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社会科
キー・コンピテンシーの概念を取り入れた社会科学習
-国民の司法参加「最高裁判所裁判官を審査する」の授業実践- 水谷哲郎 本論の要旨 知識基盤社会やグローバル化が一層進む現代において,社会科学習を通して世界や日本に関する 基礎的教養を培い,国際社会に主体的に生き,公共的な事柄に自ら参画していく資質や能力を育成 することが求められている。そのためには基礎的・基本的な知識・技能や概念の習得とともに,思 考力・判断力・表現力等を確実に育むための言語活動の充実を図り,社会参画に資する意識や態度を 育成していくことが重要である。社会科の目標である「公民的資質の基礎を養う」とは,社会認識 を形成した上で,よりよい社会の創造に貢献できる「市民的資質」を育成することである。よき市 民として必要な市民的資質とは,最終的には行動化されなければ意味を持たないが,中学校段階に おいては,多面的・多角的な思考・判断力の育成と合理的意思決定の学習経験の蓄積が将来の市民 的資質の育成につながると考える。特に熟考することを重視し,PISA 型読解リテラシーとその上 位概念であるキー・コンピテンシーの要素を授業に取り入れ,他者との協同の学びを重視して,知 識を再構成し,市民的資質につながる思考力・判断力の育成を目指した授業を実践した。 キーワード 市民的資質,PISA型読解リテラシー,キー・コンピテンシー,協同の学び,知識の再構成 1.研究主題によせて (1)はじめに 社会科が暗記教科といわれて久しい。覚えさせる ことが多い,覚えなくては思考も成り立たない,入 学試験に対応するためと,一応はもっともらしい理 由がつけられている。学習者である生徒たちも考え ることの有用感を経験したことはあっても面倒が り,長い文章で論述することを避け,記号選択や単 語での正答を好む傾向にある。目的も見出せず暗記 することは苦痛でも,単純に覚えたことが試験の点 数に結びつくほど手っ取り早いことはない。また, 社会科教師自身も生徒たちよりは豊富な知識を伝授 し,教科書に載っている事項を覚えさせることを目 的化していることがある。覚えさせるだけではだめ だ,思考力や判断力,他者に対する説得力に満ちた 表現力の育成が大切だと考えてはいても,それらの 育成が社会科の目標である公民的資質の育成にどの ようにつながるのか,また公民的資質とは何なのか ということをおぼろげながらにしか説明できないの ではないだろうか。制度や知識の教授に力点が置か れ,よりよき市民として生きる,よりよい社会を創 るための基盤としての価値観,概念,意欲の形成に つながっていないのではないかと反省する。日々の , , 忙しさに流され 一授業時間の目標さえ曖昧なまま 当然のこととして単元全体やさらには教科全体の目 標を意識しないまま授業をこなすことがある。学習 指導要領が改訂され,社会科授業を改善するために 多くの視点が示された今こそ,社会科学習の課題を 整理し,授業における改善策を模索していきたい。 (2)改訂学習指導要領と社会科学習の課題 社会科改訂の基本的方針は,以下の3点である。 ①基礎的・基本的な知識・技能の習得・活用・探究 ②言語活動の充実 (1) ③社会参画,伝統や文化,宗教に関する学習の充実 社会科の学力については今までからも多くの議論 。 , が交わされてきた 目標を社会認識を主とするのか 市民的資質の育成にまで拡げるのか,測定や数値化 可能な内容が中心か,関心・意欲・態度までを含め , 。 , るのかなど その視点や範囲は様々である 加えて 基礎・基本 とは何かなど,用語の定義を含めれば(2) 非常に難しい。学校教育法で規定された学力の重要 な要素 をもとに考えれば,基礎的・基本的な知識(3) ・技能は,生涯にわたって学び続けるための基盤で ある。それらを“覚える”だけに止めないで,課題 を探究する過程で活用する学習経験を積ませたり, 有用感を持たせたりすることで,より幅広い知識を 習得し,技能が深まるような手立てを講じたい。 ①に関していえば,習得→活用→探究という一方 通行の段階的過程ではなく,習得して身に付けた知 識・技能を,探究を通して有効に活用していくこと で新たな知識や技能が身に付けられると考える。 ②に関して中教審答申は,基礎的・基本的な知識 ・技能とともに,思考力・判断力・表現力の確実な育 成を求めている。具体的には,観察・実験やレポー トの作成,論述など,各教科の知識・技能を活用する具体的な学習活動例を示している。社会科であれ ば 「社会見学のレポートにおいて,視点を明確に, して観察したり,見学したりした事象の差異点や共 通点をとらえて記録・報告」,「説明したり,自分の 解釈を加えて論述」,「事象間の関連を説明 「資料」, を読み取らせて解釈させたり,議論などを行って」 などの表現で,具体的に言語力育成に関わる言葉が 入っている 。これらの活動は,現行学習指導要領(4) でも「様々な資料を適切に収集し,活用して事象を 多面的・多角的に考察し公正に判断するとともに, 適切に表現する能力と態度を育てる」ことを各分野 共通の目標としていることから,全く新しいことで はない。ただし,この目標の実現を目指し 「社会, 的な見方や考え方を養うことを一層重視する観点に 立って,社会的事象の意味,意義を解釈する学習や 事象の特色や事象間の関連を説明するなどの,言語 活動に関わる学習を一層充実する」 ことが求めら(5) れているのである。 このような要請は,PISA2006の読解リテラシー の結果が PISA2003よりもさらに低下したこと,特 に自由記述や熟考・評価の問題で正答率が低かった ことによる 。このように分かりながら深く考える(6) 熟考や自分の意見を根拠に基づいて論述することに 課題があることは以前からも指摘されており ,平(7) 成20年6月に発表された「特定の課題に関する調査 (社会 」の結果からも次のような課題が指摘され) (8) た。 ○用語としては知っているが,類似語の混同があり,意味 や概念の理解が不十分。 ○複数の資料から必要な情報を読み取り,分かったことを まとめたり,総合的に解釈したりすることに課題。 ○自分の考えを根拠を挙げて説明する力が不十分。 このような課題を改善するために,学習指導要領 では社会科の改善の基本方針として次のような具体 (9) 的事項が示された。 ○社会的事象に関心をもって多面的・多角的に考察し,公 正に判断する能力と態度を養い,社会的な見方や考え方を 成長させることを一層重視。 ○社会的事象に関する基礎的・基本的な知識・概念や技能 の明確化と確実な習得。それらを活用する力や課題を探究 する力を育成する観点から,資料から必要な情報を集めて 読み取ること,社会的事象の意味・意義を解釈すること, 事象の特色や事象間の関連を説明すること,自分の考えを 論述することを一層重視 (傍線筆者)。 ○わが国の国土や歴史に対する愛情を育む。日本人として の自覚をもって国際社会で主体的に生き,持続可能な社会 を目指すなど,公共的な事柄に自ら参画していく能力や資 質を育成することを重視。 以上のような課題を踏まえ,市民的資質の育成を 目指した社会科学習として,思考力・判断力・表現力 の育成を,キー・コンピテンシーの3つのカテゴリー と関連づけて授業を構想し実践した。 2.研究仮説 自分と社会とのつながりを意識し,公正な判断を くだす力の育成を重視した社会科学習を展開すれ ば,社会的事象を主体的にとらえ,自ら社会と関わ り,将来にわたってよりよい社会の創造に貢献しよ うとする市民的資質を育成できるであろう。 3.研究方法 キー・コンピテンシーの3つのカテゴリーを社会科 の授業に取り入れる。 ①読解リテラシーを育成するため,資料を基に社 会的事象を解釈し,多面的・多角的に考察した , 。 り 論述・表現したりする学習場面を設定する ②生徒同士の学び合いを重視し,4人班を中心と した協同型課題追究学習を行う。 ③社会的事象を熟考・評価し,意思決定の経験の 蓄積を通し,自律的に行動し,社会に貢献しよ うとする市民的資質につながる思考力・判断力・ 表現力の育成を図る。 (10) キー・コンピテンシーのカテゴリー 4.研究の方向 (1)キー・コンピテンシーが求められる現代社会 知識基盤社会においては生産性の向上と経済成長 の原動力として「知識」が中心になり,専門職に対 する人材要求が増大(11)し,知識の重要性がさらに 高まる。この場合の「知識」とは記憶量のことでは なく,使いこなせる教養としての知識を指し “基, 盤”としての知識そのものではない。それらを活用 して生み出される知識創発性(12)や知識応用性に今 後は高い価値が与えられるのである。すでに先進国 では繰り返し作業が中心の単純労働は低賃金化し, 産業自体が労働コストの低い国に移転(産業の空洞 化)するかロボットが代替してきている。高度経済 成長期であれば決まった手順に従って与えられた課
題を素早く正確にこなす労働者が求められたが,今 後は解決方法が見えない,答がひとつではないよう な課題に対し,広い知識を基に柔軟に思考して判断 したり,周囲と協力して問題を解決したりする知的 創造性や協調性が求められる。これはキー・コンピ テンシーそのものといえる。 (2)読み取りから熟考・評価,論述へ キー・コンピテンシーのカテゴリー1を社会科に 当てはめれば「社会的事象から学習課題を見出して 追究・解決し,社会的な見方や考え方を深め,自ら 社会生活に生かしていくために,資料から必要な情 報を読み取り,それらを活用し,社会的事象の特色 や因果関係,社会的な意味(意義),影響,自分との つながりや将来あるべき方向性について考察する能 力」となる。社会科で資料を用いない授業は考えら れず,資料から読み取ったことを考察するという活 動は今までからも行われてきた。ただ,単なる読み 取りに止まり,教師の補足で断片的知識の定着を促 すためだけに終わらせるのではなく,知識を活用し て最終的に社会参画する力に結びつけていく筋道を 視野に入れたい。知識を問う学びから知識を活用す る学びへの転換が求められているのである。 具体的には,文章,グラフ,表,写真から読み取 れることをノートに書き出させる(情報の取り出 し),取り出した内容から分かること,類推できる ことの考察(解釈,推論 ,自らの経験や既有の知) 識,考えとの関連付け,事象の意味(事柄,内容, ねらい)や意義(価値や重要さ ,特色,因果関係) (原因と結果,背景,影響 ,自分とのつながりや) 将来あるべき方向について考察したり,互いに評価 したりする(熟考・評価 ,という活動を段階的に) 意識して取り入れたい。 論述の指導段階 第1段階:何となく,よく分からないけれどもそう思うといった 段階から,一面なり部分的なりであっても,根拠が述べられ ているものへと変容させていく指導。(感覚的認識からの脱 却) 第2段階:一面的・部分的なとらえ方から,より多面的,全体 的な把握と認識の地平を広げていく指導。(多面的認識の 獲得) 第3段階:単純に自分の好き嫌いで物事をとらえるのではな く,根拠をより明らかにし,明瞭に自分の立場から考えを述 べるものへと高めていく指導。(認識の明確化) 第4段階:これまでの自分の考え方を部分的に修正したり, さらに吟味して,他者の意見を取り入れたりして変化させて いく指導。(認識の修正・変化) (13) 最初は “気づいたことを箇条書きでもよいので, 書きなさい”という段階から根拠に基づいて述べさ せる段階,他者との交流から考えを広げたり,深め 「 社 会 認 識 , 市 民 的 資 質 の 育 成 と 習 得 ・ 活 用 ・ 探 究 の 構 造 」 コ ン ピ テ ン シ ー 社 会 認 識 リ テ ラ シ ー の 形 成
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多面的・多角的な思考
教 師 の 指 導 ・ 学 び や 経 験 再 構 成 ・ 蓄 積 探究(協同・参画) ・他者との学び合いによる探究や 合意形成。 ・広い視野に立った合理的意思決 定。 ・よりよい社会の創造と社会貢献 につながる実践的意思決定。 活用(思考・判断・表現) ・情報から類推・比較して意味を解釈する。 ・知識・経験に照らして熟考・評価する。 ・根拠に基づいて自分の意見を論述する。 (論理的思考) 社 会 的 事 象 市 民 的 資 質 基盤となる知識・技能 習得(知識・技能) ・資料から適切に情報を収集し読み 取る。 ・既有の知識や技能を再構成し,事 実を正確に理解する。 市 民 的 活 動, 。 たり 修正したりしていく発展的指導が考えられる 社会的構成主義の立場でいえば,この場面で既有 の知識を整理,統合したり,新たな知識を獲得した りすることが可能となる。単に単語ではなく文章で 表現させることで,漠然とした気づきや直感を吟味 , ,「 」 , させることができ さらに 結論 を最初に述べ 「根拠」となる理由や視点を補強させていくように 指導すれば,説得力のある論述・表現力を身につけ られる。加えて,理由を明らかにし,事実と意見と を分けて考えていくことや他からの情報を鵜呑みに しない姿勢にもつながる。 言葉は他者を理解し,自分を表現し,社会と対話 するための手段であり,感受性を支え,知的活動, 感性・情緒,コミュニケーション能力の基盤となる 。さらに,文字(単語)や文章だけでなく,ベン (14) 図や思考回路図を用いた表現も思考過程を見取った , 。 り 関連付けを確認したりするためには有効である (3)リテラシーからキー・コンピテンシーへ ①協同の学び(カテゴリー2) 知識・技能の習得を中心とする従来の知識伝達型 授業から,他者との「対話 ・ 思考の深まりや練り」「 合い」を中心とする協同的な学びを一層重視してい きたい。なぜなら,PISA はキー・コンピテンシー PISA のうち カテゴリー1を測定しているに過ぎず, , 型読解リテラシーにとどまらず,その上位概念であ るキー・コンピテンシー全体の伸張,具体的にはカ テゴリー2と3の育成を図らなければならないから である。 実際には1時間の授業で,中心となる課題につい て個人で熟考させ,多様な考えを引き出した後で4 人班の形をとる。以下に活動の段階と4人班の効用 を示す。 ①「活動・作業(個人作業 」) 観察する,読みとる,考える,書くなど。 ②「協同(小グループ活動 」) 主として4人グループの考えを練り合わせるこ とで,互いの視点の違いを認め合い,新たな視点 に気づく。生徒同士の関わりを通し,分かった生 徒から分からなかった生徒への支援にとどまら ず,学び合いによる新たな視点や考え方に触れた , 「 」 。 り 教えることによる深い わかり につながる ③「表現と共有」 他者の意見を聴き,自分としての考えを構成す る。加えて,他者との関わりを通して,資料を再 検討し,自分の考えを吟味し,反省したり,考え (15) を補強したり,広げたりする。 今まで取り入れてきた4人班による課題追究学習 で思考の深まりや表現力の伸びは感じられたが,1 時間の中で教師から課題を与えている状況にとどま っている “単元全体の教材をくるんで渡す”こと。 や,課題の発見や設定そのものを生徒に委ねること も模索していきたい。また,そのような学習活動を 通して有用感,達成感を持たせていくことが重要だ と考える。 ②社会参画(カテゴリー3) カテゴリー3の「自律的に活動する」とは,広い 視野に立って将来の社会や生き方を見通し,よりよ い社会を創ろうとする市民的資質と重なる。改訂学 習指導要領の地理的分野には「身近な地域社会の形 成に参画する ,公民的分野でも「持続可能な社会」 のための探究・論述活動」が明記された。社会認識 の形成や思考力・判断力をどのように行動化・態度 化といった市民的活動につなげていくのか,また, どのようにして生徒の育ちを見て取るのかが今後の 課題である。 5.キー・コンピテンシーを取り入れた授業実践 (1)関連と影響を矢印で結んで表現する 「ポツダム宣言と日本改造」3年生 【形態:個人→4人班】 ①ポツダム宣言に基づいて GHQ が実施した政策 を,同宣言の第何項に基づいて行われた改革か個人 で考える。②4人班で考えを持ち寄り,他班と重な りがないよう出来るだけたくさん話し合う。③黒板 に書いた後,他に関連したり,影響を受けたりした 改革がないか検討し,線や改革内容を加えていく。
(2)解釈したことをベン図を用いて配置する 「サンフランシスコ平和条約になぜ反対?」3年生 【形態:個人→4人班】 ①条約の内容を OHP と地図でおさえた後,講和会 議に招待されなかった国(中華民国・中華人民共和 ), ( , , 国 出席を拒否した国 ユーゴスラビア ビルマ インド ,調印しなかった国(ソ連,ポーランド,) チェコ・スロバキア)を確認した。②中国が米英の 意見の違いで両者とも招かれなかった当時の状況 (英国はすでに大陸を実効支配している中華人民共 和国を推したが,中華民国に固執する米国との対立 を避けたこと,冷戦どころか,朝鮮戦争中という熱 い戦争の真っ只中であったこと)を確認し,参加を 拒否した国(旧植民地)と調印を拒否した国(社会 主義国)という共通点に気づかせた。③平和を回復 しようとする条約のどこに出席や調印を拒む理由が あるのか,旧植民地,社会主義国それぞれの立場か ら個人で考えさせた。④安保条約については机間支 援中に同日に調印されたことに気づかせたが,内容 については米軍の駐留継続と治安出動に焦点を当て た。⑤4人班になり,旧植民地と社会主義国それぞ れの反対理由,そして共通する反対理由の3つに分 類し,黒板のベン図に記入させた。 (3)熟考・評価したことを表現する 「高度経済成長を四字熟語で表現する」,3年公民的分 野,【形態:4人班】 平成18年にも同様の実践をしたが,その時は漢字 一字だったのに対し,今回は四字熟語(同音異義語 も可)で表現させた。①一斉指導で高度経済成長の 学習をした後,黒板に「重化学工業の発展」→「四 大公害」と板書し,教科書と資料集を使ってイメー ジマップ状に関連項目を影響や背景に注意して書か せた。②机間支援の際,加えたい項目(事象)や目 を引く背景・影響を書いている生徒に黒板に記入す るよう指示し,配置については関連に留意して(無 理なら適当に書いてもよいと言うと,逆によく考え て配置することが多い)書くよう指示した (例え。 ば,電気機械→三種の神器→3 )③黒板に挙がらC な か っ た 項 目 や つ な が り を 考 え さ せ た い 箇 所 は 全 体 に 発 問 し , そ の 後 , 高 度 経 済 成 長 を 個 別 に 四 字 熟 語 で ノ ー ト に 書 か せ た 。 ④4人班での交流は,一人ずつ自分の四字熟語を紹 介し,その熟語なり,漢字で表現した根拠を発表さ せ た 。 ⑤ 次 に 誰 の 熟 語 が 一 番 優 れ て い る か よ り も , 班 で 出 さ れ た 熟 語 の 中 か ら 漢 字 を 入 れ 替 え た り , 合 成 し たりして班としての四字熟語を A3版の紙にマジッ クで書かせて黒板に貼らせ,発表役の生徒に補足説 明をさせた。 ,「 ( )」 発表されたものとしては 輝責混交 玉石混交 →発展して輝いたイメージもあるが,公害が発生し て責任が追及され問題となったので功罪入りまじっ ていることから 「善変蛮化(千変万化 」→経済発。 ) 展の善い変化と環境破壊・公害を指して 「龍騰駄。 美(竜頭蛇尾 」→急激で勢いのある成長と環境や) 日本の美が堕ちていったことからなど,教室に置い
てある漢和辞典の中から探した熟語の同音漢字と差 し替えたり,同じ根拠でも異なる漢字で表現したり する班も見られた。⑥各班の四字熟語から各自がひ , 。 とつ選び 選んだ理由を付せんに書かせて貼らせた (4)読み取って解釈したことを関連付ける 「家族が危ない」,3年公民的分野,【形態:個人→4人 ①「家族が○○い」と板書し,様々な形容詞を 班】 当てはめて課題意識を持たせる。②「脆い」,「危な い」などが出た段階で,現代の家族を取り巻く問題 点を個人で教科書,資料集から抜き出させ,黒板に 随時書かせる。③児童虐待,孤独死,夫婦別姓など の問題とそれらの背景として考えられる社会状況を 4人班で考えさせる。④グラフや本文,新聞記事か ら少子高齢化や核家族化,女性の社会進出,経済的 余裕のなさからくる多忙化などの要因が複合的に関 連している状況を線で結ばせ,黒板に引かせる。⑤ 他班の挙げた項目や引いた線について質問を求め, 教師からも補足する。 (5)解釈したことを分類し共通点を見つける 「条例から読み解く地方自治」,3年公民的分野,【形態 :4人班】 ① 滋 賀 県 の 条 例 を , 資 料 集 に 付 い て い る 県 版 資 料 か ら 抜 き 出 し て 共 通 点 を 考 え , 滋 賀 県 が 環 境 や 自 然 保 護 を 重視していることを捉える。②全国各地の条例を提 示し,その地方公共団体の特色や抱えている課題に ついて類推する。例) ターン,エンゼル祝い金→U 過 疎 , 少 子 高 齢 , 雪 国 は つ ら つ → 豪 雪 , 活 力 低 下 , 人 口 減 少 な ど 。 ③ 4 人 班 で 考 え を 交 流 し , 類 推 し た 課 題 の 根 拠 を 黒 板 に 書 いて発表する。 (6)関連をもとに解釈する 「四民平等は本当か? 解放令のねらい」,2年歴史 的分野,【形態:個人→4人班】 ①四民平等を学習した後,四民平等と解放令のねら いを個人でノートに記述する。②4人班になり,既 習の政策に関連させて考えるよう指示する。③話し 合いが停滞している班には 「名字がなければ困る, , 」 , , 組織や機関 ものには何があるか と発問し 学校 , , 。 工場 軍隊 地券といった富国強兵策に気づかせる ④黒板に「ねらい」と関連する政策・背景を挙げさ せ関係を線でつないで発表させた。 果関係を解釈する (7)社会的事象の特色や因 「雇用と労働問題」,3年公民的分野,【形態:個人→ペ ア→4人班】 ①教科書,資料集から,今日の雇用と労働に関す る問題点を個人でノートに書き出させる。②隣同士 ペアになり,個人で挙げた問題点の補完,教え合い をさせる。③次いで4人班で相談しながら問題点の
因果関係,関連をイメージマップ状に線でつながせ る。④各班の気づきを見てまわり,黒板に書くよう 指示する。⑤黒板に描かれたイメージマップを学級 , , 全体で検討し 線のつながりの意味を説明させたり 他の社会的事象や関連事項がないか確認していく。 (8)熟考して評価する 「消費税は悪者か?」,3年公民的分野,【形態:ペア】 ①消費税論議の新聞記事を提示し,関心を持たせた 後,消費税の引き上げに対する賛否を聞く。②圧倒 的に反対が多いが,ペアで消費税引き上げを支持す る立場で話し合わせる。③各ペアはひとつの資料を 根拠として利用することが多いが,黒板に多くのペ アが書くことによって複数の資料を使うと説得力が 増すことが確認できる。 (9)熟考して評価する。 「歳出は国のかたち」,3年公民的分野,【形態:4人班】 ①戦前,高度経済成長期,現代の国家予算歳出グラ フを比較する。②変化と共通点を読み取り,その理 由を考えて黒板に書く。③防衛費(平和主義 ,社) 会保障関係費,文教科学費(社会権 ,地方財政費) (中央集権から地方分権へ)といった日本国憲法制 定による変化,高度経済成長期の産業経済費,国土 保全費割合の増加,文教科学費割合の減少や社会保 障関係費の急増の背景として少子高齢化の進展とい う社会的変化に気づかせ,関連付けながら知識の再 構成を図った。 (10)解釈したことを評価する 「下関条約のNO,1は?」,2年歴史的分野,【形態:個 人→4人班】 ①日清戦争の経過について学習した後,下関条約の 内容を OHP で確認する。②個人で条約の中から最 も重要度が高いものを選び,ノートに理由を書く。 ③4人班になり,個々に選んだ項目と根拠を交流す る。④書き手が黒板に書いた内容を説明役が補足す る。⑤多くの班は,賠償金や領土獲得に目が奪われ るが,第1項の朝鮮が自主独立の国であることを承 認→日本の朝鮮半島支配,第4,6項の日清通商航 海条約(不平等条約)の締結や開港・開市が永続的 な権益につながることに気づかせる。そのような視 点で賠償金や領土獲得を再考させると賠償金による 軍備増強,軍事拠点(旅順 ,貿易港(大連)の獲) 得の意味や流れが理解でき,ロシアが遼東半島に触 手を伸ばした理由も理解できる。
6 「国民主権と日本の政治」~司法と国民参加~. (1)単元設定の理由 国民がよりよい社会の実現に向け,主権者として の自覚を持って政治に参画し,その意思を反映して いくことは民主主義社会の根幹である。統治機構の 単元は,政治参加の基本である選挙制度に始まり, 国会,内閣,裁判所,権力機構の均衡・抑制関係の 仕組みと学習が進んでいく。政治に参加するために 国民がどのような権利を持ち,それらの権利をどの ように行使するかといった方法や手続き,意義を理 解することが学習の中心となりがちである。政治は 国民の意思によって成り立つものであるが若者の投 票率は低く,政治に関心を持って主体的に関わろう としているとは言い難い。主権者として自分たちの 生活や身の回りの社会とのつながりを意識し,社会 をよりよくしていくために,政治の仕組みを理解し た上で参画していくことが求められる。 司法への国民参加としては,平成21年5月21日に 「裁判員制度」が施行された。国民の約7割が裁判 員制度に消極的という調査結果もあるが,5年後に 生徒が有権者となれば実際に裁判員に選任され評議 ・評決に加わる可能性がある。中学生が法の意義や 法による支配,司法制度を理解し,裁判に関心を持 って積極的に参加しようとする意欲を持つことは意 味があり,新学習指導要領の内容の取扱いにも「法 に基づく公正な裁判の保障に関連させて,裁判員制 度にも触れること」とある。裁判員となれば,検察 官,弁護人双方の意見を聞いた上で,証拠や証言を 解釈した上で自ら判断し,論理的・合理的な判断を 下すことが求められる。感情や独断と偏見による一 方的な決めつけではなく,法廷で示された証拠を吟 味し,文字や写真,証言や具体物に基づいて判断し ていく力は,社会科で育成しようとしている社会的 事象を合理的に解釈・判断する価値判断能力,根拠 に基づいて考える論理的思考力と一致する。 国民の司法参加として以前からあった検察審査会 よりも裁判員制度は格段に周知されることとなった が,全国民が裁判員になる訳ではない。また,法律 的知識を持たない一般市民にも分かりやすい裁判が 求められるため,裁判官,検察官,弁護人の負担増 が懸念される上,裁判迅速化のための公判前整理手 続きによる提出証拠の絞り込み,近年の厳罰化を求 める世論の影響といった問題も指摘されている。 その点,最高裁判所裁判官の国民審査は全有権者 が4年に一度は参加し,規模と頻度は裁判員裁判の 比ではない。加えて裁判員として評議・評決に加わ る裁判は刑事裁判の第一審のみであるが,民事裁判 ,「 」 や憲法判断も含めて最終的な判断を下し 判例法 として下級審の判断基準となる判決を下す最高裁に 対して国民が意思表示するという点で国民審査の重 要度は極めて高い。しかし,最高裁判所裁判官の審 査は衆議院議員総選挙の陰に隠れて関心が低く,報 道の扱いも薄い上,期日前投票の期間さえ短い。審 査広報は全戸に配布されてはいるが,ほとんどの国 民は判断材料がないか乏しいまま審査していると思 われる。その結果,罷免すべきと判断する裁判官に のみ「×」をつけるという審査方法と相まって,今 まで国民審査で罷免された裁判官はなく,罷免票も 最高で15 程度,さらには名簿の右側に記載された% 裁判官に「×」が多い順序効果なる情けない現実も ある。 今回の学習は,前日の総選挙とともに最高裁判所 裁判官の国民審査が行われたこともあり,主権者と して三権のうち最も遠い存在とされる司法に対し, 全有権者が参加する国民審査の学習を通して思考力 ・判断力の育成を図りたい。加えて,将来,政治に 参加する公民として,民主的な政治と政治参加の方 法について考えようとする市民的資質を育成してい きたいと考える。 (2)生徒観 本学年の生徒は難しい資料の読み取りにも積極的 に取り組み,鋭い着眼点を持って豊かな発想をする 生徒が多い。自分の考えを述べる際には資料の中か ら根拠を見いだし,それに基づいて論理的に論述や 発表をするよう指導してきたが,複数の資料を読み 比べて吟味したり,出典を確認して書き手の意図を 意識したりするまでには至っていない。 政治に関しては小学校で大まかな内容を学習し, 国会の構成や選挙制度については歴史的分野でも扱 ってきた。新聞記事やニュースなどを用い,できる だけ政治に興味・関心を持たせようと努めてきた が,政治と聞けば“難しい “わかりにくい”と感”, じている生徒も多い。衆議院総選挙が行われたこと もあって国政に対する関心は高まっていると思われ るが,主権者として自分たちの暮らしや社会をより よくしていくために,国や政治の仕組みや制度を理 解した上で,自分たちのこととして参画する意欲を 持たせたい。 (3)指導観 政治といえば国会,内閣を思い浮かべがちである が,司法権を持つ裁判所も三権を担う重要な機関で ある。憲法と基本的人権の学習を経て,本単元では 教科書の順番を入れ替え,国会と内閣よりも前に司 法や裁判制度を取りあげ,国の政治の仕組みや国民 主権の意義を捉えさせる。身近な生活と法,法の意 義についても触れ,自分たちの生活が法と密接に関 わっていること,法に基づいて行われる裁判が人権 を擁護するために不可欠であることも概ね理解させ
ることができた。その上で,裁判の長期化や冤罪, 分かりにくさといった問題にも触れ,その解決を探 る中で裁判員制度の導入,証拠裁判主義,無罪の推 定についても学習した。 今回の学習では,最高裁判所裁判官の国民審査を 通して国民主権の意義を再認識し,主権者として公 正に判断・意思表示することで政治に参画すること の大切さを学ばせたい。審査にあたっては広報に載 っている各裁判官が関わった判決をもとに,まず個 人で判断させ,各自の考えたことを4人班で練り合 わせ,他班と批正させる中で考えを深めていく。学 習形態にペア,4人班などを交え,生徒一人ひとり の思考が意見交換を通して深まるよう導き,資料か ら情報を読み取ること,判例の意味,意義を解釈す ること,裁判官の判断の特色や憲法との関連を熟考 ・評価すること,根拠に基づいて自分の考えを論述 することを重視し,多面的な思考力を育てたい。 審査の中で,衆議院小選挙区の区割り定数訴訟や 外国人を母に持つ婚外子の国籍法違憲判決と法の下 の平等,防衛大教授による痴漢冤罪事件,和歌山毒 物カレー事件の死刑確定判決と無罪の推定や証拠裁 判主義との関係などが論点として出てくれば,既習 事項の活用や次に学習する選挙の問題点につなげら れる。そのためにはある程度,個別の判決や反対意 見を付けた裁判官の判断といった高度な内容にも触 れざるを得ないが,そのような詳細な個別事象は覚 える対象ではなく,思考・判断の材料として取りあ げる。さらに根拠とした判例をさらに詳しく調べて 検証し,国民審査制度そのものの問題点を明らかに して改革案を考えさせることで探究させたい。ただ し,個々の生徒の思想・信条の自由に留意し,価値 観の押しつけにならないよう十分に配慮する。 (4)学習の概要 「国民主権と日本の政治」~司法と国民参加~ 最高裁判所裁判官を審査するにあたり,審査広報 に掲載された裁判の概要を,OHP で新聞記事を提 示するなどしてとらえさせた。まず,個人で9人の 裁判官を審査し,次いで4人班で検討させ, 3版A ホワイトボード上に付せんで罷免すべき度合いが高 い 順 に 並 べ さ せ た 。 そ の 際 , 最 も 罷 免 す る べ き だ と 考 え た 裁 判 官 の 名 前 と 根 拠 は 赤 い 付 せ ん に 書 か せ た 。 審 査 し た 結 果 と そ の 根 拠 と な る 判 決 , を他班と交流し 憲 法 条 文 と の 関 係 や 他 班 と の 判 断 の 違 い を 相 互 , 評価することで 多面的・多角的な考え方や見方を学び合った。交流 後,元の班に戻り審査結果を再検討し,全体で発表 させた。 (5)本時に関する習得・活用・探究 習得しておくべき基礎的・基本的な知識,技能 知識 ・裁判の種類や仕組み,司法制度について理解して いる。 ・国民審査の意義を理解し,審査の対象となる最高 裁判所の重要性について知っている。 技能 ・審査広報の内容を適切に読み取り,判断の基準と することができる。 ・話し合いの経験を生かして互いの意見と根拠を批 正することができる。 知識や技能が活用された姿 ・今までの知識や経験を生かし,広報から読み取っ た情報をもとに,裁判官を多面的・多角的に審査し ている。 ・罷免する根拠を既習の憲法条文に照らして明らか にしている。 ・罷免の可否を決定 したり,他の班と交 流したりする際,根 拠に基づいて自分の 意見を述べることが できる。 ・既習の知識を再構 成し,基本的人権尊 重の意義,国民主権 , の重要性を再認識し よりよい審査のあり 。 方について提案する 単元全体の評価規準 社会的事象への関心・ 社会的な思考・判断 資料活用の技能・表現 社会的事象についての知 意欲・態度 識・理解 ・国民の意思が政治に反映 ・裁判や司法に関する制度の ・国民審査や裁判に関する ・民主政治の仕組みや法に基 され,よりよい社会や暮ら 仕組みや意義を多面的・多角 資料を批判的に読み取り, づく公正な裁判と人権の保障 しを実現をするため,主権 的に考察し,主権者の立場か 熟考・評価した結果を論理 について理解することができ 者であるという自覚を持っ ら公正に判断したり,根拠を 的に説明したり,論述した る。公正な世論形成と国民の て司法を含む政治に意欲的 明確にして,自分の考えを構 りすることができる。 政治参加の重要性に気づき, に参画しようとする。 成したりすることができる。 【資料活用・表現の技能】そのための知識を再構成する 。【 】 【関心・意欲・態度】 【思考・判断】 ことができる 知識・理解
・価値判断や未来がどうあるべ きかという視点で議論や評価を 行い,各自の解釈・判断を論述 したり,意見交換したりしてい る。 (6)生徒による審査の分析 生徒たちによる審査の結果, 罷免順位が高かったのは涌井紀 夫裁判官と那須弘平裁判官で, その根拠は次の通りであった。 涌井紀夫判事 ①判決に対する反対意見が多い。 ②全員一致で解決した裁判が少ない。 ③公職選挙法の規定で,1票の(価値の) 不平等について「憲法に適合し有効」と 判断したから。 ④選挙に関する法で,都心の1票と地方 の1票の差を認めているから。 那須弘平判事 ⑤平成19年2月27日の(国歌)ピアノ伴奏 拒否の裁判で,「君が代」斉唱は日の丸 掲揚とともに是非が論じられている問題 なので,この教師が「君が代」斉唱に反 対しているのであれば,通常のピアノ伴 奏とは違う意味を持つことになる。よっ て,憲法第19条「思想及び良心の自由」 が保障されるなら断ることができるはず だから,この判決はおかしい。当日なら みんなに迷惑がかかるけど,命令された 段階なら拒否(の意思を示)してもいいの ではないか。 ⑥暴走族に対する集会の自由の制限 は,公共の福祉に反する。 ⑦弁護士出身というのもあるからか分か らないけれど,“~の疑い”とかが多くて 無罪が多い。弁護士としての考え方に偏 っていると思うから。 近藤崇晴判事 ⑧小学校2年生男児に対して胸元をつか んで壁に押しつけ大声で叱ったのは教育 的指導ではなく体罰と同じ。他の方法が あるはずだから。 宮川光治判事 ⑨(警察官が私費で購入したノートに記 載し,一時期自宅に持ち帰っていた取調 べメモについて,証拠として開示を命じた 判断が是認された事例は)プライバシー の侵害だから。 単元の指導計画と評価計画 評 価 規 準 時 ねらい 学習内容 関心・意欲・態度 思考・判断 技能・表現 知識・理解 第1次 ・法と裁判, ・裁判の種類と ・裁判官・検察官・ ・刑事・民事裁判の違 ・裁判の種類, 1 ・ 裁判の種類 刑事裁判と しくみについて 弁護人の役割や裁 いと特色について, 裁判官・検察官・ 2 と裁判官・ 民事裁判, 関心を持つこと 判所の働きについ 新聞記事などの資料 弁護人の役割や 検察官・弁 身近な法, ができる。 て,基本的人権の を基に具体的にとら 裁判所の働きに 3 護人の役割 三審制 視点から,公正な えることができる。 ついて理解する を理解し, 判断をすることが ことができる。 裁判と人権 できる。 について考 える。 ・裁判に関する ・司法への国民参 第2次 ・裁判官の弾 ・新聞記事の見出 4 司法制度改 劾 問題点についてしをもとに,裁判 加の意義としくみ 関心を持つこと について理解する 革の必要性 ・ 裁判員制 に関する問題点を ができる。 ことができる。 が高まった 度,最高裁 指摘することがで 背景につい 判所裁判官 きる (長期化,冤。 て 理 解 す 国民審査, 罪,暴言) る。 検察審査会 ・最高裁判所 ・主権者である ・国民審査の意義や ・審査した理由を 第3次 ・審査広報を活用し, 裁判官の審 との自覚を持 今後のあり方につ 憲法に基づいて 5審査結果 審査の根拠を既習内 査。 ち,意欲的に最 いて,主権者の立 明らかにするこ 本の交流と 容や憲法条文に基づ ・国民審査制 高裁判所裁判官 場から多面的・多 とができる。 時相互評価, いて適切に表現する 度のあり方 の審査をするこ 角的に判断するこ ・望ましい判断の 再検討を ことができる。 について。 とができる。 とができる。 ・より公正な判断を 方法や国民審査 する。 するための資料の補 制度の問題点に ・根拠を明確にして 充の必要性に気づく ついて理解する 審査することがで ・他班の審査 ことができる。 ことができる。 きる。 結果や過程を評価 し,根拠の確かさ について指摘する ことができる。 6 ・審査結果の ・罷免票が多かった 考察。 裁判官についてそ の理由を考える。 7第4次 ・裁判員制度・意欲的にレポ ・根拠を明確にし,研 ・様々な資料を鵜呑・裁判員制度の内 の問題点を 容や課題を整理 裁判員制 ート に取り組むこ 究成果を自分の言 みにせず批判的に読 8度を考え整理し,肯とができる。 葉で論述することが み,多面的・多角的にし,理解するこ 定・否定の立 とができる。 る。 ・多様な見方や できる。 考察することができる。 考え方に触れ, ・他者のレポート 内 より説得力のある 9 場でレポー ・評価をもとに,修正・ 互いのレポート 容から学んだり,改 資料活用の仕方 トを作成。 点を明らかにし,新た や探究に生かす 善点を指摘したりす や表現の方法を ・相互評価。 な課題を見つけること ことができる。 ることができる。 ができる。 理解し,身に付け ている。
櫻井龍子判事 ⑩(広報に)“多様な経験”と書 いてあるがほんの一部にしか 過ぎない。判決が軽すぎる。 授 業 の 導 入 で , 下 級 裁 判 所 で 違 憲 判 決 は 出 せ る が , 最 高 裁 判 所 の 判 断 が 終 審 と な り , 判 例 も 下 級 裁 判 所 の 判 断 に 影 響 を 与 え る こ と を お さ え た 。 こ れ は , 審 査 の 基 準 と し て 既 習 の 憲 法 条 文 , 特 に , 基 本 的 人 権 の 尊 重 や 刑 事 裁 判 の 手 続 き と 関 連 付 け て 根 拠 を 見 つ け さ せ た か っ た た め で あ る 。 た だ , 中 学 生 に と っ て 実 際 に 審 査 す る の は 難 し く , 前 掲 ① , ② , ⑦ , ⑩ の よ う な 憲 法 条 文 や 既 習 事 項 と は 全 く 関 係 の な い 理 由 を 挙 げ た も の , 特 に ① , ② , ⑦ な ど は , 一 般 的 に は 弁 護 士 と し て の 人 権 感 覚 の 鋭 さ を 評 価 さ れ る べ き 判 断 を , 逆 に 学 級 会 で の 協 調 性 の な さ の よ う に 捉 え , マ イ ナ ス に 評 価している。 ⑥ は 近 隣 住 民 に 騒 音 被 害 を 及 ぼ し て い る 暴 走 族 に 対 し , 公 共 の 福 祉 の 観 点 か ら 集 会 ・ 結 社 の 自 由 を 制 限 し て い る に も か か わ ら ず , 公 共 の 福 祉 の 意 味 を 取 り 違えている。 ⑨ は , 警 察 官 が 捜 査 中 に と っ た 手 控 え ( メ モ ) を 開 示 す る 原 判 決 ( 高 裁 判 決 ) に 対 す る 検 察 側 の 特 別 抗 告 を 棄 却 し た も の で あ る 。 こ の 判 断 は 犯 罪 捜 査 規 範 第13条(16)を根拠として お り , 中 学 生 に と っ て 考 え の 及 ぶ と こ ろ で は な い 。 単 純 に 自 分 に 置 学習過程(第5時) 学習内容・活動 指導・支援事項(◆:評価) 導 前時の振り返1. 1.前時に行った模擬 1.前時に行った模擬国民審査結果をOHPで提示 入 り 国民審査の結果を する。 知る。 2.本時の学習内 2.司法に大きな影響 審査公報に記載された最高裁判決記事を2. OHP 容の確認 を与える「最高裁 で示し,憲法の番人である最高裁判所が下す判決 判所裁判官に対す の重要性を確認させる。 る国民審査」につ 展 いて考えることを 知る。 班内討議① 審査結果と根拠を 審査結果の交流に際しては,各自の思想信条の 3. 3 3. 審査結果と根拠 検討し,基となる 自由に配慮し,班としての意見に収斂させなくて の確認 判決について班内 もよいことを伝える。 で話し合う。 ・あくまで判決に基づいて考えを深め,根拠を明 確にすることを重視させ,正解,不正解を決める ものではないことを伝える。 ◆意欲的に話し合っているか。(観察)【意欲】 。( )【 】 ◆審査の根拠が明確であるか 発言 資料活用 審査結果の交 審査結果を交流 単なる印象や感想で主張せず,根拠とした事 4. 4. 4-a 流 し,根拠の確かさ 実を明確にして交流させる。 開 を評価し,疑問や4-b.審査した結果と他班との相違に着目させ,ど 気づいたことを指 のような判断基準や根拠で審査したかを中心に討 摘しあう。 論させる。 班の意見と異なる場合は,自分自身の意見と 4-c. 根拠を補足させる。 ( , ) ・他班の評価は色別の付箋 賛同は青 疑問は赤 に記入させる。 ◆根拠を明確にして発表しているか。 (発表内容,ノート)【思考・判断,資料活用】 疑問や反証に対する準備をしている。 A: 根拠を明確にして発表している。 B: 判決が与える影響について考えるよう促す。 C: 「分かりにくい」という声が多い班には,国 4-d. 民審査制度の問題点と解決策を考えさせる。 班内討議② 交流した結果を基 他班からの指摘や新たに得た視点や審査の観点 5. 5. 5. に,班内で再度話 を基に,必要な資料や根拠の補充を考えさせる。 し合い,審査を再 ・他の班から学んだ点や気づいたこと,変更があ 検討する。 ればその理由を中心に発表させる。◆再検討のた めに資料を再度読み取ろうとしているか。 審査結果とその理由を班の中で交流し,根拠の確かさを確認しよう。 。 他の班は,どのような根拠でどのような審査をしたのか交流しよう
き換え,警察官が私費で 購入したノートに記した メモを開示させられたの は“プライバシーの侵害 だ”と素朴に考えたと思 われる。 ⑧は “小学2年生にと, って”と,多角的には捉 えているが,中学生が法 律で体罰が禁止されてい ることを知る由もなく, 法に基づいて判断した訳 ではないので根拠として は浅い。 ⑤については 「国旗, 及び国歌に関する法律」 について2年生で学習し ていることを差し置いても,憲法の思想・良心の自 由を尊重しようと考えている。ただし,職務命令に 対する最高裁判決(17)を考慮すべきであり,次時に 解説を加えた。 ③と④は 「1票の格差」の問題について,既習事, 項である「法の下の平等」に言及し,憲法に基づい て罷免の可否を判断した例として他班の評価が高か った。 (7)国民審査の改善策 本物の審査広報を基に最高裁判所裁判官を審査し た生徒たちの多くは “難しく分かりにくい, ”,“情 報が限られている”という感想を持った。第5時で は時間が足りず,改善策はノートに書くよう指示し た。以下は,生徒が記述した国民審査制度の改善策 である。 ○審査するのは難しかった。常日頃から政治についての教育等 を怠らず,「政治に参加するのが当然」という意識を子どもの頃か ら育てていく必要がある。 ○わかりにくいので国民が審査するのではなく,裁判官で審査す る方がよい。 ○やめさせる基準が分からない。 ○国民が審査するなら動画共有サイト等を使って裁判官がメッセ ージを発信すれば,文章だけよりも考えがわかりやすい。 ○国民審査の時だけではなく,普段から裁判についての情報を 流す。定期的に裁判や裁判官についての広報を配布したり,裁判 員制度のようにニュースなどで国民が裁判について知る機会を設 けたりする。また,わかりやすい言葉で書く。 ○もっと読みやすくする。時間がない人でもパッと見られて内容が 分かるようにする。 ○(政見放送のように)裁判官自身が実際に人々の前で話をす る。 ○ニュースでもっと宣伝して適当に投票されるのを防ぐ。関係した 裁判の内容をもっと詳しく説明して国民がきちんと理解してから審 査できるようにする。 ○罷免する場合はその理由も書いて適当なものは無効にする。 ○今までの裁判の内容を見やすくまとめ,言葉も簡単にする。私 たちは今は公民を習ったところだから意味が分かるけど,他の人 はわかりにくいと思う。 ○地域によって名簿の順番を変える。(順序効果をなくし)はじめ の人に票が偏ることがないようにする。 (8)現実の審査結果を受けての考察 実際の最高裁判所国民審査の結果から,名簿の最 初の3人と最後の3人とを比較すれば,やはり前の3 人の罷免票が多く順序効果が伺える。 実際の国民審査結果 罷免票 不罷免票 罷免票率 % 櫻井龍子 4,656,462 62,282,623 6.96 % 竹内行夫 4,495,571 62,443,553 6.72 % 涌井紀夫 5,176,090 61,763,059 7.73 % 田原睦夫 4,364,116 62,575,038 6.52 % 金築誠志 4,311,693 62,627,434 6.44 % 那須弘平 4,988,562 61,950,605 7.45 % 竹崎博允 4,184,902 62,754,264 6.25 % 近藤崇晴 4,103,537 62,835,628 6.13 % 宮川光治 4,014,158 62,925,016 6.00 これは審査制度の分かりにくさと積極的な周知が されていないことによる国民の意識の低さが原因と いえる。ただ,今回の審査結果を次時の授業で提示 したところ,生徒たちは涌井紀夫,那須弘平両裁判 官の罷免票が,実数・割合とも明らかに高いことに 気づいた。その理由を考えさせたところ,次のよう な意見が出た。 ○(涌井,那須両裁判官とも)2005年衆議院小選挙区の定数配分 の裁判で,区割りが不平等なのに合憲だと判断している。この1 学習内容・活動 指導・支援事項(◆:評価) 展 再審査結果の6. 6.再審査した結果と 他の班から学んだ点や気づいたこと,変更6. 発表 交流から学んだこと があればその理由を中心に発表させる。 を発表する。 ◆変更した理由の根拠は妥当か。 開 (発言内容,ノート記述)【思考・判断】 ま 本時のまとめ7. 7.本時の学習内容を 異なる審査結果は主義・主張,立場の違いによ7. と とよりよい審査 整理し,国民審査制 って尊重されなければならないことをおさえる。 め 制度と主権者と 度の問題点と改善策 ・より望ましい審査方法や主権者としてとるべき して望ましい国 について考える。 態度について考えさせる (時間に余裕がなけれ。 民の意識。 ば次時までの課題とする) 国民審査制度の問題点とあるべき姿について考えよう。
票の格差について合憲と判断しているのは,憲法第14条「法の下 の平等」のうち,“政治的差別を受けない”に反している。地方と都 市部で1票の価値が違うので,都会の人たちが罷免するべきだと 考えたのかもしれない。 ○(那須裁判官は)和歌山毒入りカレー事件の裁判で,状況証拠 だけで死刑判決を下したのは,“疑わしきは被告人の利益に”とい う無罪の推定の原則に反している。 (各学級40名在籍) 生徒による事前の審査結果 37名 40名 39名 罷免票率 3A 3B 3C 3名 8.1% 15名 37.5% 5名 12.8% 櫻井龍子 5 13.5% 11 27.5% 10 25.6% 竹内行夫 5 13.5% 13 32.5% 13 33.3% 涌井紀夫 4 10.8% 10 25.0% 10 25.6% 田原睦夫 0 0% 5 12.5% 4 10.3% 金築誠志 6 16.2% 14 35.0% 13 33.3% 那須弘平 4 10.8% 13 32.5% 4 10.3% 竹崎博允 3 8.1% 10 20.0% 5 12.8% 近藤崇晴 7 18.9% 10 20.0% 5 12.8% 宮川光治 公開授業をした3年A組では2つの班が涌井,那 須両裁判官の罷免理由として1票の格差を挙げてお り,事前の審査でも3A以外の2学級では罷免票の 割合が高かった。逆に言えば3Aでは涌井・那須両 裁判官に注目した生徒は比較的少なかったことにな るが,実際の審査結果を資料にして改めて検討させ たことで,より明確な理由を考えさせることができ 。 , , た 加えて 憲法14条が根拠として出てきたことは 既習事項を活用して思考した結果たどり着いた成果 といえ,知識の再構成が図れたと考える。 那須裁判官については,罷免票が多かった理由を 定数訴訟以外に考えさせ,前時には全く出なかった 和歌山毒入りカレー事件について問題点を指摘する よう促した。この事件については説明を加えたが, 事件そのものが生徒の幼少時に起きたこともあり, 聞いたことはあっても詳しくは知らない生徒がほと んどであった。しかし,事件の名称から,カレーに 毒を入れて死者が出たことは推測できるため“その ような重大犯罪を犯した被告人は死刑になって当然 だ”との判断がなされた結果,疑問を挟まなかった と考えられる。限られた広報の情報からは読み取り にくい面もあるが,物的証拠や目撃証言,自白がな く,状況証拠にのみ基づいた判断であることを確認 し,ようやく「疑わしきは被告人の利益に」,「無罪 の推定」という刑事裁判の原則と関連づけることが できた。 その後,1票の格差の問題を解消するために議員 定数を完全に人口比例させた場合の問題点を考えさ せ,単純に人口割りにしてしまうと人口が少ない地 域の声が国政に届きにくくなることに気づかせた。 カレー事件については事前の審判(二審判決まで) で限りなく有罪に近いと判断されていることは生徒 から引き出せたが,その根拠としてヒ素の分析が慎 重に行われたことを補足した。 (9)まとめ 国民審査制度は一定の範囲で司法に対する国民の 直接的関与を規定し,内閣による恣意的な任命を防 ぐのと,憲法の番人であり,規則制定権を持ち,下 級裁判所に強い影響を与える最高裁判所に民主的コ ントロールを及ぼすためだといわれている。これは わが国独特の制度で,モデルとされたのは米国ミズ ーリ州である。 国民審査の働きとして挙げられる,①解職機能, ②内閣の任命についての事後審査,③適任者の信任 のうち 「積極的に」罷免を可とする場合において, のみ「×」を記し,何も記載しなかった票も一括し て罷免を不可とする票として扱われるため,国民に 判断材料と意欲が乏しい場合に①は機能せず,②, ③についても結果として「可」とすることと同じに なる(18)。また,衆議院議員選挙と同時に行われる ために判断の基となる情報の少なさと相まって関心 は否応なく低くなる。他にも投票所の配置上,国民 審査だけを棄権することは難しく,判断できなくて も投票せざるを得ない。加えて,鉛筆を握っただけ で「罷免」票を投じるものと立会人に分かってしま うことも問題であろう。 審査に関する費用は50億円以上とされるが,この ような莫大な国費を使って審査する意義がそもそも あるのかという疑問も湧く。大義名分としては主権 者たる国民(有権者)が全員参加することが挙げら れるが,実際のところは憲法で決められているから 行われているだけの形骸化した儀式のようでもあ る。 公開授業において生徒たちはたいへん深く考察 し,班で検討した審査結果を根拠を明確にして説明 しようとしていた。根拠としては限られた広報の情 報を意欲的に取り出し,下された判決と既に習った 憲法の条文とを照らし合わせ,より説得力を持った
論拠を構成しようと努力していた。難解な本物の審 査広報から情報を取り出し,自分たちの判断の根拠 を憲法に求めて議論するという授業のねらいは,第 6時を含めれば達成できたと考える。 実際に罷免票が多かった2人の裁判官は,新聞や インターネット上で罷免を呼びかけられており,少 なからず影響があったと推測できる。その影響だけ ではもちろんないのだが,涌井・那須両裁判官は, 直近の議員定数訴訟では違憲判決を下している。 もう一つの大きなねらいである改善策についても 実現の可能性はともかく 「分かりやすさ ,映像の, 」 導入や審査広報の見やすさなどの「伝わりやすさ」 について提言したものが多かった。前日に行われた 総選挙の政見放送やポスターなどを見た経験に基づ く意見が多く,政治全体に関心を持った結果といえ る。国民的関心の高まりや,本当に意味のある審査 の実現を考えるのであれば,生徒たちの提案にもあ った広報以外の媒体を使うことも将来考慮されるべ きであろう。 (第5時は教科の明日を語る会として実施) (10)参観者の声 ・資料を効果的に用いながら生徒に考えさせる授業 を展開しておられたと思います。また,新聞は使い 方によって授業と生活を結ぶ身近な資料になるのだ と感じました。公民的分野の授業の中で私ももっと 積極的に身近な資料を開発していきたいと思いま 。 。 す 大変参考になる授業をありがとうございました ・普段あまり注目されない最高裁の国民審査につい て取り上げられたのでたいへん興味深かったです。 判決の解釈や扱い方等いろいろ難しい面もあると思 いますが,また,こうした試みをもとに意見交換さ せていただければと思います。 ・よい授業を実際に見ることで,自分の授業や考え を見つめ直すことができるということを実感できる 機会で,たいへん有意義でした。 ・4人班について考えさせられました。自分の授業 でも行ってみようと思いました。 ・公民的分野は興味がわきやすい分野だと思います が,子どもたちが難しい条件の中から自分なりに国 民審査について考えようとしている姿が見られ,大 変興味深かったです。現職の先生たちとの意見交流 の中で実際に自分が現場に出た際,どのような授業 を作っていくかを考えるきっかけになりました。 7 「裁判員制度を考える」レポートの作成と評価. (1)はじめに 8月末の国民審査の授業後,教育実習期間をはさ み10月~11月にわたり「裁判員制度を考える」と題 したレポートの作成と相互評価を行った。裁判員制 度は,国民の「統治客体意識から統治主体意識への 転換」を目指し,刑事司法において裁判内容に国民 の「健全な社会常識」を反映させるため,重要事件 について国民が裁判官とともに評議し,裁判内容の 決定に主体的,実質的に関与する制度として導入さ れた。これは 「現在の刑事裁判がうまく機能して, いるという評価を前提に,国民の司法に対する理解 の増進と裁判の正統性に対する信頼を高めることを 目的」としていること 「個々の被告人のためとい, うよりは,一般国民にとって,あるいは裁判制度と して重要な意義」(19)を持つとされる。 裁判員制度の問題点は多岐にわたるが,被告人の 立場からすれば,従来の職業裁判官3名による合議 制の場合に裁判官が2名無罪とした場合でも,裁判 員が4名有罪と評決すれば残りの職業裁判官1名を加 えて有罪となってしまう。また,戦中まで実施され た陪審制では不成功の要因となったが,被告人に職 業裁判官だけによる裁判を受ける選択権が与えられ ていないという批判もある。この点については,公 平な裁判を受けられるのか,憲法違反ではないのか (20) との意見もある。 裁判員に選任される国民の側からすれば,原則と して辞退できない裁判員の義務化,課せられる守秘 義務と違反者に対する罰則規定が負担となる。加え て法廷で示される証拠写真を目にすることや人を裁 くことに対する精神的負担もある。他に,裁判員選 任手続きの非公開,氏名公表の一律禁止,取材規制 は表現の自由を重視する立場から報道機関が問題視 している。 司法制度改革審議会最終答申における「統治主体 意識への転換という発想は,国民主権原理に基づく 権力批判を国民に求め尊重する民主主義的思想とは 異なるものであり,むしろ権力への国民の包摂を促 進するため」(21)という見解もある。擬似的な国民 参加を媒介にした公益意識の醸成を目的とするもの であり,国のあり方を再構築するための公益義務を 忠実に果たしうる,権力側から見て健全な社会常識 を備えた公民の育成と教育を企図しているとの指摘 も頷ける。 (2)学習の概要 大津地方裁判所から「よくわかる!裁判員制度Q &A」の冊子を生徒全員分取り寄せ,裁判員制度に 関する新聞記事とともに配布した。最初に司法制度 改革の一環として裁判員制度が実施されたことと制 度の概要を説明し,冊子から裁判員制度のねらいを 抜き出させた。ねらいとして,①刑事裁判に市民感 覚を反映させること,②国民の司法への参加を促す こと,③国民の司法に対する理解を深め,信頼を増 すことの3点を見つけさせた。 次に,冊子が最高裁判所から発行されていること
から,この冊子全体を通して「裁判員制度賛成」の 立場で書かれていることをおさえた。すべての情報 には発信者の意図があり,多面的・多角的に考える こと,批判的に吟味すること “本当かな, ”,“他に 考えられないかな”という視点で読むように指示 し,以下のようなレポート作成手順を示した。 「裁判員制度を考える」レポート作成の手順 ①冊子を批判的に読む。(吟味)→本当かなと慎重に読 み,決して鵜呑みにしない。 ②評価する。→ウソだと見抜いたり,肯定したりする場合 ともに他に考えられないかなと視野を広げる。 ③結論→裁判員制度を肯定または否定の立場で最初 に結論を明らかにする。 ④根拠→結論を裏付ける複数の資料(冊子,新聞,イン ターネット ),出来れば数値データ を収集し,説得力 を持たせる。数値データ は,新聞に掲載されたアンケ ート の結果などを用いる。 授業ではノートに裁判員制度の問題点,疑問,課 題などを書き出させ,レポートの下書き,骨格を考 えさせた。 【レポートの下書き】 (3)レポートの考察 秋休み期間を含めて約1か月後に提出させたレポ ートは,裁判員制度に反対または部分的には賛成だ が問題点が多いとするものが105点(89.7 )で,% 概ね賛成とするものは12点(10.3%)であった。 裁判員制度に反対する理由 ①間違いを防ぎ,人権を守るべき刑事裁判は慎重に進めるべ きなのに,限られた日数で審理しなければならない。 ②争点を絞り込む公判前整理手続きの結果,省かれた証拠や 証言が出る。手続きそのものが非公開なので不透明。 ③法律的に専門ではない裁判員に分かりやすく説明するため に,裁判官,弁護人,検察官の負担が増える。 ④事件の現場や遺体の写真などを見ることは一般市民にとっ てはショックが大きい。 ⑤④とも関連して,被害者や遺族にとって見られたくない,触 れられたくないことを一般の人にさらけ出されるのは苦痛。 ⑥裁判官とともに評議するといっても,法律に詳しくない人は 間違いを恐れて意見を言わない可能性がある。裁判官が主導 してしまっては市民感覚を取り入れるというねらいが達成でき ない。逆にあまりにも市民感覚が反映されれば,罪刑法定主 義や過去の判例が覆されてしまう。 ⑦守秘義務があるために口外してはならないという精神的負 担がある。感想程度しか発言できないため,“社会全体で経験 や考え方を共有”できず,国民全体が司法への理解を深めて いくことなどできない。 ⑧評決を下した裁判員に対する仕返しに対しては罰則がある といっても絶対に安全とは限らない。報復を恐れて意見を言わ なかったり,刑を軽くしてしまったりする可能性がある。 ⑨裁判員として有給休暇が取得できるとあるが,中小企業や 自営業の人たちにとっては参加が困難であり,参加しやすい 人たちだけが裁判員になってしまえば,“様々な人々の意見を 裁判に反映”することなどできない。 ⑩裁判員は法廷で示された証拠と良心に基づいて評決を下す とあるが,報道された内容を鵜呑みにしてしまうメディアリテラ シーの低い人や感情に流されてしまう人もいる。 結論としては圧倒的に裁判員制度に反対するもの が多く,賛成するものも全て“課題はあるが”と条 件付きであった。反対理由としては,裁判員に分か りやすくするための負担が増えるなど,裁判官や検 察官,弁護人の立場から述べたもの,精神的,時間 的負担などの裁判員の立場に立ったものが多く,被 告人や被害者・遺族も含めて多角的に考えられてい た。根拠として,冊子に載っている内容を多面的, 批判的に読んだもの 「審理期間は7割が3日以内→3, 割は終わらない」,「司法が国民に身近になる→裁判 員に選ばれるのは5000人に一人なので身近にはなら ない」,「量刑などは一人で決めるわけではありませ ん→みんなで決めるからよいというものではなく, 意見を言わなかったり,流されたりしてしまう」な どがあった。 3年生で9月に3日間実施した職業体験に基づき, 「裁判官は慣れていても市民は普段の生活とは全く 異なる状況で3日間連続も評議することになる。私 たちの職業体験でも赤の他人と過ごすのは疲労がた まったし,それ以上に緊張するはず」という,自ら の体験をもとにしたものもあった。 その他,新聞記事に基づき,国民の理解が浸透し ていないこと (国民の意見は確かに反映されてい, るが)判決の量刑が弁護人が主張した量刑の倍以上 になっているケースが3割超であることを数値を挙 げて示したものもあった。