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Welfare Economics (1920) The main motive of economic study is to help social improvement help social improvement society society improvement help 1885

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全文

(1)

部分均衡理論入門

坂井豊貴

1

(2)

序文

経済学は世界を認識するひとつの手掛かりであり,その主たる役割は社会の経 済的側面を切り取り描くための言葉とその運用方法を与えることにある.政策効 果を分析すること,近代市民社会の理解に役立てること,そして社会をより善き ものにするという遠大な目標に資することは,経済学が目指すものではある.し かしそうした課題に取り組むためには,何よりもまずそのために必要な言語,な いし適切な認識を可能とする基軸を持っていなければならない. よく知られている通り,言語と認識の働きを理解するうえでは星座による比喩 が常に有用である.すなわち星座を知る者が真夜中に空を見上げれば星座が見え るが,知らない者の目にはただ星が映るだけだ.星座が夜空に新たな構図を与え るように,経済学は社会の経済的側面について文節と輪郭を与える.星座を知る 前と後で夜空の見え方が変わるように,社会の経済的側面について文節と輪郭を 与えることで,これまでと世界が異なり見えるようになる.これが経済学の第一 機能である. 厚生経済学の確立者として名を残す,ケンブリッジ大学の教授であったピグー はその主著 Welfare Economics (1920) において,“The main motive of economic study is to help social improvement”と述べた.経済学の動機を社会状態の改善に 見い出すわけである.これは先に述べた「遠大な目標」に該当する.しかし遠大な 目標に焦がれることが難しくない一方で,そのための地道な学習は必ずしも容易 でない.実際,ピグーの言う “help social improvement”を考察するためには,少 なくとも「society の構成要素」「それら構成要素が society で展開する活動」「何 を持って improvement と判断するかの価値基準」「help の手段とその機能」につ いての深い理解が必要となる.遠大な目標に到達するまでの道程は,遠大の性質 上,果てなく長いのが特徴である.ピグーの前任者であったマーシャルが,1885 年の教授就任演説で述べた “cool heads but warm hearts”は warm hearts に重き を置かれた上で広く好まれているが,実際のところ cool heads の維持と遂行は容 易でないし,それができない hearts は十分に warm でない. これから経済学を本格的に学び始める諸君には,学問を組み立てる過程に作業 の本質を見い出すことを,強く意識してもらいたい.そこでは徹底して cool heads が行使されており,その作業は主に,視点の選択,明確な定式化,厳密な論理展 開,そして過不足無き解釈という,きわめて地道な営みにより形成されている.こ れは私たちが warm hearts を正しく使うために,その場しのぎの思いつきや,た だ言いたいことを言うだけや,他者への優位性を獲得するための弁舌に溺れるこ とを避けるための,おそらく唯一可能な試みである.作業工程自体に知的営為の あり方を提示することは本講義の目的のひとつでもあり,この講義ノートがその 一助となることを願っている.

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目 次

序文 . . . . 2 はじめに 5 注意 . . . . 5 市場モデルを組み立てる . . . . 5 数学の利用 . . . . 6 自由市場についてのメモ . . . . 7 第 1 章 消費者 9 1.1 セットアップ . . . . 9 1.2 交換の金銭換算価値 . . . . 16 1.3 消費者余剰 . . . . 16 第 2 章 生産者 21 2.1 セットアップ . . . . 21 2.2 利潤 . . . . 21 2.3 生産者余剰 . . . . 25 補足 生産関数と費用関数 . . . . 28 第 3 章 市場と経済厚生 31 3.1 市場 . . . . 31 3.2 厚生経済学 . . . . 33 3.3 従量税と経済厚生 . . . . 36 第 4 章 不完全市場 43 4.1 逆総需要関数 . . . . 43 4.2 生産の一般モデル . . . . 43 4.3 完全市場 . . . . 45 4.4 独占市場 . . . . 46

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はじめに

注意

本稿は授業の受講を前提とする講義ノートであり,それ自体で完結した著作で はなく,ましてや授業の総体ではない.授業に出ないでこれだけ読んでいると「何 が分からないか分からないまま,何となく分かった気になる状態」になる可能性 が高いので,それは勧めません.授業内容や成績評価について,メールによる質 問はご遠慮ください.授業中やその前後に遠慮なく直接話しかけてください.

市場モデルを組み立てる

ミクロ経済学では,生産者や消費者などミクロの構成要素から出発してマクロ の市場を組み立て,そこで何が起こるかを分析していく.いきなり「これが市場 だ」と与えるのではなく,構成要素から始めるからミクロ経済学というわけだ. とはいえ分析の主たる対象はマクロな市場であり,そのためにミクロな構成要 素は準備されると考えたほうが分かりやすい.つまり議論の主役は市場だと意識 した方がよい. そしてここでは,ある一種類の財,例えば何かしらの穀物の市場を考えること にする.このように,ひとつの財市場に着目して考察する分析を部分均衡分析と いう.部分均衡理論では,ひとつの市場に焦点を当て,その挙動や政策作用につ いて考察する.一般均衡理論のように複数の市場の相互連関作用を扱うことはで きないが,その分,ひとつの市場の細部に立ち入った考察が可能となり広く応用 されている. 穀物に関わる人々のうち,生産する人を生産者,消費する人を消費者と呼ぶこ とにしよう.何を当たり前な命名を,説明されずとも読めば分かると思われるか もしれないが,すでに人間を生産者だの消費者だの呼んだ時点で私たちは視点を 固定していることに注意されたい.もともと生産者や消費者という区分が存在す るのではなく,人間を生産や消費の観点から分類する私たち(分析者)がいるだ

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この分類行為によって生産者と消費者という市場の構成要素ができたことにな る.他にも構成要素(例 政府)を加えることは可能だが,しばらくの間はやめて おく.まずは作る人と食べる人という最小限の要素から市場を組み立てていくこ とにしよう.

数学の利用

ある理論の論理展開が正しいということは,それが内部破綻をきたしておらず, また論理の道筋が克明に描写されていることを意味する.このことは,理論が第 三者による検証可能性を確保するための,誠意の表れであるともいえる.経済学 では,他の多くの諸科学と同様に,正しい論理展開に基づき理論を構築するため に,数学という論理展開について優れた性能を有する言語を用いる.経済学にとっ ては,数学はただの便利な言語であり目的に資する手段以上のものではない1.し かしその便利さは他の言語では代替ができないようなものである. 数学を用いることの大きなメリットの 1 つに,どの仮定からどの結論が導かれ たか,ある結果がどの仮定に依存しているのかが明確に分かることがある.この 性質は,物事を深いレベルから理解するためのみならず,他者と理解を共有する うえでもきわめて有用である.特に,私たちが経済という複雑極まりないものを 扱う以上,何をどう仮定したかの足場は明確にしておきたい.同様のことを日本 語や英語などのいわゆる自然言語で行うことは,難しいというよりほとんど不可 能だろう.また,経済学は,価格や量といった数値で表せる対象を多く扱うので, 数学による表現が,法学や経営学など他の社会科学と比べて容易である.そして この事実は単に,経済学と数学的表現との相性の良さを示すものであり,経済学 の他学問に対する優越性を意味するものではない. 実際,数学による表現が適さない事柄は山のようにある.例えばこの文章の文 意を数学的に表すことは困難であるばかりか,出来たとしてもそれによるメリッ トはおそらく無いだろう.言語は表現手段であるゆえ,可能な表現内容に制約を 与える.それゆえ本講義では日本語と数学を同時に用いるが,それらは互いに補 完的に機能する. 経済学部で扱う数学は,数学的には簡単で,ほとんどは高校までで学んだ知識 の延長で対応できる.しかし数学的に簡単なことは,学問的に簡単であることを 意味しない.これは,足し算と引き算が出来るからと言って簿記が出来るように なるわけではないこと,日本語が読めるからと言って日本文学が分かるようにな るわけではないことと同じ理由によるものである.もし経済学の学習に困難があ るとすれば,それは数学にではなく経済学そのものに由来する.簡単な数学であっ 1このことはもちろん,純粋数学にとって数学が目的そのものであること,および数学自体に 審美性や文化性があることと矛盾しない.

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ても,概念を厳密に定式化し論理を丁寧に積み上げていく作業は決して容易では ない.実際,これから本講義では,それなりに込み入った構築物を土台から組み 上げていくことになる. 若干の数学的記法について説明しておく.記号∀ は「全ての (for all)」を意味す るが,これは漢字のようなものである.実数の集合と,非負の実数の集合 R = (−∞, ∞) R+ = [0,∞) については特に問題ないだろう.ある要素 x が集合 X に入っているとき,x∈ X と書く.例えば x∈ [0, ∞) と x ∈ R+と 0≤ x < ∞ は同じ内容を意味する記述で ある.なお,あるふたつの記述が同じ内容を意味する,ということを表すとき x∈ R+ ⇐⇒ 0 ≤ x < ∞ (1) のように両矢印で書く.また,x∈ X かつ y ∈ Y のとき (x, y)∈ X × Y (2) と記す.例えば 5∈ R+かつ 2∈ R であるが,これらの組み合わせ (5, −√2) に 対し,(5,−√2)∈ R+× R と書ける.

自由市場についてのメモ

1789 年にバスティーユ牢獄への襲撃が起こりフランス革命が勃発する.これに よりフランス・ブルボン王朝は倒れて共和国が誕生することになるが,その経緯が 血塗られてことはよく知られている通りだ.そのさなかのジャコバン独裁期,恐怖 政治のもとで,コンドルセという男が不当な逮捕状を受け逃亡し,捕縛され命を 落とした.新憲法の草案作成に関わっていたが過酷な言論弾圧にあったのだ.彼の フルネームに爵位を付けるとマリー・ジャン・アントワーヌ・ニコラ・ド・カリタ・ コンドルセ侯爵である.1770 年代にフランスで数学者として頭角を現し,パリ王 立科学アカデミーの終身書記を務め,また造幣局長官として政治にも関わった. 人民主権の社会を構想するジャン・ジャック・ルソーとはほぼ同時期に生き,そ の知的影響を強く受けた啓蒙思想家でもある.社会科学において数学を本格的に 用いることを試みた先駆者でもあり,後の社会と科学に多大な影響を与えた.革 命以前のアンシャン・レジーム末期,絶対王政が内政にも外政にも大きく揺らい

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た広域間での取引や輸出入についても制限がかかっていた.コンドルセはテュル ゴーとともに市場の自由化に挑む.中央当局による操作と判断ではなく,直接取 引に関わる当事者の自治と判断に経済を委ねること.もちろん反対は多く,結末 を言うと,その試みはその時代には受け入れられない. 実際のところ,穀物取引の自由化を巡っては,反対する民衆による動乱が起き ていた.絶対王政といえども世論が無視できなくなってきた状況,公共圏という ものが生まれつつある時代のことであった.では反対する民衆は,自由というも のを嫌悪しているのだろうか.コンドルセによればそれは違う.彼らは飢餓を恐 怖しているのだ.だから低い価格を設定することを政府に要求するし,独占的諸 特権を与えられている商人の穀物倉庫を襲撃する.彼らは自由を知らないのだ. 各種諸特権や奉仕労働を除去したうえで,所有権と労働という自由の基礎を確立 しよう.それにより自由を知る民衆が生まれ,彼らの意志が市場を自律させるだ ろう. そうして民衆は自ら啓発される.近代的個人の確立と彼らの自治による自由社 会の成立.公論による政治の実現と,自由市場を原動力とする経済の発展.自由 社会を支えまたそれに支えられる,部分というよりは本質的に不可分な場として の自由市場. この壮大な構想の中にひとつの問いを投げかけよう.コンドルセによる「自由 市場への無知がその受容への抵抗として働く」という論の運びは,ルソーの有名 な句「奴隷は彼らの鎖の中で全てを失ってしまう.そこから逃れたいという欲望 までも」を想起させるものだ.ではもし「統制経済への無知がその受容への抵抗 として働く」という,同型の構造を持つ逆向きの主張がなされたならば,われわ れはどう応えればよいのだろうか. そこでこれから,自由市場が統制経済よりどう優れているのかを,自由自体の 価値とは別に,機能として明らかにしていくことにしよう.すなわち自由市場は 生産と消費に関してどのような影響を与えるのか.コンドルセと同じく穀物を考 えることにしよう.典型的な例だからだ.いったいそれは自由市場で取引される べきなのだろうか.特権的な独占商人が販売するよりも,あるいは公定価格で売 買されるよりも,自由市場はいったいどのような意味で優れているのだろうか.

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1

章 消費者

1.1

セットアップ

部分均衡理論では何か 1 種類の財 x∈ R+の市場に着目する.ただしここでは, m ∈ R というお金を表す財も別にあると考える1.そして x はゼロ以上の値である が,m は正負を問わないことにする.お金とは何かを説明することは経済学上の 大きな問題だが,ここではそれについて踏み込まない2.仮に m が負の値を取るな らばそれはマイナスの消費,いわば借金を意味する3.組み合わせ (x, m)∈ R +×R のことを財バンドルと呼ぶ. 各個人は,様々な財バンドルに対して,どれをどれより好む,好まないといっ た相対的な順序付けを持つものとする.その順序付けの表記は次の通りである. • (x, m) を (x′, m) より好むことを,(x, m)≻ (x, m) で表す. • (x, m) と (x′, m) を同程度に好むことを,(x, m) ∼ (x, m) で表す.同程度 に好むことを,経済学では無差別であるという言うことが多い. 記号≻ と ∼ を合わせて % により表し,これを選好と呼ぶ.また,(x, m) % (x, m) は,(x, m) ≻ (x′, m) と (x, m)∼ (x, m) のどちらか一方が成り立つことを意味す る.このとき (x, m) を (x′, m′) 以上に好むという. 財 x の価格を p で表し,お金 1 円の価格を(当然ながら)1 円と定める.また, この個人が最初に持っているお金の量を M で表す.このとき彼の予算制約式は px + m = M (1.1) で表される.予算制約式を満たす (x, m) ∈ R+× R の集合を B(p, M ) ={(x, m) ∈ R+× R : px + m = M} (1.2) 1財 m の呼び方は,価値尺度財,ニュメレール,合成財など様々にある. 2「それ自体は何の役にも立たないが,簡単には物理的に劣化しないという意味で保存性が高 く,人々が「明日も交換で使える」と信ずる限りにおいて今日も交換に使える財,というのがひ

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で表す.この集合を予算集合と呼ぶ.これから予算集合内での選好の最大化につ いて考察する.そのアイデアの骨子は「財布の許す範囲内で欲しい物を買おう」 とする個人をモデル化することである. なお,一個人の消費行動は価格に影響を与えないものとする.これはつまり一 人一人の存在は市場全体においてはとても小さいので,「自分の購買行動が価格を 変化させる」ことが起きないことを意味する.これをプライステーカー(価格受 容者)という.市場には通常多くの個人が存在するので,一人一人の個人がプラ イステーカーであるというのは自然な設定と言えよう. 定義 1 (需要). 選好% にとって,予算集合 B(p, M) 内で最も望ましいものを需要 バンドルといい (x∗, m∗) で表す.つまり (x∗, m∗) は両条件 (x∗, m∗)∈ B(p, M) (1.3) (x∗, m∗)% (x, m) ∀(x, m) ∈ B(p, M) (1.4) を満たすもののことである.予算集合内で選好を最大化する財バンドルが需要バ ンドルである.予算集合は (p, M ) の値により変化するので,(p, M ) が変われば (x∗, m∗) も変わりうる.この関係を明示したいときには (x∗(p, M ), m∗(p, M )) (1.5) のように書く.このように書いたとき,x∗(p, M ) と m(p, M ) はそれぞれ x, m へ の需要関数と呼ばれる.なお,予算制約式から px∗(p, M ) + m∗(p, M ) = M (1.6) が成り立つので m∗(p, M ) は m∗(p, M ) = M− px∗(p, M ) (1.7) と書ける.つまり x∗(p, M ) の形状さえ分かれば m∗(p, M ) の形状は自動的に分か る.また,部分均衡分析における私たちの目的は,財 x の市場について理解する ことなので,今後の議論では x∗(p, M ) のみに着目する. ♢ 予算集合内での選好の最大化を「合理的個人の想定」とか「利己的個人の想定」 ということがあるが,適切な表現ではない.例えば,ここでの個人は酒ばかり買 うアル中や,甘いものばかり買う高血圧者のような「非合理的」個人であっても 構わない.また,恵まれない子供にクリスマスプレゼントをあげるため何か購入 しようとする「利他的」個人であっても構わない 4.大抵の人間は,社会全体の 4というと「それでも他人が幸せになることで自分を幸せにしたいのならばそれは利己的じゃな いか」と言いだす人がいるかもしれない.しかしそもそも,他人の幸せを自らの幸せにカウント でき,そのために行動できるような人間を,私たちは利他的というのである.

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あるべき姿について,自分なりの期待像のようなものを多かれ少なかれ持ってい るものである.また,困った者を助けようとしたり,社会のために何かの役に立 てないかを考えることは,精神の働きとして特に珍しいことではない.自分が恩 恵を受けない福祉政策を支持することも稀ではない.これらの感覚は,あまねく とは言わないまでも一定の普遍性を持つ,人間の自然な性質である. そういうわけで,たまに経済学を中途半端に学んだ者に起こることなのだが,諸 君は「経済モデルで利己的に振る舞う個人がなんか格好良い」と思うべきではな い.経済モデルの個人は利己的と想定されているわけではないし,そもそも利己 的な振る舞いはそんなに格好良くない.ただでさえ世に善意や連帯や責任の感覚 が十分存在するわけではないので,それらをこれ以上減らさないことは経世済民 を学ぶ者の務めである. いま各 x∈ R+に対し (x, 0)∼ (0, V (x)) (1.8) を満たす値 V (x) を便益と呼ぶ.式 (1.8) は「財を x だけ持つのと,お金を V (x) 円 だけ持つのは無差別である」と解釈される.つまり便益は,選好に基づき導出さ れた,x に対する金銭価値である.V を便益関数と呼び,それは以下の性質を満 たすものとする. V (0) = 0 (1.9) V′ > 0 (1.10) V′′ < 0 (1.11) 財の消費量がゼロのとき便益はゼロであり (1.9),消費量が増えるほど便益は増え るが (1.10),その増加の具合は減少していく (1.11).この「増加の具合は減少して いく」ことを限界便益逓減という. 部分均衡理論では選好は以下の性質を満たすものと設定することが多く,本稿 でもその設定を採用する. 定義 2 (準線形性). 集合R+× R 上で定義された選好 % が準線形であるとは,ど のような (x, m), (x′, m′)∈ R+× R についても (x, m)% (x′, m′)⇐⇒ V (x) + m ≥ V (x′) + m (1.12) が成り立つことである.つまり% による順序付けは,関数 U(x, m) = V (x) + m に基づく数値の大小関係によって代替することができる.

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x V

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x V′

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• 需要バンドル (x∗, m) とは,両条件 (x∗, m∗)∈ B(p, M) (1.13) (x∗, m∗)% (x, m) ∀(x, m) ∈ B(p, M) (1.14) を満たすものであった. • 選好が準線形性を満たす場合はこれを (x∗, m∗)∈ B(p, M) (1.15) V (x∗) + m∗ ≥ V (x) + m ∀(x, m) ∈ B(p, M) (1.16) として書き換えられる. • つまり (x∗, m) とは,予算制約式 px + m = M を満たす財バンドルの中で, 関数 V (x) + m を最大化するものである.更に,m = M − px の関係から次 のように言い換えることができる.すなわち x∗とは,関数 V (x) + M − px を最大化するものである. • x∗は関数 V (x) + M − px を最大化するものなので,一階の条件 V′(x)− p = 0 (1.17) を満たす.ポイントは (1.17) に M が表れていないことである.こうなった のは関数 V (x) + M − px を x で微分すると M の項が消えてしまうからであ り,そうなるのは準線形性の仮定を置いたからに他ならない. • 式 (1.17) から V′(x) = p (1.18) が得られるが,この両辺に逆関数 V′−1を掛けると x = V′−1(V′(x)) = V′−1(p) (1.19) である.つまり需要関数は x∗(p, M ) = V′−1(p) (1.20) として具体的に求められる.見て分かる通り (1.20) の右辺には M が出てこ ないので,x∗(p, M ) の値は M と無関係に定まる.よって M を省き x∗(p) = V′−1(p) (1.21) として需要関数を扱うことができる.

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つまり準線形性は,財 x に対する需要が,所得と無関係に定まるということを 意味する.所得の増減に消費量が影響されにくい財に対しては,この設定が一定 の妥当性を持つ.必需性が高く,お金のある無しに関わらず一定の消費をする必 要がある,交通機関や主食や水光熱などはその例である.必需性が低くとも,所 得全体のうちその支出に占める割合が少ない財についても,需要に対する所得の 影響が少ないのでこの設定は当てはまりが良い. 準線形性の仮定が無ければ部分均衡理論は進められないというわけでは必ずし もない.しかし,この仮定のもとでは便益の意味はきわめて明瞭となる.準線形 性無しで便益概念を正しく理解するためにはやや込み入った説明が必要となるの で,本講義ではそこに立ち入るのを避けるため準線形性を一貫して仮定する.準 線形な選好を持つ個人にとっての便益とは,彼の所得と独立に定まる,財に対す る金銭換算価値である. 経済学の多くの教科書では「効用関数」という言葉が使われている. 本稿で効 用関数に対応するものは U (x, m) = V (x) + m (1.22) である.これは厳密には,効用関数ではなく関数表現とでも呼ばれるべきもので ある.多くの入門用教科書では選好% を用いないで,効用関数を最初から与えて 議論を進めている.このアプローチは便宜的なもので,本来は,本稿のように選 好を最初に定義し,そこから (1.22) のように分析上の扱いを容易にする関数表現 を導出するのが正しい.効用関数という言葉が導く誤解の典型例に「経済学では, 個人は自分の効用を数字で表せると仮定されている」がある.しかしそのような 仮定はされていない.この誤解はたちが悪く「経済学では,効用の個人間比較を 行う」という別の誤解を容易に導く.しかし,個人間の効用比較は,それを行う際 には明示的に行うし,しなくて間に合う際には行わない.個人間の効用比較可能 性や,効用値による幸福度の表現は,科学的根拠や社会的合意が乏しいゆえ,そ れらに依存しない学問を組み立てていこうというのが 20 世紀半ばの経済学が目指 し,かつ達成したものであった.にも関わらず,現在においてなお,そのような 誤解が発生するのは,「効用」や「効用関数」という語がそうしたイメージを含む からであろう.とは言え「効用が上がる」といった表現は口頭での説明に便利だ し,また私たちは効用のようなものを持っているような感覚もあるので(学問的 基盤に置けるほど明瞭でないにせよ),そのような表現は便宜的に広く採用され ている.

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1.2

交換の金銭換算価値

個人は初期保有として所得 M を持っているが,財については全く持っていない ものとする.彼が x 得て px 払う交換について考えてみよう.いま U (x, M − px) = V (x) + M − px = V (0) |{z} =0 +M + V (x)− px = U(0, M + V (x) − px) (1.23) が成り立つ.よって (x, M− px) | {z } x 得て px 払う ∼ (0, M + V (x) − px)| {z } お金を v(x)−px もらう (1.24) である.つまり x 得て px 払う交換と,お金を V (x)− px もらうこととは無差別で ある.それゆえこの交換を金銭換算した価値を V (x)− px (1.25) で表すのは自然なことといえよう. これからこの交換の金銭換算価値 V (x∗(p))− px(p) を図示したい.そのために 微積分の関係を用いると ∫ x∗(p) 0 V′(x)dx = V (x∗(p))− V (0) |{z} =0 = V (x∗(p)) (1.26) である.よって交換の金銭換算価値は V (x∗(p))− px∗(p) =x∗(p) 0 V′(x)dx− px∗(p) (1.27) と表される.これは先ほど用いた図で次のように表すことができる.

1.3

消費者余剰

本節においては複数の個人が存在するものとし,個人を i = 1, 2, . . . , I で表す. 各個人 i に関する記号は右下に添え字 i を付け,例えば財の量を xi ∈ R+,便益関 数を Viのように表す5.いま財に対し市場で価格 p がついていたとしよう.このと 5これまでの講義ノートでは x 2は「財 2 の量」を意味していたが,ここでは「個人 2 が持つ(1 種類しかない)財の量」であることに注意.

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p

x∗(p)

V′

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きの個人の需要量をリストアップした (x∗i(p))Ii=1 ≡ (x∗1(p), x∗2(p), . . . , x∗I(p)) を需 要ベクトルと呼ぶ.市場における財の総需要量は D(p)≡ Ii=1 x∗i(p) = Ii=1 Vi′−1(p) (1.28) で表され,こうして定義された関数 D を総需要関数という. 各個人 i が x∗ i(p) 購入し px∗i(p) 支払ったときの金銭換算価値の総和を求めると CS(p) = Ii=1 ( Vi(x∗i(p))− px∗i(p) ) (1.29) であり,これを消費者余剰という. 消費者余剰の導出に際しては,金銭換算された価値の和を取るわけだが,お金 そのものの和を取っているわけではない.また,消費者余剰は便益関数という純 粋に選好に基づく概念に基づき定義されており,効用概念とは関係無い.消費者 余剰は消費者サイドにとっての市場状態の望ましさを測る 1 つの基準である.こ の基準で測るという観察者の行為には価値判断が入っているゆえ,その基準の内 容は明確にされていなければならない.それゆえ個人レベルから地道に議論を積 み上げ消費者余剰の定義を行い,概念の意味内容を支える論理を明瞭に与えてき たことには厚生経済学上の重大な意義がある.

(19)

p x∗1 x∗2 D CS(p) 図 1.4: 消費者余剰

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2

章 生産者

2.1

セットアップ

企業活動とは突き詰めれば,労働や資本などのインプットを用い,何かしら有 形無形のアウトプットを生産することにある.組織としての企業は複雑な内部構 造を有しているが,ここでは企業をごく単純に,インプットに対しアウトプット を与える一連のシステムとして考える. アウトプット y を生産するためにはインプットに対する(可変)費用がかかり, その額を C(y) で表す.C は費用関数と呼ばれ,以下の性質を満たすものとする. C(0) = 0 (2.1) C′(y) > 0 (2.2) C′′(y) > 0 (2.3) つまり生産を行わないなら費用はかからず (2.1),生産量が増えるほど費用は増え (2.2),その増加の具合は増加していく (2.3).C′(y) を y の限界費用といい,「増加 の具合は増加していく」ことを限界費用逓増という.限られた大きさのオフィス や工場や農場では,インプットである人員や原材料を 2 倍にしても,アウトプッ トが 2 倍までにはならないという状況にこれは対応している1.限界費用関数は右 上がりの曲線である.

2.2

利潤

企業が y の生産を行ったときの利潤は π(y) = py|{z} 利益 − C(y)|{z} 費用 (2.4) で与えられる.π を利潤関数と呼ぶ.

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y C

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企業というものの総体を扱うわけではないことである.また,世に存在する全て の企業が利潤最大化あるいはそのようなものを狙っていると考えているわけでも ない.しかし,およそ企業というものを一般的に考えた場合,その存在理由の主 軸,あるいはその存続を可能とする主な要因に利潤が含まれているのはおそらく 紛れもない事実であり,それを求めるという面に焦点を当て私たちは考察を進め る2 利潤関数の定義に表れているように,企業にとって価格は所与のものである.こ こで所与とはつまり,市場における競争圧力により価格は p として相場が定まっ ており,一企業はその価格に影響を与えられないことを意味する.このような企 業をプライステーカー(価格受容者)という.私たちは個人に対してもプライス テーカーの仮定を置いていたが,個人に対してこの仮定は自然なものであった.し かし企業に対するこの仮定は,個人に対するほどには自然でない.プライステー カーでない場合の企業行動については後に不完全市場を扱う際に学ぶ. 利潤関数を一階微分すると π′(y) = p− C′(y) = 0 (2.5) であり p = C′(y) (2.6) が最大解で成り立つ.すなわち最大解とは価格と限界費用を一致させる点に他な らない.解釈は容易である.最大解においては「あと 1 つ作ったときに入ってく るお金」と「あと 1 つ作るための費用」が一致している.これより多く生産する と損をするし,これより少なく生産するのではまだ儲けきっていない.式 (2.6) に より表される限界費用と価格の関係を図示しておこう.

(24)

p

最大解 y

C′

(25)

さて,(2.6) において C′の逆関数 C′−1を両辺に掛けると,最大解では C′−1(p) = C′−1(C′(y)) = y (2.7) が成り立つ.この関係をあらためて y∗(p) ≡ C′−1(p) (2.8) と定義すると,y∗(p) は価格 p のもとでの最大解を表す.こうして得られた関数 y をこの企業の供給関数と呼ぶ. これから最大解 y∗(p) における企業の利潤 π(y∗(p)) = py∗(p)− C(y∗(p)) (2.9) を図示したい.そのために微積分の関係を用いると C(y∗(p)) = C(y∗(p))− C(0) |{z} =0 = ∫ y∗(p) 0 C′(y)dy (2.10) が成り立つので π(y∗(p)) = py∗(p)−y∗(p) 0 C′(y)dy (2.11) である.これは先ほど用いた図では次のように表される.

2.3

生産者余剰

本節においては複数の企業が存在するものとし,各企業を j = 1, 2, . . . , J で表 す.各企業 j に関する記号は右下に添え字 j を付け,例えば財の量を yj ∈ R+, 費用関数を Cj,利潤関数を πj のように表す.いま財に対し市場で価格 p がつ いていたとしよう.このときの企業の供給量をリストアップした (y∗j(p))J j=1 (y∗1(p), y2∗(p), . . . , y∗J(p)) を供給ベクトルと呼ぶ.また,市場における財の総供給 量は (2.8) より Y (p)≡ Jj=1 yj∗(p) = Jj=1 Cj′−1(p) (2.12) で表され,関数 Y を総供給関数という. 価格 p のもとで各企業 j が y∗ j(p) 生産したときの利潤和を取ると P S(p)≡ Jj=1 ( pyj∗(p)− Cj(y∗j(p)) ) (2.13)

(26)

y∗(p)

p

C′

(27)

p y1 y2 S P S(p) 図 2.4: 生産者余剰

(28)

補足 生産関数と費用関数

本稿では企業を表現するうえで費用関数を前面に出すアプローチを採用してい るが,これは後の議論との相性を考えてのことである.ここでは生産関数を先に 定義し,生産関数から費用関数を導出するアプローチについて述べておく.生産 関数から始めるアプローチの方が,インプットに対しアウトプットを与えるとい う生産活動を描写するうえでは,より適している.ただし,特に入門レベルの部 分均衡分析では,最初から費用関数ありきで分析を進めることが多い. 経済学で「長期」というときはあらゆるインプットを自由に変更できるケース を,「短期」は一部のインプットしか変更できないケースを意味することが多い. 例えば工場や店舗の規模を変更することは容易でないので,長期でしか変更でき ないと考えるのが多くの場合自然である.一方で原材料の量やアルバイト人員数 は変更が比較的容易であり,短期でも変えられると考えてよいだろう.ここでは 短期のケースを念頭に置き議論を進める.つまり長期的にしか変えられない生産 要素は既に存在し定まった値を取っており,それを資本と呼ぶ.今後の議論で誤 解の恐れが無いときには,短期的に変更可能なインプットのみを単にインプット と呼ぶ. インプットを z で表し,そのときのアウトプットを y = F (z) で表す.F を生産 関数と呼び,それは以下の性質を満たすものとする. F (0) = 0 (2.14) F′ > 0 (2.15) F′′ < 0 (2.16) 何も投入しないと生産量はゼロであり (2.14),インプット z が増えるほどアウト プット y は増えるが (2.15),その増加の具合は減少していく (2.16).この「増加の 具合は減少していく」ことを収穫逓減という.短期の状況では,収穫逓減の仮定 は自然であると言えよう.例えば,工場規模を一定のまま原材料だけを倍にして も,生産ラインのキャパシティーが変わらなければ生産量は倍にまではならない. また,店舗面積を一定のまま人員を倍にしても,店舗の使い勝手が悪くなり成果 が倍にまではならない. インプット z の価格を c で表す.アウトプット y の価格を p で表す.価格 c は市 場で定まるものであり,この企業の行動は影響を与えられないものとする.例え ば,あまりに多く買おうとするために,市場に品薄状態を発生させ価格が上昇す るということが起こらない.これは c についてのプライステイカーの仮定である. インプット z に対しアウトプット y は y = F (z) (2.17)

(29)

の関係により与えられる.では逆に,アウトプット y に対しそれを与えるインプッ ト z はどれだけだろうか.その関係を表すのが F の逆関数 F−1(y) = z (2.18) である.つまり y 生産するために必要な z の量が F−1(y) である.いま一単位当た りの z の価格は c であるから,そのための費用は cz だが,その値がより具体的に いくらかと言えば (2.18) から cF−1(y) (2.19) であることがわかる.この関係を C(y)≡ cF−1(y) (2.20) と関数で書く.C は費用関数と呼ばれ,y 生産するために必要な費用をこれで表 す4.微分すると C′(y) = cF−1′(y) > 0 (2.21) である.

(30)
(31)

3

章 市場と経済厚生

3.1

市場

これから消費者と生産者が出会い価格を通じて取引を行う市場について検討す る.市場は完全に競争的であるとする.ここで完全に競争的であるとは,需要過 剰が発生すれば価格が上昇し,供給過剰が発生すれば価格が下降し,といった双 方向圧力を通じて,需給一致が実現した状態のことを意味する. 価格 p∗が競争均衡価格であるとは需給を一致させる,つまり Ii=1 x∗i(p∗) = Jj=1 yj∗(p∗) (3.1) を成り立たせることである.競争均衡価格が実現する市場を完全市場という.総 需要関数 D,総供給関数 S をそれぞれ D(p)≡ Ii=1 x∗i(p) (3.2) S(p)≡ Jj=1 y∗j(p) (3.3) として定め,これらとともに p∗を図示すると次のようになる. 競争均衡価格 p∗について,そのもとでの需要ベクトルと供給ベクトルと合わせ て書いた ( (xi∗(p∗))Ii=1, (yj∗(p∗))Jj=1, p∗ ) (3.4) を競争均衡という.なお,選好最大化条件と利潤最大化条件から,競争均衡にお いては Vi′(x∗i(p∗)) = p∗ ∀i = 1, 2, . . . , I (3.5)

(32)

p∗ x∗1 x∗2 y1 y2 D S 図 3.1: 競争均衡価格

(33)

3.2

厚生経済学

ここでは消費者や企業など市場に関する概念から一切離れる.そして純粋に規 範的に,社会全体としてどのような消費ベクトルと生産ベクトルのペア ( (xi)Ii=1, (yj)Jj=1 ) (3.7) が望ましいかという厚生経済学な問題を考察する.なお,当然ながら総消費量は 総生産量を超せないので,ここでの議論では Ii=1 xi Jj=1 yj (3.8) を前提とする. さて,((xi)Ii=1, (yj)Jj=1 ) のもとで発生する便益の和は∑I i=1Vi(xi) であり,その ために必要な費用の和は∑J j=1Cj(yj) である.便益和と費用和との差額を社会的 余剰という.つまり社会的余剰とは SS((xi)Ii=1, (yj)Jj=1) Ii=1 Vi(xi) Jj=1 Cj(yj) (3.9) のことである.教科書では,社会的余剰は消費者余剰と生産者余剰の和として定 義されることが多い.ここでの定義はそれと異なるが,この定義の方が価値基準 の定義として正しい.どのような意味で正しいのかは,次小節で従量税の話をす るときに具体的に説明する. どのような((xi)Ii=1, (yj)Jj=1 ) が社会的余剰を最大化するのだろうか.もし Ii=1 xi < Jj=1 yj (3.10) であれば,これは必要以上に生産している状態なので,社会的余剰を最大化する ものを探すという問題においては答の候補から外してよい.よって私たちは社会 的余剰最大化問題を次のように定式化する. max Ii=1 Vi(xi) Jj=1 Cj(yj) (3.11) sub to

(34)

社会的余剰というのはひとつの価値判断基準であり,単位は金額ベースである. ただしその構成要素にある便益は,あくまで金銭換算された値であり,お金その ものではない.つまり社会的余剰は,社会に生み出されたお金そのものの量では ない.便益は,選好から導出された概念であり効用概念には依拠していないこと, および各個人が主観的に持つものであることには注意されたい. 社会的余剰は,測り方としては「総和だけで測る」という点が重要である.総 和で測るということはタテ方向の量を重視するということで,効率性の概念を反 映している.総和だけで測るということはヨコ方向のばらけ具合を考慮しないと いうことで,平等性の概念を反映していない.ただし福祉の整った貧困国が存在 しないように,そもそもお金が無くては福祉や厚生政策は実現できないので,タ テ方向の追求はヨコ方向の充実と必ずしも矛盾しない.社会的余剰を増やして再 分配を行うことは自然な発想であり,例えばスウェーデンは高福祉国家のイメー ジが強いが,それを支えるのは激しい競争政策に基づく高成長である. 社会的余剰最大化問題は,技術的には制約付き最大化問題であり,私たちはそ の解がどのような特徴を持つかに関心がある.ラグランジェ関数 L((xi)Ii=1, (yj)Jj=1, λ) = Ii=1 Vi(xi) Jj=1 Cj(yj) + λ( Jj=1 yj Ii=1 xi) (3.13) を定義すると,その一階条件は ∂L((xi)Ii=1, (yj)Jj=1, λ) ∂xi = Vi′(xi)− λ = 0 ∀i = 1, 2, . . . , I (3.14) ∂L((xi)Ii=1, (yj)Jj=1, λ) ∂yj =−Cj′(yj) + λ = 0 ∀j = 1, 2, . . . , J (3.15) ∂L((xi)Ii=1, (yj)Jj=1, λ) ∂λ = Jj=1 yj Ii=1 xi = 0 (3.16) になっている.整理すると Vi′(xi) = λ ∀i = 1, 2, . . . , I (3.17) Cj′(yj) = λ ∀j = 1, 2, . . . , J (3.18) Ii=1 xi = Jj=1 yj (3.19) である.一体どのような((xi)Ii=1, (yj)Jj=1, λ ) がこれら一階条件を全て満たすのだ ろうか. ラグランジェ関数の一階条件は,厳密にはいくつかの仮定のもとで,最大解の 必要十分条件となる.それはシンデレラのガラスの靴のようなもので,その靴に

(35)

ぴたりと足がはまる娘がいれば,それがシンデレラである.これから競争均衡が ラグランジェ関数の一階条件をぴたりと満たすことを確かめていこう.これまで の議論より,競争均衡((x∗i(p∗))I i=1, (yj∗(p∗))Jj=1, p∗ ) においては Vi′(x∗i(p∗)) = p∗ ∀i = 1, 2, . . . , I (3.20) Cj′(yj∗(p∗)) = p∗ ∀j = 1, 2, . . . , J (3.21) Ii=1 x∗i(p∗) = Jj=1 y∗j(p∗) (3.22) が成り立つ.つまり競争均衡((x∗i(p∗))I i=1, (y∗j(p∗))Jj=1, p∗ ) はラグランジェ関数の 一階条件をいずれも満たしている.ということは,((x∗i(p∗))I i=1, (yj∗(p∗))Jj=1 ) はも との消費者余剰最大化問題の解である.すなわち競争均衡は社会的余剰を最大化 する.これは社会的余剰という尺度から判断した場合,競争均衡は最適であり,市 場は制度として性能が優れていることを意味する.まれに市場を「誰かが得をす れば誰かが同じだけ損をする」ゼロサムゲームのように捉える者がいるが,これ は大きな誤りであり,サムはゼロになるどころか最大化される.なお,この事実 は Viや Cjが,これまでの議論で課されたいくつかの自然な仮定を満たす限り,ど のような形状であろうと成り立つので,競争均衡が社会的余剰を最大化するとい う命題を成立させるうえで,これらの形状を具体的に知っておく必要はない.な お,市場が何らかの意味で上手く機能しないケースも当然存在するが,それらは 「初級I」ではカバーしない.ただし,いまの上手く機能するケースは,上手く働 かないケースを考察する際にも,比較の対象としてベンチマークの役割を果たす ので特に重要である. さて,競争均衡においては Ii=1 x∗i(p∗) = Jj=1 yj∗(p∗) (3.23) が成り立つゆえ当然 Ii=1 p∗x∗i(p∗) = p∗ Ii=1 x∗i(p∗) = p∗ Jj=1 y∗j(p∗) = Jj=1 p∗yj∗(p∗) (3.24)

(36)

がいえ,それゆえ社会的余剰は SS((xi∗(p∗))Ii=1, (yj∗(p∗))Jj=1) (3.25) = Ii=1 Vi(x∗i(p∗)) Jj=1 Cj(y∗j(p∗)) (3.26) = Ii=1 Vi(x∗i(p∗)) Ii=1 p∗x∗i(p∗) + Jj=1 p∗y∗j(p∗) Jj=1 Cj(yj∗(p∗)) (3.27) = Ii=1 ( Vi(x∗i(p∗))− p∗x∗i(p∗) ) + Jj=1 ( p∗yj∗(p)− Cj(y∗j(p∗)) ) (3.28) =CS(p∗) + P S(p∗) (3.29) の形で,消費者余剰と生産者余剰とに分配される.この形は社会的余剰というも のを今後考えるうえでベンチーマークとなる.別の状況では,社会的余剰はベン チマークと異なる形態を取りうるが,その異なり方を把握することが,その状況 を理解する行為の本質を形成する. 多くの入門用教科書では,社会的余剰は消費者余剰と生産者余剰の和として定 義される.しかし本稿では社会的余剰を (3.9) により定義し,結果としてそれが 消費者余剰と生産者余剰の和として表されることを示した.つまり私たちのアプ ローチは,消費者余剰や生産者余剰の概念と独立に,社会的余剰という望ましさ の物差しを定義し,その分配状況を表すときに消費者余剰と生産者余剰の概念を 用いるというものである.消費者余剰と生産者余剰は価格 p についての関数であ り,これらは市場という資源配分制度を用いるという前提のもとで定義がなされ ている.一方で,私たちの定義する社会的余剰は単に消費と生産状況についての 概念であり,市場を用いるという前提に依っていない.社会的余剰により市場と いう資源配分制度の性能を判断するとして,その判断基準に「市場の利用を前提 とする」ことが含まれていては奇妙である.よって判断基準というものを真剣に 考えるならば本稿の定義が自然である.政策が社会的余剰に与える影響を考察す る際にもこの定義はきわめて有用であり,それは次の小節で明らかになる.

3.3

従量税と経済厚生

いま T > 0 という値について考える.図を見て分かるように,両条件 D(r1) = S(r2) (3.30) r1 = r2+ T (3.31) を満たすペア (r1, r2) が唯一存在する.これは純粋にテクニカルに成り立つ事実で ある.

(37)

p∗ x∗1 x∗2 y1 y2 D S CS(p∗) P S(p∗) 図 3.2: 競争均衡における社会的余剰

(38)

r1 r2 D(r1) = S(r2) T D S 図 3.3: T に対し r1, r2の位置が定まる

(39)

このテクニカルな事実は,競争均衡というメカニクスを通じて,課税に対する きわめて重要な経済学的事実を生み出す.これから t1 + t2 = T を満たすゼロ以 上の値のペア (t1, t2) について考える.ゼロ「以上」なので,(t1, t2) = (T, 0) や (t1, t2) = (0, T ) のケースもここでは許容されている.そして消費者が財 1 単位購 入すると t1円の税を支払わされ,生産者が財を 1 単位販売すると t2円の税を支払 わされる従量税制について考察する. 競争均衡価格の定義とは需給を一致させる価格のことであった.この課税下に おける競争均衡価格を p で表せば,消費者が直面する実質価格は p + t1,生産者 が直面する実質価格は p− t2なので,需給一致条件より D(p + t1) = S(p− t2) (3.32) が成り立つ.t1+ t2 = T なので (p + t1) = (p− t2) + T (3.33) が当然成り立つ. さて,条件 (3.30, 3.31) をともに満たすペア (r1, r2) はただひとつしか存在しな かった.そして (3.32, 3.33) を見てみると,ペア (p + t1, p− t2) は条件 (3.30, 3.31) をぴたりと満たしている.よって p + t1 = r1 (3.34) p− t2 = r2 (3.35) である.この事実は大変重要である.私たちはまず T を固定し,それに対して r1, r2が定まった.そしてその後に,t1+ t2 = T を満たす従量税 (t1, t2) について 考察を始めた.従量税 (t1, t2) のもとで需給一致を実現させる価格が競争均衡価格 p だが,今の議論は,このもとで消費者の実質価格が r1 (= p + t1) となることを 意味する.また同様に,この従量税のもとで生産者の実質価格は r2 (= p− t2) と なる.つまり t1+ t2 = T である限り,(t1, t2) がどのような値であろうが,競争 市場において価格 p が (3.34, 3.35) を満たすよう変動することで,最終的に消費 者の実質価格は r1に,また生産者の実質価格は r2になってしまう.以上の議論 より,消費者がすべての従量税を支払う税制 (T, 0) と,生産者がすべての従量税 を支払う税制 (0, T ) とは,制度として表面的には異なるが,全く同じ帰結を生み 出すことが分かる. 課税がなされたときの社会的余剰を求めておこう.まず結論から書くが ( I − t J ) · D(r

(40)

べて「死加重」と書かれた三角形の面積分だけ社会的余剰は下がっている.つまり 課税に派生する社会的余剰の低下は避け難い.税金はこの社会的コストを,余剰 以外の意味でも構わないから何らかの意味で,上回る程度には適切に使われなけ ればならない,と解釈するのが適切である.実際,いま扱っている市場は社会的 弱者の救済機能を含むわけではなく,また社会的余剰はあくまで総量に対する基 準であり,それ単独では平等性を志向したものではない.つまり今の議論は,課 税が本質的に内包するコストについて指摘したのであり,税金を財源とする公共 政策の意義までを否定したのではない. なお,多くの教科書では課税下の社会的余剰を,消費者余剰と総徴税額と生産 者余剰の和として定義しているが,これは場当たり的な感が否めない1.あるとき は社会的余剰は消費者余剰と生産者余剰の和で,あるときはそれに総徴税額が加 わり,という基準は理念に欠けるのではないだろうか.課税以外の何かの要因が 入ればそれに応じて基準も変わるのだろうか.社会的余剰は制度や政策の影響を 測る物差しであり,物差しである以上,何を測るかによって定義が変わるべきで はない.もし体重計が乗る人によって目盛りの幅や計測する内容を変えるのなら ば,その体重計により個々人の体重を比較することに意味はないのと同様である. 制度や政策の影響を計る基準は,特定の制度や政策に依らない,中立性の高い定 義に基づいている必要がある. 以下に (3.36) の証明を載せておく.証明ができるのは,これまで丁寧に定義を 積み重ね,図を用いた説明と並行的に背後の理論を丁寧に組み立ててきたからで ある.(3.38) から (3.41) まではただの書き換えであり,よく見れば容易に追える. (3.41) から (3.42) に移る際に,第 2 項で需給一致条件 D(r1) = S(r2) (3.37) を用いているがこれは証明のキーポイントであり,ここで私たちは需給一致状態 に分析の焦点を当てるという行為の力を確認することになる2.その後の過程はい ずれも定義から直ちに従うものばかりである.数式の表記がやや重く見えるかも しれないが,細かな論理展開を省かず書いているためであり,中身は平明である. 1こうした定義は説明を簡単にするためというより,執筆者が本当にそのように信じているケー スが多いように見える.部分均衡分析は数式を用いず図だけで解説がなされることが多いが,図 だけで部分均衡を扱っているとそのようにしか考えられなくなるからだ.経済状態の是非を論じ る厚生経済学は経済理論の核だが,これを考察するときに図だけでは概念の深みに辿り着けない. 2図だけだと「何が成り立つか」までは説明できるが,このように「どういう理路を経てそれが 成り立つのか」までを明らかにすることは難しい.

(41)

SS ( (x∗i(r1)Ii=1, (yj∗(r2))Jj=1 ) (3.38) = Ii=1 Vi(x∗i(r1)) Jj=1 Cj(y∗j(r2)) (3.39) = Ii=1 Vi(x∗i(r1))− r1 Ii=1 x∗i(r1) + r1 Ii=1 x∗i(r1) Jj=1 Cj(yj∗(r2)) + r2 Jj=1 yj∗(r2)− r2 Jj=1 yj∗(r2) (3.40) = Ii=1 ( Vi(x∗i(r1))− r1x∗i(r1) ) + r1D(r1)− r2S(r2) + Jj=1 ( r2yj∗(r2)− Cj(yj∗(r2)) ) (3.41) =CS(r1) + (r1 − r2)D(r1) + P S(r2) (3.42) =CS(r1) + T · D(r1) + P S(r2) (3.43)

(42)

t1 t2 p r1 r2 D(r1) = S(r2) T D S CS(r1) P S(r2) 死加重 図 3.4: 課税下の競争均衡における社会的余剰

(43)

4

章 不完全市場

4.1

逆総需要関数

市場における財の総供給量が Y のときに付く価格を p = P (Y ) (4.1) で表す.P を逆総需要関数という. 前節では総需要関数を D(p)≡ Ii=1 x∗i(p) (4.2) により定義した.価格 p に対し,関数 D はそのもとでの総需要量 X = D(p) を与 える.需給が一致している状態 X = Y であれば,これを Y = D(p) と書ける.こ こで逆総需要関数について考えてみれば,財の総量 Y に対し価格は p = P (Y ) と なるので,このとき Y = D(p) の関係から Y = D(P (Y )) (4.3) となる.つまり P は D の逆関数である.これが P を逆総需要関数と呼ぶ所以で ある.市場に財の量が増加するにつれ価格は減少する,つまり P′ < 0 である1 例 1. 総需要関数 D(p) = a− p について考える.ただしここで a > 0 は何か固定 された定数である.この逆総需要関数を求めると,Y = a− p より p = a − Y が 得られ,よって P (Y ) = a− Y となる.

4.2

生産の一般モデル

財 y を生産する企業が J 個存在するものと考え,各企業を j = 1, 2, . . . , J で表 す.企業 j の費用関数を Cjで表す.費用関数は各企業で異なっていても構わない. また j の生産量を y により表す.全ての企業の生産量リストを

(44)

で表す.このとき市場における財 y の総生産量を Y = y1+ y2+· · · + yJ (4.5) で表す.企業 j について,他企業による生産量の合計を Y−j = Y − xj (4.6) で表す.例えば J = 4 とすれば Y−2 = x1+ x3+ x4 (4.7) である. そして企業 j の利潤関数を πj(yj|Y−j) = P (y| j+ Y{z−j)· y}j 収益 − C| {z }j(yj) 費用 (4.8) により定める.ここで πj(yj|Y−j) は「他企業の総生産量が Y−jのときに,yj 生産 して得られる企業 j の利潤」を表す.利潤関数を微分し一階条件を求めると π′j(yj|Y−j) = dP (yj + Y−j)· yj dyj | {z } 限界収益 − C′ j(yj) | {z } 限界費用 = 0 (4.9) が成り立つ.つまり dP (yj + Y−j)· yj dyj | {z } 限界収益 = Cj′(yj) | {z } 限界費用 (4.10) である.限界収益を,合成関数微分の公式 df (a)g(a) da = f

(a)g(a) + f (a)g(a) (4.11)

を用い展開すると dP (yj + Y−j)· yj dyj =P′(yj+ Y−j)· yj+ P (yj + Y−j)· 1 (4.12) =P′(yj+ Y−j)· yj+ P (yj + Y−j) (4.13) である.よって (4.10) より P′(yj+ Y−j)· yj+ P (yj + Y−j) | {z } 限界収益 = Cj′(yj) | {z } 限界費用 (4.14)

(45)

と書ける.この条件を満たす yjが企業 j にとっての利潤最大解でありそれを yj∗で 表す.利潤最大解は限界収益と限界費用を一致させる点であるが,これは一般原 則であり P の形状によらず成り立つ.なお (4.14) について,P′ < 0 であるゆえ P′(yj + Y−j)· yj + P (yj+ Y−j) < P (yj + Y−j) (4.15) が成り立つことに注意されたい.

4.3

完全市場

完全市場においては,一つひとつの企業の生産量は価格に影響を与えることは ない,あるいは実際にはごく微小な影響力があるにしても,それは意思決定に反 映させるにはあまりに小さいため無視している,と考える.これはプライステー カーの仮定である. モデルにおいてこれは,P (yj+ Y−j) は yj が動いた程度では変わらないことに より表される.そして yjが動いても P (yj + Y−j) が不変であるということは,yj についての関数として P (yj + Y−j) を見ると傾きがゼロということになる.傾き は微分により表されるので,これは P′(yj + Y−j) = 0 を意味する.さて,これま で P′ < 0 であるよう P を組み立ててきたので,P(y j+ Y−j) = 0 と置くのは整合 性を欠くのだろうか.しかしこれは,企業 j は yjについての意思決定を行う際に, それが P (yj + Y−j) に与える影響があまりに小さいため無視していると考えれば よい.渋滞している道路に乗り込むドライバーは,自分の車が新たに道路に加わ ることで渋滞がほんのわずかだが悪化することを考慮に入れはしないだろう.プ ライステーカーの仮定はそのようなものである. さて,前節では限界利潤と限界費用一致の条件 P′(yj+ Y−j)· yj+ P (yj + Y−j) = Cj′(yj) (4.16) が yj = yj∗で成り立つところまで言っていた.プライステーカーの仮定 P′(yj + Y−j) = 0 のもとではこの式の最初の項が消えるので P (yj+ Y−j) = Cj′(yj) (4.17) が yj = yj∗において成り立つことになる.すなわちプライステーカーにとっての 利潤最大解は価格と限界費用を一致させる点であるが,これは前節で学んだこと そのものである.しかしこの一致を支える論理は以前より深い.最大解において

(46)

いま全ての企業が利潤最大化行動を取ると考えれば (y1∗, y∗2, . . . , yJ) が実現して, 総生産量を Y∗ = y∗1+ y∗2+· · · + yJで表せば P (Y∗) = Cj′(yj) (4.18) が全ての企業 j について成り立つが,これも前節で学んだとおりである. 例 2. 逆総需要関数を P (Y ) = a − Y とし,また全ての企業が共通の費用関数 Cj(yj) = cyjを持つものとする.これから競争均衡における総生産量 Y∗と価格 p∗ を求めたい.いま全ての企業 j について C′(yj) = c が成り立つゆえ,競争均衡価 格は限界費用と一致し p∗ = Cj′(yj∗) = c となる.次に p∗ = P (Y∗) = a− Y∗の関係 より,c = p∗ = a− Yがいえ,Y = a− c が成り立つ.まとめると p∗ = c (4.19) Y∗ = a− c (4.20) である.

4.4

独占市場

完全市場でない,つまり一つひとつの企業の生産量が価格形成に影響力を持つ 市場を不完全市場という.これから扱う独占市場はその極端なケースで,ただ 1 つの企業のみが財の生産に携わっているケースを指す.一般モデルで得た限界利 潤と限界費用一致の条件 P′(yj+ Y−j)· yj+ P (yj + Y−j) = Cj′(yj) (4.21) だが,独占市場のケースでは企業が 1 つしかないので添え字 j を省き,その企業 の生産量を Y で表すと P′(Y )· Y + P (Y ) = C′(Y ) (4.22) と書け,この式を満たす生産量を Y∗で表す. もしこの企業がプライステーカーとして振る舞うと考えれば,そのときには価 格と限界費用が一致する Y を選び,社会的余剰は最大化されることになる.この 理想的な Y のケースと,実際に独占企業が選択する Y∗のケースでの,社会的余 剰の差を図示してみると,生産量を少なくすることで価格を吊り上げ利潤を増や していることがわかる.

(47)

a a p∗ = 12a +12c c a− c CS PS 死加重 図 4.1: 独占市場

(48)

例 3. 逆総需要関数を P (Y ) = a− Y とし,また独占企業の費用関数を C(Y ) = cY とする.これから総生産量 Y∗と価格 p∗を求めたい.式 (4.21) がここでは −1 |{z} =P′(Y ) ·Y + (a − Y ) = c (4.23) となるのでこれに Y∗を代入し解くと Y∗ = a− c 2 が得られる.また p∗ = P (Y∗) = a− Y∗ = a− a− c 2 = a + c 2 (4.24) となる.まとめると p∗ = a + c 2 (4.25) Y∗ = a− c 2 (4.26) である.

4.5

クールノー寡占市場

いま複数の企業が財を生産しており,かつ一つひとつの企業の生産量が価格に 影響を与える状況を寡占市場という2.寡占市場において各企業の価格への影響力 は部分的であるが,これが問題をやや複雑にする.というのは,完全市場では各 企業の影響力はゼロだったのでその点を考える必要は無かった.また独占市場で は1つだけ存在する企業の影響を考えれば十分なので扱いが容易であった.寡占 市場においては複数存在する企業の影響力の相互作用に注意を払う必要が生じる. ここでいう相互作用とは,ある企業が生産を行うとそれが価格を変動させ,別の 企業の生産量に影響を与えた結果また価格が変動し,という連動プロセスのこと を指す.こうしたプロセスを経て市場は最終的に,そうした相互作用が釣り合う状 態に落ち着くものと私たちは考える.その考えを表す解概念がクールノー均衡で あり,私たちはこの概念を用いて寡占市場の描写を行う. 生産量ベクトル (y∗ j)Jj=1 = (y1∗, y2∗, . . . , y∗J) について考える.いま各企業 j につい て,他企業の総生産量 Y−j のもとで,y∗j が利潤最大化問題 πj(yj|Y−j ) = P (yj+ Y−j )· yj − Cj(yj) (4.27) の解になっているとする.これは,ひとたび (yj)Jj=1 = (y∗1, y∗2, . . . , yJ) が実現する となれば,どの企業 j もいまの生産量 y∗j から変更を行うインセンティブが無いこ 2J = 2 のケースを特に複占という

図 1.1: V の形状
図 1.2: V ′ の形状
図 1.3: V (x ∗ (p)) − px ∗ (p) の面積
図 2.1: C の形状
+3

参照

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