山梨医科大学第二外科における肺癌手術症例の検討
―初期例と最近例の比較による背景因子の変化動向―
山梨医科大学 第二外科 伊従敬二 吉井新平 鈴木章司 保坂茂 橋本良一 松川哲之助 多田祐輔 はじめに 1983年10月開院以来当科において肺癌 に対する外科的治療を開始し、1992年5 月まで122例の手術を経験した。今回こ れらの症例のうち初期30例が術後5年を 経過したため、最近の30例と比較し、疫 学的動向を中心に検討したので報告をす る。また、初期30例に関しては遠隔成績 に関して検討したので、あわせて報告す る。 対象および方法 当科において、1983年11月から1987年2月までの3年3か月間(前期)と、19
91年2月から1992年5月までの1年3か
月間(後期)に外科的治療を行ったそれ ぞれ連続30例を対象とした。これらの症 例にっき、疫学的検討、組織・Stage・ 根治度等、また術後補助療法、遠隔成績 男 女 図1.男女別症例数 自覚症状 (P<0.05) 検診他疾患治療中繍[二三二[三コ
後期 (30例) 20 症 例10 数 図2.発見動機 20 症 例10 数1埠ll l:雛
癌 イ 癌 ド 図3.組織型別症例数 c ラ f’等にっき、前期例と後期例で比較検討し た。なお、前期症例は旧肺癌取り扱い規 約によってStage決定されたが、改訂後 の方法に改めて提示した。有意差の検定 はX2検定により、 P〈0.05を有意とした。 結果 Stage 前期 (30例) 1 ∬ 皿A w 後期 (30例) 12 4 13 18 1 10 1 1 図4.Stage別症例数 皿B 1.年齢および男女別症例数 年齢分布は、前期で48−78才、平均62 .0才、後期で39−80才、平均67.5才であ った。男女別では前期で男性25例、女性 5例、後期で男性18例、女性12例と女性 の割合が有意に増加した(P〈0.05,図1)。 2.発見動機別症例数(図2) 自覚症状による発見は、咳、疾、胸痛 等なんらかの肺癌に関係した症状がある ために医療機関を訪れ、肺癌を発見され た群であり、前期17例、後期9例であっ た。検診による発見は、前期6例、後期 16例で後期に有意に多かった(P<0.01)。 また他疾患治療中の発見は、前期、後期 に有意差はなかった。 3.組織別症例数(図3) 扁平上皮癌は前期30例中18例(60%),後 期30例中10例(33%)で、後期において扁 平上皮癌の占める割合が減少し(P〈0.05)、 同じく腺癌では前期6例(20%)、後期17 例(57%)で腺癌の割合が増加した(P<0.0 1)。また女性のみでみると、腺癌の割合 が前期5例中2例(40%),後期12例中11例 (92%)と後期に有意に増加した(P<0.05)。 一致症例 不一致症例 前期 (30例)
繍[二三三コニコ
図5.手術前後でのstage 一致,不一一致症例数 絶対的治癒切除 相対的非治癒切除 鮒的治醐除\絶対的非治醐除 前期 (30例) 後期 (30例) 13 13 2 2 14 13 2 1 図6.根治性の評価別症例数 実施例 非実施例 前期 (30例) 「一一一一一一一一一二三=::::::::::::::]「一一 後期 5 11 (30例) 図7. 1 化学療法実施の有無4.Stage別症例数(図4) 前期に比較して、後期はStage Iの割 合が増加傾向にあったが、有意差はなか った。 5.手術前後でのStage一致率(図5) 前期では一致症例16例55.3%で、後期 21例70%であった。 6.根治性の評価別症例数(図6) 前期、後期ともに絶対的治癒切除、相 対的治癒切除となった症例の割合が多い が、前期、後期に有意差はなかった。 7.化学療法実施の有無(図7) 実施例は前期で26例、後期で18例と減 少しているが、後期例ではNeoadjuvant として7例に術前に化学療法が行われ、 そのうち5例は術後にも行われた。 8.放射線療法実施の有無(図8) 前期4例、後期2例であった。 9.前期症例の5年生存率 (a)Stage別5年生存率 図9aに生存曲線を示すが、5年生存率 で比較すると、Stage Iで75, O%, Stage I,IIでは62.5%, Stage IIIAでは38.5%, 全症例で50%となった。 (b)根治度別5年生存率 図9bに生存曲線を示すが、5年生存率 で比較すると、絶対治癒切除例では69.2 %,相対治癒切除例では38.5%となった。 (c)死因の検討(表1) 前期症例で5年以内に死亡した症例の 死因を示すが、全身転移8例、局所再発 2例、他病死その他が5例あった。 実施例 非実施例 100 き (率 刀j、。 図8.放射線療法実施の有無 毒 (率 刀j、。 図9a.生存曲線:Stage別,前期(30例) 図9b.生存曲線:根治性の評価別,前期(30例) 表1.死因の検討;前期(30例) 再発{k#gg 他病死,その他 8 2 5 計15例 年 年
考察 当科における肺癌に対する手術症例は 年々増加しており、開院当初年間10例前 後であったが、現在は年間30例前後の症 例を経験するようになった。これは過去 に比較して最近は肺癌に対する関心の高 まりや検診の普及により症状発現以前の 早期に発見されるようになったためと思 われる。 吉村1)の1978年から1980年の第4次全 国集計によると、平均年齢は62,4才であ ったが、我々の症例では前期で62.0才、 後期で67.5才と後期にやや高齢となった。 また同集計では男性77.6%,女性22.4%で あったが、我々の症例では前期で男性83 .3%,女性16、7%,後期で男性60.0%,女性40 .0%と特に後期で女性の割合が多い。ま た女性では腺癌が多いことがこれまでに も報告されているが2)、今回の検討でも、 女性の腺癌のしめる割合が多く、女性の 肺癌が増加するとともに全体に対する腺 癌の割合が増加した。 今回根治性に関して前期後期で比較し たが、Stage Iの症例の割合が増えっっ あるにも関わらず、絶対的治癒切除とな った症例の割合に前期、後期で差が認め られなかった。これは後期Stage Iの症 例にP、、P、であったために相対的治 癒切除となってしまった症例や、高齢や 心疾患合併等の理由によりR。郭清とし た症例のためと考えられる。 近年、外科治療のほかにも化学療法、 放射線療法を積極的に行う傾向にあり、 特に進行例に対してNeoadjuvant chemo− therapyが行われ、腫瘍の縮小により、 手術操作が容易となり、また予後の向上 が得られる可能性があるという報告もあ る3’。更に小細胞癌ではDown stageした ものに対して手術の対象とする方向もみ られる4)。また進行例に対しては術前に Chemotherapy及びRadiationを行い、切 除率、予後の向上をはかる積極的な施設 もみられる5)。我々も、後期7例(23%) に対してNe。adjuvant chemo th erapyを行 った。 肺癌の術後Stageが予後を左右するこ とより6’、術前より正確なStage診断が 行われ、適切な治療が行われることが望 まれる。今回の検討ではStage一致率は 前期で55%,後期で70%と山口ら7’の54% に比較すると診断技術が後期において一 見向上したかに見えるが、その内容に関 してはさらに充分な検討が必要である。 また不一致の原因としてN因子を正診で きないことが言われているが、我々の症 例もそういった傾向にあった。 前期症例の5年生存率をみると、全症 例で50%,1期75%,1,II期62.5%,皿期38,5 %であった。国立がんセンターの報告8’ では、1980年代の非小細胞癌の5年生存 率は全症例で43.6%,1期74.1%,II期50.8 %,MA期28.9%, lll B期16.2%, IV期10.1%
で、これらと比較して我々の成績もほぼ 同様と言える。後期30例の予後が現在の ところまだ算出できないが、前期と比較 してより集学的治療が行われており、多 くの報告と同様に予後の向上しているこ とを期待したい。 まとめ 開院以来1992年5月まで当科において 122例の肺癌に対する手術を経験した。 今回これらの症例のうち初期30例が術後 5年を経過したため、最近の30例と比較 し、疫学的動向を中心に検討した。また 初期30例に関しては遠隔成績に関して検 討した。その結果、以下のような結論が 得られた。 1)女性の割合が増加した。2)発見動機 として自覚症状が減り、検診例が増えた。 3)扁平上皮癌の割合がへり、腺癌の割合 が増えた。4)Stage Iの症例の割合が増 える傾向にあった。5)手術前にも化学療 法が行われるようになった。6)前期30例 の全例による5年生存率は50%であった。 誌、 3 : 396−401,1989. 3)西山祥行、西脇 裕、他:皿期c−N、 非小細胞癌に対するne。adjuvant che−’ motherapy症例の検討。日呼外会誌、 4:340−348,1990, 4)Baker,R. R.,Ettinger,D. S.,et a1:The rOLe Of SUrgery in management Of selected patients with small cell carcinoma of the lung. J. cLin. onc− ol, 5:697−702,1987. 5)Yashar J.,Weiberg A,,et a1: Preop− erative chemotherapy and radiation therapy for stag皿acarcinoma of the lung. Ann Tborac Surg 53:445− 448,1992. 6)大田満夫、原 信之、他:原発性肺癌 切除例の遠隔成績、肺癌、25:77−83, 1985. 7)山口 豊、藤沢武彦、他:肺癌の外科 治療、日胸、43:261−268,1984. 8)成毛翻夫、近藤晴彦、他:肺癌の手術 成績はどれほど向上したか?、日胸外 会誌、38:152−155,1990. 文献 1)吉村克俊:全国集計からみた肺癌の治 療と予後を左右する因子について.日 胸44:169−180,1985. 2)阿部能明、吉村博邦、他:原発性肺癌 切除例における予後の検討。日呼外会