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暴力についての大学生の意識

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Academic year: 2021

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(1)暴力についての大学生の意識. 63. 暴力についての大学生の意識 重松 克也 * How is the University’s students conscious of the Violence ? 1.本稿の課題 社 会 科 の 学 習 は 学 習 者 を 取 り 巻 く 社 会 的 な 状 況 や 思 潮 の 中 で 、 意 味 づ け 直 さ れ る ( 村 井 淳 志 1996)。 今日、自己責任・自己選択に基づく競争社会の中で、しかもその競争が社会的な階層性に規定されてい る ( 刈 谷 剛 彦 2001、 本 田 由 紀 2011 等 ) 中 で 、 学 習 者 は 自 ら を ど の よ う な 立 ち 位 置 に 据 え 、 社 会 を と ら えているのか。それが本稿の問題関心である。 そうした問題関心に基づき、本稿では、大学生が学力競争と「男性性」とを巡っていかなる暴力性を 自明視しているかについての意識調査に対する分析や考察に取り組む。大学生を対象とするのは今現在 社会科を履修している者よりも、学力競争において一定の結果を経ているので、その競争の受容度合い が明確だと考えたからである。また「男性性」に着目するのは、社会哲学者ジェームス ギリガン Gilligan,J.: 1997 の 知 見 に 多 く 負 っ て い る 。 ギ リ ガ ン に よ れ ば 、 近 現 代 社 会 に お け る 社 会 的 排 除 を 含 め 暴 力 性 は 近 代 的 な 家 父 長 制 的 な イ デ オ ロ ギ ー に 規 定 さ れ 、 disregarded な ( 自 己 肯 定 感 を 低 め る ) 経 験 、及 び プ ラ イ ド を 傷 つ け ら れ 恥 じ る shamed( メ ン ツ が 立 た な い )出 来 事 に よ っ て 他 者 を 排 除 し た り 攻 撃したりする。 ギリガンの見解を踏まえれば、解明されるべき課題は次のようになろう。つまり、学力競争の中で、 青少年特に男性は日々、 “ メ ン ツ が 立 た な い ”出 来 事 に さ ら さ れ 、自 ら の メ ン ツ が 立 た な い の で は な い か と怯え、それを覆い隠すための暴力を自明視しているのではないか。またどのような場合に暴力を容認 するのかは、競争において一定の成果を持った者とそうではない者とは異なっているのではないか。 なお、本稿では紙数の関係で、学力競争で輪切りされた階層毎の暴力肯定における様相等の特徴につ いての素描に限定する。. 2.調査の概要. 表 1 -1. フェイスシート:大学名. 本調査は筆者が参加した意識調査(代表者佐藤和 夫. 科研費共同研究「男女共同参画社会における男. 性の『社会化』と暴力性」. **. )である。全サンプル. 大学名. 無回答. 男性. 女性. 合 計 ( 全 体 )% ・その他. 亜細亜大学. 46. 23. 1. 70. 3.5. 一橋大学. 94. 98. 1. 192. 9.7. 2-1. フ ェ イ ス シ ー ト. 横浜国立大学. 36. 45. 0. 81. 4.1. 調 査 時 期 : 2008 年 6 月 〜 7 月 実 施 。. 関東学院大学. 125. 25. 4. 150. 7.7. 千葉大学. 625. 514. 16 1155. 57.9. 東京大学. 99. 41. 1. 140. 7.1. 都留文科大学. 73. 127. 0. 200. 10.0. 1098. 873. 23 1994. 100.0. 数 1994、対 象 校 は 関 東 地 方 の 国 公 私 立 大 学 7 校 で あ る。. 調 査 対 象 : 表 1 −1、 1 −2 に 記 載 。. 2-2. 調 査 項 目 調査項目は①悩み事の相談相手等の親密圏に関す る項目、②学校や家庭での生活に関する項目(成績 へ の と ら わ れ 、 家 事 労 働 へ の 積 極 性 、 自 己 肯 定 感 )、. *. 学校教育課程社会科教育講座. 合計.

(2) 重松 克也. 64. ③将来の進路やその動機に関する項目、④社会や戦争についての意識に関する項目、⑤精神的また身体 的な暴力の経験に関する項目、⑥恋愛関係についての意識に関する項目、⑦属性に関する項目(家族構 成、経済的状況、保護者の学歴等)である。 また分析に際して、性別と受験学力と各設問との関連について行った。受験学力では東京大学と一橋 大学をAグループ、千葉大学と横浜国立大学をBグループ、その他の大学をCグループとし、3つに区 分 し た 。検 定 で は χ 2 検 定 を 用 い て 、無 帰 仮 説 の 棄 却 は 0.05> p か つ 期 待 度 数 が 5 未 満 の セ ル 数 が 20.0% 未 満 と し た 。 解 析 ソ フ ト は spss16.0 を 使 用 し た 。 表 1 -2. フェイスシート:性別、年齢、学年、所属学部. 性別. № カテゴリ. (全 体 ). (除 無 ). 件数. %. %. 学年. № カテゴリ. 件数. (全 体 ). (除 無 ). %. %. 1. 男. 1098. 55.1. 55.6. 2. 女. 873. 43.8. 44.2. 1. 1 年生. 876. 43.9. 44.4. 3. その他. 3. 0.2. 0.2. 2. 2 年生. 527. 26.4. 26.7. 無回答. 20. 1.0. 3. 3 年生. 421. 21.1. 21.3. 1994. 100.0%. 4. 4 年生. 134. 6.7. 6.8. 5. その他. 14. 0.7. 0.7. 無回答. 22. 1.1. 1994. 100.0%. 1972. (全 体 )%. (除 無 )%. サ ン プ ル 数 ( % ベース). 1974. 年齢. № カテゴリ. 件数. (全 体 ). (除 無 ). %. %. サ ン プ ル 数 ( % ベ—ス ). 1. 18 歳 以 下. 601. 30.1. 30.5. 所属学部. 2. 19 歳. 525. 26.3. 26.7. №. 3. 20 歳. 466. 23.4. 23.7. 1. 教育学部. 4. 21 歳. 210. 10.5. 10.7. 2. 医学部. 5. 22 歳. 73. 3.7. 3.7. 3. 看護学部. 6. 23~ 29 歳. 77. 3.9. 3.9. 4. 7. 30 歳 以 上. 16. 0.8. 0.8. 無回答. 26. 1.3. 1994. 100.0%. サ ン プ ル 数 ( % ベース). 1968. カテゴリ. 400. 20.1. 20.4. 9. 0.5. 0.5. 74. 3.7. 3.8. 法学部. 223. 11.2. 11.4. 5. 理学部. 173. 8.7. 8.8. 6. 工学部. 221. 11.1. 11.3. 7. 経済・経営学部. 279. 14.0. 14.2. 8. 農学・園芸学部. 26. 1.3. 1.3. 9. 芸術学部. 0. 0.0. 0.0. 10. 文学部. 271. 13.6. 13.8. 11. その他. 287. 14.4. 14.6. 無回答. 31. 1.6. 1994. 100.0%. サ ン プ ル 数( % ベース). 1. 件数. 1963. 競争への囚われや社会的有用性 「他人の成績を気にしてしまうか」という設問で、受験における競争への囚われを調べた。回答では. そ う 思 う 、や や そ う 思 う 、あ ま り そ う 思 わ な い 、全 く そ う 思 わ な い の 4 段 階 を 設 定 し た 。分 析 に お い て 、.

(3) 暴力についての大学生の意識. 65. そう思うとややそう思うを「思う」に、あまりそう思わないと全くそう思わないを「思わない」として 集 計 し た (「 思 う 」、「 思 わ な い 」 の 表 記 は 以 下 同 様 )。 表2. 成績への関心_性別 58.5%. 男性(N=1095). 63.8%. 女性(N=873) 0% 表3. 41.5%. 20%. 40%. 思う. 36.2% 60%. 80%. 思わない 100%. 成績への関心_男性と受験学力グループ別 47.4%. 男性A(N=192). 52.6%. 64.4%. 男性B(N=660). 35.6%. 51.4%. 男性C(N=243) 0%. 20%. 思う. 48.6% 40%. 60%. 80%. 思わない 100%. 他人の成績を気にする者の割合は女性の方が多い(表2)が、彼女達の受験学力グループ別の集計結 果 で は 有 意 な 差 が な か っ た ( 各 グ ル ー プ で 「 思 う 」 が 約 40% 前 後 )。 女 性 は 受 験 学 力 の 到 達 度 に 関 わ ら ず 、人 の 成 績 を 気 に し て し ま う 者 が 一 様 に 分 散 し て い る の で あ る 。一 方 、男 性 は 受 験 学 力 グ ル ー プ 別( 表 3 )で 顕 著 な 偏 り が み ら れ た 。多 い 順 に 並 べ る と 、中 位 層( 64.4% )、下 位 層( 51.4% )、上 位 層( 47.4% ) であった。男性では上位層や下位層よりも中位層が学力競争における他人との比較に敏感であった。上 位層の男性が他人の成績を気にしないのは、彼らが一定レベル以上の学力を獲得しているためと推測さ れる。下位層の男性が他人の成績を気にしないのは学力競争に自己有用性を求めることができないから か、あるいはもともと学力による競争自体に強い関心がないためか等の理由が推測される。 つまり男性はその中位が示した特徴のように、一定程度以上の学力に達するかもしれないが現実には そうではない層において、他者との比較・競争にとらわれているのである。そこにおいて自らのメンツ を保とうとしているのだろう。では、男性の下位層は学力競争以外の何に自らのメンツを保とうとして いるのであろうか。男性の上位層や中位層と顕著な差がでた設問が「スポーツが苦手だ」であった。 表4. スポーツの苦手さ_性別 30.9%. 男性(N=1095). 47.6%. 女性(N=870) 0% 表5. 69.1%. 20%. 思う. 52.4% 40%. 60%. 思わない. 80%. 100%. スポーツの苦手さ_男性と受験学力グループ 36.5%. 男性A(N=192). 63.5%. 32.3%. 男性B(N=660). 67.7%. 22.6%. 男性C(N=243) 0%. 20%. 思う 思わない. 77.4% 40%. 60%. 80%. 100%. 男性の方が、スポーツが苦手だと認識している者が少ない結果となった。調査対象に偏りがあるとも.

(4) 重松 克也. 66. 推測されるが、それにしても男性の3割しかスポーツが苦手だと思っていないのである。男らしさを保 つために不得意とする基準が低く設定されているのか、またスポーツができる自分であると思いたいと い う 願 望 も 入 り 込 ん で い る か 等 の 理 由 が 推 測 さ れ る 。男 性 を 受 験 学 力 グ ル ー プ 別 に み る と( 表 7 )、下 位 層 で 2 割 程 し か ( 22.6% ) 苦 手 だ と 思 っ て い な い の が 顕 著 で あ る 。 ス ポ ー ツ に お け る 自 己 優 位 性 を 気 に か け て い る よ う に み え る ( 女 性 は 各 グ ル ー プ で 「 思 う 」 が 47% 前 後 。 有 意 な 差 は な い )。 さて、一般的に、競争がもたらす弊害として、競争自体を自明視して自己や他者を振り分けるメンタ リティの増幅につながるといえるが、実際どうであろうか。設問「世の中には役に立たない人間がいる と思うか」の結果をみていく。 表6. 社会的有用性_性別 64.9%. 男性(N=1091) 41.7%. 女性(N=865) 0% 表7. 35.1%. 思う. 58.3%. 20%. 40%. 60%. 思わない. 80%. 100%. 社会的有用性_男性と受験学力グループ. 65.8%. 男性A(N=193). 34.2% 思う. 67.6%. 男性B(N=655). 32.4%. 56.8%. 男性C(N=243) 0%. 20%. 思わない. 43.2% 40%. 60%. 80%. 100%. 表6をみると、男性の方が社会的に役立たない者がいるととらえている割合が多い。これまでの結果 (表2)と勘案すると、女性よりも競争にとらわれていない男性の方が役立たない人がいると思う者の 割 合 が 多 い の で あ る 。 こ れ は ど う い う こ と か 。 そ こ で 男 性 を 受 験 学 力 グ ル ー プ 別 に み て み る と ( 表 7 )、 中位層が一番多く、ついで上位層、やや離れて下位層となっている(女性は各グループで「思う」が約 40% 前 後 、有 意 な 差 は な い )。中 位 層 は 学 力 競 争 に 、下 位 層 は 身 体 的 な 能 力 で の 優 位 性 に そ れ ぞ れ 囚 わ れ ていることで社会的な有用性による人の評価を自明視すると思われるが、上位層はそれらがあてはまら ない。上位層の競争はどこでなされているのかについて分析し、他の層も含めてどのような暴力性を自 明視するのか。更に分析をすすめることとしたい。. 2 .社 会 を 制 御 す る 志 向 「社会を変えるのに大きな力をもつのは経済界だと思う」という設問から分析を始める。 表8. 社会を変革する要因(経済)_性別. 男性(N=1094). 63.0%. 37.0%. 女性(N=868). 62.7%. 37.3%. 0%. 20%. 40%. 60%. 80%. 思う 思わない 100%.

(5) 暴力についての大学生の意識. 表9. 67. 社会を変革する要因(経済)_男性と受験学力グループ 72.5%. 男性A(N=193). 27.5%. 62.0%. 男性B(N=658). 38.0%. 58.0%. 男性C(N=243) 0%. 20%. 思う 思わない. 42.0% 40%. 60%. 80%. 100%. 表 8 か ら わ か る よ う に 、性 別 に お け る 顕 著 な 差 は な く 、そ れ ぞ れ 6 割 ほ ど の 者 が 経 済 界 の 動 向 が 社 会 を変化させる要因であるとの認識を持っている。男性を受験学力グループ別の結果(表9)でみると、 こ こ で も 男 性 に お い て 顕 著 な 差 が 生 じ た( 女 性 は 各 グ ル ー プ で「 思 う 」が 約 62% 前 後 で 、有 意 な 差 は な い )。ま た 上 位 層( 72.5% )と 下 位 層( 58.0% )と の 差 が 著 し い 。な ぜ 男 性 の 上 位 層 に「 思 う 」の 割 合 が 多 い の か 。そ の 分 析 は 次 の 設 問(「 政 治・経 済 を 大 き く 動 か す 仕 事 に 就 き た い か 」の 回 答 結 果 と 関 連 づ け ておこなうこととする。 表 10. 卒業後の進路_性別 33.1% 18.5%. 男性(N=1096) 女性(N=870) 0% 表 11. 20%. 40%. 60%. 思う 80%. 100%. 思わない. 卒業後の進路_男性と受験学力グループ 47.2% 31.3% 26.6%. 男性A(N=193) 男性B(N=659) 男性C(N=244) 0% 表 12. 62.7% 85.9%. 20%. 52.8% 68.7% 73.4% 40%. 60%. 80%. 思う 思わない 100%. 卒業後の進路_女性と受験学力グループ 34.8%. 女性A(N=138). 65.2%. 女性B(N=557). 15.6%. 84.4%. 思う. 女性C(N=175). 14.9%. 85.1%. 思わない. 0%. 20%. 40%. 60%. 80%. 100%. 表 10 か ら 男 性 の 方( 33.1% )が 女 性( 18.5% )の 約 1.8 倍 も 多 く 、政 治 経 済 を 動 か す 仕 事 に 就 き た い と 回 答 し た 。ま た 男 性 の 受 験 学 力 グ ル ー プ 別 で の 結 果( 表 11)で は 、上 位 層 の 約 半 分 近 く が「 思 う 」と 回 答 し た の が 特 徴 的 で あ る( 47.2% )。そ う し た 上 位 層 の 特 徴 が 更 に 顕 著 だ っ た の は 女 性 で も 同 様 で あ っ た 。 女 性 の 受 験 学 力 グ ル ー プ 別 で の 結 果 ( 表 12) で は 、 男 性 以 上 に 上 位 層 ( 34.8% ) で 際 立 っ て お り 、 中 位 層 ( 15.6% ) や 下 位 層 ( 14.9% ) と 比 較 す る と 、 約 2 倍 以 上 の 者 が 「 思 う 」 と 回 答 し た 。 つ ま り 、表 8 か ら 表 12 の 結 果 を み る と 、男 性 は 女 性 よ り も 自 分 自 身 を 政 治 や 経 済 を 大 き く 変 化 さ せ る 仕 事 に 就 き た い と 考 え て い る の で あ る 。特 に そ の 傾 向 は 男 女 共 に 受 験 学 力 グ ル ー プ の 上 位 層 に み ら れ る 。 受験競争が形成したエリート意識の反映ともいえるが、自身の進路と結びつかないと社会の変化を主体 的に促す意欲をもたない傾向は、社会科教育にとって看過しえない課題である。 考えてみれば、社会を客観的構造的に認識し、社会の改善を図ろうとするのはそれが実現可能だとと らえていることが大きな要件である。その要件が自らの進路選択によって影響されているのであれば、.

(6) 重松 克也. 68. 社会科は学習者の自己実現のあり方と関連づけて取り組む必要があろう。 やや結論を急ぎすぎた。暴力性の様相についての分析へ進むこととし、次に戦争観についての設問を みていく。. 3 .戦 争 観 「国家を守る手段として戦争をすることもやむをえない場合もある」の結果は次の通りであった。 表 13. 戦争観①_性別 37.3%. 男性(N=1095) 14.1%. 女性(N=873). 0% 表 14. 思う. 85.9% 20%. 40%. 思わない. 60%. 80%. 100%. 戦争観①_男性と受験学力グループ 36.8%. 男性A(N=193). 63.2%. 41.3%. 男性B(N=658). 58.7%. 26.7%. 男性C(N=243) 0% 表 15. 62.7%. 思う. 73.3%. 20%. 40%. 思わない. 60%. 80%. 100%. 戦争観①_女性と受験学力グループ 24.3%. 女性A(N=136). 75.7%. 女性B(N=556) 12.1%. 87.9%. 12.7%. 87.3%. 女性C(N=173). 0%. 20%. 40%. 思う 思わない. 60%. 80%. 100%. 表 13 を み る と 、男 性 の 方 が 国 家 を 守 る た め に 戦 争 を 肯 定 し て い る 割 合 が 多 い 。男 性 を 受 験 学 力 グ ル ー プ 別( 表 14)に み る と 、上 位 層・中 位 層 と 下 位 層 と で 大 き な 差 が み ら れ る 。女 性 の 受 験 学 力 グ ル ー プ 別 ( 表 15)で は 顕 著 に 上 位 層 の み が 国 家 を 守 る た め の 戦 争 肯 定 の 割 合 が 多 い 。社 会 を 変 化 さ せ た い( 表 11、 12)と す る 上 位 層 の 男 女 と も に 、国 家 を 守 る 戦 争 を や む な し と す る 者 が 顕 著 に 多 い の で あ る 。ま た 表 14 に再び目を転じると、中位層の男性で国家を守るための戦争をやむなしとする者が多いがわかる。学力 競争に囚われ社会的な有用性による人の評価を自明視する傾向が強い中位層の男性が既成の社会的な制 度や動向を受け入れる傾向にあると思われる。 それでは、男女共に「思わない」が多かった下位層が非暴力を強く求めているのかというと、次の設 問 結 果 (「 家 族 を 守 る た め に 戦 争 を す る こ と も や む を え な い 場 合 も あ る 」) か ら そ う で は な い こ と が わ か る。 表 16. 戦争観②_性別 44.0%. 男性(N=1093). 62.7%. 21.2%. 女性(N=868) 0%. 思う. 85.9% 20%. 40%. 60%. 思わない 80%. 100%.

(7) 暴力についての大学生の意識. 表 17. 69. 戦争観②_男性と受験学力グループ 35.2%. 男性A(N=193). 64.8%. 47.9%. 男性B(N=658). 52.1%. 40.5%. 男性C(N=242) 0%. 20%. 思う 思わない. 59.5% 40%. 60%. 80%. 100%. 表 16 か ら 男 性 は 女 性 の 2 倍 も 多 く 、家 族 を 守 る た め の 戦 争 を 肯 定 し て い る 結 果 と な っ た 。男 性 の 受 験 学 力 グ ル ー プ 別( 表 17)で は 、家 族 を 守 る た め の 戦 争 肯 定 は 中 位 層 が 一 番 多 く 、次 い で 下 位 層 、上 位 層 の 順 と な っ た ( 女 性 は 各 グ ル ー プ で 「 思 う 」 が 20% 前 後 で 、 優 位 な 差 は な い )。 つ ま り 女 性 全 般 は 受 験 学 力 の 到 達 度 に 関 わ ら ず 、戦 争 に な る と 家 族 を 守 れ な い と い う 事 実 認 識 ゆ え か 、 あるいは国家や家族を守るためという理由からでは戦争を肯定しない傾向が強い。男性は上位層では国 家を守るための戦争は肯定するが、家族を守るためという理由からは肯定しない。おそらく家族を守る こ と が 戦 時 体 制 下 に お い て 困 難 を 極 め る と の 客 観 的 な 事 実 認 識 に 基 づ く の で あ ろ う 。男 性 の 中 位 層 で は 、 国家また家族を守るための戦争を肯定しているのである。ここでもステレオタイプの戦争肯定観を自明 視している傾向がみられた。 男性の下位層では国家よりも家族のためという理由で戦争を肯定する傾向にある。戦争が歴史的に国 家体制の保持のためにおこなわれてきたことや家族を守ることが戦時下において究極的に保障されない という事実認識がやや弱いのではないだろうか。 では、社会を大きく変化させる仕事に就きたいとする受験学力の上位層は今後、いったんそのルート か ら 外 れ た な ら ば 、国 家 を 守 る た め に と 戦 争 を 肯 定 す る だ ろ う か 。次 の 設 問(「 戦 争 は 社 会 の 底 辺 層 の 人 々 に チ ャ ン ス を 与 え る と 思 う 」) に つ い て み て い く 。 表 18. 戦争観③_性別 20.5%. 男性(N=1086) 女性(N=868). 8.8% 0%. 表 19. 62.7%. 思う. 85.9% 20%. 40%. 思わない. 60%. 80%. 100%. 戦争観③_男性と受験学力グループ. 29.0%. 男性A(N=193). 71.0%. 20.2%. 男性B(N=654). 79.8%. 思う 思わない. 男性C(N=239). 14.6% 0%. 85.4% 20%. 40%. 60%. 80%. 100%.

(8) 重松 克也. 70. 表 20. 戦争観③_女性と受験学力グループ. 女性A(N=136). 16.2%. 83.8%. 女性B(N=554) 7.5%. 92.5%. 女性C(N=175) 6.9%. 93.1%. 0%. 20%. 40%. 60%. 思う 思わない 80%. 100%. 表 18 か ら 、男 性 は 女 性 よ り も 、戦 争 に よ っ て 既 存 の 社 会 シ ス テ ム が 壊 れ 、社 会 の 最 低 辺 層 に チ ャ ン ス が 訪 れ る と と ら え る 傾 向 に あ る こ と が わ か る 。男 性 の 受 験 学 力 グ ル ー プ 別( 表 19)で は 、評 価 基 準 の 転 換 と し て 認 識 す る 者 の 多 さ の 並 び 順 は 受 験 学 力 の 序 列 そ の も の と な っ た 。女 性 の 受 験 学 力 グ ル ー プ 別( 表 20) で は 、 上 位 層 が 突 出 し て い る 結 果 と な っ た 。 つ ま り 将 来 、 自 分 は 社 会 を コ ン ト ロ ー ル す る ・ で き る と自認する者達は既存の社会制度を根底から変える装置として、戦争を認識する傾向が強いのである。 それは自身が競争に勝ち抜けなかった場合、自身の敗者復活を賭けて戦争を肯定することとなろう。. 4.まとめ 女子学生は受験学力の修得度に関わらず、その競争に取り込まれている者が分散していた。一方、男 子学生は受験学力の修得度によって、学力競争への取り込まれ方が異なっていた。一定レベル以上の受 験学力を習得できるかどうかといういわばボーダーラインにいる者ほど、その競争に過敏であった。 また、男子学生で受験学力が一定以上のレベルに達した者はその競争にさほど過敏でないものの、社 会の変化を生じさせる仕事につける・就くと考え、かつ国家を守るための戦争肯定が多かった。また自 身が競争からふるい落とされ社会的な排除を被った場合、社会制度そのものを根本的に改変する契機と して戦争肯定へ転じる層が多いと推測された。受験学力上位層の女子学生も同層の男子学生と同様に、 自身の進路選択と社会制度の変化を生じさせる意欲や関心とが強く結びつき、また国家を守るための戦 争肯定派や社会制度の破壊としての戦争認識をもつ者が多かった。ただ上位層の男子学生との相違点と しては、社会的な有用性から人を判断する者はさほど多くはなかった。しかしながら受験学力上層の男 女の共通点として何よりも注目したいのは、自身が競争に勝ち抜けなかった場合、既存の社会制度を壊 す装置として戦争をとらえる傾向にあったことである。つまり、この層の特徴として国家や社会の制御 を通して自己の有用性を保持しようとする傾向が挙げられる。 受験学力下位層の男性は成績で他者と競争することへの関心が低い一方で、身体的な能力が高いと自 己認識していた。また家族を守るための戦争を肯定する者も多かった。上位層とは異なり、身近な空間 をコントロールしようとする傾向にあるといえる。 受験学力中位層の男子大学生はそうした上位層と下位層それぞれの傾向が混在しているが、特徴的な のは一番、学力競争に囚われており、かつ社会的な有用性から人を判断していたことである。 つまり総じて、承認欲求に基づく暴力(他者や社会の自己目的的な制御)を自明視する層が競争のル ートに乗っている場合は国家の制度保持という理由から戦争(暴力)を容認し、ルートから外れた場合 には自身の敗者復活を図る暴力へ進む危険性をはらんでいたのである。一方、学力競争での勝ち残りに あまり関心を向けない者たちの中には、家族を戦争で守れるという素朴な認識を持っている点も問題視 される。特にそうした傾向が男子学生に顕著に現れていたのである。 それらの結果は社会科に対して何を突きつけているのか。学習者の競争における自己肯定感や自尊感 情のあり方を不問にしたままに、客観的構造的な認識の育成や心情的な暴力否定等にとどまる限り、承.

(9) 暴力についての大学生の意識. 71. 認欲求に基づく暴力の肯定に抗いえないだろう。その克服の方途として、例えば、近現代史学習では、 国家や社会の人材輩出としての学校が果たしてきた機能をマッチョイズムと近現代社会の形成との関連 からとらえさせ、当時の青少年がどのようなアイデンティティを獲得されてきたのかについて探究させ ることも必要かもしれない。また、授業構成では学習者の階層的な社会認識の特徴を踏まえる必要があ ろう。例えば、戦争に関する学習では、家族を守るとは何か、国家を守るとは何か等を客観的構造的に 探究させる配慮が必要だろう。 そうした研究や実践はこれまでまったくなかったわけではない。だが、いわば能力の利己的な使用が 当然視されている今日、これまで以上に社会科内容構成や教材開発、授業づくりの全面的な改善が求め られているのである。 最後に本稿の課題を記しておく。本稿が用いた調査では、家族の収入額、保護者の学歴等やいじめら れた体験の有無等も問うている。それらの集計結果を用いて、競争に規定された自己有用性の様相や戦 争容認に向かう契機等についての分析や考察を詳細におこなう課題が残された。. 【参考文献】 Gilligan:1997. Violence: Reflections on a National Epidemic,Vintage.. 刈 谷 剛 彦 2001 『 階 層 化 日 本 と 教 育 危 機 —不 平 等 再 生 産 か ら 意 欲 格 差 社 会( イ ン セ ン テ ィ ブ・バ イ ン ド ) へ』有信堂高文社 本 田 由 紀 2011. 『 学 校 の 「 空 気 」( 若 者 の 気 分 )』 岩 波 書 店. 村 井 淳 志 1996. 『学力から意味へ. 安 井・本 多・久 津 見・鈴 木 各 教 室 の 元 生 徒 か ら の 聞 き 取 り か ら 』草. 木文化社. 同 研 究 は 2006 年 か ら 2008 年 に か け て 行 わ れ 、男 女 共 同 参 画 社 会 の 形 成 に 不 可 欠 な 課 題 で あ る「 男 性の社会化と暴力性」との問題をヨーロッパおよびアメリカ合衆国の研究と施策についての比較研究調 査を通して日本における男性の暴力の特性を明らかにし、その予防策を学校教育から社会教育にまで広 めて研究しかつ調査した。その上で、先進諸国における男性の暴力性の関する原理的問題を解明した。 研究に参与した者は次の通り。池谷壽夫、汐見稔幸、宮本みち子、折出建二、杉田聡、片岡洋子、山田 綾、小玉亮子、重松克也、岩谷良恵、高橋在也、渡辺大輔、湯川やよい。 **.

(10)

表 9 社 会 を 変 革 す る 要 因 ( 経 済 ) _ 男 性 と 受 験 学 力 グ ル ー プ             表 8 か ら わ か る よ う に 、性 別 に お け る 顕 著 な 差 は な く 、そ れ ぞ れ 6 割 ほ ど の 者 が 経 済 界 の 動 向 が 社 会 を 変 化 さ せ る 要 因 で あ る と の 認 識 を 持 っ て い る 。 男 性 を 受 験 学 力 グ ル ー プ 別 の 結 果 ( 表 9 ) で み る と 、 こ こ で も 男
表 20  戦 争 観 ③ _ 女 性 と 受 験 学 力 グ ル ー プ      表 18 か ら 、男 性 は 女 性 よ り も 、戦 争 に よ っ て 既 存 の 社 会 シ ス テ ム が 壊 れ 、社 会 の 最 低 辺 層 に チ ャ ン ス が 訪 れ る と と ら え る 傾 向 に あ る こ と が わ か る 。男 性 の 受 験 学 力 グ ル ー プ 別( 表 19)で は 、評 価 基 準 の 転 換 と し て 認 識 す る 者 の 多 さ の 並 び 順 は 受 験

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