事業事前評価表
国際協力機構南アジア部南アジア第四課 1.基本情報
国名:バングラデシュ人民共和国(バングラデシュ) 案件名:マタバリ超々臨界圧石炭火力発電事業(V) Matarbari Ultra Super Critical Coal-Fired Power Project (V) L/A 調印日:2019 年 6 月 30 日 2.事業の背景と必要性 (1) 当該国における電力セクターの開発の現状・課題及び本事業の位置付け バングラデシュでは、近年の安定した経済成長や工業化の進展による電力需 要の急増に供給が追いついておらず、2020 年時点の推計電力需要 13,300MW に 対し(電力エネルギー鉱物資源省「改訂電力・エネルギーマスタープラン(Power System Master Plan 2016)」(2016 年))、最大発電実績は 10,084MW と需要の 約 7 割に留まる(バングラデシュ電力開発庁(Bangladesh Power Development Board。以下、「BPDB」という。)、2018 年)。2016 年から 10 年間に亘り年率 約 9.3%の電力需要の増加が見込まれる一方、発電の 6 割を依存する国内産天然 ガスの産出量は頭打ちとなり、2018 年からは LNG の輸入が開始された。その ため、エネルギー安全保障上、国内産天然ガスに代わる新たなエネルギー源の 確保が重要な課題となっている。 「マタバリ超々臨界圧石炭火力発電事業」(以下、「本事業」という。)は、輸 入石炭を活用した高効率の超々臨界圧石炭火力発電所等を建設することにより、 バングラデシュにおいて急増する電力需要に対処し、LNG に比べ経済性に優れ る石炭を用いることでエネルギー源の多様化に対応するものである。「第 7 次五 か年計画」(2016/17~2020/21 年度)において、電力セクターは 2021 年までの 中所得国化を目指すうえで最優先セクターの一つと位置付けられている。また、 「改訂電力・エネルギーマスタープラン(Power System Master Plan 2016)」 においても、国内天然ガスに代わる新たなエネルギー源を輸入石炭、LNG 及び 原子力により賄う方針が示されている。なお、本事業は首相直轄のバングラデ シュの最重要事業の一つに位置付けられている。 (2) 電力セクターに対する我が国及び国際協力機構(JICA)の協力方針等と 本事業の位置付け 対バングラデシュ人民共和国 JICA 国別分析ペーパー(2014 年 5 月)では、「電 力安定供給」が重点課題であると分析し、そのために石炭等のエネルギー輸入促 進を支援するとしている。また、対バングラデシュ人民共和国国別開発協力方針 (2018 年 2 月)では、経済成長の加速化が重点分野の一つとして掲げられてお
り、本事業はこれら方針及び分析に合致する。また、本事業はダッカ首都圏の交 通の円滑化を図ることから、持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals。以下、「SDGs」という。)のゴール7(万人のための利用可能で、安定 した、持続可能で近代的なエネルギーへのアクセス)、ゴール9(強靭なインフ ラの構築、包括的で持続可能な工業化の促進とイノベーションの育成)に貢献す ると考えられる。 JICA はこれまで、バングラデシュにおいて「ハリプール新発電所建設事業」 (2007 年度及び 2008 年度承諾)、「ベラマラ・コンバインドサイクル火力発電 所建設事業」(2010 年度及び 2013 年度承諾)、「全国送電網整備事業」(2013 年 度承諾)、「ダッカ地下変電所建設事業」(2017 年度承諾)、海外投融資「モヘシ ュカリ浮体式 LNG 貯蔵再ガス化設備運営事業」(2017 年度承諾)を実施した。 そのほか、電力政策アドバイザーを派遣(2004 年度-2016 年度)するとともに、 技術協力「TQM の導入による電力セクターマネジメント強化プロジェクト」 (2006 年度-2009 年度)、「石炭火力発電マスタープラン調査」(2009 年度-2010 年度)を実施している。 (3)他の援助機関の対応 世界銀行は、基幹送電網整備、電力セクター向け開発支援借款、電力セクタ ー全体の財務改革・再建計画の策定、ガス火力発電所建設等を支援、アジア開 発 銀 行 は BPDB の 経 営 効 率 化 、 バ ン グ ラ デ シ ュ エ ネ ル ギ ー 規 制 委 員 会 (Bangladesh Energy Regulatory Committee)設立、ガス火力発電所建設等の 支援、アジアインフラ投資銀行は配電網整備、ガス配送網強化の支援等を実施 している。 3.事業概要 (1) 事業目的 本事業は、バングラデシュ南東部チッタゴン管区マタバリ地区に定格出力 1,200MW(600MW×2 基)の高効率の超々臨界圧石炭火力発電所及び石炭搬入用 港湾、送電線等の関連設備を建設することにより、バングラデシュにおける電 力需要の急増やエネルギー転換ニーズへの対処とともに、温室効果ガスの排出 の抑制を図り、もってバングラデシュにおける経済全体の活性化及び気候変動の 緩和に寄与するもの。 (2) プロジェクトサイト/対象地域名 チッタゴン管区コックスバザール県モヘシュカリ郡マタバリ地区 (3) 事業内容 1)超々臨界圧石炭火力発電所建設(600MW×2 基)、石炭搬入用港湾建設 2)送電線建設(送電線約 92km、鉄塔等)
3)アクセス道路整備(橋梁約 675m、新規道路建設約 7.4km、既存道路補修 約 5km 等) 4)周辺地域電化(送電線約 25km、変電所、配電設備) 5)資機材調達(大型車両、計器、防災設備等) 6)コンサルティング・サービス(詳細設計、入札補助、施工監理、組織強 化等) (4)総事業費 915,567 百万円(うち、今次円借款対象額:143,127 百万円) (5)事業実施期間 2014 年 6 月~2027 年 1 月を予定(計 152 か月)。施設供用開始時(2024 年 7 月)をもって事業完成とする。 (6)事業実施体制
1)借入人:バングラデシュ人民共和国政府(The Government of the People’s Republic of Bangladesh)
3) 保証人:なし
4) 事 業 実 施 機 関 : バ ン グ ラ デ シ ュ 石 炭 火 力 発 電 会 社 ( Coal Power Generation Company Bangladesh Limited:CPGCBL)、バングラデシュ送電 会社(Power Grid Company of Bangladesh Limited:BPDB)、道路交通橋梁 省道路・国道部(Roads and Highways Department:RHD)。
5) 運営・維持管理機関:
CPGCBL、PGCB、RHD。アクセス道路の一部を成す堤防部分は水資源開 発庁(Bangladesh Water Development Board)が行う。航路・泊地・防波堤 部分の運営・維持管理は CPA が行う。なお、航路・泊地・防波堤部分の運営 維持管理費は石炭搬入用港湾及び商業用港湾それぞれの初期投資額比率に応 じて CPGCBL と CPA とで費用分担する予定である。 (7)他事業、他援助機関等との連携・役割分担 1)我が国の援助活動 本事業で建設される石炭火力発電所は円借款「ダッカ-チッタゴン基幹送 電線強化事業」(2015 年度承諾)において建設される送電線に接続され、ダ ッカ首都圏に電力を供給する。 また、円借款「マタバリ港開発事業」(2019 年度承諾)にて建設予定の商 業用港湾の完成後は、本事業にて整備され港湾施設の一部(航路・泊地・防 波堤)が同港と共同利用される予定。 2)他援助機関等の援助活動 特になし。
(8)環境社会配慮・横断的事項・ジェンダー分類 1)環境社会配慮 ① カテゴリ分類:A ② カテゴリ分類の根拠:本事業は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」 (2010 年 4 月公布)に掲げる火力発電セクターに該当するため。 ③ 環境許認可:発電所及び港湾の建設・整備に係る EIA は 2013 年 10 月に、 送電線及びアクセス道路の建設・整備に係る EIA は 2013 年 11 月に、バン グラデシュ国環境森林省環境局(Department of Environment。以下、「DOE」
という。)により承認済み。その後、変更された送電線ルートについては、 「ダッカーチッタゴン基幹送電線強化事業」の中にて一括で EIA 報告書が 作成され、2016 年 6 月に DOE により承認済み。周辺地域電化事業(送配 電網の建設)に係る EIA は 2015 年 10 月に DOE より承認されている。さ らに、港湾設計変更による本事業の EIA の改訂は不要であることを DOE と確認済み。同部分における環境影響評価結果及び緩和策については、「マ タバリ港開発事業」の EIA として承認済み。 ④ 汚染対策:本事業の発電所から排出される排ガス中の硫黄酸化物(SOx)、 窒素酸化物(NOx)のいずれも、海水式排煙脱硫装置、低 NOx 燃焼方式を 採用することでバングラデシュ及び国際基準(IFC EHS ガイドライン)の 基準値を満たす見込み。また、同様に大気中の濃度もバングラデシュ及び EHS ガイドラインの基準値を満たす見込み。煤塵(PM)に関して、EHS ガイドライン基準値は満たすものの、PM10(年間値)濃度推定結果(42.4 ~62.4μg/m3)の上限値は唯一バングラデシュの基準値を超過する結果が出 ているが、これは事業実施前の濃度(42~62μg/m3)の影響によるものと 考えられ、本事業の寄与は僅か0.4μg/m3と推定されている。PM に関して、 高煙突(275m)、電気集塵機を採用することで影響を最小限に抑える。本 事業は海水を冷却水として使用するが、排水時は取水時の温度から 7℃以 内の上昇に抑え、バングラデシュの工業排水の基準値(40℃未満)を遵守 することにより、生態系への影響は軽減される。騒音は工事中・供用後共 にバングラデシュ及び EHS ガイドラインの基準値を満たす見込み。 ⑤ 自然環境面:事業対象地域は国立公園等の影響を受けやすい地域又はその 周辺に該当しない。事業対象地から南方に約 15km の地点にバングラデシ ュ政府が Ecologically Critical Area と指定するソナディア島があるが、事業 対象地からは十分な距離があることに加え、汚染対策に記載の緩和策が講 じられることで、同地域への影響は軽減される見込み。ウミガメ類の繁殖 への悪影響を避けるため、産卵期及び孵化期には、建設工事に伴う海面及 びその周辺に灯火される光源の明るさの削減、及び騒音・振動の軽減等の
対策をとる。また、労働者によるヘラシギ等の希少種の採取、捕獲、狩猟 行為を禁止する。加えて、港事業との一体工事により追加となる泊地・航 路の拡幅部分における追加的な環境影響としては、浚渫土の海洋投棄によ る影響が想定されるが、底生生物、魚類などの生物への影響を最小限とす るため、沖から十分な距離・水深を有する海域を海洋投棄の候補地点を選 定し投棄することによる汚濁拡散の最小化、及び汚濁拡散防止膜の設置等 の緩和策を講じることで、周辺環境への影響は軽微となる見込み。 ⑥ 社会環境面:発電所・港湾に係る用地取得面積は約 572ha であり、当該地 域は、乾季は塩田、雨季はエビの養殖場として利用されている。発電所・ 港湾の建設・整備により、48 世帯の非正規居住者の住民移転が必要であっ た。また、被影響住民は、2,381 名である。また、アクセス道路の新設及 び補修(橋梁約 700m、新規道路建設約 7.4km、既存道路補修 5km 部分) に係る用地取得面積は約 41 ha であり、93 世帯 545 人の住民移転を伴う(非 正規居住者は 0 名)。バングラデシュ国内手続きと JICA 環境社会配慮ガ イドラインに沿って作成された住民移転計画(RAP)に従い、用地取得お よび補償や支援の手続きが進められる。送電線建設及び周辺地域電化につ いては実施機関所有地又は政府所有地を活用するため、用地取得は発生し ない。なお、現地ステークホルダー協議を実施したところ、参加者から本 事業に対する反対意見は確認されなかったが、適切な環境管理や周辺イン フラ開発への要望が出された。要望に関して実施機関から適切に対応する 旨回答し、参加者からの理解を得た。 ⑦ その他・モニタリング:住民移転、生計回復状況については、実施機関に よる内部モニタリングと第三者機関による外部モニタリングが実施される。 環境面では、工事中は実施機関及びコントラクターが、供用後は実施機関 が大気質、水質、騒音・振動、生態系等をモニタリングする。 2)横断的事項:コンサルタントの支援を得つつ建設労働者に対する HIV/エ イズ予防に係る啓発・教育活動等を実施予定。また、高効率な超々臨界圧技 術の採用により、亜臨界圧技術による同規模の石炭火力発電と比較して温室 効果ガス排出を約 40 万トン/年(CO2 換算)抑制し、気候変動の緩和に資 する。 3)ジェンダー分類【対象外】:GI(ジェンダー主流化ニーズ調査・分析案 件) <分類理由>協力準備調査にて、環境社会配慮に関連して、男女別の意見聴 取やジェンダーバランスに配慮したステークホルダーミーティングを実施済 み。よって、ジェンダー主流化ニーズ調査・分析案件に分類。
(9)その他特記事項 特になし。 4. 事業効果 (1)定量的効果 1)アウトカム(運用・効果指標) 指標名 単位 (2013 年実績値) 基準値 【事業完成 2 年後】 目標値(2026 年) [運用指標] 発電所 最大出力 MW - 1,200 利用率 % - 80 稼働率 % - 85 所内率 % - 6.48 発電端熱効率 % - 41.29 ユニット 停止時間(注) 人為ミス 時間/年 - 0 機械故障 時間/年 - 218 定期点検 時間/年 - 1,096 ユニット停止回数(注) 回/年 - 10 送電線 送電ロス % - 0.4 港湾 バース稼働率 % - 60 総貨物量 千トン/年 - 4,000 [効果指標] 送電端発電量 GWh/年 - 7,865 CO2 排出(注) 千トン/年 - 3,416 NOX 排出(注) 千トン/年 - 6.1 SOX 排出(注) 千トン/年 - 10.9 煤塵排出(注) 千トン/年 - 0.7 燃料消費(注) 千トン/年 - 1,863 (注)1 基当たり。 (2)定性的効果 バングラデシュ経済全体の活性化及び気候変動の緩和。 (3)内部収益率 以下の前提に基づき、本事業の経済的内部収益率(EIRR)は 12.8%、財務的 内部収益率(FIRR)は発電コンポーネントが 2.5%、送電コンポーネントが 11.7% となる。 【EIRR】 費用:総事業費、燃料費、運営・維持管理費(いずれも税金を除く) 便益:本事業による発電(with ケース)と民間の発電企業からの買電コスト (without ケース)との差額(維持管理費等含む) プロジェクトライフ:36 年
【FIRR】 (発電・港湾・道路建設コンポーネント) 費用:事業費(発電所・港湾・道路建設分)、燃料費、運営・維持管理費 便益:売電収入(PPA) プロジェクトライフ:36 年 (送電コンポーネント) 費用:事業費(送電線分)、維持管理費 便益:送電料金 プロジェクトライフ:34 年 5. 前提条件・外部条件 (1) 前提条件 同地域において、バングラデシュ政府予算により道路建設が計画されており、 本事業アクセス道路整備コンポーネントのうち、バングラデシュ政府事業計画 と重複する 31.5km の既存道改修を事業対象外とした。本事業の効果発現には、 同道路の完成が必要。 (2) 外部条件 サイクロン等の自然災害による土木工事等の遅延が発生しない。 6. 過去の類似案件の教訓と本事業への適用 ケニア共和国「モンバサディーゼル発電プラント建設事業」の事後評価結果 (評価年度:2005 年)等から、メーカーによる適切なサポートは、発電事業の 持続性を高めるとの教訓が得られている。本事業ではコンサルタントによる運 営維持管理に係る技術移転及びメーカーによる長期保守契約( Long Term Service Agreement)の締結により、維持管理体制の構築と定着を図る予定。長 期保守契約分の入札評価上の取り扱い、契約条件については入札書類において 明確化されている。 7. 評価結果 本事業は、バングラデシュの開発課題・開発政策並びに我が国及び JICA の協 力方針・分析に合致し、発電所及び関連設備として石炭搬入用港湾、送電線等 の建設を通じてバングラデシュにおける電力安定供給やエネルギー転換に資す るものであり、SDGs ゴール 7(万人のための利用可能で、安定した、持続可能 で近代的なエネルギーへのアクセス)及びゴール 9(強靭なインフラの構築、包 摂的で持続可能な工業化の促進とイノベーションの育成)にも貢献すると考え
られることから事業の実施を支援する必要性は高い。 8. 今後の評価計画 (1)今後の評価に用いる指標 4.(1)~(3)のとおり。 (2)今後の評価スケジュール 事後評価 事業完成 2 年後 以 上