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コミュニケーション学の「知識」と「実践」の「統合」を目指して : ─ 聴く力を活かした正課外教育「ピア・サポート活動」を通して ─(III 授業と学生支援 - そのさまざまな取り組み -)

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─ 聴く力を活かした正課外教育「ピア・サポート活動」を通して ─

穐田 照子

キーワード:コミュニケーション、聴く力、ピア・サポート、正課外教育

概要

 新入生に「コミュニケーションとは何か」と訊くと、しばしば「話し合い」という答えが 返ってくる。しかし、話し合いは聴き手がいるからこそ成り立つもので、視点を変えれば 「話し合い」は「聴き合い」でもある。コミュニケーションは聴き手と話し手が共通の「意 味を創り上げる」ために、50% ずつの責任を持って行なうべき協働作業である。  言葉の「意味」は、言葉そのものに内在するものではなく、「聴き手」が受信した音声を 基に「創り上げる」ものである。聴き手が心の中でどのような意味を構築するかの選択肢 は、話し手にあるのではなく、聴き手の側にあり、こういう意味だと聴き手が決めるもの に他ならない。従って、コミュニケーションにおいて、中心的な役割を演じるのは聴き手 であり、聴き手によって大きく左右されるのがコミュニケーション活動である。だが、日 本では長い間音声言語教育は軽視され、とりわけ「きくこと」に関しての指導は蔑にされ てきた。「きく力」は「話す力」や「書く力」と同様、自然に育つのではなく、意識的・計画 的な学習の継続が必要であることが、様々な実態調査によって明らかになっている。  以上のような知見のもと、本学では「きく力」を涵養するためのコミュニケーション専 攻科目を設けている。知識に裏付けされた技能の習得を重視し、実験や実習を取り入れた 参加型の授業であるが、正課内授業だけでは「実践」のための場や時間が不足しがちであ る。そこで、授業で習得した「きく力」の知識と実践の「統合」を目指した正課外教育とし て導入したのが、「ピア・サポート」活動である。本稿は、正課教育の概要、正課外教育 の導入過程とその活動内容、およびその活動の効果分析についての報告である。

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はじめに

 私語が多い、携帯電話などを頻繁に使用し聴くべき時に話が聴けない、人の話を突然遮 る、ひたすら自分が次に何を発言したいかだけを考え人の意見に耳を傾けない-これらは 近年教育現場で頻繁に耳にする学生たちの聴く姿勢についての特徴である。  元来「日本人は察しの良い民族である」(金田一 , 2002)。「気配り」や「思いやり」など、 他人への気遣いに基づいた言語コミュニケーション・スタイルは、少なくとも対人関係に おいては、日本人を良い聴き手にしてきたはずである。しかし、近年の情報手段の急速な 発達などにより、対人コミュニケーションの機会が著しく減少し、若者の聴く力が確実に 低下してきている。  人は聴くことによって学ぶことができ、人の心を思いやることができる。その目的を十 分に果たすためには、コミュニケーション活動を、聴き手と話し手が情報を共有するため に 50% ずつの責任を持つ協働作業として、行わなければならない。これまで日本では教 育現場においても音声言語教育は軽視され、とりわけ「きくこと」についての教育は蔑に されてきた。理由として、1)「きくこと」は誰でもできる当たり前の受け身行為と見なさ れてきたこと、2)教える側が「きく力」を科学的に教えるための指導や訓練を受けていな いために、具体的な指導方法が分からないこと、3)教材がないこと、などが考えられよ う。しかし、「きく力」は「話す力」や「書く力」と同様、自然に育つのではなく、意識的・ 計画的な学習の継続が必要であることが、様々な実態調査によって明らかになっている。 以上のような知見のもと、2006 年より「きく力」を涵養するためのコミュニケーション専 攻科目を、CLP(Certified Listening Professional)1資格所得の際の経験なども踏まえ担当

してきた。本稿では、正課の特徴、及び正課で習得した「きく力」の理論と実践の「統合」 を目指して導入した「ピア・サポート」活動について、その導入経緯と活動の内容、そし て活動の効果分析について報告する。

1.「話を聴かない・聴けない」理由

 若者の聴く力がなぜ低下してきたのか改めて考えてみたい。前述したように、第一の理 由は、近年の急速な情報機器の発達によりコミュニケーション・スタイルが変化してきた ことであろう。パソコンやスマート・ディバイスで育ってきた若者たちは、それらを使っ て相手の都合を考えることなく自分の好きな時に情報を発信し、好きな時に好きな方法で 返事をしたり、情報を入手する。こういった方法での情報交換に慣れてしまった若者たち

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は、面と向き合っての会話の場でも同様のことをしてしまう。自分の言いたいことがあれ ば、相手の話を途中であっても遮り、極端な時には相手の話を奪い取り自分で結論づけて しまう。そして、話し相手が目の前にいるにもかかわらず、相手の心の動きを表す視線や 顔の表情などの非言語サインには全く注意を払わず、自分がやりたいことをしながら話し を聞く。当然相手は、しっかり自分の話を聴いてもらっているとは思えないし、本人もい い加減な気持ちで話を聴いているから、対人コミュニケーションの目的である話し手と聴 き手の間の情報の共有は殆どできない。  第二の理由として、教育現場での音声言語学習の機会が少なく、聴くことに関する知識 や重要性についての認識の欠如が考えられる。筆者(2009)が 2005 年に本学の 1 年生から 4 年生までの 177 人を対象に行った調査では、「きくことについて学んだことがある」と答 えたのは、わずか 3 パーセントだった。高橋(1998)が小・中・高・大学の教員と共に 1994 年から 1995 年の 2 年間にわたって行った調査では、「きく力」は思考力と深く結び付 いており、意図的、計画的な学習の継続が必要であることが明らかにされている。また、 インホフとジャニュシク(Imhof & Janusik, 2006)は、個人の持つ「聴く」の概念(「聴くこ と」とは自分にとって何なのか)が、個人の能力やコンテクストと共に、その人の聴く態 度に影響を及ぼし、その結果、聴くことで得られる質的・量的「成果」に大きな差異をも たらすと述べている。つまり、これらの研究結果は、「聴く力」は自然に育つものではな く、年齢に応じた家庭での指導や学校での計画的な学習が必要であることを明らかにして いる。  日本では小さい頃から「聴くこと」は「人が話している時には黙って聴きなさい」と、守 り従わなければならない規範や道徳に関連付けた躾のようなかたちで教育が行われてき た。しかし、私たちは道徳的な行為だから「聴く」のではない。「聴くこと」によって学び、 他者との良好な関係を築き、悩み苦しむ人を支え、自分の楽しみや心の安らぎが得られる など、多くのメリットをもたらすから「聴く」のである。「聴く」に関する教育は、こうし たコミュニケーション学的視点から行われることが求められる。  第三の理由は、近年自己顕示欲を満たすかのように人を制して発言することを良しとす る風潮が目立っていることである。テレビ討論等でも著名人といわれる人たちまで大声を 張り上げて人の話を遮ったり、相手や司会者の言うことを聴かずに勝手に話し続ける場面 をよく見かける。近年よく耳にする「モンスター・ペアレント」や「モンスター・コン シューマー」も、このような行為が極端に自己中心的且つ感情的に発現されたものと言え よう。橋本(1996)は日本社会全体が「話すことはできても聴くことが不自由になる『ウェ ルニケ失語』症候群に陥っている(p.64)」と述べている。  日常生活の中で、人がコミュニケーションの 4 大基礎要素、「読む」「書く」「きく」「話

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す」のどの行為に最も多くの時間を割いているかについて複数の研究がある。それらの中 で最も古い 1930 年にランキン(Rankin)が行った調査によると、「きく」が最も長く、そ の割合は 42% だった。筆者も 2008 年にランキンと同様の方法で調査を試みたが、結果は やはり「きく」が最も長く、36% であった(穐田 , 2009)。80 年以上たっても、私たちは 眠っている時間を除けば 1 日の約 4 割を「きく」ことに費やしているという結果は興味深 いが、そうであればなおさら聴く力を涵養することが、総合的なコミュニケーション能力 を伸ばす上で欠かせないことになる。では、聴く力を伸ばすためにどのような指導を行っ ているか。6 年目を迎え今なお試行錯誤が続いているが、特徴的な部分を紹介してみたい。

2.聴く力を涵養するプログラム ─ その特色

2 - 1 「きくこと」の学習モデル  「聴くこと」は、複雑且つ多様な技能を必要とする総合的な能力である。その能力の段 階的な涵養方法を示したのが「きくことの学習モデル」(図 1)である。「い・ち・ぎ・じっ せん学習モデル」と筆者が名付けたこのモデルの「い」は聴こうとする「意識」、「ち」は「知 識」、「ぎ」は「技能」、「じっせん」は「実践」を、それぞれ意味している。「一技実践」とも 読めるこの学習モデルは、コミュニケーションを支える「重要な一技能」である「きく力」 は、時間をかけ「実践」を積み重ねていって初めて習得できる力であるという意味も込め て作成したものである。  このモデルで重要なことは、「聴く力」は、学習モデルを構成している 4 つの要素の「和」 ではなく、「積」だということである。例えば、知識や技能もあり、実践する気があって も、その時に聴く気が無ければ、聴く力はゼロになってしまう。反対に、聴く意思や知 図 1 きくことの学習モデル「い・ち・ぎ・じっせんモデル」 実践 (じっせん) 技能(ぎ) 知識(ちしき) 聴こうとする意識(い) 聴く力=(い)×(ち)×(ぎ)×(じっせん)

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識・技能があっても、実践で活かせなければ、同じように聴く力はゼロである。つまり、 モデルの 4 つの構成要素は相互に影響し合い、どの 1 つが欠けても聴く力は失われてしま う。本学のシラバスが、これら 4 要素で構成されているのは、こうした理由によるもので ある。 2 - 2 「実践」強化の試み  コミュニケーション学においては、言うまでもなく、実践力が重要である。学生は習得 した知識や技能を教室外で実践しているのか、しているのであればどのような効果を体験 し、どのような問題に直面しているのか、教員にはその実態を知る手だてが殆どない。そ こで授業に取り入れたのが、リスニング・ジャーナルである。数種の自己評価ツールを 使って自身の聴く行為の長所と短所を洗い出し、その上で短所を改善するためのアクショ ン・プランを立てる。その実行過程をジャーナルに記し、最後に成果の有無・種類等を評 価する。最初は、時間のかかる面倒くさい課題だと言って嫌がる学生もいるが、そのうち かなりの学生の中に変化が起こってくる。  ─ 「できて当たり前と思っていた『聴くこと』が、今、本当に難しいと感じている。」  ─ 「コミュニケーションが苦手だと感じていたが、それは『話さなければ…』と常に 思っていたからで、先ずは『聴くことに集中しよう』と決めてからは、人とのコミュ ニケーションがあまり苦痛でなくなった。」  ─ 「就職活動で内定が決まった会社の人から『きく態度が立派だった』と言われた。自 分では気づいていなかったが、内定がもらえたのは、これまで培った聴く力が大き かったと思う。」  ─ 「聴く力を意識的に高めようとすることで、授業の理解度が飛躍的に向上している ことを実感している。聴く力についてもっと理解を深めたいと思う。」  こうした振り返りのレポートから、ジャーナルを付けることによりこれまで無意識的に 行ってきた聴く行為を客観的に見詰め、広範な視点から「気付き」の機会を得て、学生の 気持ちの中に「聴くこと」に対する意識改革が起こり、そのことが聴く態度にも、その質 にも明らかな変化を起こしたと考えられる。  しかしながら、客観的テストとは異なり、主観的記述が中心のジャーナルをどう評価す るかはなかなか難しい。そこで、利用しているのがルーブリックスである。ルーブリック スとは、進行中の学習課題を支援し形成的フィードバックを提供するために、課題の達成 度を示す数的尺度と課題の各構成部分の達成度を判断するための規準を、マトリクス形式 で記述した評価指標である(Stevens et al, 2005)。筆者のクラスでは、ルーブリクス評価

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の最高基準に関しては筆者が作成するが、それ以下の規準については学生も参加して作成 する。こうして成績評価を可視化することにより、教員にとっては採点がし易くなり、公 平性や平等性を担保することにも繋がる。学生にとっても、成績評価基準作りに参加する ことにより、ジャーナルを通しての学びの目標がより明確になり、作成意欲にも繋がって いるようである。

3.正課教育に正課外教育を加える

3 - 1 「リスニング研究会」の設立─コミュニケーション学の知識と実践の統合を目指して  コミュニケーション学専攻科目の授業の中で、必ずしも実践の時間が十分にとれている とは言えない。その理由の 1 つに、履修者が非常に多いことが挙げられる。例年新入生の 約半分の 1000 人以上がリベラルアーツ学群(LA)に入学してくる。そのうち 200 人以上 がメジャー(主専攻)、またはマイナー(副専攻)でコミュニケーション学を専攻する。こ れは LA 学群の 37 専攻プログラムの中で最多の学生数である。他学群からの履修生も加 わり、100 - 200 人規模のクラスは珍しくない。多様な価値観や信条を持つ仲間たちと共 に学べる学習環境は、コミュニケーション学にとっては理想的である。だが、コミュニ ケーション学を学ぶということは、単に言語の成り立ちや機能を知識として学ぶだけでは なく、言語・非言語の特性を知り、情報を伝達する側、される側の心の動きを感じとり、 適切な意思の疎通に必要な技能を身につけることである。技能を習得するためには、実験 や実習を取り入れた参加型の授業が望ましく、そうした学習環境を必要とする学びには、 当然のことながら講義中心の授業に比べ、はるかに多くの時間を必要とする。時間の関係 で不足しがちな「実践」を、正課外活動として行おうとゼミ生と共に立ち上げたのが、リ スニング研究会である。 3 - 2 主なリスニング研究会(L 研)の目的と活動  L 研活動の目的は、「きく力」を研究テーマにしている筆者のゼミ生が中心となってい るため、1)毎週定例会を開き、「聴くこと」を中心にさまざまなコミュニケーション場面 を想定した演習を行うこと、2)学んだ知識・技能を活かすためのイベントを計画し、実 行し、省察する-これを繰り返すことによって「学び」を「定着」させていくことである。  その他、毎年ゼミ論・卒論合同発表会合宿を開催している。この発表会には、卒業生や 他ゼミ生も招待する。新ゼミ生となる 2 年生も、ここで「ゼミ・デビュー」を果たす。昨 年も 40 人近い在校生と卒業生が参加し、異年齢交流を通じて学び合う会が開かれた。こ

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のような社会的経験を重ねた元ゼミ生と現ゼミ生が一堂に会す機会には、日頃学内では見 られないようなことも起こる。  昨年、懇親会が開かれていた折に、たまたま筆者の近くのドアが開き昼食が運ばれてき た。筆者が立ち上がり配膳の用意をしようとしたところ、後ろの方から大きな声が飛ん だ。「あなたたち何をやっているの!先生に食事を配ってもらっていいの!」卒業生の一 言で慌てた在校生が一斉に立ち上がり、筆者に代わって配膳を始めた。ゼミという小さな 学び舎を共にした異年齢ピア(仲間)からの意外な学びは、きっと現ゼミ生の就職後に活 かされていくのだろう。  L 研の活動基本方針は、ピア・サポート(「ピア」は「仲間」、「サポート」は「支援」の意) である。ピア・サポート(PS)に関しての詳細は後述するが、日本ピア・サポート学会で 研究発表を行うことも L 研の目標である。昨年は、4 年生 2 人と筆者が共同で研究発表を 行った。学部生が発表を行ったのは本学だけだったので、理事から今後の活動などについ て多くのアドバイスをもらうことができ、学生にとっては大変収穫の多い経験になった。 下に記したのは、学生の報告書の一部である。 研究発表は、すでに準備段階から全てが貴重な体験だった。発表の準備をするう ちにピア・サポートに対する理解が一段と深まり、自分たちの活動を考え直す機 会になった。事前にいろいろな人から学会の雰囲気を学生のうちに味わうのはか けがえのない財産になると言われた。その通りだった。素晴らしい学びの連続 だった。研究発表はもちろん、親睦会での先生方との何気ない会話も自分たちに とっては大きな刺激になった。学習意欲もさらにかき立てられ、学会で発表した という経験が大きな自信にもなった。今後も、L 研メンバーの学会発表を是非続 けていって欲しい。

4.L 研へのピア・サポート活動の導入

4 - 1 ピア・サポート導入の経緯  ここで、L 研が PS を導入した経緯を紹介したい。4 年前ゼミ生の一人が「これまで培っ てきた聴く力を、自分たちだけでなく仲間のためにも役立てられないか」と、「聴く力」を 活用した PS 活動について提言した。彼は、1 年から 4 年まで授業やゼミ論、卒論を通し 一貫して「聴くこと」を学びのテーマにし、ゼミの牽引役となって活躍してきた学生であ る。「かつて僕はプロの不登校児」だったと、小・中学校の 5 年半の不登校経験をゼミで も開示し、「聴いてもらえる」ことで立ち直った自分の体験から、「聴く力」を誰よりも信 じている学生だった。当時、L 研はまだ正式には LA 学会で承認されていなかった。活動

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の方向性を模索していた時期だったので、ゼミ生たちは PS 活動についての情報を集め始 めた。筆者も、提言した学生と共に彼の出身高校を訪れ、PS の訓練授業を参観させても らった。日本ピア・サポート学会の年次大会にも出席し、本学への導入の可能性を探っ た。実際に PS 活動経験者をゲストに招いて、活動のメリットや問題点について話を聴く 機会も設けた。こうした活動を暫く続けた結果、L 研の基盤活動は PS にしようという決 定に至った。  ところが、活動はスタートからすぐに暗礁に乗り上げた。実際の PS 活動と同じように 学生が興味を示していたのは、第三者である日本ピア・サポート学会のピア・サポーター 認定資格を取得することだった。学生は自分たちの培ってきたコミュニケーション力を第 三者に認められたい、そして自信を持ってピア・サポーターとして新しい活動を始めた い、そんな気持であった。だが、その資格取得には、学会の認定講師による研修会への参 加が義務付けられていた。本学には筆者を含め、そのような講師資格をもった者はいな い。30 時間のプログラムを行うために外部講師を招聘するとなれば、謝礼はどうしたら いいか。途方に暮れている余裕もなく、とにかく資金集めに奔走した。色々と力を尽くし てみたが光は一向に見えず万策尽きて諦めかけていた。その時、本学の e ラーニング、 「さくらーにんぐ」を担当する e ラーニング支援室が、次のような案とともに、講師に払 う謝金の援助を申し出てくれた。その案とは、e ラーニング支援室を通し桜美林大学が学 会認定の外部講師を招聘し、ゼミ生が研修を受ける。その研修をビデオに収め、ピア・サ ポーター認定資格取得のための研修教材を作成する。完成した教材を本学の「さくらーに んぐ」(e ラーニング・システム)にアップロードし、資格取得を希望する学生は研修合宿 に出席しなくても、その e ラーニングを受けることで、ピア・サポーターの受験資格を得 られるようにする」というものであった。正に「意のあるところに道開く」。ゼミ生にとっ ても筆者にとっても、これ以上有り難いオファーはなかった。 4 - 2 主なピア・サポート活動  こうして思いがけない支援をうけて誕生した L 研の PS は、現在主に次のような活動を 行っている。 1)L 研カフェ  L 研カフェを導入した主な目的は、不安や辛い思いをしている人がいたら、その人の話 に耳を傾け、肯定的な関心を示し共感的な理解を示すことによって、相手を精神的に支え ることであった。2012 年 7 月に第 1 回を開催したが、始めたばかりのイベントへの外部 参加者は全くなく、ゼミ生だけのさびしいものであった。だが、彼らにとってはお互いの 親睦を深め会う好機となり、L 研カフェの「学生同士の繋がりを育む」というもう 1 つの

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目的を、自ら体感する貴重な機会になったようだ。回を重ねるごとに、徐々に参加者は増 えてきているが、大海の中に一滴の水を注ぐような一ゼミの活動が、全学的に認知される までにはまだまだ時間を要する。今年度は広報活動に力を入れ、SNS を取り込んだり、 「リスニングマ」と名付けたクマさんの L 研ロゴをポスターやチラシに使ったり、ウェブ・ サイトを立ち上げるなどの作業を進めている。  学生たちの「PS イコール相談活動」という L 研設立当時の固定概念は、活動を続けるう ちに変化し、「まずは身近なゼミ生同士で支え合おう。支える方法は幾通りあっても良い。 肩肘張らずに今自分たちにできる方法でやろう」と考えるようになった。彼らの PS の概 念にパラダイム・シフトが起こり、自分たちにできる活動を自由に取り込むようになった。 2)ピア・サポーター認定資格取得のための研修合宿  毎年 3 泊 4 日の研修のための協働生活は、ゼミ生を大きく変える。まず彼らの「聴く態 度」に変化が見られるようになる。彼らは聴くことが「学び」や「人間関係」において如何 に重要かは十分理解しているはずだが、時には携帯をいじったり、アルバイトなどの疲れ を引きずり、集中できない者もいる。しかし、時がたつにつれ、話の相手には頷きや相槌 などの非言語サインでしっかりと反応し、講師に対しても質問やコメントなどを積極的に 行うようになる。昨年、このような変化に真っ先に気付いたのは、4 年生であった。「3 年 生全員のアイコンタクトがすばらしく、びっくりしました。その様子をデジカメでも撮影 しましたから、先生、後で見てください。」  寝食を共にしながら学び合う生活は、ゼミ生に「仲間意識」を育ませ、「ピア」の真の意 味を実感させる好機となる。 3)ミニ・オープン・キャンパス(MOC)  通称 MOC と呼ばれるミニ・オープン・キャンパスは、「学生が主体」という点で、通 常のオープン・キャンパスとは異なる。大学紹介やトーク・ライブを行う学生と共に、L 研も、高校生を対象にした「L 研カフェ」を開いている。入試広報センターの協力を得て、 2012 年 12 月に初めて参加したが、その時の参加者は、高校生 4 人とその保護者だけで あった。その後、メンバーの写真と得意とする相談テーマを書き込んだポスターを貼り出 したり、自分たちの日頃使っているノートの展示コーナーを設けたりと、アンケートの結 果を改善に活かすための努力を続けている。その甲斐あってか、5 回目を迎えた 2013 年 10 月の MOC には、40 人近い参加者があった。今では通常の L 研カフェよりも多くの参 加者が期待でき、アンケートに見る高校生の満足度も高いので、学生は MOC でより強く、 「聴く力」を通しての「自己有用感」を感じているようである。

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4)出前授業  「きくことの科学」という授業では、数年前から課題の 1 つとして、グループ毎に「コ ミュニケーションにおける『聴き手・聴くこと』の大切さを小・中学生に教える模擬授業」 を課している。中途半端にしか分かっていないことを、相手に分かるように説明すること はできない。従って、こういった課題を課すと、学生の一学期間の学習理解度が明確に表 れる。アンパンマンやドラえもんなどをメイン・キャラクターにして紙芝居をするグルー プ、ロール・プレイをするグループ、子供向けビデオを見せながら「なぞかけ」をするグ ループ等学生たちの工夫がこらされている。授業の質にはバラつきがあるものの、創造性 豊かで楽しいワークショップ型の授業が展開される。  筆者は、子育てを含めた長年の海外生活で、幼児期からワークショップ型の授業を通し て、コミュニケーション能力や創造力を育む教育現場を数多く見てきた。日本でもこのよ うなプログラムが必要だと思ってきたが、ようやく 2010 年 5 月、文部科学省にコミュニ ケーション教育推進会議が設置され、2011 年 8 月にコミュニケーション教育の捉え方や その育成、効果的な教育方法などについての会議報告2がなされた。こういった動きが遠 因となっているのか、先ごろ近隣地区で本学の模擬授業やコミュニケーション・ワーク ショップに興味を示す学校が現れてきた。地域社会連携室の協力もあり、今年度は本学生 による「コミュニケーション授業」が、初めて近隣の中学校で行われる。 4 - 3 本学におけるピア・サポート活動の意義  本学の PS 活動を、滝(2001)の分類法に基づき、目的によって①仲間作り支援、②学生 相談支援、③学習支援、④問題解決支援の 4 つに分け、それぞれの活動の意義について述 べたい。 1)「仲間作り支援」としてのピア・サポート  人間関係構築の脆弱さによる孤立の問題は、現代の若者が抱える問題としてもよく指摘 されている。本学の学生も例外ではなく、大学の学習環境に馴染めず、友人関係も築け ず、結局学びへの意欲を失い、不登校になったり、退学に至るケースもある。こうした状況 の背景には、現在の学生の「社会力」の低下があると 門脇(1999)は指摘している。「社会 力」とは、端的に言えば人が人とつながり社会をつくっていく力だが、社会の環境の変化 や情報機器の発達などにより、対面でのコミュニケーションの機会が激減し、人間関係に 必要な適度な距離感を保つことや、相手の気持ちを推し量り適切な対応をすることができ ず、最初から人との関わりを回避したり、ごく表層的な関係しか築けないのである。  このような状況は政府も認識していると見られ、2007 年の文科省言語力育成協力者会 議で配布された資料3には、「人間関係や集団生活に必要な力を育成するために、異年齢

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交流を含めた活動を一層重視すると共に、多様な考えをまとめていけるような力を育成す ることが重要」であり、「ソーシャル・スキルやピア・サポート等、好ましい人間関係や 集団生活に必要なスキルを学ぶ場を適宜設けることが望ましい」と記されている。  コール(Cole, 1999)によれば、学生が悩みを抱えている時、その 8 割が相談相手に友人 を選ぶという。加賀美(2010)も、ピア・サポーターの存在は、学生にとっては身近な相 談資源であると述べている。確かに、教員や保健室は敷居が高いと感じる学生も、同じ学 生であれば相談し易いと感じるだろう。だが、学内に学生主体の相談室を設定しても、学 生はそう簡単には相談に行かない。いくら相手が学生だとはいえ初対面の学生には相談は しづらいだろうし、サポーターの方から積極的に話しかければ、相手によっては違和感を 抱くこともあるだろう。  そこで、ゼミ生は、相談支援以前にまず仲間作りが重要だと考え、「L 研カフェ」とい う「居場所作り」に力を注いでいる。ちょっとしたお菓子や飲み物のある喫茶店のような インフォーマルな雰囲気の中で、「身体ほぐし」と称してまずは趣向を凝らした自己紹介 や体を使ったゲームなどに暫く時間を費やし、参加者同士がお互いに親しく話せるように なってから、準備されたテーマについて自由に話し合いを重ねていく、といったプログラ ムである。学内での人間関係がとぎれがちな学生へは、「とまり木」(サイコ・リトリー ト)、或いは気楽に身をおける「居場所」として利用してもらえればと考えている。暫く止 まり木で羽を休めることを繰り返すうちに、互いにいつしか異学年・異学群生の間の「繋 がり」が創出される、そんなきっかけになればと願っている。  繋がりや居場所創りは、ピア・サポーター自身にとっても、活動を続けていく上で大変 重要な意味を持っている。彼らにとって、所属グループ自体が「居場所化」することで、 落ち着く場であったり、楽しい場になったりする。そのことが、彼らの PS 活動へのモチ ベーション向上に繋がっていくからである(稲永 , 2010)。 2)「相談支援」としてのピア・サポート  L 研の学生同士の相談支援活動はまだ芽を出し始めたばかりの状態であるが、ゼミ生が すでに相談活動で本領を発揮しているのが、前述した MOC である。依然として毎回反省 材料は出てくるが、様々な工夫の積み重ねによって確実に来場者を増やしている。  本学に入学してくる学生の中には、オープン・キャンパスの模擬授業の担当教員との出 会いが本学受験の決め手になったり、受けた授業の科目を入学後の専攻にしたりする者が いる。L 研にもすでに、L 研カフェで話を聴いてもらい本学ヘの入学を決めたという受験 生に学内で会ったというメンバーがいる。今後も桜美林学生との出会いが、高校生の本学 ヘの入学を決めるきっかけとなったり、入学後も学生が相談相手として支援するようなこ とが起きることを期待したい。

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3)「学習支援」としてのピア・サポート  PS 活動における学習支援には、通常新入生のためのオリエンテーションや履修相談な どのように、主として上級生から下級生に対して行われる「縦」につながる活動が多い。 これに対し、現在 L 研が行っているのは、これまで自分たちが学んだコミュニケーショ ン学の理論と技能を実際に活かせる活動を自主的に企画し、仲間と共に実践することに よって学びを定着させていく「横断的」な学習支援活動である。  「学習」と L 研の研究テーマである「聴く」行為との関係については、幾つかの興味深い 研究がある。コナウェイ(Conaway, 1982)は、大学で落第する学生に欠けているのは、読 む力や学ぶ素質ではなく、聴く力である、と述べている。マクデビットら(McDevitte, Sheenaa & McMenamin, 1991)も、それを裏付けるように、大学院や博士課程に進む者に は聴解力の高い学生が多いという報告をしている。 また、インホフ & ジャニュシック (2006)は、聴く力を高めることが学習成果に繋がる理由を、学習と聴く行為に求められ る特性、つまり、「情報を理解し解釈し評価するために、情報を選択し系統立ててまとめ るという思考努力が互いに重なり合っているからだ」(p.82)としている。  こういった研究結果を、2013 年度春学期初めにゼミ生に紹介し、「一学期間をかけてこ れらの研究結果が正しいかどうかを各自で試してみないか」と問いかけた。「その結果、 前学期より例え 0.1 でも成績(GPA)が上がれば、すばらしい。」  秋学期が始まった 9 月、彼らの GPA は前学期に比べ 22 人中 16 人(71%)が上昇してい たことが分かった。個人インタビューでは、「聴くことを意識して授業に出ていた」「集中 していた」「分からないことは積極的に質問した」などと述べた学生が多く、特に GPA の 低い学生の中には「聴くことを意識しただけで GPA が上がるなんてすごい」と単純に驚 きを示す学生もいた。成績を左右する要因は多数あるので、理由を特定することはできな い。だが、学生は少なくとも「聴くこと」と「訊くこと」を意識的に行っていたことは推測 される。  GPA を押し上げたもう 1 つの理由として考えられるのが、ピア・プレッシャーである。 「仲間からの圧力」のことだが、圧力が大き過ぎるとストレスを感じる等マイナス面を生 起させる。だが、今回は、仲間同士が互いに切磋琢磨するポジティブな「空気」が醸成さ れ、成果に結びついたのではないかとも考えられる。 4)「問題解決支援」としてのピア・サポート  L 研は、毎月 1 - 2 回のサポート活動を継続的に行っているため、「何度も連絡をして いるのに返事がない」「活動のスケジュールは全員前もってわかっているのに、他の予定 を優先してしまう」「割り当てられた仕事はやるが、それ以外はしようとしない」「先輩に

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頼りすぎる」など、しばしばゼミ生の間で問題が起こる。しかし、これらは何もしなけれ ば当然起きない問題である。同時に、どのようなグループであっても、問題と反省は、活 動を積み重ねていく分だけ出てくるものである。学生は、時に異なる価値観をぶつけあ い、時に認め合い、win-win の解決の糸口を見つける努力をしながら活動を続けている。 こうした日常の問題解決のための努力を積み重ねることによって、確実に学生たちのコ ミュニケーション能力は培われ、精神的に繋がる仲間を作り、自己有用感や自己肯定感を 培っていくのである。

5.学生に見られる変容

5 - 1 学生の行動変容 1)PS 養成研修が学生に及ぼす効果  ピア・サポーター養成研修合宿を通して心理的教育効果を検証するために、質問紙によ る調査を行った。 ①測定時期と調査対象者  時期は、2012 年 9 月 15 日(初日研修前)および 9 月 18 日(最終日の研修後)の 2 回。対 象は、参加者 14 名(男性 4 名、女性 10 名、平均年齢 21.14)。 ②調査方法  以下の尺度を用い、調査項目は計 59 項目、信頼感尺度のみ 6 件法、それ以外は 5 件法 で評定を求めた。  ・「自己隠蔽尺度」12 項目4  ・「自己肯定意識尺度」5より<自己表明・対人的積極性> 7 項目  ・「他者意識尺度」6より<内的他者意識>に関する 7 項目  ・「協働作業認識尺度」7より<協働効用> 9 項目、<個人志向> 6 項目  ・「信頼感尺度」8より<他者への信頼> 8 項目、<不信> 10 項目 ③分析方法・結果  研修合宿の前後における変化を検証するために、pre テスト・post テストを独立変数、 各測定尺度における因子得点を従属変数とした対応のあるt検定を行った。分析の結果、 「自己隠蔽」、「自己表明・対人積極性」、「内的他者意識」、「協同効用」、「個人志向」にお いて有意な傾向が見られた。「他者への信頼」、「不信」においては、有意な差は認められ なかった(表 1)。

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表 1 各因子得点における平均値、標準偏差および t 検定結果 ④考察  「信頼感尺度」以外の 4 尺度において、実施前後の差に有意な傾向が見られた。この結 果から、ゼミ生は合宿でグループ毎に助け合って協働作業を行い、次第に精神的な距離感 が縮まり、仲間意識が芽生え、自己開示度が高まったと考えられる。そして、仲間ととも に作り上げた目の前の成果を実感し、自己肯定感も高まったのではないだろうか。  他者信頼感尺度の数値に変化が見られなかった要因としては、すでにゼミ生が半年間活 動を共にし、調査以前に信頼感が形成されていたことによる天井効果が考えられる。3 泊 4 日と短期間の合宿では、信頼感には大きな変化が表れにくかった可能性もある。そのた め、今後は pre テストを年度初めに行う等の対応や、長い時間をかけて形成される信頼感 などは、学期もしくは年間を通してのプログラムを計画することが必要である。 5 - 2 研修後の「ふりかえり」レポートで学生が綴る自身の変容  それでは、学生自身は研修の結果と成果をどのように感じていたのだろうか。3 年生 (PS 活動 1 年目)が書いた「ふりかえり」のレポートには、概ね次のようなことが記されて いる。「日常生活における思い込みや先入観による危険性を再認識できた」「自分だけで頑 張らずに、人の力を借りてもいいのだと思えるようになった」「自分に対する理解が深まっ た」「『思いやり』や『助け合うこと』の大切さを痛感した」「信頼感と安心感の心地良さを体 感できた」「仲間意識が芽生えた」など。

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 一方、4 年生(PS 活動 2 年目)は、「相手の良さを見つけられるようになった」「相手の 立場に立って考えられるようになった」「自分の考えだけで物事を決めつけなくなった」 「相手が伝えたいと思っている意図を理解しようと努力するようになった」「仲間意識・信 頼・安心を肌で感じている」「会話の中での『沈黙』が気にならなくなった。傾聴できるよ うになった効果か?」などとコメントしている。  学年毎のコメントを比較すると、3 年生のコメントには「認識」や「再認識」、「気付き」 といった記載と共に、新しい知識を得たり、すでに学んだ知識についてもワークショップ 形式の研修を通して理解が深まったことを示唆しているものが多い。それに対し、4 年生 の記載からは、これまでの L 研活動を通して、知識がすでに実践で活かされる力になり 始めていることが窺える。こうした違いは、聴く力が、意識的、計画的な学習と訓練の継 続によって涵養できることを裏付けていると考えられる。 5 - 3 4 年生が語る就職活動(就活)における PS 活動の効用  4 年生は、PS 活動をどのように就活に活用してきたのか。以下のコメントは、2013 年 夏合宿時に開催した「就活体験を話す会」の議事録に記されていたものである。 ・ PS 研修で行ったようなグループ・ワークを行う企業があった。グループ面接時に意見 のぶつかり合いや個人による話の独占などが起こったが、自分は仲介的な立場に立ち、 他の人に意見を求め、チーム・ワークとして一緒にやっていこうという意思表示をした。 ・ 今まで自分にはサブ的ポジションがあっていると思っていたが、L 研リーダーになって からは意識が変わり、リーダーのポジションを前向きに捉えられるようになった。メン バーはリーダーの姿勢を映す鏡で、リーダーの力量や対応如何でメンバーの活動に変化 が生じてくるのが実感できる。優れたリーダーになりたいと思うようになった。何事に もチャンレンジし、将来は人を引っ張っていける立場を目指したい。面接でも、そのこ とを明確に伝えることができた。 ・ 「コミュニケーション=話すこと」と思われがちだが、「聴くこと」も大変重要で、それ は仕事で相手の興味や要望を聴き出す時に大変役に立つ、とアピールした。 ・ 企業が PS について興味を示さない場合もあるが、エントリー・シートに「頑張っている ことはゼミ」と書いておけば、必ず普段行っている PS について話をするチャンスがあ る。面接では、特に仕事上での仲間意識や協働の重要性について話をすると良いと思う。  因みに、2013 年度の卒論生は 7 人。全員が 9 月までに就職先が内定した。「聴くこと」 に関連したテーマで卒論を書き、実践を通して培った聴く力を活かして PS 活動を行って きた実績が、ある程度評価されたのではないかと推測される。

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6.今後の課題と展望

 以上のように、「ささやかな役立ち感と自己肯定感を育み」(春日井 , 2009:136)、学生 のポジティブな行動変容を促すピア・サポート活動も、他の活動と同様、「始めるのは易 く、続けるのは難し」と言われている。持続可能な活動にしていくためには、どのような 努力が必要なのかを考えてみる。 1)学生と教職員のコラボレーション強化  一ゼミが始めた L 研活動を今日まで続けてこられたのは、本学職員の協力に負うとこ ろが誠に大きい。ピア・サポーター養成研修のための学会認定講師の謝礼を捻出してくれ たのは e ラーニング支援室であり、L 研を MOC に導いてくれたのは入試広報センターで ある。そして、中学校での「コミュニケーション出前授業」の実現に向けて尽力してくれ たのは地域社会連携室である。一方で、こうした学生の自主的な相互支援活動は、事務組 織や大学にとっても、有効な社会的資源になっているとも考えられる。他方、学生にとっ ても、活動を通じ職員とのつながりを持つことで、人とのかかわり方や交渉のスキルを体 験的に学ぶことができ、ひいてはその体験を自身のキャリア形成や進路選択に活用してい くこともできる。PS 活動で培われたさまざまな人間関係は、いろいろな意味で学生の成 長を促す。その成長を今後も促し支えるために、学生、職員、教員のコラボレーションが 一層強化されることが望まれる。 2)合宿、及び e ラーニングによるピア・サポーター養成講座の単位化  コミュニケーション・スキルを基礎とするピア・サポーター養成研修をどうしたらいい か、ということが、PS 導入を検討している大学ではよく問題になると聞く。幸いなこと に、本学には「コミュニケーション学専攻」があり、すでに日本 PS 学会認定の指導者資 格を取得した教員もいる。加えて、来年度から「さくらーにんぐ」のビデオ研修も可能に なる。本学の研修を支える教育資源は豊富に存在している。  ピア・サポーター養成研修の有効性は、すでに本学の場合をはじめ、岡田(2010)や下 岡他(2011)らの研究でも明らかにされている。自己理解・他者理解を深め、自己肯定感 や対人積極性、仲間意識や協働効用を高める PS 研修は、大学だけでなく、企業、組織、 地域などにおける対人支援活動にも有効である。かつてゼミ生がそうであったように、資 格を取得することにより、学生には新たな自信と責任感が芽生え、より効果的な活動が期 待できるようになる。学内に相互支援活動の輪を広げていくためにも、資格取得のための 研修の単位化が望まれる。

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3)PS 活動を単位取得可能なサービス・ラーニング科目に  「出前授業」のように、学生の専門知識をフルに使い、教材作りに多くの時間と労力を 要する PS 活動は、単位認定に値する。だが、近隣校で一定期間続けて授業をさせてもら える状況を創出するためには、まだまだ多くの時間を要する。そこで、立命館大学が行っ ているように、様々な支援活動を幾つか組み合わせて単位取得を可能にするという方法も 考えられる。大学も全入時代に入り、多様な価値観を持つ学生が入学してくる。それぞれ の価値観を認め合い、「誰かのために何かできれば」という善意の助け合い活動を推し進 めようとする学生には、大学の何らかのリウォーディングな対応も必要ではないかと思わ れる。

1 International Listening Association より取得

2 文部科学省(2011)「子どもたちのコミュニケーション能力を育むために-「話し合う・創る・表現す

る」ワークショップヘの取組-」『コミュニケーション教育推進会議審議経過報告』

3 文部科学省(2007)第 8 回 言語力育成協力者会議 配布資料

4 ラーソン & チャステイン(Larson & Chastain, 1990)の「Self-Concealment Scale」

を基に河野(2000a)が作成した「日本語版自己隠蔽尺度」を使用した。 5 「自己肯定意識尺度」(平石 , 1990b)は、対自己領域と対他者領域に分けられ、本研究では、対他者 領域の「自己表明・対人的積極性」(7 項目)を使用した。 6 「他者意識尺度」(辻 , 1993)は、「内的他者意識」「外的他者意識」「空想的他者意識」の 3 つの下位尺度 から構成され、本研究では、「内的他者意識」(7 項目)を使用した。 7 「協同作業認識尺度」(長濱・安永・関田・甲田 , 2009)は、「協同効用」「個人志向「互恵懸念」の 3 因 子 18 項目から成り、本研究では、「協同効用」(9 項目)および「個人志向」(6 項目)を使用した。 8 「信頼感尺度」(天貝 , 1997a)は、「自分への信頼」「他人への信頼」「不信」の 3 次元 24 項目に対して 6 件法で測定する。本研究では、「他者への信頼」(8 項目)および「不信」(10 項目)を使用した。 参考資料 穐田照子(2009)「聞く・聴く・訊く:3 つの『きく力』を育む取り組み」『桜美林 Today, 9』 97-112. 天貝由美子(1997a)「成人期から老年期にわたる信頼感の発達─家族及び友人からのサポート感の影響」 『教育心理学 , 45』79-86. Cole, T.(2002).(バーンズ亀山 & 矢部文訳)『ピア・サポート実践マニュアル』川島書店 .

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