ向きに検討した。 結果 1)術前細菌検査の内訳はメチシリン感受性黄色ブドウ球菌MSSAが8/15で最も多く、アス ペルギルスとカンジダが各々2/15、MRSA緑膿菌およびセラチアが各々1/15で認めた。2)術前 は、MSSA症例は全例オフロサキシンの点耳がなされ、それ以外については耐性を考慮してオ フロサキシン点耳を中止し生食水による洗浄が行われていた。MSSA以外の症例の中には他院 で漫然と点耳薬が使用されていた可能性の高い症例も認めた。3)13/15で閉鎖し、2例で再穿孔 を来したが、うち1例は再手術にて閉鎖し最終的に14/15で閉鎖した。4)15/15で完全に耳漏は 停止した。5)12/15で成功例に該当した。6)11/15で乳突削開術施行した。行わなかった4例中 3例では乳突部に軟部陰影を認めなかったが、1例では、軟部陰影を認めるが中頭蓋底が極めて低かったため行わなかった。7)0型1例 I型8例 IIIc 4例 IIIi 1例 IVc1例 8)術後はMRSA 症例を除いて全例ペニシリンもしくはセフェム系抗生剤を2〜3日程度点滴で使用し、その後 ニューキノロンを5日程度内服されていた。MRSA症例は術後5日間バンコマイシンを点滴で使 用した。9)耳小骨の破壊を伴った連鎖障害の有無と年齢が60歳以上であるか以下であるかにつ いてχ2検定を行うと60歳以上の群で有意に耳小骨の破壊を伴った連鎖障害が多かった。 考察 反復する耳漏を呈する穿孔性慢性中耳炎に対する乳突削開術の必要性については議論がある が、乳突部に軟部陰影を認めても乳突削開術を行わなかった1例でも術後順調に鼓膜は閉鎖し耳 漏も停止したことを考慮すると不可欠ではない可能性もある。この点については今後症例を増 やして検討したい。また60歳以上の7例すべてで、耳小骨の破壊を伴った連鎖障害を認め 病悩期 間が長ければ、連鎖再建を要することが示唆された。結論反復する耳漏を呈する穿孔性慢性中 耳炎に対する演者が行った鼓室形成術の治療成績を検討した。全例で耳漏を停止でき、12/15で 聴力成功例に該当した。
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鼓膜換気チューブを併用したcartilage tympanoplastyについての検討
矢間 敬章1、國本 泰臣1、長谷川賢作2、久家 純子1、北野 博也1
1鳥取大学 医学部 感覚運動医学講座 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野、
2日本医科大学附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科
【はじめに】
当院の鼓室形成術の基本術式はretrograde mastoidectomy on demandを採用しており、削開 した上鼓室側壁・外耳道後壁は耳介軟骨もしくは耳珠軟骨を薄切して再建している。癒着が見 られる部分は、そこを十分カバーできる様に薄切軟骨を大きく当てるようにしている。薄切軟 骨による再建は形態保持に優れ、癒着性中耳炎や中耳真珠腫など、耳管機能不全が予想される 病態の手術に適している。しかし、それでもなお再陥凹や再癒着などを起こす症例も経験して いる。我々は術後含気改善状態を予測する指標のひとつとして、術前にバルサルバ法による自 己耳管通気の確認を行っている。自己耳管通気が困難な症例は、術中に鼓室内から細径チュー ブを利用して耳管の狭窄状態を確認する。その結果、通気不良と予想される症例に関して鼓膜 換気チューブ留置を併用してきた。 【目的】 薄切軟骨を用いて再建を行う鼓室形成術を施行した患者のうち、鼓膜換気チューブを併用し た症例は術後どのように経過するかを明らかにすると同時に、聴力成績および鼓室含気状態に ついて調査する。 【対象】 2005年4月から2015年3月までの間に薄切軟骨を用いた鼓室形成術を施行し、術後1年以上経過 観察が可能であった症例とした。対象疾患は弛緩部型真珠腫、緊張部型真珠腫、慢性中耳炎 (鼓室硬化症含む)、癒着性中耳炎とした。 【方法】 診療録をretrospectiveに解析し、疾患別に鼓膜換気チューブの留置期間などについて調査し た。また、術後聴力改善の状況や、含気状態についても検討した。聴力改善の判定基準は日本 耳科学会術後聴力成績判定基準(2010)を使用した。含気状態の区分は、<1>下鼓室のみ、<2> アブミ骨底板周囲まで、<3>上鼓室まで、<4>mastoidまで、とした。 【結果】 鼓膜換気チューブはどの疾患も1年半〜2年までのうちに脱落していた。脱落原因としては痂 皮による閉塞と埋没、自然脱落が大半を占めた。感染や肉芽形成により摘出したものは2割程 度、含気が良好に経過したり、バルサルバ法による自己耳管通気が改善したため、意図的に除 去したものは1割程度存在した。薄切軟骨を用いた鼓室形成術症例における含気状態や聴力改善 については、鼓膜換気チューブ利用の有無で成績に大きな差は見られなかった。 【考察】 鼓室形成術において術後再陥凹による真珠腫形成や再癒着をコントロールすることはきわめ て重要な課題である。含気状態を良好に保つことがポイントであり、鼓室粘膜の維持・再生を 主眼に置いた治療法や、鼓膜形態の維持・補強のため薄切軟骨またはシリコン板を用いる方法 などがある。鼓膜換気チューブについてはこれまでに癒着性中耳炎に対する検討などが多く報 告されている。その中で、鼓膜換気チューブを挿入すること自体は有害ではないが、聴力改善 や再発防止に寄与する十分なエビデンスは得られていないとされている。今回の結果は薄切軟 骨を用いた鼓室形成術症例に限られるが、従来の報告と同様に鼓膜換気チューブを使用するこ とが術後成績改善に大きく影響するとは言いづらいものの、耳管機能が不良と思われる症例に おいて含気状態を増悪させない可能性はあると考えられた。
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当科における鼓室形成術III型の検討
佐藤 進一、玉木 久信、吉田 充裕、藤原 崇志 倉敷中央病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 【はじめに】当科における鼓室形成術はほぼすべての症例で外耳道保存型鼓室形成術を行ってい る。連鎖再建に際しては真珠腫症例や耳小骨固着症例などでは比較的積極的にIII型を選択する ことが多い。今回我々は当科で行なった鼓室形成術III型について検討したので報告する。 【対象】2004年10月から2014年6月までの9年9ヶ月の間に倉敷中央病院耳鼻咽喉科において鼓室 形成術を施行した 897 耳の内、鼓室形成術 III 型を行ったものは 388 耳であった。この内、 500,1000,2000Hzいずれかの骨導がscale outであった26耳、1年後以降の聴力評価ができなかった 37耳を除外した325耳につき検討を行った。年齢は5歳から82歳(中央値50歳)であった。平均 入院期間は7.0日であった。 【結果】聴力成績判定には日本耳科学会聴力成績判定基準(2010)を使用した。判定聴力は調査 中最も最近のものを使用した。少なくともひとつの判定基準を満たし、成功であったものは295 /325耳(90.8%)であった。術式別ではIIIc型273/299耳(91.3%)、 IIIi型22/26耳(84.6%)であ った。病気別では、真珠腫性中耳炎 181/196耳(92.3%)、慢性中耳炎108/120耳(90.0%)、耳小 骨奇形4/4耳(100%)、原因不明0/2耳(0%)、外傷性1/1耳(100%)、中耳腫瘍1/1耳(100%)、 外耳道閉鎖再手術0/1耳(0%)であった。 【考察】当院での鼓室形成術 III 型の術後聴力成績について日本耳科学会聴力成績判定基準 (2010)を用い、レトロスペクティブに検討した。まず術式選択であるが、当院ではキヌタ骨体 部が残っていれば、キヌタ骨体部をコルメラとした IIIc型を基本術式としている。キヌタ骨体部 が残っていなければ、ツチ骨頭をコルメラとした IIIc型とし、両方なければ、アパタイトセラミ ックをコルメラとしたIIIc型か残存耳小骨や皮質骨を利用したIIIi型をおこなっている。今回IIIc 型のほうがIIIi型よりも成績が良かった。コルメラの傾きが鼓膜に対し垂直に近いIIIc型の方が 聴力改善に有利である印象を持っているが、より程度のひどい中耳炎が IIIi型となった可能性、 術者の慣れの問題も影響している可能性はある。病気別では、真珠腫と慢性中耳炎とでは大き な差はなかった。原因不明の混合性難聴に対して術中若干の耳小骨の可動性不良を感じ悩んだ 末IIIc型を行った2例は、2例とも聴力改善は得られなかった。今後の課題である。これからもい ろいろな視点から分析を行い、今後の鼓室形成術の参考としたい。145
鼓室硬化性病変に対する手術の検討
國本 泰臣1、長谷川賢作2、矢間 敬章1、久家 純子1、北野 博也1 1鳥取大学医学部 感覚運動医学講座 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野、 2日本医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 【はじめに】 鼓室硬化症は慢性中耳炎の終結段階の状態と考えられ,耳小骨周囲に石灰化や骨新生による 硬化性病変を生じる.その影響で伝音難聴を来たし,手術による聴力改善が困難な病態の一つ である.このような病態に対する当科の基本術式としては「上鼓室削開術」もしくは「外耳道 削除型鼓室形成術・外耳道再建術」を行い,上鼓室・外耳道後壁を薄切軟骨で再建している. 硬化性病変だけでなく癒着性病変も合併する場合には,術前に癒着および陥凹を認めた部分を カバーするように鼓膜も薄切軟骨で再建している.再建に使用する軟骨は,主に耳甲介舟 (cymba conchae)を第1選択とし,必要に応じて耳甲介腔(cavum conchae)や耳珠(tragus) を追加している.採取した軟骨は0.3mmのスペーサーを用いてKURZ社製の軟骨スライサーを用 いて薄切している. 再建の際には,前方の線維性鼓膜輪の直上レベルで外耳道前上壁に軟骨固定用の溝を作成 し,その溝に軟骨前端を当てて,なるべく軟骨と鼓膜が段差なく連続するように固定してい る.軟骨はツチ骨短突起に当たる部分に切れ込みを入れてツチ骨に乗せるように設置し,なる べく大きな軟骨片を使用して後方の線維性鼓膜輪にも軟骨後端を乗せることで,再建軟骨片の 変位や陥凹を予防するよう留意している. 【対象と方法】 鼓室硬化性病変が存在していた症例のうち,当科で上述の薄切軟骨を用いた鼓室形成術を施 行し,術後1年以上経過を追えた56耳を対象とした.疾患の内訳として,鼓膜に穿孔や癒着のな い鼓室硬化症,鼓室硬化性病変を合併した慢性中耳炎,鼓室硬化性病変を合併した癒着性中耳 炎とし,真珠腫症例は除外した.手術時の年齢は12歳から79歳で,平均57.3歳であった.日本耳 科学会の術後聴力成績判定基準(2010)およびAAO-HNSに準じた術後気骨導差,術後の鼓室含 気化や再建鼓膜の形態変化について検討した. 【結果】 術後の聴力検査は直近のものを用い,術後12から110ヶ月(平均40.3ヶ月)に施行した.日本 耳科学会の術後聴力成績判定基準(2010)による全体の成功例は56耳中35耳(62.5%)であっ た.0.5,1,2,3kHzの4周波数平均(3kHzは2kHzと4kHzの平均値で代用)の術後骨導を用い た術後気骨導差は,10dB以内が10耳(17.9%),11〜20dBが24耳(42.9%),21〜30dBが16耳 (28.6%),31dB以上が6耳(10.7%)であった. 術後CTも直近のものを用い,術後12から109ヶ月(平均36.0ヶ月)に施行した.術後鼓室含気 化の程度を,1.アブミ骨底板周囲の含気が見られないもの(A0),2.アブミ骨底板周囲には含気 が見られるが上鼓室までは見られないもの(A1),3.上鼓室以上に含気化が見られるもの(A2) に分類した.術後1年以上でCTを撮影した54耳中,A0は2耳(3.7%),A1は16耳(29.6%),A2 は36耳(66.7%)であった. 最終受診時の鼓膜形態については,陥凹などの異常所見を認めないものが46耳(83.6%),全 体的に軽度陥凹しているがdebris貯留を認めないものが1耳(1.8%),tube留置など鼓膜穿孔のあ るものが7耳(12.7%),陥凹形成しdebris貯留を認めるものが1耳(1.8%)であった. 【考察】 今回の結果から,術後の鼓室含気化や鼓膜形態は比較的良好だが,術後の聴力成績は成功率 62.5%であった.これらを過去の報告(術後の聴力成功率55.6%〜80%)と比較し,術式や伝音再 建の方法・再建材料などにつき検討する.146
鼓室硬化症術後の骨導聴力の変化
堀 真也、高木 明、梅田 裕生、木谷 芳晴、松原 彩、 大八木誠児、関川 奈穂、喜夛 淳哉 静岡県立総合病院 頭頸部・耳鼻咽喉科 【はじめに】 耳硬化症などの中耳疾患の術後にしばしば骨導閾値が改善することが知られている。鼓室硬化症はア ブミ骨周囲に硬化性病変を伴う例も多く、当科ではこれらの症例に対してアブミ骨周囲の硬化性病変を 徹底的に除去しアブミ骨を可動化させる方法で聴力改善を図っている。今回われわれは、術後1年以上 経過を追えた鼓室硬化症症例を対象に、骨導聴力の変化につき検討した。 【対象と方法】 2006年7月から2014年3月の93ヶ月間に当科で手術を行い術後1年以上経過観察を行った鼓室硬化症49 例52耳を対象とした。アブミ骨周囲硬化の有無、術前と手術1年の気導および骨導聴力(周波数毎なら びに3分法平均)につき、調査した。術後聴力成績は日本耳科学会2010年案に基づき判定し、統計学的 評価にはpaired t検定およびStudentのt検定を用いた。 【結果】 男性13例15耳、女性36例37耳、手術時年齢8〜75歳(平均 58.5歳)、伝音再建法はI型4耳、IIIc型37 耳、IIIi-M型8耳、IVc型3耳、手術1年後の成功率は76.9%であった。26耳(50.0%)にアブミ骨周囲硬化 を認めた。17耳(32.7%)で術後に10dB以上骨導閾値が改善した。 52耳の平均の聴力(3分法)は、術前気導61.5dB、骨導31.7dB、術後気導39.7dB、骨導25.2dBであ り、術後に6.5dBの骨導閾値の改善を認めた。アブミ骨周囲硬化のある26耳(A群)とアブミ骨周囲硬 化のない26耳(B群)の術後聴力変化を比較したところ、気導聴力は両群とも125、250、500、1k、 2kHzが有意に改善した。骨導聴力は、A群では250、500、1k、2kHzの4周波数が、B群では2kHzのみ が有意に改善した(下図)。平均骨導聴力改善はA群9.0dB、B群3.9dBで、A群の骨導改善のほうが有意 に大きかった(p<0.05)。 【考察】 耳硬化症ではアブミ骨固着により慣性骨導が減弱するため2kHz付近の骨導低下を生じるとされてお り、アブミ骨手術後に骨導聴力が改善する例が多い。鼓室硬化症の28.6%(4/14耳)、鼓室硬化症を伴う 慢性中耳炎の13.6%(3/22耳)で術後に10dB以上の骨導閾値が改善したとの報告(佐藤ら、2012)があ る。今回検討した鼓室硬化症症例も32.7%で10dB以上骨導閾値が改善し、特にアブミ骨周囲硬化のある 例で改善が顕著だった。耳硬化症の場合と同様に、アブミ骨固着の解除により慣性骨導が改善したため と考えられる。 鼓室硬化症の手術では、アブミ骨周囲硬化がある例でも硬化性病変を丁寧に除去しアブミ骨を十分に 可動化させれば骨導閾値の改善も得られ、良好な術後聴力が期待できる。147
鼓室形成術における聴力改善にコルメラの角度は関与するのか?
高岩 一貴1、小宗 徳孝1、岡 正倫1、松本 希1、小宗 静男2 1九州大学 医学研究院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科、2祐愛会織田病院 鼓室形成術における伝音再建方法として、特にIII型は現在IIIi型とIIIc型に亜型をとる方式に 発展している。当施設に於いても鼓室形成術は可能な限り後壁温存し伝音再建を行い、その連 鎖再建に用いる材料として、ツチ骨、キヌタ骨、皮質骨などの自家骨や耳介軟骨、人工物とし てはアパセラムを用いている。伝音再建を行った症例については、術後6ヶ月を目安として日本 耳科学会による聴力改善成績判定案(2000 年版)に基づき聴力改善の成否を判定している。特 に聴力改善を認めなかった症例については側頭骨拡大CTを施行し、耳小骨周囲、特にコルメラ の位置や周囲の状態を把握し再手術を模索する場合もある。今回我々は、当施設で鼓室形成 (III型及びIV型)を施行された症例について聴力改善の成否を分け、さらに側頭骨CTでコルメ ラの位置に何か相違があるかを評価した。原疾患、術式(CWU/CWD)、再建材料、伝音再建 型、側頭骨CT初見の違いを評価項目に治療成績の差を検討したので、これに文献的考察を加え て報告する。対象と方法 当科において2012年1月〜2014年12月の3年間に当科にて鼓室形成III 型もしくはIV型を行った症例のうち、半年以上の経過観察が出来た108例108耳を対象とした。 内訳は慢性中耳炎(鼓室硬化症含)22例、癒着性中耳炎2例、真珠腫性中耳炎69例、耳小骨奇形 6例、外傷性耳小骨離断4例、その他5例であった。再建方式はCWU:IIIi14例、IIIc57例、IVi4 例、IVc14例、CWD:IIIi0例、IIIc14例、IVi0例、IVc3例であった。再建材料は耳小骨(ツチ 骨、キヌタ骨)60例、耳介軟骨13例、皮質骨17例、皮質骨+軟骨1例、アパセラム16例であっ た。結果 上記全症例での日本耳科学会による聴力改善成績判定案(2000年版)に基づき聴力改 善の成否は62%であった。148
鼓室形成術再手術症例の検討
<主に再形成再発による再手術>
和田 忠彦、岩永 迪孝、羽田 史子、堀中 昭良、井上 雄太、藤田 明彦 関西電力病院 耳鼻咽喉科 慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎に対する手術では、数年良好な経過をたどるも、その後再手術 となるケースは少なからず存在する。また、再手術症例ではなかなか思うような外耳道や鼓膜 の形態になりにくくなったり、乾燥鼓膜や聴力改善も困難なケースがある。そのたびに初回手 術の大切さを学ぶことが多い。 再手術に至る理由では、乳突腔障害 再形成再発 鼓膜浅在化 聴力低下 鼓膜癒着 鼓膜 再穿孔 遺残性再発など多岐にわたる。 当科での2010年8月〜2013年8月までの約3年間で鼓室形成術で再手術に至った症例は83耳で あった。性別は、男性33耳、女性50耳であり、年齢は6歳〜80歳であった。初回手術が当院で施 行された例が37耳、他院で施行された例が46耳であった。 今回、特に術後再形成再発になり再手術に至った例を手術ビデオも提示しながら、初回手術 で何を考え、どうのように対応すべきか、さらに再手術でどのように対応すべきかなどを考察 した。 真珠腫性中耳炎に対する術式にはさまざまあるが、大きく分けて外耳道後壁削除型鼓室形成 術と外耳道後壁保存型鼓室形成術術式がある。いずれの方法も一長一短であり、個々の症例に 応じて柔軟な対応をすべきである。再手術症例で最も苦慮するのが、乳突蜂巣発育が良好にも かかわらず、初回手術において外耳道後壁削除型+軟組織再建術式で採用された例で術後乳突腔 含気が不良のため、上皮が乳突蜂巣内隅々まで侵入し、さらに外耳道後壁の削開が不十分のた め、感染や耳垢蓄積(再発)となる例がある。再手術では、発育良好な乳突洞を充填したり、 外耳道後壁の一部を軟骨で再建したりなどするが、再手術後の管理も苦慮する。 【考察1】乳突蜂巣の発育良好例では、術後乳突腔が含気されることが多いと期待するが、結果 的にされない例も少なからずあり、残念ながら手術前から予期することは現在のところ困難で ある。乳突洞発育良好例に限っていえば、初回手術において極力外耳道後壁保存した術式を採 用すべきと考える。 【考察2】再手術では、発育が良すぎるあまりopen法術式ではcavity problemとなるケースがあ り、palva flapや自家耳介軟骨で乳突腔充填および外耳道再建するケース多い。ただ、長期的に みるとpalva flapが萎縮し、再陥凹(再形成再発)となる例があり、乳突腔の充填に人工骨で土 台をつくりその上に骨パテや軟骨などで何重にもカバーし充填し対処した例もある。 このように、長期間経過後に再手術となる例もあることから、初回の術式選択が重要であ り、できるだけ再修正のききやすい術式は何なのか を考えることも必要かと考える。149
<演題取り下げ>
側頭骨内髄膜脳瘤の3例
我那覇 章1、比嘉 輝之1、東野 哲也2、鈴木 幹男1 1琉球大学 医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科、2宮崎大学 医学部 耳鼻咽喉科 【はじめに】側頭骨内髄膜脳瘤の3例に対する手術についてビデオを供覧し報告する. 【症例1】53歳の女性.34歳時に交通事故により左完全盲の既往あり.左難聴を主訴に受診.耳 所見にて左外耳道後上壁の拍動を認めた.CTにて中耳軟部陰影を認め,精査目的に手術を行っ た.手術は髄膜脳瘤を切除後,経乳突的に鼓膜欠損部周囲の中頭蓋底硬膜を剥離し,硬膜欠損 部を筋膜で閉鎖した.頭蓋底の骨欠損部は軟骨片で頭蓋底を補強した.術後5年間の経過観察を 行い髄液漏や髄膜脳瘤を認めなかった. 【症例2】24歳の男性.20歳時に右弛緩部型中耳真珠腫に対して右鼓室形成術の既往あり.鼓室 形成術後の経過CTにて上鼓室軟部陰影の増大傾向を認め,遺残性真珠腫を疑い手術を施行し た.術中所見にて中頭蓋底骨欠損部から逸脱した髄膜脳瘤を疑う所見を認めた.術前MRI画像 と併せて髄膜脳瘤と判断した.逸脱した頭蓋内組織は切除せず頭蓋内に戻した後,骨欠損部を Transmastoid extradural-intracranial approach(以下,TMEDIC法)により再建した.術後6年 の経過中に画像上,髄膜脳瘤の再発を認めない. 【症例3】61歳の女性.左の反復する滲出性中耳炎を認めた.CTにて鼓室天蓋の骨欠損と中耳軟 部陰影を認めた.手術では上鼓室から乳突洞口にかけの髄膜脳瘤を切除後,経乳突法によりサ ージセル、側頭筋膜、耳介軟骨、骨パテ、側頭筋弁、脂肪の順に用いて,頭蓋底骨欠損部を閉 鎖した.術後2年を経過し髄膜脳瘤及び髄液漏を認めない. 【考察】側頭骨内髄膜脳瘤の手術法には経乳突法や中頭蓋窩法、経乳突法と中頭蓋窩法の併用等 があり側頭骨内髄膜脳瘤の状況により術式を選択する.症例1では中頭蓋底の骨欠損が大きかっ たため,経乳突法の変法により頭蓋底を再建した(Figure 1).症例2は中頭蓋底の骨欠損が中等 度でありTMEDIC法により頭蓋底の再建を行った(Figure 2).症例3は頭蓋底の骨欠損が小さ いため、経乳突法により手術を行った(Figure 3)。頭蓋底骨欠損部の閉鎖は,複数の組織で閉 鎖した方が髄液漏の再発率が低いとされており,髄膜脳瘤を切除した症例1, 3では複数の材料を 用いて頭蓋底瘻孔を閉鎖し良好な術後経過を得た。 【まとめ】成因の異なる側頭骨内髄膜脳瘤の3例を報告した.側頭骨内髄膜脳瘤においては頭蓋 底の骨欠損の部位や大きさを考慮し術式を選択すべきである.151
中耳真珠腫手術例における鼓索神経温存の検討
─特にいわゆる“sacrifice”の妥当性について─
伊藤 健、安井 拓也、竹久 誠 帝京大学 医学部 耳鼻咽喉科 はじめに 中耳手術と鼓索神経に関連しては術後の味覚機能や切断後の再生の報告は散見されるもの の、不思議なことに実際どれ程の割合で温存されるのか、また真珠腫例で温存すると逆に再発 のリスクが高まるのか等の議論はあまりなされていないようである。病変に巻き込まれた鼓索 神経は積極的に切除(sacrifice)すべきであるという考え方も根強く存在する。当科では数年前 から真珠腫における術式をより保存的なものに変更している。また段階手術における経験から 真珠腫は鼓索神経周辺には再発しにくいという印象を得ていたために、原則的に鼓索神経も温 存する方針としている。今回はその成績を形態面における成否(味覚機能は含めていない)な らびに再発様式により検討した。 対象と方法 2011年4月から2015年5月までに当科にて筆頭演者が執刀あるいは指導した中耳真珠腫手術 例のうちで、初回ないし第2回(段階)手術例を主な対象としたが、他の術者による手術既往 がある症例でも手術所見等により詳細が判明した場合は含めた。また第2回手術をこの期間に 行った症例においては、それ以前に行った第1回手術を含めた。184例189耳が基準に該当し た。年齢は2〜80歳(中央値33歳)、男性103例・女性81例、右側81例、左側98例、両側5例で あった。発症様式は弛緩部型121耳、緊張部型16耳、中心穿孔型(二次性)19耳、外耳道からの 鼓室内進展3耳、先天性35耳(重複あり)。初回手術における鼓索神経温存の成否ならびに第2 回手術における再発様式についてretrospectiveに検討した。 結果 1)初回手術における鼓索神経の温存 189耳中、2耳において鼓室内に鼓索神経と判定可能な索状物を全く認めなかったため除外し た。187耳中、108耳において病変(真珠腫ないし肉芽)が鼓索神経を侵していた。手術中12耳 において鼓索神経が切断され、温存率は175/187=93.6%(切断率は6.4%)であった。温存を 旨とした術式ではあるものの意図的に切断せざるを得なかった例が4耳、部分的にしっかりし た神経を認めたものの追跡すると菲薄となり消失するように見えたものが6耳、全長にわたっ て保存されていたにも関わらず後の手術操作で切断されたものが2耳であった。 追加の検討として同時期に初回手術を行った慢性中耳炎例(接着法を除いた118耳)、耳硬化 症・中耳奇形・外リンパ瘻疑い例(計58耳)を検討したが、全例において鼓索神経は温存され ていた(温存率 100%)。切断率0/176=0.0%は、真珠腫症例における切断率(12/187= 6.4%)との間に有意差(p<0.001)を認めた(比率の差の検定)。 2)第2回(段階)手術における再発の検討 約1年の間隔で段階手術を行った76耳中、12耳(16%)に真珠腫の再発を認めた(遺残性12 耳、再形成性1耳、重複あり)が、単なる上皮内陥を含めても鼓索神経に接触する再発病変を 認めなかった。 考案 近年の手術器械の進歩は目覚ましい。手術用顕微鏡は明るく鮮明な視野を提供し、容易に角 度を変更できる(当科ではZeiss社OPMI Penteroを使用)。キセノンランプ使用により術野が高 温にならず、鼓索神経が乾燥することも稀となった。神経刺激装置により鼓索神経を疑う索状物の鑑別も可能である。極めて鋭利なメス(当科ではBeaver(R)Needle Bladeを使用)を用いて
神経に癒着する上皮も鋭的に剥離することができる。これらの進んだテクノロジーの貢献によ り、重症例の紹介が多い当科においても比較的良好な鼓索神経温存率が得られたものと勘案す る。それでも慢性中耳炎例・耳小骨連鎖異常例等と比べると切断のリスクは高く、術前のイン フォームドコンセントは重要である。また第2回(段階)手術において、保存された鼓索神経 に接する再発病変が認められなかったことから、病変に巻き込まれている場合には“sacrifice”し た方が良いという主張はすでに成り立たなくなっていると考える。
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耳科診療におけるANCA抗体価測定の意義について
岡田 昌浩、高木 大樹、山田 啓之、羽藤 直人 愛媛大学 医学部 耳鼻咽喉科・頭頚部外科 ANCA関連血管炎(以下、AAVと略)は小血管に発生する血管炎で、多発血管炎性肉芽腫症 (GPA)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の3疾患に分 類される。AAVには抗好中球細胞質抗体(ANCA)が関与しており、ANCAの対応抗原として プロテイナーゼ3(PR3-ANCA)、ミエロペルオキシダーゼ(MPO-ANCA)が知られている。近 年、これらのANCAが陽性で難治性中耳炎を呈し、顔面神経麻痺や肥厚性硬膜炎を伴う症例の 報告が増加している。これらの症例は必ずしも全身型AAVの診断基準に当てはまらず、診断や 治療に難渋する場合があった。そこで原渕らが、「ANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)」と いう新たな疾患概念を提唱し、このような血管炎による難治性中耳炎の早期診断・治療に貢献 している。これまでに全国調査で多くの症例が集積されており、その解析から、OMAAVの多 くは中耳炎で発症するが、少数例ながら鼓膜所見が正常であったり、内耳炎・感音難聴が主体 の症例も存在することがわかった。このような症例では他臓器病変がない限り、ANCA測定が 診断の際に重要であると思われる。また、中耳炎で発症するOMAAVも、中耳や乳突蜂巣の病 理組織検査では陰性の場合が多いとされており、診断に関してはANCA測定と除外診断が基本 となる。一方、ANCAは感染症などで疑陽性を呈することも知られている。中耳炎や難聴で ANCAが陽性の場合、病理組織検査での陽性率が低いため、感染症によるものなのか、血管炎 によるものなのかを内科医と議論することも多かった。そこで、当科では、感音難聴や難治性 中耳炎、顔面神経麻痺などの診療の際、できるだけ多くの症例でANCAを測定し、疑陽性を呈 する症例がないかどうかを検討した。 対象は2008年4月から2015年4月の間に難聴やめまい、顔面神経麻痺を主訴に当科を受診し、 ANCAを測定した155例である。ANCAを測定した症例の中で、中耳炎を合併せず難聴もしくは めまいのみの症状であったのは114例あり、そのうち1例がMPO-ANCA陽性であった。中耳炎を 認め、骨導閾値の上昇を伴ったり、難治性のためANCA抗体価を測定した症例が33例あり、そ のうち7例がMPO-ANCA陽性であった。中耳炎がなく、顔面神経麻痺を認め検査を行ったのは8 例あり、全例ANCA陰性であった。全症例の内、ANCA陽性は8例あったが、これらの症例は除 外診断の上、全例OMAAV確実例と診断し、ステロイドや免疫抑制薬で治療を行った。ANCA 陰性例の中で、1例は難治性中耳炎、肥厚性硬膜炎、顔面神経麻痺を認め、OMAAV疑い例と診 断した。 以上の結果から、耳科領域の症状を呈し、ANCAを測定した中で疑陽性を呈した症例はなか った。症例数がまだ少なく、ANCA陽性のみでOMAAVと診断してもよいことにはならない が、病理組織検査の陽性率が非常に低いため、病理検査は行わず、除外診断を行った上で免疫 抑制治療を行うことは妥当であると思われる。また、少数例ながら、感音難聴が主体で中耳炎 のないOMAAV症例もあること、ANCA陰性例でもOMAAVと診断される症例もあることに注 意を要する。153
発症型別にみたANCA関連血管炎性中耳炎の臨床的特徴と経過
立山 香織1,2、岸部 幹2、森田 由香2、吉田 尚弘2、國本 泰臣2、松井 隆道2、 坂口 博史2、岡田 昌浩2、渡辺 毅2、稲垣 彰2、小林 茂人2、飯野 ゆき子2、 村上 信五2、髙橋 晴雄2、東野 哲也2、原渕 保明2 1大分大学 医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科、 2日本耳科学会 ANCA関連血管炎性中耳炎全国調査ワーキンググループ 【目的】ANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)は抗菌薬やチューブ留置術といった通常の中耳 炎に対する治療に抵抗性の難治性中耳炎を呈し、多くは急速に進行する骨導閾値上昇を認め る。このようなANCA関連血管炎に伴う耳病変の発症形式や経過は様々である。中耳炎が初発 症状となる中耳炎初発型、肺や腎病変が先行する他臓器初発型、鼻や咽頭病変など耳以外上気 道症状が初発症状となる上気道初発型に加え、中耳病変を認めず難聴やめまい症状で初発する 内耳炎初発型も存在する。さらに、中耳炎を初発症状とし経過中に臓器病変や顔面神経麻痺、 肥厚性硬膜炎を合併する症例も存在する。全国アンケート調査より集積した症例のデータより それぞれの発症型の特徴をまとめ、耳病変のマネージメントにおける耳鼻咽喉科医の役割につ いて考察した。 【方法】全国アンケート調査より集積した297症例(男性86例、女性211例、年齢中央値67歳、範 囲13-89歳)のデータを用いて検討した。発症形式によって4型に分類すると、中耳炎初発型235 例(80%)、他臓器初発型33例(11%)、上気道初発型15例(5%)、内耳炎初発型11例(3%)、不 明例3例(1%)であった。各発症型の年齢、性別、ANCA型、初発症状、全経過の合併病変に ついて、中耳炎初発型とその他の発症型の臨床的特徴の差について比較検討した。また、中耳 炎初発型症例の初診から全経過で出現した肺、腎病変及び顔面神経麻痺、肥厚性硬膜炎の合併 率の変化についても検討した。 【結果】いずれの発症型も難聴を初発症状とする症例が多かった(87〜100%)。中耳炎初発型で は他臓器初発型と比し、耳痛の合併が多く(41% vs. 9%、p<0.001)、内耳炎初発型では中耳炎 初発型と比しめまいを有する症例の割合が有意に高かった(55% vs. 27%、p<0.05)。全経過で の顔面神経麻痺の合併率は、中耳炎初発型(36%)と上気道初発型(33%)でほぼ同様であった が、他臓器初発型(9%、p<0.01)と内耳炎初発型(0%、p<0.05)で有意に少なかった。肥厚 性硬膜炎の合併率は中耳炎初発型(28%)で最も多く、内耳炎初発型では 0%であった(p< 0.05)。ANCA型は、中耳炎初発型でMPO-ANCA陽性率が高く(60%)、内耳炎初発型とは差が なかったが(55%)、他臓器初発型(33%、p<0.01)及び上気道初発型(27%、p<0.05)と比し 有意に高率であった。また、中耳炎初発型症例の経過について検討した結果、初診時及び全経 過の合併率は、顔面神経麻痺が22%から36%へ、肥厚性硬膜炎は17%から28%へ、肺病変は23% から35%へ、腎病変は14%から21%へそれぞれ増加を認めた(観察期間は1-348ヶ月、中央値24ヶ 月)。全症例中、原病死は4例(1%)存在し、全て中耳炎初発型であった。 【考察】80%が中耳炎初発型であり、OMAAVは難治性中耳炎の鑑別疾患の一つとして認識すべ き疾患であるといえる。上気道初発型、内耳炎初発型も含めると、患者がまず受診するのは耳 鼻咽喉科である可能性が高い。中耳炎初発型は、難聴、耳漏、耳痛といった急性中耳炎症状で 初発し、MPO陽性例が多く、顔面神経麻痺及び肥厚性硬膜炎の合併を約3割に認めた。合併病変 は初診時と全経過で約10%の増加を認めた。内耳炎初発型の約半数は難聴にめまいを伴って発症 し、顔面神経麻痺及び肥厚性硬膜炎を合併した症例は存在しなかった。他臓器初発型であって も経過中に中耳炎を合併する症例が存在しその中の約10%は顔面神経麻痺を合併していた。発症 時、再燃時、フォローアップ時、いずれの段階であっても、正しく病態を理解し、診断及び評 価に関わっていくことが重要であると考えた。154
Rituximabが奏功した血中MPO-ANCA上昇を認めた
ANCA関連血管炎性中耳炎の1例
大槻 好史1、松井 隆道1、小川 洋2、野本 幸男1、今泉 光雅1、大森 孝一1 1福島県立医科大学 医学部 耳鼻咽喉科、2福島県立医科大学 会津医療センター 【はじめに】近年、血中MPO-ANCA陽性の難治性中耳炎報告例が増加している。ANCA関連血 管炎性中耳炎は、早期に診断し治療を開始することが大切であり、ステロイドと免疫抑制薬を 併用することにより聴力は早期に回復し、鼓膜・中耳腔の炎症も消退するが、一度聾になった 症例では聴力の回復は困難であると報告されている(文献1)。2014年、Guillevinらは、ANCA 関連血管炎の治療において、Rituximabは免疫抑制薬に比べ良好な寛解維持をもたらすと報告し た(文献2)。治療抵抗性の難治性中耳炎で血中MPO-ANCAの上昇と高度混合難聴を認めステロ イドによる治療を開始したが、経過中に症状の増悪(内耳障害)を認めたため、 Rituximab維 持療法を導入した。その結果、治療は奏功し内耳障害と高度混合難聴の改善を認めた。今回 我々は、Rituximabが奏功した血中MPO-ANCA上昇を認めたANCA関連血管炎性中耳炎の1例 を経験したので報告する。 【症例】81歳女性。2014年3月から両難聴急速に進行し、補聴器を作成したが装用効果が得られ ないため2014年8月A総合病院を受診した。標準純音聴力検査で両側94dBの混合難聴、側頭骨 CTでは両側中耳腔・乳突蜂巣に軟部陰影を認め、さらに血液検査ではMPO-ANCA 値の上昇 (165EU/ml:正常値 3.5EU/ml以下)を認めたため、2014年9月12日当科紹介となった。当科初 診時の血液検査ではMPO-ANCA値の増悪(279EU/ml)と両側中耳腔への滲出液貯留を認め たため、同日右鼓膜切開術・左鼓膜換気チューブ留置術を施行した。さらに9月19日から両耳 痛・発熱が出現したため、9月25日当科再診となり、標準純音聴力検査では混合難聴の増悪(右 105dB、左103dB)を認めた。当科紹介時に当院膠原病内科紹介とし精査中であったが症状の急 変を認めたため、10月1日当院膠原病内科入院となり10月3日からmPSL1g/day(3日間)施行 後、10月6日からPSL内服加療(40mgから漸減)を開始した。入院加療中に炎症症状の増悪とめ まい症状が出現したため、10月23日よりRituximab維持療法を導入した。その後、 炎症症状・ 鼓膜所見・内耳障害の改善を認め、12月13日退院となった。退院時の血液検査ではMPO-ANCA 値は低下し、標準純音聴力検査では混合難聴の改善(右61.3dB、左71.3dB)を認め、現在も症 状の再燃は認めていない。 【考察】治療抵抗性の難治性中耳炎でRituximabが奏功した血中MPO-ANCA上昇を認めたANCA 関連血管炎性中耳炎の1例を経験した。ステロイドによる治療を開始したが、経過中に症状の増 悪(内耳障害)を認めたため、Rituximab維持療法を導入した。これまで免疫抑制薬との併用に よる治療例が報告されているが、免疫抑制薬は副作用が強く、感染症、悪性腫瘍の誘発、出血 性膀胱炎、骨髄抑制、肝障害などを起こす可能性がある。また高齢者では特に副作用が発現し やすいとされている。これに対し2013年1月より多発血管炎性肉芽腫症(GPA)と顕微鏡的多発 血管炎(MPA)に適応となったRituximabは、免疫細胞のB細胞を選択的に抑制することで血管 炎の活動性を抑える生物学的製剤で、前者に比べて副作用も少なめであるとされている。本症 例は、81歳と高齢であること、ステロイド抵抗性で病状が進行・再燃する可能性が高いと判断 し、Rituximab維持療法を導入し、聴力の改善を認め、現在も症状の再燃はない。今後、さらに 症例を重ねた検討が必要であるが、本疾患に対する治療法の選択が重要であると考えられた。 【参考文献】1)Yoshida N, et al. 2013 Otology & Neurotology 2)Guillevin, et al. 2014 N Engl J Med
経過中に顔面神経麻痺をきたしたANCA関連血管炎性中耳炎の1例
阿久津 誠1、春名 眞一1、平林 秀樹1、深美 悟1、金谷 洋明1、
中村真美子1、柏木 隆志1、田中 康広2
1獨協医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科、2獨協医科大学越谷病院 耳鼻咽喉科
ANCA関連血管炎性中耳炎(Otitis Media with ANCA-Associated Vasculitis:OMAAV)は
2012年の日本耳科学会シンポジウムにて提唱された比較的新しい疾患概念であり、原因不明の 成人発症難治性中耳炎の病因の1つとして認知されている。今回われわれは難聴を初発症状とし て発症したOMAVVの経過観察中に、右顔面神経麻痺をきたした症例を経験したので報告す る。 症例は61歳の男性。1年ほど前から左難聴をきたし近医を受診。滲出性中耳炎と診断され通 院加療するも改善を認めず、精査目的に当科を受診した。初診時は左耳に軽度伝音難聴を認め るのみで、両鼓膜に滲出液の貯留を認めるも外耳道が狭く鼓膜切開が困難であったため内服加 療を試みたが、徐々に難聴が進行した。初診より2ヶ月経過した時点で聴力は右:78dB、左: 99dBまで低下し、中耳炎性内耳炎にて入院となった。セフトリアキソン2g/day、プレドニゾロ ン100mg/dayより漸減投与にて加療を開始し、併せて精査を行った。中内耳CTでは両耳とも乳 突蜂巣の発育は良好で明らかな骨破壊像を認めなかったが、鼓室から乳突蜂巣に軟部陰影を認 めた。血液検査ではMPO-ANCAが陽性(102RU/ml)であり、ANCA関連血管炎性中耳炎と診 断した。入院第5日よりシクロホスファミド50mg/day開始したところ、その後聴力の著明な改 善を認め、入院第 11 日に退院した。その後プレドニゾロン 30mg/day、シクロホスファミド 50mg/dayにて加療を継続した。全身の病変精査目的で当院呼吸器・アレルギー内科を受診した が、耳以外に明らかな所見を認めなかった。聴力は外来経過観察中に右:23dB、左:36dBまで 改善した。退院後2か月経過した時点で皮膚の乾燥と著明な発赤を認め、薬剤の副作用が示唆さ れた為、プレドニゾロン20mg/day、シクロホスファミド内服なしとして経過観察した。徐々に 耳痛・難聴が再燃したが家業が忙しく受診することができなかった。 退院から3ヶ月経過した頃、朝食時に右口角からの漏れを自覚。当院救急外来を受診したと ころ右顔面神経の完全麻痺(表情筋スコア:6 点/40 点)を認め、また聴力に関しても右: 79dB、左:83dBと悪化していたために再度入院となった。プレドニゾロン100mgより漸減し、 エンドキサンも25mgから内服再開。現在プレドニゾロン40mg、シクロホスファミド50mgにて 加療継続しているが著明な改善は認めていない。 本 症 例 で は 顔 面 神 経 麻 痺 の部 位 診 断 を 施 行 し 、障 害 部 位 は ア ブ ミ 骨 筋 枝 - 膝 神 経 節 (suprastapedial lesion)と診断した。ウイルス抗体価はHSV、VZV共にIgGの上昇を認めるのみ で、ウイルス再活性化を契機に発症した顔面神経麻痺とは考えにくかった。顔面神経麻痺発症 16日目に施行した造影MRI検査では肥厚性硬膜炎の所見はみられず、顔面神経の走行に沿って 造影効果を認めるほか乳突蜂巣内の造影効果を認めた。そのため本症例の顔面神経麻痺の原因 として、血管炎の病勢進行や悪化が疑われた。MPO-ANCAやCRPは陰転化しており炎症や病勢 の指標とすることはできないと考えられたが、赤沈1時間値は病勢安定期と比較すると軽度上昇 を認め、マーカーとして有用になる可能性を示唆した。他の同様な症例を検索し、若干の文献 的考察をくわえてここに報告する。
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両側難聴にて発症し、肺胞出血にて不幸な転帰を辿った
ANCA関連血管炎性中耳炎疑い例
戸川 彰久、保富 宗城、山内 一真、玉川 俊次、河野 洋、山中 昇 和歌山県立医科大学 耳鼻咽喉科 頭頸部外科
【はじめに】 ANCA 関連血管炎性中耳炎(Otitis media with ANCA associated vasculitis (OMAAV))は難治性の中耳炎症例の診療において念頭に置くべき疾患であり、肥厚性硬膜 炎、肺病変や腎病変などの全身合併症を生じ、致死的な合併症も生じうる疾患である。今回、 我々は両側中耳炎、混合難聴にて発症し左顔面神経麻痺も出現したため受診、入院後ステロイ ド大量療法を行ったが小腸出血、肺胞出血を生じ致死的経過を辿った一例を経験したため文献 的考察も含め報告する。 【症例】60才男性。両側難聴が出現したため近医耳鼻咽喉科を受診し、突発性難聴の診断にてス テロイドの内服加療が開始されたが、5日後、左顔面神経麻痺が出現したため当科紹介となっ た。当科初診時両側中耳貯留液を認め、純音聴力検査にて平均聴力レベルは右が66.3dB、左が 72.5dB の混合性難聴、左顔面神経麻痺(32/40 点)を認めた。血液検査ではWBC8910/μl、 CRP20.70mg/dlと炎症所見も高値を呈していた。血清抗核抗体、リウマチ因子、PR3-ANCA、 MPO-ANCA、免疫グロブリンなどの各種自己免疫疾患のスクリーニングを行ったが、全て陰性 であった。ANCA関連血管炎性中耳炎疑いとしてプレドニン60mgの内服投与を開始し、顔面神 経麻痺は14/40点までスコアが改善し鼓膜所見、聴力閾値も改善傾向であったが、経過中に原因 不明の消化管出血をきたし、入院後30日目に肺胞出血による気道閉塞にて死亡した。 【考察】OMAAVは報告されており早期の診断が重要であり、診療ガイドラインが作成されてい るがその診断および治療には難渋する場合も多い。本症例は,難聴や顔面神経麻痺が改善して いる中,肺胞出血による気道閉塞にて急変した1例であり、ANCA関連血管炎性中耳炎に対す る早期の免疫抑制剤開始の必要性を示唆する一例と考えられた。
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プロピルチオウラシルによるANCA関連血管炎が疑われた
ステロイド依存性難聴の1例
高野さくらこ、坂下 哲史、加藤 匠子、小杉 祐季、井口 広義 大阪市立大学大学院 医学研究科 耳鼻咽喉病態学 はじめに:バセドウ病の代表的な治療薬としてプロピルチオウラシル(PTU)、チアマゾール (MMI)の2種類がある。妊娠初期のMMI継続暴露がMMI奇形症候群に関与している可能性があ るため、若年女性にはPTUが用いられることも多い。PTUの副作用としてミエロペルオキシダ ーゼ抗好中球細胞質抗体(MPO-ANCA)関連血管炎が発症することが報告されている。今回わ れわれはPTU内服によるANCA関連血管炎が疑われたステロイド依存性難聴の症例を経験した ので報告する。 症例:26歳女性。4年前よりバセドウ病に対しPTUを内服していた。急激に発症した左難聴を主 訴に当科初診。急性感音難聴としてステロイドを投与し聴力は改善したが、ステロイド終了後 数日で聴力は悪化、再投与により改善するというステロイド依存性難聴の経過をとった。自己 免疫疾患を疑い精査したところ、MPO-ANCAが高値であった。MRIやPETなどの画像検査を施 行したが、異常所見を認めなかった。PTUによるANCA関連血管炎が疑われたが、難聴以外に は眼球充血、全身倦怠感を認めるのみであったため、確定診断には至らなかった。薬剤 性 ANCA関連血管炎が疑われた場合は、PTUの中止、変更が望ましいが、若年女性で挙児希望が あることも考慮し、内科と相談の上で、現在までPTUを中止せずにステロイド投与による難聴 のコントロールを行っている。現在までプレドニゾロン(PSL)を徐々に漸減し、PSL5mg/日 で維持している。疲労時に左耳鳴の増強、眼球充血、全身倦怠感が出現するが、PSL5mg/日で 聴力のコントロールは良好である。 考察:ANCA関連血管炎は全身諸臓器の血管に炎症を来す疾患である。発症要因には遺伝因子 と環境因子の関与があり、環境因子の一つとして薬剤が重要である。PTUは甲状腺濾胞上皮細 胞内に取り込まれ、甲状腺ホルモン産生に関与している甲状腺ペルオキシダーゼの活性を阻害 する。この過程で血中好中球にPTUが徐々に蓄積、好中球内のMPOと結合してMPOの構造が変 化し、変性が生じる。変性した MPO に対する自己抗体、ANCA が産生し、このMPO-ANCAから薬剤誘発性ANCA関連血管炎が発症すると言われている。また好中球の細胞死形態
の一つである、neutrophil extracellular traps(NETs)をPTUが引き起こすとも近年報告され
ている。抗甲状腺薬の副作用は一般的に投与開始後3か月以内に発症することが多いが、MPO-ANCA関連血管炎は発症時期が不定で、服用開始後1年以上経過してから発症することが多いと
言われている。抗甲状腺薬、特にPTU長期服用例に感音難聴を発症した際には、血中のANCA 測定も考慮する必要があると考えられた。
頭蓋底骨髄炎との鑑別を要したANCA関連血管炎性中耳炎の1例
岸部 幹1、駒林 優樹1、野村研一郎1、上田 征吾1、高原 幹1、片田 彰博1、 林 達哉1、立山 香織2、原渕 保明1 1旭川医科大学 医学部 耳鼻咽喉科・頭頸部外科、2大分大学 医学部 耳鼻咽喉科 症例:76才、男性主訴:右耳痛、頭痛現病歴:2012年10月、右耳痛があり近医耳鼻咽喉科を 受診した。急性中耳炎として抗菌薬、鼓膜切開を施行されるも、耳症状の増悪と非ステロイド 系鎮痛薬常用でも効果の乏しい頑固な頭痛があり、MRIを施行された。その結果、右上咽頭か ら傍咽頭間隙、一部中頭蓋窩に浸潤する腫瘤を認め、上咽頭癌疑いにて上咽頭生検が施行され た。生検の結果、炎症細胞浸潤のみの非特異的炎症性粘膜との結果であったため、精査、加療 目的に2013年1月に当科紹介となった。既往歴:糖尿病、肺結核、発作性心房細動。当科初診時 所見:右鼓膜が厚く肥厚しており、小穿孔が存在し、そこより耳漏を認めた。左鼓膜は薄く石 灰化を認めるも、鼓膜肥厚は認めなかった。上咽頭は、表面が整で明らかな腫瘤は認めず、前 医での生検痕以外の所見は認めなかった。血液検査所見:WBC 5600(/μL)、CRP 1.45 (mg/dL)、LDH 233(IU/l)、SCC 2.4(ng/ml)、CYFRA 4.07(ng/ml)、sIL-2R 848(U/ml)、 β-D-グルカン陰性、クオンティフェロン陰性、PR3-ANCA<10(U/mL)、MPO-ANCA<10 (U/mL)。耳漏細菌検査:常在菌(MSSA)のみ検出。純音聴力検査:右47.5dB(4分法)の混 合難聴、左31.3dB(4分法)の感音難聴を認めた。頸部CT:右上咽頭から右傍咽頭間隙、右中 頭蓋窩に腫瘤性病変を認め、頭蓋底の一部に骨破壊を伴っていた。頸部MRI:上咽頭から右傍 咽頭間隙の腫瘤はT1強調像で等信号、T2強調像で低信号、造影効果を伴っていた。また、右頸 椎から右中頭蓋窩にかけて硬膜の肥厚を認めた。臨床経過:当科でも再度、上咽頭生検を行っ た。結果は肉芽組織を認める非特異的炎症所見のみであった。以上から、難治性中耳炎、肥厚 性硬膜炎を認め、PR3-ANCA、MPO-ANCA 共に陰性であるが、他疾患が否定されたため OMAAVと考え、プレドニゾロン(PSL)4mg/日、サイクロフォスファミド(CY)25mg/日か ら診断的治療を開始した。耳漏は停止し、耳所見は改善するものの頭痛がとれず、ステロイド パルス(メチルプレドニゾロン1g/日、3日間)を施行した。ステロイドパルス施行後、頭痛は 消失した。以後、PSLを漸減し、PSL10mg/日を維持量とし、CYを治療半年後で休薬とした。 治療半年後のMRIでは、右上咽頭腫瘤、肥厚性硬膜炎ともに消失していた。その後、近医内科 でフォローされていたが、2013年9月発作性心房細動の悪化を認め、10月には細菌性髄膜炎を併 発し、2014年2月に永眠された。髄膜炎時の脳MRIでは肥厚性硬膜炎、上咽頭腫瘤の再燃は認め なかった。治療前の保存血清を、ANCAパネルキットにて測定したところ、BPI-ANCA陽性と 判明した。考察:本疾患は、頭蓋底骨髄炎との鑑別が困難であった。OMAAVであれば、免疫 抑制療法が著効する。一方、頭蓋底骨髄炎では、数カ月単位の抗菌薬投与が必要であり、免疫 抑制療法は症状の悪化に寄与するものと思われる。本症例は、当科紹介後、抗菌薬治療は行わ れておらず、免疫抑制療法によって、症状・画像所見の改善を認めたことから、頭蓋底骨髄炎 よりはOMAAVであると考えられた。また、BPI-ANCAであるが、本ANCAは好中球の殺菌物 質であるBPIに対するANCAであり、cytoplasmic-ANCAの一つとして1994年に報告された。臨 床的意義はまだ、完全に解明されていないが、これまでに気管支拡張症やびまん性汎細気管支 炎、緑膿菌感染症などの疾患で陽性率が高いことが知られている。しかし、近年、両ANCA陰 性の間質性肺炎を伴う全身性血管炎でBPI-ANCAが高値であった症例が報告されている。この 症例では、免疫抑制療法により臨床所見が改善するとともに、BPI-ANCA値も陰性化した。よ って、BPI-ANCAが全身性血管炎を引き起こす可能性があると結論されている。本症例でも、 両ANCA陰性であったが、BPI-ANCAが陽性であり、免疫抑制療法により臨床所見の改善を見 たことから、BPI-ANCAが原因のOMAAVと考えられた。159
ANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)治療中に肥厚性硬膜炎と
脳原発性悪性リンパ腫を発症した一症例
中島小百合、鈴木 豊、千田 邦明 地方独立行政法人 山形県・酒田市病院機構 日本海総合病院 ANCA関連血管炎症候群に伴う難治性中耳炎、ANCA関連血管炎性中耳炎(OMAAV)につ いては診断基準が示され、耳鼻咽喉科医の間で広く認知されるようになっており、耳症状を初 発とした限局型から比較的早期に治療が開始されることが多くなったが、長期にわたり内科 他、各科との連携をはかりながら治療方針についても関与していく必要があると考えている。 今回、治療経過中に肥厚性硬膜炎、脳原発性悪性リンパ腫を発症し不幸な転機をたどった一例 を経験したので、その臨床経過を提示し、当科で経過観察中の症例についても検討を加えて報 告する。症例 69歳 女性 現病歴 20XX年4月より咳、鼻閉あり。近医にて滲出性中耳炎と 診断され両側鼓膜チューブ挿入したが、難聴、耳漏持続。7月27日当科紹介。好酸球性中耳炎を 疑いプレドニゾロン(PSL)投与。一時両耳漏、難聴は改善し、休薬したところ、8月14日両側 感音難聴増悪したため、一旦PSL30 mg/日に増量し、その後漸減。10月22日咽頭痛、嚥下困 難、嗄声出現。左迷走神経麻痺出現。MPO-ANCAの上昇を認め、右中鼻道および上顎洞の粘膜 からの生検施行、microscopic polyangitisが疑われた。さらに顔面神経、舌下神経障害も出現し たが、この時点での頭部MRIでは脳梗塞や肥厚性硬膜炎等の中枢性病変は認めなかった。PSLの 増量で左迷走神経以外の脳神経症状は改善したが、難聴が増悪、免疫抑制剤シクロホスファミ ドを併用、嚥下障害の改善が遅延し、一旦胃瘻を造設、リハビリを継続することで経口摂取可 となった。PSL漸減中の20XX+1年4月に左視力低下、頭痛出現。精査加療目的に施行したMRI で肥厚性硬膜炎の発症を認めた。両側の視神経炎と診断、4月27日よりメチルプレドニゾロンに よるステロイドパルス療法施行したが、左の視力は光覚弁のまま改善しなかった。20XX+2年1 月11日左上肢、顔面の痙攣発作出現。1月13日のMRIで右頭頂葉に腫瘍を認め、1月27日脳神経 外科にて定位脳腫瘍生検術を施行。脳原発悪性リンパ腫と診断された。血液内科へ転科、2月19 日よりメトトレキサート(MTX)大量療法1コース目を施行。腫瘍の縮小は見られず、MTX治 療抵抗性として放射線治療(全脳30Gy/局所10Gy)へ方針を変更、効果判定のCTではPRと判定 された。4月17日発熱、重症肺炎を合併し、DICを併発。4月27日死亡。160
肥厚性硬膜炎の2例
─耳症状を主訴に当科を受診した多発血管炎性肉芽腫症の画像所見
川島 慶之、高橋 正時、水島 豪太、堤 剛 東京医科歯科大学 耳鼻咽喉科 【はじめに】 肥厚性硬膜炎(HP)は脳脊髄硬膜の肥厚を主徴とする炎症性疾患であり、造影MRIにて硬膜 肥厚を確認することにより診断される。基礎疾患は多岐に渡るが、ANCA関連血管炎(AAV) が最多であったと報告されている1)。一方、HPの病理所見からは、肉芽腫の存在が特徴であり 血管炎が確認された症例は少なかったと報告されている2)。多発血管炎性肉芽腫症(GPA)にお けるHPの発症機序として、隣接する上気道病変の波及、あるいは遠隔性の脳脊髄膜病変が考え られている。今回我々はHPを認めたGPAの2例を経験したため、HPを認めなかったGPA症例と あわせて画像所見を中心に臨床像を検討した。 【対象と方法】 2004年から2014年の期間に耳症状を主訴に当科を受診し最終的にGPAと診断された症例は9例 であった。このうち頭部造影MRIおよびCTが施行されていた7例を対象とした。主要な評価項 目は、1)頭部造影MRIでの頭蓋内病変の有無と局在、2)頭蓋底に接する副鼻腔・鼓室・乳突 蜂巣陰影の有無と局在および造影効果の有無、3)頭部CTでの頭蓋底骨破壊の有無、4)脳神経 麻痺、5)骨導平均聴力レベルとした。 【結果】 7例中3例で頭蓋内病変を認めた(表)。症例1の硬膜肥厚部位は両前頭部、大脳鎌、右側頭 部、前頭蓋底、中頭蓋底および小脳天幕であり、両側蝶形骨洞に僅かに造影効果のある陰影を 認めたが、頭蓋底の骨破壊は認めなかった。症例2の硬膜肥厚部位は両前頭部、大脳鎌、右側頭 部であり、両上顎洞、右前頭洞、両蝶形骨洞に僅かに造影効果のある陰影を認めたが、頭蓋底 の骨破壊は認めなかった。症例3では右蝶形骨洞後上壁の骨破壊および蝶形骨洞よりトルコ鞍内 に進展する造影効果のある腫瘤陰影を認めたが、HPは認めなかった。頭蓋内病変を認めなかっ た4例中2例で頭蓋底に隣接する副鼻腔陰影を、4例中3例で乳突蜂巣陰影を認めた。症例7では多 発性の脳神経麻痺を認めたが頭蓋内病変は確認出来なかった。骨導平均聴力レベルはHPを認め た1例は一側の閾値上昇を認めたが、もう1例は正常範囲内であった。 【考察】 我々の経験した2例においてはHPの局在は頭蓋底に接する副鼻腔・鼓室・乳突蜂巣陰影の有 無および局在と関連がなく遠隔性に生じた病変と考えられた。一方、肉芽腫の頭蓋内進展が直 ちに局所で肥厚性硬膜炎を引き起こす訳でもないことが分かった。HP合併の有無と骨導閾値の 上昇に相関は認められなかった。 【参考文献】1. Yonekawa et al. J Neurol Neurosurg Psychiatry, 2014. 2. 長嶋. 神経内科, 2001.