Y 3 型人工股関節開発のための基礎的研究
―動物実験と力学的実験―
堀 内 忠 一
山梨大学大学院医学工学総合研究部整形外科学講座 要 旨:表面平滑な Y 2 型セメントレス人工股関節ステムの固定性向上のために,最適な表面コー ティングの部位と範囲を決定するための基礎的な研究を行った。ステム全長と近位 1/3 にコーティ ングした犬用人工股関節の剖検例の X 線所見と CMR 像を検討し,ステム周囲の骨透明層の有無と 骨新生の程度よりステムの固定性の評価を行った。そしてコンピュータシミュレーションで有限要 素法を用いた成長ひずみ法を使い,大腿骨近位部に応力遮蔽がおこりにくいコーティング範囲を決 定した。ステムのコーティング範囲にかかわらず,ステムの近位,中央,遠位の 3 ヶ所のうち 2 ヶ 所以上が骨皮質に接するように挿入された時にはステム周囲に骨透明層はなく,良好な骨新生がみ られた。一方それ以外の時にはコーティング部分であってもその周囲に骨透明層をみとめ,介在物 を介しての固定であった。コンピュータシミュレーションではステムの近位 1/4 にコーティングし た場合に大腿骨近位部の応力遮蔽が最も少なかった。以上より Y 2 型ステムの固定性向上のために は,できるかぎり広い部分で大腿骨に接して挿入し,その近位 1/4 にコーティングを行うことが最 適であると考えた。 キーワード セメントレス人工股関節,成長ひずみ法,ストレスシールディング,コーティング はじめに 当教室で開発し,1988 年より臨床応用を開 始した表面平滑な Y 2 型ステムの術後 10 年の成 績1)では,stress shielding(応力遮蔽)の発生 頻度は 35 %であるが,osteolysis(骨融解)の 発生はなく,loosening(緩み)による再置換 例はない。しかし,ステムの 3 mm 以上の遠位 への移動(沈下)が 20 例中 8 例 40 %にみられ た。この沈下は現在のところ臨床成績を左右す る直接の原因にはなっていないが,今後の長期 の安定した関節機能の維持という点では解決す べき重要な課題である。このステムの沈下を防 止し固定性を向上させる対策としてステム表面 に 様 々 な コ ー テ ィ ン グ2 – 4)を 施 し b o n e i n -growth(骨新生による固定)を期待するデザ インが一般的となっている。しかしこの bone-ingrowth でステムが強固に固定された結果, 荷重応力はコーティング部分の遠位で骨へと伝 達される傾向があり,そのため大腿骨近位部の 骨への荷重応力の伝達が行われず stress shield-ing による骨吸収の進行が報告されるようにな った5–8)。この骨吸収の程度を左右する要因は, コーティングの部分とその範囲であるとされて いる。現在使用されているセメントレス(人工 関節の初期固定に骨セメントを使用しない)人 工股関節のコーティングの範囲は様々で,その 至適コーティング範囲については意見の一致が ないのが現状である9–12)。当教室では Y 2 型の 問題点である沈下の防止という観点から,Y 2 型ステムの形状を変更することなく,その表面 〒 409-3898 山梨県中央市下河東 1110 受付: 2009 年 8 月 28 日 受理: 2009 年 10 月 16 日原 著
にコーティングを施した Y 3 型の開発を計画し た。そして,Y 2 型ステムにおける至適コーテ ィング範囲を動物実験と 2 次元有限要素法技術 を使った成長ひずみ法を用いて検討した。 材料および方法 Ⅰ,動物実験:体重 10 kg 程度の雑種成犬 13 頭を用い,その一側後肢に当教室で開発した犬 用セメントレス人工股関節13)を挿入した。人 工臼蓋はチタン合金製(Ti6Al4V)金属ソケッ トにプラスチックスをねじ込み固定するメタル バック方式,大腿側はチタン合金製ステムの頚 部軸に人工骨頭を挿入するモジュラータイプと なっている。大腿骨ステムの近位 1/3 と全長を ハイドロキシアパタイトコーティングした 2 種 類,合計 13 個の人工股関節を準備した。なお 金属ソケットは臼底および 3 本のスパイクが骨 と接する全面をコーティングしている。チタン 合金表面を,表面粗さ Ra=1.4 µm にサンドブラ スト加工後,モル比 Ca/P = 1.66 のハイドロキ シアパタイトをフレーム溶射法により平均厚さ 20 µm でコーティングした。骨頭は全長コーテ ィング群 6 頭はコバルトクロム合金製,1/3 コ ーティング群は 2 頭がアルミナセラミックス, 残りの 5 頭はジルコニアセラミックス製であ る。手術はネンブタール静脈内麻酔下に大転子 を一時的に切離する前外側進入路でおこなっ た。術後は股関節軽度外転位,屈曲中間位で腸 骨 , 坐 骨 , 大 腿 骨 遠 位 の 3 部 位 に 刺 入 し た 3 mm のキルシュナー鋼線を軟鋼線とレジンで 固定する創外固定法を 3 週間おこなったのち, その後は自由に歩行をさせた。全長コーティン グ群は,術後 2 ヶ月,4 ヶ月,各 1 頭,6 ヶ月 と 1 年で各 2 頭を,近位 1/3 コーティング群で は,12 ヶ月で 1 頭,18 ヶ月で 4 頭,24 ヶ月で 2 頭を X 線撮影ののち,ステムが挿入された大 腿骨全長を摘出した。摘出した大腿骨は,X 線 前後像の撮影をおこないステムの挿入された範 囲を確認後,ステム挿入部の近位 1/3,中央, 遠位 1/3 の 3 ヶ所からステムと大腿骨が一体と なった厚さ約 1 cm の横断標本を採取した。こ れを 10 %ホルマリン固定後,エポン樹脂に包 埋,LECO 社製 Vari/Cut VC-50 を用いて薄切, 研 磨 に よ り 約 100 µm の 硬 組 織 標 本 を 作 成 。 contact microradiogram(以下 CMR)によりス 堀 内 忠 一
テム周囲の骨新生の状態を観察した。X 線所見 でステムの近位,中央,遠位の 3 ヵ所のうち 2 ヵ所が骨皮質に接している例を press-fit 良好 群,それ以外を press-fit 不良群として両群間に おけるステム周囲の骨新生の程度を CMR 像に より比較検討した(Table 1)。なおこの動物実 験は,山梨大学動物実験委員会の承認を得てお こなった。 Ⅱ,成長ひずみ法を用いたコンピュータシ ミュレーション: 2 次元有限要素技術をつかっ た成長ひずみ法を用いて,ステムのコーティン グ範囲の違いによって発生する stress shielding による骨吸収の程度をシミュレーションしてそ の結果を比較検討した。成長ひずみ法14–16)は, 応力やひずみエネルギー密度などを成長の一つ の基準として,それが基準値より大きいところ では膨張の体積ひずみを,小さいところでは収 縮の体積ひずみを発生させ,より均一な(バラ ンスの取れた)形態を目指す成長変形を解析で きる特徴がある。この方法を使うと,人工股関 節ステムの周囲の骨にかかる応力が小さい部分 は,その部分の骨の体積は減少し,応力が大き い部分では体積が増加する現象がおこる。そし て,骨にかかる応力やひずみエネルギー密度に よって,その物体の体積が時間とともに応力や ひずみエネルギー密度を均一化するように変化 する状況をコンピュータ上でシミュレートする ことができ,近年人工関節挿入状態での周囲の 骨の変化を検索する方法として利用されるよう になってきている17–19)。成長ひずみ法では,は じめに対象とする物体の有限要素モデルを作成 し,各要素の物性条件(ヤング率,ポアソン比) のデータと境界条件を入力する。このようにし て作成したモデルに対して応力を加え,分割し た各要素に発生する応力やひずみエネルギー密 度を解析する。各要素に発生したこれらの値を 各要素の評価パラメータとする。この評価パラ メータが,各要素の目標となる“評価パラメー タの基準値”よりも低ければ,その要素の体積 を減少させる。逆に高ければその要素の体積を 増加させ(成長)新しい形状を作成する。これ を式に表すと次のようになる。εijB= δijh ここで εijBは成長ひずみテンソル,Zi は各要素 の評価パラメータ,Z¯ は各要素の“評価パラメ ータの基準値”,δ はクロカネッカのデルタ,h は 1 回に許す体積の増減の大きさを規定する成 長増分比である。そして,一回の解析で各要素 の体積が増減し,新しい形状が出来上がった時 点で,変形した各要素を整形し,次の応力解析 を行う。この応力解析,成長,要素の整形,を 繰り返し,計算された各要素の評価パラメータ の値が一定となれば,その形状の各要素の応力 やひずみエネルギー密度は均一化されたものと 考え解析を終了する。もしくはあらかじめ定め た回数解析をおこなって最終形状を作成する。 今回の実験では,まず正常大腿骨の X 線写真 より正常大腿骨モデルを,そして Y 2 型人工股 関節のステムが挿入された X 線写真よりステ ム挿入モデルを有限要素モデルとして作成し た。ステム挿入モデルでは,ステムの表層に 1 層の薄い領域を作成して,この 1 層のヤング率 を変化させることにより疑似的にコーティング の部位を作成した(Fig. 1 −Ⅰ)。すなわち, この 1 層の薄い領域のヤング率をコーティング 部分はステムのヤング率と同様の 124 GPa と し,非コーティング部分は 0.001 GPa と非常に 小さくして軟組織がステムと大腿骨との間に介 在しているとした。これによりコーティング部 分は大腿骨とステムが直接接して,ステムから のストレスを大腿骨に伝達しやすいと仮定し, 非コーティング部分ではステムと大腿骨間に軟 組織が介在し,ストレスを伝達しにくいと仮定 している。そしてステムと大腿骨の境界線は移 動しないとした(Table 2)。コーティングの部 位は,(a)ステム全長,(b)ステム近位 1/4, (c)近位 1/2,(d)近位 3/4,(e)コーティン グなし,の 5 つとした(Fig. 1 −Ⅱ)。まずステ ム挿入モデルの成長解析を行うために,各要素 に分割した大腿骨の海綿骨,皮質骨の“評価パ ラメータの基準値(Z¯)”を決定しなければな らない。そこで正常大腿骨モデルを用いて以下 の様にして基準値を求めた。正常大腿骨モデル Zi– Z¯ Z¯
に対して骨頭中心と大転子の中殿筋付着部に二 ノ宮法20)で計算した荷重を加え,成長ひずみ 法による解析を行う(Fig. 1 −Ⅰ)。正常大腿 骨は生体内で力学的に最も安定した形状で,成 長ひずみ法による解析前後でも形状変化が少な いと考え,正常大腿骨の海綿骨,皮質骨の基準 値を様々に変化させ,解析前後で形状の変化が 少ない値を見つけ,正常大腿骨の各要素の“評 堀 内 忠 一
Fig. 1. I: Load condition in stress analysis A. Normal femur model
B. A thin layer was created on the surface layer of the stem C. Stem insertion model
II: The range of coating. (Black line is coating area.)
A. Fully, B. Proximal 1/4, C. Half, D. Proximal 3/4, E. No coating
価パラメータの基準値”とした。この基準値を ステム挿入モデルの大腿骨に適応し解析をおこ なった。各要素の基準値・成長増分比・ヤング 率・ポアソン比は Table 2 に示す値とした。解 析回数は 200 回とした。成長ひずみ法では,各 要素に生じる応力が基準値よりも小さいときに は各要素の面積を減少させ,逆に基準値よりも 大きい時には面積を増加させる。すなわちステ ム挿入モデルで大腿骨に stress shielding が起こ っている部分での面積は解析前後で減少する。 そこで Fig. 2 −Ⅰにしめす大腿骨の大転子部の 海綿骨と小転子部の骨皮質の面積の増減の程度 を計算することで,同部位での stress shielding の程度を比較検討することとした。 結 果 Ⅰ,動物実験: A,X 線所見:採取した大腿骨の正面 X 線所 見で,全長コーティング群では,X 線所見でス テムの近位,中央,遠位の 3 ヵ所のうち 2 ヵ所 が骨皮質に接している press-fit 良好群は 6 例中
Fig. 2 I: The area which calculates the rate of reduction.
(Black area was calculated. a): greater trochanter, b): lesser trochanter) II: The rate of area reduction for every coating models.
a) The area of greater trochanter, b) The area of lesser trochanter A, Fully, B. Proximal 1/4, C. Half, D. Proximal 3/4, E. No coating The degree of area reduction for the proximal 1/4 coating model was the smallest, followed by the no-coating model in each area.
III: Distribution of the strain energy density.
A. Fully, B. Proximal 1/4, C. Half, D. Proximal 3/4, E. No coating The 1st stress analysis for each model, and stress applied to the head of the stem was transmitted peripheral to the coating area for the coating models and to the cortical bone at the peripheral stem for the no-coating model.
5 例,press-fit 不良群は 1 例であった。そして press-fit 良好群では,X 線所見での固定性不良 の判断基準として臨床的にも利用されているス テ ム 周 囲 の 骨 透 明 層 を み る 症 例 は な か っ た (Fig. 3 −Ⅰ)。一方近位 1/3 コーティング群で は,press-fit 良好群は 7 例中 5 例,不良群は 2 例であった。前者 5 例では全例ステムの近位, 中央,遠位のいずれの部位でもステム周囲の骨 透明層をみる症例はなかったが(Fig. 3 −Ⅱ), press-fit 不良群 2 例では,ステム周囲には透明 層があってステム先端には反応性の骨硬化像を 認めた(Fig. 3 −Ⅲ)。 B, CMR 像 所 見 : 全 長 コ ー テ ィ ン グ 群 の press-fit 良好群ではステムが骨皮質と接してい る部分でステムを取り囲み,これと直接接する ような良好な新生骨形成をみた(Fig. 3 −Ⅰ)。 この所見は press-fit 良好群の 5 例全例に共通し ていた。一方 press-fit 不良の 1 例では,ステム 周囲の新生骨形成は不良で,近位,中央,遠位 のいずれでもステム周囲には骨透明層をみた。 一方近位 1/3 コーティング群の press-fit 良好群 5 例では全例近位,中央,遠位のいずれの部位 でもステムを取り囲むように良好な新生骨形成 をみとめた。なかでも骨皮質に接している部分 では,骨皮質と連続する旺盛な新生骨形成を示 し,骨皮質に接していない部分には,薄い層状 堀 内 忠 一
Fig. 3. Cementless artificial hip joint for canine. (X-ray, CMR) I: Full coating stem (12 Months post operation). There is no radiolucent zone around the stem (X-ray), and favorable new bone formation was seen in direct contact with the stem (CMR).
II: Proximal 1/3 coating stem (24 Months post operation). Favorable press-fit cases (X-ray). A thin layer of new bone formation surrounded the stem not in contact with cortical bone (CMR: middle section).
III: Proximal 1/3 coating stem(18 Months post operation). Poor press-fit case. Ra-diolucent zone was seen around the stem (X-ray; white arrows). A raRa-diolucent zone was seen all around the stem (CMR).
の新生骨がステム周囲を取り巻いていた(Fig. 3 −Ⅱ)。一方 press-fit 不良群 2 例では,いずれ も ス テ ム の 全 周 に わ た っ て 骨 透 明 層 を み た (Fig. 3 −Ⅲ)。ステム全長コーティング群と近 位 1/3 コーティングともにステムの近位,中央, 遠位の 3 ヶ所の内 2 ヶ所が骨皮質に接するよう に挿入された場合(press-fit 良好群)にはステ ム周囲には良好な新生骨形成がみられ,骨透明 層をみる例はなかった。一方 press-fit 不良群で はコーティング部分であってもその周囲には骨 透明層をとめ,介在物を介しての固定であっ た。 Ⅱ,成長ひずみ法によるコンピュータシミュレ ーション:大転子部の面積はすべてのモデルで 減少していた。200 回解析後の面積減少率は, A.12.69 % B.12.45 % C.12.69 % D.12.69 % E.12.47 %であり,近位 1/4 コーティングモデ ルがもっとも面積減少率が小さく,コーティン グなしのモデルが次に小さかった。一方小転子 部 で は A.13.29 % B.13.21 % C.13.29 % D.13.29 % E.13.27 %でありこちらも近位 1/4 コーティングモデルがもっとも面積減少率が小 さかった。この傾向は解析回数に関係なく,解 析回数を増やすと面積減少率の差は徐々に大き くなっていった(Fig. 2 −Ⅱ)。各コーティン グモデルで 1 回目の応力解析時の“ひずみエネ ルギー密度”分布図(Fig. 2 −Ⅲ)を見ると, ステムの骨頭部分に加えられた荷重はコーティ ングモデルではコーティング部の遠位で,コー ティング無しのモデルではステム遠位で皮質骨 に伝達されていると考えられた。 考 察 我々は動物実験の X 線所見と CMR による新 生骨形成の程度からステムの固定性の良否を評 価した。今回使用した犬用セメントレス人工股 関節の骨頭部分の材質は全長コーティング群が コバルトクロム合金製,1/3 コーティング群は アルミナセラミックスとジルコニアセラミック ス製と異なった材質であるが,術後 5 年から 10 年の人工股関節置換術の臨床例で,コバル トクロム合金製とセラミックス製骨頭で臼蓋の プラスチックスの磨耗に明らかな違いはないと いう報告があり21–23),今回の術後 2 年まで検討 ではステムの固定性には骨頭の材質は影響を与 えていないものと考える。今回と同様のデザイ ンの人工股関節を使用した動物実験で人工関節 のステム周囲の骨変化について 1974 年富田24), 1979 年唐沢25),1978 年永井26)が報告している。 それによれば,固定性が良好でステム周囲に骨 透明層のない症例では,その周囲に良好な新生 骨形成がみられると述べている。一方,臨床例 でセメントレス人工関節の固定性の評価は,ス テム周囲の骨透明層の有無と移動の程度で評価 されている。骨透明層の存在する症例では,ス テム周囲には線維性結合織があってその固定性 が不良であることが報告され,骨透明層が存在 しない場合には新生骨形成があって,それによ ってコンポーネントが良好に固定されていると 評価することに異論はない。以上の動物実験の 結果と数多くの臨床的報告を合わせて考える 時,今回の実験で,X 線所見と CMR でステム と骨の間に間隙がなく新生骨がステムに接触し ている場合は固定性が良好と評価した。 1990 年山本27)は犬用人工股関節のステム全 長にハイドロキシアパタイトとアルミナセラ ミックスコーティングを施した動物実験でのス テムの固定性について報告している。それによ れば,術後 3 ヶ月以上,最長 2 年 6 ヶ月の観察 において,CMR 所見ではコーティング材料の 違いによるステム周囲の骨新生の程度には明ら かな差はなく,良好な骨新生による固定性を左 右する最大の要因は,ステムの近位部,中央部, 遠位部の 3 ヶ所のうちいずれか 2 ヶ所が正面 X 線所見で骨皮質と接触していることであると結 論している。今回はハイドロキシアパタイトを ステム近位 1/3 にコーティングしたものとステ ム全長にコーティングしたものを比較したが, その結果,近位部,中央部,遠位部の 3 ヶ所の うち 2 ヶ所以上が正面 X 線所見で骨皮質と接 触している場合には,コーティング範囲に関係
なくステム周囲には,これと接するように良好 な新生骨形成を見たことから,固定性の良否に はステムのコーティング範囲は直接影響しない と考えた。 しかしもう一つの問題である stress shielding による骨吸収については動物実験では明らかに できなかった。以上の動物実験の結果から,ハ イドロキシアパタイトコーティングはその範囲 に関係なく豊富な新生骨形成による固定性を獲 得できることがわかったが,stress shielding に よる骨吸収については,明らかにできなかった ので,成長ひずみ法を利用したコンピュータシ ミュレーションで検討した。1994 年 Sinker ら28) はステムを全長,全長の 5/8,近位 1/3 部分の みをコーティングした場合の stress shielding の 発生について,有限要素法を用いたコンピュー タシミュレーションで検討している。それによ れば,stress はコーティング部分の遠位で皮質 骨に伝達される。そして,大腿骨髄腔形状は 様々な形態を示すので,ステムと骨皮質が接触 できる場所は比較的限定され,かつその部位が 一定でないことから,全長コーティングするこ とが多くの症例で安定した固定性が獲得できる 可能性が増大するとしている。しかしその場合 にはステム近位から中央部にかけて stress shield-ing による骨吸収が高率に発生すること,ソ ケットの弛みなどステムの固定性以外の問題が あって,再置換術を施行しようとしてもステム の抜去に難渋すること,豊富な新生骨形成が最 も期待できるのは海綿骨の豊富な転子間部であ ることなどから,臨床例においては,全長コー ティングよりは固定性が減少するが,抜去を考 慮した近位 1/3 コーティングが現実的と結論し ている。一方 1995 年 Huiskins ら29)は,全長を ポーラスコーティングしたステムと,近位 1/3 をポーラスコーティングしたステムでその固定 性と stress shielding の発生の危険性をコンピュ ータシミュレーションによって検討し,固定性 については両者に明らかな差はないものの,後 者のほうが stress shielding の発生頻度はわずか に減少すると報告している。他方 1988 年 Engh ら30)は全長コーティング,近位 2/3 コーティ ング,近位 1/3 コーティングした AML ステム を使用した臨床例で,術後の stress shielding の 発生を X 線所見によって比較して報告し,全 長コーティング例と 2/3 コーティング例では, 1/3 コーティング例に比べて 2 倍から 4 倍の頻 度で大転子部と小転子下の内側骨皮質に stress shielding がみとめられたと述べている。また 1998 年 McAuley ら31)は術後 5 年経過した近位 2/3 コーティングステム使用例では,約 25 % に Engh らの報告したのと同様の部位に stress shielding の発生がみられたと述べている。そ して高齢の女性で,体重が軽い症例では大腿骨 の荷重による負荷が少ないため高率に発生する 傾向があることと,直径が 15 mm 以上の剛性 が強いステム使用例に高頻度に発生することを 強調している。 したがって stress shielding は人工股関節置換 術を施行される患者の条件や使用するステムの 太さや長さ,さらにはデザインによってコー ティング範囲が同一であっても必ずしも stress shielding の発生頻度は一定でないと考えられ た。今回我々は stress shielding の解析に物体を 有限要素に分割し各要素にかかる応力の大小を 解析前後の面積変化とし観察する成長ひずみ法 を用いている。現在までの多くの人工股関節周 囲の骨変化についてのシミュレーションの報告 は同じく有限要素法を用いて,人工関節周囲の 骨に発生する応力の大小をある 1 つの形状に対 して計算し表示するものである6,28)。一方成長 ひずみ法は発生した応力に応じて周囲の骨が成 長し,形状が変化していく様子が観察できる点 がこれまでのシミュレーションと異なるところ である。 今回の検討結果から,Y 2 型ステムにおいて も,人工関節に作用した股関節応力を大腿骨に 伝達する部位はコーティング範囲に関係なく常 にその遠位部であり,近位 1/4 コーティングス テムが他のコーティングステムに比べて大転子 部,小転子部とも骨吸収による面積の減少が少 ないとの結果をえた。したがってこのデザイン 堀 内 忠 一
の人工股関節での至適コーティング範囲は近位 1/4 であると考えられた。 文 献 1) 堀内忠一,浜田良機: Y2 型人工股関節の術後 成績― 10 年以上―.骨・関節・靭帯,14: 49–57, 2001.
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