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IRUCAA@TDC : ドイツ語発音教授法 : 子音篇

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Academic year: 2021

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title

ドイツ語発音教授法 : 子音篇

Author(s)

清水, 真哉

Journal

東京歯科大学教養系研究紀要, 28(): 1-12

URL

http://hdl.handle.net/10130/3227

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ドイツ語発音教授法 子音篇

清水真哉

* 筆者は2011 年東京歯科大学紀要に『ドイツ語発音教授法 母音篇』として、ド イツ語の母音の発音を教授するにあたって自らが行っている諸々の方法につい て記述した。本稿はその続編として、ドイツ語の子音の授業で自らが採っている 方法を詳述することを目的としている。 ドイツ語の発音については、ドイツ語の音声学に関する解説書などは無論存 在するが、それを授業の中でどのように指導するかについての教授法に関する 文献は、筆者の不勉強に拠るのかも知れないが、あまり見当たらない。 個々の音の出し方について記述した参考書はあっても、それを学習者に対し どのように教えるかについては、あまり書かれていない。 実際には、指導の技術についても細かい工夫が必要であり、それは有効であ る。 それも、個々の音の指導法にとどまらず、一回の授業の組み立てという観点か らも、考慮すべき余地はある。 筆者が教室で行っているドイツ語の発音の授業の実際を出来る限り詳細に記 述することにより、筆者の工夫の中で活用可能なものがあればよいと願ってい る。 __________________________ * 東京歯科大学 ドイツ語研究室

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1) ドイツ語の子音の授業の概要 まず筆者が担当している一年生のドイツ語の授業の概要を記せば、一回の授 業時間は85 分で、週2コマ。一クラスの人数は約 65 名である。子音の授業には 一回分の授業回数、時間にして85 分を充てているのみである。 ドイツ語の子音の授業の目的としては、ドイツ語の子音が正確に発音できるよ うになることとともに、ドイツ語の子音の学習を通じて言語一般における子音の特 質の理解を深め、さらには日本語の子音について科学的な理解を持てるように なることを期待している。 授業では、日本語の子音の発音の分析的考察を出発点とする。その上で、日 本語にはないが学生にとって既習の言語である英語にはある音の習得状況の 確認をし、最終的には日本語にも英語にもないドイツ語の子音の学習にもっとも 時間を掛けることになる。 授業においては出来る限り学生に実際に発音させて指導したいと考えている が、ドイツ語の子音の数は母音よりも多いため、学生に発音させてその発音を確 認できるものは限られている。 この発音の授業に限らず、授業は授業開始時に学生に配布する自作のプリン トに基づいて行っているが、子音の回の教材プリントは次のページの通りであ る。

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2) 子音の授業への導入として ~ 日本語の五十音表について 日本語の一字は、おおむね一つの子音と一つの母音の組み合わせより成る。 そして五十音表の一つの行は、一つの同一の子音と「あ・い・う・え・お」という五 つの母音の組み合わせであると素朴に信じられている向きがある。そこで、日本 語の子音について考えるきっかけとして、学生に対して次の質問をすることにし ている。 「かの濁音、ざの清音、たの濁音、ばの清音は何か」 これに対して、もっともよく見られる答えは、 「かの濁音は「が」、ざの清音は「さ」、たの濁音は「だ」、ばの清音は「は」」 というものであるが、「ば」の清音はじつは「は」ではなく「ぱ」であることに気付か せ、五十音表の縦列には必ずしも同じ子音が揃っていないことを意識させるよう にしている。これにより学生が、日本語の音の成り立ち、とりわけ子音というもの に関心を持たせることが狙いである。 無論、「ざの清音は「さ」」というのも誤りなのであるが、これについては授業の 後半、破擦音について教えた後で明らかにするという授業の運びにしている。 3) 子音の概説 子音の授業では、五十音を手掛かりとした導入の後、子音についての概説を している。 まず言語一般に通じる概論として、母音と異なる子音の性質について説明す る。 母音が、胸から出た息が妨げられずに出る音であるのに対して、子音は息が 妨げられて出る音であり、その妨げられる過程で音が形成される。息の流れが妨 げられることにより音が形成されることを調音と呼び、調音がなされる位置と、息

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の流れを妨げる仕方、つまり調音の方法、更には声の有無の三点が、子音の音 を決定する要素であるといった、子音に関する基本的なことを予め説明してお く。 その際、有声音、無声音の概念については、深い理解はともかく周知の事項と みなして差し支えない。 しかし調音の位置と調音の方法については、念を入れて教授する必要がある。 それを日本語の子音を学ぶことを通じて行う。 4) 日本語の子音 子音について概論的な話をしても、それだけで実感をもった理解に到るという のは無理な要求である。子音という音が実際にどのように作られるのかを理解す るには、母語である日本語の子音について分析的に考察することが、もっとも速 やかで効果のある方法である。 子音の授業にあたっては口腔内の図をプリントして全学生に配布しておき、舌 や口蓋などの調音器官の位置を図で確認できるようにしている。 そして授業では、次の九つの日本語の子音について、調音の位置を確認し、 調音の方法を説明しながら分類をしていく。 ば ま ふ た な さ ひ か は 両唇音 両唇音 両唇音 歯茎音 歯茎音 歯茎音 硬口蓋 軟口蓋 声門 破裂音 鼻音 摩擦音 破裂音 鼻音 摩擦音 摩擦音 破裂音 摩擦音 これにより、唇、歯茎、硬口蓋、軟口蓋、声門という、子音を調音する上で重要 な器官の口腔内の箇所について、自ら自分の口の中でその位置を確認すること が出来る。また調音の方法についても、閉鎖破裂音、鼻音、摩擦音という、三つ の主要な調音法を理解することが出来る。

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5) ドイツ語の子音 以上のような導入を経た後に、ドイツ語の子音について個々に取り上げてい く。 なお、この授業ではドイツ語の全ての子音についてコメントすることは出来てい ない。 5.1) 歯唇音・摩擦音 [ f ] 無声音 綴り f / v [ v ] 有声音 綴り v / w 歯唇音・摩擦音である [ f ], [ v ] の発音の仕方は、中学校、高等学校の英語 の授業において指導されてきているはずである。実際に発音させてみると、出来 ていない学生もいるが、八割がたは出来ている。しかし、それが摩擦音であると いう認識に欠ける場合が多い。そのため日本語の /ば/ に引っ張られて、 [ v ] を破裂音として発音する学生が見受けられる。そこで [ f ], [ v ] が摩擦音であ ることを確認し、摩擦音は破裂音と異なり、音を長く延ばして出せることを説明す る。また、上の歯で下の唇を深く噛み込み過ぎる学生が散見されるので、上の歯 を下の唇に軽く当て、そこに息を通して摩擦音を形成するように指導している。 この二つの音は、全学生に一通り発音させている。 5.2) 歯茎音・摩擦音・無声音 [ s ] と硬口蓋歯茎音・摩擦音・無声音 [ ∫ ] の 差異について [ s ] 綴り ß, ss

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[ ∫ ] 綴り sch

[ ∫i ]の音は日本語の /し/ に近いのであるが、 [ si ] は日本語にないので、 発音には注意が必要である。この問題はshe と see, sea の差異などとして英語 でも現れる訳であるが、学生の間での認識は意外に低いのが現状である。ヘボ ン式ローマ字のサ行の表記が sa shi su se so であることから、サ行の五つの 音の中で /し/ だけは異なる子音であることを意識させ、その上で [ si ] の音 の練習をさせている。 5.3) 硬口蓋音・摩擦音 5.3.1) 無声音 [ ç ] 綴り ch、語末の ig の g ドイツ語では、前舌の母音や子音の後にch が来るときに現れる音である。また、 語末のig の g の音である。日本語の /ひ/ と同じ音であるので、発音上特別の 指導はしていない。 ところで、江戸っ子は「昼間っから」を「しるまっから」と言うなど、/ひ/ と /し/ を 言い分けられないと言われる。五十音の表では /ひ/ と /し/ は離れた位置にあ り、なぜ /ひ/ と /し/ なのか怪訝に思われる。しかし、 /ひ/ と /し/ はともに無 声の摩擦音であり、 /ひ/ は硬口蓋音で /し/ は硬口蓋歯茎音と、調音点も隣接 していることを知ると、 /ひ/ と /し/ を発音し分けられない、あるいは発声者は発 音し分けているつもりでも聴く者には聴き分けられないという現象も、あながち不 審なことでもなくなるはずである。学生にはこの話をすることによって、音声学へ の関心を持ってもらうように努めている。 5.3.2) 有声音 [

] 綴り j

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ch [ ç ] の有声音である。日本語の /や/ [

] は半母音または硬口蓋接近音 とされており、摩擦音 [ ç ] の有声音であるドイツ語の j [

] とは異なる訳であ るが、時間の制約もあり、特に指導していない。 5.4) 軟口蓋音・摩擦音・無声 [ x ] 綴りch ドイツ語では後舌の母音の後に ch が来るときに現れる音である。口腔内の最 奥部で調音される音は、自分で調音位置を確認することが困難である。こうした 場合、日本語の音素で同じ位置で調音されるものを出発点とすることで位置を 把握させている。 具体的には日本語の /か/ が軟口蓋の閉鎖破裂音であることを指摘した上で、 /か/ の発音をスローモーションで試みさせる。舌の奥部をゆっくり軟口蓋に近づ けて閉じさせ、破裂させる直前の状態で停止させる。そこから閉鎖状態を僅かに 緩和させ、息を吐き出させて摩擦音 [ x ] を形成させる。 5.5) 軟口蓋音・鼻音 [

] 綴り ng この音においても [ x ] と同様に、日本語の /か/ が軟口蓋の閉鎖破裂音で あることを指摘した上で、 /か/ をゆっくり発音させる。まず舌の奥部を軟口蓋に 接近させて閉鎖させ、破裂させる直前で停止させる。舌と軟口蓋が接触した状 態で、 /ん/ を発音することを想起させて鼻音を出させれば [

] の音となる。 5.6) 歯茎音・側音 [ l ] 綴りl

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英語にある音なので比較的よく練習されているが、発音の方法について明確 な認識があるかは怪しいところもある。舌先を歯茎の裏に付けさせ、舌の側面と 頬の内側の間に強く息を通して音を形成させる。舌先を歯茎の裏から最後まで 離さないことに注意を促すようにしている。英語の r が舌先を口蓋に接触させな いことを特色とするのと好対照を成すことを指摘する。 5.7) ドイツ語の r の発音 5.7.0) 歯茎音・弾音 [

] ドイツ語ではなく日本語の /ら/ および /る/ の子音[

]である。次の、ドイツ語 の歯茎音・震音への橋渡しとして、この音を解説している。歯茎音・閉鎖破裂音 [ t ] [ d ] と比較することにより、閉鎖破裂音とは異なる弾音というものを意識さ せている。 5.7.1) 歯茎音・震音 [ r ] 綴り r この歯茎音・震音は舞台発音とされ、ドイツ語の r の標準的な音ではない。 また、いわゆる巻き舌であり、独特の難しさがあるため、学生に発声させてはみ るが、必ずしも出来るようになることは求めていない。 ドイツ語の r としてより主要な音である次の音も震音であるため、この音を発音 してみることで震音という概念を理解させることも狙いとしている。 5.7.2) 口蓋垂音・震音 [ R ] 綴り r 現在、ドイツ語のr の音で最も主要なものは次の項目の摩擦音であるが、震音 が出せるようになれば摩擦音は自然と出せるので、練習はこの震音で行ってい る。

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まず口蓋垂の位置を図で確認させる。 そして「喉を伸ばし気味に口を多少上に向けて、気道の息の通りを良くした上 で、うがいをするときの要領で口蓋垂を震動させる」と指導している。 この音は、全学生に一通り発音させている。 5.7.3) 口蓋垂音・摩擦音・有声音 [

] 綴り r ドイツ語の r の最も主要な音であるが、上の震音が出来ればこの摩擦音は発 音できると思われるので、説明だけして練習はさせていない。 この音の調音点は、日本語の「範囲」の /ん/ の位置でもあるので、口蓋垂の 鼻音 [

] を出発点に摩擦音を出させるという教え方もある。 5.8) 破擦音 5.8.1) [ts] 歯茎音・無声音 綴りz, tz, ts, ds 日本語にはない子音である破擦音 [ pf ] を教える前に、破擦音という概念を 教えたい。そのために有益であるのが、日本語 /つ/ の子音である破擦音 [ ts ] について考察することである。閉鎖破裂音 [ t ] が舌先が歯茎から離れ ておしまいであるのに対して、 [ ts ] はその後で舌先と歯茎の間に息が流れて いることに気付かせて、破擦音という現象を認識させるようにしている。 5.8.2) 両唇音歯唇音・無声音 [ pf ] 綴り pf この音の発音の指導法については各書、ばらつきがあるようである。破擦音と して破裂音から摩擦音への流れは確かなことであるが、発声の出発点が両唇音 なのか、歯唇音なのか、その中間なのかという点に違いが見られる。 一つは、 [ p ] と同じ両唇から音を出し始め、破裂させた後、すばやく下の唇 を上の歯に近づけるとする教え方。

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一つは、両唇音から出発するのだが、始めから上の歯が下の唇に触れている とする教え方。 もう一つは、 [ f ] と同じように上の歯を下の唇に重ね、さらに上の唇をそこに 被(かぶ)せるとする説明、などが見られる。 この音は、全学生に一通り発音させている。 5.9) 歯唇音・摩擦音・有声音 [ z ] 綴り s 日本語の /ず/ の子音 [ dz ] とは異なることを認識させることが重要である。 まずは授業の出だしで「ざの清音は「さ」」とした誤りを放置していたことを話し、 /ざ/ は破擦音であり、その清音は /つ/ であることを説明する。そして今度は摩 擦音 /さ/ の濁音 [ z ] が日本語には無い音であることを明らかにした上で、舌 が上顎に触れないように注意しながら、/さ/ [ s ] を濁音にする練習をさせる。 6) まとめ 子音は体系が複雑であるため、一度の授業でドイツ語の子音を完全に頭に収 めるというのは土台無理な話であろう。 中規模クラスの学生数であり、他の授業回では文法の指導に時間を取られる ため、発音の指導を殆ど行えていないのが実態である。そのためなかなか十分 な時間を掛けた習熟にまでは至らないのが実態である。 一回限りの子音の授業ではあるが、ドイツ語の子音を音声学的な基礎から学 ぶことには意義があるはずである。 口腔の奥で形成されるドイツ語独特の子音を自分で発声してみる体験は、ドイ ツ語の魅力に触れることにもなろう。 何よりもドイツ語の子音を学ぶことを通じて、これまで空気のように意識すること のなかった日本語の子音をまったく新たな耳で聴けるようになることに、この授業 の意義が見出せればと願っている。

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参考文献 清水真哉「ドイツ語発音教授法に関する考察」東京歯科大学教養系研究紀要 第25 巻 (2010) P.16~21 清水真哉「ドイツ語発音教授法 母音篇」東京歯科大学教養系研究紀要 第26 巻 (2011) P.1~14 M.シュービゲル『新版 音声学入門』大修館書店(邦訳 1973) ベルティル・マルンベリ『改定新版・音声学』白水社(邦訳 1976) 榎本正嗣『日英語 話し言葉の音声学』玉川大学出版部(2000) 吉島茂/境一三『ドイツ語教授法』三修社(2003) 清野智昭『中級ドイツ語のしくみ』白水社(2008) 川上蓁『日本語音声概説』桜楓社(1977) 斎藤純男『日本語音声学入門』三省堂(1997) 竹林滋『英語音声学入門』大修館書店(1982) 寺島隆吉『英語にとって「音声」とは何か?』あすなろ社(2000) 牧野武彦『日本人のための英語音声学レッスン』大修館書店(2005) 山田恒夫/ATR 人間情報科学研究所『英語スピーキング科学的上達法』講談 社ブルーバックス(2005) 山田恒夫/ATR 人間情報科学研究所『英語リスニング科学的上達法』講談社 ブルーバックス(2005)

参照

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