はじめに
「理科離れ」が言われて久しい.尾崎は, 「90 年代終わりから,学力低下の問題が取り 上げられ,7 年前位から理科離れ,理科嫌い の問題が注目され始めている」1)と述べてい るのをはじめ,教育現場内外から多くの「理 科離れ」などに関する報告が見られる.そし て,その原因としては,「現在の理科の授業で は,実験を軽視している」,「上級学校の受験 に即応した授業のために実験などをする余裕 がない」,などの意見が多い.また,教員側の 「他教科志向主義」や「得意分野志向主義」に あるとする意見もある.また,松森は,「小学 校の教育内容といえども理科を苦手とする教 師が少なくない」.そして,「理科教育的資質 の欠落部分を補強することや不得意な教科や 領域・分野にもチャレンジする積極的な姿勢 が待ち望まれる」と教員自身の問題を訴えて いる.2) このような背景がある中で,本学において 小学校教諭免許状を取得することを希望する 学生の実践的理科授業遂行能力に関わる実 験・観察に着目し,彼らが小学校時代に経験 した実験・観察項目を知る目的で調査を行っ た.調査方法
調査は,2003 年度に入学した教育学部,人 間科学部,文学部のそれぞれ一部の学生が受 講する授業の 2003 年 7 月に行われた定期試験 の際に行った.調査の内容は,現在全国的に 小学校現場で使われている 3 社の小学校理科 の教科書(3 年∼ 6 年)3 ∼ 5)に搭載されている 実験・観察内容を抽出・整理し,A 領域「生物 と環境」から 12 項目,B 領域「物質とエネル ギー」から 23 項目,C 領域「宇宙と地球」か ら 11 項目,基本操作 10 項目など,計 54 項目 を取り上げ,それらについての実験・観察経 験の有無について回答を求めた.調査結果
1)対象者の特性 小学校教諭免許状取得希望者の有無を学部 別に集計した結果が表 1 である. 教育学部では 36 人(100.0 %),文学部では 2 4 人 ( 3 6 . 9 % ), 人 間 科 学 部 で は 2 1 人 (11.1 %),学部無記入は 3 人(20.0 %)合計人 数 84 人(27.5 %)の学生が小学校教諭免許状 を取得希望している.また,小学校教諭免許 状取得希望者を男女別で集計した結果が表 2 である.小学校教諭免許取得希望学生の理科実験・観察の経験
金 子 博 美 *
Experiments for Students
Who Want the Elementary School Teachers Licence
Hiromi KANEKO
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小学校教諭免許状取得希望者は男子では 34 人(38.2 %),女子では 30 人(22.6 %),性別 無 記 入 の 学 生 2 0 人 ( 2 4 . 1 % ) 合 計 8 4 人 (27.5 %)であった. また,小学校教諭免許状取得希望者の有無 と小学校の時に理科が好きだったか・嫌いだ ったかを集計した結果が表 3 である. 免 許 を 取 得 す る と し た 人 数 8 4 人 中 5 2 人 (61.9 %)が小学校時代の理科が好きだったと 答えている. 2)実験・観察の経験 小学校教諭免許状を取得すると答えた学生 84 人について,各実験・観察の経験の有無に ついての集計結果は以下のようである. A 領域の「生物と環境」(図 1)において掲 げた 12 項目の中で,経験が 90.0 %以上ある項 目 は 5 項 目 あ り ,「 植 物 の か ら だ の つ く り (根・茎・葉)の観察」96.4 %,「花のつくり (めしべ・おしべ・がく)の観察」が同じく 96.4 %,「顕微鏡を使ったことがある」95.2 %, 続いて「植物を育てたことがある」94.0 %, 「植物の葉に日光が当たるとデンプンが出来 る」92.9 %であった.60.0 %∼ 90.0 %未満に は,「花粉を顕微鏡で見た」74.7 %,「メダカ の卵を育てたことがある」67.9 %の 2 項目, 60.0 %未満は 5 項目で,中でも一番低かった のは「バッタやトンボの育ちかた(卵→幼虫 →成虫)の観察」21.4 %,次に「解剖顕微鏡 を使ったことがある」と答えた学生は 44.0 %, 「チョウの育ち方」の観察は 50.0 %であった. B 領域の「物質とエネルギ−」(図 2)では 23 項目中 90.0 %以上経験のあるものは,6 項 目あり,「乾電池と豆電球をつないで,明かり をつけてみる実験」では 100.0 %,ついで「磁 石につくものつかないもの」が 97.6 %,「乾電 池の数やつなぎ方をかえて電流の強さを比べ る実験」96.4 %,「電気を通すもの通さないも の」94.0 %、「いろいろの水溶液をリトマス紙 に つ け て 色 の 変 化 を 調 べ た こ と が あ る 」 94.0 %,「電流計を使って実験したことがある」
92.9 %であり,60.0 %から 90.0 %未満には 15 項目が入っており,50.0 %未満は 2 項目で低 くても「金属も温められたり冷やしたりして かさが変わる実験」が 48.2 %,「閉じこめた空 気や水に力を加え,その性質を調べる実験」 48.8 %などがある. C 領域の「地球と宇宙」(図 3)では,11 項 目中 90.0 %以上は「日なたと日陰の地面を比 べ,太陽の位置と日陰の関係」が 96.4 %,低 くても 50.0 %以上で「雨水が地面を流れてい く様子や雨上がりの地面を観察」したことが ある,51.3 %であった. 小学校教諭免許取得希望学生の理科実験・観察の経験
このように A,B,C の各領域を合わせた 46 項目の中で,90.0 %以上の者が経験した項目 は 12 項目(26.1 %)であり,60.0 %未満の項 目は 8 項目(17.4 %)である. 基本操作(図 4)では,8 項目中 6 項目が 90.0 %以上で,「上皿天秤を使ったことがあ る」,「温度計を使ったことがある」,「ろ過を したことがある」の 3 項目が 98.8 %,次に 「 ア ル コ − ル ラ ン プ を 使 っ た こ と が あ る 」 96.4 %,「マッチをすったことがある」97.6 %, ま た 「 ガ ス バ ー ナ を 使 っ た こ と が あ る 」 90.5 %であった.しかしこれらの項目で低い ものとして,「虫眼鏡の使い方を習ったことが ある」79.8 %,「メスシリンダーを使ったこと がある」89.3 %であった. また,小学校時代に理科が好きだった理由
を自由に記述してもらった結果,表 4 のよう に大きく分けることができる. 好きと回答した中でその理由として 77.7 % の学生が「実験が楽しかったから」,「実験が 多くあったから」,「実験観察が好きだったか ら」などの実験に関わる事項をあげていた.
考 察
小学校教諭免許状取得希望者が,現在小学 校の理科授業の際に行われている実験・観察 事項について経験し,習熟させることは,将 来教員になった際に理科授業の充実につなが り,児童が理科に興味・関心を持つことにな るものと思われる.そのためには,理科の教 科書で取り上げられている実験・観察をもれ なく学習し,習熟しておく必要があろう.し かし,本学で行われる理科教育の授業では, 現在小学校の理科授業で行われている多くの 実験・観察についてすべて行うことには限ら れた授業時間数から考えて困難と思われる. また,季節や地域の影響を受ける事項につい ては実行不可能に近いものがある.こうした ことから,如何に本学の理科授業を合理的・ 効率的に行うかを考えていかなければならな い. 本調査の結果では,90.0 %以上の学生が経 験 し た 実 験 ・ 観 察 事 項 が 4 6 項 目 中 1 2 項 目 (26.1 %)しかない.残りの 34 項目は経験し ていない,あるいは不明などという回答があ った.特に A 領域の「バッタやトンボの育ち 方(卵→幼虫→成虫)の観察」は 21、4 %や 「解剖顕微鏡の使い方」(44.0 %)など,B 領 域では,「金属も温められたり冷やしたりして かさがどうかわるか」48.2 %,C 領域では, 「地層の出来方の実験」52.4 %,「雨水が地面 を流れていく様子や,雨上がりの地面の様子 を観察した」51.3 %である.こうした実験・ 観察項目は本学の授業の中で必須な事項とし て取り上げる必要があろう.また,理科の授 業を行う際の基本事項である「虫めがねの使 い方」では 80.0 %に満たない.また「マッチ をすったことがあるか」「メスシリンダ−を使 った事があるか」についてあると答えた者が 100.0 %に至っていないことなど,こうしたこ とを考えると極めて基本的な事項さえも理科 教育の授業で行わなければならない事態であ る.また,昆虫や植物によっては地理的・季 節的なことに影響されることが多いので,こ れらについては関連したビデオなど視聴覚教 材を利用する工夫が必要である.こうしても れなく理科の実験・観察を身近なものにさせ る努力は,資質の高い小学校教員を養成する ことになり,ひいては学童へ大きく影響すと 考えられる.それは,本調査でも免許状取得 希望学生が小学校時代に理科が好きであった 理由として「実験が楽しかったから」,「実験 が多くあったから」,「実験観察が好きだった から」など実験観察に関わる事項をあげてい ることからも明らかである.本学の理科教育 の授業にこうした取り組みがなされれば,や がて学童の「理科離れ」をくい止める一助に なると考えられる.まとめ
本学の小学校教諭免許状取得希望者の小学 校時代における理科の実験・観察の経験有無 についてアンケート調査を行った. その結果,A 領域「生物と環境」の分野で 小学校教諭免許取得希望学生の理科実験・観察の経験かなかった. B 領域の「物質とエネルギ−」では,23 項 目中 90.0 %以上経験のあるものは 6 項目あり, 50.0 %未満は 2 項目であった C 領域の「地球と宇宙」では,11 項目中 90.0 %以上は 1 項目で,60.0 %未満は 2 項目あ った. 基本操作では,8 項目中 6 項目が 90.0 %以上 経験していたが,その中でも「アルコ−ルラ ンプを使ったことがある」,「マッチをすった ことがある」などの経験をもたないものも僅 かにいた. 小学校時代に理科が好きだった理由の多く には,実験に関わる事項を挙げているものが 多かった. 以上のことから,本学の理科教育の授業で 取り上げることが望まれる実験・観察項目が 明らかになった. 文献 1)尾崎 浩己:「変わる理科教育の基礎と展望」 p10-23 東洋館出版社,2002 2)松森 靖夫:「理科実践研究が抱える 2 つの課 題」p47 理科の教育 東洋館出版 2003. 9 3)三浦登 代表:新しい理科 東京書籍 2002 4)永野重史監修:小学理科 教育出版 2002 5)竹内敬人 他:理科 啓林館出版 2002 6 ) 文 部 省 : 小 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 理 科 編 1999