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文学教材の研究 : 村上春樹「七番目の男」の言語表現

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Academic year: 2021

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はじめに

  言 語 活 動 の 充 実 は、 各 教 科 を 貫 く 重 要 な 視 点 で あ る。 文 部 科 学 省 は 平 成 二 〇 年 三 月、 小・ 中 学 校 の 学 習 指 導 要 領 を、 平 成 二 一 年 三 月、 高 等 学 校・ 特 別 支 援 学 校 の 学 習 指 導 要 領 を 改 訂 し た。 国 語 科 に 関 し て は、 小 学 校 は 平 成 二 三 年 四 月 か ら、 中 学 校 は 平 成 二 四 年 四 月 か ら、 高 等 学 校は平成二五年入学生から実施された。国語科の授業時数は小学校 (一 単位時間四十五分) で三〇六 (一年) 三一五 (二年) 二四五 (三 ・ 四年) 一 七 五( 五 ・ 六 年 )、 中 学 校( 一 単 位 時 間 五 十 分 ) で 一 四 〇( 一 ・ 二 年 ) 一〇五 (三年) となっている。知 ・ 徳 ・ 体のバランスのとれた 「生きる力」 を育むという理念のもと、知能や技能の習得とともに思考力 ・ 判断力 ・ 表 現 力 な ど の 育 成 を 重 視 し て い る。 国 語 科 は、 言 語 力 育 成 の 基 盤 と な る教科であることから、 言語活動の充実を特に心がけねばならない。 「話 す こ と・ 聞 く こ と 」、 「 書 く こ と 」 及 び「 読 む こ と 」 の 各 領 域 に お け る 言 語 活 動 を バ ラ ン ス よ く 育 成 す る こ と が 大 切 で あ る。 本 稿 で は、 文 学 教 材 と し て、 村 上 春 樹「 七 番 目 の 男 」 に お け る 言 語 表 現 を 中 心 に 取 り 上げ、国語科における言語活動の教材研究について論述する。

文学教材の研究

 

―村上春樹

「七番目の男」

の言語表現―

荻原桂子       九州女子大学人間科学部人間発達学科人間基礎学専攻 北九州市八幡西区自由ヶ丘一ー一(〒八○七ー八五八六) (二〇一五年五月二十九日受付、二〇一五年七月九日受理)

一、村上春樹と国語教科書

  村 上 春 樹 は 一 九 四 九 年 一 月 一 二 日、 京 都 府 京 都 市 伏 見 区 に 生 れ、 兵 庫県西宮市、 芦屋市で育つ。 早稲田大学第一文学部演劇学科卒業し、 ジャ ズ 喫 茶 経 営 を へ て、 一 九 七 九 年、 『 風 の 歌 を 聴 け 』 で 群 像 新 人 文 学 賞 を 受 賞 す る。 『 羊 を め ぐ る 冒 険 』( 一 九 八 二 ) で 野 間 文 芸 新 人 賞、 『 世 界 の 終 り と ハ ー ド ボ イ ル ド・ ワ ン ダ ー ラ ン ド 』( 一 九 八 五 ) で 谷 崎 潤 一 郎 賞、 『 ね じ ま き 鳥 ク ロ ニ ク ル 』( 一 九 九 五 ) で 読 売 文 学 賞 を 受 賞 す る。 そ の 他に『ノルウェイの森』 (一九八七) 、『海辺のカフカ』 (二〇〇二) 、『ア フ タ ー ダ ー ク 』( 二 〇 〇 四 )、 『 1 Q 8 4 』( 二 〇 一 〇 )、 『 色 彩 を 持 た な い 多 崎 つ く る と、 彼 の 巡 礼 の 年 』( 二 〇 一 三 ) な ど が あ る。 短 編 集 に は、 『 神 の 子 ど も た ち は み な 踊 る 』( 二 〇 〇 〇 )、 『 東 京 奇 譚 集 』( 二 〇 〇 五 ) などがある。ノンフィクションには 『アンダーグラウンド』 (一九九七) 、 『約束された場所で』 (一九九八) がある。また、 スコット ・ フィッツジェ ラ ル ド の『 グ レ ー ト・ ギ ャ ツ ビ ー』 、 マ イ ケ ル・ ギ ル モ ア の『 心 臓 を 貫 か れ て 』、 サ リ ン ジ ャ ー の『 キ ャ ッ チ ャ ー・ イ ン・ ザ・ ラ イ 』、 レ イ モ ン ド・ チ ャ ン ド ラ ー の『 ロ ン グ・ グ ッ ド バ イ 』 な ど ア メ リ カ 現 代 文 学 の 翻 訳 書 も 多 数 あ る。 海 外 で の 文 学 賞 も 多 く、 二 〇 〇 六 年、 フ ラ ン ツ・ カ フ カ 賞、 フ ラ ン ク・ オ コ ナ ー 国 際 短 編 賞、 二 〇 〇 九 年、 エ ル サ

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レ ム 賞 を 受 賞 す る。 当 時 は イ ス ラ エ ル に よ る ガ ザ 侵 攻 が 国 際 的 に 非 難 さ れ て お り、 こ の 受 賞 に つ い て は「 イ ス ラ エ ル の 戦 争 犯 罪 を 隠 し、 免 罪 す る こ と に つ な が る 」 と し て 辞 退 を 求 め る 声 が 上 が っ て い た。 し か し、 村上は賞を受けエルサレムでの授賞式に出席し、 記念講演では「高 く て 固 い 壁 が あ り、 そ れ に ぶ つ か っ て 壊 れ る 卵 が あ る と し た ら、 私 は 常 に 卵 側 に 立 つ 」 と、 イ ス ラ エ ル 軍 に よ っ て 一 〇 〇 〇 人 以 上 の ガ ザ 市 民 が 命 を 落 と し た こ と を イ ス ラ エ ル の ペ レ ス 大 統 領 の 面 前 で 批 判 し た。 二 〇 一 一 年、 カ タ ル ー ニ ャ 国 際 賞 を 受 賞 す る。 今、 世 界 が も っ と も 注 目する、現代日本文学を代表する作家である。   内 田 樹 氏 は「 村 上 春 樹 の 小 説 作 品 は 意 匠 は さ ま ざ ま だ け ど、 本 質 的 には 「神話」 であると私は思っている」 と述べ、 次のように指摘する ( 1 ) 。     村上春樹の作品は、この世界で現在私たちが享受している秩序    と繁栄が不意に失われたときに(いつか必ず失われる) 、人間はど    うやって生き延びるのかという問いを、 ほとんどそれだけをめぐっ    て書かれている。   さ ら に、 内 田 樹 氏 は「 お よ そ 世 界 の 成 り 立 ち や 人 間 の あ り よ う に つ い て な に ご と か を 記 し た 文 章 で 教 材 と し て 有 用 で な い も の は 存 在 し な い」 ( 2 ) と述べている。   村 上 春 樹 の 作 品 が、 短 編 小 説 を 中 心 に 中・ 高 等 学 校 で 教 材 化 さ れ て い る の は、 国 語 科 の 小 説 教 材 と し て 言 語 表 現・ 言 語 技 術 を 養 成 す る の に 適 し て い る か ら で あ る。 村 上 春 樹 の 作 品 は、 「 鏡 」「 レ キ シ ン ト ン の 幽霊」 「沈黙」 などの短編小説を中心に主に高等学校で教材化されている。   田 中 実 氏 は、 文 学 教 材 に お い て、 小 説 の〈 語 り 〉 を 読 む こ と に つ い て次のように述べている ( 3 ) 。 近 代 小 説 と は 極 点 か ら 折 り 返 し、 世 界 を 新 た に 見 せ る 装 置 な の で す。小説というジャンルは物語と詩から成り、 〈語り手の自己表出〉 に詩が込められています。つまり、 物語という素材は詩という〈語 り 手 の 自 己 表 出 〉 と と も に あ る の で す。 わ た し が 近 代 小 説 の 図 式 を「 物 語 + 語 り 手 の 自 己 表 出 」 と し て き た の は、 「 読 む こ と 」 は 「 還 元 不 可 能 な 複 数 性 」 の ア ナ ー キ ー な 行 為 で あ り、 そ こ か ら〈 本 文〉 と 〈原文〉 との二重性によって起こる現象としているからです。 ということは、 物語があって〈語り〉があるのでは全くありません。 語 り が 記 憶( 物 語 ) を 想 起 さ せ て 叙 述 が 行 わ れ て い る の で す。 そ の た め、 全 て の 小 説 の 言 語 空 間 は〈 語 り、 語 ら れ る 〉 現 象 と し て し か 生 身 の 読 み 手 の 前 に は な く、 こ れ が 生 か さ れ る「 読 み 方 」 が 「 読 む こ と の 背 理 」 と 闘 う〈 自 己 倒 壊 〉 で あ る と わ た し く し は 捉 え ています。   田 中 実 氏 は「 プ ロ ッ ト を プ ロ ッ ト た ら し め る 内 的 必 然 性 が〈 メ タ プ ロット〉 、そこにはその作品の〈ことばの仕組み〉がそれぞれ〈仕掛け〉 ら れ て い る の が「 近 代 小 説 」 で あ り、 こ れ を〈 分 析 〉 す る の で す。 そ れ は ス ト ー リ ー を「 分 析 」 す る の で は な く、 読 み 手 と 作 品 が 認 識 論 的 に 対 決 す る こ と、 読 み 手 自 身 の 世 界 認 識 を 揺 さ ぶ り、 読 み 手 に〈 自 己 倒壊〉 、〈瓦解〉を促していく、 村上を含めた「近代小説」を「読むこと」 とはこれを実際に体験することに外なりません」 ( 4 ) と述べている。   こ う し た こ と か ら、 文 学 教 材 と し て「 七 番 目 の 男 」 を 読 む に は、 「 物 語 + 語 り 手 の 自 己 表 出 」 と い う〈 語 り 〉 を 重 視 し た ア プ ロ ー チ が 重 要

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であると考える。

二、教材としての「七番目の男」

  七 番 目 の 男 」 は『 文 藝 春 秋 』 一 九 九 六 年 二 月 に 発 表 さ れ、 同 年 一 一 月 短 編 集『 レ キ シ ン ト ン の 幽 霊 』( 文 藝 春 秋 社 ) に 収 め ら れ、 一 九 九 九 年 一 〇 月 文 春 文 庫『 レ キ シ ン ト ン の 幽 霊 』 に 所 収 さ れ た。 教 科 書 に は、 第 一 学 習 社『 高 等 学 校   改 訂 版 現 代 文 2 』( 二 〇 〇 〇 年 ) に 教 材 と し て 初 め て 掲 載 さ れ、 そ の 後『 高 等 学 校   現 代 文 2 』( 二 〇 〇 四 年 ) に 掲 載 さ れ た が、 『 高 等 学 校   改 訂 版 現 代 文 2 』( 二 〇 〇 八 年 ) か ら は 掲 載 さ れていない。   教 材 と し て「 七 番 目 の 男 」 を 解 説 し た も の に、 永 井 聖 剛 氏 に よ る 第 一 学 習 社『 高 等 学 校   改 訂 版 現 代 文 2 』 の「 指 導 書 」( 二 〇 〇 〇 年 ) が あ る。 幸 田 国 広 氏 は「 永 井 論 は、 最 も 早 い 時 期 の 教 材 と し て の 読 み を 示 し た も の で あ る と 同 時 に、 指 導 書 と い う 性 格 か ら 現 場 へ の 影 響 力 と い う 点 で も 無 視 す る こ と の で き な い も の で あ る 」 ( 5 ) と 指 摘 す る。 ま た、 永 井 論 に 対 し て、 高 野 光 男 氏 は「 『 指 導 書 』 は、 「 男 」 が K を 置 き 去 り に し た と い う 罪 悪 感 を 伴 う 忌 ま わ し い 記 憶 を 敢 え て 想 起 し、 他 者 に向かって語る理由を 「 K の死にまつわる辛い過去を物語ることによっ て、 そ れ を 過 去 の も の と し て 対 象 化 す る と と も に、 そ の マ イ ナ ス の 記 憶 を、 生 き 抜 く た め の プ ラ ス の 物 語 に 書 き 換 え る た め で あ る 」 と 結 論 づ け、 教 材 の 指 導 目 標 と し て「 自 己 治 癒 の 手 段 と し て 物 語 行 為 と い う 側面を理解させる」ことをあげている」と述べている ( 6 ) 。   角 谷 有 一 氏 は「 こ の 作 品 を 教 室 に 持 ち 込 む こ と の 最 も 大 き な 意 味 は、 ま ず、 こ の 小 説 の プ ロ ッ ト が 読 者 に 伝 え て く る メ ッ セ ー ジ が、 「 他 者 」 と の 関 わ り を で き る だ け 避 け、 自 己 の 世 界 が 壊 れ る こ と を 恐 れ て い る よ う に 見 え る 現 代 の 高 校 生 た ち の 問 題 と 重 な る と 思 わ れ る こ と で あ る 」 ( 7 ) と 指 摘 す る。 ま た、 角 谷 有 一 氏 は「 『 七 番 目 の 男 』」 は 誰 に と っ て も、 い つ の 時 代 に も、 決 し て 他 人 事 で は あ り 得 な い、 日 常 の「 生 」 が さ ら さ れ て い る 危 機 と、 そ の 危 機 に 直 面 し た と き の 恐 怖 を、 読 む 者 の 心 に 深 く 刻 み つ け る と い う〈 語 り 〉 の 構 造 を も っ た 小 説 」 ( 8 ) と し て 文 学 教 材に取り上げている。   佐 野 正 俊 氏 は「 教 材 と し て の「 七 番 目 の 男 」 に は、 現 代 に お い て 教 訓 が い か に 教 訓 た り 得 な い か と い う 世 界 観 を ど う 読 む か と い う 問 題 を 孕 む と い う 点 に お い て 優 れ た 教 材 性 が あ る と 考 え る 」 と 述 べ、 「 作 品 の 語 り の 構 造 へ の 意 識 を 強 く し、 さ ら に 作 品 の 言 葉 の 実 体 性 を 拠 点 と し て作品を読むことが求められる」 ( 9 ) と指摘する。   佐 藤 洋 一・ 常 原 拓 両 氏 は「 短 編 集『 レ キ シ ン ト ン の 幽 霊 』 は、 日 常 で の 恐 怖 体 験 に つ い て の 物 語( 表 層 ) の 裏 に、 現 代 社 会( 現 代 人 ) を 支 配 す る 無 意 識 の 恐 怖( 深 層 ) が 描 か れ る と い う 構 図 を 持 っ て い る 」 と指摘したうえで、次のように述べる ( 10)   七 番 目 の 男 」 で は 表 層 で、 台 風 の 来 襲 に あ た り、 恐 怖 か ら 親 友 で あ る「 K 」 を 見 殺 し に し、 そ の 時 の「 K 」 の 非 現 実 的 な 笑 い が 4 0 年もの間、 「男」を苦しめ続けるという恐怖が語られる。   そ し て、 深 層 で は、 4 0 年 も の 間、 男 を 苦 し め 続 け る「 無 意 識 に よ る 現 代 社 会( 現 代 人 ) の 支 配 」 が 描 か れ る と い う、 二 重 構 造 を 読 み 解 か せ る こ と が 重 要 で あ る。 日 常 生 活 で は 自 己 と 向 き 合 う ことのできない現代人としての 「男」 は、 理不尽で強大な力 (台風) に よ っ て 否 応 な し に 自 己 と 深 層( 無 意 識 ) で 向 き 合 う 心 理 描 写 の 過程(意識と無意識の描写)こそがこの作品の中核だからである。

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  恐 怖 の 実 体 を 意 識 の 表 層 と 深 層 で 捉 え る と い う 教 材 研 究 が 提 示 さ れ て い る。 「 七 番 目 の 男 」 は、 構 造 的 に 学 習 す る 文 学 教 材 と し て ふ さ わ し いといえる。

三、

「七番目の男」の語り

  七 番 目 の 男 」 は、 短 編 集『 レ キ シ ン ト ン の 幽 霊 』 に 所 収 さ れ た「 レ キ シ ン ト ン の 幽 霊 」「 緑 色 の 獣 」「 沈 黙 」「 氷 男 」「 ト ニ ー 滝 谷 」 に 続 く 六つ目の作品である (七つ目の作品は 「めくらやなぎと、 眠る女」 )。 「レ キ シ ン ト ン の 幽 霊 」 は「 僕 」 と い う 一 人 称、 「 緑 色 の 獣 」 は「 私 」 と い う 一 人 称( 女 )、 「 沈 黙 」 は「 僕 」 と い う 一 人 称、 「 氷 男 」 は「 私 」 と い う 一 人 称( 女 )、 「 ト ニ ー 滝 谷 」 は 三 人 称、 「 め く ら や な ぎ と、 眠 る 女 」 は「僕」という一人称で語られている。   七 番 目 の 男 」 の 語 り の 基 本 構 造 は、 「 七 番 目 の 男 」 で あ る「 私 」 が 一人称で語る物語を聴き語るという二重構造、 いわゆる額縁小説になっ て い る。 高 野 光 男 氏 は「 こ の 無 人 称 の 語 り 手 は「 男 」 の 独 白 を 直 接 話 法 で 引 用 す る だ け で な く、 そ こ に「 傍 点 」 を 付 し て い る よ う に、 積 極 的 に「 男 」 の 物 語 に 介 入 し て い る 」 ( 11) 指 摘 す る。 過 去 の 体 験 や 記 憶 を 再 構 成 す る こ と で、 「 男 」 の 語 り に よ る 物 語 を〈 語 り 手 〉 が 相 対 化 す る 視 点 が 組 み 込 ま れ て い る。 ま た、 中 村 三 春 氏 は「 人 を 巻 き 込 む 巡 物 語 の 形 式 」 を 指 摘 し、 「 一 番 目 の 人 か ら 話 を 始 め て、 七 番 目 の 男 で 終 わ り に な る よ う に、 次 々 と 話 を す る 」 こ と で 聴 く 人 を 巻 き 込 む 語 り の 手 法 を 指 摘 し て い る ( 12) さ ら に、 佐 野 正 俊 氏 は「 語 り の 構 造 を 強 く 意 識 し て こ の 作 品 を 読 め ば 明 ら か な こ と な の だ が、 冒 頭 と 結 末 の 段 落 の 意 味 は「 私 」 に と っ て で は な く、 「 私 」 を「 七 番 目 の 男 」 と 呼 ん で 作 品 全 体 を 統 御 し て い る 語 り 手 に と っ て の 意 味 と し て 読 ま な く て は な ら な い 」 ( 13)と指摘する。   文 学 教 材 の 研 究 に お い て 大 切 な こ と は、 作 品 の 語 り の 構 造 を 捉 え、 言葉の仕組みから一人一人の読みを創造していくことである。   七 番 目 の 男 」 に お い て は、 物 語 る こ と で の 心 的 外 傷 の 回 復 と い う 解 釈 が 前 景 化 す る が、 作 品 の 語 り に 注 意 し て 読 む と、 「 私 」 は「 七 番 目 の 男 」 と し て 語 る 前 に、 「 K 」 の 絵 を み る こ と に よ っ て 自 己 の 記 憶 を 創 生 し て い た の で あ る。 作 品 冒 頭 と 掉 尾 で「 七 番 目 の 男 」 の 記 憶 を 語 り 手 が捉えなおして、 「七番目の男」の再生の物語を統括するのである。   そ の 波 が 私 を 捉 え よ う と し た の は、 私 が 十 歳 の 年 の、 九 月 の 午 後のことでした」と七番目の男は静かな声で切り出した。   彼 が そ の 夜 に 話 を す る こ と に な っ て い た 最 後 の 人 物 だ っ た。 時 計 の 針 は も う 夜 の 十 時 を ま わ っ て い た。 部 屋 の 中 に 丸 く 輪 に な っ て 座 っ た 人 々 は、 西 に 向 け て 吹 き 抜 け て い く 風 の 音 を、 外 の 深 い 闇 の 中 に 聞 き 取 る こ と が で き た。 風 は 庭 の 木 々 の 葉 を 揺 ら せ、 窓 の ガ ラ ス を か た か た と 細 か く 震 わ せ、 そ れ か ら 小 さ な 呼 び 子 を 吹 くような甲高い声を上げて、どこかに抜けていった。   そ れ は 特 殊 な 種 類 の、 か つ て 見 た こ と も な い よ う な 巨 大 な 波 で した」と男は続けた。   そ の 波 は、 ほ ん の 僅 か の と こ ろ で 私 を 捉 え る こ と が で き ま せ ん で し た。 し か し か わ り に そ れ は、 私 に と っ て も っ と も 大 事 な も の を 呑 み 込 ん で、 別 の 世 界 に 運 び 去 っ て し ま い ま し た。 私 が そ れ を も う 一 度 発 見 し 回 復 す る ま で に、 長 い 歳 月 が か か り ま し た。 取 り 返しのつかない、長い貴重な歳月です」

(5)

  こ の 作 品 冒 頭 は、 掉 尾 と 見 事 に 呼 応 し て い る。 「 男 」 の 独 白 で 始 ま り、 「 男 」 の 独 白 で 終 る。 「 西 に 向 け て 吹 き 抜 け て い く 風 」 は、 「 男 」 の 物 語 の 終 わ り と も に「 風 は す っ か り 止 ん だ ら し く、 外 に は 物 音 ひ と つ 聞 こ えなかった」 というように静寂のなかで 「男」 の最後の独白が響く。 「男」 は話し始めるとき 「シャツの襟」 に手をやり、 話し終わると 「シャツの襟」 に手をやるのである。左右対称のように作品は〈語り〉を構造する。   七番目の男は五十代の半ばに見えた。 痩せた男だった。 背が高く、 口 ひ げ を は や し て、 右 目 の わ き に、 ま る で 細 い ナ イ フ で 突 き 刺 し た よ う な 小 さ な、 し か し 深 い 傷 が あ っ た。 髪 は 短 く、 と こ ろ ど こ ろ に 硬 そ う な 白 髪 が 混 じ っ て い た。 男 の 顔 に は、 何 か を う ま く 言 い 出 し か ね る と き に よ く 人 の 浮 か べ る 表 情 が 浮 ん で い た が、 そ れ は ず っ と 昔 か ら そ こ に あ っ た よ う に、 と て も よ く 顔 に 馴 染 ん で い た。 グ レ ー の ツ イ ー ド の 上 着 の 下 に、 彼 は 飾 り 気 の な い ブ ル ー の シ ャ ツ を 着 て い た。 男 は と き ど き シ ャ ツ の 襟 に 手 を や っ た。 だ れ も彼の名前を知らなかった。何をしている人かもわからなかった。   男 」 に は 名 前 が あ る で も な く、 職 業 も わ か ら な い。 「 五 十 代 の 半 ば 」 という年齢と「小さな、 しかし深い傷」が静かな印象のなかで語られる。   私 0﹅ の 場 合 0 0 0 、 そ れ は 波 だ っ た と い う こ と で す。 み な さ ん の 場 合、 それが何になるのか、 私にはもちろんわかりません。でも私にとっ て そ れ は た ま た ま 0 0 0 0 波 だ っ た の で す。 そ れ は 何 の 前 触 れ も な く、 私 の前にある日突然、 大きな波としてその致命的な姿を現したのです。   冒 頭 の「 私 の 場 合 0 0 0 0 、 そ れ は 波 だ っ た 」 と 掉 尾 の「 私 の 場 合 に は ―― それは波でした」とが見事に呼応している。   七 番 目 の 男 は し ば ら く の あ い だ、 黙 っ て 一 座 の 人 々 を 見 回 し て いた。 誰も一言も口をきかなかった。 息づかいさえ聞こえなかった。 姿 勢 を 変 え る も の も い な か っ た。 人 々 は 七 番 目 の 男 の 話 の 続 き を 待 っ て い た。 風 は す っ か り 止 ん だ ら し く、 外 に は 物 音 ひ と つ 聞 こ え な か っ た。 男 は 言 葉 を 探 す よ う に、 も う 一 度 シ ャ ツ の 襟 に 手 を やった。   私 は 考 え る の で す が、 こ の 私 た ち の 人 生 で 真 実 怖 い の は、 恐 怖 そ の も の で は あ り ま せ ん 」、 男 は 少 し あ と で そ う 言 っ た。 「 恐 怖 は た し か に そ こ に あ り ま す。 …… そ れ は 様 々 な か た ち を と っ て 現 わ れ、 と き と し て 私 た ち の 存 在 を 圧 倒 し ま す。 し か し な に よ り も 怖 い の は、 そ の 恐 怖 に 背 中 を 向 け、 目 を 閉 じ て し ま う こ と で す。 そ う す る こ と に よ っ て、 私 た ち は 自 分 の 中 に あ る い ち ば ん 重 要 な も の を、 何 か に 譲 り 渡 し て し ま う こ と に な り ま す。 私 の 場 合 に は ― ―それは波でした」   こ の よ う に、 作 品 冒 頭 の〈 語 り 〉 は、 作 品 掉 尾 の〈 語 り 〉 と 一 対 一 対応で呼応している。 ○ 風 は 庭 の 木 々 の 葉 を 揺 ら せ、 窓 の ガ ラ ス を か た か た と 細 か く 震 わ せ、 そ れ か ら 小 さ な 呼 び 子 を 吹 く よ う な 甲 高 い 声 を 上 げ て、 ど

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こかに抜けていった。 ●風はすっかり止んだらしく、外には物音ひとつ聞こえなかった。 ○私にとってもっとも大事なもの ●いちばん重要なもの ○男はときどきシャツの襟に手をやった。 ●男は言葉を探すように、もう一度シャツの襟に手をやった。 ○ そ し て し ば し の 沈 黙 の 中 に、 自 分 の 言 葉 を 沈 ま せ た。 人 々 は 何 も言わず、話の続きを待った。 ● 七 番 目 の 男 は し ば ら く の あ い だ、 黙 っ て 一 座 の 人 々 を 見 回 し て いた。 誰も一言も口をきかなかった。 息づかいさえ聞こえなかった。 姿 勢 を 変 え る も の も い な か っ た。 人 々 は 七 番 目 の 男 の 話 の 続 き を 待っていた。 ○私の場合 0 0 0 0 、それは波だったということです。 ●私の場合には――それは波でした(○は冒頭   ●は掉尾)   語 り 〉 に 注 目 し て 作 品 を 読 む と、 構 造 的 に「 七 番 目 の 男 」 の 物 語 が 枠 物 語 で あ る こ と が は っ き り す る。 さ ら に、 タ イ ト ル で あ る「 七 番 目 」 と い う 言 葉 が 表 す よ う に、 物 語 は 全 体 で 七 つ あ り 最 後 の 物 語 が 語 ら れ る と い う 巡 物 語 で あ る こ と が わ か る。 そ こ で、 作 品 の 細 部 に お け る 言 語表現について考察する。

四、

「七番目の男」の言語表現

  作 品 冒 頭 で「 男 」 は、 「 み な さ ん の 場 合、 そ れ が 何 に な る の か、 私 に は も ち ろ ん わ か り ま せ ん 」 と 語 っ て い る が、 こ の 表 現 は、 そ の 場 に い る 六 人 に 語 り か け る の で あ れ ば「 そ れ が 何 で あ る の か 」 で な け れ ば な ら な い。 六 人 は す で に 自 分 た ち そ れ ぞ れ の 恐 怖 に つ い て 語 っ た の で あ る か ら、 恐 怖 の 対 象 は 既 知 の も の で な け れ ば な ら な い。 こ れ は、 「 男 」 の〈 語 り 〉 で あ る に も か か わ ら ず、 読 者 に 対 し て こ れ か ら ど ん な 未 知 の 恐 怖 体 験 が あ る か も し れ な い と い う こ と を 作 品 の 統 括 を す る〈 語 り 〉 が 差 し 挟 ん だ 言 葉 と な る。 〈 語 り 〉 は、 あ く ま で「 七 番 目 の 男 」 の 言 葉 として語られなければならない。   七 番 目 の 男 」 の 恐 怖 の 体 験 は、 さ ま ざ ま な 表 現 を も っ て 語 ら れ る。 言 語 表 現 と し て 突 出 し て い る の は、 恐 怖 の 対 象 で あ る「 波 」 に 対 す る 表現である。   そ こ に い た の は せ い ぜ い 五 分 か、 そ れ く ら い で あ っ た と 思 い ま す。 し か し ふ と 気 が つ い た と き、 波 は 砂 浜 の す ぐ そ こ ま で 寄 せ て い ま し た。 波 は 音 も な く、 何 の 気 配 も な く、 そ の な め ら か な 舌 先 を 私 た ち の す ぐ 足 も と に ま で こ っ そ り と 伸 ば し て い ま し た。 そ ん な に あ っ と い う ま に 波 が す ぐ そ ば ま で し の び 寄 っ て く る な ん て、 私 に は ま っ た く 予 想 も で き な い こ と で し た。 私 は 海 の そ ば で 育 っ た 人 間 で す か ら、 子 供 な り に 海 の 恐 さ を 知 っ て い ま す。 そ れ が と き と し て ど れ ほ ど 予 測 不 可 能 な 凶 暴 さ を 持 ち う る か を 承 知 し て い ま し た。 で す か ら 私 た ち は じ ゅ う ぶ ん 用 心 し て、 波 の 打 ち 寄 せ て い る と こ ろ か ら は ず っ と 離 れ た、 『 こ こ な ら ま ず 大 丈 夫 』 と 思 え る 地 点 に い た の で す。 で も そ の 波 の 先 は い つ の ま に か、 私 の 立 っ て い る 場 所 か ら ほ ん の 十 セ ン チ ば か り の と こ ろ ま で 近 づ い て、 そ し て ま た 音 も な く こ っ そ り と 引 い て い き ま し た。 そ し て 波 は そ れ を 最 後 に も う 戻 っ て き ま せ ん で し た。 や っ て き た 波 そ の も の は 決 し て 不 穏 な 種 類 の 波 で は あ り ま せ ん。 そ っ と 砂 浜 を 洗 う 穏 や か な

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波 で す。 で も そ こ に 秘 め ら れ た 何 か ひ ど く 不 吉 な も の が、 ま る で 爬 虫 類 の 肌 触 り み た い に、 一 瞬 の う ち に 私 の 背 筋 を 凍 ら せ ま し た。 そ れ は 故 の な い 恐 怖 で し た。 で も そ れ は 本 物 の 恐 怖 で し た。 私 は 直感的に、 それが生きていることを悟りました。間違いありません。 そ の 波 は た し か に 生 命 を 持 っ て い る の で す 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 。 波 は こ こ に い る 私 の 姿 を 明 確 に 捉 え、 今 か ら 私 を そ の 掌 中 に 収 め よ う と し て い る の で す。 ち ょ う ど 大 き な 肉 食 獣 が 私 に 焦 点 を 定 め て、 そ の 鋭 い 歯 で 私 を 食 い ち ぎ る こ と を 夢 見 な が ら、 草 原 の ど こ か で 息 を 詰 め て い る みたいにです。逃げなくては 0 0 0 0 0 0 、と私は思いました。   こ の「 波 」 の 表 現 は、 躍 動 感 に 満 ち て い て、 こ の 作 品 の 恐 怖 を 支 え る 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る。 「 波 」 の 生 命 力 が 現 実 的 に 伝 わ っ て く る。   そ の と き 私 は う な り を 聞 き ま し た。 地 面 を 震 わ せ る よ う な 大 き な う な り で す。 い や、 う な り の 前 に 別 の 音 が 聞 こ え ま し た。 穴 か ら た く さ ん の 水 が わ き 出 て く る よ う な ご ぼ ご ぼ 0 0 0 0 と い う 不 思 議 な 音 が 聞 こ え た の で す。 そ の ご ぼ ご ぼ 0 0 0 0 と い う 音 が ひ と し き り 続 い て 収 ま っ た あ と で、 今 度 ご お お お お お 0 0 0 0 0 0 っ と い う 轟 音 に も 似 た、 不 気 味 なうなりが来たのです。 「 波 」 の も つ 圧 倒 的 な 暴 力 は 聴 覚 を ふ る わ せ、 視 覚 と な っ て 現 前 す る。   で も 気 が つ く と 私 の 足 は、 私 の つ も り 0 0 0 と は ま っ た く 違 っ た 方 向 に 向 か っ て い ま し た。 私 は 防 波 堤 に 向 か っ て 一 人 で 逃 げ 出 し て い 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 た の で す 0 0 0 0 。 私 を そ う さ せ た の は、 お そ ら く す さ ま じ い ま で の 恐 怖 で あ っ た と 思 い ま す。 そ れ が 私 の 声 を 奪 い、 私 の 足 を 勝 手 に 動 か していたのです。   そして、 「私」を一瞬にして恐怖のどん底に突き落とすのである。 「圧 倒 的 な 恐 怖 に 駆 ら れ て、 K を 見 捨 て て さ っ さ と 一 人 で 逃 げ て し ま っ た のです」と語る「私」の恐怖はさらに、決定的な恐怖の瞬間を迎える。 そ の 波 の 先 端 の 部 分 に、 ま る で 透 明 な カ プ セ ル に 閉 じ こ め ら れ た よ う に、 K の 体 が ぽ っ か り と 横 向 け に 浮 か ん で い た の で す。 そ れ だ け で は あ り ま せ ん。 K は 私 に 向 か っ て そ こ か ら 笑 い か け て い た 0 0 0 0 0 0 0 の で す 0 0 0 。 私 は す ぐ 眼 前 に、 手 の 届 く ば か り の と こ ろ に、 さ っ き 波 に 呑 ま れ た ば か り の 親 友 の 顔 を 見 る こ と が で き ま し た。 間 違 い あ り ま せ ん。 彼 は 私 に 向 か っ て 笑 い か け て い た の で す。 そ れ も 普 通 の 笑 い 方 で は あ り ま せ ん。 K の 口 は 文 字 ど お り 耳 ま で 裂 け る く ら い、 大 き く に や り と 開 か れ て い ま し た。 そ し て 冷 た く 凍 っ た 一 対 の ま な ざ し が、 じ っ と 私 に 向 け ら れ て い ま し た。 彼 は そ の 右 手 を 私 の 方 に 差 し 出 し て い ま し た。 ま る で 私 の 手 を 摑 ん で そ ち ら の 世 0 0 0 0 0 界 0 に ひ き ず り こ も う と す る か の よ う に。 し か し ほ ん の 僅 か に、 彼 の 手 は 私 を 捉 え る こ と が で き ま せ ん で し た。 そ れ か ら も う 一 度、 K はもっと大きく口を開いて笑いました。   この場面について、 村上春樹は 「僕には実際溺死した友だちもいる (現 場 に は 居 合 わ せ な か っ た が )。 海 岸 に 水 死 体 が 打 ち 上 げ ら れ る こ と も た ま に あ っ た。 サ ー フ ィ ン を し て い る と、 波 頭 に 魚 が 泳 い で い る の を 目 に す る こ と が あ っ て、 そ う い う 光 景 が 巨 大 な 波 の 波 頭 に 閉 じ こ め ら れ

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ている子どものイメージになった」 ( 14)と述べている。   こ の あ と、 「 男 」 に と っ て、 長 い 恐 怖 か ら の 逃 避 の 生 活 が 始 ま る の で あ る。 「 結 局 私 は 四 十 年 以 上、 故 郷 の 町 に も 戻 ら ず、 そ の 海 岸 に も 近 づ きませんでした」というのである。   そ の 後、 父 が 亡 く な っ て「 子 供 時 代 の も ち も の が ま と め て 段 ボ ー ル 箱 に 詰 め て あ っ た 」 も の が「 私 」 の も と に 送 ら れ て き た な か に、 「 K が 描 い て 私 に く れ た 絵 が 一 束 」 あ り、 「 私 」 の 目 に ふ れ る こ と に な っ た の である。   ほ と ん ど は 風 景 画 で、 見 覚 え の あ る 海 や 砂 浜 や 松 林 や 街 並 み が、 K ら し い 特 徴 の あ る き っ ぱ り と し た 色 合 い で 描 か れ て お り ま し た。 不 思 議 な ほ ど 色 も 褪 せ ず、 昔 見 た と き の 印 象 を そ の ま ま 鮮 明 に 残 し て お り ま し た。 絵 を 手 に と っ て 見 る と も な く 見 て い る う ち に、 私はとても懐かしい気持ちになりました。記憶していたよりも、 そ れ ら の 絵 は ず っ と 巧 く、 ま た 芸 術 的 に も 優 れ た も の で し た。 私 は 絵 の 中 に、 K と い う 少 年 の 深 い 心 情 の よ う な も の を ひ し ひ し と 感 じ と る こ と が で き ま し た。 彼 が ど の よ う な ま な ざ し を も っ て ま わ り の 世 界 を 見 て い た か を、 私 は ま る で 我 こ と の よ う に 切 実 に 理 解 す る こ と が で き ま し た。 私 は 絵 を 眺 め な が ら、 自 分 が K と と も に や っ た こ と や、 と も に 訪 れ た 場 所 の こ と を、 ひ と つ ひ と つ 鮮 や か に 思 い 出 し て い き ま し た。 そ う で す、 少 年 時 代 の 私 自 身 0 0 0 の ま な ざ し で も あ っ た の で す。 そ の 頃 の 私 は K と 二 人 で 肩 を 並 べ て、 同 じような生き生きとした曇りのない目で世界を見ていたのです。   私 」 は K の 遺 し て く れ た 絵 の お か げ で「 少 年 時 代 の 優 し い 風 景 」 に 出会うことができたのだ。   そしてあるとき、 一週間ばかり経ったころでしょうか。私ははっ と こ う 思 っ た の で す。 ひ ょ っ と し て 自 分 は こ れ ま で 重 大 な 思 い 違 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 い を し て い た の で は あ る ま い か 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 と。 あ の 波 の 先 端 に 横 た わ っ て い た K は、 私 を 憎 ん だ り 恨 ん だ り、 あ る い は 私 を ど こ か に 連 れ て い こ う と 思 っ た り し て は い な か っ た の で は な い か。 に や り と 笑 っ て い る よ う に 見 え た の は、 た だ 何 か の 加 減 で 0 0 0 0 0 0 そ う 見 え た だ け で、 彼 は そ の と き に は も う 意 識 も 何 も な か っ た ん じ ゃ な い の か。 あ る い は K は 私 に 向 か っ て 最 後 に や さ し く 微 笑 み か け て、 永 遠 の 別 れ を 告 げ て い た の で は あ る ま い か。 私 が K の 表 情 に 認 め た 烈 し い 憎 悪 の 色 は、 そ の 瞬 間 に 私 を 捉 え 支 配 し て い た 深 い 恐 怖 の 投 影 に 過 ぎ な か っ た の で は な い か ……。 K の 描 い た 昔 の 水 彩 画 を 子 細 に 眺 め て い る と、 そ の よ う な 私 の 思 い は ま す ま す 強 い も の に な っ て い き ま し た。 ど れ だ け 眺 め て も、 私 は K の 絵 の 中 に、 汚 れ の な い 穏 や かな魂しか見いだすことができなかったからです。   四 〇 年 ぶ り に 訪 れ た「 K の さ ら わ れ た 海 岸 」 は、 「 一 九 六 〇 年 代 の 高 度 経 済 成 長 期 に 近 郊 に 工 業 都 市 が 出 現 し た せ い で、 あ た り の 風 景 は 大 きな変貌を遂げていた」が、 「私」は自我を取り戻すことができた。   ふ と 気 が つ い た と き、 私 の 中 の 深 い 暗 闇 は 既 に 消 滅 し て い お り ました。   長 い 歳 月 の あ と に 私 は や っ と こ こ に た ど り つ い た の で す 」 と「 K 」

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を喪った海岸に立って「私」は「波」に打たれる。   そ の と き、 私 の 中 で 時 間 の 軸 が 大 き な 軋 み を 立 て ま し た。 四 十 年 と い う 歳 月 が、 私 の 中 で 朽 ち た 家 の よ う に 崩 れ 落 ち、 古 い 時 間 と 新 し い 時 間 が ひ と つ の 渦 の 中 に 混 じ り あ い ま し た。 ま わ り の 音 が 消 え、 光 が ぐ ら り と 揺 れ ま し た。 そ し て 私 は 体 の バ ラ ン ス を 崩 し て、 寄 せ て く る 波 の 中 に 倒 れ こ み ま し た。 心 臓 が 私 の 喉 の 奥 の 方 で 大 き な 音 を 立 て、 手 足 の 感 覚 が 虚 ろ に な り ま し た。 私 は 長 い あ い だ そ の 格 好 の ま ま そ こ に 突 っ 伏 し て い ま し た。 立 ち 上 が る こ と が で き な か っ た の で す。 で も 私 は 怖 く は あ り ま せ ん で し た。 そ う で す。 も う 何 も 恐 れ る こ と は な い の で す。 そ れ は 去 っ て し ま っ たのですから。   私 」 が 長 い 歳 月 を か け て 取 り 戻 し た も の と は 何 で あ っ た の か。 「 七 番目の男」の恐怖の実体を解き明かすことによって、 失った「私にとっ て も っ と も 大 事 な も の 」 と 取 り 戻 し た「 い ち ば ん 重 要 な も の 」 に つ い て考察する。

五、

「七番目の男」の恐怖

  七 番 目 の 男 」 は ど の よ う に 読 ま れ て き た の か。 近 藤 裕 子 氏 は「 心 的 外 傷( ト ラ ウ マ ) 体 験 と そ の 後 の 苦 し み、 さ ら に そ こ か ら の 回 復 を 描 い た 作 品 が、 阪 神 淡 路 大 震 災( 9 5 ・ 1 ・ 1 7 ) を 潜 り 抜 け た 後 に 書 か れ て い る こ と は 意 味 深 い 」 と 作 品 が 書 か れ た 背 景 に つ い て 言 及 し「 物 語 る こ と の 治 癒 作 用 」 を 指 摘 し て い る ( 15) 村 上 春 樹 が「 『 七 番 目 の 男 』 は ア メ リ カ か ら 帰 国 し た あ と に 書 か れ て い る 」 ( 16) 述 べ る よ う に、 一九九五年三月アメリカの大学の春休みで一時帰国、 大磯の自宅で「地 下 鉄 サ リ ン 事 件 」 を 知 る こ と に な る。 「 七 番 目 の 男 」 は、 一 九 九 五 年 一 月 一 七 日 の 阪 神・ 淡 路 大 震 災 と 三 月 二 〇 日 の 地 下 鉄 サ リ ン 事 件 後 に 書 か れ た 作 品 で あ る。 翌 一 九 九 六 年 一 月 か ら 一 二 月 に か け て、 村 上 春 樹 は 地 下 鉄 サ リ ン 事 件 の 被 害 者 六 二 人 に イ ン タ ビ ュ ー を し て、 一 九 九 七 年 三 月『 ア ン ダ ー グ ラ ウ ン ド 』 を 刊 行 す る。 そ の 巻 末 で、 村 上 春 樹 は 「 目 じ る し の な い 悪 夢 」 と 題 し て「 一 九 九 五 年 の 一 月 と 三 月 に 起 こ っ た 阪 神 大 震 災 と 地 下 鉄 サ リ ン 事 件 は、 日 本 の 戦 後 の 歴 史 を 画 す る、 き わ め て 重 い 意 味 を 持 つ 二 つ の 悲 劇 で あ っ た 」 と 述 べ、 次 の よ う に 指 摘 し ている ( 17)   そ の 二 つ の 出 来 事 に 共 通 し て あ る 要 素 を ひ と つ だ け あ げ ろ と 言 わ れ れ ば、 そ れ は「 圧 倒 的 な 暴 力 」 と い う こ と に な る だ ろ う。 も ち ろ ん そ れ ぞ れ の 暴 力 の 具 体 的 な 成 り 立 ち は ま っ た く 異 な っ て い る。 ひ と つ は 不 可 避 な 天 災 で あ り、 も う ひ と つ は 不 可 避 と は 言 え ない〈人災=犯罪〉だった。   「七番目の男」 には、 「圧倒的な暴力」 として 「波」 が描かれている。 「男」 は、 「 波 」 に よ っ て 自 我 を 喪 失 し て し ま う の で あ る。 村 上 春 樹 は「 人 間 の 記 憶 と い う も の は、 あ く ま で ひ と つ の 出 来 事 の〈 個 人 的 な 解 釈 〉 に 過 ぎ な い 」 と 定 義 で き る と い い、 「 我 々 は 自 分 の 体 験 の 記 憶 を 多 か れ 少 なかれ物語化するのだ」 と 「目じるしのない悪夢」 の中で述べている ( 18) た だ、 「 固 有 の 自 我 と い う も の を 持 た ず し て、 固 有 の 物 語 を 創 り 出 す こ とはできない」とも同書で述べている ( 19)。「七番目の男」は、 自分が自 分 で あ る た め の 自 我 を「 波 」 に 奪 わ れ て し ま っ た の で あ る。 「 波 」 に よ

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る「圧倒的な暴力」 によって 「男」 の自我は根こそぎ奪い取られてしまっ た の で あ る。 実 体 を 失 っ た 影 は、 そ の 在 り 処 を 失 い、 「 男 」 を さ ら な る 恐怖に陥れるのである。   中 村 三 春 氏 は「 起 源 へ の 回 帰 を 促 す 少 年 の ま な ざ し 」 と 題 し て「 ト ラウマ(傷痕)は、 それを克服することではなく、 むしろ起源に回帰し、 見 つ め 直 す こ と に よ っ て 包 容 す る し か な い。 K の 水 彩 画 は K の ま な ざ しだけでなく、 彼自身の少年時代のまなざしをも示していた」 と述べ 「見 る 行 為 は、 最 も 確 実 な よ う で あ り な が ら、 実 は も っ と も 不 確 か で 曖 昧 な も の と も 言 え る 」 と し「 見 る こ と は 何 か の 始 ま り 」 で あ る こ と を 指 摘 す る ( 20) ま た、 高 野 光 男 氏 は「 結 果 的 に 言 え ば、 こ の テ ク ス ト が 主 題 化 す る の は、 「 自 己 治 癒 の 手 段 と し て の 物 語 行 為 」 と い う よ り も、 こ と ば や 物 語 は 本 当 に 治 療 や 救 済 た り え る の か、 そ の こ と を む し ろ 問 う ているように思われる」と指摘したうえで、次のように述べている ( 21)   七 番 目 の 男 」 の 語 り の 基 本 構 造 は、 「 男 」 が 自 ら の 過 去 と 現 在 を 語 る 一 人 称 の 語 り と、 そ の「 男 」 に つ い て 語 る 三 人 称 の 語 り の 二 重 構 造 で あ る。 「 男 」 の 独 白 と、 そ の「 男 」 に つ い て 語 る 語 り で は 確 か に 量 的 に は 比 較 に な ら な い。 し か し、 そ の こ と は こ の 小 説 においてその語りが二次的なものであることを意味しない。   七 番 目 の 男 」 を「 自 己 治 癒 」 と い う 文 脈 で 読 ん で し ま う と 小 説 の 表 層 だ け し か 読 ん で い な い こ と に な る。 小 説 の〈 語 り 〉 に 注 意 し て 読 み を繰り返すことによって、 「男」 の物語を相対化する視点が生まれてくる。   村上春樹は、 「七番目の男」について次のように述べている ( 22) ど う し て こ ん な 話 を 書 こ う と 思 い 立 っ た の か、 よ く 覚 え て い な い の だ が、 僕 は 最 初 と に か く 怖 い 話 を 書 い て み た か っ た の だ と 思 う。 風の強い日に、 人々が集まっている。彼らは奇妙な話、 不思議な話、 恐い話を持ち寄っているらしい。七番目の男が立ち上がって、 ゆっ く り と 自 分 の 話 を 始 め る。 不 気 味 な 予 感 の 漂 う 話 だ。 僕 ら は 黙 っ て そ の 物 語 に 耳 を 傾 け る ―― そ う い う 話 を そ も そ も は 書 き た か っ た。 で も い っ た ん 彼 が 話 し 始 め る と、 最 初 僕 が 予 定 し て い た 怪 談 的 な「 怖 さ 」 は、 ど ん ど ん 違 う 方 向 に そ れ て い っ て、 べ つ の も の に か た ち を 変 え て い っ た。 本 当 に 怖 い も の は い っ た い 何 な の か?   本 当 の 怪 異 と は い っ た い 何 な の か?   結 局 の と こ ろ 僕 が こ の 短 編 の 中 で 描 い た の は、 人 間 の 意 識 の 中 に 存 在 す る 暗 闇 の 深 さ な の だ という気がする。それはどんな悪鬼よりも恐ろしいものだ。   第 一 学 習 社『 高 等 学 校   改 訂 版 現 代 文 2 』( 二 〇 〇 〇 年 ) の 単 元 末 に 「 恐 怖 と 癒 し 」 と 題 し て、 「 七 番 目 の 男 」 の 友 人「 K 」 に「 『 こ こ ろ 』 の 「先生」 の友人も 「 K 」 だったことが想起される」 とあり、 夏目漱石 『こ ころ』との関連を示唆している。さらに、 松本常彦氏は「 『七番目の男』 を迂回して、 『こころ』 へ」 と題して 「『七番目の男』 の典拠が 『こころ』 で あ る こ と を 保 証 す る 作 家 の 発 言 が あ る わ け で は な い 」 と 断 っ た う え で 両 作 品 に つ い て 一 五 の 接 点 を あ げ、 「『 こ こ ろ 』 と『 七 番 目 の 男 』 の 両 者 が 先 行 作 と 後 継 作( 変 奏 ) と の 関 係 に あ る こ と は 認 め ら れ る の で はあるまいか」と指摘している ( 23)。「 七 番 目 の 男 」 を 『 こ こ ろ 』 の 「 変 奏」 とみる松本常彦氏の論には賛同できないが ( 24)、両作品における 「人 間の内なる影の部分 (アンダーグラウンド) 」 ( 25)への関心には通じるも のがあると考える。 「圧倒的な暴力」 の前に、 自我を失い無力化した 「先

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生」と「七番目の男」の姿には相似するものがある。   両 作 品 に 共 通 し て い る の は、 「 人 間 の 内 な る 影 の 部 分 」 か ら 目 を そ む け る こ と が 自 我 の 喪 失 に 繋 が る と い う こ と で あ る。 な ぜ な ら、 自 我 と い う 実 体 が あ れ ば 影 は 必 ず で き る の で あ り、 「 影 の 部 分 」 を 排 除 す れ ば 実 体 で あ る 自 我 は 消 失 す る の で あ る。 「 七 番 目 の 男 」 の 冒 頭 で の「 私 に と っ て も っ と も 大 事 な も の 」 と は〈 私 の 自 我 〉 で あ り、 作 品 掉 尾 で の 「 私 た ち は 自 分 の 中 に あ る い ち ば ん 重 要 な も の 」 と は〈 私 の 自 我 〉 で あ り、 「 恐 怖 」 と は、 「 影 の 部 分 」 を 排 除 し て、 〈 私 の 自 我 〉 を「 何 か に 譲 り渡してしまうこと」である。

おわりに

  七 番 目 の 男 」 が 所 収 さ れ て い る 短 編 集『 レ キ シ ン ト ン の 幽 霊 』 に は 七 つ の 短 編 が あ る。 表 題 に あ る よ う に「 幽 霊 」 と は、 見 え る 人 に し か 見 え な い。 見 る と い う 行 為 は、 見 る 人 の 意 識 に 働 き か け る も の で あ り 実 体 は 見 る 側 に あ る。 K の 笑 い と は、 見 る 側 の 意 識 の 働 き で、 憎 し み の表情とも優しさの表情とも捉えることのできるものなのだ。 したがっ て、 作品のタイトルが恐怖の対象とされる 「波」 ではなく 「七番目の男」 と な っ て い る の は、 恐 怖 の 対 象 で あ る「 波 」 に 実 体 は な く、 あ く ま で 「 波 」 と 対 峙 す る「 私 」 の 意 識 に、 そ し て「 私 」 の 意 識 の あ り 様 に 実 体 があることを示しているのである。   田 中 実 氏 は「 国 語 教 育 研 究 も ま た 隣 接 学 問、 特 に 文 学 研 究 と 無 縁 で あ る こ と は、 所 詮 で き ず、 特 に 文 学 教 材 研 究 と 文 学 作 品 研 究 と は、 対 象 に お い て も 方 法 に お い て も 互 い に 相 手 を 共 有 し、 必 要 と す る 稀 有 の 分野だと思う」 ( 26)と述べ、 「国語教育研究はあくまで 〈本文〉 の文脈 (コ ンテクスト)を尊重せざるを得ない」 ( 27)と指摘する。   国 語 科 教 育 に お け る 文 学 教 材 は、 生 徒 の 内 面 を 掘 り 起 こ す こ と に 価 値 が あ り、 文 学 教 材 の 研 究 は、 作 品 の 言 葉 の 仕 組 み を 解 明 す る こ と に 力 を 注 が な け れ ば な ら な い。 国 語 科 教 育 の 研 究 に お い て は、 文 学 教 材 の 教 育 的 価 値 を 確 認 し、 正 解 到 達 主 義 と 正 解 到 達 主 義 批 判 が 無 意 味 な 論 争 に 終 わ ら な い よ う に、 作 品 構 造 を 丁 寧 に 押 さ え、 〈 語 り 〉 を 的 確 に 読み取り、言葉の仕組みを問題にすることが重要である。 註 1 内 田 樹「 教 室 に お け る 村 上 春 樹 」 馬 場 重 行・ 佐 野 正 俊 編『 〈 教 室 〉 の 中の村上春樹』ひつじ書房、二〇一一年八月、四、 五頁。 2 内田樹   同掲書、五頁。 3 田 中 実「 「 読 み 方 の 背 理 」 を 解 く 三 つ の 」『 国 文 学   解 釈 と 鑑 賞 』 二〇〇八年七月、一三頁。 4 田中実 「村上春樹の 「神話の再創成」 」 馬場重行 ・ 佐野正俊編 『〈教室〉 の中の村上春樹』ひつじ書房、二〇一一年八月、一八頁。 5 幸 田 国 広「 第 九 章「 七 番 目 の 男 」( 村 上 春 樹 ) の 授 業 実 践 史 」 田 中 宏 幸・ 坂 口 京 子 編『 文 学 の 授 業 づ く り ハ ン ド ブ ッ ク 第 四 巻 ― 授 業 実 践 史 をふまえて―   中・高等学校編』渓水社、二〇一〇年三月、一九一頁。 6 高 野 光 男「 物 語 化 に 抗 し て ― 村 上 春 樹「 七 番 目 の 男 」 の 語 り 」『 国 文 学   解釈と鑑賞』二〇〇八年七月、一六〇頁。 7 角谷有一 「作品の深みへ誘う 「読み」 の授業を求めて――村上春樹 『七 番目の男』を取り上げて――」 『日本文学』二〇〇四年三月、八頁。 8 角 谷 有 一「 『 七 番 目 の 男 』 そ の 暗 闇 の 深 さ を 読 む 」 馬 場 重 行・ 佐 野 正 俊編『 〈教室〉の中の村上春樹』ひつじ書房、 二〇一一年八月、 一八四頁。

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9 佐 野 正 俊「 村 上 春 樹「 七 番 目 の 男 」 の 教 材 性 を め ぐ っ て ― 文 学 教 育 再入門の試み―」 『日本文学』二〇〇五年八月、三六頁。 10佐 藤 洋 一・ 常 原 拓「 現 代 小 説 に お け る「 国 語 科 学 習・ 評 価 シ ス テ ム 」 の 開 発 ― 村 上 春 樹「 七 番 目 の 男 」( 高 3 ・ 第 一 学 習 社 ) の 授 業 モ デ ル を 例に―」 『愛知教育大学研究報告』 55 (教育科学編) 、一三〇頁。 11高野光男   前掲書、一六二頁。 12中村三春「七番目の男」 AERA Mook 『村上春樹がわかる。 』朝日新聞 社、二〇〇一年一二月、六七頁。 13佐野正俊   前掲書、三五頁。 14村 上 春 樹「 解 題 」『 村 上 春 樹 全 作 品 1990~2000 ③ 短 編 集 Ⅱ 』 講 談 社、 二〇〇三年三月、二六六頁。 15近藤裕子 「七番目の男」 村上春樹研究会編 『村上春樹   作品研究事典』 鼎書房、二〇〇一年六月、一三九頁。 16村上春樹「解題」前掲書、二六五頁。 17村 上 春 樹「 目 じ る し の な い 悪 夢 」『 ア ン ダ ー グ ラ ウ ン ド 』 講 談 社、 一九九七年三月、講談社文庫所収一九九九年二月、七六四‐七六五頁。 18村上春樹「目じるしのない悪夢」同掲書、七五三頁。 19村上春樹「目じるしのない悪夢」同掲書、七五〇頁。 20中村三春   前掲書、六六頁。 21高野光男   前掲書、一六二頁。 22村上春樹「解題」前掲書、二六五頁。 23松 本 常 彦「 『 七 番 目 の 男 』 を 迂 回 し て、 『 こ こ ろ 』 へ 」『 九 大 日 文 』 九 州大学日本語文学会、二〇〇四年一二月、三三七頁。 24松 本 常 彦 氏 は、 「 迂 回 に よ る 編 み 直 し を 具 体 的 な 作 品 に 則 し て 検 討 す る 」 と し て、 夏 目 漱 石「 こ こ ろ 」 と 村 上 春 樹「 七 番 目 の 男 」 を 選 び、 詳 細 に 論 じ て い る が、 両 作 品 の 類 似 点 を 列 挙 す る な か で、 両 作 品 の コ ン テ ク ス ト に 通 じ た 類 似 点 を 挙 げ て い る 箇 所 と た だ 単 に 同 じ 項 目 で あ る と い う だ け で 挙 げ て い る 部 分 が 混 在 し て い る。 両 作 品 の「 圧 倒 的 な 暴 力 」 の 前 に 無 力 化 し た「 先 生 」 と「 七 番 目 の 男 」 の 本 質 に つ い て 論 じられていない。 25村上春樹は 「目じるしのない夢」 の中で 「我々が直視することを避け、 意 識 的 に、 あ る い は 無 意 識 的 に 現 実 と い う フ ェ イ ズ か ら 排 除 し 続 け て い る、 自 分 自 身 の 内 な る 影 の 部 分( ア ン ダ ー グ ラ ウ ン ド )」 ( 七 四 四 頁 ) について述べている。 26田 中 実「 夢 の 読 者 共 同 体 を 求 め て 」『 読 み の ア ナ ー キ ー を 超 え て   い のちと文学』右文書院、一九九七年八月、三一三頁。 27田中実「夢の読者共同体を求めて」同掲書、三一八頁。 * 村 上 春 樹 の 原 文 は、 『 村 上 春 樹 全 作 品 1990 〜 2000 ③ 短 編 集 Ⅱ 』 講 談社、二〇〇三年三月に拠った。

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