• 検索結果がありません。

学生の選択行動からみた多仕様型学習環境の構築 大学図書館とラーニングコモンズの使われ方を通して

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "学生の選択行動からみた多仕様型学習環境の構築 大学図書館とラーニングコモンズの使われ方を通して"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

【司会】 定刻になりましたので、講演会を開催させ ていただきます。それでは、講師の楠川充敏先生を お迎えして、講演会を進めさせていただきます。演 題としましては、学生の選択行動からみた多仕様型 学習環境の構築、大学図書館とラーニングコモンズ の使われ方を通して、ということで、本日ご講演を いただきます。どうぞよろしくお願いいたします。  簡単に、楠川先生の経歴を紹介させていただきま す。2015年に愛知工業大学工学部建築学科をご卒業 し、同大学大学院工学研究科博士前期課程を2017年 に修了しています。愛知工業大学では、日本図書館 協会施設委員の中井孝幸先生の下で、公共・大学・ 学校図書館の研究をしておりました。2017年からは 名古屋市立大学大学院芸術工学研究科博士後期課程 に在籍し、小中学校や医療施設の建築計画を専門に されている、鈴木賢一先生の下で、研究に従事して います。それでは、楠川先生どうぞよろしくお願い いたします。

はじめに

 こんにちは。名古屋市立大学から来ました楠川で す。今日は、学生の選択行動からみた多仕様型学習 環境の構築という表題で、発表させていただきたい と思います。実は、図書館関係者の方々に発表する ことは、ほとんど初めてでして、今日は建築的な視 点からお話しさせていたきますが、そうではない意 見も含めて、ご指摘をいただければと思います。よ ろしくお願いします。  私は当初、図書館の研究に興味があって、中井研 究室に所属したわけではなく、大学の学習スペース に興味を持ち、大学生がどんな所で過ごして、どん な所で勉強してるのかを調べたいと思っていまし た。そんな矢先に、中井先生から、じゃあ大学図書 館をフィールドにやってみたらということで、先輩 のもとに就いて、研究を始めました。そして、愛工 大を修了し、名古屋市立大学に来て3年目というこ とで博士論文を執筆するタイミングになってきまし た。今回は、これまでの研究成果をまとめたものを ご説明できればと思います。

研究の背景と目的

 まず、研究の背景ですが、文科省の資料から大 学生に要求されていることを見てみます。すると、 「日本の社会を引率する人材育成」や、「グローバル 社会に対応した人材育成」などが明記されていると 思います。総括しますと学生の勉強時間が少ないと いうことが述べられています。そうした中アクティ ブラーニングと呼ばれる、能動的で、主体的な学習 が求められています。その状況と同じころ、アメリ カで誕生したラーニングコモンズと呼ばれる空間・ サービスが日本でも増えてきました。ラーニングコ モンズは、アクティブラーニングの受け皿として授 業外で共同的に学ぶ場の提供や、アナログとデジタ ルの融合による情報収集を可能にしたサポートの場 などとされています。  私が研究を始めた当時、感じたことはアクティブ ラーニングと呼ばれる学習活動が、ラーニングコモ ンズに限定して展開するものなのだろうかと思って いました。主体的な学習は、何もラーニングコモン ズだけではなくてもよいと考えています。というの も、アクティブラーニングが授業だけの活動を示す のではなく、授業外にも着目し、自発的、積極的で 自由にいつでも使える学習環境を整備するべきなの ではと思っています。  では、従来の静寂な開架閲覧室とラーニングコモ ンズの一般的な特徴を整理してみましょう。ラーニ ングコモンズができたことによって、会話を伴うエ リアが増え、音環境にバリエーションができました。 そしてグループ利用の来館が可能になり、密度感に 変化がみられ、グループ利用者と個人利用者との混 在が生まれてきました。さらに、パソコンなどの利 用も促され、様々な学習形態に対応できるようにな

学生の選択行動からみた多仕様型学習環境の構築

 ―大学図書館とラーニングコモンズの使われ方を通して―

楠川 充敏

 名古屋市立大学大学院芸術工学研究科博士後期課程

(2)

りました。そういったことから、ラーニングコモン ズの整備だけでなく、従来の開架閲覧室も含めて計 画指針を提案していこうと考えています。  では、タイトルにある「多仕様型」とは何を指し 示しているのでしょうか。それは、①様々な「音環 境」に対応したエリアをつくる。②仕切り(パーティ ション)のある様々な座席タイプから適度な人との 「距離感」をつくる。③様々な「学習ツール」に対 応したエリアをつくることとし、これらの要素(仕 様)に対してバリエーションのある学習環境の計画 をしていくことを目的にしています。

東海北陸甲信越地方の学習環境の

整備状況について

 まず初めに、東海圏の図書館の皆さんからアン ケート調査をさせていただいたラーニングコモンズ 等の図書館の整備状況についてご説明したいと思い ます。アンケートを回答していただきました皆さん、 ありがとうございました。  郵送したアンケートの回収率は57%となり、配付 した半数以上の方から回答をいただきました。私立 大学の場合は、中央館クラスの回答を、国公立大学 は、医学部などの専門的な分館クラスの回答を得る ことができました。  開架閲覧室で、会話ができるか聞いてみました。 すると、「会話・全面禁止」としている大学図書館 は全体で40%以上となりました。一方、図書館の広 さごとでみると、面積が広くなれば、会話ができる 環境は作りにくくなっています。面積の小さい分館 クラスですと「会話・全面可能」が少し高くなりま した。それにより、面積の大きくなるところでは、 一部の場所で会話できる環境を整備する傾向にある ことが分かりました。  次は、ラーニングコモンズの整備状況についてで す(スライド1)。半分の大学図書館で、ラーニン グコモンズが整備されていました。その他、グルー プ学習室や、ディスカッション室があるという結果 になりました。では、その開架閲覧室とラーニング コモンズをどのように仕切っているかを聞きまし た。ほとんどの図書館で壁、あるいはガラスのパー ティションで仕切っていることがわかりました。し かし興味深いのは、必ずしも壁で区切っている事例 だけではないということです。ラーニングコモンズ、 アクティブラーニング室を緩やかに従来の静かな開 架閲覧室と区切りなく整備している事例が30%みら れました。

ラーニングコモンズを持つ大学図書館による

音環境の階層構造

 では、ここから実際に図書館の中で調査したデー タからお話したいと思います。まずは、指導教員で あった中井先生がお話した椙山女学園大学と愛知学 院大学と名古屋学院大学の内容からご説明します。  調査は、来館者アンケート調査と巡回プロット調 査を行っています。これから進めていく研究も、同 じようにアンケート調査と巡回プロット調査を行っ ていきました。  この図は、利用している人数形態をみています。 個人が多いのか、2人以上のグループで来てる人が 多いのかを見たものです。どのエリアも、1人で来 ています。これは、会話があるかないかで見ている ので、例えばグループで来ている人であっても、会 話がなければ、1人と見られる行為に分類されます。 しかし、それを加味しても、ラーニングコモンズを 1人で利用している割合は高い傾向にありました。  椙山女学園大学の場合は、2人以上の利用は開架 スペースとラーニングコモンズに変化がありませ ん。これは、開架閲覧室でも会話ができるからと思 われます。次にこの図は、利用者のプロット図にな ります。会話してる人が赤い点、会話していない人 が青い点を示しています。椙山女学園大学の個室の グループ室は、赤い点が集まり、一番多くの会話が 行われていました。一方で地下階は、青い点が多く なっています。  これらより、ラーニングコモンズを持つ図書館の 中には、音のエリアが三つの段階に分けられていて、 スライド1

(3)

「静かなところ」、先ほどの個室グループ室のような、 「かなり賑わっているところ」、その中間域である「緩 やかに賑わっているところ」になることが整理でき ました。これは、自分自身の会話の度合いと、周辺 の音環境で作られるのではないかと考えています。 なお、これは、図書館の中にラーニングコモンズが あるタイプの事例で、研究を進めていきました。

ラーニングコモンズの設置形態からみた

学習環境の使い分け行動

 近年は、図書館内にラーニングコモンズがある事 例だけでなく、別棟でラーニングコモンズを整備す る場合もあります。そこで、ラーニングコモンズの 設置形態からみた図書館とラーニングコモンズの使 い分け行動をみていきます。  こちらは、立命館大学平井嘉一郎記念図書館です。 図書館の中にラーニングコモンズがあるタイプで す。多くの雑誌や文献で紹介されてるのでご存じの 方も多いと思います。建物は5層になっており、一 番下の地下2階は、自動書庫になっています。そし て、ぴあらと呼ばれるラーニングコモンズが1階に あり、その他の開架閲覧室は、ほとんどがキャレル 席で作られています。  次は、図書館の外にラーニングコモンズがある事 例として、京都産業大学を調査しました。キャンパ ス西側にある図書館は、図書館建築賞も受賞してい る建物で、1階にパソコンが50台、2、3階には普 通の閲覧室があります。キャンパスの東側には、ラー ニングコモンズと、グローバルコモンズがあり、い ずれも図書館外の管轄です。ラーニングコモンズが 先に完成し、2年後にグローバルコモンズができま した。グローバルコモンズは、外国語学部棟にあり、 主にその学部生に向けられて計画されています。  次に、中部大学です。こちらも、ラーニングコモ ンズは図書館の外にあるんですが、図書館の1階に もラーニングスペースと呼ばれる会話が可能でグ ループ利用ができる場所が備えられています。この 3タイプで比較していきたいと思います。  まず、学習環境の選択行動に移動距離の影響があ る要因について説明していきます。京都産業大学の キャンパスマップをみて下さい。外国語学部に着目 していただくと、1000人当たりの来館者数は84.5人 と最も高くなりました。「利用していた建物から近 い」が37%となり、多くが外国語学部の利用者で構 成されていました。ラーニングコモンズを別棟で計 画することで今まで図書館に来なかった利用者を引 き付ける面もあることが分かります。  次に、図書館とラーニングコモンズをどれだけ使 い分けていますかと聞きました(スライド2)。す ると、立命館大学では、約8割の方が地下1階、地 上2、3階にある開架閲覧室と、1階にあるラーニ ングコモンズを利用していると答えました。一方、 中部大学の図書館利用者は33%が別棟のラーニング コモンズを使い分けると答えました。ラーニングコ モンズを図書館の中に整備することによって、使い 分けの利用は高まる。さらにラーニングコモンズを 館内に内包すると、1回の利用で複数の目的ができ るため、利用頻度も高まることが分かりました。  では、使い分ける利用者は一体何をしているので しょうか。使い分ける利用者は、全体的に図書資料 を貸し借りする割合が高く、ラーニングコモンズも 利用しながら、館内では図書資料を求めて学習して います。特に、京産単独 LC(ラーニングコモンズ +グローバルコモンズ)は、15%と高くなっていま す。グローバルコモンズには、専門性のある図書(多 読本)が配架されているので、本が身近にあること が来館のきっかけになっていると思われます。  一方、使い分けない利用者は「くつろぐから」が 使い分けている利用者より高くなりました。つまり、 使い分けてる利用者は、何らかの目的を持って学習 環境を選択しに来ている利用者が多いのです。ラー ニングコモンズは別棟がいいのか、あるいは図書館 の中に整備すればいいのかといった議論があります が、結局のところ、学習意識の高い人は、どこにあっ ても様々な場所を利用しています。目的の資料に対 して、いち早く得ることができる図書資料等や、パ スライド2

(4)

ソコンなどの電子情報機器が来館の大きなきっかけ になっており、充実した学習媒体の提供には常に気 を配らないといけないと思います。また、先ほども ご説明しましたが、別棟のラーニングコモンズでは、 「近い」といった選択理由から離れた図書館を利用 しない学生も来館しており、図書館で補えない利用 者を別棟のラーニングコモンズで確保することもで きることがわかりました。

入退館前後の活動場所からみた

学生の座席選択行動

 入退館前後の学習活動からみた学生の選択行動と いうことで、学生が図書館やラーニングコモンズを 選ぶ時に、どういうタイミングで入退館しているの かを調べてみました。例えば、家から直接図書館に 来るのか、あるいは講義室から直接図書館に来るの か、図書館を出た後は家に帰るのか、それとも講義 室に行くのか。など、「学内」、「学外」の組み合わ せをいくつかに分類して、利用の傾向を抑えようと 試みました。  こちらは、中部大学、愛知淑徳大学、愛知大学で、 アンケート調査から聞いたものです。最も多いのは、 「タイプ4」になり、講義の合間に来ています。愛 知の「タイプ1」は12%と少し割合が高く、名駅と いう立地が影響しているのではないかと考えられま す(スライド3)。  ここからは、中部大学を事例にみていきます。ま ずは各タイプの滞在時間です。「タイプ2」と「タ イプ4」は、講義が後と前後に絡むタイプになって おり、平均滞在時間は、1時間から1時間半と、講 義の90分にかなり強く影響していることが分かりま す。次に、これはラーニングコモンズです。ちなみ に図書館もラーニングコモンズも滞在時間のデータ はほとんど変わりません。「タイプ1」は、母数が 少ないのですが、平均滞在時間は、2時間50分にな りました。図書館やラーニングコモンズをメインに 大学に来ているため、3時間に近い利用になってい ます。  次に、タイプ別で座席選択理由をみていきます。 どこのタイプも「集中できるから」が高くなりまし た。これは、タイプごとであまり変わらないです。「タ イプ1」は、一番滞在時間が長いこともあり、「リラッ クスできる」が上位三つの中にランクインし、長時 間の利用をするつもりで、リラックスできる座席を 選択しています。  まとめますと、図書館あるいはラーニングコモン ズの利用は、講義時間に強い影響を受けています。 そのため、講義棟からのアクセス性が求められてい ると思います。また、とても興味深かったタイプと して、「タイプ2」の講義前に来る人達がどこを選 択してるかをみる(図書館を事例に)と図書館の低 層階に集まっていました。上階に行くのが面倒くさ いといった意見もあり、ある程度エントランス階、 出入口の階にも座席を設けるべきではないかと考え てます。

座席タイプ別からみる利用者密度について

 これは、お茶の水女子大学附属図書館にあるラー ニングコモンズです。この間隔で、果たして座れる のかなと不思議に感じませんか。女性の方は、これ でも気にならないようです。ただし、できることな らもう少し隣とのゆとりを持たせたいものです。こ こからは、こういった間隔をどうやって認識して、 着座までの行為をとっているかをご紹介したいと思 います。  またこれは、東京の帝国図書館時代の様子です。 かなり高密度で座ってることが読み取れます。これ は極限状態だと思います。ですが、今では考えられ ないので、ある程度の距離を保って利用者間との環 境を作っていくことが求められます。  この密度を見ていくにあたり、仕切りによって利 用者との距離が緩和されると考え、机に仕切りがあ るかないかに着目して、研究を進めていきました。  今回、立命館大学と中部大学の図書館で説明して いきたいと思います。先ほども説明しましたが、立 スライド3

(5)

命館は、44%がキャレル席で構成されています。一 方、中部大学は6人掛け、4人掛けのグループ席が 30%と最も多くなっています。両館、会話ができる スペースは、約10%の割合でした。  はじめに、立命館大学の座席占有率(着座人数 / 座席数)をみてきましょう。これはどれだけ座席が 埋まってるかをみたものです。デスクに仕切りが多 いと埋まる率は高く、ピーク時で31%(立命館大学) となりました。参考として、キャレル席の割合が高 い愛知大学もみますと、やはり座席占有率が高かっ たです。  次に、プロット調査から利用者の数(着座してい る人)を濃淡で表現した図をみていきます。立命館 大学のラーニングコモンズは、ほとんどの場所で約 30%埋まっていることが分かります。次に2、3階 のキャレル席です。仕切りがあるから隣同士を気に せずに高密度に座っていることが確認できます。  一方で、中部大学のカウンター席をみていきます (スライド4)。赤の濃淡が間隔を空けて着色されて います。つまり、両隣を空けて着座していることが わかります。  そして、中部大学のラーニングスペース内のカウ ンター席をみていきます。会話禁止のカウンター席 と違って、間隔を空けずに着座している様子がみら れます。友達同士で座っている様子もみられるので すが、1人で利用している人もカウンター席にいま した。開架閲覧室と違い、周囲に音がある環境では、 ある程度隣同士で座れるのではないかと考えていま す。そして、密に座っても大丈夫な利用者が一定数 いることが分かりました。  次に、座席タイプ別に、どのような学習をしてる かをみていきたいと思います。キャレル席は、「資 格の勉強」が他の学習内容に比べて多くみられまし た。これは、大学院入試や、テスト勉強も含まれて います。カウンター席(会話禁止)をみると「授業 の課題やレポートの作成」が81%で最も高くなりま した。中部大学は、書架付近にカウンター席があり Wi-Fi 環境が整っています。そのため、パソコンも 利用でき、本や web 閲覧をしながらレポート作成 ができるのではないかと思っています。座席選択理 由をみていきますと、キャレル席は、「集中できる から」が48%となり、周囲から遮断した場所と集中 できる環境が求められていることが分かりました。

座席タイプからみる利用者間の距離について

 机にある仕切りによって学習の内容も違えば、選 択理由も違う。そして、隣同士の間隔も違うことを 整理してきました。では実際に、座席を選択する際 に、周辺に人がいる状況をどのように認識している のかをアンケート調査から見ていきたいと思いま す。  対象館は、昨年度調査をさせていただいた愛知淑 徳大学と愛知大学です。愛知淑徳大学は、従来型の 図書館でラーニングコモンズがないタイプです。唯 一会話ができる場所は、グループ学習室になってい ます。図書館は、校舎両隣が渡り廊下で接続されて います。愛知大学は、都心型のキャンパスになって おり、厚生棟と呼ばれる棟の1階から3階に位置し ています。1階には、ディスカッションルームと呼 ばれるラーニングコモンズのような空間がありま す。  ここでも座席タイプの割合をみていきたいと思い ます。先ほどと同じように分類してみました。愛知 大学は、約7割がキャレル席で構成されています。 愛知淑徳大学は、中部大学と座席の割合が似ており、 グループ席は34%と多くなっています。あと、愛知 淑徳大学は、ラーニングコモンズがないので、会話 できる場所は、個室のグループ席のみとなっていま す。  まず個人利用者の学習時における距離の認識状況 について、両館共に「人がいないところ」の回答が 6割以上得られました。しかし、人がいない場所と いうのは、現実的にはなかなかなく、館内のどこか のエリアには人がいます。つまり、「人がいない」 といった認識の下で利用者は座席に座っていること を示し、人がいない場所を試行錯誤して選択してい スライド4

(6)

ると思われます。この試行錯誤の意味については、 後でご説明します。  対象館ごとで分析をしますと、愛知淑徳大学は、 愛知大学に比べて「2m以上離れて人がいるところ」 が21%となりました。なぜ、2mに設定したのかは、 一席開けて座る距離が約2mになっている(1人当 たりの机の長さを900㎜として計算)からです。愛 知淑徳大学は、仕切りのないグループ席が多く、人 から見えない位置に座ることができないため、この 割合になったと思っています。  では、友人と来たとき(グループ利用)は、どう 認識しているのでしょうか。両館共に、「人がいな いところ」は、先ほどの個人利用に比べて少なくな りました。ですが、3割ぐらいの利用者は「人がい ないところ」と答えています。一方で、両館「2m 以内に人がいるところ」は、50%となり、グループ 利用者は、2m以内に人がいてもよいと思っていま す。ですから、個人利用者とグループ利用者で、感 じる距離感は違うということです。  この距離について、まとめると利用者は、音環境 だけでなく、過密 ・ 疎密な場所を認識して選択して いることが見えてきました。本研究では、座席タイ プごとで研究を進めていきましたが、キャレル席は、 集中度の高い学習が展開できて、資格試験、大学院 受験にとても有効的であることが整理できました。 しかし、いろんな学習活動を館内で展開してもらう ためにも、キャレル席だけでなく、さまざまな座席 タイプが、必要なのではないかなと思います。  先ほど、「人がいないところ」を試行錯誤して、 選択していることをご説明しました。その試行錯誤 というのは、キャレル席が多い愛知大学は、仕切り によって人から見られない場所を選択し、周囲に人 がいない場所を自ら作りだしている。  グループ席の多かった愛知淑徳大学は、人との間 隔を大きく空けることによって、周囲に人がいない 場所を見つけていると思われます。しかし、ここで 一番大事なのは、「人から見られると集中できる」 といった人も一定数いることです。ラーニングコモ ンズなどは、周囲の利用者から刺激を受ける空間と して、計画がされている事例もあります。同じよう に、開架閲覧室でも、周囲の利用者がカリカリ勉強 をしている様子があり、自分も頑張れるっていった 人達もいます。そのため、あえて人から見られる場 所を開架閲覧室にも作ってあげるべきではないかと 思っています。

グループ利用者と個人利用者の混在と

距離について

 発表が終盤になってきました。次にグループ利用 者と個人利用者間の距離について、実際に周囲の利 用者と何メートル距離を空けて椅子に座っているか をみていきます。発表の冒頭で少しご説明しました が、ラーニングコモンズがグループ利用の場所だけ でないように、従来の開架閲覧室が個人利用者の場 所ではないと考えています。むしろ、友達同士で参 考図書や専門図書等の本を使いたいといった意見も 出ています。そういったことを考えると、開架閲覧 室内で、多少のおしゃべりも可能にすることを考 え、グループ利用と個人利用がもう少しシームレス に繋がる学習環境の在り方を検討しても良いと思い ます。  こちらは、先ほどと同様に、愛知大学と愛知淑徳 大学の事例で分析を行いました。まず、グループ利 用者が、1日に何グループ来て、1グループ当たり、 何人で構成されてるのかを調べてみました。そうす ると、開架閲覧室の場合は、両館共に平均で2.1人と、 ほとんど2人一組で開架閲覧室に来ています。一方 で、ラーニングコモンズ、あるいはグループ学習室 をみていくと、愛知淑徳大学の場合は平均で3人ぐ らい。ディスカッションルームの中は、平均3.5人 となり、開架閲覧室とラーニングコモンズの構成し ている1組あたりの人数は、約1人違っていました。  私たちは、巡回プロット調査について、15分に1 回調査をしています。そこで、1グループがどれだ け滞在していたかをみるため、1グループあたりの 着座の回数をカウントしました。すると開架閲覧 室は2.8回で、30分から45分ほど滞在していました。 会話ができるグループ学習室やディスカッション ルームでは、7.0回、6.4回ということで、1時間半 ぐらいの滞在状況を観察しました。開架閲覧室では、 短時間で活動が済んでるってことが分かります。  では、どこで個人とグループ利用者が混在してい るのかを注目していきたいと思います。これは愛知 淑徳大学の会話利用者のプロット図です(スライド 5)。1階は本来会話を公式的に良しとしてないの ですが、これだけの赤いプロット(会話行為の利用 者)が見られています。平面図をみますと、コピー 機の周辺や、課題図書の付近にグループ利用者がい ます。そして、椅子がある場所をみると、南側の6 人掛けグループ机にグループと個人の混在が見られ

(7)

ました。これは、課題図書をコピーする作業のつい でに友達と相談しながら学習している利用者です。  次に、どれだけ距離を取っているかをみていきた いと思います。距離は、グループ利用者の中心付近 から最も近い個人利用者の頭上までとしています。 愛知淑徳大学は、平均で約3.7m、愛知大学は平均 で約2.6m、個人の利用者と間隔を空けており、1 mの差がみられました。愛知大学は、キャレル席が 多く、仕切りがあるため、広く間隔を空けずとも周 囲を意識しない環境が作れるため、2.6mになった と考えています。一方で、愛知淑徳大学は、グルー プ席での着座が確認でき、距離を保って利用してい ました。  そして、愛知淑徳大学にピックアップして見てい きたいのですが、先ほどの南側の枠で囲った部分で なぜ、個人とグループの利用者の混在が成立してい るのでしょう。先ほどのお話を整理しますと、1グ ループ当たり2~3人となっており、グループ席の 場合だと一定の距離を保って座席を選択している。 この状況から、ここの座席は6人掛けで整備されて おり、さらに机と机の間は間隔が空いていることか ら利用者間同士でも間隔を空けることができると思 われます。そうすることで、グループと個人の距離 感が、うまく保てる空間作りができると予測できま す。また、ここは本来、会話は禁止なんですが、エ ントランス階は、カウンター業務などもあり、どう してもにぎわいが生まれてしまう階になります。そ して、周辺の人の行き来も相まって、会話行為を誘 発してしまいます。エントランス階の会話を許容し、 間隔を空けたグループ席を設置することで、開架閲 覧室でもグループの利用ができる環境がつくれると 思っています。  様々な座席のタイプを提供する必要があること は、各所でお伝えしました。それでは、座席タイプ ごとでどういった活動がされているか、また、どう いった選択行動が行われているかを整理したいと思 います(スライド6)。  まず、キャレル席です。ここでは、資格の勉強や テスト勉強が展開されていました。これは3面仕切 られているから集中できるといった理由がみられ、 周囲の視線を気にしてしまう利用者が着座していま す。また、高密度に着座が可能になり、多くの来館 者にも対応することができます。資格学習をしてい ただきたい際には必要な座席です。  次は前面が窓側に面しているタイプのカウンター 席です。外の景色が見えて、気分転換ができるといっ た選択理由がみられ、さらには勉強に集中するため に、リラックスできる時間も要求しています。先ほ ど、中部大学でみたように、間隔を空けて着座して おり、間隔を空けることは、人との距離を取るだけ でなく、広々としたデスクを確保するという意味も あります。ですから本やパソコンを同時に机の上に 広げたい利用者に求められています。今後、大学に ノート PC の持ち込みが義務付けられると、複数の 資料と同時に PC を広げることができる場所を整備 しなければならないと思います。また、カウンター 席の場合は、壁に沿って計画される場合が多く、電 源タップの設置が比較的容易です。  次に、一面グループ席についてです。今回あまり お話しませんでしたが、グループ席(4~6人掛け) の前面に仕切りを設けたタイプを指しています。グ ループ席とは違い、前面を比較的気にすることなく 座ることができ、2人組のグループで着座したい需 要もカバーされていました。 スライド5 スライド6

(8)

 4人掛けあるいは6人掛けのグループ席は、1人 で座るというよりかは、友人と座る割合も高いです。 何回かお伝えしましたが、大きく個人利用者と距離 を取って着座しているため、ある程度距離がとれる よう、比較的多くの座席を提供する必要があります。 グループ席ですので、資料も広げやすく、フレキシ ブルに使うことができます。  ラーニングコモンズ内のグループ席について話し ます。ザワザワとした環境で学習したい個人利用者 も一定数いることから、グループ利用者だけの場で はないと言えます。しかし、6人くらいで利用でき るソファのような座席に1人で座ってしまう事例も あり、本当にグループで利用したい場面で座れない といった状況はつくりたくないものです。そのため にも、同じ音環境ながら、1人の利用を促すような カウンター席などの整備が求められます。また、ラー ニングコモンズは、広々としたオープンな場所に机 や椅子が動かせるといったものが通例になっていま すが、同じタイプの座席があるだけでいいのかと疑 問に思うところです。空間を細かく分節して、人に 見られる、見られないのような場を作ってあげると、 視線を気にする利用者にも受け入れられるのではな いかと考えています。

まとめ

 私は、従来の開架閲覧室もアクティブラーニング の場になり得ると考えています。前提としてアク ティブラーニングを広義に考えているのですが、自 主的に学習しやすい環境を積極的に選択するという 行為自体が、アクティブであり、そういった場で学 習していること自体がアクティブラーニングになっ ていると思います。  また、ラーニングコモンズは、確実に学習場所の 選択肢を増やしています。学生にとっては、今の学 習形態に対してメリットが大きいように感じ、今ま でになかった新たな要求をくみ取ったものだと思っ ています。  ここで、ちょっとした落書きをご紹介します。こ れは、今回の発表でご説明した様々な選択要因を「音 環境(静・動)」、「学習環境の近さ」、「人の密度」、 「学習ツール(ハード)」、「座席の空席」、「人的支援 (ソフト)」に分けて、ピラミッドで階層的に示した ものです。選択肢で一番重要になってくるのは、人 の五感に関係するものです。音や人との距離感など の多様化した整備が求められ、学習環境を選択する 際は、そういったものが、ベースになってくると思 います。その次に(上段にくるもの)、図書館やラー ニングコモンズが講義室から近いといったことや、 パソコンがあるから、図書資料があるからといった ハードの学習ツール、そして(一番上)人的支援の 要求になると考えています。  最近は、図書館でない空間がすごく充実しており、 先日ファミリーレストラン内に1人で勉強できる人 を受け入れる場所を作ったというニュースをみまし た。図書館やラーニングコモンズなど学習活動がで きる空間は、大学の枠を越えてかなり充実してきて います。利用者の獲得が、図書館の最終目標ではな いとは思いますが、飲食できる空間や企業が作る空 間っていうのは、非常に人気で、魅力的であればそ ういった場を選択すると思います。では、図書館は どうしたらいいかと考えると、図書館の利用という のは授業に大きく影響を受けます。そして何より、 資料があります。授業が変わり、利用を促す仕組み に変化が起きれば、図書館の利用も変わり、学生に とってなくてはならない存在になると思ってます。 ですので、学生の活動に気を配り、なにを求めてい るかに敏感になることが大切になってくるのではな いでしょうか。  そのため今後、研究に従事していくにあたり、私 自身もさらに利用者本位のデザインを考えていきた いです。  以上で終わります。ありがとうございました。

参考文献

1)楠川充敏,鈴木賢一,中井孝幸:大学図書館の座席選択 における利用者間の距離と視線の認識―大学キャンパ ス内の人的支援を有する学習環境の整備計画に関する 研究その2,日本建築学会地域施設計画研究第37回, pp.107-114 ,2019.7 2)楠川充敏,鈴木賢一,中井孝幸:大学図書館における場 の階層構造に基づく学習環境の発展的な使い分け行動 ―大学キャンパス内の人的支援を有する学習環境の整 備計画に関する研究その1,日本建築学会地域施設計 画研究第36回,pp.161-168 ,2018.7 3)楠川充敏,鈴木賢一,中井孝幸:大学図書館における座 席タイプからみた利用者密度と視線の認識に関する研 究,日本建築学会東海支部研究報告書第57号,pp.393-396 ,2019.2 4)楠川充敏,鈴木賢一,中井孝幸:大学図書館における入 退館前後の活動場所からみた学生の座席選択行動,日本

(9)

建築学会大会学術講演梗概集,建築計画,pp.503-504 , 2018.9

---(くすかわ みつとし)

参照

関連したドキュメント

仏像に対する知識は、これまでの学校教育では必

テューリングは、数学者が紙と鉛筆を用いて計算を行う過程を極限まで抽象化することに よりテューリング機械の定義に到達した。

○本時のねらい これまでの学習を基に、ユニットテーマについて話し合い、自分の考えをまとめる 学習活動 時間 主な発問、予想される生徒の姿

それでは資料 2 ご覧いただきまして、1 の要旨でございます。前回皆様にお集まりいただ きました、昨年 11

※証明書のご利用は、証明書取得時に Windows ログオンを行っていた Windows アカウントでのみ 可能となります。それ以外の

キャンパスの軸線とな るよう設計した。時計台 は永きにわたり図書館 として使 用され、学 生 の勉学の場となってい たが、9 7 年の新 大

これら諸々の構造的制約というフィルターを通して析出された行為を分析対象とする点で︑構

モノーは一八六七年一 0 月から翌年の六月までの二学期を︑ ドイツで過ごした︒ ドイツに留学することは︑