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当事者の語りからみるひきこもり体験の意味

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Academic year: 2021

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(1)当事者の語りからみるひきこもり体験の意味 M08063E. 富田 優香 ⑨これからの人生について考えていること. 1.問題と目的 近年、「ひきこもり」という現象が注目されてい る。しかし、日本全国における「ひきこもり」の 数について、はっきりとした統計は得られていな い。東京都(2008)が発表した15∼34歳の男女 3000人に実施した無作為訪問調査の結果、都内 においてはひきこもりの状態にある若者の出現 率は。.72%であり、これは、都内で約25,ooo人 がひきこもりの状態にあると推定されるという。  1990年代からひきこもり者の存在が知られる ようになり(板東、2007)、専門家による理解や実 践による知見が得られてきた(例えば斉藤1998)。 また、ひきこもりの実態調査や(厚生労働省、2001). ひきこもり者の心理的特徴(蔵元2008)に関する 研究もわれている。.  本研究においては、ひきこもりという期間に、 それを当事者がどのように体験し意味づけてい るのかについて検討することを目的とする。. 分析 ①逐語記録を、調査対象者のライフヒストリーに  沿ってまとめた。. ②調査対象者が、現在に至るまでに、どのような  ライフストーリーを迫るのかを検討し、その過  程における心理的プロセスを考察した。 ③竹屋(2008)を参考に、物語の意味的連続性を重  視しながら、く物語世界〉〈ストーリー領域〉双  方について構造的にみた。 ④語りの内容、量、様式に注意し、「鍵になる言  葉」を見出した。. ⑤語り手と聞き手の共同により生じるナラティ  ブの変化を検討した。 〈ストーリ領域〉の「評価」や「態度」等の語り  にも注目し、経験の意味づけを分析した。 ⑥調査対象者それぞれの差異を考察した。. 3.結果  Aさん(24歳 男性)の事例. 2.方法 対象者  ひきこもり当事者やその家族で構成される自助グ ループに参加するひきこもり当事者で、面接調査の 協力要請に同意した男性3名と、ウェブサイトのコ ミュニティに参加しているひきこもり体験者女性1 名の計4名であった。. 予備調査.  2009年3月∼6月上旬であった。 本調査.  2009年7月上句∼11月下旬であった。 手続き.  インフォームドコンセントを書面でとり、1回60 分程度の半構造化面接を3回行った。 質問内容 ①ひきこもりの期間 ②ひきこもりに至ったきっかけ ③ひきこもりに至る前と、ひきこもってから現在に  至るまでの人生について ④ひきこもりの期間に生じた感情 ⑤家族との関係や、やりとりについて ⑥印象に残っている出来事 ⑦ひきこもりの体験を通して感じる、家族や社会な  とへ伝えたいこと ⑧体験を通して感じるひきこもりの意味.  Aさんは、不登校の頃は、「立派だと思われたい」. と思う一方で、強い自己嫌悪を抱いており、理想の 自分と現実の自分との間でせめぎあっていた。ひき. こもり当事者の集うr居場所」においては、人と接 するなかで、上手く人と接することのできない自分 を知っていく。Aさんは人との関係において、その ような上手くいかない体験を何度も体験する過程で、 現実の自分と向き合い現実の自分を認めて行ったの である。つまり、Aさんにとってひきこもりの体験 とは、自分と向き合い、ありのままの自分を認める ために必要な期間だったと考えら れる。この過程はr自分らしさ」すなわち、自我同 」性を確立していく過程だと考えられる。Aさんに とってひきこもりとは、思春期青年期の課題である、. 「自分らしさ」の獲得するうえでて必要な過程だっ. たと考えられるのではないだろうか。また。Aさん は「今の自分になれたっていうのが、不登校になっ てひきこもってやってきた1つの意味ではある」と 語るように、ひきこもりという体験の意味を、自ら の人生に見出していることが窺われた。  Bさん(27歳 男性)の事例.  Bさんは、インタビュアーの「ひきこもりの人生 があってこそ、自分なのか」という問いに対して、 「それは思えへんかな。やっぱひきこもりを抜け出. 142一.

(2) せたらそう思えると思うねん」と答えている。この. と8年間はフラフラしても大丈夫がな」と語るよう に、自身の生き方について、今は否定的な捉え方は. 語りから、Bさんは自身の人生において、ひきこも りという体験の意味を見出せていないと考えられる。 それはBさんが「ひきこもりから抜け出せてない」 と自覚しているからであり、Bさんにとって、ひき こもりから抜け出すことは「心が楽になること」を 意味していた。しかし、Bさん自身に自覚はなくと も、Bさんにとってひきこもりの体験が意味がある と考えられる。Bさんはいじめにあったことがきっ かけとなり、強迫観念・強迫行為が出現するように なる。そのために、家から出ることが困難になる。. していないと考えられる。.  Dさん(28歳女性)の事例  Dさんは、小学校3年生のときに、クラスメイト に「しゃべらない」というレッテルを貼られたこと. が原因で、それ以来話すことができなくなる。学校. また、いじめにあった体験は自殺を考えるほどBさ んにとって深い傷となっている。Bさんにとって、 いじめから自分を守り、傷を癒すためには、ひきこ もりという体験は必要だったのではないだろうか。 また、強迫観念・強迫行為という「病気の壁」の克 服は、ひきこもる体験をなくしては、成し得なかっ たであろう。Bさんは、病気を克服し、現在は「自 信がない」という自己の性格と向き合っていると考 えられる。Bさんは、今はまだr自分でいい」と思. では1人で過ごすことがほとんであり、それはDさ んにとって苦悩に満ちた体験であったであろう。D さんは高校に入学した直後に、ひきこもるようにな る。そのとき、Dさんは「限界」の状態であった。 Dさんは、自身を守るために、ひきこもらざるを得 なかったといえる。Dさんは、ひきこもりという体 験を「ネックになっている」と表現することもあっ たが、同時にr後悔できない」と語っている。3回 目のインタビューにおいては、ひきこもりをr冬眠 期間」だとして意味づけている。Dさんにとって、 ひきこもりとは「冬眠期間」であり、冬眠期間があ ったからこそ、今は大学受験という目標を抱き、挑. えておらず、「自分らしく生きる」ことはできていな. 戦することができているのだと考えられる。. いという。しかし、r居場所」で運営者のEさんに、. 認められる体験をするなかで少しずつ、ありのまま.  支援について. の自分を認められるようになっている。そして「肩 の荷を降ろして生きたい」と語るように、これから の生き方について模索しているといえる。このよう. な点でBさんにとって、ひきこもりの体験とは、E.  語りにおける4名の共通点は,人との関係のなか で自己を見つめ,自己について考えている点にあっ た。そして,自己の性格についての語りでは「自信 がない」という語りが,しばしば登場した。ひきこ. さんを始めとする他者に自分を認めてもらうなかで、. もりの人たちは,ひきこもりという体験において,. 自身と向き合い,自信の獲得に向けて,日々格闘し. 自信を回復し、自己の生き方を見つめていくことを 意味しているのではないだろうか。まだBさんは自 身に対する自信はないが、ひきこもりという体験の なかでこれからも、自己と向き合っていくと考えら. ているように思われる。なかでもAさん,Bさんは,. れる。. 人との関係のなかでr自分らしさ」を獲得し,あり のままの自己を認め,自信を獲得していった。Cさ んも,まだ,ありのままの自己を認める段階には至 っていないように思われるが,人との関係のなかで. Cさん(22歳男性)の事例. 変化していく様子が窺われた。斉藤(1998)は,ひき.  Cさんは、小学校5年生のときから不登校であり、 中学校に入学してからも、「行ったり行かなかった. こもりの治療を成熟の問題と結びつけており,成熟 の過程においては,「他者との出会い」が重要だと指. り」であった。Cさんの語りからは、自身をrマイ ナス」に捉え、否定してきたことが窺われた。しか. 摘している。ひきこもりの人たちがr自信」をつけ,. ありのままの自分を認められるようになるには,他 者と出会い,他者に認められる体験が必要だといえ. し、奄美大島や、公演会、入院といった様々な体験 を通して、「自信」の獲得と消失を繰り返しながら、. る。. 自身のrマイナス」の側面だけではないrプラス」 側面についても気づいていく。Cさんを大きく変え.  ひきこもっている人たちにとって,他者と関係し ていくことは容易なことではない。しかし,家族が 社会から孤立せず,暖かくひきこもり状態の人が外. たものとして、「自分も必要とし、必要としてくれる. に出るタイミングを見守ること,そして,家族が孤 立しないような社会システムを構築することが重要. 人」の存在に出会うことであった。こういった人と. の関係が、Cさんに自信を与えたのである。Cさん は、ひきこもりという体験において、穏やかなぺ一. なのではないだろうか。. スではあるが、自分を認めてくれる存在に出会い、. Cさんも自分を認めていくことができたのだといえ る。また、Cさんはこれからの生き方についてrあ. 主任指導教員 冨永 良喜 指導教員   辻河 昌登 143.

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