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関東地方における細胞性粘菌の出現頻度の季節変化

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Academic year: 2021

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 ディクチオ型細胞性粘菌(Dictyostelid)は一般に 20 ∼25℃で培養されるが,種によってその生息適温が異な る こ と が 知 ら れ て い る.Dictyostelium septentrionalis Cavenderの成長最適温度は 15∼17℃で,20℃以上では 正常な子実体形成はしないが,一方で,D. polycephalum Raperなどのいくつかの種は,30℃で最も旺盛に成長し 子実体形成も行うとされる(Raper 1984).これらから, 種によって分布域が異なることに加え,季節の進行に伴 う個体数・密度あるいは出現頻度の変化が予想される. 実際,Cavender and Raper (1965) は,米国東部および ウィスコンシン州を含む中西部において落葉樹林土壌の 細胞性粘菌を調査し,秋と春に分離した個体数が他の季 節よりも多いことを報告した.  細胞性粘菌の増殖に関する季節性には,胞子やミクロ シスト,マクロシストといった休眠細胞の形成も考慮す る必要がある.細胞性粘菌は飢餓状態に直面すると,粘 菌アメーバが集合して無性的に胞子形成をするか,ミク ロシストあるいはマクロシストを形成して休眠する (Kessin 2001).ミクロシストは,粘菌アメーバが単独 でセルロース性細胞壁に包まれ形成される.それに対し てマクロシストは,飢餓状態に加えて多量な水分の存 在 ・ 暗黒などの条件下でアメーバが集合し,有性的に融 合して生じた巨細胞が,周囲の細胞を捕食して形成され る.Kuserk (1980)は,米国デラウェア州ニューアーク のブナ・ミズナラ林において,土壌より検出した全ての 細胞性粘菌種の中で D. mucoroides Brefeld の個体数が最 も明瞭な季節変化を示し,春と秋がピークであることを 報告した.さらに,土壌を冷凍処理し,粘菌アメーバの みを殺すことにより,D. mucoroides は春と秋は粘菌ア メーバの状態で,冬と夏は胞子とミクロシストという比 較的発芽しやすい休眠細胞で存在する割合が高いことを 示した.しかし,同じく休眠細胞であるマクロシストは, この研究では扱われていない.マクロシストは形成後に 数週間以上休眠する(Nickerson and Raper 1973b)ため, Kuserk (1980)の研究では扱われなかったと考えられる.  Romeralo et al.(2011)は,イベリア半島の森林土壌で の長期調査の結果,細胞性粘菌の多様性は試料を採集し た季節により異なることを報告した.温度や湿度が細胞

関東地方における細胞性粘菌の出現頻度の季節変化

細野 春宏

1)*

・加藤 和弘

2)

・半本 秀博

1) 1)放送大学埼玉学習センター,〒 330 0853 埼玉県さいたま市大宮区錦町 682−2 2)放送大学大学院自然環境科学プログラム,〒 261 8586 千葉県美浜区若葉 2−11

Seasonal change of appearance frequency of dictyostelids in the Kanto region

Haruhiro H

OSONO1)

, Kazuhiro K

ATOH2)

, Hidehiro H

ANMOTO1)

1) Saitama Study Center, The Open University of Japan, Nishikicho 683−2, Oomiya-ku, Saitama 330 0853, Japan 2) Graduate School of Natural and Environmental Science, The Open University of Japan,

Wakaba 2−11, Mihama-ku, Chiba 261 8586, Japan (Accepted for publication: 1 May 2020)

  We investigated dictyostelids in five shrine forests in the areas from south Kanto to south Tohoku regions and found seasonal changes in the frequencies of fruiting bodies and macrocysts formation of Dictyostelium clavatum. This species was suggested to grow in winter and spring, form macrocysts at the same time, and become dormant until autumn.

(Japanese Journal of Mycology 61: 103−108, 2020) Key Words― Dictyostelid, Dictyostelium clavatum, Macrocyst, Macrocyst-forming strain, Social amoeba

資    料

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増殖に不利な季節には,多くの種がマクロシストとして 存在し,通常の検出法では種多様性を低く示してしまう. Kuserk (1980)において個体数の季節性が示された D.

mucoroidesも,Romeralo et al. (2011)が述べたように, 生存に不利な季節はマクロシストで休眠していた可能性 がある.しかし,この仮説を野外土壌の直接観察により 証明するのは困難である.土壌から細胞性粘菌を分離す る際には,一般に 150 倍程度の低倍率で検鏡し子実体を 探すが,マクロシストは直径 25−50 µm の粒状(Raper 1984)で砂粒と見分けにくい.  マクロシストを形成しやすい株の存在も報告されてい る.Filosa & Chan (1972) は,1970 年の春から 1971 年 の秋まで,カナダのオンタリオ州で調査を行い,採集さ れた D. mucoroides から,子実体とともにマクロシスト を得た.そして,子実体のみを生じた株も多量な水分の 存在下で培養すると約半数が条件次第でマクロシストを 形成した.そして,マクロシスト形成株が高い割合で存 在することは,生態学的に有利な条件があったことを示 唆した.  日本国内での細胞性粘菌の調査として,Cavender and Kawabe (1989) は,神社周辺のよく保存された林分が細 胞性粘菌の豊かな生息地であることを報告した.なお, 国 内 の 細 胞 性 粘 菌 相 は,Hagiwara (1989, 1996, 2003, 2004),Hagiwara and Hosono (2006),Kawakami and Hagiwara (2008)により調査され,約 30 種について形態 学的な同定形質に基づく報告がなされている.  細胞性粘菌の種組成やある種の個体数の季節変化を明 らかにした既往研究は,上述のように多くが海外の事例 であり報告数も少ない.そこで本研究では,日本国内の 主に関東地方における細胞性粘菌の季節変化について明 らかにすることを目的とした.その際,先行研究により 示された知見を踏まえ,培養された株がマクロシストを 形成する可能性や,マクロシスト形成株が培養条件によ り子実体を形成する可能性に留意して培養・観察を行った.  本研究の調査地として,社寺林 5ヵ所を選定した.茂 林寺(群馬県館林市;シラカシ・コナラ等が優占する混 交林),鷲宮神社(埼玉県久喜市;スギ植林にコナラ等 が混生),鹿嶋神社(福島県白河市;スギ・ヒノキ植林), 秩父神社(埼玉県秩父市;ケヤキ林で部分的にスギ等の 植栽あり),上諏訪社(神奈川県三浦市;タブノキ林) である.各林内に 10 の土壌採取地点を設定し,各地点 間は 20m 以上離した.調査は,茂林寺と鷲宮神社では 2015 年 6 月または 7 月から 2017 年 7 月にかけて,その 他 3ヵ所では,2017 年 8 月から 2018 年 7 月まで,毎月 1 回行った.各月の中旬に,各採取地点において落葉腐 植を含む A 層土壌を採取した.  細胞性粘菌は,20℃で 6∼7 日間培養すると子実体を 形成する(Hagiwara 1989).そこで,季節変化を考察す る観点から,調査地の最寄りの気象庁アメダス観測地点 の月平均気温を解析に用いた(http://www.jma.go.jp/ jma/index.html).  細胞性粘菌の培養や同定は,Raper (1984)ならびに Hagiwara (1989)を簡便化した手法によった.簡便化の 要点は以下の 2 点である.(1)採取した土壌を定量し無 菌水に入れ十分に振とう後,一定量の懸濁液を培地に接 種する操作を行わず,土壌をそのまま接種した.(2)本 調査地での検出が予想される種の検索表をあらかじめ作 成し(細野 2013),子実体の大きさと柄の先端の形,胞 子の形状と長径,胞子内部の極付近での顆粒の有無の 5 形質から種の同定を行った.  ブイヨン培地(日水製薬株式会社,東京)を含む 1.5% 寒天培地 100 mL を調製し,オートクレーブ滅菌したの ち,深型 90×20 mm EOG 滅菌済 Polystyrene シャーレ (AGC テクノグラス,静岡県吉田町)に約 20 mL 注ぎ, 固化させて平板培地を作成した . この平板培地上に大腸 菌 Escherichia coli B/r (2006 年当時,国立科学博物館植 物研究部第三研究室萩原博光室長より分譲,IFO12713 株)を塗布し,35∼36℃の暗黒条件下で 1∼2 日間培養 した.そこにイオン交換水を 10 mL 加えて大腸菌の懸 濁液を調製し冷蔵庫(約 5℃)で保存し 1 月以内に使用 し終えた.1.5%素寒天培地(pH 未調整)を調製し,上 記の滅菌シャーレに平板培地として作成し,倒置して冷 蔵庫に 1 週間以上保存し,培地表面を乾燥させておいた. こ れ に, パ ス ツ ー ル ピ ペ ッ ト(Fisherbrand 5 3/4 , Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を用いて大腸 菌懸濁液を 5 滴以上たらし,滅菌したガラスロッドで全 体に塗り広げた.そこに,採集した土壌約 30 mL を入れ, 横方向に振って寒天表面全体に広げ,シャーレを逆さま にして余分な土壌を捨てた.シャーレに蓋をしたのち, 12 時 間 照 明(約 500 Lx)・12 時 間 暗 黒 の 日 長 条 件, 22℃条件下で 1 週間培養した(第一段階培養).各調査 地で採取した土壌試料 1 点を 1 枚のシャーレに撒いたの で,各調査地で 10 枚のシャーレを用いた.  培養開始から 1 週間後,双眼実体顕微鏡の倍率 150 倍 で,各シャーレの培地表面をまんべんなく観察し,細胞 性粘菌の子実体を探した.子実体が見出されたら,新し い爪楊枝の先端で胞子嚢を突き刺して胞子を付着させ, 新しい 1.5%素寒天培地の表面に接種した.そこに大腸 菌懸濁液を 1 滴たらし,第一段階培養と同じ条件で培養 した(第二段階培養).培養開始から 1 週間後,培地上 に生じた子実体を双眼実体顕微鏡で観察し種を同定し た.柄付き針で子実体をスライドガラスに取り,水で封

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じてプレパラートを作成し顕微鏡で観察した.また,粘 性の強い胞子嚢を持つ種の場合は,胞子を分散させるた め,界面活性剤(一般的な台所用合成洗剤を約 4%に希 釈したもの)の水溶液で封じた.各調査地土壌から検出 されたそれぞれの種について,月ごとに各種の出現頻度 を以下の式により求めた .   出現頻度=その種が出現した土壌試料数 / 調査し た総土壌試料数×100  第二段階培養において,マクロシスト形成が観察され た(図 1).マクロシストは,子実体とともに生じる場 合 と そ う で な い 場 合 が あ っ た.Nickerson and Raper (1973a)によれば,マクロシストを形成しやすい株であっ ても,20℃未満ではマクロシスト形成が抑制され子実体 形成が促される.そこで,培養温度を 22℃から 15℃に 変更したところ(第三段階培養),22℃ではマクロシス トのみを生じた株でも子実体が形成された.マクロシス トの種同定は困難なことから,第三段階培養で子実体が 見られた場合にはそこから採取した胞子を,子実体が見 られなかった場合には培地に残っていた粘菌アメーバを 新しい培地に植え継ぎ,15℃で 1 週間培養し生じた子実 体を観察して種を同定した(第四段階培養).表 1 に, 各調査地で得られた種名とその出現頻度の平均値を示し た.秩父神社と上諏訪社で,最も高頻度で出現した種は

Dictyostelium clavatum Hagiwaraであり,茂林寺では 2 番目,鷲宮神社と鹿嶋神社では 3 番目に高頻度で出現し た.本種はこの属の中で,胞子の極付近に顆粒の見られ ないグループに属している.本種の子実体は中型から大 型の約 5mm の大きさで,その先端部が複数の細胞が連 なって棍棒状になり,胞子は長径 5.8−6.3 µm,中程度 の楕円形という特徴を有する(図 2).  他の種では気温との明確な相関は認められなかった 図 1.  Dictyostelium clavatum のマクロシスト. 表 1. 各調査地土壌より出現した種名とその平均出現頻度 学 名 平均出現頻度(%) 茂林寺 鷲宮神社 鹿嶋神社 秩父神社 上諏訪社 Dictyostelium brefeldianum 3.2 4.2 nd 0.8 nd D. clavatum 20.8 30.4 15.5 76.7 74.2 D. delicatum 0.8 5.8 nd 27.5 31.7 D. firmibasis 1.2 1.2 8.3 nd nd D. giganteum 3.2 6.5 3.3 nd nd D. gloeosporm 4.0 nd 0.8 nd nd D. implicatum 3.2 4.2 1.7 4.2 0.8 D. microsporum nd nd 1.7 nd nd D. minutun 2.8 nd 19.8 21.7 11.7 D. mucoroides nd 1.2 nd 2.5 1.7 D. parvisporum nd nd 0.8 nd nd D. polycarpum nd nd 1.7 0.8 nd D. polycephalum 0.8 6.5 0.8 1.7 10.8 D. pseudo-brefeldianum 19.6 31.5 15.0 27.5 17.5 D. purpureum 0.8 2.7 7.5 5.0 0.8 Polysphondylium album 9.2 3.8 11.7 20.0 16.7 P. candidum 2.0 1.5 0.8 3.3 nd P. pallidum 81.2 79.2 40.8 27.5 69.2 P. pseudo-candidum 3.2 2.7 nd 1.7 nd P. tenuissimun 2.0 2.3 nd 4.2 1.7 P. violaceum 8.0 11.9 3.3 22.5 13.3

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が,本種は全ての調査地で,冬から春に多く出現する傾 向が見られた(図 3,4).本種は最初にネパールで発見 され,国内ではこれまで北海道の山地と本州の高山で見 出されている(Hagiwara 2004).これらの知見および本 研究で観察された季節変化から,本種は低温性と考えら れる.  第二段階培養で得られたマクロシストの大半は,子実 体の形態的特徴から D. brefeldianum 群(萩原 1995)と 判断された.有性生殖であるマクロシスト形成が単一の 胞子嚢より得られた多胞子の培養で生じたことは,本種 がホモタリックであることを示している.この形質は, D. brefeldianum群の中では D. clavatum に特徴的なもの であることから(Hagiwara 1989, 2004),本種も D. cla-vatumと同定し,同種のマクロシストの月別出現頻度も 図 3 と 4 に示した.Dictyostelium brefeldianum 群以外の 種 で は,D. minutum Raper と Polysphondylium sp. の マ クロシストが観察された.各調査地点の D. clavatum と それ以外の種のマクロシストの平均出現頻度は表 2 の通 り,D. clavatum で最も高かった.子実体と同様に,D. clavatumのマクロシストも,冬から春に生じる傾向が 見られた.そして,5ヵ所の調査地のすべてで類似のパ ターンが見られた.  マクロシストのホモタリズムに関する研究は,これま で 主 に D. mucoroides Dm7 株 を 用 い て 行 わ れ て き た (Raper 1984; Amagai and Maeda 1992; O day and Keszei 2012).Dm7 株は,Filosa (1962)によって分離され, マクロシスト形成株として報告されたものである. Mohri et al. (2018)は,形態学的特徴と分子系統解析に 基づき,Dm7 株を D. clavatum と同定した.これらの ことは,本研究で分離された D. clavatum がマクロシス トを形成したことと矛盾しない.

 Nickerson and Raper (1973a)は,Dm7 株などを用い てマクロシスト形成が抑制され子実体形成が促進される 環境条件を調べた.その結果,光照射,20℃以下の温度 条件,リン酸緩衝液を含む栄養培地,そして乾燥状態が, 図 3.  茂林寺と鷲宮神社における 2015 年から 2017 年にかけての Dictyostelium clavatum の子実体とマクロシストの出現頻 度と月平均気温との関係. 図 4.  鹿嶋神社,秩父神社および上諏訪社における 2017 年から 2018 年にかけての Dictyostelium clavatum の子実体とマ クロシストの出現頻度と月平均気温との関係. 図 2.  Dictyostelium clavatum.    a:子実体の柄の先端.b:胞子.

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それぞれマクロシスト形成を抑制することを報告した. 本研究で分離された D. clavatum マクロシスト形成株 も,低温(15℃)で子実体形成が促進された.本研究で 対象とした調査地は,低温となる冬季には林床が乾燥し やすく,マクロシスト形成株の粘菌アメーバでも子実体 形成をしやすいと考えられる.そのため,野外から採集 されて直ちに 22℃ (高温)で培養された場合であっても, 子実体を生じたと考えられる.その後,同定のためにそ の胞子を分離し,再び 22℃で培養した場合には,マク ロシストを形成したと考えられる.秩父神社と上諏訪社 においては,春以降も D. clavatum の子実体の出現頻度 が比較的高かったが,マクロシストの出現頻度は他の調 査地と同様に減少した(図 3,4).上記のように考える と,低温でない時期は,マクロシスト形成株が第一段階 培養からマクロシスト形成をし,子実体を形成しなかっ たため,分離されなかった可能性がある.つまり,図 3 と 4 のマクロシストの出現頻度は,検出されなかった数 値を隠している不完全なデータであると考えられる.  Filosa & Chan (1972)は,それまでにない高い割合 (50%)でマクロシスト形成株を分離したが,それは粘 菌アメーバを水に浸したためであり,分離に使われた寒 天培地上でマクロシストを形成したのは分離した 35 の マクロシスト形成株のうちの 3 株だけであった.細胞性 粘菌の一般的な分離方法では,土壌を滅菌水に十分に懸 濁 し て 培 地 に 接 種 す る の で(Raper 1984; Hagiwara 1989),土壌にいた粘菌アメーバや胞子は吸水した状態 で培養される.その影響で子実体を形成せず,マクロシ ストが形成されても,砂泥の粒子と区別しづらく分離は 困難である.今回,マクロシスト形成株が高頻度で分離 された理由は,土壌を懸濁液にすることなく接種する方 法を採用したことによる可能性が考えられる.

 Nickerson and Raper (1973b)は,Dm7 株を用いてマ クロシストの発芽条件を調べ,暗黒下では 2.5∼3ヵ月で, 照明下では 1 週間で 80∼90%が発芽することを報告し た.また,若いマクロシストは 15℃,古いマクロシス トは 22.5℃が発芽適温であるとした.Abe and Maeda (1986)も,19∼22℃が発芽誘導には効果的なことを報 告した.これらの知見に基づくと,本研究で対象とした 調査地土壌より形成された D. clavatum のマクロシスト は,現地では長期の休眠の後,平均気温が 20℃程度ま で低下する秋季以降に発芽を開始すると推察される.本 研究で検出された D. clavatum は,調査地において主に 冬季に増殖すると同時にマクロシストも形成して,夏季 の高温や他の種との競争を休眠により避け,秋季以降に 再び増殖を開始すると考えられる.すなわち, D. clava-tumは有性生殖構造であるマクロシストに関連した季節 性のある生活環も持つことが示唆される.  本研究では,すべての月の土壌試料を同一の温度で培 養したが,野外と同じ温度で培養した場合には異なる結 果となる可能性がある.関連して,マクロシストの発芽 が誘導される温度条件の変化についても,より詳細な検 討が必要であろう.ともに今後の課題としたい. 謝  辞  これまでの研究において数多くのご指導,ご助言をい ただけた国立科学博物館植物研究部の元第三研究室長で あり名誉研究員の萩原博光博士,そして,特に分類に関 しての助言をいただけた和歌山県立自然博物館の川上新 一博士に,厚くお礼申し上げます. 摘  要  南関東から南東北の 5ヵ所の社寺林で,それぞれ 1∼2 年間かけて細胞性粘菌の調査を行い,Dictyostelium cla-vatum の出現頻度とマクロシスト形成の季節性を見いだ した.本種は冬から春にかけて増殖し,同時にマクロシ ストを形成して秋まで休眠するものと考えられた. 引用文献

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mu-coroides. Microbiology 132: 2787−2791. 表 2. 各調査地土壌における Dictyostelium clavatum とそれ以外の分類群のマクロシストの平均出現頻度 分類群 平均出現頻度(%) 茂林寺 鷲宮神社 鹿嶋神社 秩父神社 上諏訪社 D. clavatum 10.4 20.8 7.5 16.7 13.3 D. minutum 0 0 5.0 0 0 Polysphondylium属 1.2 2.3 0 0 0

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参照

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