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二重属格の構造について

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Academic year: 2021

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(1)Title. 二重属格の構造について. Author(s). 茨木, 正志郎. Citation. 北海道教育大学紀要. 人文科学・社会科学編, 66(1): 79-89. Issue Date. 2015-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/7844. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(人文科学・社会科学編)第66巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Humanities and Social Sciences)Vol. 66, No.1. 平 成 27 年 8 月 August, 2015. 二重属格の構造について 茨 木 正志郎 北海道教育大学札幌校英語学第2研究室. On the Structure of Double Genitives IBARAKI Seishirou Department of English Linguistics, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education. ABSTRACT The aim of this paper is to clarify the structure of Double Genitives in present-day English and its derivational properties. Pointing out that both the genitive structural and inherent Case assignments, which are advocated by Chomsky (1981) and Chomsky (1986), respectively, cannot give an account for the structure of Double Genitives and its derivational properties properly, I attempt to apply the analysis of postnominal genitives in Old English by Ibaraki (2012) to Double Genitives. It will be shown that the analysis proposed in this paper can account for some characteristics of Double Genitives, especially the semantic relation between the genitive noun phrase and the head noun.. 1.序 論 1 本論では,⑴⑵に示されるような,現代英語における二重属格の統語構造と派生について議論する。. ⑴ a.a friend of Jim’s b.a pupil of Joseph Haydn’s ⑵ a friend of mine. (Quirk et al. (1985: 331)) (江川 (1991: 44)). 江川(1991)によると,例えば⑵のような二重属格の解釈は,‘one of my friends’となると述べている。 同様に,⑴の解釈も,‘one of Jim’s friend/one of Joseph Haydn’s friend’となる。江川(1991)は,二重 属格のような語法が存在することについて,冠詞と属格名詞が名詞前位で共起できないことが原因であると 述べている。. 79.

(3) 茨 木 正志郎. ⑶ *a my friend. (cf. 江川 (1991: 44)). また,中島(2001)によれば,二重属格の決定詞がtheの時は,必ず関係節によって修飾されなければなら ないということが観察されている。 ⑷ a.*the book of John’s b.  the book of John’s that I borrowed. (中島 (2001: 565)). この様な諸特徴を持つ二重属格であるが,⑸に示す群属格やof属格と比べて,ほとんど議論されず,従来の 属格付与の分析でもあまりうまく説明ができないように思われる。 ⑸ a.an hour and a half’s tour / each other’s opinion (group genitive) b.an employees of the company (of genitive) 本論では,二重属格の格付与,構造派生,意味解釈などの諸特性について議論し,それらを統語的に捉える ことを試みる。具体的には,茨木(2012)によって議論されている古英語の名詞後位属格の構造と派生を現 代英語の二重属格へ適用する。2節では,属格付与に関する代表的な先行研究を概観し,それらの属格付与 システムでは二重属格を捉えることができないことを指摘する。3節では,茨木(2012)を概観し,二重属 格の統語構造とその派生を提案する。4節で議論をまとめる。. 2.先行研究 2.1.構造格付与分析 Chomsky(1981)では,格付与は構造格付与と内在格付与の二種類に分けられると仮定し,格付与の特 2 性は次の⑹のようにまとめられると主張している。. ⑹ a.NP is nominative if governed by AGR b.NP is objective if governed by V with the subcategorization feature: _ NP (i.e., transitive) c.NP is oblique if governed by P -. d.NP is genitive in [NP _ X] e.NP is inherently Case-marked as determined by properties of its [ - N] governor . (Chomsky (1981: 170)). (6d)が属格付与に関する特性で,属格はNP指定部位置する名詞句に付与されることになる。天野(1990)は, このような属格付与の分析に対して以下の理論的・経験的問題を指摘している。まず,(6a-c, e)において, 属格以外の格では,格を付与する格付与子が,Xバー理論によって指定される主要部の範疇として特定され ているのに対し,(6d)では属格の格付与子が何であるか特定されていない。また,(6d)によれば,属格は NP指定部に位置する名詞句に与えられることになるが,例えば,次のような事例を説明することができない。 ⑺ a.a lady’s maid, their doll’s house, her child’s face, a women’s college, etc.. 80.

(4) 二重属格の構造について. b.my father’s old car (*an old my father’s car) c.an old women’s college (*a women’s old college). (cf. 天野 (1990: 100-101)). ⑺のような属格は,限定詞としての統語特性を持たない属格である。通常,指定部の位置にあると考えられ る属格がある場合は,主要部修飾の形容詞は(7b)のように属格名詞に後続する必要がある。しかし,(7a) のような例では,形容詞は属格に先行しなければならない。そうすると,(6d)では(7a)のような指定部に 位置しない属格の存在を説明することができない。3 さらに,天野(1990)の議論に加えて,Chomsky(1981) の属格付与システムは⑴の二重属格の事例に適切な説明が与えられないことを指摘しておく。つまり,ofに 後続する属格名詞句は,明らかにNP指定部に位置していないので,どのように属格が付与されるか説明す ることができない。 2.2.内在格付与分析 前節での構造格付与とは異なりChomsky(1986)は,主格や対格などは構造格である一方,属格は内在 格であると仮定し,属格付与は⑻に示す一様性条件(Uniformity Condition)のもとで行われると主張して 3 いる。. ⑻ Uniformity Condition Ifαis an inherent Case-marker, thenαCase marks NP if and only if θ-marks the chain headed by NP . (Chomsky (1986: 194)). Chomsky(1986)によれば,(9a)のD構造において,名詞destructionは後続する名詞句the cityに属格付与 する。この属格はS構造において,以下の二通りのやり方で,具現化される。一つは,α移動によってthe cityが前置され,(9b)のように,POSS挿入(POSS-insertion)によって-’sが具現化する方法である。もう 一つは,of挿入(of-insertion)によって,(9c)のように抽象的な属格がofとして具現化される方法である。 ⑼ a.the [destruction [the city]] b.[the city]’s destruction e c.the [destruction [of the city]]. (Chomsky (1986: 192)). しかしながら,Chomsky(1986: 217)でも認めているように,ここでの内在格付与の分析は,⑽として再 掲する⑴⑵のような二重属格の格付与に対して,適切な説明が与えられないようである。つまり,⑽の抽象 的属格の具現化としてofと-’sの両方存在する事実を捉えることができない。 ⑽ a friend of Jim’s a pupil of Joseph Haydn’s a friend of mine また,⑼において,本来補部位置にあった名詞句が左方移動する場合に-’sが具現化され,移動が無い場合 にofが具現化されるということをChomskyは主張している。しかし,⑽ではofが存在することから,後続す る名詞は左方移動していないと考えらえられる。それにもかかわらず,-’sが具現化されていることに説明. 81.

(5) 茨 木 正志郎. を与えることができない。加えて,(9a)の基底構造ではそれぞれの名詞句が定冠詞theによって修飾されて いるが,(9b)での左方移動が起こった場合には定冠詞が一つだけになっており,このような派生には問題 が残るように思われる。 2.3.格付与子-’s分析 Ibaraki(2010)は,Abney(1987)のDP分析を採用し,属格の’sはD主要部要素で,その補部名詞に属格 4 を付与する格付与子であると分析している。. ⑾ (Ibaraki (2010: 336))  Ibarakiは,NP指定部に基底生成した名詞句は,格付与子-’sから構造格を受け取るために,DP指定部へ繰 り上がると主張している。このような分析の利点として,次の群属格の事例を容易に捉えることができる。 ⑿ a.Fred’s taste in wallpaper is appalling. b.The man in the hall’s taste in wallpaper is appalling. c.Every man I know’s taste in wallpaper is appalling. d.That brother-in-low of mine that I was telling you about’s taste in wallpaper is appalling. e.Even that attractive young man who is trying to flirt with you’s taste in wallpaper is appaling. . (Anderson (2008: 2)). ⑿において,統語上・意味上において一つの構成素をなしている複数後から成る名詞句の最後に,属格の -’sがくっついている。このような群属格は,⑾の構造のもとで,名詞句がDP指定部を占めており,その指 5 定部全体にD主要部の-’sが接語的にくっついていると分析することができる。. また,Ibarakiは-’sがD主要部要素であるということを支持する証拠として,代名詞との共起関係をあげ ている。Abney(1987)は,⒀の事例を提示して,代名詞はD主要部を占めていると主張している。 ⒀ a.*[the she that I talked to] was nice.  (cf. the female that I talked to was nice.) b.*[my she] has always been good to me.  (cf. my Santa Claus has always been good to me.). (Abney (1987: 178)). ⒀では,代名詞sheがD要素である限定詞と所有代名詞と共起できないことが示されている。代名詞と-’sが 両方ともD要素であると仮定すると,⒁のような事例が容認されないことが即座に説明される。 ⒁ a.*I/me’s,. *. you/your’s,. *. she/her’s,. *. we/us’s lunch. b.  The woman who loves me’s bad habit c.  A friend of mine’s bad habit. (Anderson (2008: 11, 12)). つまり, どちらもD主要部に位置するので,代名詞と属格-’sは共起することができない。一方, (14b,c)では,. 82.

(6) 二重属格の構造について. 代名詞と属格-’sが共起しているように見えるが,これは名詞句The woman who loves me/A friend of mine がDP指定部を,-’sがD主要部を占めているからであり,その構造は⒂に示すようになる。 ⒂. この様に,代名詞との共起関係からも,⑾の構造は支持される。 さらにIbaraki(2010)は,次の助動詞と縮約形との並行性からも,属格-’sがD主要部に位置しているこ とを支持している。 ⒃ I’d like to take ..., When you’ve come to .... (Ibaraki (2010: 335)). ⒄ . ⒃では,⒄に示されるように,助動詞wouldとhaveがT主要部を占めており,主語IとyouがTP指定部を占め ている。縮約される場合には,T主要部にある助動詞がアポストロフィを伴った形式で,TP指定部の主語 に接語化される。⒂で見た構造も,-’sは主要部に位置しておりDP指定部の要素に付着している。このよう 6 しかし,Ibaraki(2010)での議論の中心は名詞前位の属 な節と句の類似性からも⑾の構造は支持される。. 格名詞についてであり,二重属格についての議論はなされていない。 茨木(2012)は,Ibaraki(2010)で提案された名詞前位の属格の構造を,下に示す古英語における名詞 後位の属格構造に拡大することを試みている。 ⒅ Heo She. understod. ealle. þe. word. þære. ænglen .... understood. all. the. words. the-Gen. angel-Gen. “She understood all the words of angels ...”. (CMKENTHO,138.107)(Festis189). . (Allen (2008: 160)). ⒅では,名詞wordに属格名詞þære ænglenが後続し修飾している。⒆に示すように,現代英語と違ってof が 存在しないが,主要名詞―属格名詞という語順が同じであることが分かる。. 83.

(7) 茨 木 正志郎. ⒆ N-of-Gen (PE) N-φ-Gen (OE) また,Allen(2008)によれば,⒅のような古英語における後置属格を含む名詞句の現代英語における解釈は, “the words of angels”という二重属格として解釈できることが分かる。したがって,茨木(2012)の,古 英語の名詞後位の属格の構造分析とその派生を3節で概観し,現代英語に拡張することを試みる。 2.4.先行研究のまとめ 2節では,代表的な属格表現の構造と属格付与のシステムを概観してきた。2.1節と2.2節での構造 格分析と内在格分析には,それぞれ理論的・経験的問題点があることを指摘し,さらに,二重属格を分析す るには不十分であることを指摘した。2.3節で見たIbaraki(2010)の議論の中心は,名詞前位の属格名 詞であった。茨木(2012)は,古英語における名詞後位の属格の分析を行っていた。古英語の名詞後位属格 は現代英語の二重属格と似ているので,次の節では,茨木(2012)で古英語の名詞後位の属格の分析を現代 英語の二重属格構文へと拡張することを試みる。. 3.分 析 本節では,茨木(2012)で議論されている,古英語における名詞後位の属格が現代英語の二重属格と,語 順・解釈において似ていることから,古英語の後置属格の分析を概観し,現代英語の二重属格の構造に拡張 することを試みる。3.1節で茨木(2012)を概観し,3.2節で二重属格の統語構造と分析を提案する。 3.1.茨木(2012) 茨木(2012)は,古英語に可能であった名詞後位の属格について,属格接辞-(e)s/-’sの史的発達の観点よ り説明を与えている。既に2.3節で見たように,古英語では属格は名詞後位に位置することができた。 Allen(2008)によると,属格の限定詞が屈折を示す限りにおいて,属格名詞句は名詞後位から修飾するこ とができた。 ⒇ a.*þe the. sunu. þe. kinges. son. the. king.   “the king’s sone”    Heo She. (cf. Allen (2008: 160)). understod. ealle. þe. word. þære. ænglen .... understood. all. the. words. the-Gen. angel-Gen.   “She understood all the words of angels ...”. (CMKENTHO,138.107)(Festis189). Allenは,⒇のように,名詞sunuの後ろの限定詞þeが屈折していない名詞後位の属格は非文法的になると主 張しており,実際にこのような事例を一例も見つけることができなかったと報告している。一方,として 再掲する⒅の事例では,名詞wordに後続する限定詞þæreは属格・単数・女性の屈折を表しており,このた めに属格名詞句þære ænglenが後置できると主張している。Allenは名詞後位の属格は「限定詞+名詞」と いう形式に限られ,その限定詞が屈折を表すことが後置修飾が可能であるかどうかの条件であると主張して いる。. 84.

(8) 二重属格の構造について. 茨木(2012)は,名詞後位の属格を含む名詞句構造に対して,に示す二重DP構造を提案している。  [DP D [NP [N’ N [DP D [NP [N’ N ]]]]]]. (茨木 (2012: 41)). では,上位のN主要部が補部にDPを取る構造になっている。この構造を採用し,Abeny(1987)のDP仮 説とChomsky(2000)以降のAgreeシステムに基づいて,に示す名詞後位の属格を含む名詞句の基底構 造と派生はのようになる。点線はAgreeもしくは格付与を表し,矢印は移動を表す。 . . (cf. 茨木 (2012: 41)). では,上位のD主要部に指示詞þaが基底生成され,下位のNP指定部に名詞句þære ænglenが,そのN主要 部に名詞wordがそれぞれ基底生成される。指示詞þaは解釈不可能なφ素性を持ち,wordは対応する解釈可 能なφ素性を持つ。まず,下位のNP指定部にある属格名詞句内で指示詞と名詞がAgreeする。そして,その 名詞句にwordが内在格としての属格を付与し,þære ænglenという属格屈折を伴う形態になる。茨木(2012) は,古英語の属格は内在格によって,現代英語の属格は構造格によって行われると主張している。7 次に に示す派生が起こる。 . では二つの要素の移動が起こっている。まず,属格名詞句þære ænglenが下位のNP指定部から下位のDP 指定部へと移動している。この移動はIbaraki(2009)によって提案されているの定性の認可条件による ものである。  Definite noun phrases are licensed iff the [+definite] feature of D enters into a checking relation with its matching. element(s) in a Spec-head and/or a head-head configuration.. (Ibaraki (2009: 84)). に従えば,DPは,[+definite]素性を持つ要素による指定部―主要部関係か主要部―主要部間に軽によっ て,認可される必要がある。ここでの[+definite]素性を持つ要素には,定冠詞,指示詞,所有代名詞,属 格名詞が含まれる。したがって,における下位DPにおいては,NP指定部を占める属格名詞句がDP指定 部に繰り上がって認可する必要がある。 8 下位のN主要部を占める におけるもう一つの移動は,主要名詞wordの連続循環的な主要部移動である。. wordは下位のD主要部へ移動し,さらに上位のN主要部まで移動している。茨木(2012)によれば,この移 動は上位のD主要部を占める指示詞þaが解釈不可能なφ素性をもち,この素性に値を与えるため移動してい ると主張している。上位のN主要部まで移動したwordは,上位のDP指定部にある指示詞とAgree関係に入. 85.

(9) 茨 木 正志郎. り,wordの持つ解釈可能なφ素性の値を指示詞の持つ解釈不可能なφ素性に与える。 9 次の節では,ここで見た茨木(2012)の分析を用いて,現代英語の二重属格の構造と派生を提案する。. 3.2.提 案 本節では,として再掲する⑴の二重属格に対して,茨木(2012)の分析を適用し,のような構造と派 生を提案する。  a.a friend of Jim’s b.a pupil of Joseph Haydn’s . 現代英語の二重属格では前置詞ofが必ず介在するので,上位NPと下位DPの間にPP投射を設けている。主名 詞friendは,まず下位NPのN主要部に基底生成し,同じNP内の指定部に位置する名詞句に内在的属格を付 与する。この属格付与は,Chomsky(1986)の一様性の条件に従って,所有者という意味役割を名詞句が 受け取る際に施行される。上位DPの主要部には不定冠詞aが基底生成され,上位NPにはこの段階では何も 要素が存在しない。下位NP内に基底生成された主要名詞friendは,属格を付与した後,上位NPの主要部N へと繰り上がる。10 この移動は,冠詞はその後ろに必ず名詞を必要とするので,上位DP主要部にある不定冠 詞を支えるために名詞friendが繰り上がる。このような移動が無ければ,次に示すように不適格な構文を生 11 み出してしまう。.  a.*a of Jim’s friend b.*a of Joseph Haydn’s pupil の分析の利点として,Jimとfriendの意味関係と二重属格の解釈を適切にとらえることができるという点. 86.

(10) 二重属格の構造について. があげられる。つまり,江川(1991)によれば,a friend of Jim’sの解釈は“one of Jim’s friend”となる。 の基底構造では,friendがN主要部にJimがその指定部を占めており,同じNP内でθ役がfriendからJimに 与えられ,意味解釈が成り立つと考えられる。また,主要部移動を仮定することで,この属格名詞が,叙述 的解釈ではなく,限定的解釈を持つことが説明できる。通常,形容詞等の名詞修飾要素が名詞後位に現れる 場合,その修飾要素は叙述的解釈を持つと考えられる。  a.  an actor suitable for the part / the gene responsible for the disease b.  any man alive / the old man asleep は叙述的にのみ解釈できる形容詞の事例である。このような名詞後位に現れる形容詞を限定的に解釈する 12 ことはできない。一方,限定的解釈を持つ形容詞は名詞前位にしか現れることができない。.  a.*a girl pretty (cf. √a pretty girl) b.*ballads popular (cf. √ popular ballads) では,限定的に飲み解釈できる形容詞が名詞後位に置かれている事例である。このように,名詞後位に現 れる名詞修飾要素は叙述的解釈を得るのが一般的である。のような二重属格のJim’sは,名詞後位である にもかかわらず限定的な解釈しか持たないが,これはで示されているように,基底構造では名詞前位に位 置していたからであると考えられる。 しかし,の分析にはいくらか問題点があるように思われる。まず,下位N主要部の上位N主要部への移 動が,Travis(1984)の主要部移動制約に違反する可能性がある。では介在するP主要部にofがあるので, 13 また,の構造は,茨木(2012)の主張する二重DP構造 主要名詞はその位置を経由することができない。. とは,PPが介在するという点において異なる。言い換えると,現代英語の二重属格は必ずofが介在するが, そのことについての説明も構造の面から説明が与えられる必要がある。属格の-’sとofが同時に存在する理由 の一つとして,現代英語の限定システムがある。次ののように,不定冠詞と属格名詞が名詞前位において 14 共起できないため,属格名詞をof以下に後置していると考えられるかもしれない。.  *a Jim’s friend/Jim’s a friend. 4.まとめ 本論文では,現代英語における二重属格の構造と派生について議論してきた。2節では,属格付与に関す る代表的な先行研究を概観し,構造格分析と内在格分析には,二重属格を分析するには問題点があることを 指摘した。3節では,茨木(2012)によって議論されている現代英語の二重属格と似ている古英語の名詞後 位属格の分析を概観し,現代英語の二重属格の構造に拡張することを試みた。3.2節では,二重属格は, 属格名詞に内在格付与を行った名詞が,その後,上位の主要部Nまで移動することによって派生されると提 案し,二重属格の解釈を適切に捉えることができると主張した。以上がここでの一応の提案であるが,言う までもなく経験的にも理論的にも立証できていない点が多い。に示した構造分析については,今後も更に 検討を重ねる必要がある。共時的な観点からは他言語における二重属格について検討する必要があるだろう。 また,二重属格の通時的発達についても検討する必要もあるだろう。. 87.

(11) 茨 木 正志郎. 注 1 Quirk et al. (1985) は,⑴のような属格を後置属格(Post-Genitive)とも呼んでいるが,本論では二重属格という呼称で 統一する。 2 Abney(1987)によって提唱されているDP分析を採れば,(7a, c)は以下のような構造を持つ可能性がある。 ⒤ [DP a [FP old [NP women’s [N’ college ]]]] ⒤では冠詞がD主要部に,形容詞がDPとNPの間にある機能範疇の指定部に,属格名詞句がNP指定部に位置する。名詞句 womenは,(6d)に従って,NP指定部で属格付与を受ける。また,Allen(2008: 12)は,(7a)のような属格を記述属格 (descriptive genitives)と呼び,ⅱに示すような,属格名詞句が主要部Nに右付加する構造を仮定している。 ⅱ a [N women’s college]. (cf. Allen (2008: 12)). 記述属格は,(7b)のような限定属格とは意味や構造, 格付与のシステムがかなり異なるので, 本論ではこれ以上扱わない。 3 Chomsky(1986)は,(6a-d)が構造格で(6e)は内在格付与であると主張している。 4 同様に’sを格付与子として分析している先行研究にAnderson(1983-4)がある。AndersonはDP分析を採用していない。 5 現代英語に接語が存在するかについては議論の余地があるが,Ibaraki(2010)によれば,属格の-’sは中英語に接辞から 接語へと脱文法化(degrammaticalization)したと主張している。詳しくはIbaraki(2010)を参照。 6 属格-’sが,助動詞wouldとhaveと異なり,縮約されない形式を持たないことが問題となるかもしれない。Ibaraki(2010) はこのことについて,-’sの歴史的発達に原因があると述べている。つまり,助動詞は古英語より独立した語彙という地位 を確立していたのに対し,-’sは属格の屈折接辞から発達したので,縮約されない形式を持たないと主張している。 7 茨木(2012)は,ここでの内在格付与は,2.2節で概観したChomsky(1986)の一様性の条件⑻に従って施行される と仮定している。 8 この移動はTravis(1984)の主要部移動制約に従うものである。したがって,wordは下位のN主要部から下位のD主要部 を飛び越えて,直接上位のD主要部へと移動することはできない。この制約の詳細についてはTravis(1984)を参照せよ。 9 英語史において名詞後位の属格は消失したが,茨木(2012)によると,属格屈折がD主要部へと脱文法化したために,二 重DP構造において主要部移動ができなくなったことが原因であると主張している。詳細については,茨木(2012)を参照 せよ。 10 Chomsky(1986)に従って,主要名詞の移動によって,属格-’sが具現化される。詳しくは2.2節とChomsky(1986: 192)を参照せよ。 11 Chomsky(1986)に従えば,では主要部移動が無いので-’sが具現化されないかもしれない。しかし,このことはここ での議論とはほとんど関係が無いのでこれ以上は触れない。 12 名詞前位に位置する形容詞であっても,次の事例のように,叙述的解釈を持つものもある。 ⅲ The visible stars include Capella. = The stars that happen to be visible now include Capella. = The stars that are inherently visible include Capella.. (Haumann (2010: 72)). ⅲでは,形容詞visibleの解釈に曖昧性がある。つまり, “the stars that happen to be visible”という叙述的解釈を持つ場合 と“the stars that are inherently visible”という限定的解釈を持つ場合である。詳しくはBolinger (1967),Larson (1998) などを参照せよ。 13 主要名詞がP主要部の左に編入(incorporation)し,さらに上位のNP主要部へと移動する編出(excorporation)の事例 として考える可能性があるかもしれない。しかし,編出のような移動操作はECP違反になるので,少なくとも現代英語では 不可能である。 14 このような共起関係に関する制限については,江川(1991)や,Quirk et al. (1985), Ibaraki (2010) によっても指摘され ている。. 88.

(12) 二重属格の構造について. 参考文献 Abney, Steven P. (1987) The English Noun Phrase in Its Sentential Aspect, Doctoral dissertation, MIT. Allen, Cynthia L. (2008) Genitives in Early English: Typology and Evidence, Oxford University Press, Oxford. 天野政千代(1990)「英語の格に関する通時的・共時的考察⑴ ― 属格付与の方法 ―」『名古屋大学文学部研究論集(文学) 』 36巻,pp.99-118. Anderson, Mona (1983-4) “Prenominal Genitive NPs,” The Linguistic Review 3, 1-24. Anderson, Stephen R. (2008) “The English “Group Genitive” is a Special Clitic,” English Linguistics 25, 1-20. Bolinger, Dwight (1967) “Adjectives in English: Attribution and Predication,” Lingua 18: 1-34. Chomsky, Noam (1981) Lectures on Government and Binding, Foris, Dordrecht. Chomsky, Noam (1986) Knowledge of Language: Its Nature, Origin, and Use, Plaeger, New York. Chomsky, Noam (2000) “Minimalist Inquiries: The Framework,” Step by Step: Essays on Minimalist Syntax in Honor of Howard Lasnik, ed. by Roger Martin, David Michaels and Juan Uriagereka, 89-155, MIT Press, Cambridge, MA. 江川泰一郎(1991)『英文法解説』,金子書房,東京. Haumann, Dagmar (2010) “Adnominal Adjectives in Old English,” English Language and Linguistics 14, 53-81. Ibaraki, Seishirou (2009) “The Development of the Determiner System in the History of English,” English Linguistics, Vol. 26, 67-95. Ibaraki, Seishirou (2010) “On the Distribution of Genitives in the History of English: With Special Reference to the Development of -’S,” English Linguistics 27, 329-3435. 茨木正志郎(2012)「英語史における名詞後位の属格の消失について」JELS 29, 38-44. Larson, Richard K. (1998) “Events and Modification in Nominals,” Proceedings from Semantics and Linguistics Theory VIII, ed. by D. Strolovitch and A. Lawson, Cornell University, Ithaca. 中島平三(2001)『最新英語構文辞典』(The Taishukan Contemporary Dictionary of English Constructions) ,大修館書房, 東京. Quirk, Randolph, Sidney Greenbaum, Goeffrey Leech and Jan Svartvik (1985) A Comprehensive Grammar of the English Language, Longman, London and New York. Travis, Lisa (1984) Parameter and Effects of Word Order Variation, Doctoral dissertation, MIT.. (札幌校准教授). 89.

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