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同種股関節移植術に関する実験的研究

山口利仁・浜田良機・赤松興野

        山梨医科大学整形外科教室 抄 録われわれは,minor mlsmatch群を確認した生後8週のWister系ラット10匹の股関節 を,マイクロサージエリーの技術を応用して,生後8週の同系ラット10匹に移植した。recipient側 には術前3日より術後3週までサイクロスポリンとプレドニゾロンを投与した。結果は術中死亡例 3匹で,残り7匹のうち3匹は術後3週,2匹は術後6週で剖検した。なお残り2匹は術後3か月 以上にわたって経過観察中である。3週例では,血管縫合した栄養動静脈は開存し,大腿骨頭には 肉眼的および病理組織学的に虚.血性変化はなかった。術後6週例では骨癒合は完成し,大腿骨頭に は虚血性変化をみなかった。ラットにおける大腿骨頭栄養動静脈をpedicieとした同種股関節移植 術は可能で,本法は悪性骨腫瘍症例における,病巣の広範囲切除後の機能再建術に対する臨床応用 の可能性を裏付けるものと考えられる。今後は免疫抑制剤短期投与群をさらに長期間観察し,これ らの群における遅発性拒絶反応の有無について検索を行なう予定である。 キーワード 血管柄付き同種複合組織移植,股関節,サイクロスポリン

はじめに

広範囲骨・関節切除後の機能再建術の1つと して,マイクロサージエリーの技術を応用した 血管柄付き骨・関節移植術が注目されてきた。 われわれは既に昭和60年4月より関節移植に関 する動物実験を開始し,ラットによる大腿骨骨 幹部から膝関節までを含む複合組織の自家およ び同種移植実験で,血管柄を用いて筋肉および 骨・関節の機能を温存した同種移植が可能であ ることを明らかにしてきたb。  このたびはこの研究をさらに進めて,minor mismatch祥のラットを用いて,免疫抑制剤投 与下に,臼蓋と大腿骨頭の両者を同時に移植す る同種股関節移植実験を行なった。そこで,実 験方法の詳細と移植後6週までの骨および関節 軟骨の変化について報告する。 方 法 実験動物=静岡県実験動物農業共同組合より *山梨県中巨摩郡玉穂町下河東1110 受f寸: 1987杢F1月27日 購入した生後8週のWister系ラット10匹の股 関節を,日本チャールズ・リバー株式会社より 購入した生後8週のWister系ラット10匹に移 植した。この実験に先立ってこれら2系のラッ ト間で同種皮膚移植術をあらかじめ行なったと ころ,移植皮麿が術後7日以上生着し,14日前後 で脱落した。Yaremchukらの実験ではLewis 系ラットとBrawn Norway系ラット間での皮 慮移植術では移植片は7日で拒絶されるが, :しewis系ラットとFischer系ラット間では移植 片は!1日間生存すると述べていることから2), われわれの用いた2系のラットはmi簸or mis− match群と考えられる。  実験手技:ラット股関節の栄養血管の数や走 行については,ラットによる実験的ペルテス病 作成に関する論文の中で既に発表している3)4)。 すなわちラット大腿骨頭には4本の栄養動静脈 があり,この4本のうち股関節前面を下降する 2本の栄養動静脈の中枢部はそれぞれ1本の比 較的太い動静脈となって,外腸骨動静脈の大腿 動静脈起始部付近から分岐している(図1)。そ こで手術は鼠径靱帯を切断し,まず外腸骨動静

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面1 ラット股関節周辺の血管系:外腸骨動静脈の大腿動静脈起始部付近か    ら分岐し,股関節前面を下降する栄養動静脈の展開。 脈から大腿動静脈までを展開,大腿骨頭への栄 養動静脈の起始部を周囲組織より十分に:剥離 し,その走行を確認する。この動静脈を温存し つつ,股関節周囲筋群のうち屈曲・伸展・内山 筋群を付着部で切離すると大腿骨中枢は骨幹部 まで全周にわたって展開される。そこで大腿骨 を小転子よりやや遠位で,寛骨臼側は腸骨,恥 骨,坐骨を寛骨臼縁より約5mm離れた位置で 切断する。最後に,先の大腿骨頭への栄養動静 脈を外腸骨動静脈における分岐点で切断する と,この動静脈をpedicleとし股関節の関節包 を温存した血管柄付き移植関節が得られる(図 2)。  次にrecipient側でもdonor側と同様に股関 節を切除し,先に採取しておいた.血管柄付き同 種股関節を移植,キルシュナー鋼線で大腿骨お よび骨盤部の骨を固定した後,donor側の栄養 動静脈をrecipient側の大腿動静脈と端々縫合 する。そして大腿骨頭への血流の再開を確認し て創を閉鎖する。  なおラットでは大腿中央部で大腿動静脈を切 図2 股関節周囲筋群を付着部で切離。大腿骨    は小転子よりやや遠位で,寛骨臼側は腸   骨,恥骨,坐骨を寛骨臼縁より約5mm   離れた位置で切断する。その結果大腿骨   頭への栄養動静脈をpedicleとし股関節    包を温存した血管柄付き移植関節が得ら    れる。

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サイク・スポリン15mg/k・/d・y(経・) i プレドニゾロン0.5mg/kg/day(筋注)   i 薬剤名 @と g用量 ・ケフラール20・g/kg/d・y(経・) i決黶EU/㎏/12h㈱  iI      I

翻贈  轡  響

  日  日       週        週 図3 同種骨・関節移植術前後の薬剤の投与法 呈しても,術後の下肢の血行は側副血行路によ り良く保たれ,末梢側が壊死する危険性はない。  本実験における薬剤の投与としては,人への 投与量および投与方法を参考にして,免疫抑制 剤としてサイクロスポリン15mg/kg/dayとプ レドニゾロン0.5mg/kg/dayを術前3日より 術後3週まで投与し,さらに術後にヘパリン 50U/kg/12 hを術後2週まで投与した(図3)。 なお術後3週以後はこれら薬剤の投与を中止 し,術後3週,さらに6週で剖検して,骨や関 節軟骨の変化をX線学的,病理組織学的に検索 した。 結 果  術中死亡例は3匹で,残り7匹は術後3週以 上生存している。このうち3匹を術後3週,2 匹を術後6週で剖検した。なお残り2匹は術後 3か月の現在生存し,経過観察中である。  1. 術後3週(生後13週)例。  術後3週までは全例術側下肢を後外方にはね あげ,荷重をかけずに歩行する。  X線所見:股関節の脱臼や不安定性はなく, 大腿骨頭には偏平化や陥凹さらには骨透明像な どの阻血性壊死による変化をみない(図4一(a))。  剖検時所見:縫合した動・静脈は開存してお り,股関節周囲や股関節包丁に肉芽組織の増生 はない。大腿骨頭や臼蓋の関節軟骨は白色で光 沢があり,表面はきわめて平滑で異常をみない (図4一(b))Q  病理組織所見:軟骨細胞の変性やlacunaeの 空胞化,さらには軟骨柱の配列異常などはなく, (a) ︶ b ︵ (c) 図4 術後3週(生後13週)例:(a)X線像で,   股関節の固定性は良好。大腿骨頭に偏平   化,陥凹,骨透明像などの壊死性変化は   ない。(b)剖検時所見では,縫合した動静   脈は開存しており,股関節周囲や股関節   開顕に肉芽組織の増生はなく,大腿骨頭   や臼蓋の関節軟骨にも異常をみない。 (c)   病理組織所見では,軟骨細胞の変性や   lacunaeの空胞化,さらには軟骨柱の配   列異常などの変性はなく,軟骨下骨組織   でも骨細胞の壊死や骨髄腔の細胞に異常    を認めない.

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繭▲翻

 拶  股

聯\

㈲ (b) (・)  大腿骨接合部

図5 術後6週(生後16週)例:(a)X線像で,   骨接合部に骨癒合がみられ,固定性は強   固で,大腿骨頭にも虚血性変化をみない。   (b)剖検時所見では,骨接合部の固定性は   良好で,骨頭軟骨にも特に異常所見はな    い。(c)病理組織所見では,関節軟骨に萎   縮を認めず,軟骨細胞の変性や壊死,さ    らに軟骨下骨組織の壊死性変化もみない。 軟骨下骨組織でも骨細胞の壊死や骨髄腔内の細 胞に異常を認めない(図4一(c))。  他の2例においても同様の所見であった。  2. 術後6週(生後16週)例。  術後6週でもラットは歩行時,患側下肢に荷 重しないが股関節にはある程度の関節可動域が みられるようになる。  X線所見:骨接合部に骨癒合がみられる。股 関節の脱臼や不安定性はなく,関節裂隙はよく 保たれ,大腿骨頭壊死の所見をみない(図5一 (a))。  剖検時所見:骨接合部の固定性は良好であ る。股関節周囲の肉芽組織の増生は目立たず, 大腿骨頭軟骨にも特に異常をみない(図5一(b))。  病理組織所見:大腿骨頭の関節軟骨には軟骨 基質の丘brillation, lacunaeの空胞化,さらに は軟骨細胞の集合などはなく,軟骨下骨組織に も壊死性変化を認めない(図5一く。))。  他の1例においても同様な所見であった。 考 察  1. 関節移植について  心臓や腎臓などと異なり,骨移植では移植後 の組織が壊死に陥っても骨組織は再構築される ので,広範囲の骨欠損後の再建術には,凍結同 種保存骨移植が既に臨床に応用されている。し かしこの方法による関節移植では,軟骨細胞の 再生はなく,移植後関節軟骨は変性に陥り関節 の可動性は得られず,良好な関節機能の回復は 期待できない。これらの理由から現在では人工 関節抜去後のサルベージ手術5)や腫瘍切除後な どには,関節の一一部つまり半関節6)が冷凍保存 関節移植法により利用されているにすぎない。  なお,関節機能再建例の1つとして人工関節 を用いる方法がある。しかし人工関節は素材の 強度,さらには骨と人工関節の接合の点などに な:お問題点を残し,60歳以上の高齢者ではとも かくとして,若年者では術後早期にloosening をきたす危険もあり,現在のところ適応はない。  これらの問題点を解決するため,最近若年者 における関節機能を再建する方法の1つとし て,同種血管柄付き関節移植が注目されてきた。 サイクロスポリンを用いた同種複合組織移植に 関する実験としては,海外では1982年Blackら7)

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がラットを用いた同種下肢移植例を報告してい るが,本邦では1986年佛淵ら8)がラットの大腿 骨部を切断し同種肢移植に成功した報告が最:初 である。しかしこれら下肢全体の移植とは異な り,単独の関節機能の再建術は術後の血流の温 存など技術的に困難な点が多い。したがって股 関節の同種移植実験の報告は現在までなく,そ こでわれわれは新鮮同種股関節移植実験に挑戦 した。  2.免疫抑制剤と投与法  サイクロスポリンは1976年Borelにより発見 され,Calaeにより臨床に応用された9)。動物 実験におけるサイクロスポリンの投与期間につ いて落合10)は,組織適合抗原の異なったラット の心臓移植実験において,非投与群では平均 6.6日で拒絶されるのに対し,移植後10mg/ kg/dayを14日間投与した群では半永久的に生 着し,免疫学的寛容状態が成立すると報告して いる。また佛淵ら8)の同種肢移植の実験では, minor m.ismatch群において,サイクロスポリ ンを20日間投与すれば自家移植群と同様の生着 率が得られると述べている。またわれわれの実 験結果では,15mg/kg/day量のサイクロスポ リンを術前3日から術後3週間投与したラット では,その投与期間中餌の摂取量や運動量の低 下がみられ,さらには術中の死亡率が高いな ど,全身状態の変化が考えられ,ラットにおい てはサイクロスポリンの投与は術前3日より術 後3週までが限度と考えているが,今後は血液 生化学的所見や剖検時の肝臓および腎臓などの 病理組織学的所見についてさらに検索が必要と 思われる。  3.免疫抑制剤投与下の同種股関節移植  西本恥は免疫抑制雨意投与下の同種移植関節 を長期観察したところ,術後6ヵ月頃より,非 石灰化軟骨層のallo抗原性を有する軟骨細胞 により遅発性の拒絶反応が出現し,関節軟骨 が変性に陥ると報告している。一方,1983年 Goldbergら12)は,免疫抑制剤投与下に家兎の 同種膝関節移植を施行し,関節軟骨の変性につ いて術後18ヵ月後も関節軟骨には拒絶反応によ る変性をみなかったと報告している。われわれ の免疫抑制剤投与下に血流を温存したラットの 新鮮同種股関節移植でも術後3週例,さらに術 後6週例においても,X線像で大腿骨頭には壊 死性変化をみず,また股関節の固定性も良好で, 6週例においては骨接合部で骨癒合をみた。ま た縫合した動・静脈は開存しており,股関節周 囲や股関節同一に肉芽組織の増生はなく,大腿 骨頭や臼蓋の関節軟骨に異常所見はなかった。 以上の結果から術後6週までの短期間ではある が,免疫抑制剤投与臣下で,新鮮同種移植した 股関節は弾着し良好な関節機能を発揮できるも のと考えている。  今後は免疫抑制剤短期投与群をさらに長期間 観察し,これらの群において遅発性拒絶反応が 出現するか否か検索を行なう予定である。 ま と め  1. ラヅト大腿骨頭への栄養動静脈をpedicle とした同種股関節移植術は可能である。  2. 本術式は悪性骨腫瘍症例における広範囲 切除後の機能再建術に応用出来る可能性を有し ている。 ︶ 1 ︶ 2 ︶ 3 ︶ 4 ︶ 5 ㍉︸1“ 6 文  献 浜田良機,山口利仁:複合組織移植に関する実 験的研究。移植,21,95−96,1986. Yaremchuk, M. J., Nettelblad, H. et al.:Vas− cularized bone allograft transplantation i!}a gelletically defh1αl rat modeL PIast・Reconslr・ Surg。75β55謁62,1985・ 山口薬浴,赤松功也,浜田良機:ラットによる 実験的ペルテス病の作成.Hip Joint’85, Vo1. 11 84−88 1985.  ,      } 山口利仁,赤松功也,浜田良機:ラットによる 実験的ペルテス病の作成(第2報)一一一バイペダ ルラヅトを中心にして一.中部整災誌,29, 1023−1026  1986.     , McGam〕, w., Mallmh1, H. J., ct aL:Ma7slvc a玉logra{dng for severc 髭芝iled total hip rc− praccmcnしJ.130ne Joint surg.,68−A,艦12, 1986. 西崎博已,緒方公介ほか:部分同種関節移植に よる膝関節形成術を行なった1症例。整災外, 30  599−601  1983  }      ♪        肇

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︶ 7 ︶ 8 ︶ 9 二【う1.ac1(, 1く.. S., He、vitt  C. 「『Aノ., et  ai.:  Cosrnas and Damia捻in出e iabor21to璽「y・N. EngL J. Me(1.,396, 368−369, 1982. 佛淵孝夫,貝原信紘ほか:全関節同種移植の実 験的研究  サイクロスポリンを用いたラット の同種肢移植モデルより  。移植,幻,10㌫ 106 玉986    ,         蟹 雨宮 浩:拒絶反応抑制とサイクロスポリン A. 循環科学,5,834−839,1985. 1.0> ll) i2) 落合武徳,坂本 薫ほか:免疫抑制薬一 サイ クロスポリンの効果と作用機序  ,臨床免疫, 17  167−174  1.9.85.   ,      , 西本裕俊:岡種股関節移植に関する実験的研 究  組織学的および免疫学的検索を中心とし て.中部整災誌,26,1963−1977,1983. Go里dber9, V. M., Heiple, K・G・::Experime1・一 tal hemij・int alxhvhole−joint transplan亡a− tioh. C}in. OrthOP。,茎74,43−53,1983. An氾xperi燃enta至Study o夏玉Vascu嚢arized Allogm£t of弍he]臼量P Joi磁  Toshihito Y撮叢aguch量, Yoshi韮{i Hamada an“〕Noriya Akama£su ρ6/フ‘げ々π67τ孟。プ0γ’/∼oカαβ‘だ6∫πγ98?ツ y‘’η襯γ1ωん乞Mε‘海6α1Co”898    Vascし芝larized all・gra£tin9・£the hip l・i1コ口 was perf・rmed in ten 8−weeks一・1(hats・ln the experiment, the pedicle includi豆1g the a貰e1二y suPPIyi互1g the femoral hea(1 w践s use(L and cyclo− sporine読n(1 pre(11玉isoloue were admi垣st¢redωthe recipie煎rat between three days before alld three wceks a£ter漁e oper飢io夏玉 Three of them died during operation・Three盆t three weeks an(1 tW・at Six weekS a£ter the・perati・n Were aUt・pSie&The tWO・t1ユer ratS Were f・11・Wed・Up £or nlore £.han three 1灘0無thS。    N・iSChemidndingS SUCh aS degene磁・・e Change Oh授iCular C繊ilage Or neCr・tiC Challge ・f之he subch・ndral b・ne in fe㎜・}・技l heads were・bserved radi・grap董㌃ically・r micr・sc・pically i簸 any of the autopsied ra£s・    We co重}cluded that experimenωvasc判こ1arized allografti1・g of the hip joh㌃£usi1ユg rats is possible, alxl that 縫竃e lnethod may be Hseful丑or reconst貰1αive surgery af£er radical excisio1} of 1γ1alignant bone tumor of the prOximal fe㎜駕1L Key words:vascularlzed hip loi鼠allograft, joints transp1韻at量on, cyclosporine

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