Author(s)
大城, 渡
Citation
名桜大学紀要 = THE MEIO UNIVERSITY BULLETIN(15):
1-18
Issue Date
2009
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/8228
名桜大学紀要15号 1-18(20O9)
裁判員裁判の実際を診る
一意法学の観点か ら一
大城
渡
要 旨 本稿は、わが国で2009年5月21日か ら実施 され る ことになった裁判員制度 の実際の運用 を、 憲法学の観点か ら端的に診断 してみる ことを狙いとしている。 結論 として率直に言えば、制度実施当初であることを考慮 して もなお憲法上の問題が少な くな い。例えば、 まず、裁判員 となる精神的負担が、 日本国憲法が第18条で禁止する 「その意 に反す る苦役」でな く、 「民主主義のための当然のコス ト」 として評 し得るか疑問であるし、次 に、裁判 員やその経験者に課 される守秘義務は罰則つきの厳 しいものであるが、その範囲が暖昧不明確で あるために諸 自由に対する過度 の萎縮効果が もた らされ る こととな り、明 らか に個 人やマス メ ディアの表現の自由を侵害する。 また,具体的な裁判員裁判のシナ リオを事実上決定する公判前 整理手続が国民一般 に対 して非公開で行われることは、裁判の公開を定めた憲法82条に抵触する。 そ して、その傾向 として犯罪被害者の側 に心情が傾きがちになるとされる裁判員制度 と、苛烈な 処罰感情 を顕わにすることもある犯罪被害者が当事者 として訴訟参加す る被害者参加制度 との組 み合わせが、被告人の権利のみな らず、犯罪被害者の立場 とも果た して調和 し得るのか どうか検 討の余地がある。裁判官の訴訟指揮 に対する裁判員の主体的地位の確保 も重要な課題であろう。 わが国の憲法上、人身の自由の保障は諸外国に類例 を見ない程 に詳細 に渡 るとされているが、 歴史的経緯等 に鑑みて も、刑事手続 の従来の運用はなお厳 しく評価 され続 け られなければな ら ない。そのよ うな刑事手続の一環 として裁判員制度が導入 されている以上、当該制度 について、 国民の司法参加 のための具体的制度 として国民主権 の原理等の観点か らあ くまで好意的姿勢 を 憲法学は確保 し続けたいのであれば、今後 も憲法学は留意 して、裁判員制度の運用の実際を仔細 に診なければな らない。E
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ABSTRACTThisarticleexaminesthenew practiceinthecriminaljusticesystem inwhich Japanese citizens take partas"Saiban-in (Lay Judges)M.severalconstitutional problemswiththesystem arehighlighted.
Forexample,theobligationswhich Saiban-in undertaketoprotectprivileged informationviolatetheirfreedom ofexpression,duetothevaguenessoftheirscope. One very importantprocess in the system,the closed-door pre-trialplanning procedure,whichdisadvantagesboththedefendantandthegeneralcitizen,conflicts with theconstitutionalprincipleofan open trial.Furthermore,asound system requirestheSaiban-intobeindependentfrom theprofessionaljudge,whichisnotthe caseatpresent.
Considering the historicalprecedent in Japan,we should maintain strict constitutionalchecks on the Saibarトin system,while for the sake ofjudicial democracyavoidingitsabolition.
Ⅰ
はじめに
主要先進国の中では唯一、刑事裁判 の実質的な審理 に国民が参加す る形態 をとる陪審制及び 参審制のいずれ も採用 していなかったわが国において、そのいずれ とも真なるとされる独 自の1 裁判員制度が2009 (平成21)年5月21日か ら始まった。いわゆる司法制度改革の一環2として、 2004 (平成16)年 5月に制定 ・公布 された 「裁判員の参加す る刑事裁判 に関する法律」(平成16 年法律第63号)(以下、裁判員法 という)が、5年の準備期間を経て施行 され、当該制度実施のた めの主要な根拠法規 となっている。そ もそ も、裁判員制度 とは、 「国民の中か ら選ばれた6人の 裁判員が刑事裁判 に参加 し、 3人の裁判官 とともに、被告人が有罪か どうか、有罪の場合、どの ような刑 にす るのかを決める制度3」である。裁判員法1条において、刑事裁判に国民の良識を 反映 させ、 「司法 に対す る国民の理解の増進 とその信頼 の向上に資す る」 ことがその趣旨とされ ているO 「現在の刑事蓑紳 用言基本的 にきちん と機能 しているという評価 を前提 として」 いるとさ れ るO 裁判員制度の導入は 「戦後初めて といって もよい大改革である4」 と評 される こともあるが、 国民が刑事裁判の審理 に参加す ること自体は、わが国の歴史上 「初めて」 というわけではないO 例えば、特殊な事例であるか もしれないが、太平洋戦争終結後 の米軍統治下の沖縄で1963-72 (昭和38-47)年に行われた陪審裁判がある5。 また、もっと一般的な例 を挙 げれば、1923(大 正12)年に制定された 「陪審法」 (大正12年法50)に基づ く陪審制の下で、太平洋戦争の激化等 に伴 い、別 に 「陪審法 ノ停止二関スル法律」 (昭和18年法律88)によって1943(昭和18)年に陪 審法が停止 される6まで、わが国では広 く陪審裁判が実施 されていた こともある7。陪審法が停 止 された1943年 を基準にすると、国民が刑事裁判の審理に参加するのは実に66年ぶ りとなる。 裁判員裁判 の実施 によって、時 には …調書裁判日、"人質司法=等 として厳 しく批判 され、時には 逆 に …精密司法"として高 く評価 され ることもあるわが国の刑事裁判のあ り様が今後 どのよ うに 変わるかが注視 され るところである。 新聞報道等 によれば、全国で初めて となる裁判員裁判が,隣人 トラブル に起因 した殺人事件の 事案 につき、東京地裁で2009年 8月 3- 6日に渡って実際に行われた80 また、全国で2例 日と なる裁判員裁判は、知人間の金銭貸借 をめ ぐる トラブル に起 因 した殺人未遂の事案 につき、さい たま地裁で同年8月10-12日に実施された9。そ して、恐 らく裁判員候補者の都合 を考慮 したの であろうが、夏休みやお盆休みの間は回避 され、3例 日は 9月 2- 4日に性犯罪 (強盗強姦)の 事案 につき、青森地裁でなされた10。その後は、 9月 7- 9日に家族間の殺人未遂の事案を神戸 地裁11で、 9月 8- 9日に覚せい剤取締法違反の事案を大阪地裁12で、同 じく9月 8- 9日には 介護疲れ に起因 した夫婦間の殺人未遂事件 を山口地裁13で、 9月 8-11日に事件当時、フィリピ ン国籍 の外国人少年 による強盗致傷事件 をさいたま地裁14で- という具合 に、特 に9月に入って か ら、全国各地で様 々な事件が取 り扱われ始めてきている15。 いよいよ、裁判員制度 の本格的運 用が始 まったわけである16。 振 り返れば、裁判員制度 の実施 に至 るまで必ず しも順風満帆であったわけではないし、その運 用 についての今後 の見通 しも楽観視はできない0時に 「違憲のデパー ト」と称 され る程多 くの憲 法上の問題点や刑事裁判 の将来への懸念 も既 に指摘 され17、それ らの問題点が現在で も完全に払 拭 された とは言 い難い し、元裁判官や弁護士、研究者、市民一般 に広が りをもつ裁判員制度の廃 止 に向けた市民運動 も依然 として活発である18。 また、裁判員法 を当時は圧倒的賛成多数で制定-2-裁判員裁判の実際を診る したはずの国会 にお いて も、2009年 8月に政権交代を実現 させた民主党等 を中心 に、既 に制度 の見直 し論議が くすぶ り続 けている
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。その性質上、国民の理解や、その積極的な協 力や参加が 欠かせない裁判員制度の実施 に向け、最高裁判所 ・法務省等 による、多額の予算 を注 ぎ込んだ広 報 ・啓蒙活動にもかかわ らず、国民世論の関心 も必ず しも高いもの とは言えない皿o このよ うな状況をも想定 していたのであろうか、裁判員法附則9条では、 「政府は、 この法律 の施行後3年を経過 した場合 において、この法律の施行 の状況について検討を加 え、必要がある と認めるときは、その結果 に基づいて、裁判員の参加す る刑事裁判の制度が我が国の司法制度 の 基盤 としての役割 を十全 に果たす ことができるよう、所要の措置 を講ずるもの とす る」 として、 実施後3年 を経過 した時点で、必要があれば制度 の見直 し等が検討 される ことが既 に予定 され ている。そのため、裁判員法103条で 「毎年、対象事件の取扱状況、裁判員及び補充裁判員の選 任状況その他 この法律の実施状況 に関する資料 を公表する」責務 を負 う最高裁判所では、裁判員 裁判のよ りよい運用 をめざして 「裁判員制度の運用等 に関する有識者懇談会」が設け られ、また 法務省で も, 「裁判員制度 に関する検討会」 を設置 して、裁判員法 の施行状況 とそれ を踏 まえた 措置の必要性が検討され ることになっている。 (EEみに、2010年 3月上旬の時点で、前者の有識 者懇談会が所与の 目的に沿 って既 に6回の会合を重ねているのに対 して、後者の検討会はわず か 1回の開催 にとどまっている。 いずれ も裁判員制度 に関す る最高裁法務省の各ホームペー ジ で議事概要や資料等が公表 されている。) いずれにせよ、裁判 員制度 を評価するためには、当然、その根拠 となっている裁判員法や関連 する諸法令の文言上の解釈、学説や国民世論の動向を探 ること等 も必要ではあるが、さ らにその 運用の実際にまで観察眼を向け、考察 を及ぼさなければ、不十分である。但 し、いかなる新 しい 法制度 も、実施 当初 の運用段階で もって性急 に制度全体 を評価す る ことは本来慎重でなければ な らないであろうが、他方で、裁判員制度 についてはその円滑な実施 に向けて、これ まで全国各 地の裁判所 において、裁判員裁判の実際を想定 して延べ600回以上に及ぶ模擬裁判 も実施 されて きた というか ら、ある程度の制度運用の傾向は窺 い知れよ う。 本稿では、新聞報道等で具体的に明 らかにされている、裁判員経験者 を始め とした裁判員裁判 の当事者 ・関係者の肉声や有識者のコメン ト等 を手がか り21に して、裁判員制度施行 当初の運用 を概観 しつつ、憲法学上の観点か らは特 に重要 と思われ る,今後 の展望 と課題 を寸描 してみたい と思 う。但 し、本稿は、あ くまで裁判員裁判の当事者 ・関係者のコメン トを通 じて考察 しうる範 囲に言及 を止める ものであって、必ず しも裁判員制度 をめ ぐる憲法上の問題 を包括的 に網羅 し て検討するものではないことを予めお断 りしてお く。Ⅱ
裁判員裁判関係者か ら診た裁判員裁判
本節では、これ まで現 に実施 されてきた裁判員裁判に対 して、裁判員経験者 を始め とした関係 者が どのようなコメン トを寄せたのか、新聞報道等か ら知 り得 る発言そのもの (「 」で示す)や その趣旨を類型化 してまとめ、検討す る。全体 としては、 「裁判が とて も分か りやす くなった」、 「本来の裁判の理想像 に近づいた」、「順調な滑 り出 し」という法曹関係者等 による肯定的評価 も あるが、今後の課題 を積極的に見出すためには、む しろ制度運用の問題点や懸念 を示唆 した もの を敢えて拾 って整理 し、論 じてみたいと思 う。①精神的負担 実際、裁判員を務めた者の肉声 として、限 られた短期間のうちに、人を裁 くことの困難 さや量 刑 を決めなければな らな い重圧等か ら、毎 日3時間 しか眠れなか った ことを具体的 に明かす裁 判員 もいた220 あるいは少なか らず、ス トレスや疲れ等 を感 じ、 日頃の生活の リズムを崩す裁判 員も多 く見受 け られたO コメン トの一例 としては、 「裁判員になるのはプレッシャー。 ランダム の通知で選ばれ、何 日間か拘束す るのは苦労 を強 いて いる。場合 によっては無罪有罪 を決めな くてはいけないことを考 えると、非常に重 くて苦 しい制度」23、 「人の人生に関わることに自分が かかわ った とい うことは、忘れ よ うとは思 うけれ ど一生忘れないまま墓 に持 って行 くのだろう な と感 じます。」i"A 裁判員体験 は、海外の陪審員体験 と同様 に、公判を終えた後 も、その後 の人生に深刻な影響を 及ぼす可能性があるとされ る25。 これに対 して、最高裁は、「裁判員 メンタルヘルスサポー ト」を 設 け、裁判員の精神的負担 に対応 しようとしている2Bが、果た して十分な対応 と評価 し得るのか どうかは今の ところ不明である。 このような精神的負担 を (個人差はあろうが)現実 に裁判員やその経験者に強いる結果 となる 制度が、国民の思想及び良心 の 自由 (憲19粂)やその意 に反す る苦役か らの 自由 (意18条) に まった く抵触す る虞がない とは言 い切れない。それ故、例えば,憲法上の民主主義の要請をある 特定 の観点か ら理解す ることによって、 「市民が権利行使 の一環 として、 また理性的な討議 に基 づ く民主主義の維持のために支払 うべき当然の コス トとして、一定の役務 の負担 を市民が義務 として負 うことは認め られ るのではなかろうか」27として、結果 として、裁判員に就任することに よって被 る国民の このよ うな精神的負担 を正 当化す る ことは、現実の裁判員蓑帥 Jの運用 に照 ら せば、制度施行前の机上の議論だった として も、尚早な感は否めないのではなかろうか。 ② マスメデ ィアによる報道のあ り方 裁判員候補者や実際 に裁判員 を経験 した一般市民の生の声 を広 く伝 えていくことは、法解釈 な どか らは窺えない、現実の裁判員裁判 のあ り様 を明 らかにし、後 に続 く人たちの参考 になるよ う国民共有 の財産 となるとともに、その問題点 をも抽出 し、将来の裁判員制度検証にも大いに役 立つ ものである2㌔ 但 し、新たな蓑紺 j員制度や被害者参加制度 の導入によって一般市民や被害者 にマス メデ ィアの注 目が集 まる一方で、そ もそ も 「刑事裁判や裁判報道 という公共空間におい て、 もっとも発言の機会 を奪われる可能性が高いのは被疑者 ・被告人である」21'ことにも十分留意 して、裁判員裁判 をめ ぐる報道が偏 った ものにな らないように しなければな らない。恐 らくそ の ことも踏 まえ、既 にマスメディアは裁判員裁判 に係 る報道 のあ り方 について種 々の 自主的な ルールや取材 ・報道指針等 を公 にしてきた・T)O 裁判員法では、確かに、露骨 にマスメディアを名宛 人 とした直接の取材 ・報道規制を設けるこ とは、前述のマスメデ ィアによる自主規制 という代替措置 によって回避 されたが、次項で言及 さ れ る裁判員に課せ られた諸々の守秘義務のために、その効果 として事実上、例えば裁判所 におけ る記者会見の制約等、取材や報道 の 自由が制約 され る状況 となって いる。裁判員裁判 に関す る 取材 ・報道 については、国民一般 の知る権利 と、裁判員のプライバ シーの権利や職務の公正 さの 確保 との間で調整 を図ることは困難な問題ではあるが、実際には取材 ・報道への自粛要請が必要 以上 に過度 に強調 されてはいないか どうか。 このような裁判員法によるマスメディアの取材 ・朝
裁判員蓑紳 Jの実際を診 る 道の自由の事実上の制限については、既 に憲法上の問題 も提起 されている31。 他方で、裁判員裁判 に関する実際の報道 のあ り方 に疑問を提示す るコメン トが見受け られたO 「裁判員の一挙手一投足が報 じられ、 中には裁判員 の質問がない ことを批判す るよ うな もの も あ り、一層の負担 として裁判員に跳ね返 った と想像 され る」:う2、 「報道が過熱気味でス トレス を感 じた。今後検討 して欲 しい」㍊、 「報道陣 にカメラを向け られて非常 に怖 い思 いをしま した。 『何 にも悪いことは していない、選ばれただけなのに』 という過剰な感 じが した」34。 このような状況は、裁判員裁判の実施当初であるが故 の過熱気味の報道であるか もしれない。 む しろ制度が定着 していくにつれて、徐 々に報道そのものの量 も少な くなる ことも懸念 される。 しか し、いずれ にせよ、もし裁判員候補者や裁判員経験者が取材 に対 して恐れや嫌悪感 を抱 い て しまった とした ら、結果 として、裁判員裁判 について国民の知 る権利 を著 しく害す ることにな る過剰な報道規制の呼び水 ともな りかねない。そ のよ うにな らないためにも、マスメデ ィアに は 「節度ある取材の重要性」が これ まで以上に認識 され る必要がある3㌔ (参守秘義務 裁判員やその経験者は、裁判員法上、評議で 自由に意見交換 をし、関係者のプライバ シーの権 利 を保護す るな どのために守秘義務 を負 う。具体的 には裁判員法
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条1
項で 「裁判員又は補充 裁判員が、評議の秘密その他の職務上知 り得た秘密を漏 らした ときは、 6月以下の懲役又は50 万円以下の罰金に処す る」とされ、同条2項で 「裁判員又は補充裁判員の職 にあった者」につい ては、処罰される秘密漏示行為の範囲は1項の場合 と若干異なるが、同様の刑罰が定め られてい る。 また、101条及び102条で、何人にも裁判員等を特定する情報の公表及び裁判員等への接触 を禁止 している。 しか し、このよ うな守秘義務は、裁判員やその経験者 にとって、前述 したような重い精神的負 担 とな り得るものである し、む しろ、裁判員制度の今後 の運用 を考えれば、裁判員を務めた者が その感想 を自由に述べるな ど、裁判員制度 の実状 を公表 して も らうことがよ り適切である。裁 判所 も会見に職員を立ち会わせ る ことな どを条件 に受 け入れてはいるが、実際の記者会見 にな ると、個 々の裁判 員経験者や報道関係者 にとって、 自由に述べて もよい (報道 してよい) 内容 と、明 らかにしてはいけない (報道 してはな らない)具体的な守秘義務の範囲が明確でないため に、問題が生 じているよ うである。 例えば4'、全国2例 日の裁判員裁判 (さいたま地裁) において判決言渡 し終 了後の会見で、記 者か ら …被告はまだ30代で、これか ら更生できるという裁判長の言葉が裁判員全員の気持ちを代 弁 した ものか ?…との質問に対 して、裁判所職員が 「守秘義務 に抵触す るおそれ」あ りとして裁 判員の回答 を制止す る場面 も見受け られた。その他 にも、判決への感想 として 「求刑通 りでよ かった」と述べた裁判員経験者に対 して 「守秘義務違反の恐れ」があるとしたが、報道す るか ど うかは各社の判断 とした青森地裁 の例や、量刑 に保護観察 を付 した気持 ちを尋ね る質問に対 し て 「守秘義務 に反す る可能性」を指摘 して報道の 自粛が要請 されたが、3時間後 当該要請 を撤回 した山口地裁 の例、 自分 の意見が判決 にどれ くらい反映されたかの質問に対 して会見 を遮 り、 「答えの内容によっては評議の内容 にかかわる」とした和歌山地裁の例、量刑判断で苦 しんだ部 分を質問 した ことに対 して 「守秘義務違反」 として報道 自粛を要請 したさいたま地裁 の例な ど、 各地の会見で地裁職員の介入が相次 いでいる とい う。 しか も、裁判員 としての守秘義務違反 の有無 について何故そ もそ も裁判所職員が判断 しなければな らないのか。その場での裁判所職員 の判断が果 た して適切か どうか もさる ことなが ら、類似 の状況下で裁判所 によって対応が異な るところもあるというo 守秘義務 をめ ぐるこのよ うな状況は、その範囲が明確ではない守秘義務が、裁判所職員にも実 は適切 に把握 されてはいない ことが窺 えるだけではな く、それ故 に こそ裁判員経験者や報道関 係者の表現 の自由を委縮 させ る効果 (chillingeffects)をも強力に有 している。率直に言って、 このよ うな状況は、表現 の自由の価値 とその限界 に関する既存の憲法理論37か ら診れば、少な く とも 「表現 の自由を規制する立法は明確でなければな らない」とす る 「明確性 の基準」に明 らか に抵触す るものであろう。 また他方で、守秘義務は、裁判員個 人にとって一番辛い、重い負担 と感 じられ るもの らしく、 軽 口を叩いて しまわないように,好 きなお酒を控えようと考えた り、早 く忘れようと思った りす る方 もいた。その後 の個人のライ フスタイル にも変容 を強 いる ことになるのであれば、裁判員 に課 され るべき守秘義務は、 「理性的な討議 に基づ く民主主義の維持のために支払 うべき当然の コス ト」:潮な どと正 当化 して看過できるものでな く、国民の負担 としては相応 しくない程度 に重 過 ぎるもの となって いるのではな いかo裁判員法における守秘義務 のあ り方がやは りあ らため て見直 され、検討 されるべきである。 ④被害者参加制度 被害者参加制度は、2007年 に刑訴法 を改正 して、316条の33乃至316条の39として追加 され、 2008年12月か ら導入 された、蓑紳 J員制度 とは互 いにまった く異なる理念的基盤 に立つ制度であ る。すなわち、従来の刑事手続では、犯罪事件の直接的な当事者であ りなが ら、刑事裁判への主 体的な関与は許 されず、 「忘れ去 られた人」 とされて しまった犯罪被害者の地位 を、被害者参加 制度では法的 に 「被害者参加人」として主体的地位 に高め、裁判 における証人尋問や被告人質問、 意見陳述の機会 を認めたものである。 しか し、従来か ら指摘 され る通 り、このような犯罪被害者 の訴訟参加は、無罪推定原則 とは根本的に抵触 し、犯罪被害者の強烈な応報感情 によって公判審 理が支配 され る危険性 を学んでいる39。 他方、裁判員裁判では、一般人である裁判員は、どうして も被害者の側 に心情が傾 きがちであ るとされ る.一般的な傾向 として、被害者 の側 に心情が傾 きがちな市民で構成 される裁判員裁 判 と、 「被疑者 ・被告人を犯人 と決めつけ苛烈な処罰感情 を顕わにす ることが多いであろう」40犯 罪被害者が裁判の当事者 として参加する被害者参加制度 の組み合わせでは,刑事被告人にとっ ては不利益 になる虞が大 きく、刑事被告人側か ら見た憲法上の 「公平な裁判所の-裁判 を受ける 権利」 (37条 1項) を害す る虞があるO また、裁判員裁判の下では、裁判 に当事者 として参加す る被害者やその遺族 にとって も不満が 残 ることもあるよ うである。例 えば、専 ら国民の負担軽減 を考慮 した裁判員裁判 の迅速化 に伴 い、被害者の立場か ら見て、 「公判前整理手続 きでは論点が絞 られす ぎる」、 「遺族の心の整理が 付 いていな いうちに裁判が終わって しまうこともあるのでは」 と問題点 も指摘 された410 果た して、裁判員裁判は、刑事被告人や被害者等の関係者の立場か ら見て、それ とは異なる制 度理念 に立つ被害者参加制度 との間で、親和性 を有するのか どうか、あらためて考えてみる必要 がある。
-6-裁判員裁判の実際を診る ⑤審理 ・評議時間 裁判員制度では、裁判員 となる国民の負担 に鑑み、迅速に短期間で公判手続が終結す るよ う制 度設計がなされている。 これ までの裁判員裁判 を診ても、そのほ とん どが比較的短期間 (3- 5 日)で終わるものであったが、他方で、事柄の性質上当然のことなが ら、刑事裁判の審理 に必要 な時間は十分確保 される必要がある。 しか し、実際の裁判員裁判では、納得できる形でその職責 を全 うしたい裁判員にとって不完全燃焼 と感 じられる実例 もあったよ うであるO 「先 に 日程 あ りきで進 んでいるので、予め定 め られて いるスケジュール に合わせ る形 にな っ た。 日程や裁判の進行 について柔軟性があって もいい」42のではないか。 強盗致傷 と覚せい剤取締法違反等 の事案 を扱 って いた大阪地裁 にお いては、本来予定 されて いた3日間の 日程 が台風18号の影響で2日間に短縮 された。 しか し、 このよ うな短縮措置は、 裁判員の負相等 を考慮 してのものであろ うが、刑事被告人 にとっては拙速な裁判 を戒める制度 の趣 旨に反するものであって疑問が残 るとともに、実際に記者会見で も、 「一度家 に帰って考え を整理 したかった」、「急かされたようで、こんなに早 く決めていいか不安だった」と述べる裁判 員 もいた4㌔ 裁判員制度が、刑事裁判に国民の良識 を反映 させて、 「司法 に対する国民の理解 の増進 とその 信頼の向上に資す ること」にあるな らば、終局判決が裁判員の意思 を反映 した ものであるだけで はな く、そのための前提条件 として、裁判員がその審理 ・評議 に納得できるだけの時間も、裁判 員の意思 を反映 させて、必要であれば確保 されなければな らないのではないか。思 うに、短期間 で終結す る裁判員裁判が専 ら裁判員 となる国民の負担 を慮 った ものであるな らば、裁判員が 自 ら率先 して、裁判所が定めた当初の公判予定期間よ りも長 く、納得できるだけの審理 ・評議時間 の延長を裁判所 に要求することは、制度の趣 旨に適 いこそすれ、何 ら矛盾するものではないはず である。 ⑥裁判員の主体性 ・能動性 裁判員制度が施行 される前か ら、裁判員裁判では職業裁判官がその主導権 を掌握 し、裁判員は お飾 りに過ぎないのではないか疑問が提示 されていたLh。具体的には、刑事裁判 についてはそ も そ も裁判員 と裁判官 には素人 とプロの間に生ず る情報格差が当然存在す るのに加 え、裁判官 の みが関与す る公判前整理手続や、同一被告人に関する複数の事件 について、個 々の事件 について 別 々の裁判員の関与を認める一方で、同一の裁判官が全ての関連事件の内容 を把握 して統括的 な役割 を果たす部分判決制度45に見 られ るよ うに、具体的事件について も裁判員 と裁判官 の情報 格差が制度上存在す る。 このよ うな状況下では、裁判員の側か ら積極的 に裁判官 と真 に対等 な 立場で裁判に臨むのを期待することは困難である。 実際の裁判 においては、概ね、和やかな雰囲気の下で、裁判員 と裁判官の協働 による評議や判 決が、裁判員も納得できるスタイルでなされていたよ うではあるが、時 に、裁判員が質問をした いと思 って も質問の機会が限 られていた場合 もあ り、また、知 りたいと思 う情報 を具体的に収集 する手段が少ないことに不満が残 っている様子 も窺 えた。思 うに、個 々の裁判員が納得で きる まで質問の機会 を十分確保する ことが裁判員や刑事被告 人の利益、裁判員裁判 に対す る国民の 信頼等にも結びつ くし、裁判員がその職責を真筆 に果たそ うとす るに際 して、知 りたいと思 う情 報を収集できるよ う裁判官等の訴訟関係者はできる限 り便宜 を図るべきであろうO
裁判員裁判では、裁判員 と裁判官の協働性が強調 されるが、やは り全体 としては、必ず しも裁 判 員が、裁判官 と同等 に、裁判進行 のイニ シアテ ィブをとるものではないことが窺え うる。今後 は、ある裁判員経験者が述べるように、 「裁判員制度の改善すべき点 について, 当事者である裁 判員か らの指摘や意見 を裁判所が率直 に受 け とめる機会があって もいい」46のではないか と思わ れ る。 さ らに、特 に注 目すべ きは、裁判員が一切関与 しない公判前整理手続 について、 「裁判員の負 担軽減や争点明確化 のために行われ る公判前整理手続が、最初か らきちん と判断 したいと願 う 裁判員の思 いとは逆 に作用す る可能性」47も示唆 された。 これは、法曹関係者か ら見て、今後の公 判前整理手続のあ り方 に重 い一石が投 じられた重要な コメン トとなるであろう。
Ⅲ
裁判員制度施行の現状 と課題
前節では、裁判員裁判の当事者や関係者 らのコメン トを基 に し、裁判員制度の問題点や課題 を 探 り出 してきた。そ こで、本節では、それ以外 に窺える、憲法学 の観点か ら特 に懸念 され るべ き、制度 の現状 と課題 についてい くつか検討 してみたい. (D裁判員裁判と量刑判断 これ までの裁判員裁判では、ほとん どすべての事件で被告人・弁護側は起訴 された犯行事実 を 認めてお り、証言 ・証拠が取 り調べ られはす るものの、情状をどのように考 えるか,量刑のあ り 方だけが争われ る事案 となっている48。刑事裁判の審理 に参加す る裁判員の権限 として中核 とな るはずの有罪無罪の判断が求め られ る機会はまだ見 られない 49。裁判官で も実は難 しいとされる 「適切な」量刑の判断 を行 うことが裁判員の実際の主な作業 となって しまっている。有罪率が 90%を優 に超えるとされるわが国の刑事裁判の実状 を鑑みれば、その原因の一つが被告人の有 罪 の 自認 に仮 にあるのだ とすれば、あるいは裁判所 にとって も誤判の虞がある否認事件の審理 をで きる限 り回避 しよ うとした りすれば、全体的傾向 として、今後 の裁判員裁判で も、このよう なタイ プが主流 となって しまうのではないか と推測 され る。 しか し、このよ うな現状は、裁判員裁判が実際に果たす機能 につき大 きな懸念が生ぜ ざるを得 ない。憲法が保障す る刑事裁判は、無罪推定原則や弁護人依頼権、自白の証拠能力の制限等 に見 受 け られ るよ うに、本 当は無実である被告人が誤 って有罪 として処罰 され る ことが決 してない よ う、捜査機関や裁判所 に対 して適正な手続dueprocessoflawに基づ く被告人の処遇 を厳 し く命 じ、被告人の人権保障や、誤判や菟罪の防止 に可能な限 り務める ことを目的 とするものであ る。 これ までの実例 を診 る限 りでは、裁判員裁判は、裁判員 となる国民が検察 ・警察等国家機関の 権 力作用 を厳 しく監視 し、被告人の人権 を擁護す るための盾 として機能するというよ り、これ ま でのいわゆる 「量刑相場」 に見直 しを迫るものになるか どうかは ともか く5O、む しろ、刑事被告 人に言 い渡 される量刑 につき、裁判員裁判 を通 じた国民か らの りお墨付ぎ 'を単に付与するもの にな りは しないか懸念 され る。確か に裁判員裁判 による量刑 に対 しては控訴 をす ることも可能 ではあるが、裁判 員が参加 してなされた第一審の量刑判断を尊重するべきだ ということ5■になれ ば、人権 を擁護する盾 としてよ りも "お墨付 ぎ 'として機能する度合いはなお一層高まるのでは裁判員裁判の実際を診る なかろうか。 したが って、国家権 力を監視 し、被告人の人権 を擁護す るための盾 としてではな く、…お墨付ぎ 'の量刑を科す ことのみが実態 として裁判員 には求め られ ることによって、結果 として 「隣人を して隣人を裁かせる残酷 さ」52を背負 うことになる裁判員の精神的負担の程度はさ らに相 当重いもの となっているに違 いない. ②公判前整理手続 と裁判の公開 裁判員制度その ものではな いが、 当該制度の実施 にあた り裁判員法上必ず実施 されなけれ ば な らない手続である (裁判員法
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粂)、刑事訴訟法上の公判前整理手続盟は、裁判 に係 る裁判員 の負担 を軽減するため、重点的に取 り調べ られなければな らない争点や証拠 を整理 し、非公開で 行われている。実際の裁判員裁判のシナ リオも、関係者のコメン トか ら推せば、裁判員抜きで事 前に行われ る公判前整理手続で概ね決定 されて いる印象 を受 ける。従来 の刑事裁判 に比べ、裁 判員の負担 を考慮 して、数 日で終わ らさなければな らない裁判員裁判 のために、結局はそれ に向 けて長期 に渡る公判前整理手続が事前に必要 とされ る可能性 もある。す る と、 これ まで公開裁 判の下で行われて いた争点整理等の作業が、裁判員裁判の下では非公開の公判前整理手続で行 われるとすれば、実質的に重要な裁判の過程が秘密裏 に地下 に潜 った印象 も受けて しまう。 近代裁判制度の基本原則の一つ として公開裁判の原則があ り、 「裁判の公正 さを確保す るため には、その重要な部分が公開され る必要がある54」 とされ る。わが国の憲法 も、82条で 「裁判の 対審及び判決は、公開法廷で これを行ふ」として、裁判 の公開を定めている。裁判の 「対審」と は、「裁判官の面前で当事者が 口頭でそれぞれの主張 を述べる こと55」を言い.職業裁判官 のみ に よる従来の刑事裁判の しくみでは、具体的 には 「公判手続」が該 当するものと解 されていた。 ま た、憲法は、刑事被告人の権利 としての側面か らも、特 に37条1項で 「公開裁判 を受 ける権利」 を保障 している。 このよ うに、刑事裁判では、憲法上、その公 開要求は特 に強い。 裁判員裁判の運用 を診る限 り、公判前整理手続は、明 らか に裁判員裁判の行方 を定める 「重要 な部分」 となっている。手続の内容 も、 「裁判官の面前で当事者が 口頭でそれぞれの主張 を述べ る」ものである。 したがって、これ までの憲法解釈 をあてはめてみる限 り、憲法上公開が求め ら れる裁判の 「対審」とは、裁判員裁判 になると、従来 の公判手続 に加えて、公判前整理手続 も該 当するものと解 さなければな らない。 それ故に、例えば、公判前整理手続が従来の公判手続ではないという単 に形式的な理 由で、公 判前整理手続 を非公開で行 うことは、恐 らくは裁判の公開原則の形骸化 を惹起 し、裁判の公開を 定める憲法82条 に抵触す ることになろうcJS。 ③刑事被告人の弁護人依頼権 と刑事弁護のあ り方 憲法37粂 3項では、 「刑事被告人は、 いかなる場合にも、資格 を有す る弁護人を依頼す ること ができる」 と定めるC この弁護人依頼権 は,ただ弁護人を依頼できるだけではな く、 「弁護人の 援助 を得 るために認め られた ものであるか ら、援助が実質的に得 られ る ことまで保障内容 に入 る」57もの と考え られる。 この点 につ き、 これ までは主 に刑事訴訟法39条 に規定された接見交通 権のあ り方等が具体的な問題 として指摘 されてきたが、今後は、裁判員の負担 とな らないよ う迅 速な裁判をめざす裁判員制度 との関係で も新たな問題 とな り得 る。 すなわち、地方では、裁判員裁判の実施が原則 として各県の県庁所在地 に在 る各地裁本庁 に限られ るSRo この ことが、過疎地や離島な ど多様な地域 に居住する裁判員候補者が出頭する際の負 担 にもなるが、さ らに、地方 における弁護士 の地域的偏在 と相侯って、弁護側が遠隔地に居住す る被告人 と接見す る負担の大 きさが強調 されている59。 このような負担の大きさは、裁判員制度 施行前か ら存在 していたのではあろうが、平均3- 5日程度 の短期間で終結 して しまう裁判員 裁判 の下では、仮 に公判前整理手続等 を十分 に活用できていた として もなお、弁護人の実質的援 助が受 け られ るべき被告人の権利利益が害 され る虞は十分にある。 また、裁判 員裁判 に向け、組織的に対応 し、整然 と準備す ることができた裁判所や検察庁 に比 べると、弁護人側は、裁判 において証拠 を収集 した り立証活動 をした りする上で人的にも予算的 にも使 える資源 に明 らかな差がある。それ故 に、個人や事務所単位で活動す ることが多い弁護 人側 は、個 々の弁護士や事務所 ごとに裁判員裁判への対応や準備 の仕方で どうして もム ラや違 いが生 じ、全体 として見 ると必ず しも十分 には適応 し得ていない、順応不足の感は否めないとこ ろがある。従来 とは異なる弁護手法が求 め られ るため、不安 を感 じて いる弁護士は多 くいるで あろ う。そのよ うな状況 にあって、福岡弁護士会が全国に先駆 けて、弁護士 による現状への対応 や裁判員制度 の検証のため、あるいは恐 らく市民 目線か ら見た分か り易い刑事弁護のための新 たな手法 を探 る等 のために、市民に裁判員裁判 を傍聴 して もらい、率直な意見や感想を述べても らう 「市民モニター制度」 の取組みが注 目されるGOo ④裁判員裁判対象事件の範囲 制度設計の段階か ら裁判員裁判対象事件の範囲については議論があったがhl、裁判員法は、基 本的に犯罪事件 の客観的な性質 を基準 にして裁判員裁判対象事件の範囲を定めている。具体的 には、法2条 において、 「国民の関心が高 く、社会的影響 も大 きい重大犯罪62」 を基準 にして、 「法定刑が死刑または無期 の懲役 もしくは禁銅 に当たる罪 に係 る事件」や、概ね 「故意の犯罪行 為によ り被害者 を死亡 させた罪 に係 るもの」が裁判員制度の対象 となる事件 とされている。 しか し、 これ までの裁判員裁判 を通 じて、被告人を始め、関係者の人権 を鑑みれば、例えば、 性犯罪の被害女性や外国人の被告人等、裁判員裁判 にな じまない関係者 の類型 も存在す るので はないか と思われる。具体的には、裁判員裁判の下では、果た して、性犯罪の被害女性のプライ バ シーは適切 に保護 され うるのか、 日本国民のみで構成 され る裁判員 と日本語 をあま り理解 し て いな い外国人 との問の法廷 コミュニケー シ ョンは適切 に図れ るのか6:う、 「通訳 を介 し審理時間 が倍増す る ことによる裁判員の負担や集 中審理 による通訳の負担、通訳のニ ュア ンスが裁判員 の心証にどのよ うな影響 を与えるか64」6L-'等 の問題 を考慮すると、対象事件の範囲そのものの見直 しを伴 うことな しに、制度 の運用改善のみ を強調 し検討す るだけで解消できるよ うな課題 とは 思われないO 現在 の裁判員裁判対象事件の範囲設定の仕方は、基本的 には、諸々の事情 を考慮 したいわば政 策的な ものである。それ故 に、その対象範囲を、例えば民事事件や行政事件、軽犯罪事件等 に拡 大する ことが可能fx'なのであれば、む しろ逆 に、憲法上当然に配慮 されなければな らない、裁判 に関与す る個人の人権保障状況に配慮 した主観的基準 (裁判員裁判の適用除外)の設定 も柔軟に 検討 されてよいのではないか と思われ る。
裁判員裁判の実際を診る
Ⅳ 結びに代えて
憲法学は裁判員制度 に如何 に向き合 うべきか
-大学の憲法講義や憲法概説書 にお いて必ず指摘 され る 日本国憲法の特色の一つ として、人権 規定 における人身の 自由を保障す る条項 の詳細 さがある。具体的には、18条では奴隷的拘束 の 禁止や個 人の意 に反す る苦役か らの 自由を定め、31条では適正手続 の保障 とい う、人身の 自由 保障の基本原則 を定めるほか、33条か ら40条 に渡 って、特 に刑事手続全般 について 「諸外 国の 憲法に例 をみないほど詳細な」内容のものとなっている。基本的人権 を主に保障す る憲法第3章 の粂文数は単純 に数えると31あるので、その うちおよそ3分の 1、10ヵ条が人身の 自由の保障 に割かれていることは、わが国の憲法上の人権保障のあ り方 の特色 を、あ くまで形式的に探 る上 では、大きな手がか りとなる。 しか し、憲法 に 「諸外国の憲法に例 をみないほど詳細な」人身の 自由に係 る保障規定があるか らと言って、必ず しも人身の 自由が 「諸外国に例 をみないほど」の レベルで現実 に保障されてい るわけではないOむ しろ、残念なが ら、わが国の刑事手続 の内実は、国際的な基準 に照 らして も、例えば国連国際人権 (自由権)規約人権委員会等か ら厳 しい改善勧告 を言 い渡 され る67程で あるし、かつて高名な刑事訴訟法学者の診断によって 「絶望的な状況00」と評 された こともある。 憲法にお いて形式的に明文 の人権保障規定が存す るか らといって、額面通 りの保障が実効的 に 確保 されて いるとは限 らな いことは必ず しも人身の 自由に限 られた話ではない 69。 しか し、特 に、刑事手続では、無実の市民が著 しい人権侵害 を被 って しまう、違法な捜査活動や誤判、菟罪 事件等の危険性がある故 に、その運用面の把握及び分析 を決 して欠かす ことはで きない。 ま し てや、憲法上明文の規定のない裁判員制度が、わが国の刑事手続 の一環 として採用 され る以上 は、憲法学上は 「憲法違反の問題はないという理解 に基づいて、制度化 された7O」 とされるが、 仮 にその認識が適切な ものであった として も、その運用面の把握及び分析 について同様 に欠か す ことは許 されない。 裁判員制度は、わが国の刑事手続 を構成する制度 として、憲法上、どのよ うな機能 を現実 に果 たす ことになるのであろうか。 これ までの刑事手続 の歴史及び現状 を鑑みれ ば、制度導入が少 な くとも形式的には 「大改革」であった として も決 して油断を許す ことはできない。憲法上適正 な刑事手続の構築 を図ろ うとす る学説 と、実務 との間の乗離が他分野 にもまして著 しい とされ る刑事司法の領域 においては、特 に被告人を始 め とした関係者の人権 の観点か ら、裁判員制度が 果た して 「大改革」の名に現実 に値す るものか どうか、む しろ逆 に 「大改革」とされ るものの正 体が実は針小棒大、 あるいは既存の刑事手続 の問題状況 を温存 し得 るイデオ ロギー に しか過 ぎ ず、 ま してやあってはな らない新たな人権侵害や菟罪事件等 を惹起す るものにな らないか どう かが常に留意 されなければな らない。 憲法学は、裁判員制度のような、国民の司法参加のための諸制度 に対 して、国民主権 の原理等 の観点か ら積極的に評価 し、あ くまで も好意的な姿勢 を確保 し続けたいのであれば、否認事件や 争点の多 い複雑な事件、死刑 を言 い渡すべきか どうか悩む凶悪な事件等 の審理が まだ待 ち構 え ている今後 も、なお一層注意 して、裁判員制度の運用の実際を仔細 に診ていかなければな らない 責任がある。【注釈】 1裁判員 と裁判官が共 に評議 し、有罪 ・無罪の決定及び量刑 を行 うという、裁判制度 にとって重大な側面を 捉 えて、参審制 に近 いもの と評価する向きもあるが,本稿では、具体的事件毎 に無作為抽 出で選出されるとい う点でアメ リカ陪審制の性質 を有す るところもあ り、 また恐 らく世界で類例のない、死刑判決 を言 い渡 しう ること、独特 の評決方法(裁判員が関与す る判断は、裁判員及び裁 判官 の双方の意見 を含む合議体 の員数の過 半数が賛成する意見による)や公判前整理手続 を備 えている等で、やは り独 自性 を有する制度 と評すべきだと 考える。 2周知 の事柄であるが、念のため、 司法制度改革は、1999年7月に司法制度改革審議会が内閣に設置された ことを契機 として始 ま り、同審議会 による約2年 に渡 る調査 ・審議の成果 として、2001年6月に司法制度改 革審議会意見書が まとめ られた。そ の中で、司法制度改革 の3つの柱の一つ として, 「国民的基盤の確立」が 掲げ られ、刑事裁判 に国民が参加す る制度 として裁判員制度 の導入が提言 され、制度 の骨格が示 され ること となった。 Lri最高裁判所 『裁判員制度ナ ビゲー シ ョン (2008年9月補訂版)』10頁。 4池 田修 『解 説裁判員法 一立 法の経緯 と課題』(弘文堂、2005年)(以下、池 田 ・解説 と表記す る)は しが き (1)頁0 5米軍 占領統治下 の沖縄 における陪審制度 の概要 につ いては、大 田朝章 ・鳥毛美範 「アメ リカ統治下 ・沖縄 の陪審制度」 自由と正義43巻10号62頁参照。 また、米国 占領統治下の沖縄で、沖縄住民による米兵殺傷事件 で実際に陪審員 を務め、 当時の陪審裁判の様子 を克明 に描 き出 した労作 として,伊佐千尋 『逆転 -アメリカ 支配下 ・沖縄 の陪審蓑紳 山 (新潮社、1977年)があるO但 し、本書 を見る限 り、 当時の陪審制度は、やは り本来 の陪審制度 とは異なる特殊な ものであって、 あ くまで も 「米軍 占領統治」下 の制度 に しか過ぎない ことか ら 派生する厳 しい制約 を現実 に受けざるを得ない面 もあ った0 6陪審制度が停止 された背景には、い くつかの要因が考 え られよ うb例 えば、(彰陪審が行 う判断(答 申)に拘束 力がな く、気 に入 らな ければ裁判官 は何度で もや り直 し (陪審 の更新) を命ず る ことができた こと、② 陪審 員資格 に財産制限 を設けることによって制度 の担 い手 を有産階級 とした こと、くさ陪審裁判の手続 が被告人の 防御 にとって概ね不利 に働 いた こと等、制度面の不備が挙げ られ る ことがある(参照、利谷信義 「戦後改革 と 国民の司法参加」東京大学社会科学研究所戦後改革研究会編著 『戦後改革4 司法改革』 (東京大学出版会, 1975年)77頁以下 (特 に82-86頁))。 また、国民性 に合わない、職業裁判官への信頼、「上か らの改革」的 側面、国民への周知徹底の不足等、社会環境面での問題が挙 げ られ ることもあるCただいずれ にせ よ、戦後 も、決 して陪審制度の廃止にまでは至 らず、周知の通 り、裁判所法 (昭和22年法59)3条3項において、 「-・ 刑事 について、別 に法律で陪審 の制度 を設 ける ことを妨げない」 として、陪審制度 (の復活)を許容 していた。 7わが国で行われていた陪審制度 の概要 については、 さしあた り、大 日本陪審協会 (四官啓監修) 『陪審手引 【復刻版】』(現代 人文社、1999年), ジュ リス ト1198号臨時増刊 『司法改革 と国民参加』 (有斐閣、2001年) 422百以下、前掲注 (6)利谷論文等 を参照。 8求刑 は懲役16年 に対 して、懲役15年の実刑が公判期 日の最終 日である8月6日に言 い渡 された (以下.刺 決言渡 し期 日は同様 に公判最終期 日の 日で ある)。但 し,2009年10月21日現在で も、本件は確定せず、被告 人 ・弁護側か ら控訴 され、東京 高裁 に係属 中である。なお、本件 につ いては、後 日、裁判傍聴記が公表 され ている。参照、青木孝之 「傍聴席か らみた第 1号事件」法学セ ミナ-660号 (2009年12月)26亘、片山徒有 「第1号事件 にみる新 しい法廷の風景」 同28頁。
裁判員蓑ゝ浄Jの実際を診る 9求刑は懲役6年であったが、懲役 4年 6月の実刑が言 い渡 された。 10本件は、惟犯罪 を審理す る初めてのケースであるとともに、本来は裁判員裁判対象事件ではない罪 (窃盗) や、裁判員制度施行前に起訴 された事件 をも併せて審理す る初のケース となった。求刑通 り懲役15年が言 い 渡 された。 11求刑は懲役5年であったが,懲役 3年、保護観察付 き執行猶 予 4年が言 い渡 されたO弁護側が量刑 につい て主張 した内容 に沿 った判決であった。なお、本件 については、裁判傍聴記が公表 されている。参照、平 山真 理 「家庭内殺 人未遂事件の裁判員裁判」法学セ ミナー660号 (2009年12月)30頁0 12覚せ い剤の布輸事件 を審理す る初めてのケース。求刑は懲役10年、罰金500万円に対 して、懲役 5年、罰金 350万円が言 い渡 された。 1:う介護疲れか ら寝たき りの妻 を包丁で殺害 しようとした夫 に対 し、求刑は懲役4年であったが、懲役3年、保 護観察付 き執行猶予4年が言 い渡 されたo弁護側が量刑 につ いて主張 した内容 に沿 った判決で あったo ま た、裁判 員裁判が即 日結審す る初めてのケースで もあった0 14外国人が被告 とな り通訳が付 く初めてのケース。知 人2人 と共謀 し路上で通行人 を殴 り現金な どを奪 った とされる2件の強盗致傷事件 を扱 った。裁判員裁判 における法廷通訳のあ り方が注 目された。後 日の報道で は、求刑懲役6年 に対 し、懲役 5年が言 い渡 された。 159月に公判 を実施す る 日程が既 に決 まっていたその他 の裁判員裁判 と、その判決内容 を整理す る と、産経 新聞2009年10月 9日23面 (以下、新聞の 日付 について西暦 を省略す る。) によれば、 9-11日に覚せ い剤取 締法違反事件 を福 岡地裁で (求刑は9年 に対 して、懲役 7年が言 い渡 された)、14-16日に強盗殺人事件 を和 歌山地裁で (求刑は無期懲役であるのに対 して、求刑通 り無期懲役が言 い渡 された)、14-18日には強盗致傷 事件 を千葉地裁で (求刑は懲役4年 に対 して、懲役 3年、執行猶予 5年が言 い渡 された)、15-17日には現住 建造物等放火 事件を高松地裁で (求刑は懲役7年 に対 して、懲役 6年が言 い渡 された),15-18日に殺 人事件 を福岡地裁で (求刑は懲役10年であるのに対 して、懲役 6年が言 い渡 された)、15-18日に強盗致傷事件 を津 地裁で (求刑は懲役8年であるのに対 して、懲役 6年 6月が言 い渡 された)、28-30日に覚せ い剤取締法等違 反事件を千葉地裁で (求刑は12年であるのに対 して、懲役 8年が言 い渡 された)、29-10月 1日に殺人事件 を 横浜地裁で (求刑は懲役22年であるのに対 して、懲役19年が言 い渡 された)、29-10月 2日に殺人事件 を福島 地裁郡山支部で (求刑は懲役20年であるのに対 して、懲役17年が言 い渡 された)、30-10月 5日に現住建造物 等放火事件をさいたま地裁があった (求刑は懲役10年であるのに対 して、懲役 9年が言 い渡 された)。 16最高裁 に設け られた 「裁判員制度 の運用等 に関す る有識者懇談会」(第4回) に出された資料 「裁判 員裁判 の実施状況 について」 による と、 5月21日か ら 9月11日までの間 に、裁判員裁判対象事件新受理件数は、全 国で既 に566件 に上っている とされ る。地域別 にみ る と、大阪67件、千葉62件、東京42件、 名古屋30件、 さ いたまと福岡が26件ずつ となっている。罪名別では、殺 人132件、強盗致傷126件,覚せ い剤取締法違反51件、 現住建造物等放火45件,強姦致死傷39件 となって いる。 因み に、筆者が在住す る沖縄県では、 よ うや くまず 12月15-17日の 日程で殺 人未遂等の事案 を、次 に2010年 1月26-28日の 日程で傷害致死の事案 を、那覇地裁 で審理する ことが決 まった (沖縄 タイムス10月17日31両及び21日29面)。 なお,駐留米軍 の専用施設 の約75% が集中する沖縄県 にお いて当に特徴的 と思われ る、米軍人 (18歳 の少年兵) による犯罪 (強盗致傷 と銃刀法 違反の容疑)が裁判 員裁判対象事件 として全国で初めて起訴され るに至っている (沖縄 タイムス10月21日29 面)0
度実施の不可能性 (上)(下)」判例時報1883号3頁、1884号3頁 (2005年)、小田中聴樹 『裁判員制度 を批判 す る』(花伝社、2008年)、高山俊 吉 『裁判員制度はい らない』(講談社、2006年)、西野喜一 『裁判員制度の正 体』(講談社、2007年)、 同 「日本国憲法 と裁判員制度 (上)(下)」判例時報1874号3頁,1875号3頁 (2005 年)、 同 「裁判員制度批判 (上)(下)」判例 時報1904号3東、1905号14頁、井上薫 『つぶせ !裁判員制度』 (新潮社、2008年)な どがある。 18本文では言及 されないが、これ までの幾つかの裁判員裁判 においては既 に、例 えば,公判が実施 され る予定 の裁判所庁舎前で、裁判員制度廃止 を求める集団示威運動が行われた り、あるいは傍聴人 として傍聴席か ら 裁判員裁判の廃止、中止 を直裁 に裁判官 ・裁判員 らに向けて主張 した りすることが行われている。 ■9朝 日新聞8月4日2両。 民主党は、手始 めに2009年4月1日に 「裁判員制度実施 に向けた環境整備等 に関 す る意見書」 を提出 して いる。その中で、① 国民への周知 ・広報、② 民間事業所等 における裁判員休暇制度 の整備、(参育児 ・介護等 を要す る家族 を有す る者 のための一時預か りサー ビス等 の受入れ態勢の準備、① 日 当の額 の適正性、⑤死刑判決の評議方法の見直 し、⑥裁判員の秘密漏示や 出頭拒否への処罰 ・過料の適用 ・ 運用のあ り方、⑦裁判 員裁判 における被告人の防御権、公正な裁判の保障な どについて言及 されている。 21)例えば、2009年10月3,4日に実施 された El本世論調査会 による全国調査 によれば、裁判員制度への評価 に ついて肯定的な回答が55%に上 るものの、実際に裁判員を務めて もいいとい う人は29%にとどま り、「裁判員 裁判が相次 ぎ、浸透 しつつあるが、参加意欲は高 まって いな いことが示 された形」であるとされ る。沖縄 タ イムス10月11日朝刊1面。 21裁判員裁判 の模様 を 「法廷 ライブ」等 で比較的詳細 に報道 して いると思われる産経新 聞や、そのイ ンター ネ ッ ト ・デ ジタル版 (MSN産経ニ ュース) を主な手がか りに して、全国紙 (朝 日新聞 ・毎 日新聞)や、筆者 が居住す る地域の地元紙 (沖縄 タイムス) の関連記事で補 っている。なお、本稿の校正段階 (2010年3月上 旬)において,裁判員制度 に関する最高裁判所 のホームページ(http://www.saibanin.courts.go.jp/)で、(戟 判 員法103条 に基づ くものであろうが、) 「裁判員制度」の実施状況や、裁判員経験者 らの 「声」が掲載 され た。特 に、 「裁判員等 に対す るアンケー トの 自由記載 (平成21年8月、 9月分)」はA4サイズで38頁にも及 び、本稿で新聞記事等 で収集 できた 「声」 と重複す る部分 も多 いが、 よ り詳細で,その内容 も多岐に渡 って お り、興味深 い内容 となっている。本稿では、執筆時期 との関係で言及す ることができなかったが、最高裁 に よって公表 された公的資料 として重要であ り、参考 になる0 21'沖縄 タイムス9月14日29面。 23産経新聞デ ジタル版8月12El (全国2例 日の裁判員裁判が行われた さいたま地裁 における記者会見)「【裁 判 員 振 り返る】(1)『もっと若 いときに体験 したかった』 ・・・安堵 と疲労感漂 う」0 24産経新聞デ ジタル版8月12日 (全国2例 日の裁判員裁判が行われた さいたま地裁 における記者会見)「【裁 判員 振 り返 る】(3完)守秘義務 『辛い ところですね』 -家 に帰れば 『この3日間妻がや さしくて』」。 25産経新聞デ ジタル版9月25日 「裁判員裁判、地方な らではの苦悩 遠隔地、弁護士の負担増・・・」(中村和樹) u'読売新聞オ ンライ ン版6月15日によれば、「裁判員裁判 で悲惨な事件の審理 に参加 し、精神的な ショックを 受 けた裁判員 らの心のケアを充実 させ るため、最高裁は、(24時間態勢の無料の電話相談窓 口を設けるという 従来の方針 に加 えて)臨床心理士 らによるカウンセ リングを5回 まで無料で受け られ るよ うにす る方針 を決 めた」 という。 5回 まで という回数制限の点 には疑問があるが、最高裁 は 「裁判員の心のケアは、陪審制や 参審制 を導入 している国 と比べて も遜色ない対応 になると思 う」 と自負 している。 ㌘緑 大輔 「裁判 員の負担 ・義務の正当性 と民主主義」法律時報77巻4号 (2005年)41頁。なお、柳瀬昇 「裁 判員制度 の憲法確論」 法律時報81巻1号 (2009年)62頁以下 も、結論 として同趣 旨の主張 を展開す る。
裁判員裁判の実際を診 る 2H溝 口烈 「制度検証に向け、市民の声伝 える一成果 上げた裁判員経験者の記者会見」新 聞研究699号 (2009年 10月号)48頁。 年4月号)44頁. 30例えば,社団法人 日本新聞協会は、 「裁判 員制度 開始 にあたっての取材 ・報道指針」 を2008年1月16日に発 表 している (新聞研究679号 (2008年2月号)14頁に掲載)O さ らに、同協会は、2009年2月26日にも 「裁判 員 となる皆 さんへ」という声明を発表 し、裁判員経験者 に対 して記者会見 による取材 に協 力するよ う要請 して いる0 31例 えば、松井茂記 「裁判 員制度 と取材 ・報道 の 自由」法律時報77巻4号 (2005年)45頁以 下、川岸令和 「裁判員制度 と報道の在 り方」刑事法 ジャーナル15号 (2009年)38頁以下等 を参照0 32産経新聞2009年8月7日3面 (元東京高表紳 J事 の村上光鶏氏のコメン ト)O ・i3前掲注(22)0 34前掲注(24)0 35前掲注(28)溝 口論文50頁0 36裁判員経験者 らの守秘義務 をめ ぐる各地裁 における記者会見の問題 については、沖縄 タイムス10月15口14 面を参照 している。 :う7例えば、芦部信書(高橋和之補訂)『憲法(第4版)』(岩波書店、2007年)181-199頁 (特 に191-194頁)、野 中俊彦 ほか 『憲法 Ⅰ(第4版)』(2006年、有斐閣)336-348頁 (特 に345-346頁)、佐藤幸治 『憲法 (第3版)』 (青林書院、1995年)517-525頁 (特 に523頁)等 を参照。 38前掲注(27)緑論文41日。 39このような問題意識か ら執筆 された文献 として、岩 田研二郎 「刑事訴訟 における被害者参加制度 の問題点」 法律時報79巻5号 (2007年)88頁以下等。なお、被害者参加制度 については、例えば、椎橋隆幸 「裁判員裁 判における被害者参加の意義」刑事法 ジャーナル16号 (2009年)30頁以下 とその末尾 に掲 げ られた参考文献 リス トを参照0 40川岸令和 「刑事裁判 とは異なる報道の役割 に期待」新聞研究693号 (2009年4月号)32頁O 41沖縄タイムス9月22日25面0 42全国では4例 日、西 日本では初の裁判員裁判が行われた神戸地裁 における記者会見 の様子 を詳細 に報道 し た産経新聞デ ジタル版9月9日 「裁判員 『事実関係 に問題があれば、 この 目程では無理』」。 43産経新聞デジタル版10月9日 「裁判員 大阪地裁 台風影響で 日程短縮 判決言 い渡 し」。 44前掲注(17)文献 (特 に大久保、小田中、高山、西野各氏 による著書 ・論文) を始 め として、去紳 J員制度 に ついで 懐疑的、批判的な立場か らは、 この点が問題点 として言及 されている0 452007年5月の蓑紳 j員法改正 によって裁判員裁判の特例 として71-99条 に新たに導入された制度である。 こ の制度 については、裁判員裁判 にとって不 可欠な 「裁判官 と裁判員 との対等性」 を欠 くことを論拠の一つ と して、日弁連 を始め、憲法学及び刑事訴訟法学双方 の学説か ら特 に厳 しい批判が向け られている。例 えば、笹 田栄司 「裁判員制度 と憲法的思考」 ジュ リス ト1363号 (2008年)79頁以下、座談会 (笹 田栄 司、 ダニエル ・ フッ ト、長谷部恭男ほか) 「裁判員制度」 ジュ リス ト同号88頁以下 (特 に100-103頁)、川崎英明 「裁判 員制 度の課題」法律時報79巻12号 (2007年)32頁以下等 を参照。 46前掲注(42). 47産経新聞デ ジタル版9月11日 「【裁 く時 第4部】(下)浮かんだ課題 相反す る負担 と充実」(小野木康雄、
加納裕子、福富正大)0 48沖縄 タイムス10月18日29面によると、 8月か ら始 まった裁判員裁判が全国で30件 を終えた段階では、未だ 無罪 を主張 して争ったケースはな く、すべて被告人が有罪 を認めたケース となっている。 49産経新聞9月17日デ ジタル版 の報道 によれば、さいたま地裁 にお いて、強盗致傷等 の罪状を否認 し、無罪 を 主張す る全国初の事案の公判がよ うや く11月30日∼12月2、 4、 7,11日の6日間に渡 って指定 された。裁 判 員となる国民にとっては12日間に渡 って、当言亥事案 に関わ ることとなる。 50これ までの裁判員裁判では、検察側 の求刑 どお りに量刑が言い渡 された事例 もあれば、逆 に弁護人が主張 す るとお りの量刑が言 い渡 された こともある。共 同通信の集計によれば, これ までの裁判員裁判30件のうち 実刑判決25件は、「求刑の8掛 け」とされ る従来の裁判官だけの裁判の "量刑相場●'と変わ らないことが分かっ た との報道 もなされている (沖縄 タイムス10月18日29面)0 51最高裁司法研修所は、去帥 J貞裁判 の-審判決について,「できる限 り尊重すべきだ」、 「破棄 されるケースは 例外的な ものに絞 り込 まれ る」 とした研究報告書 を公表 したC特 に、量刑 については 「よほ ど不合理的な こ とが明 らかな場合を除き」と強い表現で-審判決重視 を提言 して いる。その後、東京高裁刑事郡部総括裁判官 研究会 において も、概ね最高裁の見解 を支持 している。産経新聞8月 7日23面、産経新聞デ ジタル版8月 7 日 「【裁判 員 判決】控訴 した ら. どうなる」、沖縄タイムス8月7日31面。裁判員制度 における上訴 (特 に控 訴審) のあ り方 につ いては.例 えば、椎橋隆幸 ほか座談会 「裁判員制度導入の是非 をめ ぐって」現代刑事法 32号 (2001年)25-27頁参照。 ㍊ 前掲注(17)小田中 『裁判員制度 を批判する』14頁。 I Cll裁判 員法の施行 に先立 って、2004(平成16)年 に刑事訴訟法が改正 され、裁判所が 「充実 した審理 を継続 的、計画的かつ迅速 に行 うため必要があると認めるときは、検察官及び被告 人又は弁護人の意見を聴 いて、第 --回公判期 日前 に、決定で、事件の争点及び証拠 を整理す るための公判準備 として、事件 を」(316条の2第1 項)付す ことができる手続 きを 「公判前整理手続」 として、316条の2乃至316条の27が追加 された。 54前掲注(37)芦部 ・憲法337頁。 55前掲注(37)芦部 ・憲法337頁。 誌裁判員制度 の実際か ら当該制度 のあ り方 を診 る本稿 の趣 旨か らは、特 に取 り上げる程 の問題は感 じられな か ったが、前掲注(31)松 井論文では、本文 と同 じく裁判 の公開の観点か ら、「裁判員選任手続」に焦点 を当て、 「裁判員選任手続は公判手続 と密接 に結びついた手続で あ り、それ ゆえ憲法82条の裁判の公開の趣 旨が適用 され るべ きように思われ る」(48頁) と述べる。 57前掲注(37)野 中ほか ・憲法Ⅰ425-426頁0 58但 し、最高裁判所ホームペー ジによれば、次 の地裁10支部については、裁判員裁判が実施される。①東京地 裁立川支部、②横浜地裁小 田原支部、③静岡地裁沼津支部、④ 静岡地裁浜松支部、⑤長野地裁松本支部、㊨ 大阪地裁堺支部、⑦神戸地裁姫路支部、⑧ 名古屋地裁 岡崎支部、⑨福岡地裁小倉支部、⑳福島地裁郡山支部0 59前掲注(25)0 60産経新聞デ ジタル版10月10日 「裁判員裁判、 `■国民 目線"で傍聴 福 岡弁護士会が市民モニ ター制度」 (福田 掠太郎)。 ('1前掲注(4)池 田 ・解説8-11頁。 62前掲注(4)池 田 ・解説7頁。 6・i外国人が被告 となる全国初 の裁判員裁判 (さいた ま地裁)の判決後の記者会 見では、 「きちんと通訳 されて いるか どうかは被告 の表情 をみて判断す る しかなか った」、 「質問内容が100%被告 に伝わ ったかは分か らな
裁判員裁判の実際 を診 る い。 日本語の独特のニ ュアンスまで伝わ ったのかな」と首をか しげた様子が報道 されている (産経新 聞9月12 日25面)。 64前掲注(5)伊佐 千尋 『逆転』では、沖縄の青年たちが犯行現場で 「くるせ、 くるせ」 と沖縄方言ではや し立 てた場面で,後 に地元沖縄 出身の陪審 員によって適切 に訂正 されは した ものの、その言葉 を ◆-Killyour と して通訳者がニ ュア ンスを誤 って訳 し伝 えたために、被告人に対す る陪審員たちの心証 に決定的に大きな影 響を及ぼ しかけた。問題の沖縄方言はせ いぜ い"Hurtyour とで も訳すべき言葉であった。 このよ うな米軍 統治下の陪審制で沖縄 の人々が経験 した ことは,外国人を排除 して. 日本国民にそ の構成 員を限ったわが国 の裁判 員裁判における外国 人被告人の立場 にはよ り一層 当てはまる。 65産経新聞9月7日23面。 GG実際、政府 の司法制度改革推進本部 メンバー として裁判員制度導入 に関わ った四官啓氏は. 「制度が定着す れば-裁判員裁判の対象外である公務 員犯罪や表現 の 自由に関す る事件、 あるいは国家賠償事件な どで も参 加 を求める声が出て くるか もしれない」 と述べて いる。 参照、産経新聞10月3日。 67例えば、国連国際人権 (自由権)規約人権委員会 による 日本政府への勧告では、 これ まで幾回に も渡 り、 刑事手続 について (一例 として、死刑制度や代用監獄、弁護人の立会 いのない捜査機関による被疑者取調べ、 起訴前勾留の実態,刑事施設 における在監者 の処遇等)改善勧告がな され続 けている。 6A平野龍一 「現行刑事訴訟の診断」平場安治ほか編 『団藤 重光博士古稀祝賀論文集第4巻』 (有斐閣、1985 年)407頁以下。 この診断内容は、単に 「学界のみな らず、実務 あるいは刑事弁護 に携わ る人々等、多方面 に 大きな衝撃 を与えて、様 々な反応が生 じた」 もの とされている (松尾浩也はか 「座談会 平野龍一先生の人 と学問」 ジュリス ト1281号21頁 (酒巻 匡発言))。 ㈹例えば、特 に,平和的生存権が憲法前文や9条によって具体的 に保障されて いると考 える説か ら見 た際の、 9条 をめ ぐる現状や、米軍基地が集 中 し、基地に起 因す る様々な被害が絶えな い沖縄 の状況 を想起 してみ る とよい。 70野中俊彦ほか 『憲法 Ⅱ (第4版)』 (有斐閣、2006年)229頁。 なお、裁判員制度や国民の司法参加 と、 日本 国憲法 との関係 については、憲法学者 による近年の主要な論稿 (発表年順 に表記) として、常本照樹 「司法 樵 -権力性 と国民参加」公法研究57号 (1995年)66頁以下、同 「国民の司法参加 と憲法」 ジュ リス ト1198号 (2001年)160頁以下、大石和彦 「『国民の司法参加』 をめ ぐる憲法問題」 白鴎法学18号 (2001年)123頁以 下、棟居快行 「『裁判員制度』の憲法問題」月刊司法改革20号 (2001年)30頁以下、長尾-紘 「裁判員制度 と 日本国恵法」現代刑事法32号 (2001年)29貢以下、前掲注 (17)安念論文、市川正人 「国民参加 と裁判員制度」 法律時報76巻10号 (2004年)41頁以下、山元- 「司法権」法学セ ミナー593号 (2004年)28頁以下、土井真 ・一・「El本国憲法 と国民の司法参加」 同責任編集 『岩波講座 憲法4変容す る統治 システム』 (岩波書店、2007 年)235頁以下、森山弘 二 「裁判員制度の骨格 に関わ る憲法上の論点」吉田善明先生古稀記念論文集 『憲法諸 相 と改憲論』 (敬文堂、2007年)421頁以下、笹田栄 司 「裁判員制度 と日本国憲法」法律時報77巻4号 (2005 年)24頁以下、同 「憲法か ら見た裁判員制度」世界2008年6月号106頁、前掲注(45)笹 田論文、諸根貞夫 「裁 判員制度」 大石県・石川健治編 『憲法の争点』 (有斐閣、2008年)270頁以 下.前掲注(27)柳瀬論文等がある。 【参考文献】 裁判員制度 に関する著書や啓蒙本、論文等は,本稿で掲 げた もの以外 に も移 しい数 に上 る。敢 えて憲法学